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材料科学の基礎 1/18


                                             材料科学の基礎

材料科学の基礎              ある物質がもつ機能性は、その物質を構成する原子間結合や分子間相互作用
の形態、あるいは電子スピン間の相互作用等のミクロな相互作用が反映されている。 したがっ
て、材料科学を学ぶにあたって、これら物質を構成する相互作用の形態を理解しておくことは重
要である。
[1]原子内の電子状態
1-1 原子内の電子が満たす波動方程式 ・・・ Schrödinger の波動方程式
 ここで、特別なケースとして原子内(核電荷+Ze)に 1 個の電子
が存在する場合(水素類似原子)の Schrödinger の波動方程式は、
図 1.1 で示す極座標表示を用いると、以下の(1-1)式で記述される。
 2      1 ∂  2 ∂  1 L2   1 Ze 2 
−        2    r   − 2 2 −        φ = Eφ (1.1)
 2 me    r ∂r  ∂r  r   4πε 0 r 

ここで、L は電子の軌道角運動量であり、

           1 ∂              ∂     1     ∂2 
L2 = − 2            sin θ    +                             (1.2)
           sin θ ∂θ        ∂θ  sin 2 θ ∂ϕ 2                                  図 1.1 極座標表示


上記の Schrödinger 方程式は解析的に解け、以下のように与えられる。
         φnlm (r ,θ ,ϕ ) = Rnl (r )Ylm (θ ,ϕ )
             l                        l                         (1.3)


                 Rnl (r )                        Ylm (θ , ϕ )
上記(1-3)式で、                  は動径波動関数、                l           は波動関数の角部分を表す関数である。 

(Schrödinger の波動方程式の詳細については補足[4]の 4.1 を参照)


1-2 Schrödinger 方程式を解くことにより導かれる原子内の電子状態

 (1.3)式で示すように、原子内の電子の状態を表す波動関数 φ nlm (r , θ , ϕ ) は、n, l, ml といった 3      l




つの整数で記述される。
A.主量子数 n         電子のエネルギー E は、(1.4)式のように記述される。
                 me e 4 Z 2
         E=−                                                            (1.4)
                 2n 2  2
 すなわち、電子のエネルギーは、正の整数である主量子数 n (principle number)で記述される。
 主量子数 n が 1, 2, 3, 4….である電子状態は、K, L, M, N….殻と呼ばれる。
                                                                                        2
B.方位量子数 l               主量子数 n で記述された一つのエネルギー状態において、電子は n 個の異
 なる角運動量をもつことが許される。また、この角運動量の違いは、原子内において電子が存
 在し得る空間(軌道)の形の違いに相関する。
 φnlm ( r , θ , ϕ ) で記述される電子状態にある電子が有する軌道角運動量 L は次式で表される。
材料科学の基礎 2/18



         L =  l (l + 1)                                               (1-5)

 ここで、 は方位量子数 (azimuthal quantum number)と呼ばれ、 l ≤n – 1 の範囲の整数をとる。
     l                                      0≤
 l が 0, 1, 2, 3….の各電子状態は、s, p, d, f….と呼ばれる。
 s, p, d, f の軌道の形を以下に示す。
C.磁気量子数 ml
 上述したように、軌道角運動量を有する運動とは、古典的に言えば、ぐるぐる回る運動である
 から、電子のような荷電粒子がそのような運動をしていれば、円電流が流れているのと同じで
 ある。円電流は磁石と同じ (Ampère の等価磁石の法則)であり、電子は自身の軌道角運動量の
 結果、磁気モーメントを有し、その大きさは m、すなわち磁気量子数 (magnetic quantum number,
 –l ≤ ml ≤ l)によって異なる。 従って、原子を磁界中に置くと、同じ主量子数 n 及び方位量子数 l
 でも、ml の値の違いによって電子のもつ磁気エネルギーが異なってくる。 この現象は正常
 Zeeman 効果と呼ばれる。
D.電子軌道の呼び方及び軌道の形
 n = 1, l = 0, ml  = 0                   1s 軌道
 n = 2, l = 0, ml  = 0                   2s 軌道
 n = 2, l = 1, ml  = –1, 0, +1           2p(x,y,z)軌道
 n = 3, l = 0, ml  = 0                   3s 軌道
 n = 3, l = 1, ml  = –1, 0, +1           3p(x,y,z)軌道
 n = 3, l = 2, ml  = –2, –1, 0, +1, +2   3d(z2, x2-y2, xy, xz, yz)軌道
 n = 4, l = 0, ml  = 0                   4s 軌道




E.スピン量子数
   上述した Schrödinger 方程式からは導かれないが、電子の運動を相対論的に取り扱うことで、
 電子にはスピン (古典的には電子の自転のようなもの )が存在することが自動的に導き出され
 る。 結果、 組の量子数 (n, l, ml)で記述される電子の状態には、 通りのスピン状態が存在
       1                              2
 し、その角運動量 S 及び Z 成分 SZ は、以下のように記述される。
                                   1
         S =  s( s + 1)     s=                                        (1.6)
                                   2
材料科学の基礎 3/18


                           1
     S Z = m S   mS = ±                 (1.7)
                           2
    ここで、ms はスピン量子数と呼ばれ、+1/2 (up spin), –1/2 (down spin)のいずれかをとる。
以上、スピン量子数を含めた 4 つの量子数(n, l, ml, mS)により電子の状態が記述される。
材料科学の基礎 4/18


F.電子配置における規則                       (a)
F-1 パウリの原理 (Pauli’s principle) 1          2p                     2p
                                                2s                      2s
つの原子の中で、2 つの電子が同じ 4                                   1s
つの量子数(n, l, ml, mS)をとることはで                                                   1s
きない。
                                                +3e                     +e
F-2.多電子系における電子配置
 F-1 のパウリの原理に基づき多電子
系における電子配置を考える。 原子内
                                   (b)
に複数の電子を含む系のことである。
                                         2p                     2p
A~E で説明してきた電子状態は、原子                            2s                      2s
                                                      1s                         1s
内に 1 個だけの電子を含むような水素
類似原子であった。 そして、1 電子系
におけるひとつの結論として、電子の                               +3e                         +e
エネルギーは主量子数 n によって決ま
り、他の量子数 l, ml には依存しない
(式 1.4)。
                                          図 1.5 電子間クーロン反発による有効核電荷の低下
 ここで、単純な多電子系を考える。
1s22s1 で記述される電子状態(すなわちホウ素の電子基底状態)と、 1s22p1 で表される電子状態
のどちらの全電子エネルギーが低いかを考える。 2s
及び 2p は主量子数は同じであるから、1 電子系の理
論に基づけば、両者の軌道エネルギーは等しく、よっ
て図 1.5 のふたつの電子状態の全電子エネルギーは
等しい。 しかし、実際には、図のように原子内に電子
が複数存在すると、互いのクーロン反発の結果、 2s
軌道のエネルギーは 2p 軌道よりも低くなる、すなわ
ち、電子のエネルギーは方位量子数 l によっても異
なってくる。 以下、このことを説明する。 図 1.5(a)
左図において、2s 電子と、原子核及び 1s 電子とのク
ーロンポテンシャルを考える。 電磁気学的には、こ
れらの相互作用は、2s 軌道(点線)よりも内側の円
(実際は球)で囲まれた領域に存在する電荷の総
量を中心(原子核)に集めたときの相互作用に相当
する。 この場合は、 (a)の右図のように、
          図           (+3–2)e = e
の電荷を中心に置いたときの相互作用に相当する。
これは、図 1.5(b)左図の 2p 軌道に電子が入った場合                         図 1.6 電子配置記憶図

にも同じことである(図 1.5 右図)。 図 1.5(a)左図
において、 電子は 1s 電子よりも空間的に外側に存在しているように書かれているが、
     2s                                   実際は、
図 1.8 に示すように、 電子は 1s 電子よりも核に近い領域にも存在し得る。 すなわち、
             2s                               平均的に
    2s
みれば、 電子と、原子核及び 1s 電子とのクーロン相互作用は、中心に+Z’e (1<Z’<3) の電荷を置
材料科学の基礎 5/18



いたときの相互作用と同等である。 よって、 (b)の 2p 軌道電子のそれよりも大きなクーロン相
互作用となり、 軌道の方が 2p 軌道よりも軌道エネルギーは低くなる。 以上のような理屈のも
       2s
と、電子の詰め方をまとめた図を図 1.6.に示す。 矢印の方向に沿って順番に電子を詰めていく。
実際、この順番に従わない原子もあるが、かなりの原子に当てはまる便利なものである。
 次に、 p, d 軌道電子,…の順に電子が核より離れていくという事実を古典的な扱いで説明する。
    s,
 電子の運動を古典的に取り扱うと、電子のエネルギー E は(1.8)式のように表される。
            1          Ze 2
       E=     mev 2 −                                         (1.8)
            2         4πε 0 r
ここで L は軌道角運動量で、 =| r × p |= mrv と表され、
               L                     また、 1.5)の関係から、 式は次
                                        式(         (1.8)
式のように表される。

          1 L2      Ze 2    1 l (l + 1) 2    Ze 2
       E=         −       =                −                  (1.9)
          2 me r 2 4πε 0 r 2 me r 2          4πε 0 r
(1.9)式の両辺を r で微分すると、


       ∂E    l (l + 1) 2    Ze 2
          =−              +                                   (1.10)
       ∂r        me r 3     4πε 0 r 2
                                    ∂E
(1.10)式で、E は保存されるから、 ∂r = 0 であり、よって電子の平衡距離 re は

            4πε 0 l (l + 1) 2
       re =                                                   (1.11)
               Zme e 2
ところで、上式は、電子の軌道角運動量が大きくなるほど、その平衡距離が長くなることを
示している(結局のところ、遠心力に
よって原子核から引き離されるとい                                         2s
うこと )s, p, d 軌道 ,.. の順に L は大き
                                                                           3s
くなっていくので、よって電子が存
在し得る領域は核より次第に離れて
                                                 1s
い く ( 図 1.7 を 参 照 。 実 際 、                                2p                3p
Schrödinger 方程式を解いて得られた
電子の動径方向の存在確率を表して
                                                                           3d
いる)
F-3 フントの規則 (Fund’s law, 最大多
重度の規則) 例えば、炭素原子内の基
底状態(最もエネルギーの低い電子                                 図 1.7  各軌道電子の動径方向確率関数
状態)における電子配置をわかりやす
                                            2
く箱図で記すと次のようになる。ここで、 2p 軌道に
入った電子は図 1.8 のように異なる軌道(箱内)に
入って、同じ方向のスピンを有しているが、一つの軌
道内(箱内)でスピンを互いに逆に向けて対になる

