恐怖は動物にとって最も根っこにある情動。 愛着障害なんかも恐怖（か似た感覚）と密接にあるのではないかと思い、ちょっと調べてみようと思い立った結果であります。 間違い等ありましたらコメントくだされば嬉しいです。

1. 恐怖とは何か

2. 恐怖の定義
 有害や危険な事態に対して有効に対処することが困難な場合に
生じる情動
 不安や心配とは区別される

3. 他感情との関連
 心配：恐怖の中でも、具体的な事態になっておらず、明確な対
象があるもの
 不安：具体的な事態になっておらず、明確な対象もないもの

4. 恐怖反応１
 身体反応：瞳孔拡大、額を寄せるetc
 フリージング
例）条件刺激を提示→電気ショックを恐れてすくみ上がる（フ
リージング）＋恐怖反応としての自律神経系・内分泌系の変化。

5. 恐怖反応２
 自律神経＋内分泌系の変化
① 筋肉に血液が集中＋身体の瞬時の凝固
・・・隠れる等の適切な反応の有無を大脳に判断させるため
② アドレナリン等のホルモン分泌
・・・脅威に対する集中力向上

6. 恐怖行動１
１．Fight（闘争）
攻撃的な行動。通常は、相手を傷つける意志のあるというこ
とを伝えるため、威嚇等を行う。その他の選択肢を試したにも
関わらずその場が解消されない最終手段とも。
２．Flight（逃走）
その場から退避し、物理的に離脱する行動。恐怖対象から回
避し命を守るという選択。

7. 恐怖行動２
３．Freeze（固まる）
実際に動きが止まってしまうことを指す。警戒行動とは異なり、恐怖で思
考回路が止まっている状態。
４．Fiddle about（何かする）
何か身体を動かしてしまうような状態。恐怖度が低い状況で出現すること
が多く、下記の2つに分類。
a) 転換行動：その状況には全く関係なく、その行動でその場のストレスが
下がる訳ではないが、なんとなく出てしまう行動。誤魔化しに近い。
例）質問をされた時、答えを知らないのに意味も無く頭を掻く。
a) なだめ行動：その行動をすることで相手の怒りを静める意図があるもの。

8. 恐怖への準備刺激
 定義『生まれながらにして恐怖しやすい発生対象』
例）蛇・高所・・・恐怖症あり／銃・ナイフ・・・恐怖症な
い（経験や学習で恐怖）
 恐怖学習の効果にも影響
a. ビデオでサルが怖がっている様子とゴム製の蛇の写真を対提
示→蛇への恐怖反応
b. 花やウサギの写真を対提示→花やウサギへの恐怖反応は学習
されない

9. 恐怖条件付け
 動物では、恐怖体験の記憶として恐怖記憶が形成（固定化）される
 動物に音、光、場所（文脈）など、それ自体では恐怖反応を誘発しない
条件刺激（ＣＳ）と、電気ショックなどの恐怖反応を誘発する非条件刺
激（ＵＳ）を提示し続けると、動物は両者の関連を学習し、非条件刺激
（ＵＳ）のみで恐怖反応を示すようになる＝恐怖条件付け
 恐怖＝生物が危険を予測することを学ぶ行動現象であり、動物にとって
の一種の防御反応であると考えられる

10. 参考）恐怖条件付けの脳領野
 恐怖条件づけの獲得、その後の恐怖記憶の形成、貯蔵、そして、想起に
は扁桃体が中心的な役割を果たす
 恐怖音条件づけは扁桃体、恐怖文脈条件づけは扁桃体と海馬の両方を責
任領野とする
 消去には前頭前野皮質と扁桃体が中心的な役割
 外側核の興奮性ニューロンが恐怖音条件づけの記憶回路（記憶痕跡）に
参入していること、条件づけ後に神経可塑的変化が誘導されることも明
らかにされており、恐怖条件づけの獲得やその記憶の保持に重要な役割
を果たす
 扁桃体内中心核は恐怖条件づけにおける恐怖反応の表出を制御する

