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長距離伝送における光位相変調方式の分散耐力に関する研究




           大阪大学 工学部
         電子情報エネルギー工学科
            通信工学科目
              中村 哲也

          平成 19 年 2 月 19 日
i




内容梗概

 近年、インターネットにおけるトラフィックは急増しており、利用者数の増加、アプリケーションの多
様化により、今後さらなる増加が予想される。それに伴い、データの集中するバックボーンネットワーク
では、高速化・大容量化が求められている。しかし現在バックボーンネットワークで用いられている変調
方式である OOK 方式は、伝送性能に悪影響を与える分散・非線形効果・雑音の影響を大きく受けてしま
うため、伝送速度や伝送距離の向上に限界があり、将来ボトルネックが生じると考えられている。そこで
OOK 方式に代わり次世代のバックボーンネットワークに使用する、新たな変調方式の研究・開発が急務
となっている。
 そのような背景から様々な変調方式が検討されているが、今日注目されているのが位相変調方式であ
る。位相変調方式は先ほど述べた伝送性能に悪影響を与える要素に強いことがわかっており、長距離・大
容量伝送に適した変調方式である。その中でもっとも構成がシンプルな BPSK 方式を用いた様々な長距
離伝送実験が行われている [1]。また、最近ではスペクトル利用効率を更に向上させるために 1 つのシン
ボルで 3 値以上を表すことのできる多値位相変調にも注目が集まっている。その中でも 1 つのシンボルで
4 値を表すことのできる QPSK 方式は検波方法も確立し、実験において伝送に成功している [1]。
 そこで本研究では次世代に要求されると予想される長距離・大容量伝送、具体的な数値として 130Gbps
で 1000km 伝送に適した光位相変調方式を特定するために、残余分散や偏波モード分散に対する各位相
変調方式の耐性比較をシミュレーションにて行った。130Gbps を達成するために 1 波 65Gbps の信号を
2 波の偏波を直交させ伝送することとした。そのため、残余分散への耐性を検討するときには、BPSK 方
式・QPSK 方式それぞれ 1 波 65Gbps のみで伝送性能比較を行い、続いての偏波モード分散耐性を検討
するときに偏波多重させ 130Gbps としてシミュレーションを行った。そして、その結果 BPSK 方式に対
して QPSK 方式の方が残余分散や偏波モード分散に対して耐性があり、長距離伝送に適していることを
示した。
ii




目次


第1章    序論                                                                                               1

第2章    PSK 方式の基本原理・動作特性                                                                                 4
2.1    緒言 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .     4
2.2    BPSK 方式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .        4
      2.2.1   BPSK 方式の基本原理・特徴 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .                   4
      2.2.2   RZ-BPSK 送信器 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .           6
      2.2.3   直接検波 BPSK 受信器 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .               7
2.3    QPSK 方式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .        8
      2.3.1   QPSK 方式の基本原理・特徴 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .                   8
      2.3.2   RZ-QPSK 送信器 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .          10
      2.3.3   直接検波 QPSK 受信器 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .              10
2.4    結言 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .    11

第3章    シミュレーションモデルの設計                                                                                  13
3.1    緒言 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .    13
3.2    スプリット・ステップ・フーリエ法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .                        13
      3.2.1   スプリット・ステップ・フーリエ法の概略 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .                            13
      3.2.2   線形演算子の具体的表現                . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .   14
      3.2.3   非線形演算子の具体的表現 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .                   17
3.3    計算機シミュレーションモデルの設計 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .                         17
3.4    評価方法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .        20
3.5    結言 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .    21

第4章    シミュレーションの結果                                                                                     22
4.1    緒言 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .    22
4.2    出力波形の比較 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .           22
      4.2.1   入力電力による比較 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .              22
      4.2.2   残余分散耐性による比較                . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .   23
4.3    伝送シミュレータによるシミュレーション . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .                             28
目次                                                                                                    iii

