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被虐待児の特徴と療育について
千葉県中央障害者相談センター
佐名 隆徳
本日の流れ
 1.虐待とは何か
 2.なぜ虐待を行うのか
 3.被虐待児の特徴とは
 4.被虐待児をどうケアするのか
 5.虐待の発見と疑い
1.虐待とは何か
虐待の4タイプ
 身体的虐待
 心理的虐待
 性的虐待
 ネグレクト(育児放棄)
児童虐待とは
親が子を
“食い物にする行為”
身体的虐待
 児童の身体に外傷の生じる暴行や、外
傷が生じるおそれのあるような暴行を加
えること(児童虐待防止法第2条)。
 親権者が懲戒として子供の尻を1度〜数
度平手で軽くたたくようなことは、懲戒の
範囲内に相当 ⇒児童虐待に含まない。
 「虐待」と「懲戒」の線引きが問題となる
心理的虐待
 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶
的な対応(児童虐待防止法第2条)。
 児童に対して心理的な後遺症が残るほ
どの言葉の暴力、極端な恫喝を行うこと、
また、無視しつづけること、存在自体を根
本から否定すること、自尊心を踏みにじ
りつづける行為など。
性的虐待
 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわ
いせつな行為をさせること(児童虐待防止法第2条)。
 児童を性行為の対象にしたり、児童に対して強制的
に猥褻なものごと(自らの性器や性交)を見せ付けた
りすること。
 自宅内を全く着衣無しの状態で素っ裸で歩きまわ
る・・・○(△?)
 意図的に子供を追い回してわざわざ性器ばかりを見
せつける・・・×
ネグレクト(育児放棄)
 児童の心身の正常な発達を妨げるような
著しい減食又は長時間の放置(児童虐
待防止法第2条)。
 児童に食事を与えない、長時間の放置
など、保護者としての監護を著しく怠るこ
と。
2.なぜ虐待を行うのか
子供にも要因が?
 育てにくい子供
発達障害・知的障害・気質
 卵が先か、鶏が先か。
・育てにくさのため虐待か
・虐待の結果子どもの脳にダメージか…
しかし虐待は“親の問題”で、“あってはならないこと”
親側の要因は?
 養育意識が低い
 親から学んだ育児をしている(虐待の連鎖)
 親だってつらい(フラストレーション・不安・経
済状況etc)
 虐待を強いられている??
養育意識が低い親
 “枠の弱い親”への指導は極めて困難
 “方法を知らない親・能力の低い親”への
支援は良化可能性がまだ高い。
正しく状況を 適切な方法を
把握して 学習する
事例:養育意識の低い親
 療育手帳更新で来所
 児童:引きこもり+検査に乗ろうとしない
 親「子が嫌なことをやらせても意味ないよ
ね?」と検査への動機づけを行わず…。
 引きこもりについて「外に出たら迷惑かける
から」「本人がそうしたいんだし」・・・社会参
加を促すつもりなし。
 子のADL等も正確に把握できていない
⇒ネグレクトのケースとして市に報告
虐待の連鎖
 「虐待は連鎖する」と定式的に言われる
が・・・なぜ連鎖する?