                                                       図 1.8 炭素原子の電子配置
材料科学の基礎 6/18



こともできるとも思われる。 しかし、フントの規則では、前者のスピンの向きが同じ(スピン多
重度の大きい)電子配置が基底状態となる。
材料科学の基礎 7/18


[2]原子(分子)間ポテンシャルエネルギー
 原子はふつう単独で存在するよりは、結合して分子を形成
する。 一方、分子は液体や個体といった分子の集合体として
存在することが多い。 これは、原子(分子)間の間にそれら
の性質に応じて、さまざまな相互作用が働くことによるもの
で、その結果、(2.1)式で示されるようなポテンシャルエネルギ
ーが生じる。                                                 図 2.1  原子 ( 分子 ) 間ポテンシ
             α    β
   U (r ) = − n + m   (α , β は定数)           (2.1)
                                                       ャル
             R   R
 上式右辺第 1 項は引力項で、第 2 項は斥力項である。 引
力は遠発力 (long-range force) であり、原子(分子)間距離
が比較的大きいところでも有効に作用し、一方、斥力項は
近距離力(short-range force)であり、原子(分子)同士が
かなり接近したところで有効に作用する。 これら、引力項、
斥力項のバランスにより、図 2.1 に示すように、ある原子
(分子)間距離 r0[平衡原子(分子)間距離 ]のところでポ                         図 2.2(a) NaCl の結晶構造
テンシャルは極小値 U0 (<0) をとる。 |U0|は原子(分子)                     (図中大きな○が Cl–, 小さな
                                                       ○が Na+ )
間の結合エネルギーと呼ばれる。 斥力項は、相互作用する
原子(分子)の電子間の交換斥力に由来し、
(1.8)式における m の値は 9~12 である。 一方、引
力項は、相互作用する原子(分子)の相互作用
(結合形態)の種類、  すなわち、   イオン結合、共
有結合、金属結合、 der Waals 力によって大き
         van
く異なってくる。


2-1 イオン結合代表的なのは図 2.2(a) に示す
塩化ナトリウム(NaCl) である。 イオン化傾向                   図 2.2(b)
の高い金属原子である Na から価電子が放出さ
れ、電気陰性度の高い非金属原子 Cl に取り込ま
                   +   –
れる。 その結果生じたイオン対 Na と Cl との間に(2.2)式で示されるような静電的相互作
用が作用する。
          Z + Z −e2
 U (r ) =                           (2.2)
           4πε 0 r

ここで、NaCl の場合, Z+ = 1, Z– = –1 である。
 ところで、実際の結晶格子中では、上記のイオン対の他にもっと多くの相互作用がある。
                        +
図 2.2(b)示す格子の中心の⊗で記した Na に着目すると、一番近くにある 6 個の●で示した
Cl–イオンと引き合い、その次に近い 12 個の⊙で示した Na+と反発し合い…となる。 こうい
った相互作用を全部加算したものは収束し、    その収束値をマーデルング定数(A)という。  そ
れを用いるとイオン結晶全体でのエネルギー U は、(2.3)式で与えられる。
材料科学の基礎 8/18


            AZ + Z − e 2          12   8
 U (r ) =
             4πε 0 r     , A = 6 − 2 + 3 +  =1.7756        (2.3)

                                    +    –
上記のエネルギーは約 7 [eV]程度となる。 NaCl 結晶では、Na と Cl はお互い閉殻構造をと
るため、その導電性は低く、また、強いイオン結合力のため硬い。 このような性質は、イオン
結合で形成される物質の基本的特性である。


2-2.共有結合
 He 原子は 1s 軌道を 2 つの電子が占め、                   He
                         安定な閉殻構造をとっている。 よって、 原子間
に共有結合が生じることはなく、 2 という 2 原子分子は存在しない。 一方、
                 He                    水素原子の 1s
軌道には 1 つの電子しか占有しておらず、                     2
                     安定な電子配置になっていない。 そこで、 つの
水素原子が接近し、それぞれがもつ電子を相手の原子に供給し、互いに共有することで安定
な電子配置を形成する。 これが共有結合形成の要因である。 この共有結合を定量的に取り
扱うためには、量子力学的な取り扱いが必要となるが、それは少し難しいので [4]補足のと
ころで説明する。 共有結合のエネルギーは、 eV 程度と大きく、
                     数          イオン結合と同様、共有結
合性の物質は硬く、融点が高い。 また、軌道に電子が充満して閉殻構造をとっているので、
一般的に導電性が低い。


2-3.金属結合
 図 2.3 に孤立した Na 原子中の電子のポ
テンシャルエネルギー及び電子配置を示
す。 図で太い曲線で表したものが、電子
のポテンシャルエネルギーで、主に電子
と原子核の核電荷とのクーロン相互作用
に由来する。 また、電子を、各軌道(1s, 2s,
2p, 3s...) のエネルギー準位のところに、上
向 き矢印( up spin )、下向 き矢印 (down
spin)で表している。 金属 Na 結晶中では、
多数の Na 原子が連なり、 Na 原子間の中
間で電子が受けるポテンシャルエネルギ
ーは図 2.4 に示すように、孤立した Na 原                        図 2.3 孤立 Na 原子中の電子のポテンシャル
                                                エネルギー及び電子配置
子内のそれより低くなってくる。 その結
果、3s 軌道の電子は、ポテンシャルの壁が
なくなって金属結晶中を比較的自由に動き回れる、いわゆる自由電子となる。 この自由電
子は、金属が有する高い導電性と熱伝導度の大きな要因となっている。




                図 2.4 金属 Na 結晶中の電子のポテンシャルエネルギー及び電子配置
材料科学の基礎 9/18




2-4.van der Waals 相互作用
  気体分子が低温で液体に、さらには固体になったりするが、それは分子間に作用する Van
der Waals 力に由来する。 ところで、 der Waals 力には大きく分けて次のような 3 つの相
                       Van
互作用形態がある。
  (i)配向力 (双極子–双極子 相互作用)                                            µ
  (ii)誘起力 (永久双極子–誘起双極子 相互作用)
   (iii)分散力(誘起双極子–誘起双極子 相互作用)
以下に個々の相互作用について説明をする。
                                                    図 2.5 分子内の電荷の偏り
(i)配向力 (双極子–双極子 相互作用)                                     ( 電気双極子 )
 一酸化炭素 (CO) などのように、異なる 2 原子か                                           l  2
ら構成される分子では、それぞれの原子の電気陰                                                              +δ2
性度の違いから、電気陰性度の低い原子から高い                                        E1
                                                  +δ 1                         –δ2
原子の方へ電子が偏り、分極(電気双極子モーメ                                                    µ  2=δ2 l2
ント)が生じる [図 2.5]。 これは、分子が常時固有              l  1      –δ1
に有する電気双極子であるという意味から永久
双極子と呼ばれる。 このような電気双極子を有                            µ  1=δ1 l1
する 2 つの極性分子間の相互作用を考える[図                      図 2.6 配向力 ( 双極子–双極子 相互作用 )
2.6]。 その相互作用の本質は、一方の双極子(µ  1)に
よって電場が生じ [補足 4-5, (4.40)式)、その電場(Ε  1)ともう一方の分子の双極子 (µ  2)と間に
静電的相互作用が生じることである。 この相互作用ポテンシャル<U>は式で表すと以下の
ようになる。
                        2 1 µ12 ⋅ µ 2 1
                                    2
       < U ( R ) >= −                                     (2.3)
                        3 4πε 0 R 6 kT

ここで、 こ 1, µ2 は相互作用する 2 つの極性分子の
永久双極子モーメントで、 T は分子が置かれた空
間の温度 [K]である。 なお、上式の導出の詳細は                                     E1
補足 3-4 を参照。                                                                   µ  2= 0
                                          l  1
(ii)誘起力 (永久双極子–誘起双極子 相互作用)
   水素分子 (H2) や酸素分子 (O2) のよ うに 同じ 原子              µ  1=δ1 l1
より構成される分子では上述の永久双極子モー                                                               +δ2
                                                               E1
メントは存在しない、いわゆる無極性分子である。                                                       –δ2
しかし、これらの分子内の電子は外部電場 E の作                                                  µ  2= αE1
用でゆらぎ、その結果、分極して双極子モーメン

                                                 µ  1=δ1 l1
                                             図 2.7 誘起力        ( 双極子–誘起双極子                 相互作
                                             用)
材料科学の基礎 10/18



トト が生じる。 これを式で表すと次式のようになる (図 2.7 参照)。
     µ照 αE
      =              (2.4)
ここで、こ は分子が固有に有する分極率
(i)で述べた永久双極子モーメントを有する極性分子と無極性分子との間の相互作用のこと
である。 で述べた極性分子は、 補足 3.5 (4.40)式で表されるような電場(Ε  1)を形成する。
    (i)          [4]
この電場は、  無極性分子に対する(2.4)式における外部電場 E として作用し、 その結果、   両者
に静電的相互作用 U(R)が生じる。 そのポテンシャルの主要な項は次式のように与えられ
る。
                                   2
                   1  1           μ1 2
         U ( R) = − α            
                   2  4πε 0
                      
                                   R6
                                  
                                                     (2.5)


     (2.5)
 ここで、 式の右辺は、極性分子の有する永久双極子モーメント式 1 が空間においてどう
いう向きをとっているかに依存しない。 すなわち、     (i)
                        誘起力は、 の配向力と異なり、 温度に
は依存しないことがその特色である。


(iii)分散力(誘起双極子–誘起双極子 相互作用)  この相互作用は“London の分散力”と呼
ばれ、無極性分子(原子)(例えば O2, H2, N2 などの 2 原子分子、あるいは He, Ar などの希
ガス原子)に作用する静電的相互作用のことである。 無極性分子内の電子の運動により、
瞬間的に電子の位置が中心の原子核に対して非対称になり、   その結果、  分子に誘起双極子が
生じる。生じた誘起双極子は電場 E を形成し、それにより、上述の(ii)誘起力で述べたように、
もう一方の無極性分子の双極子を誘起し、両誘起双
極子間に静電的相互作用が生じる。 詳細な導出過
程は省略するが、この分散力を量子力学的な取り扱
いをして計算すると、そのポテンシャル U(R)は次式
で表される。
                                                   図 2.7 水素結合
             3 1       I1 I 2 α1 ⋅ α 2
U ( R) = −                     ⋅           (2.6)
             2 4πε 0 I 1 + I 2   R6

ここで、i, αi はそれぞれ相互作用する分子のイオン化ポテンシャル(分子から 1 個の電子を
    I
取り去るのに要するエネルギー)及び分極率である。 分散力は、分極率の大きい、すなわち
外部電場により電子分布のひずみやすい原子・分子間で大きい。 
(注: 式(2.6)は、摂動論に基づく量子力学的な取り扱いによって導かれるが、詳細は 「量子化学入 門
                                          、
(下), 米沢貞次郎、永田親義 他共著, 東京化学同人に書かれている)


2-5.水素結合  水素結合は、–X–H···Y– と表されるように、極性の高い X–H 結合(X = O,
N, Cl など)と電気陰性度の高い Y 原子との間に作用する相互作用である。 この結合の本
質は、H 原子内の電子が電気陰性度の高い X 原子の方へ引き寄せられることで生じた電気
双極子と隣接する極性分子との間に作用する静電的相互作用である(図 2.7)。
 上述の水素結合は、通常の化学結合が、 eV 程度であるのに対し、
                   数             10–1 [eV]程度の小さな
相互作用である。 しかし、水素結合は生体内において重要な働きを担っている。 具体的な



                                                   図 2.8 DNA 主鎖構造
材料科学の基礎 11/18



          例として、DNA の二重らせん構造の安定化がある。 DNA の主鎖は、図 2.8 で示すリン酸ジ
          エステルでつながったデオキシリボースの繰り返しである。 図の塩基と書かれた部位に
          図 2.9 で示す 4 種類の塩基が結合する。