 4.4   結言 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .   30

第5章    結論                                                                                             31

謝辞                                                                                                    32

参考文献                                                                                                  33
1




第1章

序論

 近年、インターネットトラフィックは急激に増加している。主要インターネットプロバイダー 6 社か
らブロードバンド契約者へのダウントラフィックが 2004 年では 111.8Gbps であるのに対し、2006 年に
は 226.2Gbps と約 2 倍の増加になっている。この背景として、インターネット加入者の急増、インター
ネットを流れるコンテンツの情報量増加が挙げられる。国内のインターネット利用者は、1997 年には
1155 万人であったのに対し 2005 年には 8529 万人に達し、普及率も 66 %を超えている [3]。また ADSL
(Asymmetric Digital Subscriber Line) や FTTH (Fiber To The Home) の導入によって、アクセス系の
高速化が実現され、P2P・高画質映像のストリーミング配信・電話・音楽・ソフトウェア配信など、利用
されるコンテンツの種類も拡大している。また、IPv6 の普及に伴う情報源の増加や携帯端末におけるコ
ンテンツの利用拡大が予想され、ネットワークのトラフィックは今後さらに増加すると考えられている。
これに伴い、データの集中するバックボーンネットワークにおいて、さらなる高速化、大容量化への対応
が急務となっている。
 現在、その打開策として、伝送容量を増大するために、光時分割多重 (Optical Time Division Mul-
tiplexing:OTDM) 方式や波長多重 (Wavelength Division Multiplexing:WDM) 方式が導入されている。
OTDM 方式とは、同じ波長の光信号を時間で分割し多数のチャネルに割り当てる多重通信方式であり、
2001 年には 1.28Tbps の OTDM 実験の結果が報告されている [4]。また、WDM 方式とは、1 本の光
ファイバに複数の波長チャネルを割り当てる多重通信方式である。WDM1 チャネルあたりの通信容量は
増加しており、研究レベルでは、1995 年頃には 20Gbps×8 波の通信容量 [5] しかなかったが、2001 年に
は 10Tbps を越える 42.7Gbps×273 波の実験が報告されている [6]。
 今日、バックボーンネットワークには On/Off Keying(OOK) 方式が用いられている。これは、送信
データに光パルス強度を対応させる強度変調 (Amplitude Shift Keying:ASK) の一方式であり、デー
タ”1”、”0”を光パルスが”存在する”、”存在しない”に対応させた変調方式である。OOK 方式は送受信
機の構成が簡単であるため、アクセス系ネットワークからバックボーンネットワークまで幅広く用いられ
ている。しかし、OOK 方式はパルス強度に情報を乗せているため、光ファイバのもつ分散性によるパル
ス拡がり、非線形性によるスペクトル拡がり、光アンプを通した時に加わる自然放出増幅光 (Amplified
Spountaneous Emission:ASE) 雑音などによる強度揺らぎの影響を強く受けてしまう。そのため伝送速
度や伝送距離が制限される。
 そのため、従来からの OOK 方式を用いたバックボーンネットワークにおいて伝送速度は向上してい
第 1 章 序論                                                                    2

