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日本企業における女性のリーダーシップ
日本企業における女性のリーダーシップ
−歴史・現状・性差の問題を中心に−
経済学部経済学科
12AK609 古巣友香
指導教授:三井泉
日本企業における女性のリーダーシップ
目次
Ⅰ. はじめに―研究動機と目的―
Ⅱ. リーダーシップの男性性と女性性について、先行研究から考察
Ⅱ-1. 坂田桐子の研究
Ⅱ-2. 本間道子の研究
Ⅱ-3. 2 つの先行研究から
Ⅲ. 女性の労働と社会進出の歴史的研究
Ⅲ-1. 女性の労働の歴史
Ⅲ-2. 女性の社会的地位の変遷、家族制度の観点から
Ⅳ. 女性の労働と管理職登用の現状分析
Ⅴ. 女性管理職登用に動く国内企業の様々な取り組み・ケーススタディ
Ⅴ-1. 株式会社資生堂
Ⅴ-2. 株式会社リクルートホールディングス
Ⅴ-3. ケーススタディからわかったこと
Ⅵ. おわりに―結論と提案―
Ⅶ. 参考文献
日本企業における女性のリーダーシップ
Ⅰ. はじめに―研究動機と目的―
	
  私は普通の公立小学校・中学校・高校で教育を受けてきた。その後、1年間の浪人期間
を経て日本大学経済学部に進学し、今に至っている。中学生の頃の自分は、経済学部に進
学することなど考えていなかった。なぜならその頃の私は、将来は文学や哲学、または社
会学系の学部に入り、教員免許をとって教師をしたり、大好きな美術や図書に関する仕事
をしたりしたいと考えていたからである。それが浪人期間中に経済学部に進学をしようと
決めたのは、就職のしやすさを第一に考えたためである。
	
  現在、日本の女性労働は転換期を迎えている。第二次安倍晋三内閣で掲げられた政策―
通称”アベノミクス”において、基本方針三つが”三本の矢”として打ち出されたことが要因
の一つであろう1。三本の矢の三つ目である「民間投資を喚起する成長戦略」の中に、「女
性が輝く日本」があげられている。これは、国・地方公共団体や従業員が 300 人を超える
民間事業主に対して、女性管理職の割合などの数値目標を設定し、女性の活躍に向けた取
組を盛り込んだ行動計画を公表するよう義務づけるなど、女性の活躍推進に向けた取組を
強化するといったもののほか、女性の活躍を推進できるような政策をまとめたものになっ
ている。この政策によって管理職に占める女性比率が 6.9%2から、8.3%3へと微増した。
	
  社会的に女性の働きへの期待が高まるにつれ、私自身の中でも、大学生活を送るうちに
ある変化が生じた。それは、「自分が働くこと」への意識である。大学で家族社会学や社
会保障論を受講して女性のキャリアについて考えるようになったことも一つであるが、何
より、三井ゼミナールに入ったことである。将来は、それなりの企業へ就職をし、それな
りの年齢で結婚をして、その後は子育てをして生きていくのだろうと漠然と考えていた
が、その意識は三井ゼミで大きく変わったのである。今まで全く触れてこなかった、興味
さえなかった経営学に触れ、社会で活躍する女性に出会い、同じ目的を持って同じ学問を
学ぶゼミ生という仲間ができたことは、大学に入って一番良かったと思えることである。
また、リーダーシップ論を学び、事業立案をしていくうちに、いつのまにか日常生活で
も、「こういう事業があったらいいな」、「自分でもできるのではないか」とメモをする
ようになっていった。そして「自分がリーダーになること」への意識すら芽生え始めたの
である。
1
	
 アベノミクスとは、第二次安倍内閣によって掲げられた一連の経済政策に対しての
通称である。	
 
2
	
 首相官邸	
  http://www.kantei.go.jp/(2016 年 1 月 13 日)	
 
3
	
 首相官邸	
  http://www.kantei.go.jp/(2016 年 1 月 13 日)
日本企業における女性のリーダーシップ
	
  私の母は昔から銀行でパート勤めをしており、妹は短期大学を今年卒業し、建設会社の
社員として働いている。小学校や中学校の同級生の中には、高校を卒業してすぐ働いてい
る人もいるし、また高校の同級生たちは今年新卒社員として社会人生活がスタートした。
それは、男子だけではなく女子も同様である。しかしながら身の回りで働く女性の話を聞
くと、結婚をしたら直ちに退社という規則のある会社や、女性は勤務から三年経ったら契
約社員になるといった規則のある会社に勤めている人もいる。この現実は「女性の輝く社
会」とは全く逆である。アベノミクスが打ち出されたあとの 2013 年に発表された、女性
の社会進出度の活躍に関する調査では、日本の順位は 136 ヶ国中 105 位と、先進国グルー
プでは最下位になっている4。まだまだ女性が働く環境が整っているとはいえない日本であ
るが、2020 年までに女性管理職の割合を 30%にするという政府の目標もあることから、
女性のリーダーシップが求められていることは事実である。
	
  本稿では、女性の社会進出とリーダー雇用の歴史的経緯と現状把握を行った上で、リー
ダーシップにおける男性性・女性性という側面から、これからの時代に求められる「女性
のリーダーシップ」を提案することを目的としたい。なお、本稿で扱う「リーダー」とは
経営者のことではなく「企業における管理職レベルのリーダー」であることを明記してお
く。
Ⅱ. リーダーシップの男性性と女性性についての考察、先行研究か
ら
	
 
	
  「リーダーシップとは何か」この問題については今日でも様々な研究がなされており、
認識も多種多様であるが、P.F.ドラッカーの定義によれば、「リーダーシップとは、人の
視線を高め、成果の基準をあげ、通常の制約を超えさせるもの」5である。また、彼は、リ
ーダーとは性質ではなく、地位や特権ではなく、思い責任を伴う「仕事」なのだとも言
う。その仕事とは、①目標を設定する、②組織をつくり仕事を割り当てる、③動機付け
を行い、コミュニケーションを図る、④仕事の評価測定を行う、⑤人材を育成するの 5
つであるとし、またリーダーシップが発揮されるのは人格においてであり、評価すべきは
4
	
 WORLD	
 ECONOMIC	
 FORUM「The	
 Global	
 Gender	
 Gap	
 Report	
 2013」
http://reports.weforum.org/global-gender-gap-report-2013/	
 (2016 年 1 月 14 日)	
 
5
	
 Peter	
  Ferdinand	
  Drucker『THE	
 PRACTICE	
 OF	
 MANAGEMENT』(1954、
HarperBusiness)、上田惇生訳『現代の経営	
  上』(2006 年、ダイヤモンド社)	
  p.222
日本企業における女性のリーダーシップ
人格の「真摯さ」だとも論じている6。最も、以上にあげたようなドラッカー理論における
「リーダー」とはトップ・経営者のことであるが、トップでない、一般に「リーダー」と
呼ばれる人々にも共通して言えることであると考える。特に「人格の真摯さ(integrity)」
は、リーダーにとって強く必要な要素である。ドラッカー理論においては、リーダーの仕
事ぶりや人格の真摯さなど、リーダーシップにおける性差への言及は見当たらない。はた
して、リーダーシップに性差は存在するのであろうか。または存在しないのだろうか。リ
ーダーシップの性差に関するいくつかの先行研究を見た結果から、本論では代表的な研究
である坂田桐子(1996)7と本間道子(2010)8について取り上げたい。坂田の研究ではリーダ
ーシップ過程における性差を、社会心理学の側面から科学的に分析している。他方、本間
の研究では坂田のものを含めたいくつかの研究から、日本においてなぜ女性管理職が少な
いのかという疑問を探求している。本章では 2 つの先行研究を整理したのちに、私自身の
見解を示したい。
Ⅱ-1. 坂田桐子の研究	
 
	
  坂田の研究(1996)では、リーダーシップ過程において、性差を説明する重要な影響要因
を特定し、今後解明されるべき点をあげている。
	
  リーダーシップ過程における性差の有無とその発生を左右する諸要因は、1970 年から
1980 年代にかけて当時のアメリカ合衆国の時代背景を反映して9、大量に蓄積されてお
り、初期には男性リーダーと女性リーダーのリーダーシップ・スタイルおよびリーダーシ
ップ有効性(leadership effectiveness)に関する研究も行われている。しかしながら多数の
研究が行われてきたにも関わらず、依然として探求すべき点が多く残されていると坂田は
指摘する。また問題点としては、本領域における研究は西洋文化圏において見出されたも
のであり、独特の雇用・組織システムや慣行、風習を持つ日本においてどの程度適用でき
るのかをあげている。
6
	
 Peter	
  Ferdinand	
  Drucker『THE	
 PRACTICE	
 OF	
 MANAGEMENT』(1954、
HarperBusiness)、上田惇生訳『現代の経営	
  上』(2006 年、ダイヤモンド社)	
  p.220	
 
7
	
 坂田桐子「リーダーシップ過程の性差に関する研究の現状」『実験社会心理学研
究	
 :	
 The	
 Japanese	
 Journal	
 of	
 Experimental	
 Social	
 Psychology』(日本グループ・
ダイナミックス学会)	
  36 巻、1 号、1996 年	
 
8
	
 本間道子「我が国におけるリーダーシップの現状と社会心理学的背景」『現代女性
とキャリア』(日本女子大学現代女性キャリア研究所)2 号、2010 年	
 
9
	
 1970 年代頃から、アメリカではバックラッシュと呼ばれる現象が起きた。
日本企業における女性のリーダーシップ
	
  従来の性ステレオタイプに関する研究知見を総合すると、男性に対する役割期待は作動
性(agency)、女性に対する役割期待は共同性(communion)である。Eagly&Karau(1991)の
メタ分析では、こういった性的役割期待の2つの次元を反映して、男性は課題志向的、女
性は社会志向的行動に従事する傾向があると考え、かつ課題志向集団のリーダーシップは
基本的に課題貢献によって達成されるため、総合的に見れば男性の方が女性よりリーダー
として出現することが多いと予測した。(坂田;1996 p. 115)
	
  リーダーシップの性差の検討のために頻繁にとりあげられるリーダーシップ・スタイル
次元としては、①課題志向的−対人志向的次元と、②民主的(参加的)−専制的次元に分け
られると坂田は述べている。(坂田;1996 p.118)とりわけ①の課題志向的−対人志向的次元
については性ステレオタイプ的な見地から性差の有無が検討されてきた。しかしながら、
この 2 次元のリーダーシップに関するリーダーシップ・スタイルの見地によれば、組織で
リーダーの役割に就いている人々の間では、①の課題志向的−対人志向的次元の性差はほ
とんど認められなかったのに対し、むしろ②の民主的−専制的次元においては一貫した性
差が認められたという。(坂田;1996 p. 118)
	
  以上のことから、①女性の民主的スタイルは女性のソーシャル・スキル(例えば他者の
もつ感情への理解などでの点)を反映していること、②女性のリーダーシップ・スタイル
に対する根強い偏見のために、女性が専制的なリーダーシップ・スタイルをとることがき
わめて不利であるため、民主的なスタイルをとらざるをえない(リーダーが男性的リーダー
シップ・スタイルをとる際に、女性の方がネガティブに評価されるが、女性的リーダーシ
ップ・スタイルの際には性差は認められない)としている。(坂田;1996 p. 118)
	
  坂田の仮説によると、図 1 のように、リーダーシップ過程は役割の獲得、行動スタイ
ル、および有効性の 3 側面から捉えることができ、これらは相互に規定しあっているとい
う。(坂田;1996 p. 124)
日本企業における女性のリーダーシップ
表 1
参考)坂田桐子「リーダーシップ過程の性差に関する研究の現状」p. 124、筆者作成
	
  こういったリーダーシップ過程全体に影響するのは①性別適合性次元と、②地位の可
視性次元である。性別適合性次元とは男女の役割遂行能力と興味の程度、および役割が性
ステレオタイピング的なところから、それぞれ男性的な能力(作動性・人を統制する能
力)、女性的な能力(共同性・他者と共同する能力)を必要とする程度として定義されてい
る。つまり社会で共通認識されている性役割観によって左右されるために、時代や文化に
よってある程度変動すると考えられている。しかしながら地位の可視性次元、つまり女性
は形式的には最高位のポジションに就かない傾向があり、このことに関しては性役割観の
社会的な変化は受けにくく、恒常的なものであるとしている。これら2つの特性を媒介す
るものとして組織風土があり、その規範的な機能の強さと性別に関連した事柄の方向性と
いう2面に対して媒介機能を持つという。そのあとで坂田の研究では導き出した仮説が論
じられている。(坂田;1996 p. 124)
	
  ここまでで非常に興味深い点は、組織風土が密接的に関係しているという点であると私
は考える。組織風土は、組織の成員に共有されている社会的態度や規範の体系であり、行
為基準、価値観、信念、慣行、態度、雰囲気などを意味する。組織風土は非常に曖昧で定
義付けがしづらいものである。それゆえに組織風土が組織のどういった部分に、どのくら
いの程度影響があるかどうかは判断のつかないところでもある。しかしながらこのように
漠然とした概念でありながらも、組織風土は組織構成員の行動規範に十分なりうるのであ
日本企業における女性のリーダーシップ
る。坂田の研究の中では日本型雇用における福利厚生の考え方は、組織構成員の興味や関
心における同質性を高め、組織風土を強固にする効果を持つという。
Ⅱ-2 . 本間道子の研究
	
  本間の研究(2010)では、女性が管理職に就くことがなぜ困難かについて、管理職の役
割・資質・技術をリーダーシップの役割・資質・技術とみなし、リーダーシップの社会心
理学的側面から検討している。第一に、リーダーシップとしての能力・知識・資質・経験
不足である。第二に勤務年数の少なさ、第三は、女性自身が管理職になることを希望しな
い、望まないというリーダーシップ動機の低さ、あるいはキャリア意識の低さであるとし
ている。つまりこれらは女性自身側にその原因があり、女性自身が今の女性管理職の少な
さの原因をつくっているということである。本間は能力・スキルの問題において、男女を
比較した際に管理職への昇進の機会の公平さへの疑問、勤続年数の短さが女性の管理職に
直接関係していないことをそれぞれ唱えている。さらに、日本で取り上げられる女性管理
職の理由の背景を検討した研究は限定的であると指摘している。(本間; 2010 p. 43)
	