                                            図 2.9 DNA に含まれる 4 つの塩基



                                       DNA の二重らせん構造を立体的に図示すると図
                                      2.10 のようになる。 この二重らせん構造の安定化に
                                      寄与しているのは、   上記 4 つの塩基のうち、 2.11 及
                                                               図
                                      び図 2.12 で示される特定の塩基間に作用する水素結
                                      合である。この相互作用を DNA 分子内で表現すると
                                      図 2.13 のようになる。 この二重らせん構造の重要性
                                      は 鎖の一方の塩基配列が与えられれば、
                                       、
                                       「                 上記の水 素
                                      結合による特異的対形成に基づき、他方の塩基配列が
                                      正確に決まる。 すなわち、鎖の一方が他方のいわゆる
                                      鋳 型
                                      と な
                                      り 、

           図 2.10 DNA 二重らせん構造         こ の
                                      性 質
                                      が
          DNA の自己複写機構を可能にする」ことに
                                ある。




図 2.11   アデニン–チミン間の水素結
合




                                            図 2.13 DNA 二重らせん構造における水素結合

図 2.12 グアニン–シトシン間の水素結合
材料科学の基礎 12/18


[3]結晶構造
 原子または分子が 3 次元空間内を周期的に正しく配列したもの
を結晶とよぶ。これに対して、原子または分子に長周期の規則性が
ないものを非結晶(amorphous)と呼ぶ。
 図 3.1 に示す結晶は、a, b, c という 3 つのベクトルを 3 稜とする
平行六面体を最小構造単位として、それが 3 次元的に繰り返され
たものである。 この繰り返しの最小構造を単位格子、あるいは単
位細胞(unit cell)といい、 3.1 のような、
                  図         単位格子の集まりを空間
格子 (space lattice) という。 また、各格子の頂点を格子点 (lattice       図 3.1 空間格子
point)という。
 単位格子の形や大きさは図 3.2 に示すように、結晶軸 (crystal axis) a, b, c に、各軸間がなす角度
に, β, γを含めた計 6 つの格子定数 (lattice constant)により記述され、
その違いから、表 3.1 及び図 3.3 に示すような計 14 種類のブラベ
ー格子(Bravais lattice)が、基本的格子としてかかげられる。 これら
は、単位格子の頂点のみに格子点をもつ単純格子(7 種)、単純格子
の中心に格子点をもつ体心(body-centered)格子(3 種)、各面の中
心に格子点をもつ面心(faced-centered)格子(2 種)、及び、上下の底面
の中心に格子点を有する底心(base-centered)格子(2 種)である。            図 3.2 単位格子と格子定数
    表 3.1 結晶系とブラベー格子




                                            図 3.3 ブラベー格子
材料科学の基礎 13/18


[4]補足
4-1 Schrödinger の波動方程式はどのように導かれるのか ?
波の方程式         波には、水の波、音の波、テレビやラジオなどの電波をはじめとしていろいろなも
のがあるが、振動数の を、伝播速度を v とすれば、どれもひとつの一般式、すなわち次式の正弦
波で表すことができる。
                       x 
         y = A sin 2πν  − t                                                            (4.1)
                       v    
同様に、同じ振幅、振動数で振動し、その伝播方向のみが逆向きの波同士の重ね合わせで表され
る定常波の式は、(4.2)で記述される。
                       x                 x 
         y = A sin 2πν  − t  + A sin 2πν  + t 
                       v                 v    
                          x
           = 2 A sin 2πν ⋅ cos 2πν t                                                     (4.2)
                          v
これは、位置 x を含む部分と時間 t を含む部分が分離されているので、前者を(4.3)のように定義
すると、
                                 x
         φ ( x) = 2 A sin 2πν                                                            (4.3)
                                 v
         y = φ ( x ) cos 2πν t                                                           (4.4)


となる。 上式を x で 2 回偏微分したものと、 で 2 回偏微分したものを比較すると、 式が成立
                         t                   (4.5)
することがわかる。
         ∂ 2φ ( x) 4π 2ν 2
                  +        φ ( x) = 0                                                    (4.5)
           ∂x 2     v2
これは、 次元の定常波に対する波動方程式(波が従うべき方程式)である。 これを、 次元に拡張
    1                                   3
すると
         ∂ 2φ ( x, y, z ) ∂ 2φ ( x, y, z ) ∂ 2φ ( x, y, z ) 4π 2ν 2
                         +                +                +        φ ( x, y , z ) = 0   (4.6)
              ∂x 2             ∂y 2             ∂z 2         v2


空間に閉じ込められた粒子についての波動方程式                                       今、粒子のもっている全エネルギーを E と
すれば、E は運動エネルギー T とポテンシャルエネルギー V との和である。
         E = T +V                                                                        (4.7)
                                                                         1
ここで、粒子の質量を m とすれば、運動エネルギーは、
                                                                    T=     mv 2 であり、さらに、運動量
                                                                         2
p = mv
         の関係を用いると、(4.7)は次式のように記述される、
              p2
         E=      +V                                                                      (4.8)
              2m
すなわち、

         p = 2 m( E − V )                                                                (4.9)
材料科学の基礎 14/18



となる。 ところで、(4.10)式で表される de Broglie の式 (粒子の波動性を表す式)を考慮すると、
               h   h
       λ=        =            (h: Planck 定数)                       (4.10)
               p mv

上式に、(4.9)式を代入して
                    h
       λ=
               2 m( E − V )                                        (4.11)

ここで、波の速度v = νλ で表されるから、これを考慮し、(4.11)を(4.6)式に代入し整理すると、
       Hφ ( x, y, z ) = Eφ ( x, y, z )                             (4.12)

                2  ∂2 ∂2  ∂2 
       H =−         2 + 2 + 2  + V ( x, y , z ) :
ここで、            2m  ∂x
                       ∂y  ∂z 
                               
                                                    ハミルトニアン (系の全エネルギーに相当


                            h
する演算子, また、
                     =
                           2π である。 上式(4.12)が、時間を含まない Schrödinger の波動方程式と
呼ばれるものである。


4-2 原子内の 1 個の電子に対する Schrödinger の波動方程式
式(4.12)を極座標表示( x = r sin θ cos ϕ , y = r sin θ sin ϕ , z = r cos θ )すると、次式のように表
される。

                 2  1 ∂  2 ∂  1 L2 
       H =−                r   −         + V (r ,θ , ϕ )       (4.13)
                2m  r 2 ∂r  ∂r  r 2  2 

ここで、L は電子の軌道角運動量に相当する演算子であり、

                  1 ∂              ∂     1     ∂2 
       L2 = − 2            sin θ     +                        (4.14)
                  sin θ ∂θ        ∂θ  sin 2 θ ∂ϕ 2 

原子内の 1 個の電子に作用するポテンシャルエネルギー V は、核電荷+Ze を有する原子核との間
に生じるクーロンポテンシャルであり、 (4.15)式で記述される。
             1 Ze 2
       V =−                                                        (4.15)
            4πε 0 r
これを(4.13)式に代入して得られる次式が、原子内の電子の状態を記述する波動方程式である。
         2  1 ∂  2 ∂  1 L2        1 Ze 2 
        −              r   − 2 2 −        φ = Eφ             (4.16)
          2me  r 2 ∂r  ∂r  r   4πε 0 r 

ここで、 e は電子の質量である。 上記(4.16)式の Schrödinger 方程式は解析的に解くことができ、
    m
以下のように与えられる (詳細な数学的プロセスは “Quantum Mechanics”, L. I. Schiff 著, 井上
                        、
                        「
健 訳, 吉岡書店」(上巻)などを参照)。
       φ nlm (r , θ , ϕ ) = Rnl (r )Ylm (θ , ϕ )
           l                           l                           (4.17)
材料科学の基礎 15/18


(4.17)式が原子内における電子の状態を記述する波動関数であり、は動径波動関数 Rnl (r ) 、及び

                                                                    Ylm (θ ,ϕ )
波動関数の角部分を表す球面調和関                                                             l             で表される。 そして、両関数は以下のようになる。


                                                                                 2                  l
                    4(n − l − 1)!  Z                                         3  2 ρ  − ρ n 2l +1
      R nl (r ) = − 4              
                    n [ (n + 1)!]  a 0
                                 3                                             n  e Ln + l ( 2 ρ / n )
                                                                                                                                      (4.18a)
                                                                                     

                                             n −l −1
                                                                                                 [(n + l )!] 2 s k
      ここで、
                         L 2 l +1
                           n+l      ( s) =   ∑k =0
                                                           (−1) k + 2l +1
                                                                                       ( n − l − 1 − k )!(2l + 1 + k )!k!

                                                                                          ラゲール(Laguerre)の陪多項式                           (4.18b)
                                               4πε 0               2
      ρ = (Z / a0 )r , a0 =
                                                me e 2 :ボーア半径=0.5292 [Å]

                                                                    (2l + 1)(l − | ml |)! | m |
      Ylm (θ ,ϕ ) = (−1) ( m +|m |) / 2  l     l
                                                                                         Pl (cosθ )eim ϕ  l           l

                                                                                                                                        (4.19a)
         l
                                                                      4π (l + | ml |)!
                                                                             1
                                                                               |ml |    d |m |
                                                                                            l


      ここで、 Pl ( w) = (1 − w )
                               |ml |                                 2       2
                                                                                               Pl ( w)
                                                                                       dw|m |   l




                                        ルジャルドル(Legendre)の陪多項式                                                                           (4.19b)
                                                                l
                                         1 d
                         Pl ( w) =                  ( w 2 − 1) : Legendre の多項式                                                          (4.19c)
                                        2 l l! dw l

                      φ nlm (r , θ , ϕ )
また、波動関数                    l                  に関しては次式が成立する。

      Hφnlm (r ,θ , ϕ ) = Enφnlm (r ,θ ,ϕ )
              l                                        l                                                                                (4.20)

                  mee 4 Z 2          e2 Z 2
          E =−                    =−
      ここで、 n   (4πε 0 ) 2 2n 2 2    2a0 n 2 (n = 1, 2, 3, ….)