⇓一定の理論あり
 虐待のモデリング論
 ネガティブ感情制御論
虐待のモデリング論
 モデリング:他者の行動を模倣・学習して
自らの行動を形成する
 Ex)「子どもの制御を暴力で行う」を経験
し続ける
→その方法をモデルとして学習し、自
身も同じ方法で子育てをする
ネガティブ感情制御論
 幼少期,泣きに応えてもらえなかった経
験があると,わが子の泣き声が無意識的
に負情動,不快感を呼び起こす。
 虐待の世代間連鎖の背景
:母自身が負の感情を受け止めてもらえ
なかったことによって,わが子の負の感情
を承認できないという可能性。
追いつめられた親
 適切な養育が分からない
・教わっていない/教わった通りにやって効果がない
・子どもの特性・傾向への理解の薄さ
・社会からの孤立・サポートの薄さ
 子どもと向き合う余裕を持てない
・経済的余裕のなさ
・親自身の困難さ
・夫婦・家族不和
主たる虐待者が曖昧
 母親の働きを評価しない父親の存在に
よるストレス
 父親から守るために母が必要以上に厳
しい教育を行っている
 誤った養育を教わった
事例:主たる虐待者が曖昧な例
 小学生男児のケース
 父からの暴力により小学校から通告
 父の暴力=母から父へしつけの依頼
 父:2度目の結婚で、母への負い目強い
 母の理不尽に厳しい枠組み(弁当箱を出
し忘れたら夕食・お風呂なしetc)
 主たる虐待者=父として動いていたが…
⇒母による心理的虐待 と種別変更
虐待を促進・維持する要因
 被害的認知
被虐待児は,「自分は悪い子」という低い自己評価と「他者
は自分を責め,自分を傷つける存在」という他者イメージを
持つようになる。⇒その認知が変わらないまま親になる。
 育児不安
統制不能感が高い母親は育児不安も高いということが明ら
かになっている。⇒ 子供の気質との関係も高い。
 親の自尊心
虐待を受けた子どもは「自分が悪いから虐待を受けた」とい
う自己イメージ⇒自尊心低下したまま親に。
※自尊心は,育児不安や被害的認知を抑制する要因。
 社会的孤立
3.被虐待児の特徴は何か
被虐待児の兆候(例)
 身体的:低身長・低体重等発育不良。説明のつかない、ア
ザ、火傷、顔面の傷。統制できない行動(怒り・パニック等)
 心理的:自尊感情の欠如。いつも極端に承認を求める。敵
意、口汚くののしる。挑発的。
 性的:急に性器への関心が高まる。他の子どもの性器をさ
わろうとする。性的な話題が増える。年齢に不釣合いな性
的知識。
 ネグレクト:無気力。低身長、低体重等発育不良。ガツガツ
食べる、隠れて食べる。身体・服がいつも汚い。気候にあわ
ない服装。ひどい悪臭。きたないぼさぼさ髪。必要な医療を
受けていない。
被虐待児の心理
 大人は僕に何をするの?
 これからどうなるの? 常時の極めて強い
 何が良くて何がだめなの? 不安状態
 どうしたら恐い事が避けられる?
 俺なんてどうせだめだ 低い自尊心
 何もうまくできないんだ 低い自己評価
 生きてていい事ないんだ 歪んだ自己像
 俺のせいで家族がダメに 他
被虐待児の共通特徴
 親から負の感情(+身体感覚)を否定さ
れる経験が,感情制御の脳機能の健全
な育ちの発達を困難にする。
 子どもの負の感情・身体感覚を承認する
コミュニケーションの回復によって,感情
制御の力を育める。
被虐待児の脳
 全体の傾向
海馬⇒サイズ小:長期記憶に何らかの困難
扁桃体⇒サイズ小:情動・記憶調節の困難
小脳虫部⇒血流量小:海馬や扁桃体の異常制御
困難+精神疾患とも関係?
 暴言虐待
聴覚野の機能が弱い
 DV暴露
視覚野⇒サイズ小+血流量増
 身体・心理的虐待
前頭前野⇒サイズ小:本能的な欲求をつかさどる
辺縁系へ抑制をかける機能が弱い
被虐待児等の知能傾向
※WISC-Ⅳの結果 (平均値=100)
 全体的に低得点
 ワーキングメモリ(短期記憶系の機能)が特に
低く、境界域の数値を示す
全検査 言語理解 知覚推理 ワーキングメモリ 処理速度
平均 86.67 90.35 90.85 83.50 90.87
標準偏差 13.15 14.67 13.07 15.03 10.42
被虐待児の周辺診断
 反応性愛着障害
 素行障害
 自閉症スペクトラム
 ADHD
 不安障害群
4.被虐待児は
どうケアするのか
児童を知る
 どんな人生を歩んだ親か?
 児童に発達等の問題はあったか?
 親はどう児童に関わってきたか?
 学校ではどのような役割か?
 友人はどんな子か?