  本間の研究ではこういった女性の管理職の少なさをジェンダーギャップとし、ジェンダ
ーの視点から、「リーダーシップ役割の差異がどこから生じているか」の原因を明らかに
している。その原因とは、女性のリーダーシップ志向性が低いところであり、そしてそれ
はキャリア意識と関連していると結論づけている。坂田や Eagly らの性差に関する研究や
統計的なデータを用いつつ、めまぐるしく変わっていく日本の社会構造における、女性の
労働や管理職登用の考察を行っているところに、本間の研究の意義があると私は考える。
	
  本間はリーダーシップにおける一定の性差は認めたうえで、女性の管理職の少ない要因
としてリーダーシップ志向性の低さがあり、またリーダーシップの志向性は個々のキャリ
ア意識と強く関連していると論じている。(本間;2010 p. 61)
	
  個々のキャリア意識とは、決して生まれながらにしてあるものではなく、成長過程にお
けるなんらかの要因から生じるものである。日本においても大学や教育施設での女性リー
ダー育成プログラムは始まっているところはあり、今後のキャリア教育はより広がってい
くだろうと私は考える。
Ⅱ-3 . 2 つの先行研究から
	
  リーダーシップにおける男性性と女性性は存在するのかという疑問に対して、坂田の先
行研究でその存在を認識・確証を得たのちに、実際の現代日本における女性管理職登用が
少ない点を指摘しつつ、坂田のものを含めた様々な研究からジェンダーという視点でその
理由を導いた本間の研究を見てきた。
日本企業における女性のリーダーシップ
	
  坂田の研究内において、リーダーシップ・スタイルの民主的−専制的次元において、女
性のリーダーシップ能力に対する強い偏見のために、女性が専制的・権威主義的なスタイ
ルをとることがきわめて不利であるため、民主的スタイルをとらざるを得ないのではない
か、と論じられていた。(坂田;1996 p. 118)このことは日本において女性管理職の増加を妨
げている一因ではないかと考える。なぜなら、男性が発揮するリーダーシップに対して
は、男性的リーダーシップと女性的リーダーシップどちらであっても評価されるのに対
し、女性が男性的リーダーシップをとる際にはネガティブに受け取られてしまうためであ
る。この際、リーダー職に就く女性は、周囲から期待されているような女性的リーダーシ
ップを発揮しなければならないという制限をかけられてしまうことがありうる。また、
Eagly の研究では、リーダーおよびフォロワーの中で男性の方が多いほど男性リーダーの
方が女性リーダーより有効であったという知見が得られているという。(坂田;1996 p. 120)
	
  しかしながら本間の研究では、社会変動性の高い現代社会の組織体では、感受性やコミ
ュニケーション・スキルが求められており、女性的リーダーシップは適合性があると述べ
ている。(本間;2010 p.57)それではなぜ女性リーダーの割合が低く、評価も不安定なのかと
いう問題について、本間は以下のように考察している。第一に、女性自身にリーダーシッ
プ職務への躊躇があるために、よほどの確信がなければ上位リーダーへの昇進を受け入れ
ないことである。第二に一般的な組織のリーダーシップ・スタイルにおいては、未だ作動
性の方が共同性より重要な役割との認識が強いという点である。(本間;2010 p. 57)
	
  リーダーシップにおいて、ある一定の性差があることは証明されているものである。し
かしながら実際のリーダーシップをとる際にはキャリア意識が強く関連づいていることか
ら、単に性差を比較するだけでは十分ではないことがわかった。また、これまでに多様な
リーダーシップの理論が生まれてきたのは、リーダーシップの概念、構造、効果が時代の
特性、社会の状況と密接に絡まり、その時代、その状況がなにを求めているかでリーダー
シップ論も変容するためであると本間は論じている。(本間;2010 p. 58)以上のことから、
日本企業における女性のリーダーシップを論じるためには、日本社会における労働慣行
や、女性の労働・社会的地位の歴史的背景を探ることが必要であると考える。そこで、次
の章では、日本における女性の労働と社会進出の歴史的変遷をみていく。
日本企業における女性のリーダーシップ
Ⅲ. 女性の労働と社会進出の歴史的変遷
Ⅲ-1. 女性の労働の歴史
	
  近代日本においては、19 世紀末から紡績業・製糸業などの工業化が進み、繊維産業が経
済を支えることとなった。繊維産業の労働者は、男子がほぼ 1 割から2割ほどであり、大
多数を占めるのは女工と呼ばれる若年の女性労働者であった。旧来の座繰方式において
は、女工は近隣地域の者であり、寄宿する例は少なかったものの、徐々に器械製糸に移行
し生産が急速に増大していくと、地元の女性のみでは人材確保が難しくなっていった。そ
こで雇われ始めた女性のほとんどは、地方や農家出身の貧しい女性たちであり、本人の意
思とは関係のない、ほぼ身売りに近いようなケースも多く見られたという。富岡製糸場
や、三重、名古屋、岡山に設立された初期の紡績工場においては、労働者の調達難のため
に、労働者の主力を男女ともに士族に求めたものの、この労働力調達モデルは継続しなか
った。その労働環境といえば、24 時間稼働している工場での労働時間は 2 交代制の 12 時
間労働、最盛期には 24 時間働かされることもあった。賃金はといえば、日給は男工の平
均 30 銭に対して女工は平均 20 銭ほどであり月給は 6 円(現在の価格にすると約 2 万円程
度)であり、当時イギリスの植民地であったインドよりも安かったと言われている。
	
  戦間期に入ると、第一次世界大戦中の設備投資や世界経済の好調さも相まって、工場以
外でも女性の進出は進んでいった。それを象徴するのが、大正末期頃から言われ始めた
「職業婦人」という言葉であると私は考える。また、帝大を卒業する女性も出現し、1901
年(明治 34 年)には日本女子大学が創設されている。大正時代に女性がどのような職業に就
いていたかといえば、医師、看護師、薬剤師、産婆、教師、音楽家、新聞記者、写真誌、
タイピスト、手芸、洋裁・ミシンなどが挙げられる。大正中期に入るとこれらに加えて、
事務員、外交員、美容師、婦人雑誌創刊に伴う雑誌記者 、放送員 、バスガール、デパー
ト店員、女給などが新たに加わり、映画女優という仕事や女性アナウンサーも登場した。
「○○ガール」と呼ばれる職業が広まるとともに、女性の社会進出を背景に、「モダンボー
イ・モダンガール文化」10が花開くこととなった。しかし、1929 年に世界恐慌が起こると
一気に不景気となり、華やかな気風は失われることとなった。その後第二次世界大戦に入
り、男子が徴兵されるようになると、労働力不足から女学生も工場に動員されたのであっ
た。
10
	
 モダンボーイ・モダンガール文化とは、大正時代末期から昭和時代初期頃にかけ
て、西洋の文化に強く影響を受けた文化である。モダンボーイ・モダンガールとは、
特徴的な外見をした当時の先端的な若者を指している。
日本企業における女性のリーダーシップ
	
  戦後しばらくは、国内だけでなく海外諸国においても社会と経済の混乱が続き、食糧難
や様々な生活難によって人々は苦しめられたものの、戦後改革によって女性の社会進出の
基盤は徐々に整えられることとなった。1950 年に朝鮮戦争が起きると、戦争特需によっ
て急激に経済成長が起こり、輸出は拡大、日本の経済は復興への道へと進んでいったので
ある。そういった中で労働力需要は急大し、繊維産業における技能工や生産工のほか、各
産業分野において事務・販売などの職業に従事する女性が増えていった。また、戦後新し
く出来た職業や、今まで女性には開放されていなかった分野においても、進出は進んでい
った。
	
  日本が急速な経済成長をしていく中で、女性の働き方は大きな変化を遂げていった。日
本の経済的発展と国民の個人的な生活レベルの向上のために、外で働く夫を支える妻に
は、家庭を守る「主婦」の役割が求められ、これが望ましいものとされたのである。女性
たちは中学校や高校、大学を卒業すると、結婚までの期間に一時的に働くことが一般的と
なった。結婚後も継続して、長く働き続けるようなことは稀なことであり、結婚や出産を
機に、退職をして子育てをする女性が増加した11。そして家庭に入った女性たちは、退職
後、子育てがひと段落したのちにパートタイム労働者として職場に復帰していくこととな
った。
	
  その後、大きな転換期となったのは、1985 年の男女雇用機会均等法制定とその後の改
正である。女性就業者の変化に伴い、当時の世界情勢が相まって、職場における男女平等
を求める声が大きくなっていった。正式名称は「雇用の分野における男女の均等な機会及
び待遇の確保等に関する法律」であり、募集・採用時における男女の均等な取り扱い、配
置・昇進・教育訓練、福利厚生、定年・退職・解雇などについて、女性労働者であること
を理由に男性労働者と差別的に取り扱うことを禁止したものである。2007 年の改正で
は、男女双方への性差別の禁止、権限の付与や業務の配分、降格、雇用形態・職種の変
更、退職勧奨、雇い止めなどについての性差別や間接差別の禁止、妊娠・出産・産前産後
休業の取得を理由とした不利益取り扱いの禁止、「ポジティブ・アクション(男女間の格差
解消のための積極的取り組み)」を、企業が開示するにあたり国が支援すること、セクシュ
アル・ハラスメントの対象に男性も加え、予防、解決のため具体的措置をとるよう事業主
への義務づけ、調停の対象にセクシャル・ハラスメントも加わる、といった内容も含まれ
11
	
 女性の就業率は、高度経済成長期前の 1950 年には 60%を超えていたのに対し、1960
年には 50.6%、1970 年には 46.1%に低下している。
日本企業における女性のリーダーシップ
ている。均等法施行によって、未だ問題・課題は残るものの、女性就業者は増加していっ
たのである12。
	
  ポジティブ・アクションに関しては、一般的な合意に至っていないという批判も多く見
られる。「格差解消」という名目で女性のみを優遇し、男性からみると”逆差別”に思える
ということである。たとえば 1 名を新しく管理職登用したいという組織があった際に、同
程度の能力である男女 2 人が候補だったとして、女性比率を上げたいという理由で女性の
方が登用されるといったことである。このことは登用された女性にも良い影響があるとは
いえないため、その程度に関しては議論が必要であるだろう。
Ⅲ-2 . 女性の社会的地位の変遷、家族制度の側面から
	
  本節では、日本における女性の社会的地位の変遷として、家父長制の存在について触れ
たい。江戸時代までの家、特に農家においては、内部での男女の区別はさほどなく、「子
育て」の概念もほとんどなかった。その概念が生まれてくるのは近代以降である。家事も
男女で手分けをしており、家庭内の性別による分業もなかったが、一方で、地域の集まり
といった公の場には男性が出て行くものとされ、男性に権威があった。
	
  明治時代につくられた民法上の家制度では、人はすべて家に属し、家の統率者である戸
主に従わなくてはならなかった。また、戸主は戸主権を持ち、家族の居所を指定する権
利、家族に対して婚姻、養子縁組、分家などの身分行為を許諾する権利、祖先祭祀の権利
を保障されていた。戸主権は、家督相続によって戸主の財産とともに長男に承継された(長
男単独相続)。さらに、夫権を認めて妻を「無能力者」とし、法定財産関係において夫の優
位を認め、子に対しては父権優位の親権制、家督相続においては男子を優先するなど男子
優位の原則を確定していた。家父長制とは、家父長権をもつ男子が家族員を統制・支配す
る家族形態であり、またそういった家父長制家族では、一般的に「長男が家産と家族員に
対する統率権は絶対的な権威として表れ、家族員は人格的に恭順・服従する」とされてお
り、「幼にしては父兄に従い、嫁しては夫に従い、老いては子に従う」という”三従”は象
徴的なものである。このような家父長的制度の下にあっては、子供が生まれたとしても、
生まれた順番や性別によって生まれた時から地位は決まっていたのである。
	
  戦後の新しい民法では、家父長的家制度は廃止されたものの、人々の深層心理へのはた
らきはいまだに強く、復活運動さえもみられた。
	
  現在の日本の「家」では、夫が仕事をし、妻は専業主婦かパートタイマー、子供達は学
校へ行く、という形式が一般的である。住まいから離れたところにある職場に通勤をする
12
2015 年 7 月時点の女性就業率は 71.8%。
日本企業における女性のリーダーシップ
ため、江戸時代までの農家や商家のような「家全体での生業」はほぼ廃れている。日本全
体、特に都市部においては少子高齢化が顕著であり、一家に長男がいないことはもはや珍
しくないため、土地や墓といった継ぐべきものが、娘に継承されることは一般化した。し
かしながら、家父長的家制度が完全に崩れ去ったかといえばそうではなく、いまだ長男に
かかる責任と負担はほかの兄弟に比べると大きいとされており、また妻よりも夫が家庭の
代表となる場面は少なくない。
	
  ここまで女性の労働と社会的地位の変遷をみてきたが、次の章では現代の日本企業にお
いて、女性の労働と管理職登用の分析を行っていく。
Ⅳ. 女性の労働・管理職登用の現状分析
	
  日本の人口は近年横ばいであり、現在人口減少局面を迎えていることは周知の事実であ
る。具体的な数字としては、2010 年時点で 1 億 2806 万人であるが、2060 年には総人口
が 9000 万人を割り込み、高齢化率は 40%近い水準になると推計されている13。また、生
産年齢人口も減少し、同 2010 年時点ではその割合は 63.8%、2060 年には 50.9%になると
見込まれている。
	
  以下のグラフは管理職における女性比率の国際比較である。安倍政権は 2020 年までに
女性管理職登用の目標を 2020 年までに 30%と掲げているが、2012 年のデータでは 11.1%
と依然低いままである。
13
	
 厚生労働省各種統計調査	
  http://www.mhlw.go.jp/toukei_hakusho/toukei/(2016
年 1 月 6 日)
日本企業における女性のリーダーシップ
表 1
参考:日本総務省統計局「労働力調査」http://www.stat.go.jp/(2016 年 1 月 12 日)
	
 
また、現在の女性管理職登用においては、数自体は増加しているものの、その実情をみ
ると、課長職クラスの中堅管理職の数が多く、部長職以上の重要なポストではあまり増加
をしていないというデータもあり14、単に数をみるだけでは不十分である。加えて、女性
登用は業種によって大きく異なり、サービス業においての登用が最も高く、次に情報・通
信、商業分野と続く。表 2 は「女性が活躍する会社 100 選」内の上位 10 社である。サー
ビス業を主な業種としている企業が目立つことがわかる。
	