      L2φnlm (r ,θ ,ϕ ) =  2l (l + 1)φnlm (r ,θ ,ϕ )
              l                                                          l                              (l = 0, 1, 2,…, n–1)            (4.21)

      LZ φnlm (r ,θ ,ϕ ) = mφnlm (r ,θ ,ϕ )
                  l                                         l                             (ml = –l, – (l–1),…–1, 0, 1, … (l–1), l) (4.22)

                                                                                                                               ϕ
                                                                                                                 L Z = −i 
             ここで、LZ は軌道角運動量の Z 成分の演算子で、                                                                                        ∂ϕ

                                             φnlm (r ,θ ,ϕ )                                                                        2
式(4.20)~(4.22)は、波動関数                               l                             で記述される電子状態が、演算子 H, L , LZ (L の Z 成分)


                         それぞれ、 n,  l (l + 1) ,
                              E                 ml
の固有関数であるとともに、その固有値は量子化され、                           で表される

ことを示している。
波動関数の解釈(量子力学における最大の仮定)                                                                                   電子が r~r+dr, θ~θ +dθ, ϕ~ϕ +dϕ の範囲
材料科学の基礎 16/18



                       | φnlm (r ,θ ,ϕ ) |2 r 2 sin θ dr dθ dϕ = r 2 | Rnl (r ) |2 | Ylm (θ ,ϕ ) |2 sin θ dθ dϕ
に見出される確率は、                  l                                                        l




                         | Ylm (θ ,ϕ ) |2
で与えられる。 その内、                    l           は、電子軌道の形を表している。 (図 1.3 及び図 1.4 に示

                                             | Ylm (θ ,ϕ ) |2
した各電子軌道の形は、各軌道における                               l              の形そのものである)



3.3 正常 Zeeman 効果
強さ I の電流が面積 S を囲む閉曲線に沿って流れているときは、磁気モーメントをが
       µ = IS                                                          (4.23)
の磁石として観測される。…… Ampère の等価磁石の法則
今、これを半径 a の円を、電荷–e の電子が反時計方向に速さ v で回っているとすると、電流 I は式
(4.23)で表される。
              e   ev
       I =−     =                                                      (4.24)
              T 2πa
また、閉曲面の面積 S は、 S = π a 、電子の軌道角運動量 L は、L = me av と記述されるから、
                                      2




電子のもつ磁気モーメント電 は(4.25)式で記述される。
               eL
       µ=−                                                             (4.25)
              2 me

 このような磁気モーメントこ電子が真空の磁場内にあると考える。 磁束密度の向きを+Z 方向
にとり、その大きさを B とすると、磁場と磁気モーメントとの相互作用エネルギー U は、
                                    eHLZ        L
       U = −µ ⋅ B = µ Z ⋅ B =             = µB B Z                     (4.26)
                                     2 me        
                        e
                µB =
       ここで、            2me : Bohr 磁子 (Bohr magneton)
(4.26)式で、電子のもつ軌道角運動量の Z 方向成分 LZ は(4.22)式で表されるように量子化されて
おり、それを(4.26)に代入すると、磁気的エネルギー U は、
       U = µ B Bml                                                     (4.27)


上式のように、磁界中に置かれた原子の磁気的エネルギーは、電子の磁気量子数 ml の違いによっ
て異なってくる。


3-4 共有結合
 なぜ 2 つの原子間で電子を共有すると結合力が
生じるのか? この疑問は、Heitler と Lomdon により
解決された。 これについて水素分子を使って紹介
する。
 2 個の水素原子 A( 陽子 a と電子 1 で構成 ) 及び



                                                       図 3.1 水素分子における電子及び原子核(陽子)の配置
材料科学の基礎 17/18


B(陽子 b と電子 1 で構成)が図 3.1 で示されるような配置をもっていたとする。 このとき系全体
のエネルギーに対応するハミルトニアンは、(4.28)式で記述される。

         2        2       e2  1      1    1   1    1    1 e2
 H =−        ∆1 −     ∆2 −           +    +   +    − +                   (4.28)
        2m 2      2me      4πε 0  ra1 ra 2 rb1 rb 2 r12  4πε 0 R

 (4.28)における右辺の第 1, 2 項は 2 つの電子(1, 2)の運動エネルギーである。 また、 ]の中には
                                                    [
2 つの電子(1,2)と 2 つの陽子(a, b)とのクーロン相互作用及び電子 (1,2)間のクーロン反発力が記
述されている。さらに、最後の項は陽子(a, b)間のクーロン反発項である。
 上記(4.26)のハミルトニアンを用いて、図 4.29 の系が満たすべき波動方程式は、その解である
波動関数及びその固有値を E として、
        HΨ = EΨ                                                            (4.29)
(4.29)式は解析的に解くことはできないので、水素原子が十分に離れているときの電子 1,2 の状
態を記述する波動関数、すなわち 2 つの水素原子の 1s 軌道軌a(1)及び及b(2)の積を積の近似解と
する。すしかし、水素分子内では、電子 1, 2 が陽子 a, b のどちらに所属するかは区別できないの
で、(4.30)式のように電子 1, 2 を入れ替えた関数を同じ重みで加えてをの近似解とする。
        ψ (1,2) = C [ χ a (1) χ b (2) + χ a (2) χ b (1)]                   (4.30)


        ここで、C は定数
ここで、電子の存在確率を表す |Ψ (1,2) | を電子 1,2 が存在し得る全空間(体積要素 dτ1 dτ2)に
                                                    2


おいて積分したものは 1 であるはず、すなわち



        ∫Ψ       (1,2)Ψ (1,2)dτ 1 dτ 2 =1
             *
                                                                           (4.31)

が成立するはずであり、従って、これにより定数 C は(4.32)式で与えられる。
                      1
        C=
                  2(1 + S 2 )                                              (4.32)


        S = ∫ χ a (1) χ b (1)dτ 1 = ∫ χ a (2) χ b (2)dτ 2                  (4.33)
ここで、

上記の S は重なり積分とよばれ、2 個の水素原子の電子軌道の重なりの度合いを表す。
(4.29)式及び(4.31)式より波動関数Ψ (1,2) は(4.33)式で与えられる。


                      1
        ψ =                     [ χ a (1) χ b (2) + χ a (2) χ b (1)]       (4.34)
                  2(1 + S 2 )

ところで、水素分子のエネルギー E は(4.29)式と(4.31)式から、次式で表される。
        E = ∫ ∫ψ * (1,2)HΨ (1,2)dτ 1 dτ 2                                  (4.35)

(4.34)式を(4.35)式に代入し整理すると、水素分子のエネルギー E は(4.36)のように与えられ
材料科学の基礎 18/18



る。
                      J+K
       E = 2E H +                                                                     (4.36)
                      1+ S 2
ここで、EH は孤立水素原子における 1s 軌道電子のエネルギーである。
                           2          1 1
ここで、
       EH =
              ∫   χ a (1) −
                           2 me
                                 ∆1 +           χ a (1)dτ 1
                                      4πε 0 ra1 

     (4.37)
(注: 上式(4.37)の右辺において、a を b に、あるいは 1 を 2 に置き換えても(4.37)式は成立する)
一方、 K はそれぞれクーロン積分、
   J,             交換積分と呼ばれるもので(4.38), (4.39)式で与えられる。


                    ∫∫
             e2                         1     1   1   1
       J=                χ a (1) χ b (2) − −         +  χ a (1) χ b (2) dτ 1 dτ 2   (4.38)
            4πε 0                        r12 rb1 ra 2 R 



                    ∫∫
             e2                         1     1   1   1
       K=                χ a (1) χ b (2) − −         +  χ a (2) χ b (1)dτ 1 dτ 2    (4.39)
            4πε 0                        r12 rb1 ra 2 R 

以上から、  水素分子形成における共有結合エネルギーについて考える。 (4.36)式において右
辺の第 1 項の 2EH は、2 つの水素原子が十分に離れている際の全電子エネルギーに相当する。
 第 2 項におけるクーロン積分 J と交換積分 K はともに負の値をとる。 すなわち、 2 項分
                                            第
だけ水素分子は孤立した 2 つの水素原子の状態よりも安定化することになり、 この第 2 項
が水素分子の共有結合形成における結合エネルギーに相当する。 そこで、この第 2 項に含
まれるクーロン積分 J と交換積分 K の物理的意味合いについて考える。 孤立した水素原子
において、電子はその原子内で陽子とのみクーロン相互作用をする、しかし、水素分子内で
はもう一方の水素原子内の陽子との間にもクーロン相互作用が生じ、その分だけより安定
化している。 この安定化が(4.38)式で表されるクーロン積分である。 一方、交換積分 K を定
義した(4.39)式の右辺の被積分関数をながめると、(4.38)式のクーロン積分とは異なり、{ }
部をはさむ水素原子の 1s 波動関数波において、電子の入れ替えが起こっている。    これは水
素分子内において、もはや 2 つの電子の識別がつかないことによる安定化の作用(共有結
合の本質)を定量的に表している。
3-5 配向力 (双極子–双極子 相互作用)
 一酸化炭素(CO)などのように異なる 2 原子から構成される分子では、それぞれの原子の電
気陰性度の違いから、電気陰性度の低い原子から高い原子の方へ電子が偏り、常に分極が生
じる。 これは、電気双極子であり、 常に存在するといった意味で永久双極子と呼ばれる。 も
し、電荷の偏りの大きさを q[C]で、分子内の 2 原子間距離を l [m]とすれば、分子の双極子モ
ーメントー  の大きさはの = ql [Cm]で表される。
 ここで、このような永久電気双極子を有する極性分子間の相互作用を考える。 双方の電
気双極子を気 1  及び及 2 とし、それらの中心間の距離を R とする。 ここで、電気双極子こ 1  に
よりよ 2 に位置に生じる電界 E1 は (4.40)式で与えられる。
材料科学の基礎 19/18


              1       µ1 3( µ1 ⋅ R1R 
                                   )
      E1 =            R3 −                                   (4.40)
             4πε 0            R 5
                                      
 このとき、  電界 E1 の元に置かれた電気双極子の 2 に作用する電気的ポテンシャルエネルギ
ー U(R)は、次式で与えられる。
      U (R ) = − µ 2 ⋅ E 1                                     (4.41)
 式(3.40)を式(3.41)に代入すると、
                    1  µ1 ⋅ µ 2 3( µ1 ⋅ Rµ µ 2 ⋅ RU
                                           )(      )
      U ( R) = −          R3 −                               (4.42)
                   4πε 0                 R 5
                                                    
上式のポテンシャルは 2 つの電気双極子の内積に依存する。すなわち、双極子同士がなす角
度に依存する。 しかし、実際の場面において、分極分子はともに熱運動をしているので、 両
者の双極子のなす角度者 はさまざまな値を取り得る。 従って、2 分子間に作用するポテン
シャルは、それらの双極子がなす角度分布で平均化されたもの<U(R)>になる。 それを式で
表せば、次式になる。

                      ∫
        < U ( R ) >= U ( R;θ ) P (θ )                          (4.43)

      ここで、P(θ)は、両双極子のなす角度がは である確率である。
ところで、熱運動をしている分極分子間の双極子同士がと の角度をなす確率 P(θ)は、その
ときのポテンシャルを U(R,θ)とすれば、Maxwell-Boltzmann 分布 e
                                             –U(R, θ)/kT
                                                          (T は分極分子の
温度 [K])に比例するはずである。 これを式で表すと、
                                        U ( R ,θ )

                ∫ U ( R , θ )e
                                    −
                                           kT
                                                     sin θdθ
      < U >=                  U ( R ,θ )                       (4.44)
                    ∫e
                          −
                                 kT
                                           sin θdθ

上式は、近似的には(4.45)式のように与えられる。
                   2 1 µ12 ⋅ µ 2 1
                               2
      < U >= −                                                 (4.45)
                   3 4πε 0 R 6 kT


3-6 誘起力 (永久双極子–誘起双極子 相互作用)
  水素分子(H2)や酸素分子(O2)のように同じ原子より構成される分子では上述の永久双極子
モーメントは存在しない、  いわゆる無極性分子である。 しかし、これらの分子内の電子は外
部電場 E の作用でゆらぎ、その結果、分極して双極子モーメントの が生じる。 これを式で表
すと次式のようになる。
      µと αE ここで、こ は分子が固有に有する分極率 (4.46)
       =
また、これにより無極性分子に作用するポテンシャルエネルギーは、次式のようになる。
           1
      U = − αE 2                                               (4.47)
           2
上記のことをもとにして誘起力について考える。 誘起力とは、(i)で述べた永久双極子モー
メントを有する極性分子と無極性分子との間の相互作用のことである。その相互作用の本
質は、極性分子により生じる式(4.40)で表される電場 E が無極性分子の、外部電場 E として
材料科学の基礎 20/18



作用し、 (4.47)で与えられるポテンシャルをもたらす。 式(4.40)を式(4.47)の E に代入する
    式
と、相互作用ポテンシャルは、次式のように与えられる。
                            2                   2
               1  1         µ 3( µ ⋅ RRR 
                                          )
     U ( R) = − α           3−
               2  4πε 0
                  