 ・・・児童の特徴+周辺への理解
心理療法の前に
 最重要は児童との対話
 言葉以外の対話(遊びを通して等)も
 不安やつらさ(負の感情)の言語化
態度の3原則
 ①真実性(役割行動や防衛的態度をとらず、
セラピストの感情とその表現が一致してい
ること)
 ②共感的理解(あたかも自分のものである
かのように感じ取ること)
 ③無条件の肯定的関心(評価せず、相手の
ポジティブ・ネガティブ両面を受容すること)
 この3態度は日常場面に応用可能
対話の際の心がけ
 子どもの心理等を決めつけない
「お前に俺の何が分かる」
「俺の生き方を否定しないでくれ」
 プレッシャーをかけない
・意図的に表面的反応
・開示への抵抗・拒否
⇓
本来助けとなる話を
統合できなくなる
日常的な関わり方
 職員が、被虐待児に備わっている基本
的欲求の存在を信じる
 職員のもつ常識や世界観を被虐待児に
あてはめないが、正しい枠は提示する
 被虐待児の経験してきた考えや世界を
理解することを通して、被虐待児に「馴染
んでいく」
心理療法
 動機付けの困難さ(被虐待児対応経験
のある心理士が望ましい)
 精神面の根治よりも、
認知の改善+適応行動の獲得
 自己概念の再構成 ⇒ 正しい自己認知
 心理的安定には日常的な関わりが重要。
児童の周辺を整える
学校 市役所
家庭
スクール
カウンセラー
保健センター
弁護士
警察
保育所 NPO
5.虐待の発見と疑い
虐待発見の難しさ
 虐待を受けた子どもが、自分ら虐待を受けたことを訴えるの
は希。
 虐待を受けていても、子どもにとって親はかけがえのない存
在
⇒事実を否認、親をかばう、自分が悪かったせいだ 等
・・・家庭という「密室」で行われる虐待の発見は難しい。
 しかし、虐待を受けている子どもは、何らかのSOSのサイン
を出していることが多い。
 普段から子どもと接する機会の多い教職員や保育従事者
には、「虐待を疑う視点を持つ」ことが重要。
 「いつもと違う」「何か変だ」と感じた時に、「もしかして虐待で
は」とまずは疑ってみる。
虐待を見逃さないためのポイント1
 虐待のサインとしての問題行動
 非行や不登校、暴力など、虐待を受けた
子どもは、様々な問題行動を起こす。
 表面に現れた問題行動のみに着目し処
理するのではなく、その背景に虐待があ
るかもしれないという視点を持つことによ
り、見逃されていた虐待の発見につなが
る。
虐待を見逃さないためのポイント2
 「いつもと違う」、「何か不自然だ」というような感
覚:虐待のサインかも?
 「この程度で虐待を疑うのはどうか」といったよう
な迷いは禁物。虐待の対応は、疑いの気持ちを
誰かに相談し、問題を表面化することから始まる。
虐待を疑ったら、まずは職場で同僚や管理職に
相談を。
 一番大切なこと、「子どもの安全を守る」というこ
とであり、子どもの視点に立つことであり、子ども
にとって有害かどうかが判断の基準となる。
ひとりで抱え込まない
 児童虐待は、問題の複雑さゆえに、1人の力や
ひとつの機関では解決できないことが多い。
 また、1人で抱え込むことによって、介入のタイミ
ングを誤り、対応が遅れてしまったり、問題を更
に複雑・深刻化させてしまうこともある。
 多面的な視点を持ち、役割分担によるストレスの
軽減を図るためにも、組織での対応、校内連携
が重要。
正確な記録の重要性
 虐待の疑いのある子どもを発見した時は、疑いを
持った時から記録を残すことが大切。
 子どものケガやあざは、日数が経てば状況が変化し
てしまい、虐待を疑う根拠が消えてしまうことがある。
また、子どもや保護者の状況も記録に残しておかな
いと、時期や状況が曖昧になってしまう。
 さらに、虐待の対応は、多くの機関がかかわり、長期
に及ぶことが多い。そのため、関係機関への連絡や
後任への引き継ぎ等、必要な情報が確実に伝わっ
ていくように、事実か伝聞かの区別を明確にした憶
測を交えない正確な記録を残す必要がある。
虐待の証明はしなくてよい
 虐待かどうかを判断するのは、学校など
通告する側ではなく、通告を受けた児童
相談所や市町村などの役割。法は、虐
待を受けたと「思われる」場合でも、通告
するよう求めている。
 「もし間違っていたら」、「虐待を証明でき
るようになってから」と、通告が遅れてし
まうことにより、最悪の結果を招かぬよう
注意を払う。
通告先
 児童相談所……… 緊急性が高い場合
一時保護や施設への入所措置の権限、子どもの安全が確認でき