11. 参考）扁桃体中心核・基底核
 扁桃体中心核は、恐怖条件づけの獲得と固定化に必要と示唆。
 中心核もいくつかの領域に分類
１．正中中心核は恐怖反応を表出する役割を果たす。
２．外側中心核は正中中心核を持続的に抑制しているものの、この抑
制の解除により、恐怖条件づけの条件刺激に対する恐怖反応が誘起される。
３．中心核から外側視床下部と中脳中心灰白質への投射⇒血圧の増加
やすくみ反応などの恐怖反応の表出がそれぞれ引き起こされる。
 扁桃体基底核には恐怖条件づけによる恐怖反応発現時に興奮する「恐怖
ニューロン」と、消去発現時に興奮する「消去ニューロン」が存在する。
これらのニューロン群が前頭前野皮質と連携し、恐怖条件づけの獲得や表
出を制御。

12. 恐怖の責任部位
 扁桃体：原始情動記憶が貯蔵・・・この記憶に関連した情動刺激により
記憶が引き出され、恐怖反応が引き出される
① 恐怖条件付け実施後、条件刺激提示する・・・視床下部へ刺激が伝
えられ、自律神経反応の結果心拍増加等
② 中脳へ情報が伝えられ、フリージング等
③ 帯状回や海馬等の辺縁系へ刺激を伝え、長期記憶にも影響を与える
扁桃体の変性→情動的な事象に関連した記憶が選択的に障害
 海馬：場所のような状況・文脈を条件刺激として用いる場合、海馬も恐
怖情動に関連した記憶貯蔵の場所となる

13. 扁桃体の働き
① 視覚・触角等のシグナルが感覚器から扁桃体に送られる
② 扁桃体から各脳部位にそのシグナルが送られる
③ ここからは不随意反応である心拍促進や瞳孔拡大し、血液を
足の筋肉に送りこむシグナルが体の各部に送られる
④ その結果皮膚からは血液が引き、汗腺活発化→顔面蒼白や冷
や汗といった不随意恐怖反応に

14. 恐怖反応の主要ホルモン
 アドレナリンとコルチゾル・・・この分泌が恐怖反応の主要部
分となる
 アドレナリンとコルチゾルの働き・・・恐怖を引き起こした時、
状況の記憶を強化する→その結果、同じ状況が発生した時に対
処しやすくなる
 前項のシグナルは副腎に送られ、アドレナリンとコルチゾルを
分泌する、という流れ

15. 自動恐怖反応の実験
 「海馬に障害あり＋扁桃体は正常の人」に恐怖を誘う写真を見
せる実験→自動恐怖反応(心悸亢進・発汗)を示す＋その後、この
写真に驚いたのかと質問すると「いや違う」と回答
 「海馬は正常だが扁桃体に障害がある人」に同様の実験→恐怖
を感じるが恐怖反応なし
 ⇒海馬と扁桃体システムは効率的だが非合理的？

16. 扁桃体以外の恐怖反応
 扁桃体がないのにパニックになる実験⇒扁桃体欠損患者にパニック誘発
型炭酸ガス混合空気を吸引→吸引前には不安状態にないのに、ガス吸引
後パニック症状が現れる
 扁桃体損傷患者はテスト直前に不安なし／一般人は冷や汗や心悸亢進
① 外部からの危険を感知→扁桃体（＝認知が絡む？）
② 内部からの危険信号→脳幹・間脳・島皮質等により体自身が原始的
恐怖を発生させる（＝感覚レベル？）

17. 恐怖に対する防衛反応の選択
 「逃避行動」と「すくみ反応」は、動物の行動としては正反対の反応(前提)
 手綱核の外側亜核の活動を阻害した個体に対し、通常は逃避行動を示す恐怖条件付け
学習実施。⇒逃避行動ではなく、過剰なすくみ行動を示した。（このような行動の違
いは条件付け学習を行う前では見られず、恐怖の経験に依存した反応であることが分
かった）
 一方、手綱核の外側亜核の活動を阻害した個体は、基本的な行動量や電気ショックへ
の感受性などへの影響はなし。
 手綱核の外側亜核が正常に機能しない場合(例：前述個体)には、恐怖の経験が通常と
は異なる（異常な）反応を示す可能性が示唆・・・もしかするとトラウマのようなも
のとも関係しているかも？？