  そのような状況の下で、政府は、生産者人口の減少に伴い、少子高齢化対策をとるとと
もに、ダイバーシティマネジメントの推進を行っている。ダイバーシティマネジメントと
は、多様な人材の能力を最大限発揮させることで、企業のパフォーマンスにつなげる経営
であり、競争優位性を確立するためにも、グローバル化が進む日本の企業にとって不可欠
な経営戦略である。ここでの多様性とは、人種や性別に限らず、年齢や個性、価値観、健
康状態、さらには働き方の違いなど、あらゆる「多様性」を認め、積極的に受け入れてい
くことで、優秀な人材を幅広い分野・視点から取り入れ、成長につなげようという考え方
14
	
 厚生労働省各種統計調査	
  http://www.mhlw.go.jp/toukei_hakusho/toukei/(2016
年 1 月 6 日)	
 
0
12.5
25
37.5
50
アメリカ フランス イギリス ドイツ イタリア 日本 韓国
女性管理職の比率
日本企業における女性のリーダーシップ
である。本来、同質性や協調性が重んじられてきた日本企業においては苦手とされている
ものの、注目度は非常に高い。その背景のひとつとしては、消費の変化があげられる。市
場が成熟化したことや、インターネットの普及によって購買行動が大きく変わっているこ
とのほか、働く女性が増えたことによって女性顧客は増加した。また、最終的な購買行動
の決定が女性になることも多い。さらに、インターネットの普及によって、購入先やサー
ビスの選択肢が増え、国内のみでなく、海外の人々とも個人レベルで取引をすることが可
能になったのである。ダイバーシティマネジメントは、第二次安倍内閣で掲げられている
女性の活躍の推進と共に重要視されており、これからも進んでいくことが予想される。
	
  また、ここでは M 字カーブの存在にも触れておきたい。M 字カーブとは、日本人女性
の年齢階級別の労働力率(15 歳以上の人口に占める求職中の人も含めた働く人の割合)を
グラフで表したときに描かれる M 字型の曲線をいう。出産・育児期にあたる 30 歳代で就
業率が減少し、子育てが一段落した後に再就職する人が多いことを反映している。今後、
少子高齢化が進むにあたり、労働力人口が減少していく中で、就業者数・就業率を上げる
ことは、健全な社会を実現するためには必要不可欠である。平成 22 年度に閣議決定され
た新成長戦略においては、25 歳から 44 歳までの女性の就業率を 2020 年度までに 73%と
する目標が掲げられるなど、女性の就業率向上、特に M 字カーブの解消は大きな課題点と
なっている。
表 2
順位 企業名 総合点
1 資生堂 80.7
2 セブン&アイ・ホールディング
ス
80.2
3 ANA 80
4 ジェイティビー 78.6
5 第一生命保険 77.6
6 日本アイ・ビー・エム 75.9
7 高島屋 75.2
8 リクルートホールディングス 75.1
日本企業における女性のリーダーシップ
順位 企業名 総合点
9 パソナグループ 75.1
10 住友生命保険 74.5
参考:「2015 年	
  女性が活躍する会社 BEST100」
http://wol.nikkeibp.co.jp/article/trend/20150430/205063/(2015 年 11 月 16 日)
Ⅴ. 女性管理職登用に関する国内企業の取り組み−ケーススタディ–
	
 
これまで、女性の労働に関する歴史的背景と、管理職登用における日本の現状分析を論
じてきた。前述の通り、政府は 2020 年までに女性管理職を 30%の水準まで引き上げるこ
とを目標としており、各企業にも有価証券取引書に役員女性比率の記載を義務づけている
15。こういった中で、実際の国内企業は女性管理職の登用推進においてどのような施策を
行っているのだろうか。本章では実際の企業例を用いて、国内企業の取り組みを見てい
く。
Ⅴ-1. 株式会社資生堂のケース
表 3
順位 企業名 売上高(億円)
1 資生堂 7,620
2 花王 5,703
3 コーセー 1,900
4 ポーラ・オルビスホールディングス 1,783
出所)業界動向サーチ	
  http://gyokai-search.com/4-kesyo-uriage.htm(2015 年 11 月 27 日)
	
 
15
	
 厚生労働省各種統計調査	
  http://www.mhlw.go.jp/toukei_hakusho/toukei/(2016
年 1 月 6 日)
日本企業における女性のリーダーシップ
	
  資生堂は国内売上高 1 位の化粧品製造・販売会社である。
	
  資生堂の人事関連データの中から従業員数を見てみると、国内従業員数の約 83.4%が女
性であり、他企業と比較すると非常に多い。これはビューティー・カウンセラー(以下、
BC)の存在が要因の一つであると考える。ビューティー・カウンセラーとはいわゆる美容
部員のことであり、百貨店やデパートのコスメカウンターに常駐し、製品の案内や実際に
メイクアップ・タッチアップなどを行う、販売職の従業員のことである。資生堂の BC に
よるカウンセリングやメイク指導には定評があり、これこそが資生堂の強み、ブランド価
値そのものだという声も根強い。資生堂では、BC の採用を 2005 年 4 月を最後に契約社
員に切り替えていたが、2016 年 4 月入社の新卒約 500 人を正社員採用すると発表してい
る。現在は約 1 万人の BC のうち、2 千人が契約社員であるが、試験を実施して合格者か
ら正社員に登用することも発表されている。
	
  次に資生堂の男女管理職数と比率をみていく16。2015 年 4 月時点では、全体では女性管
理職比率 50.2%と非常に高く見えるが、日本国内に注目すると 27.2%と半分近く低くな
る。驚くべきことに、従業員数で見れば約 8 割を超えているのに対し、そのリーダー比率
では 3 割以下になるのである。資生堂は「早期に女性リーダー比率 30%を達成する」と目
標を掲げており、2007 年 4 月には 16.2%、アベノミクス発表直後の 2013 年 4 月には
25.6%まで増加し、その推移自体は順調なようである。
	
  入社後の女性社員定着率17も目を見張るものがある。大卒女性では、入社後の3年以内
の離職率は 1%以下である。また、資生堂単体での平均勤続年数は男性が 18.4%なのに対
し、女性は 17.5%とほぼ同等である。
	
  以上がデータからみえる女性管理職の数と比率であるが、次に実際の取り組みについて
みていく。資生堂は「女性が活躍する会社ベスト 100」の総合 1 位に 2 年連続で選出され
ており、女性リーダーの任用と人材育成の強化に非常に積極的な企業であるといえる s。
同社の活躍支援策としては、(1)女性活躍に向けた意識と行動変革を求める「企業風土の醸
成」、(2)能力ある社員の登用を前提とした「女性リーダー任用と人材育成強化」、(3)長時
間労働の是正、(4)社員のワーク・ライフ・バランス実現の観点から、全社的な取り組みと
して「生産性向上に向けた働き方の見直し」を特に推進してきた。とりわけ、資生堂では
風土醸成の取り組みの一環として、「キャリアサポートフォーラム」などのフォーラムを
16
	
 株式会社資生堂人事関連データ	
 
http://www.shiseidogroup.jp/csr/performance/personnel/(2015 年 12 月 31 日)	
 
17
株式会社資生堂人事関連データ	
 
http://www.shiseidogroup.jp/csr/performance/personnel/(2015 年 12 月 31 日)
日本企業における女性のリーダーシップ
継続開催しており、同フォーラムでは「効率的な働き方への変革」や「女性社員の主体的
なキャリア構築」をテーマとし、女性社員やリーダーなどの参加者から大きな反響があっ
たようである18。
	
  また、資生堂では働く女性支援の一環として、1991 年から「育児時間制度」を取り入
れていた。この制度の内容は、子供が小学校に入学するまでに、1日に最大で 2 時間まで
勤務を短縮できる独自のものである。資生堂の「働きやすさ」を促す本制度は成果を出し
たものの、店頭の現場ではひずみも生じた。子育て中の女性を優遇するような制度に、不
公平さを訴える声や、遅番や土日出勤に対しての不平等さを疑問視する反発があったので
ある。そこで資生堂は、半年以上前から入念に準備を進めた上で、働き方を改革する取り
組みを始めた。美容部員からの反応は様々であったが、結果として、退職した時短勤務取
得中の従業員は約 1200 人のうち 30 人ほどにとどまったという。ほかにも、妊娠から育児
休業を経て職場復帰するまでの一連の流れを上司と確認しあう「チャイルドケアプラン」
と呼ぶコミュニケーション体制や、育児休業中に英語などのスキルを習得できるシステム
の提供、休職中の社員同士が情報交換できるよう開発された社内 SNS など、きめ細やか
なサポートをする施策が数多い。女性社員が多い分だけワーキングマザーが増えるため、
育児休暇後の現場復帰や、育児しながら勤務ができるような環境作りを見据えた動きなど
の様々な取り組み、特にワーク・ライフ・バランスを支える施策は、「女性が働きやすい
資生堂」を支えている大きなものの一つであると私は考える。
Ⅴ-2. 株式会社リクルートホールディングスのケース
	
  次に株式会社リクルートホールディングスのケースをみていく。リクルートホールディ
ングスは人材紹介サービスやインターネット広告など幅広く手がけているグループ企業で
ある。2012 年には、リクナビなどを手がけている株式会社リクルートキャリア、SUUMO
などの住宅領域を手がけているリクルート住まいカンパニー、株式会社リクルートジョブ
ズ、株式会社リクルートスタッフィング、株式会社スタッフサービス・ホールディング
ス、株式会社リクルートマーケティングパートナーズ、株式会社リクルートライフスタイ
ルの 7 つの事業会社と、株式会社リクルートアドミニストレーション、株式会社リクルー
トコミュニケーションズ、株式会社リクルートテクノロジーズの 3 つの機能会社、そして
本社機能を担っている株式会社リクルートホールディングスの計 11 社からなる、新しい
グループ体制へと経営体制は一新されている。グループ企業数は 162 社(連結対象子会
18
	
 株式会社資生堂グループ企業情報サイト	
 http://www.shiseidogroup.jp/(2016 年 1
月 13 日)
日本企業における女性のリーダーシップ
社、2015 年 3 月 31 日時点)と非常に多く、その企業一覧を見ると、アジア諸国はもちろ
ん北米や欧州、オセアニア地域などの現地企業も次々とグループ入りしており、現在では
世界 16 ヶ国の国と地域、そして約 900 拠点にまで展開を拡大している。
	
  リクルートホールディングス及び中核事業会社 7 社と機能会社 3 社の総従業員数をみる
と、25,518 人(うち非正規雇用 20,976 人)、うち女性社員数は 6,948 人(うち非正規雇用
4,126 人)と、従業員の女性比率は約 27%ほどである19。また、女性管理職比率は 2013 年
4 月では 17.5%であったが、2015 年 4 月には 21.7%まで上昇しており、日本の平均比率
よりも高くなっている20。リクルートは一般的に、先進的なイメージが強い会社である
が、女性の管理職登用においても非常に様々な施策を行っている。「リクルート国内主要
企業において、経営の意思決定に関与(執行役員あるいは同等の権限を保有)している女性
の比率を、2015 年 4 月までに 10%とする」任用目標を掲げ、女性の活躍推進に取り組み
を行ってきたという。そして実際に、2015 年 4 月の実績は 13.2%となっており、その施
策は有効であったといえる。
	
  リクルートの女性支援施策で取り上げたいのは以下のことである。第一に、女性経営者
育成プログラムの「Women’s Leadership Program」である。本施策は、2013 年から経営
幹部候補の女性社員を対象に行われている研修であり、約半年をかけて行われる。”自分の
成し遂げたいことを明確に言語化することで、その実現方法として経営を意識し、経営者
としての視界や意欲を持つ”ことを目的としており、2014 年度にはグループ全体で約 30
名が参加したという。具体的な内容はといえば、パネルディスカッションや社外のロール
モデルへのインタビューすることや、また自分自身と限られた時間の中で真剣に向き合
い、ビジョンを描き、それを「伝わるようにプレゼンテーションを行う」ことで、リーダ
ーシップの本質に触れることだという。
	
  第二に、28 歳女性社員向けキャリア面談およびキャリアイベントの「Career Cafe28」
である。同施策は、28 歳のタイミングで、先輩社員との交流イベントや個別面談を行うこ
とで、自らの強みや今後のキャリアを考えるきっかけとなるよう、2011 年度から実施さ
19
	
 経済産業省『平成 25 年度ダイバーシティ経営企業 100 選	
  ベストプラクティクス
集』	
 
http://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/kigyo100sen/practice/pd
f/h25_practice_a11.pdf	
 
20
	
 リクルートグループの中で最も女性管理職比率が高いのは、人材派遣サービスを行
う株式会社リクルートスタッフィングであり、その数は 41.4%である(2015 年 4 月時
点)。
日本企業における女性のリーダーシップ
れているものである。リクルートグループの女性社員に占めるワーキングマザーの比率は
年々上昇しており、2014 年度では女性社員の 4 人に 1 人はワーキングマザーになってい
るという。そういった中で、多くの若手女性社員は両立への不安を感じていたり、上司に
相談ができていなかったりしていることなどから、ライフイベントの選択肢が現実味を帯
びて迫ってくる 28 歳前後を対象に行われているのである。2014 年度は 28 歳±3 歳の女性
を対象に、「キャリアアップ」「子育てとの両立」の2つのテーマに関するワークショッ
プを開催しており、89 名が参加した。単なるキャリア相談会と違い、ユニークなネーミン
グをつけ、イベント化してしまうことでポジティブさをみせるところに、「リクルートら
しさ」が垣間見えると私は考える。仕事・結婚・出産といった、どれも実現可能なものに
なってくる”28 歳”というタイミングで、自分自身のロールモデルに出会えるような本イベ
ントは、非常に有効であろう。実際、リクルートグループが社員に対して行ったアンケー
トでは、「ロールモデルとなる先輩の不足」、「管理職になる将来イメージができな
い」、「結婚や出産との両立に漠然とした不安がある」といった理由から、女性社員が管
理職を志向していないことがわかったという。本施策の開催後には、以上のような不安や
不満を解消できたといった声もあり、その後女性管理職が順調に増加していることから
も、その有効性は実証されているようである。
	