ないときなどには、立入調査を行う権限もある。
早急に家族との分離、保護が必要な場合は、児童相談所へ通告。
 市 町 村
緊急性が低く、地域のネットワークで、関係機関と連携を図りなが
ら在宅のまま、子どもや家庭に対する支援を行う場合には市町村
へ通。しかし、両者は送致・援助要請で連携を図っているので、ど
ちらへ通告しても、両方の機能を活用することができる。
補 講
補)しつけと虐待を分けるもの
 子どものケガの重さ
 子どもの年齢と発達の度合い
 体罰の方法
 体罰の頻度
 体罰が子どもの精神や発達に与えた影響
 体罰の動機(目的)
 虐待:あくまで子供目線でどうか、を考える。
cf:米国の裁判所や 児童保護サービス(Child Protective Services)
補)発達障害と子ども虐待の関係 (宮本:2008)
1 .発達障害が子ども虐待の背景要因となっている状況
1)子どもが発達障害
子どもの特性が育児負担を増強
2)保護者が発達障害
保護者の特性が不適切な育児態度を形成
2 .子ども虐待の結果として発達障害が存在している状況
1)発達障害の出現
脳損傷の後遺症としての発達障害(主として知的障害)
の新たな出現
2)発達障害の増悪
刺激剥奪によるもともとの発達障害状態の増悪
補)攻撃行動 の原因
 フラストレーション=攻撃仮説:欲求の充足を阻止する「他人の行動」や
目的の達成を難しくする「困難な社会的状況」は、人間にフラストレーショ
ン(欲求不満・欲求阻止)の状況を準備する。フラストレーションの高まりと
共に、不快な生理的緊張と情動的な怒りも高まっていくが、その不快な緊
張や怒りを解消する手段として攻撃衝動(攻撃行動)が発現するというの
がフラストレーション・攻撃仮説。
 攻撃手がかり仮説:自己にとって攻撃する必要性(身体・生命の危険や
感情的・実際的利益)があるという手がかりがあれば、フラストレーション
状況の緊張や怒りを解消する為の攻撃行動が発現しやすくなるという説。
 社会的学習説:他者の行動の観察等によっても学習が成り立つ。つまり、
自分以外の攻撃行動によって、他者が何かしらの肯定的な結果を得られ
たのを観察するだけで、他者の行動(この場合は攻撃行動)が学習される
(模倣学習)とする説。
補)フラストレーションのメカニズム
 人間の欲求…一次的・二次的欲求
 「一次的欲求」=「生理的欲求」(身体内部におけ
る、飢え、乾き、体温維持、性、痛みの回避など)
 「二次的欲求」=「心理的欲求」「人格的欲求」(愛
情、集団所属、地位、名誉、権力、独立等に関す
る欲求)
 これらの欲求に基付く目標に向けられている行動
が、外的、もしくは内的条件により阻止された時に
生じる事態を「フラストレーション」と言います。
補)フラストレーションの解消パターン
(1)フラストレーション→攻撃仮説
攻撃行動の生起にはつねにフラストレーションの存在が前
提とされており、またその逆にフラストレーションが存在すれ
ば、つねになんらかの形式で攻撃が生じるとする説。
(2)フラストレーション→退行仮説
フラストレーションは、自我の構造を未分化、未発達な段階
に後戻りさせ、未成熟な行動をおこさせるとする説。
(3)フラストレーション→異常固着仮説
フラストレーション状況での行動を動機づけを失った「目標
のない行動」とみ、無意味な反応が異常に反復固執される
とする説。
補)被虐待児のやる気の起きづらさ
 定型発達児(健常児)は報酬の多寡にかかわらずゲームに
対して脳の線条体と視床が活性化しており、報酬感受性
が高いことが分かった。
 ADHD児は、高報酬課題に対してはそれらの部位の活性
が見られたが、低報酬では活性がなく、報酬感受性が低
めでやる気も起こりにくいことが示唆された。
 愛着障害児は、いずれのゲームでもこれらの脳部位の活
性が見られず、報酬感受性の低下が著しく、やる気も喚起
されにくい状況であることが明らかになった。
 2015年9月30日 国立大学法人福井大学・ 国立研究開発法人理化学研究所
http://news.ad.u-fukui.ac.jp/wp-content/uploads/20150930-2.pdf
補)反応性愛着障害
 この診断は2つの型に分けられる。
・抑制型:人とのかかわりを避ける
・脱抑制型:誰に対しても無差別に愛着
行動を示す
 「抑制型」は自閉症スペクトラム、「脱抑
制型」はADHDと臨床症状が重なること
が多いとされる
 この障害の原因は・・・?
