2015.06.27　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 日本高等教育学会第18回大会 Ⅱ- 4部会（早稲田大学）における報告です。

1. IR担当者に必要な潜在的素養
に関する質的分析
ー大学職員の事例におけるTerenziniの3層モデルの参照―
松 宮 慎 治 （神戸学院大学）
2015.06.27
日本高等教育学会
第18回大会 Ⅱ- 4部会
於：早稲田大学

2. 問題の所在
◆大学職員への期待と課題
・データを持っている職員組織を動かせないと
IRは進まない（高橋，2013）
・日本の大学における現場職員の新たな試み
が、米国とは異なる形で成果を上げており、そ
れらは本質的にIRの進化形（加藤・鵜川，
2010）
⇔職員の専門能力の育成が困難（高田・森・
桑野，2014）
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3. 専門能力に関する知見（１）
◆九州大学の育成プログラム（高田・森，2013）
受講者の想定：大学職員や研究者の志望者
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科目名（単位数） 目的
大学経営とIR（2単位）
・大学経営におけるIRの意義
・IRのニーズの基礎にある内外
環境・ガバナンス・課題の理解
IRデータ収集・管理論（2単位）
・大学におけるデータ収集・管理
技能の修得
IRデータ分析論（2単位）
・大学における意思決定に必要
なデータ分析技能の習得
大学評価とIR（2単位）
・IR業務のうち、特にニーズが具
体的な評価業務の基礎技能を
習得
IRインターンシップ（2単位） ・基礎知識の実務への応用

4. 専門能力に関する知見（２）
◆日本のIRに必要な人材（柳浦，2014）
•アメリカよりも政治的に守られていない
•執行部の視点を持ちつつ、教員と対応できる
•コミュニケーション能力（データを「情報」に変換す
る能力）
•バランス能力（中立性を保つバランス能力。執行
部の一部とレッテルを張られないようにすること）
•IRの役割に対する明確なビジョン
•これらに加えて長年の分析作業経験があること
が理想
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5. 目的と方法
◆目的
・担当者に必要な知識技能を示したアメリカのモデ
ルのうち、日本の文脈で支持されにくい範囲を検討
⇒日本の担当者に求められる素養を探索的に析出
◆方法
・Terenziniの3層モデルを参照しながら、既にIRに従
事する大学職員4名にインタビュー
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6. Terenziniの3層モデル
Terenzini（1993）による、
組織的インテリジェンスの3層構造
（IR担当者に要求される知識技能の概念）
①技術的・分析的インテリジェンス
②論点のインテリジェンス
③文脈のインテリジェンス
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7. 結果と疑問
◆結果
・3層のうち、「技術的・分析的インテリジェンス」には積極的な
意見と消極的な意見が混在している
・このため、「技術的・分析的インテリジェンス」については、
少なくとも現時点の日本の文脈では、支持されにくい範囲も
ある
◆疑問
・なぜ、「技術的・分析的インテリジェンス」に消極的な意見が
存在しうるのか？
・「技術的・分析的インテリジェンス」はスキルなので、本来上
達すればするほどするほどよいのでは？
・そうした矛盾を含んだ消極性に焦点化すれば、日本の独自
性が見えないか？
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8. 消極的な意見の詳細①
◆Ａ大学の職員
・業務を進めていくという意味でいうと「勘がある」＝「excelで一
つのセルに複数の値を入れない」といった程度の、分析手法以
前のもので十分
・業務としてそんなに難しいことはしていないし、仮にしていたと
しても出さない方がいいと考えている
・相関係数等、資料の中に具体的な値を出したくはなるが、そ
れをしてしまうと「この値は何なのか？」といった各論から指摘
が入ることがある
・改善の契機のための話題にしてもらうために、専門的なことが
わからない人が見てもわかるという状態にしたい。「何か難しい
ことをしている」と思わせたら負けだと考えている
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9. 消極的な意見の詳細②
◆Ｃ大学の職員
・統計分析はいらないと思う。放送大学で統計学の講
座は受けたが、ないよりはましといったレベルである
・Excelのスキルは使っているが、難しい多変量解析み
たいな専門用語を使うことをやっても、周りの人が理
解できなければ意味がない
・相手があってのIR。いくら自分が頑張っても理解して
くれる人がいなければ仕事としては成り立たない
・理解できない仕事をしてもだめ。むしろ難しいことを
やる必要がない。研究と大学経営はまったく別物だ
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10. 示唆される日本の独自性
◆消極的な意見の特徴
・問題解決のため合意形成を図ることに重きを置く
・所属機関が、IRを積極的にアピールしている
◎以上から示唆される日本の独自性
・ガバナンスの一環としてIRが積極的に活用されてい
るとき、担当者が専門的な能力を持ち、それをアピー
ルすることがむしろ逆効果となる可能性がある
⇒日本のＩＲを推進させる段階にあっては、担当者の
高度な専門能力は必ずしも歓迎されないかもしれない
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11. 今後の検討課題
◆日本の独自性の追究
・今回はサンプルも少なく、探索にとどまっ
ている。担当者個人に焦点を当てながら、
独自性を追究する
◆3層モデルの修正
・専門能力が忌避されうるのはなぜか？
・支持されない範囲を修正した日本モデル
を検討し、提示する
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12. 参考文献
高橋哲也（2013）「大阪府立大学における教学IRと大学IRコンソーシアム」
『大学マネジメント』Vol.9,No.3，pp.8-13.
高田英一・森雅生（2013）「我が国における「IR人材」の育成プログラムのあり
方について」『大学マネジメント』Vol.9,No.3，pp.14-21.
高田英一・森雅生・桑野典子（2014）「IR担当職員におけるIRの機能・人に関
する意識の現状―国立大学職員に対するアンケート調査の結果を踏ま
えて―」『大学職員論叢』第2号，pp.57-67.
柳浦 猛（2014）「アメリカにおけるIRの組織運営、人材育成、確保の傾向」
（第6回エンロールマネジメントIR勉強会）
Terenzini，P．T．（1993）“On the Nature of Institutional Research and the
Knowledge and Skills It Requires”Research in Higher Education，vol．34，
no．1，Springer，Netherlands，pp.1-10.
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