  また、リクルートグループ内にある研究機関のリクルートワークス研究所は、2013 年
に提言書「提案	
  女性リーダーをめぐる日本企業の宿題」21を発表している。
21
	
 リクルートワークス研究所「提案	
  女性リーダーをめぐる日本企業の宿題」
http://www.works-i.com/pdf/r_000327.pdf
日本企業における女性のリーダーシップ
表 4
提言内容
提言 1 入社式で、将来のリーダーへの期待を表明する。
提言2 入社 5 年、3 部署の原則。
提言3 27 歳で、リーダー職に。
提言 4 リーダー階級からは、プロジェクトリーダー経験値を増やす。
提言 5 長期を見据えたキャリア研修の実施。
提言 6 「2 年 1 単位」で経験をモジュール化。
提言 7 標準 5 モジュールで管理職へ。
提言 8 育休 MBA の奨励。
提言 9 時間と場所に縛られない働き方を。
提言 10 次世代リーダー候補は個別人事管理で鍛え上げる。
提言 11 優秀人材に渡す「期限付き再就職オプション」。
提言 12 リーダーシップを大学の必修科目に。
提言 13 育休は 1 年でいい。
提言 14 家事・保育サービスに産業革命を。
提言 15 ホワイトカラーの労働時間を 2000 時間に。
提言 16 共働きを前提とした社会への脱皮。
出所)リクルートホールディングス プレスルーム
http://www.recruit.jp/news_data/release/2015/0511_15788.html(2015 年 12 月 3 日)
	
  表 4 はその内容である。本提言書では、真剣に女性リーダーを育成したいと考える日本
企業に対して、具体的にどのような施策を発表すればそれが実現できるのかを示すもので
あり、これら一連の施策を実施すれば、15 年後には男女の管理職昇進比率は同率になると
している。全体として、その鍵は「スピード感」と「短いサイクルでのキャリアアップ」
日本企業における女性のリーダーシップ
であるとしており、ライフイベントを迎える 30 歳までに一定の経験を積ませることを重
要視している。かなり具体的であるが、実に理にかなっているものであると私は思う。新
卒社員として入社し、しばらく経って 30 代になれば、企業内でも中堅社員として活躍す
べき時期であるが、その 30 代は女性にとってライフイベントを迎えるのとほぼ同時期な
のである。そこで、約 2 年を 1 つの仕事の区切りとし、1 モジュールとして管理すること
で、そういった混迷期にも人事評価をリセットさせない仕組みにするという。つまり、リ
ーダー階級になったのちは、2 年×5 モジュール=10 年で管理職に登用するということで
ある22。
Ⅴ-3. 社のケーススタディから理解できること
	
  2 社の例をみると、共通して、「単に数を増やすだけの施策ではない」ことが言えるで
あろう。数字記載を義務付けられたことにより、企業は女性の管理職登用をせざるをえな
い状況になっているが、単純に数を増やす、比率をあげるだけでは根本的な解決にはなら
ない上に、他の男性社員など内部からの反発も起こりかねない。そうではなく、管理職に
なることを最初から考えてはいない、女性社員自身の意識を変えるような施策をとってい
たり、また企業風土の変革のためにサポーターとなりうる男性社員への働きかけも行って
いたりするなど、「元を変える」ような取り組みを行っていることがわかった。また女性
の管理職登用においては、「女性社員自身のロールモデルの発見」が一つの鍵になってい
ると考えられる。「仕事か結婚か」という問いは、女性の人生において最も大きな選択肢
の一つであるが、そのどちらもとりたい・両立をしたいと考えたとしても、参考になるよ
うな存在が少ないということである。同じように悩み選択に至った人や、新たな道を切り
開いた人など、様々なケース・ロールモデルに出会えるようなフォーラムやイベントなど
の施策実行は他企業も学ぶべきところがあるだろう。
	
  また、2 社を比較してみると、リクルートの方が無理なく管理職登用への動きを行って
いるように見える。現時点の女性労働者比率・管理職比率は、数字でいえば資生堂の方が
上であるが、リクルートのポジティブでかつ女性自身のキャリア意識にも変化をもたらす
ような方針は、理想的なのではないだろうか。他方、資生堂は女性社員が圧倒的に多い企
業ならではの、「女性の保護」的な施策が多く見受けられた。管理職登用とリーダー育成
には時間がかかるが、現場で働く女性たちには実際に子供や家庭があるため、直面してい
る問題を的確に解決・解消できるような施策を取り入れていく姿勢もまた、学ぶべきとこ
ろが多いと考える。
22
	
 ごく標準的な人がこの条件ということであり、必ずしも硬直的なものではない。
日本企業における女性のリーダーシップ
Ⅵ. おわりに−結論と課題−
	
  2 章でリーダーシップの性差に関する先行研究を整理したのちに、3・4 章で日本におけ
る女性の労働・社会的地位の歴史的研究、また管理職登用の現状分析を行い、5 章では実
際の企業例を用いて女性の管理職登用が進む国内企業の施策をみてきた。
	
  ここまでの研究・考察から導きだされる「女性がとるべきリーダーシップ」についての
結論は大きくわけて 2 つである。
	
  第一は、女性が男性のようなリーダーシップスタイル(例えば専制的スタイル)を強く意
識したリーダーシップを無理にとる必要はないということである。その理由として、以下
のことがあげられる。第一は、先行研究でも見た通り、リーダーがリーダーシップを発揮
する際に、そのリーダーが男女どちらであったとしても、女性的なリーダーシップをとる
際にはフォロワーなど周囲の受け止め方に差はないのに対し、男性的なリーダーシップを
とる際には女性リーダーの方がネガティブに受け止められるためである。第二は、男性性
の強いリーダーシップが、現代の日本企業においては必ずしも絶対的に求められているも
のではないのではないか、というものである。本間の研究で見てきたように、元来リーダ
ーシップに求められる特性としては、課題達成的、革新的、挑戦的といったことであり、
こちらは男性性と強く関連していたとされるが、現代における組織構造はますます複雑化
している。それはインターネットの普及によってコミュニケーション23の範囲や方法が拡
大化・複雑化していることが要因のひとつであろう。歴史的研究によれば戦後の経済成長
期の日本においては、成果をあげることが重要視され、夫は働き、それを家庭で支えるの
が妻といった形がスタンダードであり、古くからあった家父長制的な考えと日本型雇用な
どが相まって、職場では男性の力は非常に強かった。しかし市場が成熟化し、成長が一旦
落ち着くと、日本全体が 1 つ上のステージに上がったと私は考える。一定の成果をあげる
というだけではなく、人々はより良い労働環境、より良い生活を求め始めたのである。そ
ういった中では、女性的特性にみられる集団内の対人関係や集団の維持に考慮した、いわ
ば「援助的リーダーシップ」の有効性がより強くなったのではないか、と推測する。
	
  第二に、女性は自分のロールモデルを早急に探すべきであるということである。そもそ
も女性自身が管理職になることに対し否定的な要因は、性差によるものではなく、個人の
23
バーナードの組織論によれば、「組織が成立するための要因は共通目的、貢献意欲、
コミュニケーションの 3 つであり、組織の構造、広さ、範囲は、ほとんどまったく伝
達技術によって決定されるから、組織の理論をつきつめていけば、伝達が中心的地位
を占めることになる」としている。
日本企業における女性のリーダーシップ
リーダーシップ志向やキャリア意識によるものという結果が先行研究によって見られた
が、そのキャリア教育は日本における教育課程では現状として充分であるとは言えない
24。
	
  現状分析でも見たように、2020 年までに女性管理職比率を 30%まで引き上げるという
政府の目標から、企業は女性の管理職登用をせざるをえなくなっている。数を増やすこと
に注視し、またかなりのハイスピードでそれを推し進めることは、決して好ましいことと
は言えないだろう。なぜならそれはポジティブ・アクション(逆差別)として批判的な意見
を浴びせられるだけではなく、女性自身も不安を感じたまま登用される恐れがあるためで
ある。とにかく数として女性管理職の登用を増やし、それから徐々に質を上げていくとい
うやり方も有効性がないとは言えない(実際にそうしている企業も多くあるだろう)が、こ
のことに意味はあるだろうか。それよりも企業側が努力すべきは、本当の意味で組織に有
効性があるような人事制度の採用と、組織風土・土壌作りであると私は考える。ケースス
タディで用いた 2 社は、組織風土作りに積極的に取り組んでいることが共通している。
	
  この領域に関しての研究はどちらかといえば欧米のものが多く、日本のケースに関して
どれだけの適用妥当性があるかについては議論が必要との見解もある。その要因の一つと
して、日本の男女問題はあまりに特異的なものであることがあげられる。というのも、例
えばアメリカでは職場における女性のマイノリティが取り沙汰される以前に、黒人と白人
の人種差別問題があったためである。つまり、アメリカはじめ欧米では男女問題はマイノ
リティ問題のひとつなのである。一方、日本ではほとんど同一の人種・民族であり、マイ
ノリティとして問題化されてきたものはないといえる。また、日本には、伝統的に歌舞伎
の梨園や旅館の”女将さん”と呼ばれる女性や、ナイトクラブの”ママ”といった存在もあ
り、女性が特殊なリーダーシップを発揮している場合もある。こういった女性は管理職に
見られるようなリーダーシップとは種類が異なるかもしれないが、組織や関係者にとって
は非常に強い影響力を与えうるものである。しかしながら、このような研究はまだ少ない
25。
24
このことは企業のコース別人事制度とも関連がある。総合職は男性、一般職は女性といった
ような意識は、暗黙の了解として未だ根強く残っている。こういった人事制度が是正されない
限り、高校や大学といった教育機関側も女子学生に対して一般職採用に向けた教育を行うこと
は当然続いていくだろう。	
 
25
	
 代表的なものに、山口一美「観光振興による地域活性化−リーダーによる地域資源の
発見と活用−」(文教大学国際学部紀要、2008)などがあげられる。
日本企業における女性のリーダーシップ
	
  研究を始めた当初は、リーダーシップ・スタイルによる性差の存在を仮定し、それを比
較し、女性がとるべきリーダーシップ・スタイルやモデルを導こうとしていた。しかしな
がら研究を進めていくうちに、リーダーシップをとるうえで大切なのは、一定の性差があ
ることは前提として、キャリア意識に深く関係するものだとわかった。
	
  何度か述べたように、この領域に関しての先行研究は欧米のものが多く、その妥当性は
議論されるべき点である。こういった中で、日本における女性の管理職登用について焦点
をあて、歴史的研究と現状分析を行った上で女性の管理職の少なさ・リーダーシップの性
差について考察を行ったところに本論文の意義があると私は考える。
	
  とはいえ、本研究では「現代の日本」を扱ったために、十分なデータを取れないまま考
察せざるをえない部分があった。政府の目標と施策によって、政府は目標としている
2020 年の女性管理職 30%のために、あらゆる施策をとっていることは現状分析で見たと
おりであるため、今後はデータも揃ってくるのではと考える。したがって今後は、時代の
波によって増えていくであろう女性管理職登用とそのリーダーシップについて、日本特有
の文化背景・歴史的背景を踏まえた研究が必要になると思われる。私自身の今後の課題と
したい。
-謝辞-
	
  この研究を卒業論文として形にすることができたのは、三井泉教授の熱心なご指導や、
三井泉ゼミナールのみなさまのご協力を頂きましたおかげです。ここに感謝の意を表しま
す。ありがとうございました。
Ⅶ. 参考文献
書籍
1.   有馬真喜子 (編集), 原 ひろ子 (編集), 国立女性教育会館 (編集)(2008)『時代を拓く
女性リーダー』, 明石書店.
2.   伊藤淳子(2010)『女性起業家・リーダー名鑑―108 人の 108 以上の仕事』, 日本地域社
会研究所.
3.   紀田順一郎(2000)『東京の下層社会』, 筑摩書房.
4.   麓幸子(2014)『なぜ、女性が活躍する組織は強いのか』, 日経 BP 社.
日本企業における女性のリーダーシップ
5.   チェスター・I・バーナード(山本安次郎訳)(1968)『経営者の役割』ダイヤモンド社
(Chester I. Barnard『The Functions of the Executive』Harvard University
Press,1938).
6.   ピーター・ドラッカー(上田惇生訳) (2006)『現代の経営	
  上』ダイヤモンド社 (Peter
Ferdinand Drucker 『THE PRACTICE OF MANAGEMENT』
HarperBusiness,1954).
論文
7.   坂田桐子「リーダーシップ過程の性差に関する研究の現状」『実験社会心理学研究 :
The Japanese Journal of Experimental Social Psychology』(日本グループ・ダイナ
ミックス学会)	
  第 36 巻,第 1 号,pp.114-130,1996 年
8.   本間道子「我が国におけるリーダーシップの現状と社会心理学的背景」『現代女性と
キャリア』(日本女子大学現代女性キャリア研究所)第 2 号,pp.43-65,2010 年
9.   坂東眞理子「社会の変化と女性の変貌」『新情報』((社)新情報センター)94,pp1-
7,2006 年
インターネット
10.   株式会社資生堂	
  http://www.shiseidogroup.jp/(2015 年 11 月 8 日)
11.   株式会社資生堂人事関連データ	
 
http://www.shiseidogroup.jp/csr/performance/personnel/(2015 年 12 月 31 日)
12.   業界動向サーチ	
  http://gyokai-search.com/4-kesyo-uriage.htm(2015 年 11 月 27 日)
13.   経済産業省	
  http://www.meti.go.jp/(2015 年 12 月 8 日)
14.   厚生労働省	
  http://www.mhlw.go.jp/(2015 年 12 月 6 日)
15.   女性就業支援バックアップナビ	
  http://www.joseishugyo.go.jp/(2016 年 1 月 14 日)
日本企業における女性のリーダーシップ
16.   女性のキャリア意識レポート 2015
http://corp.en-japan.com/newsrelease/2015/3025.html(2016 年 1 月 12 日)
17.   ダイヤモンドオンライン	
  http://dw.diamond.ne.jp/(2015 年 11 月 30 日)
18.   日本経済新聞	
  http://www.nikkei.com/(2016 年 1 月 4 日)
19.   日本総務省統計局「労働力調査」http://www.stat.go.jp/(2016 年 1 月 12 日)
20.   年次統計	
  http://nenji-toukei.com/(2016 年 1 月 13 日)
21.   リクルートホールディングスウェブサイト	
  http://www.recruit.jp/(2015 年 12 月 5
日)
22.   リクルートホールディングス プレスルーム
http://www.recruit.jp/news_data/release/2015/0511_15788.html(2015 年 12 月 3 日)
23.   「2015 年	
  女性が活躍する会社 BEST100」
http://wol.nikkeibp.co.jp/article/trend/20150430/205063/(2015 年 11 月 16 日)
その他
24.   経済産業省『平成 25 年度ダイバーシティ経営企業 100 選	
  ベストプラクティクス
集』	
 
http://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/kigyo100sen/practice/pdf/h25
_practice_a11.pdf
25.   リクルートワークス研究所「提案	
  女性リーダーをめぐる日本企業の宿題」
http://www.works-i.com/pdf/r_000327.pdf
日本企業における女性のリーダーシップ