補)愛着とは?
 定義:愛着対象(親)との間の情緒的なつながり
 子は本能的に“親(愛着対象)がストレッサー(不安・恐
怖)を除去してくれる”と予期する
愛着対象がない=慢性的なストレス状態
 子が不安や恐怖⇒愛着行動(泣き・接触)が活性化
・安心⇒愛着行動は緩和
・ストレス状態のまま⇒ストレス低減を自ら図る
ex)問題行動など
 愛着が安定している子供
=親の感受性が高く、子に対し応答的に反応する
補)素行障害
 反復して持続的な、反社会的、攻撃的、
また反抗的な行動パターンを特徴とし年
齢相応の社会規範や規則を大きく逸脱し
ている状態である。これらの行動パター
ンはよく反社会的行動と呼ばれる。
 ADHDから反抗・挑戦性障害、素行障害
反社会的人格へと移行してゆく場合があ
りその予防や対応が重要である(後述)。
補)自閉症スペクトラム
 主分類
・社会性の障害
・コミュニケーションの障害
・反復行動と狭い興味
 配慮・対応等
・本人の自尊心低下
・本人の特性に応じた指示方法等
 原因
・ミラーニューロン仮説
・神経毒
補)ADHD
◆行動特性
○不注意
A.衝動性の高さ ※注意の転導性=維持困難or被刺激性
1.被刺激性
2.注意・集中維持の困難
B.集中困難
1.注意・集中維持の困難
2.反応の抑制と切り替え
○多動
A.行動抑制障害
1.過動性
2.注意・集中維持の困難
3.優勢行動制御困難
補)ADHD 2
◆神経基盤
小脳後下虫部・小葉の面積過小
ストループ課題(優勢行動抑制の検査)中に前帯状回背側部の非活性
多動性障害:前頭前野、小脳虫部、尾状核、淡蒼球の縮小
能動的な刺激選択過程や選択的注意の維持過程の他に、自動的かつ全認知的な処理機
能においても何らかの障害が存在する
◆神経伝達物質上の特徴
前頭葉―大脳基底核を結ぶ神経回路領域における、カテコールアミン神経伝達物質(ドー
パミン、エピネフリン、ノルアドレナリン)の異常
◆非行との関連
ADHDを起点として,加齢とともに反抗挑戦性障害,行為障害と診断名が変遷していき,最
終的に反社会性人格障害に至るという反抗挑戦性障害の中核群の一部の経過をDBDマー
チと名づけている。ADHDの診断を受けた子どもの69%が反抗挑戦性障害を並存し,また
反抗挑戦性障害の子どもの62%がADHDであるという先行研究からADHDと反抗挑戦性障
害の強い関連性を指摘している。
補)複雑性PTSD
 児童性的虐待など長期反復的トラウマ体験
による心的外傷後ストレス障害(PTSD)をさ
す。
 慢性的な自己安全の感覚、信用、自尊心な
どの損失
⇒発達、素行、愛着関係の問題が浮上
 症状:感情調整の障害、解離症状、無力感、
希望のなさ、永久に傷を受けたという感じ、
自己破壊的および衝動的行動、社会的引
きこもり他
補)被虐待児の診断名変遷
 杉山登志郎(浜松医科大・あいち小児保健医
療総合センター)氏は、被虐待児の場合、
①幼児期は反応性愛着障害の臨床像を示すが、
②学齢期になると多動性行動障害の型をとり、
やがてPTSD症状の出現と解離症状が明確化し
てきて、
③青年期になると解離性障害と非行へと展開し
ていく
という旨を指摘している。
補)非行触法 と 被虐待・発達障害
 全国の少年院在院者の72.7%が被虐待経験を認め
ている(平成12年法務総合研究所)。
 少年鑑別所入所児童は、行為障害の場合、男子
35.2%、女子58.3%、ADHDの場合、23.0%の割合で
「障害の可能性がある」と指摘されている(自己チェッ
クリストの結果)。
 少年院在院者は、LD63.7%、ADHD78.4%の割合で
障害の疑いがある(自己チェックリストの結果)。
 児童自立支援施設入所児のうち42.6%にADHD傾向
が認められる。
⇒虐待と反社会的な行動との関連が推測可能。
参考文献