るものの、それを上回る速度でインターネットトラフィックは増加しているため、将来的にバックボーン
ネットワークにおいてボトルネックが生じると予想される。
 そこで、バックボーンネットワークの更なるの高速化を実現するための手段として、従来の OOK 方
式に代わる変調方式への関心が高まっている。その中で今日注目されているものとして、Frequency
Shift Keying(FSK) 方式、Phase Shift Keying(PSK) 方式、多値 ASK 方式、Quadrature Amplitude
Modulation(QAM) 方式などが挙げられる。
 FSK 方式は、周波数にデータを割り振り周波数をデジタル信号で変調し、受信側では光ヘテロダイン
あるいは光の遅延検波器を用いて受信する方式である。OOK 方式のように振幅に情報を乗せないため、
強度雑音に強い利点がある。他に、MSK(Minimum Shift Keying) 方式など狭帯域 FSK 方式の利用や、
広帯域 FSK 方式と狭帯域光フィルタを併用することで従来の FSK 方式よりスペクトル利用効率を向上
でき、半導体レーザの直接変調により FSK 方式を実現することで送信器構成がより簡易になるなどの特
徴がある。一方で 1 チャネルにおける周波数占有帯域が大きくなってしまうことがこの変調方式の欠点で
ある。WDM システムにおいて複数のチャネルを多重化する時、当然のことながら 1 つのチャネルに与
えられた周波数帯域は狭い方が多くのチャネルを多重化することができる。しかし、FSK 方式は1チャ
ネルあたりの占有帯域が広いため、スペクトル利用効率が落ちる。また、1 チャネルにおける通信速度を
挙げるためには周波数のより高速な切り替えが必要になってくる。しかし、高速に周波数をスイッチし、
長期的に安定な光源を開発するのは難しいため、1 チャネルあたりの通信速度が向上することはあまり見
込めない。WDM システムが主流の現在では FSK 方式は、長距離大容量伝送には適していないと考えら
れる。
 PSK 方式は搬送波の位相を、データ”0”、”1”にあわせて”0”、”π”に変化させて情報を送る変調方式で
ある。これも FSK 方式同様、振幅に情報を乗せないため強度雑音に耐性がある。また一般に、同じ bit 誤
り率 (Bit Error Rate:BER) を得るために必要となってくる搬送波対雑音比 (Carrier to Noise Ratio:C/N
比) も、OOK 方式に比べて 6dB、FSK 方式に比べて 3dB よいことが知られている。また、BPSK 送信
器は OOK 同様に構成が簡素であるが、一方で受信機は OOK 方式に比べて複雑になるといった特徴を持
つ。しかし、バックボーンネットワークで用いる時には、送受信機の複雑性よりも高速化において問題と
なる、分散や非線形効果に対する耐性の方が重要視されるため、PSK 方式を用いた長距離伝送の研究が
主流となっている。
 また近年、多値 ASK 方式というものも研究されてきた。これは OOK 方式が 2 値振幅の ASK 方式で
あるのに対して、4 値振幅、8 値振幅の ASK 方式のことである。こうすることでひとつのシンボルスロッ
トに 2 倍、4 倍の情報を乗せることができるようになるため、現在用いられている OOK 方式と同じビッ
トレートを得るために必要なシンボルレートは 1/2、1/4 で済み、分散に対する耐性は向上する。一方で
電力レベルが現状の 3 倍、7 倍必要になり、非線形効果が大きくなってしまう。そのため、長距離の伝送
には適していないと考えられる。
 さらにこの多値 ASK 方式と PSK 方式を組み合わせた QAM 方式というものも検討されている。これ
は、3 値以上の強度レベルを持つ位相変調方式であり、1 つの強度レベルに対して複数の位相レベルを与
え、それを複数の強度レベルでも同様に行うことで1シンボルあたりで伝送できる情報量を増やしたもの
である。最近では、20Msymbol/s の 64 値ならびに 128 値 QAM 信号の伝送実験が報告されている [8]。
 ここ数年は、遅延干渉計を用いて復調する差動位相変調 (Differential Phase-Shift Keying:DPSK) 方
第 1 章 序論                                                         3