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  • 2. 日本企業における女性のリーダーシップ 目次 Ⅰ. はじめに―研究動機と目的― Ⅱ. リーダーシップの男性性と女性性について、先行研究から考察 Ⅱ-1. 坂田桐子の研究 Ⅱ-2. 本間道子の研究 Ⅱ-3. 2 つの先行研究から Ⅲ. 女性の労働と社会進出の歴史的研究 Ⅲ-1. 女性の労働の歴史 Ⅲ-2. 女性の社会的地位の変遷、家族制度の観点から Ⅳ. 女性の労働と管理職登用の現状分析 Ⅴ. 女性管理職登用に動く国内企業の様々な取り組み・ケーススタディ Ⅴ-1. 株式会社資生堂 Ⅴ-2. 株式会社リクルートホールディングス Ⅴ-3. ケーススタディからわかったこと Ⅵ. おわりに―結論と提案― Ⅶ. 参考文献
  • 3. 日本企業における女性のリーダーシップ Ⅰ. はじめに―研究動機と目的― 私は普通の公立小学校・中学校・高校で教育を受けてきた。その後、1年間の浪人期間 を経て日本大学経済学部に進学し、今に至っている。中学生の頃の自分は、経済学部に進 学することなど考えていなかった。なぜならその頃の私は、将来は文学や哲学、または社 会学系の学部に入り、教員免許をとって教師をしたり、大好きな美術や図書に関する仕事 をしたりしたいと考えていたからである。それが浪人期間中に経済学部に進学をしようと 決めたのは、就職のしやすさを第一に考えたためである。 現在、日本の女性労働は転換期を迎えている。第二次安倍晋三内閣で掲げられた政策― 通称”アベノミクス”において、基本方針三つが”三本の矢”として打ち出されたことが要因 の一つであろう1。三本の矢の三つ目である「民間投資を喚起する成長戦略」の中に、「女 性が輝く日本」があげられている。これは、国・地方公共団体や従業員が 300 人を超える 民間事業主に対して、女性管理職の割合などの数値目標を設定し、女性の活躍に向けた取 組を盛り込んだ行動計画を公表するよう義務づけるなど、女性の活躍推進に向けた取組を 強化するといったもののほか、女性の活躍を推進できるような政策をまとめたものになっ ている。この政策によって管理職に占める女性比率が 6.9%2から、8.3%3へと微増した。 社会的に女性の働きへの期待が高まるにつれ、私自身の中でも、大学生活を送るうちに ある変化が生じた。それは、「自分が働くこと」への意識である。大学で家族社会学や社 会保障論を受講して女性のキャリアについて考えるようになったことも一つであるが、何 より、三井ゼミナールに入ったことである。将来は、それなりの企業へ就職をし、それな りの年齢で結婚をして、その後は子育てをして生きていくのだろうと漠然と考えていた が、その意識は三井ゼミで大きく変わったのである。今まで全く触れてこなかった、興味 さえなかった経営学に触れ、社会で活躍する女性に出会い、同じ目的を持って同じ学問を 学ぶゼミ生という仲間ができたことは、大学に入って一番良かったと思えることである。 また、リーダーシップ論を学び、事業立案をしていくうちに、いつのまにか日常生活で も、「こういう事業があったらいいな」、「自分でもできるのではないか」とメモをする ようになっていった。そして「自分がリーダーになること」への意識すら芽生え始めたの である。 1 アベノミクスとは、第二次安倍内閣によって掲げられた一連の経済政策に対しての 通称である。 2 首相官邸 http://www.kantei.go.jp/(2016 年 1 月 13 日) 3 首相官邸 http://www.kantei.go.jp/(2016 年 1 月 13 日)
  • 4. 日本企業における女性のリーダーシップ 私の母は昔から銀行でパート勤めをしており、妹は短期大学を今年卒業し、建設会社の 社員として働いている。小学校や中学校の同級生の中には、高校を卒業してすぐ働いてい る人もいるし、また高校の同級生たちは今年新卒社員として社会人生活がスタートした。 それは、男子だけではなく女子も同様である。しかしながら身の回りで働く女性の話を聞 くと、結婚をしたら直ちに退社という規則のある会社や、女性は勤務から三年経ったら契 約社員になるといった規則のある会社に勤めている人もいる。この現実は「女性の輝く社 会」とは全く逆である。アベノミクスが打ち出されたあとの 2013 年に発表された、女性 の社会進出度の活躍に関する調査では、日本の順位は 136 ヶ国中 105 位と、先進国グルー プでは最下位になっている4。まだまだ女性が働く環境が整っているとはいえない日本であ るが、2020 年までに女性管理職の割合を 30%にするという政府の目標もあることから、 女性のリーダーシップが求められていることは事実である。 本稿では、女性の社会進出とリーダー雇用の歴史的経緯と現状把握を行った上で、リー ダーシップにおける男性性・女性性という側面から、これからの時代に求められる「女性 のリーダーシップ」を提案することを目的としたい。なお、本稿で扱う「リーダー」とは 経営者のことではなく「企業における管理職レベルのリーダー」であることを明記してお く。 Ⅱ. リーダーシップの男性性と女性性についての考察、先行研究か ら 「リーダーシップとは何か」この問題については今日でも様々な研究がなされており、 認識も多種多様であるが、P.F.ドラッカーの定義によれば、「リーダーシップとは、人の 視線を高め、成果の基準をあげ、通常の制約を超えさせるもの」5である。また、彼は、リ ーダーとは性質ではなく、地位や特権ではなく、思い責任を伴う「仕事」なのだとも言 う。その仕事とは、①目標を設定する、②組織をつくり仕事を割り当てる、③動機付け を行い、コミュニケーションを図る、④仕事の評価測定を行う、⑤人材を育成するの 5 つであるとし、またリーダーシップが発揮されるのは人格においてであり、評価すべきは 4 WORLD ECONOMIC FORUM「The Global Gender Gap Report 2013」 http://reports.weforum.org/global-gender-gap-report-2013/ (2016 年 1 月 14 日) 5 Peter Ferdinand Drucker『THE PRACTICE OF MANAGEMENT』(1954、 HarperBusiness)、上田惇生訳『現代の経営 上』(2006 年、ダイヤモンド社) p.222
  • 5. 日本企業における女性のリーダーシップ 人格の「真摯さ」だとも論じている6。最も、以上にあげたようなドラッカー理論における 「リーダー」とはトップ・経営者のことであるが、トップでない、一般に「リーダー」と 呼ばれる人々にも共通して言えることであると考える。特に「人格の真摯さ(integrity)」 は、リーダーにとって強く必要な要素である。ドラッカー理論においては、リーダーの仕 事ぶりや人格の真摯さなど、リーダーシップにおける性差への言及は見当たらない。はた して、リーダーシップに性差は存在するのであろうか。または存在しないのだろうか。リ ーダーシップの性差に関するいくつかの先行研究を見た結果から、本論では代表的な研究 である坂田桐子(1996)7と本間道子(2010)8について取り上げたい。坂田の研究ではリーダ ーシップ過程における性差を、社会心理学の側面から科学的に分析している。他方、本間 の研究では坂田のものを含めたいくつかの研究から、日本においてなぜ女性管理職が少な いのかという疑問を探求している。本章では 2 つの先行研究を整理したのちに、私自身の 見解を示したい。 Ⅱ-1. 坂田桐子の研究 坂田の研究(1996)では、リーダーシップ過程において、性差を説明する重要な影響要因 を特定し、今後解明されるべき点をあげている。 リーダーシップ過程における性差の有無とその発生を左右する諸要因は、1970 年から 1980 年代にかけて当時のアメリカ合衆国の時代背景を反映して9、大量に蓄積されてお り、初期には男性リーダーと女性リーダーのリーダーシップ・スタイルおよびリーダーシ ップ有効性(leadership effectiveness)に関する研究も行われている。しかしながら多数の 研究が行われてきたにも関わらず、依然として探求すべき点が多く残されていると坂田は 指摘する。また問題点としては、本領域における研究は西洋文化圏において見出されたも のであり、独特の雇用・組織システムや慣行、風習を持つ日本においてどの程度適用でき るのかをあげている。 6 Peter Ferdinand Drucker『THE PRACTICE OF MANAGEMENT』(1954、 HarperBusiness)、上田惇生訳『現代の経営 上』(2006 年、ダイヤモンド社) p.220 7 坂田桐子「リーダーシップ過程の性差に関する研究の現状」『実験社会心理学研 究 : The Japanese Journal of Experimental Social Psychology』(日本グループ・ ダイナミックス学会) 36 巻、1 号、1996 年 8 本間道子「我が国におけるリーダーシップの現状と社会心理学的背景」『現代女性 とキャリア』(日本女子大学現代女性キャリア研究所)2 号、2010 年 9 1970 年代頃から、アメリカではバックラッシュと呼ばれる現象が起きた。
  • 6. 日本企業における女性のリーダーシップ 従来の性ステレオタイプに関する研究知見を総合すると、男性に対する役割期待は作動 性(agency)、女性に対する役割期待は共同性(communion)である。Eagly&Karau(1991)の メタ分析では、こういった性的役割期待の2つの次元を反映して、男性は課題志向的、女 性は社会志向的行動に従事する傾向があると考え、かつ課題志向集団のリーダーシップは 基本的に課題貢献によって達成されるため、総合的に見れば男性の方が女性よりリーダー として出現することが多いと予測した。(坂田;1996 p. 115) リーダーシップの性差の検討のために頻繁にとりあげられるリーダーシップ・スタイル 次元としては、①課題志向的−対人志向的次元と、②民主的(参加的)−専制的次元に分け られると坂田は述べている。(坂田;1996 p.118)とりわけ①の課題志向的−対人志向的次元 については性ステレオタイプ的な見地から性差の有無が検討されてきた。しかしながら、 この 2 次元のリーダーシップに関するリーダーシップ・スタイルの見地によれば、組織で リーダーの役割に就いている人々の間では、①の課題志向的−対人志向的次元の性差はほ とんど認められなかったのに対し、むしろ②の民主的−専制的次元においては一貫した性 差が認められたという。(坂田;1996 p. 118) 以上のことから、①女性の民主的スタイルは女性のソーシャル・スキル(例えば他者の もつ感情への理解などでの点)を反映していること、②女性のリーダーシップ・スタイル に対する根強い偏見のために、女性が専制的なリーダーシップ・スタイルをとることがき わめて不利であるため、民主的なスタイルをとらざるをえない(リーダーが男性的リーダー シップ・スタイルをとる際に、女性の方がネガティブに評価されるが、女性的リーダーシ ップ・スタイルの際には性差は認められない)としている。(坂田;1996 p. 118) 坂田の仮説によると、図 1 のように、リーダーシップ過程は役割の獲得、行動スタイ ル、および有効性の 3 側面から捉えることができ、これらは相互に規定しあっているとい う。(坂田;1996 p. 124)
  • 7. 日本企業における女性のリーダーシップ 表 1 参考)坂田桐子「リーダーシップ過程の性差に関する研究の現状」p. 124、筆者作成 こういったリーダーシップ過程全体に影響するのは①性別適合性次元と、②地位の可 視性次元である。性別適合性次元とは男女の役割遂行能力と興味の程度、および役割が性 ステレオタイピング的なところから、それぞれ男性的な能力(作動性・人を統制する能 力)、女性的な能力(共同性・他者と共同する能力)を必要とする程度として定義されてい る。つまり社会で共通認識されている性役割観によって左右されるために、時代や文化に よってある程度変動すると考えられている。しかしながら地位の可視性次元、つまり女性 は形式的には最高位のポジションに就かない傾向があり、このことに関しては性役割観の 社会的な変化は受けにくく、恒常的なものであるとしている。これら2つの特性を媒介す るものとして組織風土があり、その規範的な機能の強さと性別に関連した事柄の方向性と いう2面に対して媒介機能を持つという。そのあとで坂田の研究では導き出した仮説が論 じられている。(坂田;1996 p. 124) ここまでで非常に興味深い点は、組織風土が密接的に関係しているという点であると私 は考える。組織風土は、組織の成員に共有されている社会的態度や規範の体系であり、行 為基準、価値観、信念、慣行、態度、雰囲気などを意味する。組織風土は非常に曖昧で定 義付けがしづらいものである。それゆえに組織風土が組織のどういった部分に、どのくら いの程度影響があるかどうかは判断のつかないところでもある。しかしながらこのように 漠然とした概念でありながらも、組織風土は組織構成員の行動規範に十分なりうるのであ
  • 8. 日本企業における女性のリーダーシップ る。坂田の研究の中では日本型雇用における福利厚生の考え方は、組織構成員の興味や関 心における同質性を高め、組織風土を強固にする効果を持つという。 Ⅱ-2 . 本間道子の研究 本間の研究(2010)では、女性が管理職に就くことがなぜ困難かについて、管理職の役 割・資質・技術をリーダーシップの役割・資質・技術とみなし、リーダーシップの社会心 理学的側面から検討している。第一に、リーダーシップとしての能力・知識・資質・経験 不足である。第二に勤務年数の少なさ、第三は、女性自身が管理職になることを希望しな い、望まないというリーダーシップ動機の低さ、あるいはキャリア意識の低さであるとし ている。つまりこれらは女性自身側にその原因があり、女性自身が今の女性管理職の少な さの原因をつくっているということである。本間は能力・スキルの問題において、男女を 比較した際に管理職への昇進の機会の公平さへの疑問、勤続年数の短さが女性の管理職に 直接関係していないことをそれぞれ唱えている。さらに、日本で取り上げられる女性管理 職の理由の背景を検討した研究は限定的であると指摘している。(本間; 2010 p. 43) 本間の研究ではこういった女性の管理職の少なさをジェンダーギャップとし、ジェンダ ーの視点から、「リーダーシップ役割の差異がどこから生じているか」の原因を明らかに している。その原因とは、女性のリーダーシップ志向性が低いところであり、そしてそれ はキャリア意識と関連していると結論づけている。坂田や Eagly らの性差に関する研究や 統計的なデータを用いつつ、めまぐるしく変わっていく日本の社会構造における、女性の 労働や管理職登用の考察を行っているところに、本間の研究の意義があると私は考える。 本間はリーダーシップにおける一定の性差は認めたうえで、女性の管理職の少ない要因 としてリーダーシップ志向性の低さがあり、またリーダーシップの志向性は個々のキャリ ア意識と強く関連していると論じている。(本間;2010 p. 61) 個々のキャリア意識とは、決して生まれながらにしてあるものではなく、成長過程にお けるなんらかの要因から生じるものである。日本においても大学や教育施設での女性リー ダー育成プログラムは始まっているところはあり、今後のキャリア教育はより広がってい くだろうと私は考える。 Ⅱ-3 . 2 つの先行研究から リーダーシップにおける男性性と女性性は存在するのかという疑問に対して、坂田の先 行研究でその存在を認識・確証を得たのちに、実際の現代日本における女性管理職登用が 少ない点を指摘しつつ、坂田のものを含めた様々な研究からジェンダーという視点でその 理由を導いた本間の研究を見てきた。