Simon Baron‐Cohen「自閉症スペクトラム入門―脳・心理から教育・治療までの最新知識」(2011) 中央法規出版
Vivien Prior・Danya Glaser(著) ,加藤(訳)「愛着と愛着障害―理論と証拠にもとづいた理解・臨床・介入のためのガイド
ブック」(2008) 北大路書房
今川・山下(2003) パーソナルスペースからみた被虐待児の家族関係 岐阜聖徳学園大紀要. 教育学部編 42
岩淵ら(2009) 母親の育児負担感への寄与因子の検討に関する研究 信州医誌57(5)
大河原(2010) 教育臨床の課題と脳科学研究の接点(1) : 「感情制御の発達不全」の治療援助モデルの妥当性 東京
学芸大学紀要. 総合教育科学系 Vol.61
大河原(2011) 教育臨床の課題と脳科学研究の接点(2) : 感情制御の発達と母子の愛着システム不全 東京学芸大
学紀要. 総合教育科学系 Vol.62
大河原・響き(2013) 感情制御困難を生み出す日本特有の親子関係 東京学芸大学教育実践研究支援センター紀要
Vol.9
大場(2004) 虐待を受けた子供との関わり方 東京大学大学院教育学研究科紀要 第44巻
木村(2009) 少年非行と障害の関連性の語られ方 : DSM型診断における解釈の特徴と限界 人間文化創成科学論叢
第11巻
黒崎・田中・江原・清水(2013) 非虐待時における認知・行動・情緒機能の特徴についての検討 順天堂醫事雑誌.
2013,59
黒田・木村「発達障害の原因と発症メカニズム: 脳神経科学の視点から」(2014) 河出書房新社
宮本信也(2008)発達障害と子ども虐待,『発達障害研究』30(2)
武井・寺崎・門田(2006) 幼児の気質特徴が養育者の育児不安に及ぼす影響 川崎医療福祉学会誌Vol16
玉城・神園(2013) 自動自立支援施設における発達障害のある児童生徒への指導・支援に関する研究 Asian
Journal of Human Services Vol5
参考文献
内藤・田部・髙橋(2015) 発達に困難を抱える子どもの非行(虞犯・触法・犯罪)の実態と支援の課
題 発達研究第29巻
八木・藤原・中村(2009) 情緒障害児短期治療施設に入所する非虐待児童の行動特徴について 関西
福祉大社会福祉学部研究紀要 第12号
渡邉(2011) 「育児不安」の再検討 東京大学教育学研究科紀要第51巻
岡田・松本・千葉(2006) 行為障害と非行および注意欠陥/多動性障害と反社会性人格障害との関連
に関する研究 社会安全60巻
乾 (2010) 言語獲得と理解の脳内メカニズム 動物心理学研究 第60巻第1号
原 (2012) 遂行機能障害に対する認知リハビリテーション 高次脳機能研究第32巻第2号
根來 (2013) 成人期のADHDの生物学 シンポジウム:成人期のADHDにおける診断及び治療上の課
題
佐藤 (2012) 前頭葉の機能解剖と神経心理学検査:脳賦活化実験の結果から 高次脳機能研究第32巻
第2号
柴崎 (2012) 前頭葉機能障害の認知リハビリテーション 明星大学心理学年報2012
松浦(2007) 実証的調査に基づく、少年非行の危険因子に関する研究―少年院における調査と一般高
校生との比較を通して 社会安全第65巻
大槻 (2012) 前頭葉・基底核の高次脳機能障害 高次脳機能研究第32巻第2号
昼田(2011) ADHDのある児童に対する認知リハビリテーション 認知リハビリテーション
vol16,No1
友田 「いやされない傷 児童虐待と傷ついていく脳」(2012年) 診断と治療社
會田・大河原(2014) 児童虐待の背景にある被害的認知と世代間連鎖 東京学芸大学紀要. 総合教育
科学系Vol65

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