18. 恐怖体験の記憶形成メカニズム１
 ヘッブ型可塑性による記憶形成：「互いに繋がった２つのニューロンが
同時に活動することでその繋がりが強化され、記憶が形成される」とい
う理論
 電気ショック（恐怖体験）＋音刺激⇒音に対する恐怖反応（すくみ）
＝恐怖条件付け
 扁桃体ニューロンの活動を抑制＋電気ショック
⇒恐怖記憶の形成が阻害＋扁桃体ニューロンの音刺激に対する反応の
増強も阻害・・・ヘッブ仮説を指示する結果

19. 恐怖体験の記憶形成メカニズム２
① 電気ショックを用いず、人工的に扁桃体ニューロンの活性化＋音刺激
⇒恐怖記憶が形成されず
② 扁桃体ニューロンの活性化＋ノルアドレナリン受容体の活性化
⇒(怖い体験を与えなくても)恐怖記憶が形成
・・・恐怖記憶形成に係る因子として、ノルアドレナリンが関与？
 恐怖記憶の形成には、ヘッブ仮説（ニューロン間の繋がりの強化等）に
加え、ノルアドレナリン受容体（注意喚起物質）のような神経修飾物質
の活性化も重要か

20. 参考）トラウマ経験による脳の器質的変化
 全体の傾向
海馬⇒サイズ小：長期記憶に何らかの支障
扁桃体⇒サイズ小：情動・記憶調節等の支障
小脳虫部⇒血流量小：海馬や扁桃体の異常制御
脳梁⇒サイズ小：左右半球の統合不全
（cf:ネガティブ記憶：右半球が活性化し、左半球(＝言語理解・表現等)非活性化）
困難＋精神疾患とも関係？
 暴言虐待
聴覚野の機能が弱い(拡散異方性の低下)
 DV暴露
視覚野⇒サイズ小＋血流量増
 身体・心理的虐待
前頭前野⇒サイズ小(10～15％減)＝本能的な欲求をつかさどる
辺縁系へ抑制をかける機能が弱い

21. 参考）トラウマ経験に対する脳の感受性期（敏感期）
 脳の感受性期の存在⇒被虐待の時期によりダメージを受ける部位
の違いが生じる
 海馬：３～５歳（幼児期）
 脳梁：９～１０歳（思春期前）
 前頭葉：１４～１６歳（思春期以降）
 例えば前頭前野だと、１４歳頃のトラウマで特に重篤な影響を
受けることが示唆された

22. 参考）乳児の感情調節機能の感受性期
 扁桃核を中心とする回路（出生時から機能）
・・・闘争か逃走かの原始的な選択を行う
 帯状回を中心とする回路（３～９ヶ月に発達促進）
・・・社会的キュー反応、分離不安に関与
 眼窩前頭皮質（１０～１２ヶ月に発達促進、２歳までが臨界期）
・・・共同注視機能、目的遂行機能等

23. 参考文献等
 大河原(2010) 教育臨床の課題と脳科学研究の接点(1) : 「感情制御の発達不全」の治療援助モ
デルの妥当性 東京学芸大学紀要. 総合教育科学系 Vol.61
 大河原(2011) 教育臨床の課題と脳科学研究の接点(2) : 感情制御の発達と母子の愛着システム
不全 東京学芸大学紀要. 総合教育科学系 Vol.62
 友田 「いやされない傷 児童虐待と傷ついていく脳」(2012年) 診断と治療
 https://bsd.neuroinf.jp/wiki/恐怖条件づけ
 https://ja.wikipedia.org/wiki/恐怖
 http://www.dogactually.net
 http://www.riken.jp/pr/press/2014/20141209_1/
 http://www.riken.jp/pr/press/2010/20101011/
 http://mui-therapy.org/newfinding/internal-fear.html