  • 9. 日本企業における女性のリーダーシップ 坂田の研究内において、リーダーシップ・スタイルの民主的−専制的次元において、女 性のリーダーシップ能力に対する強い偏見のために、女性が専制的・権威主義的なスタイ ルをとることがきわめて不利であるため、民主的スタイルをとらざるを得ないのではない か、と論じられていた。(坂田;1996 p. 118)このことは日本において女性管理職の増加を妨 げている一因ではないかと考える。なぜなら、男性が発揮するリーダーシップに対して は、男性的リーダーシップと女性的リーダーシップどちらであっても評価されるのに対 し、女性が男性的リーダーシップをとる際にはネガティブに受け取られてしまうためであ る。この際、リーダー職に就く女性は、周囲から期待されているような女性的リーダーシ ップを発揮しなければならないという制限をかけられてしまうことがありうる。また、 Eagly の研究では、リーダーおよびフォロワーの中で男性の方が多いほど男性リーダーの 方が女性リーダーより有効であったという知見が得られているという。(坂田;1996 p. 120) しかしながら本間の研究では、社会変動性の高い現代社会の組織体では、感受性やコミ ュニケーション・スキルが求められており、女性的リーダーシップは適合性があると述べ ている。(本間;2010 p.57)それではなぜ女性リーダーの割合が低く、評価も不安定なのかと いう問題について、本間は以下のように考察している。第一に、女性自身にリーダーシッ プ職務への躊躇があるために、よほどの確信がなければ上位リーダーへの昇進を受け入れ ないことである。第二に一般的な組織のリーダーシップ・スタイルにおいては、未だ作動 性の方が共同性より重要な役割との認識が強いという点である。(本間;2010 p. 57) リーダーシップにおいて、ある一定の性差があることは証明されているものである。し かしながら実際のリーダーシップをとる際にはキャリア意識が強く関連づいていることか ら、単に性差を比較するだけでは十分ではないことがわかった。また、これまでに多様な リーダーシップの理論が生まれてきたのは、リーダーシップの概念、構造、効果が時代の 特性、社会の状況と密接に絡まり、その時代、その状況がなにを求めているかでリーダー シップ論も変容するためであると本間は論じている。(本間;2010 p. 58)以上のことから、 日本企業における女性のリーダーシップを論じるためには、日本社会における労働慣行 や、女性の労働・社会的地位の歴史的背景を探ることが必要であると考える。そこで、次 の章では、日本における女性の労働と社会進出の歴史的変遷をみていく。
  • 10. 日本企業における女性のリーダーシップ Ⅲ. 女性の労働と社会進出の歴史的変遷 Ⅲ-1. 女性の労働の歴史 近代日本においては、19 世紀末から紡績業・製糸業などの工業化が進み、繊維産業が経 済を支えることとなった。繊維産業の労働者は、男子がほぼ 1 割から2割ほどであり、大 多数を占めるのは女工と呼ばれる若年の女性労働者であった。旧来の座繰方式において は、女工は近隣地域の者であり、寄宿する例は少なかったものの、徐々に器械製糸に移行 し生産が急速に増大していくと、地元の女性のみでは人材確保が難しくなっていった。そ こで雇われ始めた女性のほとんどは、地方や農家出身の貧しい女性たちであり、本人の意 思とは関係のない、ほぼ身売りに近いようなケースも多く見られたという。富岡製糸場 や、三重、名古屋、岡山に設立された初期の紡績工場においては、労働者の調達難のため に、労働者の主力を男女ともに士族に求めたものの、この労働力調達モデルは継続しなか った。その労働環境といえば、24 時間稼働している工場での労働時間は 2 交代制の 12 時 間労働、最盛期には 24 時間働かされることもあった。賃金はといえば、日給は男工の平 均 30 銭に対して女工は平均 20 銭ほどであり月給は 6 円(現在の価格にすると約 2 万円程 度)であり、当時イギリスの植民地であったインドよりも安かったと言われている。 戦間期に入ると、第一次世界大戦中の設備投資や世界経済の好調さも相まって、工場以 外でも女性の進出は進んでいった。それを象徴するのが、大正末期頃から言われ始めた 「職業婦人」という言葉であると私は考える。また、帝大を卒業する女性も出現し、1901 年(明治 34 年)には日本女子大学が創設されている。大正時代に女性がどのような職業に就 いていたかといえば、医師、看護師、薬剤師、産婆、教師、音楽家、新聞記者、写真誌、 タイピスト、手芸、洋裁・ミシンなどが挙げられる。大正中期に入るとこれらに加えて、 事務員、外交員、美容師、婦人雑誌創刊に伴う雑誌記者 、放送員 、バスガール、デパー ト店員、女給などが新たに加わり、映画女優という仕事や女性アナウンサーも登場した。 「○○ガール」と呼ばれる職業が広まるとともに、女性の社会進出を背景に、「モダンボー イ・モダンガール文化」10が花開くこととなった。しかし、1929 年に世界恐慌が起こると 一気に不景気となり、華やかな気風は失われることとなった。その後第二次世界大戦に入 り、男子が徴兵されるようになると、労働力不足から女学生も工場に動員されたのであっ た。 10 モダンボーイ・モダンガール文化とは、大正時代末期から昭和時代初期頃にかけ て、西洋の文化に強く影響を受けた文化である。モダンボーイ・モダンガールとは、 特徴的な外見をした当時の先端的な若者を指している。
  • 11. 日本企業における女性のリーダーシップ 戦後しばらくは、国内だけでなく海外諸国においても社会と経済の混乱が続き、食糧難 や様々な生活難によって人々は苦しめられたものの、戦後改革によって女性の社会進出の 基盤は徐々に整えられることとなった。1950 年に朝鮮戦争が起きると、戦争特需によっ て急激に経済成長が起こり、輸出は拡大、日本の経済は復興への道へと進んでいったので ある。そういった中で労働力需要は急大し、繊維産業における技能工や生産工のほか、各 産業分野において事務・販売などの職業に従事する女性が増えていった。また、戦後新し く出来た職業や、今まで女性には開放されていなかった分野においても、進出は進んでい った。 日本が急速な経済成長をしていく中で、女性の働き方は大きな変化を遂げていった。日 本の経済的発展と国民の個人的な生活レベルの向上のために、外で働く夫を支える妻に は、家庭を守る「主婦」の役割が求められ、これが望ましいものとされたのである。女性 たちは中学校や高校、大学を卒業すると、結婚までの期間に一時的に働くことが一般的と なった。結婚後も継続して、長く働き続けるようなことは稀なことであり、結婚や出産を 機に、退職をして子育てをする女性が増加した11。そして家庭に入った女性たちは、退職 後、子育てがひと段落したのちにパートタイム労働者として職場に復帰していくこととな った。 その後、大きな転換期となったのは、1985 年の男女雇用機会均等法制定とその後の改 正である。女性就業者の変化に伴い、当時の世界情勢が相まって、職場における男女平等 を求める声が大きくなっていった。正式名称は「雇用の分野における男女の均等な機会及 び待遇の確保等に関する法律」であり、募集・採用時における男女の均等な取り扱い、配 置・昇進・教育訓練、福利厚生、定年・退職・解雇などについて、女性労働者であること を理由に男性労働者と差別的に取り扱うことを禁止したものである。2007 年の改正で は、男女双方への性差別の禁止、権限の付与や業務の配分、降格、雇用形態・職種の変 更、退職勧奨、雇い止めなどについての性差別や間接差別の禁止、妊娠・出産・産前産後 休業の取得を理由とした不利益取り扱いの禁止、「ポジティブ・アクション(男女間の格差 解消のための積極的取り組み)」を、企業が開示するにあたり国が支援すること、セクシュ アル・ハラスメントの対象に男性も加え、予防、解決のため具体的措置をとるよう事業主 への義務づけ、調停の対象にセクシャル・ハラスメントも加わる、といった内容も含まれ 11 女性の就業率は、高度経済成長期前の 1950 年には 60%を超えていたのに対し、1960 年には 50.6%、1970 年には 46.1%に低下している。
  • 12. 日本企業における女性のリーダーシップ ている。均等法施行によって、未だ問題・課題は残るものの、女性就業者は増加していっ たのである12。 ポジティブ・アクションに関しては、一般的な合意に至っていないという批判も多く見 られる。「格差解消」という名目で女性のみを優遇し、男性からみると”逆差別”に思える ということである。たとえば 1 名を新しく管理職登用したいという組織があった際に、同 程度の能力である男女 2 人が候補だったとして、女性比率を上げたいという理由で女性の 方が登用されるといったことである。このことは登用された女性にも良い影響があるとは いえないため、その程度に関しては議論が必要であるだろう。 Ⅲ-2 . 女性の社会的地位の変遷、家族制度の側面から 本節では、日本における女性の社会的地位の変遷として、家父長制の存在について触れ たい。江戸時代までの家、特に農家においては、内部での男女の区別はさほどなく、「子 育て」の概念もほとんどなかった。その概念が生まれてくるのは近代以降である。家事も 男女で手分けをしており、家庭内の性別による分業もなかったが、一方で、地域の集まり といった公の場には男性が出て行くものとされ、男性に権威があった。 明治時代につくられた民法上の家制度では、人はすべて家に属し、家の統率者である戸 主に従わなくてはならなかった。また、戸主は戸主権を持ち、家族の居所を指定する権 利、家族に対して婚姻、養子縁組、分家などの身分行為を許諾する権利、祖先祭祀の権利 を保障されていた。戸主権は、家督相続によって戸主の財産とともに長男に承継された(長 男単独相続)。さらに、夫権を認めて妻を「無能力者」とし、法定財産関係において夫の優 位を認め、子に対しては父権優位の親権制、家督相続においては男子を優先するなど男子 優位の原則を確定していた。家父長制とは、家父長権をもつ男子が家族員を統制・支配す る家族形態であり、またそういった家父長制家族では、一般的に「長男が家産と家族員に 対する統率権は絶対的な権威として表れ、家族員は人格的に恭順・服従する」とされてお り、「幼にしては父兄に従い、嫁しては夫に従い、老いては子に従う」という”三従”は象 徴的なものである。このような家父長的制度の下にあっては、子供が生まれたとしても、 生まれた順番や性別によって生まれた時から地位は決まっていたのである。 戦後の新しい民法では、家父長的家制度は廃止されたものの、人々の深層心理へのはた らきはいまだに強く、復活運動さえもみられた。 現在の日本の「家」では、夫が仕事をし、妻は専業主婦かパートタイマー、子供達は学 校へ行く、という形式が一般的である。住まいから離れたところにある職場に通勤をする 12 2015 年 7 月時点の女性就業率は 71.8%。
  • 13. 日本企業における女性のリーダーシップ ため、江戸時代までの農家や商家のような「家全体での生業」はほぼ廃れている。日本全 体、特に都市部においては少子高齢化が顕著であり、一家に長男がいないことはもはや珍 しくないため、土地や墓といった継ぐべきものが、娘に継承されることは一般化した。し かしながら、家父長的家制度が完全に崩れ去ったかといえばそうではなく、いまだ長男に かかる責任と負担はほかの兄弟に比べると大きいとされており、また妻よりも夫が家庭の 代表となる場面は少なくない。 ここまで女性の労働と社会的地位の変遷をみてきたが、次の章では現代の日本企業にお いて、女性の労働と管理職登用の分析を行っていく。 Ⅳ. 女性の労働・管理職登用の現状分析 日本の人口は近年横ばいであり、現在人口減少局面を迎えていることは周知の事実であ る。具体的な数字としては、2010 年時点で 1 億 2806 万人であるが、2060 年には総人口 が 9000 万人を割り込み、高齢化率は 40%近い水準になると推計されている13。また、生 産年齢人口も減少し、同 2010 年時点ではその割合は 63.8%、2060 年には 50.9%になると 見込まれている。 以下のグラフは管理職における女性比率の国際比較である。安倍政権は 2020 年までに 女性管理職登用の目標を 2020 年までに 30%と掲げているが、2012 年のデータでは 11.1% と依然低いままである。 13 厚生労働省各種統計調査 http://www.mhlw.go.jp/toukei_hakusho/toukei/(2016 年 1 月 6 日)
  • 14. 日本企業における女性のリーダーシップ 表 1 参考:日本総務省統計局「労働力調査」http://www.stat.go.jp/(2016 年 1 月 12 日) また、現在の女性管理職登用においては、数自体は増加しているものの、その実情をみ ると、課長職クラスの中堅管理職の数が多く、部長職以上の重要なポストではあまり増加 をしていないというデータもあり14、単に数をみるだけでは不十分である。加えて、女性 登用は業種によって大きく異なり、サービス業においての登用が最も高く、次に情報・通 信、商業分野と続く。表 2 は「女性が活躍する会社 100 選」内の上位 10 社である。サー ビス業を主な業種としている企業が目立つことがわかる。 そのような状況の下で、政府は、生産者人口の減少に伴い、少子高齢化対策をとるとと もに、ダイバーシティマネジメントの推進を行っている。ダイバーシティマネジメントと は、多様な人材の能力を最大限発揮させることで、企業のパフォーマンスにつなげる経営 であり、競争優位性を確立するためにも、グローバル化が進む日本の企業にとって不可欠 な経営戦略である。ここでの多様性とは、人種や性別に限らず、年齢や個性、価値観、健 康状態、さらには働き方の違いなど、あらゆる「多様性」を認め、積極的に受け入れてい くことで、優秀な人材を幅広い分野・視点から取り入れ、成長につなげようという考え方 14 厚生労働省各種統計調査 http://www.mhlw.go.jp/toukei_hakusho/toukei/(2016 年 1 月 6 日) 0 12.5 25 37.5 50 アメリカ フランス イギリス ドイツ イタリア 日本 韓国 女性管理職の比率