                            R
                                    R  5   
                                            

                                2
              1  1          μ2       
           = − α            6 + .....
              2  4πε 0
                
                            R
                                      
                                                    (4.48)


ところで、上式右辺における[ ]主要な第 1 項は、極性分子の有する永久双極子モーメントが
空間においてどういう向きをとっているかに依存しない。 その結果、この誘起力は、先の配
向力と異なり、温度には依存しないことがその特色となる。
材料科学の基礎 21/18



参考図書及び図の出典
図 2.1, 図 2.7
 「電気・電子材料」  中澤 道夫 他著                              コロナ社   ISBN 4-339-01191-6


図 1.1, 図 1.3, 図 1.4, 図 3.1
 「三訂 量子化学入門 (上)」                  米沢貞次郎 他著          化学同人      ISBN 4-7598-0097-2
 「三訂 量子化学入門 (下)」                  米沢貞次郎 他著          化学同人      ISBN 4-7598-0098-0


図 1.6~図 1.8
「ヒューイ無機化学 (上)」                James E . Huheey 著 小玉 剛二・中沢 浩 訳                 東京化学同人
                                                                          ISBN 4-8079-0236-9
図 2.2(a), (b), 図 2.3, 図 2.4, 表 3.1, 図 3.1~図 3.3
 「材料科学」          坂田     亮 著     培風館 ISBN 4-563-03159-3


図 2.8~図 2.13
 ス ト ラ イ ヤ ー 生 化 学 ( 下 ) Lubert Stryrer 著           田 宮 信 雄 他 訳     東 京 化 学 同 人 ISBN
4-8079-0130-3

