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- 1. ▼ どじょうを飼う知人がいる。名前は「どーちゃん」。おとなしくて、台風が接近すると底砂に隠れてしまう。そのくせ、すきを見て水槽を飛び出す瞬発力を備え ているそうだ。臆病だが機敏、というのが飼い主殿の観察である ▼ 「どじょう演説」の野田首相にも似た味がある。いつもはのらりくらり、慎重を旨としなが ら、ここ一発の意地は侮れない。きのうの年頭記者会見も一点突破の趣だった ▼ 抑揚を欠いた受け答えの中で、こと消費増税だけは「先送りできない」と重ねて 力を込めた。ついには高校で教わったチャーチルの言葉を引いて、「ネバー、ネバー、ネバー、ネバーギブアップ」ときた。水槽を飛び出す覚悟とみえる ▼ 党内 基盤が万全でない首相が不退転を口にし、なにやらキナ臭い年明けである。小沢元代表は「決起」のタイミングを計っている風だし、自民党は「日本の存亡をか けた政治決戦の年」と大きく出るらしい。「維新」を叫ぶ大阪市長らも国政への参戦をにおわす ▼ 世界も選挙の年。オバマ大統領が再選を目ざす米国では、共和 党が挑戦者選びに入った。ロシアやフランス、韓国でも大統領選がある。国を過(あやま)つ者は必ず民意に反撃される。投票にせよ、蜂起にせよ ▼ 中東のよう に命をかけず、為政者を選び直せる幸せを思う。リーダーならずとも、いつも以上に立派なことを言うのが年頭の常だが、その言葉が軽すぎ、何人もの首相が選 挙を待たず去った。「ネバーギブアップ」の重さ、しかと見極めたい。
- 2. ▼ 華やぐ街を漂えば、この世は二人一組で構成されているかの錯覚を覚える。新春に限った景色ではないが、渋谷も原宿も男女のカップルばかりである。もっと も、相手がいるから寒空に繰り出すわけで、この様子が全体像ではない ▼ 国立社会保障・人口問題研究所の調査(2010年)によると、「交際している異性は いない」と回答した独身者(18~34歳)が男性で61%、女性で50%いた。5年前に比べ男性が9ポイント、女性も5ポイント増え、ともに80年代に調 査を始めてからの最多となった ▼ 意外にも、彼女や彼氏がいない男女の半数近くが「特に異性との交際を望んでいない」と答えている。独りを楽しめる時代だ し、結婚して一人前という見方も薄れたが、男女が引き合う自然の摂理まで怪しくなってきたらしい ▼ 背景の一つに将来への不安があろう。雇用、年金、環境 と、若い層の漠たる不安は次第に鮮明になってきた。わが身の明日も読めない時に、家族は構えづらい。これまた生物としての本能ではなかろうか ▼ 厚労省の推 計では、昨年の結婚数は前年より3万少ない67万組。生まれた赤ちゃんは105万7千人で、統計のある過去100年ほどで最も少なかった。わが人口ピラ ミッドは、底辺が削られる形でやせていく ▼ 国の危機を救うために付き合うカップルはいない。因果の順は明らかで、男女の間に立ちはだかるのは、現実の生き づらさや先々の心配である。少子化を嘆く前に、まずは「その気」にさせる策を連打すべし。極めたい。