  • 15. 日本企業における女性のリーダーシップ である。本来、同質性や協調性が重んじられてきた日本企業においては苦手とされている ものの、注目度は非常に高い。その背景のひとつとしては、消費の変化があげられる。市 場が成熟化したことや、インターネットの普及によって購買行動が大きく変わっているこ とのほか、働く女性が増えたことによって女性顧客は増加した。また、最終的な購買行動 の決定が女性になることも多い。さらに、インターネットの普及によって、購入先やサー ビスの選択肢が増え、国内のみでなく、海外の人々とも個人レベルで取引をすることが可 能になったのである。ダイバーシティマネジメントは、第二次安倍内閣で掲げられている 女性の活躍の推進と共に重要視されており、これからも進んでいくことが予想される。 また、ここでは M 字カーブの存在にも触れておきたい。M 字カーブとは、日本人女性 の年齢階級別の労働力率(15 歳以上の人口に占める求職中の人も含めた働く人の割合)を グラフで表したときに描かれる M 字型の曲線をいう。出産・育児期にあたる 30 歳代で就 業率が減少し、子育てが一段落した後に再就職する人が多いことを反映している。今後、 少子高齢化が進むにあたり、労働力人口が減少していく中で、就業者数・就業率を上げる ことは、健全な社会を実現するためには必要不可欠である。平成 22 年度に閣議決定され た新成長戦略においては、25 歳から 44 歳までの女性の就業率を 2020 年度までに 73%と する目標が掲げられるなど、女性の就業率向上、特に M 字カーブの解消は大きな課題点と なっている。 表 2 順位 企業名 総合点 1 資生堂 80.7 2 セブン&アイ・ホールディング ス 80.2 3 ANA 80 4 ジェイティビー 78.6 5 第一生命保険 77.6 6 日本アイ・ビー・エム 75.9 7 高島屋 75.2 8 リクルートホールディングス 75.1
  • 16. 日本企業における女性のリーダーシップ 順位 企業名 総合点 9 パソナグループ 75.1 10 住友生命保険 74.5 参考:「2015 年 女性が活躍する会社 BEST100」 http://wol.nikkeibp.co.jp/article/trend/20150430/205063/(2015 年 11 月 16 日) Ⅴ. 女性管理職登用に関する国内企業の取り組み−ケーススタディ– これまで、女性の労働に関する歴史的背景と、管理職登用における日本の現状分析を論 じてきた。前述の通り、政府は 2020 年までに女性管理職を 30%の水準まで引き上げるこ とを目標としており、各企業にも有価証券取引書に役員女性比率の記載を義務づけている 15。こういった中で、実際の国内企業は女性管理職の登用推進においてどのような施策を 行っているのだろうか。本章では実際の企業例を用いて、国内企業の取り組みを見てい く。 Ⅴ-1. 株式会社資生堂のケース 表 3 順位 企業名 売上高(億円) 1 資生堂 7,620 2 花王 5,703 3 コーセー 1,900 4 ポーラ・オルビスホールディングス 1,783 出所)業界動向サーチ http://gyokai-search.com/4-kesyo-uriage.htm(2015 年 11 月 27 日) 15 厚生労働省各種統計調査 http://www.mhlw.go.jp/toukei_hakusho/toukei/(2016 年 1 月 6 日)
  • 17. 日本企業における女性のリーダーシップ 資生堂は国内売上高 1 位の化粧品製造・販売会社である。 資生堂の人事関連データの中から従業員数を見てみると、国内従業員数の約 83.4%が女 性であり、他企業と比較すると非常に多い。これはビューティー・カウンセラー(以下、 BC)の存在が要因の一つであると考える。ビューティー・カウンセラーとはいわゆる美容 部員のことであり、百貨店やデパートのコスメカウンターに常駐し、製品の案内や実際に メイクアップ・タッチアップなどを行う、販売職の従業員のことである。資生堂の BC に よるカウンセリングやメイク指導には定評があり、これこそが資生堂の強み、ブランド価 値そのものだという声も根強い。資生堂では、BC の採用を 2005 年 4 月を最後に契約社 員に切り替えていたが、2016 年 4 月入社の新卒約 500 人を正社員採用すると発表してい る。現在は約 1 万人の BC のうち、2 千人が契約社員であるが、試験を実施して合格者か ら正社員に登用することも発表されている。 次に資生堂の男女管理職数と比率をみていく16。2015 年 4 月時点では、全体では女性管 理職比率 50.2%と非常に高く見えるが、日本国内に注目すると 27.2%と半分近く低くな る。驚くべきことに、従業員数で見れば約 8 割を超えているのに対し、そのリーダー比率 では 3 割以下になるのである。資生堂は「早期に女性リーダー比率 30%を達成する」と目 標を掲げており、2007 年 4 月には 16.2%、アベノミクス発表直後の 2013 年 4 月には 25.6%まで増加し、その推移自体は順調なようである。 入社後の女性社員定着率17も目を見張るものがある。大卒女性では、入社後の3年以内 の離職率は 1%以下である。また、資生堂単体での平均勤続年数は男性が 18.4%なのに対 し、女性は 17.5%とほぼ同等である。 以上がデータからみえる女性管理職の数と比率であるが、次に実際の取り組みについて みていく。資生堂は「女性が活躍する会社ベスト 100」の総合 1 位に 2 年連続で選出され ており、女性リーダーの任用と人材育成の強化に非常に積極的な企業であるといえる s。 同社の活躍支援策としては、(1)女性活躍に向けた意識と行動変革を求める「企業風土の醸 成」、(2)能力ある社員の登用を前提とした「女性リーダー任用と人材育成強化」、(3)長時 間労働の是正、(4)社員のワーク・ライフ・バランス実現の観点から、全社的な取り組みと して「生産性向上に向けた働き方の見直し」を特に推進してきた。とりわけ、資生堂では 風土醸成の取り組みの一環として、「キャリアサポートフォーラム」などのフォーラムを 16 株式会社資生堂人事関連データ http://www.shiseidogroup.jp/csr/performance/personnel/(2015 年 12 月 31 日) 17 株式会社資生堂人事関連データ http://www.shiseidogroup.jp/csr/performance/personnel/(2015 年 12 月 31 日)
  • 18. 日本企業における女性のリーダーシップ 継続開催しており、同フォーラムでは「効率的な働き方への変革」や「女性社員の主体的 なキャリア構築」をテーマとし、女性社員やリーダーなどの参加者から大きな反響があっ たようである18。 また、資生堂では働く女性支援の一環として、1991 年から「育児時間制度」を取り入 れていた。この制度の内容は、子供が小学校に入学するまでに、1日に最大で 2 時間まで 勤務を短縮できる独自のものである。資生堂の「働きやすさ」を促す本制度は成果を出し たものの、店頭の現場ではひずみも生じた。子育て中の女性を優遇するような制度に、不 公平さを訴える声や、遅番や土日出勤に対しての不平等さを疑問視する反発があったので ある。そこで資生堂は、半年以上前から入念に準備を進めた上で、働き方を改革する取り 組みを始めた。美容部員からの反応は様々であったが、結果として、退職した時短勤務取 得中の従業員は約 1200 人のうち 30 人ほどにとどまったという。ほかにも、妊娠から育児 休業を経て職場復帰するまでの一連の流れを上司と確認しあう「チャイルドケアプラン」 と呼ぶコミュニケーション体制や、育児休業中に英語などのスキルを習得できるシステム の提供、休職中の社員同士が情報交換できるよう開発された社内 SNS など、きめ細やか なサポートをする施策が数多い。女性社員が多い分だけワーキングマザーが増えるため、 育児休暇後の現場復帰や、育児しながら勤務ができるような環境作りを見据えた動きなど の様々な取り組み、特にワーク・ライフ・バランスを支える施策は、「女性が働きやすい 資生堂」を支えている大きなものの一つであると私は考える。 Ⅴ-2. 株式会社リクルートホールディングスのケース 次に株式会社リクルートホールディングスのケースをみていく。リクルートホールディ ングスは人材紹介サービスやインターネット広告など幅広く手がけているグループ企業で ある。2012 年には、リクナビなどを手がけている株式会社リクルートキャリア、SUUMO などの住宅領域を手がけているリクルート住まいカンパニー、株式会社リクルートジョブ ズ、株式会社リクルートスタッフィング、株式会社スタッフサービス・ホールディング ス、株式会社リクルートマーケティングパートナーズ、株式会社リクルートライフスタイ ルの 7 つの事業会社と、株式会社リクルートアドミニストレーション、株式会社リクルー トコミュニケーションズ、株式会社リクルートテクノロジーズの 3 つの機能会社、そして 本社機能を担っている株式会社リクルートホールディングスの計 11 社からなる、新しい グループ体制へと経営体制は一新されている。グループ企業数は 162 社(連結対象子会 18 株式会社資生堂グループ企業情報サイト http://www.shiseidogroup.jp/(2016 年 1 月 13 日)
  • 19. 日本企業における女性のリーダーシップ 社、2015 年 3 月 31 日時点)と非常に多く、その企業一覧を見ると、アジア諸国はもちろ ん北米や欧州、オセアニア地域などの現地企業も次々とグループ入りしており、現在では 世界 16 ヶ国の国と地域、そして約 900 拠点にまで展開を拡大している。 リクルートホールディングス及び中核事業会社 7 社と機能会社 3 社の総従業員数をみる と、25,518 人(うち非正規雇用 20,976 人)、うち女性社員数は 6,948 人(うち非正規雇用 4,126 人)と、従業員の女性比率は約 27%ほどである19。また、女性管理職比率は 2013 年 4 月では 17.5%であったが、2015 年 4 月には 21.7%まで上昇しており、日本の平均比率 よりも高くなっている20。リクルートは一般的に、先進的なイメージが強い会社である が、女性の管理職登用においても非常に様々な施策を行っている。「リクルート国内主要 企業において、経営の意思決定に関与(執行役員あるいは同等の権限を保有)している女性 の比率を、2015 年 4 月までに 10%とする」任用目標を掲げ、女性の活躍推進に取り組み を行ってきたという。そして実際に、2015 年 4 月の実績は 13.2%となっており、その施 策は有効であったといえる。 リクルートの女性支援施策で取り上げたいのは以下のことである。第一に、女性経営者 育成プログラムの「Women’s Leadership Program」である。本施策は、2013 年から経営 幹部候補の女性社員を対象に行われている研修であり、約半年をかけて行われる。”自分の 成し遂げたいことを明確に言語化することで、その実現方法として経営を意識し、経営者 としての視界や意欲を持つ”ことを目的としており、2014 年度にはグループ全体で約 30 名が参加したという。具体的な内容はといえば、パネルディスカッションや社外のロール モデルへのインタビューすることや、また自分自身と限られた時間の中で真剣に向き合 い、ビジョンを描き、それを「伝わるようにプレゼンテーションを行う」ことで、リーダ ーシップの本質に触れることだという。 第二に、28 歳女性社員向けキャリア面談およびキャリアイベントの「Career Cafe28」 である。同施策は、28 歳のタイミングで、先輩社員との交流イベントや個別面談を行うこ とで、自らの強みや今後のキャリアを考えるきっかけとなるよう、2011 年度から実施さ 19 経済産業省『平成 25 年度ダイバーシティ経営企業 100 選 ベストプラクティクス 集』 http://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/kigyo100sen/practice/pd f/h25_practice_a11.pdf 20 リクルートグループの中で最も女性管理職比率が高いのは、人材派遣サービスを行 う株式会社リクルートスタッフィングであり、その数は 41.4%である(2015 年 4 月時 点)。
  • 20. 日本企業における女性のリーダーシップ れているものである。リクルートグループの女性社員に占めるワーキングマザーの比率は 年々上昇しており、2014 年度では女性社員の 4 人に 1 人はワーキングマザーになってい るという。そういった中で、多くの若手女性社員は両立への不安を感じていたり、上司に 相談ができていなかったりしていることなどから、ライフイベントの選択肢が現実味を帯 びて迫ってくる 28 歳前後を対象に行われているのである。2014 年度は 28 歳±3 歳の女性 を対象に、「キャリアアップ」「子育てとの両立」の2つのテーマに関するワークショッ プを開催しており、89 名が参加した。単なるキャリア相談会と違い、ユニークなネーミン グをつけ、イベント化してしまうことでポジティブさをみせるところに、「リクルートら しさ」が垣間見えると私は考える。仕事・結婚・出産といった、どれも実現可能なものに なってくる”28 歳”というタイミングで、自分自身のロールモデルに出会えるような本イベ ントは、非常に有効であろう。実際、リクルートグループが社員に対して行ったアンケー トでは、「ロールモデルとなる先輩の不足」、「管理職になる将来イメージができな い」、「結婚や出産との両立に漠然とした不安がある」といった理由から、女性社員が管 理職を志向していないことがわかったという。本施策の開催後には、以上のような不安や 不満を解消できたといった声もあり、その後女性管理職が順調に増加していることから も、その有効性は実証されているようである。 また、リクルートグループ内にある研究機関のリクルートワークス研究所は、2013 年 に提言書「提案 女性リーダーをめぐる日本企業の宿題」21を発表している。 21 リクルートワークス研究所「提案 女性リーダーをめぐる日本企業の宿題」 http://www.works-i.com/pdf/r_000327.pdf
  • 21. 日本企業における女性のリーダーシップ 表 4 提言内容 提言 1 入社式で、将来のリーダーへの期待を表明する。 提言2 入社 5 年、3 部署の原則。 提言3 27 歳で、リーダー職に。 提言 4 リーダー階級からは、プロジェクトリーダー経験値を増やす。 提言 5 長期を見据えたキャリア研修の実施。 提言 6 「2 年 1 単位」で経験をモジュール化。 提言 7 標準 5 モジュールで管理職へ。 提言 8 育休 MBA の奨励。 提言 9 時間と場所に縛られない働き方を。 提言 10 次世代リーダー候補は個別人事管理で鍛え上げる。 提言 11 優秀人材に渡す「期限付き再就職オプション」。 提言 12 リーダーシップを大学の必修科目に。 提言 13 育休は 1 年でいい。 提言 14 家事・保育サービスに産業革命を。 提言 15 ホワイトカラーの労働時間を 2000 時間に。 提言 16 共働きを前提とした社会への脱皮。 出所)リクルートホールディングス プレスルーム http://www.recruit.jp/news_data/release/2015/0511_15788.html(2015 年 12 月 3 日) 表 4 はその内容である。本提言書では、真剣に女性リーダーを育成したいと考える日本 企業に対して、具体的にどのような施策を発表すればそれが実現できるのかを示すもので あり、これら一連の施策を実施すれば、15 年後には男女の管理職昇進比率は同率になると している。全体として、その鍵は「スピード感」と「短いサイクルでのキャリアアップ」