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  • 1. 材料科学の基礎 1/18 材料科学の基礎 材料科学の基礎 ある物質がもつ機能性は、その物質を構成する原子間結合や分子間相互作用 の形態、あるいは電子スピン間の相互作用等のミクロな相互作用が反映されている。 したがっ て、材料科学を学ぶにあたって、これら物質を構成する相互作用の形態を理解しておくことは重 要である。 [1]原子内の電子状態 1-1 原子内の電子が満たす波動方程式 ・・・ Schrödinger の波動方程式 ここで、特別なケースとして原子内(核電荷+Ze)に 1 個の電子 が存在する場合(水素類似原子)の Schrödinger の波動方程式は、 図 1.1 で示す極座標表示を用いると、以下の(1-1)式で記述される。  2  1 ∂  2 ∂  1 L2  1 Ze 2  −  2 r − 2 2 − φ = Eφ (1.1)  2 me  r ∂r  ∂r  r   4πε 0 r  ここで、L は電子の軌道角運動量であり、  1 ∂  ∂  1 ∂2  L2 = − 2   sin θ +  (1.2)  sin θ ∂θ  ∂θ  sin 2 θ ∂ϕ 2  図 1.1 極座標表示 上記の Schrödinger 方程式は解析的に解け、以下のように与えられる。 φnlm (r ,θ ,ϕ ) = Rnl (r )Ylm (θ ,ϕ ) l l (1.3) Rnl (r ) Ylm (θ , ϕ ) 上記(1-3)式で、 は動径波動関数、 l は波動関数の角部分を表す関数である。  (Schrödinger の波動方程式の詳細については補足[4]の 4.1 を参照) 1-2 Schrödinger 方程式を解くことにより導かれる原子内の電子状態 (1.3)式で示すように、原子内の電子の状態を表す波動関数 φ nlm (r , θ , ϕ ) は、n, l, ml といった 3 l つの整数で記述される。 A.主量子数 n 電子のエネルギー E は、(1.4)式のように記述される。 me e 4 Z 2 E=− (1.4) 2n 2  2 すなわち、電子のエネルギーは、正の整数である主量子数 n (principle number)で記述される。 主量子数 n が 1, 2, 3, 4….である電子状態は、K, L, M, N….殻と呼ばれる。 2 B.方位量子数 l   主量子数 n で記述された一つのエネルギー状態において、電子は n 個の異 なる角運動量をもつことが許される。また、この角運動量の違いは、原子内において電子が存 在し得る空間(軌道)の形の違いに相関する。 φnlm ( r , θ , ϕ ) で記述される電子状態にある電子が有する軌道角運動量 L は次式で表される。
  • 2. 材料科学の基礎 2/18 L =  l (l + 1) (1-5) ここで、 は方位量子数 (azimuthal quantum number)と呼ばれ、 l ≤n – 1 の範囲の整数をとる。 l 0≤ l が 0, 1, 2, 3….の各電子状態は、s, p, d, f….と呼ばれる。 s, p, d, f の軌道の形を以下に示す。 C.磁気量子数 ml 上述したように、軌道角運動量を有する運動とは、古典的に言えば、ぐるぐる回る運動である から、電子のような荷電粒子がそのような運動をしていれば、円電流が流れているのと同じで ある。円電流は磁石と同じ (Ampère の等価磁石の法則)であり、電子は自身の軌道角運動量の 結果、磁気モーメントを有し、その大きさは m、すなわち磁気量子数 (magnetic quantum number, –l ≤ ml ≤ l)によって異なる。 従って、原子を磁界中に置くと、同じ主量子数 n 及び方位量子数 l でも、ml の値の違いによって電子のもつ磁気エネルギーが異なってくる。 この現象は正常 Zeeman 効果と呼ばれる。 D.電子軌道の呼び方及び軌道の形 n = 1, l = 0, ml  = 0    1s 軌道 n = 2, l = 0, ml  = 0   2s 軌道 n = 2, l = 1, ml  = –1, 0, +1   2p(x,y,z)軌道 n = 3, l = 0, ml  = 0   3s 軌道 n = 3, l = 1, ml  = –1, 0, +1   3p(x,y,z)軌道 n = 3, l = 2, ml  = –2, –1, 0, +1, +2 3d(z2, x2-y2, xy, xz, yz)軌道 n = 4, l = 0, ml  = 0 4s 軌道 E.スピン量子数 上述した Schrödinger 方程式からは導かれないが、電子の運動を相対論的に取り扱うことで、 電子にはスピン (古典的には電子の自転のようなもの )が存在することが自動的に導き出され る。 結果、 組の量子数 (n, l, ml)で記述される電子の状態には、 通りのスピン状態が存在 1 2 し、その角運動量 S 及び Z 成分 SZ は、以下のように記述される。 1 S =  s( s + 1) s= (1.6) 2
  • 3. 材料科学の基礎 3/18 1 S Z = m S mS = ± (1.7) 2 ここで、ms はスピン量子数と呼ばれ、+1/2 (up spin), –1/2 (down spin)のいずれかをとる。 以上、スピン量子数を含めた 4 つの量子数(n, l, ml, mS)により電子の状態が記述される。
  • 4. 材料科学の基礎 4/18 F.電子配置における規則    (a) F-1 パウリの原理 (Pauli’s principle) 1 2p 2p 2s 2s つの原子の中で、2 つの電子が同じ 4 1s つの量子数(n, l, ml, mS)をとることはで 1s きない。 +3e +e F-2.多電子系における電子配置 F-1 のパウリの原理に基づき多電子 系における電子配置を考える。 原子内 (b) に複数の電子を含む系のことである。 2p 2p A~E で説明してきた電子状態は、原子 2s 2s 1s 1s 内に 1 個だけの電子を含むような水素 類似原子であった。 そして、1 電子系 におけるひとつの結論として、電子の +3e +e エネルギーは主量子数 n によって決ま り、他の量子数 l, ml には依存しない (式 1.4)。 図 1.5 電子間クーロン反発による有効核電荷の低下 ここで、単純な多電子系を考える。 1s22s1 で記述される電子状態(すなわちホウ素の電子基底状態)と、 1s22p1 で表される電子状態 のどちらの全電子エネルギーが低いかを考える。 2s 及び 2p は主量子数は同じであるから、1 電子系の理 論に基づけば、両者の軌道エネルギーは等しく、よっ て図 1.5 のふたつの電子状態の全電子エネルギーは 等しい。 しかし、実際には、図のように原子内に電子 が複数存在すると、互いのクーロン反発の結果、 2s 軌道のエネルギーは 2p 軌道よりも低くなる、すなわ ち、電子のエネルギーは方位量子数 l によっても異 なってくる。 以下、このことを説明する。 図 1.5(a) 左図において、2s 電子と、原子核及び 1s 電子とのク ーロンポテンシャルを考える。 電磁気学的には、こ れらの相互作用は、2s 軌道(点線)よりも内側の円 (実際は球)で囲まれた領域に存在する電荷の総 量を中心(原子核)に集めたときの相互作用に相当 する。 この場合は、 (a)の右図のように、 図 (+3–2)e = e の電荷を中心に置いたときの相互作用に相当する。 これは、図 1.5(b)左図の 2p 軌道に電子が入った場合 図 1.6 電子配置記憶図 にも同じことである(図 1.5 右図)。 図 1.5(a)左図 において、 電子は 1s 電子よりも空間的に外側に存在しているように書かれているが、 2s 実際は、 図 1.8 に示すように、 電子は 1s 電子よりも核に近い領域にも存在し得る。 すなわち、 2s 平均的に 2s みれば、 電子と、原子核及び 1s 電子とのクーロン相互作用は、中心に+Z’e (1<Z’<3) の電荷を置
  • 5. 材料科学の基礎 5/18 いたときの相互作用と同等である。 よって、 (b)の 2p 軌道電子のそれよりも大きなクーロン相 互作用となり、 軌道の方が 2p 軌道よりも軌道エネルギーは低くなる。 以上のような理屈のも 2s と、電子の詰め方をまとめた図を図 1.6.に示す。 矢印の方向に沿って順番に電子を詰めていく。 実際、この順番に従わない原子もあるが、かなりの原子に当てはまる便利なものである。 次に、 p, d 軌道電子,…の順に電子が核より離れていくという事実を古典的な扱いで説明する。 s,  電子の運動を古典的に取り扱うと、電子のエネルギー E は(1.8)式のように表される。 1 Ze 2 E= mev 2 − (1.8) 2 4πε 0 r ここで L は軌道角運動量で、 =| r × p |= mrv と表され、 L また、 1.5)の関係から、 式は次 式( (1.8) 式のように表される。 1 L2 Ze 2 1 l (l + 1) 2 Ze 2 E= − = − (1.9) 2 me r 2 4πε 0 r 2 me r 2 4πε 0 r (1.9)式の両辺を r で微分すると、 ∂E l (l + 1) 2 Ze 2 =− + (1.10) ∂r me r 3 4πε 0 r 2 ∂E (1.10)式で、E は保存されるから、 ∂r = 0 であり、よって電子の平衡距離 re は 4πε 0 l (l + 1) 2 re = (1.11) Zme e 2 ところで、上式は、電子の軌道角運動量が大きくなるほど、その平衡距離が長くなることを 示している(結局のところ、遠心力に よって原子核から引き離されるとい 2s うこと )s, p, d 軌道 ,.. の順に L は大き 3s くなっていくので、よって電子が存 在し得る領域は核より次第に離れて 1s い く ( 図 1.7 を 参 照 。 実 際 、 2p 3p Schrödinger 方程式を解いて得られた 電子の動径方向の存在確率を表して 3d いる) F-3 フントの規則 (Fund’s law, 最大多 重度の規則) 例えば、炭素原子内の基 底状態(最もエネルギーの低い電子 図 1.7  各軌道電子の動径方向確率関数 状態)における電子配置をわかりやす 2 く箱図で記すと次のようになる。ここで、 2p 軌道に 入った電子は図 1.8 のように異なる軌道(箱内)に 入って、同じ方向のスピンを有しているが、一つの軌 道内(箱内)でスピンを互いに逆に向けて対になる 図 1.8 炭素原子の電子配置
  • 7. 材料科学の基礎 7/18 [2]原子(分子)間ポテンシャルエネルギー 原子はふつう単独で存在するよりは、結合して分子を形成 する。 一方、分子は液体や個体といった分子の集合体として 存在することが多い。 これは、原子(分子)間の間にそれら の性質に応じて、さまざまな相互作用が働くことによるもの で、その結果、(2.1)式で示されるようなポテンシャルエネルギ ーが生じる。 図 2.1  原子 ( 分子 ) 間ポテンシ α β U (r ) = − n + m (α , β は定数) (2.1) ャル R R 上式右辺第 1 項は引力項で、第 2 項は斥力項である。 引 力は遠発力 (long-range force) であり、原子(分子)間距離 が比較的大きいところでも有効に作用し、一方、斥力項は 近距離力(short-range force)であり、原子(分子)同士が かなり接近したところで有効に作用する。 これら、引力項、 斥力項のバランスにより、図 2.1 に示すように、ある原子 (分子)間距離 r0[平衡原子(分子)間距離 ]のところでポ 図 2.2(a) NaCl の結晶構造 テンシャルは極小値 U0 (<0) をとる。 |U0|は原子(分子) (図中大きな○が Cl–, 小さな ○が Na+ ) 間の結合エネルギーと呼ばれる。 斥力項は、相互作用する 原子(分子)の電子間の交換斥力に由来し、 (1.8)式における m の値は 9~12 である。 一方、引 力項は、相互作用する原子(分子)の相互作用 (結合形態)の種類、 すなわち、 イオン結合、共 有結合、金属結合、 der Waals 力によって大き van く異なってくる。 2-1 イオン結合代表的なのは図 2.2(a) に示す 塩化ナトリウム(NaCl) である。 イオン化傾向 図 2.2(b) の高い金属原子である Na から価電子が放出さ れ、電気陰性度の高い非金属原子 Cl に取り込ま + – れる。 その結果生じたイオン対 Na と Cl との間に(2.2)式で示されるような静電的相互作 用が作用する。 Z + Z −e2 U (r ) = (2.2) 4πε 0 r ここで、NaCl の場合, Z+ = 1, Z– = –1 である。 ところで、実際の結晶格子中では、上記のイオン対の他にもっと多くの相互作用がある。 + 図 2.2(b)示す格子の中心の⊗で記した Na に着目すると、一番近くにある 6 個の●で示した Cl–イオンと引き合い、その次に近い 12 個の⊙で示した Na+と反発し合い…となる。 こうい った相互作用を全部加算したものは収束し、 その収束値をマーデルング定数(A)という。  そ れを用いるとイオン結晶全体でのエネルギー U は、(2.3)式で与えられる。
  • 8. 材料科学の基礎 8/18 AZ + Z − e 2 12 8 U (r ) = 4πε 0 r , A = 6 − 2 + 3 +  =1.7756 (2.3) + – 上記のエネルギーは約 7 [eV]程度となる。 NaCl 結晶では、Na と Cl はお互い閉殻構造をと るため、その導電性は低く、また、強いイオン結合力のため硬い。 このような性質は、イオン 結合で形成される物質の基本的特性である。 2-2.共有結合 He 原子は 1s 軌道を 2 つの電子が占め、 He 安定な閉殻構造をとっている。 よって、 原子間 に共有結合が生じることはなく、 2 という 2 原子分子は存在しない。 一方、 He 水素原子の 1s 軌道には 1 つの電子しか占有しておらず、 2 安定な電子配置になっていない。 そこで、 つの 水素原子が接近し、それぞれがもつ電子を相手の原子に供給し、互いに共有することで安定 な電子配置を形成する。 これが共有結合形成の要因である。 この共有結合を定量的に取り 扱うためには、量子力学的な取り扱いが必要となるが、それは少し難しいので [4]補足のと ころで説明する。 共有結合のエネルギーは、 eV 程度と大きく、 数 イオン結合と同様、共有結 合性の物質は硬く、融点が高い。 また、軌道に電子が充満して閉殻構造をとっているので、 一般的に導電性が低い。 2-3.金属結合 図 2.3 に孤立した Na 原子中の電子のポ テンシャルエネルギー及び電子配置を示 す。 図で太い曲線で表したものが、電子 のポテンシャルエネルギーで、主に電子 と原子核の核電荷とのクーロン相互作用 に由来する。 また、電子を、各軌道(1s, 2s, 2p, 3s...) のエネルギー準位のところに、上 向 き矢印( up spin )、下向 き矢印 (down spin)で表している。 金属 Na 結晶中では、 多数の Na 原子が連なり、 Na 原子間の中 間で電子が受けるポテンシャルエネルギ ーは図 2.4 に示すように、孤立した Na 原 図 2.3 孤立 Na 原子中の電子のポテンシャル エネルギー及び電子配置 子内のそれより低くなってくる。 その結 果、3s 軌道の電子は、ポテンシャルの壁が なくなって金属結晶中を比較的自由に動き回れる、いわゆる自由電子となる。 この自由電 子は、金属が有する高い導電性と熱伝導度の大きな要因となっている。 図 2.4 金属 Na 結晶中の電子のポテンシャルエネルギー及び電子配置
