細胞外ATPの定量化を目指したバイオセンサーの開発への取り組みについて、ご報告させていただきます。 　ATPは細胞内のエネルギー通貨としてよく知られていますが、他にも細胞外シグナル分子としての役割も知られています。ATPはエキソサイトーシスやチャネルなどによって細胞内から細胞外へと放出され、P2X/P2Yレセプターを通して細胞内へとシグナルを伝えます。その結果、免疫、発生や神経伝達などに重要な役割を果たしています。しかし、細胞外のATPがどのようなダイナミックな動きをするのかはこれまでわかっていませんでした。細胞外ATPは放出後、分解や拡散によって急速に濃度が低下すると言われています。そのため、細胞外ATPの測定には感度と高い反応性が求められます。 　私たちのチームでは、生細胞でのATPを測定するために”QUEEN”というバイオセンサーを開発しました。QUEENは円順列変異GFPとATP結合タンパク質イプシロンから構成されています。原理としては、ATPがQUEENに結合すると蛍光団の構造変化が起こり、蛍光励起スペクトルが変化することを利用しています。 　実際の励起スペクトルが左の図で、ATP濃度が変化することによって励起スペクトルも変化しています。また、右の図は実際にQUEENを大腸菌に発現させたもので、単一細胞レベルでATP濃度を定量的に測定することに成功しています。そこでQUEENを細胞外ATP測定にも応用できないかと考えましたが、QUEENにはいくつかの問題点がありました。それはATPへの結合が遅いことと光安定性が低いことです。 まず最初に結合速度の向上について取り組みました。左の図はイプシロンの構造図で、イプシロンはATP結合部位のC末端ドメインとN末端ドメインから成り立っています。NOEで構造解析をしたところ、ATP結合サイトから離れたN末端ドメインにフレキシブルなループが存在することがわかりました。私たちはこの柔軟性が反応速度を低下させているのではないかと考え、ジスルフィド結合を加えることで柔軟性に制限を与えました。 その結果、QUEEMではゆっくりと蛍光強度が変化するのに対して、ジスルフィド結合を入れたQUEENではほぼ瞬間的に蛍光強度が変化することがわかり、反応速度の向上に成功致しました。 続いて、光安定性の改善について取り組みました。GFP蛍光団の周りにある水素結合ネットワークが励起光によって変化することが、光安定性の低さを引き起こしているのではないかと考え、この水素結合ネットワークを形成するアミノ酸にランダムに変異を入れていきました。 　その結果、148番目のヒスチジンをリジンに置換した変異体に光安定性の向上が見られました。 　右がQUEENの励起スペクトルで、励起光を10分当て続けた後のスペクトルは大幅に変わることがわかります。それに対してQUEENの変異体H148Kでは励起スペクトルがあまり変化していません。 　実際にHeLa細胞の細胞質にQUEENと変異体を発現させたイメージングがこちらです。数値化したのが右のグラフで、QUEENは蛍光強度が80%まで減少するのに対してH148Kでは20%減少に留まり、光安定性が向上したことがわかります。 　QUEENの問題点が改善されたので、実際にHeLa細胞の細胞表面にQUEENの変異体を発現させたのがこちらの画像です。ATPの添加によってシグナル上昇が見られたことから、細胞外のATPを確かに検出できることが示されたと考えています。 　最後に蛍光ダイナミックレンジの改善も行っています。変異体QUEENはダイナミックレンジが93%と低いことが、細胞外ATPのイメージングを行うにあたって新たな問題となりました。そこで、cpEGFPとイプシロンをつなぐリンカー部位のアミノ酸を変化させるとダイナミックレンジが変わることがわかったため、ランダムに変異を入れていきました。その結果、ある変異を入れるとダイナミックレンジが316%まで向上することがわかりました。今後はこの変異体を用いて細胞外ATPのイメージングに向けて取り組んでいきたいと思っています。

1.
Development of fluorescent ATP
biosensors for quantitative imaging of
extracellular ATP
Sui Nishiyama, Ryuta Iwakiri, Akira Kakizuka, Hiromi Imamura!
(Graduate School of Biostudies, Kyoto University, Japan)!

2. Importance of extracellular ATP signaling
Dynamic behavior of extracellular ATP is not understood well.
cytoplasm
P2X receptor P2Y receptor
signal transduction
extracellular!
space
ATP
・exocytosis!
・channel!
etc…
ATP ADP AMP Adenosine
development, immunity, neurotransmission, etc…

3. “QUEEN” for ATP measurement

4. Known problems with “QUEEN” to measure extracellular ATP
・Slow binding rate to ATP!
・Low photostability
ATP level in single bacterial cellsExcitation spectra

5. Improvement of binding rate
Flexible loop far away "
from ATP binding site
Structure of ε subunit
By limit flexibility with disulfide bond,!
we tried to increase binding rate.
NTDCTD

6. Improvement of binding rate
QUEEN-7μ QUEEN-7μ S-S
(stopped-flow spectrometer)

7. Improvement of photostability!
Low photostability is caused by changing hydrogen
bond network around GFP chromophore.
His148
chromophore

8. QUEEN-7μ QUEEN-7μ(H148K)
Improvement of photo stability under fluorescent
spectrometer!

9. Photostability of QUEENs under microscope
QUEEN-7μ QUEEN-7μ-H148K Time (sec)
QUEEN-7μ
QUEEN-7μ-H148K
(excitation: 405nm)
Fuluorescentintensity(%)

10. Imaging of extracellular ATP
ーATP ＋ATP

11. Improvement of fluorescence dynamic range
Changing amino acid sequence!
of two linker regions, dynamic range improved.
cpEGFP
εN εc
QUEEN-7μ(H148K) S-S & new mutationsQUEEN-7u(H148K) S-S
Wavelength (nm)
Fluorescentintensity
Dynamic range = 93%!
Kd = 2.7μM
Fluorescentintensity
Wavelength (nm)
Dynamic range = 316%!
Kd = 5.6μM
mutations