  • 22. 日本企業における女性のリーダーシップ であるとしており、ライフイベントを迎える 30 歳までに一定の経験を積ませることを重 要視している。かなり具体的であるが、実に理にかなっているものであると私は思う。新 卒社員として入社し、しばらく経って 30 代になれば、企業内でも中堅社員として活躍す べき時期であるが、その 30 代は女性にとってライフイベントを迎えるのとほぼ同時期な のである。そこで、約 2 年を 1 つの仕事の区切りとし、1 モジュールとして管理すること で、そういった混迷期にも人事評価をリセットさせない仕組みにするという。つまり、リ ーダー階級になったのちは、2 年×5 モジュール=10 年で管理職に登用するということで ある22。 Ⅴ-3. 社のケーススタディから理解できること 2 社の例をみると、共通して、「単に数を増やすだけの施策ではない」ことが言えるで あろう。数字記載を義務付けられたことにより、企業は女性の管理職登用をせざるをえな い状況になっているが、単純に数を増やす、比率をあげるだけでは根本的な解決にはなら ない上に、他の男性社員など内部からの反発も起こりかねない。そうではなく、管理職に なることを最初から考えてはいない、女性社員自身の意識を変えるような施策をとってい たり、また企業風土の変革のためにサポーターとなりうる男性社員への働きかけも行って いたりするなど、「元を変える」ような取り組みを行っていることがわかった。また女性 の管理職登用においては、「女性社員自身のロールモデルの発見」が一つの鍵になってい ると考えられる。「仕事か結婚か」という問いは、女性の人生において最も大きな選択肢 の一つであるが、そのどちらもとりたい・両立をしたいと考えたとしても、参考になるよ うな存在が少ないということである。同じように悩み選択に至った人や、新たな道を切り 開いた人など、様々なケース・ロールモデルに出会えるようなフォーラムやイベントなど の施策実行は他企業も学ぶべきところがあるだろう。 また、2 社を比較してみると、リクルートの方が無理なく管理職登用への動きを行って いるように見える。現時点の女性労働者比率・管理職比率は、数字でいえば資生堂の方が 上であるが、リクルートのポジティブでかつ女性自身のキャリア意識にも変化をもたらす ような方針は、理想的なのではないだろうか。他方、資生堂は女性社員が圧倒的に多い企 業ならではの、「女性の保護」的な施策が多く見受けられた。管理職登用とリーダー育成 には時間がかかるが、現場で働く女性たちには実際に子供や家庭があるため、直面してい る問題を的確に解決・解消できるような施策を取り入れていく姿勢もまた、学ぶべきとこ ろが多いと考える。 22 ごく標準的な人がこの条件ということであり、必ずしも硬直的なものではない。
  • 23. 日本企業における女性のリーダーシップ Ⅵ. おわりに−結論と課題− 2 章でリーダーシップの性差に関する先行研究を整理したのちに、3・4 章で日本におけ る女性の労働・社会的地位の歴史的研究、また管理職登用の現状分析を行い、5 章では実 際の企業例を用いて女性の管理職登用が進む国内企業の施策をみてきた。 ここまでの研究・考察から導きだされる「女性がとるべきリーダーシップ」についての 結論は大きくわけて 2 つである。 第一は、女性が男性のようなリーダーシップスタイル(例えば専制的スタイル)を強く意 識したリーダーシップを無理にとる必要はないということである。その理由として、以下 のことがあげられる。第一は、先行研究でも見た通り、リーダーがリーダーシップを発揮 する際に、そのリーダーが男女どちらであったとしても、女性的なリーダーシップをとる 際にはフォロワーなど周囲の受け止め方に差はないのに対し、男性的なリーダーシップを とる際には女性リーダーの方がネガティブに受け止められるためである。第二は、男性性 の強いリーダーシップが、現代の日本企業においては必ずしも絶対的に求められているも のではないのではないか、というものである。本間の研究で見てきたように、元来リーダ ーシップに求められる特性としては、課題達成的、革新的、挑戦的といったことであり、 こちらは男性性と強く関連していたとされるが、現代における組織構造はますます複雑化 している。それはインターネットの普及によってコミュニケーション23の範囲や方法が拡 大化・複雑化していることが要因のひとつであろう。歴史的研究によれば戦後の経済成長 期の日本においては、成果をあげることが重要視され、夫は働き、それを家庭で支えるの が妻といった形がスタンダードであり、古くからあった家父長制的な考えと日本型雇用な どが相まって、職場では男性の力は非常に強かった。しかし市場が成熟化し、成長が一旦 落ち着くと、日本全体が 1 つ上のステージに上がったと私は考える。一定の成果をあげる というだけではなく、人々はより良い労働環境、より良い生活を求め始めたのである。そ ういった中では、女性的特性にみられる集団内の対人関係や集団の維持に考慮した、いわ ば「援助的リーダーシップ」の有効性がより強くなったのではないか、と推測する。 第二に、女性は自分のロールモデルを早急に探すべきであるということである。そもそ も女性自身が管理職になることに対し否定的な要因は、性差によるものではなく、個人の 23 バーナードの組織論によれば、「組織が成立するための要因は共通目的、貢献意欲、 コミュニケーションの 3 つであり、組織の構造、広さ、範囲は、ほとんどまったく伝 達技術によって決定されるから、組織の理論をつきつめていけば、伝達が中心的地位 を占めることになる」としている。
  • 24. 日本企業における女性のリーダーシップ リーダーシップ志向やキャリア意識によるものという結果が先行研究によって見られた が、そのキャリア教育は日本における教育課程では現状として充分であるとは言えない 24。 現状分析でも見たように、2020 年までに女性管理職比率を 30%まで引き上げるという 政府の目標から、企業は女性の管理職登用をせざるをえなくなっている。数を増やすこと に注視し、またかなりのハイスピードでそれを推し進めることは、決して好ましいことと は言えないだろう。なぜならそれはポジティブ・アクション(逆差別)として批判的な意見 を浴びせられるだけではなく、女性自身も不安を感じたまま登用される恐れがあるためで ある。とにかく数として女性管理職の登用を増やし、それから徐々に質を上げていくとい うやり方も有効性がないとは言えない(実際にそうしている企業も多くあるだろう)が、こ のことに意味はあるだろうか。それよりも企業側が努力すべきは、本当の意味で組織に有 効性があるような人事制度の採用と、組織風土・土壌作りであると私は考える。ケースス タディで用いた 2 社は、組織風土作りに積極的に取り組んでいることが共通している。 この領域に関しての研究はどちらかといえば欧米のものが多く、日本のケースに関して どれだけの適用妥当性があるかについては議論が必要との見解もある。その要因の一つと して、日本の男女問題はあまりに特異的なものであることがあげられる。というのも、例 えばアメリカでは職場における女性のマイノリティが取り沙汰される以前に、黒人と白人 の人種差別問題があったためである。つまり、アメリカはじめ欧米では男女問題はマイノ リティ問題のひとつなのである。一方、日本ではほとんど同一の人種・民族であり、マイ ノリティとして問題化されてきたものはないといえる。また、日本には、伝統的に歌舞伎 の梨園や旅館の”女将さん”と呼ばれる女性や、ナイトクラブの”ママ”といった存在もあ り、女性が特殊なリーダーシップを発揮している場合もある。こういった女性は管理職に 見られるようなリーダーシップとは種類が異なるかもしれないが、組織や関係者にとって は非常に強い影響力を与えうるものである。しかしながら、このような研究はまだ少ない 25。 24 このことは企業のコース別人事制度とも関連がある。総合職は男性、一般職は女性といった ような意識は、暗黙の了解として未だ根強く残っている。こういった人事制度が是正されない 限り、高校や大学といった教育機関側も女子学生に対して一般職採用に向けた教育を行うこと は当然続いていくだろう。 25 代表的なものに、山口一美「観光振興による地域活性化−リーダーによる地域資源の 発見と活用−」(文教大学国際学部紀要、2008)などがあげられる。
  • 25. 日本企業における女性のリーダーシップ 研究を始めた当初は、リーダーシップ・スタイルによる性差の存在を仮定し、それを比 較し、女性がとるべきリーダーシップ・スタイルやモデルを導こうとしていた。しかしな がら研究を進めていくうちに、リーダーシップをとるうえで大切なのは、一定の性差があ ることは前提として、キャリア意識に深く関係するものだとわかった。 何度か述べたように、この領域に関しての先行研究は欧米のものが多く、その妥当性は 議論されるべき点である。こういった中で、日本における女性の管理職登用について焦点 をあて、歴史的研究と現状分析を行った上で女性の管理職の少なさ・リーダーシップの性 差について考察を行ったところに本論文の意義があると私は考える。 とはいえ、本研究では「現代の日本」を扱ったために、十分なデータを取れないまま考 察せざるをえない部分があった。政府の目標と施策によって、政府は目標としている 2020 年の女性管理職 30%のために、あらゆる施策をとっていることは現状分析で見たと おりであるため、今後はデータも揃ってくるのではと考える。したがって今後は、時代の 波によって増えていくであろう女性管理職登用とそのリーダーシップについて、日本特有 の文化背景・歴史的背景を踏まえた研究が必要になると思われる。私自身の今後の課題と したい。 -謝辞- この研究を卒業論文として形にすることができたのは、三井泉教授の熱心なご指導や、 三井泉ゼミナールのみなさまのご協力を頂きましたおかげです。ここに感謝の意を表しま す。ありがとうございました。 Ⅶ. 参考文献 書籍 1.   有馬真喜子 (編集), 原 ひろ子 (編集), 国立女性教育会館 (編集)(2008)『時代を拓く 女性リーダー』, 明石書店. 2.   伊藤淳子(2010)『女性起業家・リーダー名鑑―108 人の 108 以上の仕事』, 日本地域社 会研究所. 3.   紀田順一郎(2000)『東京の下層社会』, 筑摩書房. 4.   麓幸子(2014)『なぜ、女性が活躍する組織は強いのか』, 日経 BP 社.
  • 26. 日本企業における女性のリーダーシップ 5.   チェスター・I・バーナード(山本安次郎訳)(1968)『経営者の役割』ダイヤモンド社 (Chester I. Barnard『The Functions of the Executive』Harvard University Press,1938). 6.   ピーター・ドラッカー(上田惇生訳) (2006)『現代の経営 上』ダイヤモンド社 (Peter Ferdinand Drucker 『THE PRACTICE OF MANAGEMENT』 HarperBusiness,1954). 論文 7.   坂田桐子「リーダーシップ過程の性差に関する研究の現状」『実験社会心理学研究 : The Japanese Journal of Experimental Social Psychology』(日本グループ・ダイナ ミックス学会) 第 36 巻,第 1 号,pp.114-130,1996 年 8.   本間道子「我が国におけるリーダーシップの現状と社会心理学的背景」『現代女性と キャリア』(日本女子大学現代女性キャリア研究所)第 2 号,pp.43-65,2010 年 9.   坂東眞理子「社会の変化と女性の変貌」『新情報』((社)新情報センター)94,pp1- 7,2006 年 インターネット 10.   株式会社資生堂 http://www.shiseidogroup.jp/(2015 年 11 月 8 日) 11.   株式会社資生堂人事関連データ http://www.shiseidogroup.jp/csr/performance/personnel/(2015 年 12 月 31 日) 12.   業界動向サーチ http://gyokai-search.com/4-kesyo-uriage.htm(2015 年 11 月 27 日) 13.   経済産業省 http://www.meti.go.jp/(2015 年 12 月 8 日) 14.   厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/(2015 年 12 月 6 日) 15.   女性就業支援バックアップナビ http://www.joseishugyo.go.jp/(2016 年 1 月 14 日)
  • 27. 日本企業における女性のリーダーシップ 16.   女性のキャリア意識レポート 2015 http://corp.en-japan.com/newsrelease/2015/3025.html(2016 年 1 月 12 日) 17.   ダイヤモンドオンライン http://dw.diamond.ne.jp/(2015 年 11 月 30 日) 18.   日本経済新聞 http://www.nikkei.com/(2016 年 1 月 4 日) 19.   日本総務省統計局「労働力調査」http://www.stat.go.jp/(2016 年 1 月 12 日) 20.   年次統計 http://nenji-toukei.com/(2016 年 1 月 13 日) 21.   リクルートホールディングスウェブサイト http://www.recruit.jp/(2015 年 12 月 5 日) 22.   リクルートホールディングス プレスルーム http://www.recruit.jp/news_data/release/2015/0511_15788.html(2015 年 12 月 3 日) 23.   「2015 年 女性が活躍する会社 BEST100」 http://wol.nikkeibp.co.jp/article/trend/20150430/205063/(2015 年 11 月 16 日) その他 24.   経済産業省『平成 25 年度ダイバーシティ経営企業 100 選 ベストプラクティクス 集』 http://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/kigyo100sen/practice/pdf/h25 _practice_a11.pdf 25.   リクルートワークス研究所「提案 女性リーダーをめぐる日本企業の宿題」 http://www.works-i.com/pdf/r_000327.pdf