式を中心に検討されてきたが、さらに進んだ変復調方式技術についての検討が進展した。特に、情報伝
送に用いる位相状態を DPSK 方式の 2 相から 4 相に増やして多値化した差動 4 値位相変調 (Differential
Quadrature Phase-Shift Keying:DQPSK) 方式の検討が進み、DQPSK 光信号を用いた伝送実験に関す
る報告が多数あった。DQPSK 方式の最大の利点はスペクトル利用効率の向上、つまり、同一のビット
レートを得るためのシンボルレートを低減できることであり、これにより、信号スペクトル幅の狭窄化、
各種伝送制限要因に対する耐力向上が得られると共に、光/電子部品の所要周波数帯域も低減できる。1
チャネル当たりの伝送速度を 40Gbps とした長距離大容量伝送実験に関する報告では、RZ-DPSK 方式と
RZ-DQPSK 方式の特性比較が行われ、RZ-DQPSK 方式は非線形位相雑音の累積の影響をより大きく受
けるが、波長分散・偏波モード分散 (Polarization Mode Dispersion:PMD) に対する耐力は大きくなるこ
とが示された [9]。また、DQPSK 信号によるシンボル速度の低減の効果を伝送速度の高速化に利用する
検討も進められ、DQPSK 光信号と OTDM、偏波多重を併用することで、単一チャネルの伝送速度とし
ては最高となる 2.56Tbps 伝送実験も報告された [10]。偏波多重とは、1つの周波数帯に2つの直交偏波
を利用することであり、隣り合うパルスの偏波は互いに直交している。こうすることで隣接パルスでの相
互干渉の影響を減らすことができ、片偏波でのデータ伝送量の 2 倍の伝送量を実現できる。
 以上のような長距離大容量伝送のための変調方式における最近の動向を踏まえた上で、本研究では非
線形効果や雑音に強く、長距離伝送に適していると考えられている BPSK 方式と、波長分散に強くスペ
クトル利用効率も良い 4 値位相変調 (Quadrature Phase Shift Keying:QPSK) 方式について、比較を
行っていく。なお、長距離伝送のひとつの目標として、一偏波あたり 65Gbps のパルスを偏波多重させて
130Gbps、1000km の伝送を行う、というものを定めた。
 以下に本論文の構成を示す。第 2 章では、本研究で比較する 2 つの変調方式、BPSK 方式と QPSK 方
式についての基本原理や送受信機の構造を示す。第 3 章では、実際に計算機で行ったシミュレーションの
モデル設計と伝送性能の評価方法について説明を行う。第 4 章では、シミュレーションによって得られた
結果と考察を示す。第 5 章では、結論として本研究で得られた成果の総括を行う。
4




第2章

PSK 方式の基本原理・動作特性

2.1     緒言
 本章では、BPSK 方式・QPSK 方式について、それらの基本原理・特徴や、送信器と受信器の構成に
言及する。まず、BPSK 方式において、同期型と差動型の 2 つの変調方式について説明し、その特徴を
比較、どちらが今回のシミュレーションに適しているかを述べる。また、搬送波として用いるのに RZ 信
号と NRZ 信号のどちらが良いか比較する。続いて差動型の送信器の構成に言及し、受信器の節において
は、今回の検波方法として用いたバランスレシーバーについての仕組みとどのようなアイパターンが得ら
れるかを示す。その後、QPSK 方式についても同様に述べる。



2.2     BPSK 方式
2.2.1   BPSK 方式の基本原理・特徴
 BPSK 方式とは、データ値”0”と”1”に応じて搬送波の位相を変化させる変調方式であり、現在、同期
BPSK 方式と差動 BPSK(Differential BPSK:DBPSK) 方式が提案、検討されている。またそれぞれに、
搬送波としてパルス光源を用いた Return-to-Zero(RZ)-BPSK 方式と、連続光 (Continuous Wave:CW
光) 光源を用いた NRZ-BPSK 方式がある。同期 BPSK 方式とは、図 2.1 のように、データ値”0”と”1”
をそれぞれ搬送波の位相”0”と”π”に対応させて変調させる変調方式である。DBPSK 方式とは図 2.2 の
ようにデータ値を隣り合うシンボル間の位相差に対応させたもので、データ値”0”なら前のシンボルと
の位相差を 0 にして、”1”なら位相差を π にする。表 2.1、表 2.2 には、それぞれの符号化の一例を示し
た。データが”110101”の場合、同期 BPSK 方式では、表 2.1 のようにパルスの位相は”π π 0 π 0 π”に、
DBPSK 方式では、表 2.2 のように”π 0 π π 0 0 π”となる。

