アラン・ケイ氏の未来の創り方1. Global Digicon Salon 020
「パーソナルコンピュータの父」
アラン・ケイ
“ダイナブック構想”論文発表50周年記念シンポジウム
アラン・ケイ氏の未来の創り方
~あるいは[アラン・ケイ]の理解を一歩進めるための
“古Smalltalk学”のすゝめ~
2022/08/21
鷲見正人 @sumim
6. ダイナブック vs iPad
Dynabook (1972 concept) iPad Pro 11" (2018 Late)
CPU 16 bit 64 bit
メモリ 16 KB (仮想メモリで拡張可) 4~6 GB
補助記憶 1 MB (リムーバブルストレージ) 64 GB~1TB (組込み)
画素数 1,024×1,024 (80~100 ppi) 2,388×1,668 (264 ppi)
IF 300 Kbps(給電も兼ねる) 10 Gbps (給電も兼ねる)
OS
オブジェクト指向(再定義可)
GUIやマルチフォント
有線・無線ネットワーク
オブジェクト指向(再定義不可)
GUIやマルチフォント
無線ネットワーク
サイズ 30.5×22.9×1.9 cm 24.9×17.9×0.6 cm
重さ 1.8 kg 以下 468 g
価格 500ドル(2018年物価換算で3000ドル) 1000~1700ドル
7. iPadの登場すら待たずとも「ダイナブック」は実現済み?
The Early History of Smalltalk [Kay 1993] より
“私は今、高度35,000フィートの飛行機の中で
このイントロを書いている。私の膝の上には、重さ
5ポンド(2.26kg)のノートパソコン — 1992年
の “暫定Dynabook” — があり、この年の終
わりには700ドル以下で販売されていた。フラット
で鮮明な高解像度のビットマップ画面、オー
バーラップするウィンドウ、アイコン、ポインティン
グデバイス、かなりの記憶容量と演算能力を備
え、その最高のソフトウェアはオブジェクト指向だ。
高度なネットワークが内蔵されており、ワイヤレス
ネットワークのオプションもすでにある。このシス
テム上ではSmalltalkが動作しており、私が現
在子供たちと一緒に仕事をする際に使用してい
るメインのシステムの一つです。ある意味では
Dynabook以上であり(量的には)、ある意味
ではまだそこまでいっていない(質的には)。概
して、60年代後半に思い描いていたこととほぼ
同じである。
DynaBook提唱者のアラン・ケイ氏がアキバでお買い物
AKIBA Hotline! 1998年7月18日号より
11. Xerox Alto = 安価で高速なミニコン + α
1972年の9月、
数週間のうちに私(アラン・ケイ)の計画を大きく変える2回の賭けがあった 。
ひとつの賭けは、バトラー(ランプソン)とチャック(サッカー)が私のところに来てこう尋ねたときに
始まった。
「僕は『500ドルのPDP-10』が欲しいし、
チャックは『10倍速いNOVA』が望みだ。
君はたしか『子供向けコンピューター』を望んでいたよな。
それは何を必要とする?」
そしてチャックは「もうひとつビル・ヴィティックと3ヶ月で新しいマシンを組み立てられるかという賭けをし
たんだ」言った。「おお」と、私は言った。
The Early History of Smalltalk [Kay 1993]より
もう一つは 「オブジェクトにメッセージを送って計算ができるか?」
→「3 に“+ 4”を送信→ 7 を返した!」
Smalltalk 最初の処理系の誕生
“
13. Alto他 (ハード) + Smalltalk (言語、OS) = 暫定的ダイナブック
youtu.be/AnrlSqtpOkw
Alto
バッテリー駆動
ポータブルPC試作機
NoteTaker
高性能版Alto
Dorado
Smalltalk環境
1973年~
1976年~
1976年~
1972年~(この画面のようなGUIは1977頃~)
14. (参考) Smalltalk各バージョンの特徴とそのGUIの変遷
◼ Smalltalk-71 … コンセプト、言語仕様のみ
◼ Smalltalk-72 … PoC。タートル描画が使える小さな言語 → 原始的GUI実験
◼ Smalltalk-74 … -72+高速描画ルーチン(BitBLT) → 実用的GUIの実験
◼ Smalltalk-76 … -72で試作し、再実装した別物。 → ジョブズが見学(1979)
◼ Smalltalk-78 … バッテリー駆動8086マシンでも動かせるコンパクト版-76
◼ Smalltalk-80 … プロ向けの言語処理系(IDE)を再構築&製品化(1983)
◼ Smalltalk-“96” … Squeak。オリジナルメンバーが再集結し再生。後にOSS化。
Smalltalk-72 Smalltalk-74 Smalltalk-76 Smalltalk-80
16. Xerox Alto = 安価で高速なミニコン + α
ビットマップ・ディスプレイ
マウス
リムーバブル・ハードディスク
本体はこの箱
1973年に初号機(2台)製作
► ミニコン互換(マイクロコード)
► ポインティングデバイス
► ドットごとに制御可能な画面
► 入れ替え可能な補助記憶装置
► イーサネット(1974年~)
こっちじゃないよ!
命令セット書き換えや拡張が可能
“ビルボ”と“ガンダルフ”
17. How to Invent the Future I [Kay 2017] より
現在を脱出する方法の一つは、かすかに光るアイデ
アを持って、どうやってそこまで行くかを心配する必要
がないほど遠く(未来)にそれを持って行き、そしてただ
それを持ち帰ることです。つまり、現在からイノベーショ
ンを起こすのではなく、未来で「未来」を発明するので
す。未来に出かけていって、「未来」を持ち帰るのです。
Altoは「タイム・マシン」?
22. 最適化せずとも創作できた"未来のPC像"の一例
MacPaint (Macintosh '84)
vs BitRectEditor (Smalltalk-76)
youtu.be/fjtDKnboEM0
MacPaint, 1984年
5,822行(Pascal)
+3,583行(アセンブリ言語)
+17,101行(アセンブリ言語=QuickDraw)
BitRectEditor, 1977年
・1,201行(Smalltalk)
+390行(マイクロコード=BitBLT)
GUI初の「ラジオボタン」
(たった67行で実装!)
(のちの)ファットビットも既に実現!
スプレー様描画も可能!
単純な比較はできないが…
23. ただしAltoのスペックは初代Macintoshと同等か劣る程度
Xerox Alto Apple Macintosh
製造年 1973年 1984年
CPU
6 MHz 16-bit
(4×74181 4-bit bitslice ALU)
8 MHz 16/32-bit
MC68000
処理速度 0.3 MIPS 1 MIPS
画素数
606×808 ドット
モノクロ(限定仕様でカラーも)
512×384 ドット
モノクロ
メモリ
128~512 KB
(うち表示用 60 KB)
128/512 KB
(うち表示用 21 KB)
外部記憶装置 2.8 MB, リムーバブルHD 400 KB, 3.5 inch FD
描画専用ハード なし(「あり」は誤解) なし
LAN 3 Mbps Ethernet (1974年) シリアルポート経由
価格(2018年換算) 1700万円 80万円
39. How to Invent the Future I - CS183F (2017) より
ウェイン・グレツキー … 史上最も優れたホッケー選手
“私はパックがあったところではなく、パックがこれからいくところに滑っていく”