  • 9. 材料科学の基礎 9/18 2-4.van der Waals 相互作用 気体分子が低温で液体に、さらには固体になったりするが、それは分子間に作用する Van der Waals 力に由来する。 ところで、 der Waals 力には大きく分けて次のような 3 つの相 Van 互作用形態がある。 (i)配向力 (双極子–双極子 相互作用) µ (ii)誘起力 (永久双極子–誘起双極子 相互作用) (iii)分散力(誘起双極子–誘起双極子 相互作用) 以下に個々の相互作用について説明をする。 図 2.5 分子内の電荷の偏り (i)配向力 (双極子–双極子 相互作用) ( 電気双極子 ) 一酸化炭素 (CO) などのように、異なる 2 原子か l  2 ら構成される分子では、それぞれの原子の電気陰 +δ2 性度の違いから、電気陰性度の低い原子から高い E1 +δ 1 –δ2 原子の方へ電子が偏り、分極(電気双極子モーメ µ  2=δ2 l2 ント)が生じる [図 2.5]。 これは、分子が常時固有 l  1 –δ1 に有する電気双極子であるという意味から永久 双極子と呼ばれる。 このような電気双極子を有 µ  1=δ1 l1 する 2 つの極性分子間の相互作用を考える[図 図 2.6 配向力 ( 双極子–双極子 相互作用 ) 2.6]。 その相互作用の本質は、一方の双極子(µ  1)に よって電場が生じ [補足 4-5, (4.40)式)、その電場(Ε  1)ともう一方の分子の双極子 (µ  2)と間に 静電的相互作用が生じることである。 この相互作用ポテンシャル<U>は式で表すと以下の ようになる。 2 1 µ12 ⋅ µ 2 1 2 < U ( R ) >= − (2.3) 3 4πε 0 R 6 kT ここで、 こ 1, µ2 は相互作用する 2 つの極性分子の 永久双極子モーメントで、 T は分子が置かれた空 間の温度 [K]である。 なお、上式の導出の詳細は E1 補足 3-4 を参照。 µ  2= 0 l  1 (ii)誘起力 (永久双極子–誘起双極子 相互作用) 水素分子 (H2) や酸素分子 (O2) のよ うに 同じ 原子 µ  1=δ1 l1 より構成される分子では上述の永久双極子モー +δ2 E1 メントは存在しない、いわゆる無極性分子である。 –δ2 しかし、これらの分子内の電子は外部電場 E の作 µ  2= αE1 用でゆらぎ、その結果、分極して双極子モーメン µ  1=δ1 l1 図 2.7 誘起力 ( 双極子–誘起双極子 相互作 用)
  • 10. 材料科学の基礎 10/18 トト が生じる。 これを式で表すと次式のようになる (図 2.7 参照)。 µ照 αE = (2.4) ここで、こ は分子が固有に有する分極率 (i)で述べた永久双極子モーメントを有する極性分子と無極性分子との間の相互作用のこと である。 で述べた極性分子は、 補足 3.5 (4.40)式で表されるような電場(Ε  1)を形成する。 (i) [4] この電場は、 無極性分子に対する(2.4)式における外部電場 E として作用し、 その結果、 両者 に静電的相互作用 U(R)が生じる。 そのポテンシャルの主要な項は次式のように与えられ る。 2 1  1  μ1 2 U ( R) = − α   2  4πε 0   R6  (2.5) (2.5) ここで、 式の右辺は、極性分子の有する永久双極子モーメント式 1 が空間においてどう いう向きをとっているかに依存しない。 すなわち、 (i) 誘起力は、 の配向力と異なり、 温度に は依存しないことがその特色である。 (iii)分散力(誘起双極子–誘起双極子 相互作用)  この相互作用は“London の分散力”と呼 ばれ、無極性分子(原子)(例えば O2, H2, N2 などの 2 原子分子、あるいは He, Ar などの希 ガス原子)に作用する静電的相互作用のことである。 無極性分子内の電子の運動により、 瞬間的に電子の位置が中心の原子核に対して非対称になり、 その結果、 分子に誘起双極子が 生じる。生じた誘起双極子は電場 E を形成し、それにより、上述の(ii)誘起力で述べたように、 もう一方の無極性分子の双極子を誘起し、両誘起双 極子間に静電的相互作用が生じる。 詳細な導出過 程は省略するが、この分散力を量子力学的な取り扱 いをして計算すると、そのポテンシャル U(R)は次式 で表される。 図 2.7 水素結合 3 1 I1 I 2 α1 ⋅ α 2 U ( R) = − ⋅ (2.6) 2 4πε 0 I 1 + I 2 R6 ここで、i, αi はそれぞれ相互作用する分子のイオン化ポテンシャル(分子から 1 個の電子を I 取り去るのに要するエネルギー)及び分極率である。 分散力は、分極率の大きい、すなわち 外部電場により電子分布のひずみやすい原子・分子間で大きい。  (注: 式(2.6)は、摂動論に基づく量子力学的な取り扱いによって導かれるが、詳細は 「量子化学入 門 、 (下), 米沢貞次郎、永田親義 他共著, 東京化学同人に書かれている) 2-5.水素結合  水素結合は、–X–H···Y– と表されるように、極性の高い X–H 結合(X = O, N, Cl など)と電気陰性度の高い Y 原子との間に作用する相互作用である。 この結合の本 質は、H 原子内の電子が電気陰性度の高い X 原子の方へ引き寄せられることで生じた電気 双極子と隣接する極性分子との間に作用する静電的相互作用である(図 2.7)。 上述の水素結合は、通常の化学結合が、 eV 程度であるのに対し、 数 10–1 [eV]程度の小さな 相互作用である。 しかし、水素結合は生体内において重要な働きを担っている。 具体的な 図 2.8 DNA 主鎖構造
  • 11. 材料科学の基礎 11/18 例として、DNA の二重らせん構造の安定化がある。 DNA の主鎖は、図 2.8 で示すリン酸ジ エステルでつながったデオキシリボースの繰り返しである。 図の塩基と書かれた部位に 図 2.9 で示す 4 種類の塩基が結合する。 図 2.9 DNA に含まれる 4 つの塩基 DNA の二重らせん構造を立体的に図示すると図 2.10 のようになる。 この二重らせん構造の安定化に 寄与しているのは、 上記 4 つの塩基のうち、 2.11 及 図 び図 2.12 で示される特定の塩基間に作用する水素結 合である。この相互作用を DNA 分子内で表現すると 図 2.13 のようになる。 この二重らせん構造の重要性 は 鎖の一方の塩基配列が与えられれば、 、 「 上記の水 素 結合による特異的対形成に基づき、他方の塩基配列が 正確に決まる。 すなわち、鎖の一方が他方のいわゆる 鋳 型 と な り 、 図 2.10 DNA 二重らせん構造 こ の 性 質 が DNA の自己複写機構を可能にする」ことに ある。 図 2.11 アデニン–チミン間の水素結 合 図 2.13 DNA 二重らせん構造における水素結合 図 2.12 グアニン–シトシン間の水素結合
  • 12. 材料科学の基礎 12/18 [3]結晶構造 原子または分子が 3 次元空間内を周期的に正しく配列したもの を結晶とよぶ。これに対して、原子または分子に長周期の規則性が ないものを非結晶(amorphous)と呼ぶ。 図 3.1 に示す結晶は、a, b, c という 3 つのベクトルを 3 稜とする 平行六面体を最小構造単位として、それが 3 次元的に繰り返され たものである。 この繰り返しの最小構造を単位格子、あるいは単 位細胞(unit cell)といい、 3.1 のような、 図 単位格子の集まりを空間 格子 (space lattice) という。 また、各格子の頂点を格子点 (lattice 図 3.1 空間格子 point)という。 単位格子の形や大きさは図 3.2 に示すように、結晶軸 (crystal axis) a, b, c に、各軸間がなす角度 に, β, γを含めた計 6 つの格子定数 (lattice constant)により記述され、 その違いから、表 3.1 及び図 3.3 に示すような計 14 種類のブラベ ー格子(Bravais lattice)が、基本的格子としてかかげられる。 これら は、単位格子の頂点のみに格子点をもつ単純格子(7 種)、単純格子 の中心に格子点をもつ体心(body-centered)格子(3 種)、各面の中 心に格子点をもつ面心(faced-centered)格子(2 種)、及び、上下の底面 の中心に格子点を有する底心(base-centered)格子(2 種)である。 図 3.2 単位格子と格子定数 表 3.1 結晶系とブラベー格子 図 3.3 ブラベー格子
  • 13. 材料科学の基礎 13/18 [4]補足 4-1 Schrödinger の波動方程式はどのように導かれるのか ? 波の方程式 波には、水の波、音の波、テレビやラジオなどの電波をはじめとしていろいろなも のがあるが、振動数の を、伝播速度を v とすれば、どれもひとつの一般式、すなわち次式の正弦 波で表すことができる。 x  y = A sin 2πν  − t  (4.1) v  同様に、同じ振幅、振動数で振動し、その伝播方向のみが逆向きの波同士の重ね合わせで表され る定常波の式は、(4.2)で記述される。 x  x  y = A sin 2πν  − t  + A sin 2πν  + t  v  v  x = 2 A sin 2πν ⋅ cos 2πν t (4.2) v これは、位置 x を含む部分と時間 t を含む部分が分離されているので、前者を(4.3)のように定義 すると、 x φ ( x) = 2 A sin 2πν (4.3) v y = φ ( x ) cos 2πν t (4.4) となる。 上式を x で 2 回偏微分したものと、 で 2 回偏微分したものを比較すると、 式が成立 t (4.5) することがわかる。 ∂ 2φ ( x) 4π 2ν 2 + φ ( x) = 0 (4.5) ∂x 2 v2 これは、 次元の定常波に対する波動方程式(波が従うべき方程式)である。 これを、 次元に拡張 1 3 すると ∂ 2φ ( x, y, z ) ∂ 2φ ( x, y, z ) ∂ 2φ ( x, y, z ) 4π 2ν 2 + + + φ ( x, y , z ) = 0 (4.6) ∂x 2 ∂y 2 ∂z 2 v2 空間に閉じ込められた粒子についての波動方程式 今、粒子のもっている全エネルギーを E と すれば、E は運動エネルギー T とポテンシャルエネルギー V との和である。 E = T +V (4.7) 1 ここで、粒子の質量を m とすれば、運動エネルギーは、 T= mv 2 であり、さらに、運動量 2 p = mv の関係を用いると、(4.7)は次式のように記述される、 p2 E= +V (4.8) 2m すなわち、 p = 2 m( E − V ) (4.9)
  • 14. 材料科学の基礎 14/18 となる。 ところで、(4.10)式で表される de Broglie の式 (粒子の波動性を表す式)を考慮すると、 h h λ= = (h: Planck 定数) (4.10) p mv 上式に、(4.9)式を代入して h λ= 2 m( E − V ) (4.11) ここで、波の速度v = νλ で表されるから、これを考慮し、(4.11)を(4.6)式に代入し整理すると、 Hφ ( x, y, z ) = Eφ ( x, y, z ) (4.12) 2  ∂2 ∂2 ∂2  H =−  2 + 2 + 2  + V ( x, y , z ) : ここで、 2m  ∂x  ∂y ∂z   ハミルトニアン (系の全エネルギーに相当 h する演算子, また、 = 2π である。 上式(4.12)が、時間を含まない Schrödinger の波動方程式と 呼ばれるものである。 4-2 原子内の 1 個の電子に対する Schrödinger の波動方程式 式(4.12)を極座標表示( x = r sin θ cos ϕ , y = r sin θ sin ϕ , z = r cos θ )すると、次式のように表 される。  2  1 ∂  2 ∂  1 L2  H =−  r −  + V (r ,θ , ϕ ) (4.13) 2m  r 2 ∂r  ∂r  r 2  2  ここで、L は電子の軌道角運動量に相当する演算子であり、  1 ∂  ∂  1 ∂2  L2 = − 2   sin θ  +  (4.14)  sin θ ∂θ  ∂θ  sin 2 θ ∂ϕ 2  原子内の 1 個の電子に作用するポテンシャルエネルギー V は、核電荷+Ze を有する原子核との間 に生じるクーロンポテンシャルであり、 (4.15)式で記述される。 1 Ze 2 V =− (4.15) 4πε 0 r これを(4.13)式に代入して得られる次式が、原子内の電子の状態を記述する波動方程式である。   2  1 ∂  2 ∂  1 L2  1 Ze 2   −   r  − 2 2 − φ = Eφ (4.16)  2me  r 2 ∂r  ∂r  r   4πε 0 r  ここで、 e は電子の質量である。 上記(4.16)式の Schrödinger 方程式は解析的に解くことができ、 m 以下のように与えられる (詳細な数学的プロセスは “Quantum Mechanics”, L. I. Schiff 著, 井上 、 「 健 訳, 吉岡書店」(上巻)などを参照)。 φ nlm (r , θ , ϕ ) = Rnl (r )Ylm (θ , ϕ ) l l (4.17)
  • 15. 材料科学の基礎 15/18 (4.17)式が原子内における電子の状態を記述する波動関数であり、は動径波動関数 Rnl (r ) 、及び Ylm (θ ,ϕ ) 波動関数の角部分を表す球面調和関 l で表される。 そして、両関数は以下のようになる。 2 l 4(n − l − 1)!  Z  3  2 ρ  − ρ n 2l +1 R nl (r ) = − 4  n [ (n + 1)!]  a 0 3   n  e Ln + l ( 2 ρ / n )   (4.18a)    n −l −1 [(n + l )!] 2 s k ここで、 L 2 l +1 n+l ( s) = ∑k =0 (−1) k + 2l +1 ( n − l − 1 − k )!(2l + 1 + k )!k! ラゲール(Laguerre)の陪多項式 (4.18b) 4πε 0  2 ρ = (Z / a0 )r , a0 = me e 2 :ボーア半径=0.5292 [Å] (2l + 1)(l − | ml |)! | m | Ylm (θ ,ϕ ) = (−1) ( m +|m |) / 2 l l Pl (cosθ )eim ϕ l l (4.19a) l 4π (l + | ml |)! 1 |ml | d |m | l ここで、 Pl ( w) = (1 − w ) |ml | 2 2 Pl ( w) dw|m | l ルジャルドル(Legendre)の陪多項式 (4.19b) l 1 d Pl ( w) = ( w 2 − 1) : Legendre の多項式 (4.19c) 2 l l! dw l φ nlm (r , θ , ϕ ) また、波動関数 l に関しては次式が成立する。 Hφnlm (r ,θ , ϕ ) = Enφnlm (r ,θ ,ϕ ) l l (4.20) mee 4 Z 2 e2 Z 2 E =− =− ここで、 n (4πε 0 ) 2 2n 2 2 2a0 n 2 (n = 1, 2, 3, ….) L2φnlm (r ,θ ,ϕ ) =  2l (l + 1)φnlm (r ,θ ,ϕ ) l l (l = 0, 1, 2,…, n–1) (4.21) LZ φnlm (r ,θ ,ϕ ) = mφnlm (r ,θ ,ϕ ) l l (ml = –l, – (l–1),…–1, 0, 1, … (l–1), l) (4.22) ϕ L Z = −i  ここで、LZ は軌道角運動量の Z 成分の演算子で、 ∂ϕ φnlm (r ,θ ,ϕ ) 2 式(4.20)~(4.22)は、波動関数 l で記述される電子状態が、演算子 H, L , LZ (L の Z 成分) それぞれ、 n,  l (l + 1) , E ml の固有関数であるとともに、その固有値は量子化され、 で表される ことを示している。 波動関数の解釈(量子力学における最大の仮定)  電子が r~r+dr, θ~θ +dθ, ϕ~ϕ +dϕ の範囲
  • 16. 材料科学の基礎 16/18 | φnlm (r ,θ ,ϕ ) |2 r 2 sin θ dr dθ dϕ = r 2 | Rnl (r ) |2 | Ylm (θ ,ϕ ) |2 sin θ dθ dϕ に見出される確率は、 l l | Ylm (θ ,ϕ ) |2 で与えられる。 その内、 l は、電子軌道の形を表している。 (図 1.3 及び図 1.4 に示 | Ylm (θ ,ϕ ) |2 した各電子軌道の形は、各軌道における l の形そのものである) 3.3 正常 Zeeman 効果 強さ I の電流が面積 S を囲む閉曲線に沿って流れているときは、磁気モーメントをが µ = IS (4.23) の磁石として観測される。…… Ampère の等価磁石の法則 今、これを半径 a の円を、電荷–e の電子が反時計方向に速さ v で回っているとすると、電流 I は式 (4.23)で表される。 e ev I =− = (4.24) T 2πa また、閉曲面の面積 S は、 S = π a 、電子の軌道角運動量 L は、L = me av と記述されるから、 2 電子のもつ磁気モーメント電 は(4.25)式で記述される。 eL µ=− (4.25) 2 me このような磁気モーメントこ電子が真空の磁場内にあると考える。 磁束密度の向きを+Z 方向 にとり、その大きさを B とすると、磁場と磁気モーメントとの相互作用エネルギー U は、 eHLZ L U = −µ ⋅ B = µ Z ⋅ B = = µB B Z (4.26) 2 me  e µB = ここで、 2me : Bohr 磁子 (Bohr magneton) (4.26)式で、電子のもつ軌道角運動量の Z 方向成分 LZ は(4.22)式で表されるように量子化されて おり、それを(4.26)に代入すると、磁気的エネルギー U は、 U = µ B Bml (4.27) 上式のように、磁界中に置かれた原子の磁気的エネルギーは、電子の磁気量子数 ml の違いによっ て異なってくる。 3-4 共有結合 なぜ 2 つの原子間で電子を共有すると結合力が 生じるのか? この疑問は、Heitler と Lomdon により 解決された。 これについて水素分子を使って紹介 する。 2 個の水素原子 A( 陽子 a と電子 1 で構成 ) 及び 図 3.1 水素分子における電子及び原子核(陽子)の配置
  • 17. 材料科学の基礎 17/18 B(陽子 b と電子 1 で構成)が図 3.1 で示されるような配置をもっていたとする。 このとき系全体 のエネルギーに対応するハミルトニアンは、(4.28)式で記述される。 2 2 e2  1 1 1 1 1 1 e2 H =− ∆1 − ∆2 −  + + + − + (4.28) 2m 2 2me 4πε 0  ra1 ra 2 rb1 rb 2 r12  4πε 0 R (4.28)における右辺の第 1, 2 項は 2 つの電子(1, 2)の運動エネルギーである。 また、 ]の中には [ 2 つの電子(1,2)と 2 つの陽子(a, b)とのクーロン相互作用及び電子 (1,2)間のクーロン反発力が記 述されている。さらに、最後の項は陽子(a, b)間のクーロン反発項である。 上記(4.26)のハミルトニアンを用いて、図 4.29 の系が満たすべき波動方程式は、その解である 波動関数及びその固有値を E として、 HΨ = EΨ (4.29) (4.29)式は解析的に解くことはできないので、水素原子が十分に離れているときの電子 1,2 の状 態を記述する波動関数、すなわち 2 つの水素原子の 1s 軌道軌a(1)及び及b(2)の積を積の近似解と する。すしかし、水素分子内では、電子 1, 2 が陽子 a, b のどちらに所属するかは区別できないの で、(4.30)式のように電子 1, 2 を入れ替えた関数を同じ重みで加えてをの近似解とする。 ψ (1,2) = C [ χ a (1) χ b (2) + χ a (2) χ b (1)] (4.30) ここで、C は定数 ここで、電子の存在確率を表す |Ψ (1,2) | を電子 1,2 が存在し得る全空間(体積要素 dτ1 dτ2)に 2 おいて積分したものは 1 であるはず、すなわち ∫Ψ (1,2)Ψ (1,2)dτ 1 dτ 2 =1 * (4.31) が成立するはずであり、従って、これにより定数 C は(4.32)式で与えられる。 1 C= 2(1 + S 2 ) (4.32) S = ∫ χ a (1) χ b (1)dτ 1 = ∫ χ a (2) χ b (2)dτ 2 (4.33) ここで、 上記の S は重なり積分とよばれ、2 個の水素原子の電子軌道の重なりの度合いを表す。 (4.29)式及び(4.31)式より波動関数Ψ (1,2) は(4.33)式で与えられる。 1 ψ = [ χ a (1) χ b (2) + χ a (2) χ b (1)] (4.34) 2(1 + S 2 ) ところで、水素分子のエネルギー E は(4.29)式と(4.31)式から、次式で表される。 E = ∫ ∫ψ * (1,2)HΨ (1,2)dτ 1 dτ 2 (4.35) (4.34)式を(4.35)式に代入し整理すると、水素分子のエネルギー E は(4.36)のように与えられ
  • 18. 材料科学の基礎 18/18 る。 J+K E = 2E H + (4.36) 1+ S 2 ここで、EH は孤立水素原子における 1s 軌道電子のエネルギーである。  2 1 1 ここで、 EH = ∫ χ a (1) −  2 me ∆1 + χ a (1)dτ 1 4πε 0 ra1  (4.37) (注: 上式(4.37)の右辺において、a を b に、あるいは 1 を 2 に置き換えても(4.37)式は成立する) 一方、 K はそれぞれクーロン積分、 J, 交換積分と呼ばれるもので(4.38), (4.39)式で与えられる。 ∫∫ e2 1 1 1 1 J= χ a (1) χ b (2) − − +  χ a (1) χ b (2) dτ 1 dτ 2 (4.38) 4πε 0  r12 rb1 ra 2 R  ∫∫ e2 1 1 1 1 K= χ a (1) χ b (2) − − +  χ a (2) χ b (1)dτ 1 dτ 2 (4.39) 4πε 0  r12 rb1 ra 2 R  以上から、 水素分子形成における共有結合エネルギーについて考える。 (4.36)式において右 辺の第 1 項の 2EH は、2 つの水素原子が十分に離れている際の全電子エネルギーに相当する。 第 2 項におけるクーロン積分 J と交換積分 K はともに負の値をとる。 すなわち、 2 項分 第 だけ水素分子は孤立した 2 つの水素原子の状態よりも安定化することになり、 この第 2 項 が水素分子の共有結合形成における結合エネルギーに相当する。 そこで、この第 2 項に含 まれるクーロン積分 J と交換積分 K の物理的意味合いについて考える。 孤立した水素原子 において、電子はその原子内で陽子とのみクーロン相互作用をする、しかし、水素分子内で はもう一方の水素原子内の陽子との間にもクーロン相互作用が生じ、その分だけより安定 化している。 この安定化が(4.38)式で表されるクーロン積分である。 一方、交換積分 K を定 義した(4.39)式の右辺の被積分関数をながめると、(4.38)式のクーロン積分とは異なり、{ } 部をはさむ水素原子の 1s 波動関数波において、電子の入れ替えが起こっている。  これは水 素分子内において、もはや 2 つの電子の識別がつかないことによる安定化の作用(共有結 合の本質)を定量的に表している。 3-5 配向力 (双極子–双極子 相互作用) 一酸化炭素(CO)などのように異なる 2 原子から構成される分子では、それぞれの原子の電 気陰性度の違いから、電気陰性度の低い原子から高い原子の方へ電子が偏り、常に分極が生 じる。 これは、電気双極子であり、 常に存在するといった意味で永久双極子と呼ばれる。 も し、電荷の偏りの大きさを q[C]で、分子内の 2 原子間距離を l [m]とすれば、分子の双極子モ ーメントー  の大きさはの = ql [Cm]で表される。 ここで、このような永久電気双極子を有する極性分子間の相互作用を考える。 双方の電 気双極子を気 1  及び及 2 とし、それらの中心間の距離を R とする。 ここで、電気双極子こ 1  に よりよ 2 に位置に生じる電界 E1 は (4.40)式で与えられる。
  • 19. 材料科学の基礎 19/18 1  µ1 3( µ1 ⋅ R1R  ) E1 =  R3 −  (4.40) 4πε 0  R 5  このとき、 電界 E1 の元に置かれた電気双極子の 2 に作用する電気的ポテンシャルエネルギ ー U(R)は、次式で与えられる。 U (R ) = − µ 2 ⋅ E 1 (4.41) 式(3.40)を式(3.41)に代入すると、 1  µ1 ⋅ µ 2 3( µ1 ⋅ Rµ µ 2 ⋅ RU )( ) U ( R) = −  R3 −  (4.42) 4πε 0  R 5  上式のポテンシャルは 2 つの電気双極子の内積に依存する。すなわち、双極子同士がなす角 度に依存する。 しかし、実際の場面において、分極分子はともに熱運動をしているので、 両 者の双極子のなす角度者 はさまざまな値を取り得る。 従って、2 分子間に作用するポテン シャルは、それらの双極子がなす角度分布で平均化されたもの<U(R)>になる。 それを式で 表せば、次式になる。 ∫ < U ( R ) >= U ( R;θ ) P (θ ) (4.43) ここで、P(θ)は、両双極子のなす角度がは である確率である。 ところで、熱運動をしている分極分子間の双極子同士がと の角度をなす確率 P(θ)は、その ときのポテンシャルを U(R,θ)とすれば、Maxwell-Boltzmann 分布 e –U(R, θ)/kT  (T は分極分子の 温度 [K])に比例するはずである。 これを式で表すと、 U ( R ,θ ) ∫ U ( R , θ )e − kT sin θdθ < U >= U ( R ,θ ) (4.44) ∫e − kT sin θdθ 上式は、近似的には(4.45)式のように与えられる。 2 1 µ12 ⋅ µ 2 1 2 < U >= − (4.45) 3 4πε 0 R 6 kT 3-6 誘起力 (永久双極子–誘起双極子 相互作用) 水素分子(H2)や酸素分子(O2)のように同じ原子より構成される分子では上述の永久双極子 モーメントは存在しない、 いわゆる無極性分子である。 しかし、これらの分子内の電子は外 部電場 E の作用でゆらぎ、その結果、分極して双極子モーメントの が生じる。 これを式で表 すと次式のようになる。 µと αE ここで、こ は分子が固有に有する分極率 (4.46) = また、これにより無極性分子に作用するポテンシャルエネルギーは、次式のようになる。 1 U = − αE 2 (4.47) 2 上記のことをもとにして誘起力について考える。 誘起力とは、(i)で述べた永久双極子モー メントを有する極性分子と無極性分子との間の相互作用のことである。その相互作用の本 質は、極性分子により生じる式(4.40)で表される電場 E が無極性分子の、外部電場 E として
  • 20. 材料科学の基礎 20/18 作用し、 (4.47)で与えられるポテンシャルをもたらす。 式(4.40)を式(4.47)の E に代入する 式 と、相互作用ポテンシャルは、次式のように与えられる。 2 2 1  1   µ 3( µ ⋅ RRR  ) U ( R) = − α    3− 2  4πε 0   R  R 5   2 1  1   μ2  = − α   6 + ..... 2  4πε 0   R    (4.48) ところで、上式右辺における[ ]主要な第 1 項は、極性分子の有する永久双極子モーメントが 空間においてどういう向きをとっているかに依存しない。 その結果、この誘起力は、先の配 向力と異なり、温度には依存しないことがその特色となる。
  • 21. 材料科学の基礎 21/18 参考図書及び図の出典 図 2.1, 図 2.7 「電気・電子材料」  中澤 道夫 他著 コロナ社 ISBN 4-339-01191-6 図 1.1, 図 1.3, 図 1.4, 図 3.1 「三訂 量子化学入門 (上)」 米沢貞次郎 他著 化学同人 ISBN 4-7598-0097-2 「三訂 量子化学入門 (下)」 米沢貞次郎 他著 化学同人 ISBN 4-7598-0098-0 図 1.6~図 1.8 「ヒューイ無機化学 (上)」 James E . Huheey 著 小玉 剛二・中沢 浩 訳 東京化学同人 ISBN 4-8079-0236-9 図 2.2(a), (b), 図 2.3, 図 2.4, 表 3.1, 図 3.1~図 3.3 「材料科学」 坂田 亮 著 培風館 ISBN 4-563-03159-3 図 2.8~図 2.13 ス ト ラ イ ヤ ー 生 化 学 ( 下 ) Lubert Stryrer 著 田 宮 信 雄 他 訳     東 京 化 学 同 人 ISBN 4-8079-0130-3