        表 2.1   同期 BPSK 符号化の例                 表 2.2 DBPSK 符号化の例

        情報文       1 1 0       1   0 1        情報文            1       1 0       1       0 1
      対応する位相      π   π   0   π   0   π   差動符号化された情報    1       0   1 1           0   0 1
                                            対応する位相      π   0 π           π       0 0       π
第 2 章 PSK 方式の基本原理・動作特性                                         5


                 I                             I
            1        Q 0               0       1   Q 0
                                           1

 図 2.1   同期 BPSK のコンステレーションマップ   図 2.2 DBPSK のコンステレーションマップ



 図 2.3 には同期 BPSK 方式と DBPSK 方式の送受信器の基本構成を示した。(a) 及び、(c) に示したも
のが同期 BPSK 方式の送信器と受信器である。受信器にはヘテロダイン受信器が用いられ、その際、縦
モード光 (Longitudinal Optical:LO) レーザーの波長は信号光の波長にあわせる。こうすることで、光カ
プラにおいて信号光と LO レーザーの同期が取れ、情報を復元することができる。
 (b) と (d) に示したものは DBPSK 方式の送信器と受信器である。受信器では非対称のマッハツェン
ダー干渉計 (Mach-Zehnder Interferometer:MZI) による直接検波が用いられる。光カプラで信号を二つ
に分けた後、シンボル時間 TS に一致した光路長差を与えてもう一度光カプラで結合させる。こうする
ことで 1bit 前のシンボルと干渉するため、差動化された情報を復調することができる。バランスレシー
バーは、干渉器の後に乗算器として置かれ、電気変換器の役割を担う。
 同期 BPSK 方式と DBPSK 方式を比較すると、同期 BPSK 方式に比べ DBPSK 方式は送信機の構造
が複雑である。これは変調する際、DBPSK 方式は、データを一旦プリコーダーに通す必要があるためで
ある。しかし、DBPSK 方式を用いることである所望の BER を得るための C/N 比が改善されることが
知られている。これにより、同期 BPSK 方式に比べ、DBPSK 方式は小さな電力で同期 BPSK 信号と同
じ BER を得ることができ、効率が良いと言える。また、強度変動に伴う非線形光学効果、例えば自己位
相変調効果や相互位相変調効果を受けたとしても、パルスごとの電力は全て一定なため、位相変調効果の
影響は全てのパルスに同様であり、そのためパルス間での位相差に変化はない。そのため、光ファイバー
中での非線形光学効果に耐性があると言える。
 続いて NRZ 方式と RZ 方式の特徴を示す。NRZ 方式の利点として、スペクトル幅が RZ 信号に比べて
狭いということが挙げられる。よって現在はこの特長を生かして WDM システムに用いられ、大容量伝
送を実現させている。しかし、これ以上の大容量伝送を実現するために、1 チャンネル当りで伝送速度を
あげようとすると、S/N 比を充分とるために信号電力を大きくする必要があり、結果として非線形効果が
発生し、たとえ群速度分散が 0 になるようなファイバーを用いても波形歪みを伴うことが分かっている。
この結果、1 チャネル当りの伝送速度は NRZ 方式では 5Gbps 以上にすることは困難とみなされている。
一方、RZ 方式は NRZ 方式に比べてパルス幅が狭く、スペクトル幅が広くなるという特徴がある。この
ため、WDM を行うときには NRZ に比べてスペクトル利用効率が落ちてしまう欠点がある。しかし電力
が 0 まで落ちているところがあるため、NRZ 方式で問題となっていた非線形効果が起こりにくいという
利点がある。
 以上のことを踏まえるとバックボーンネットワークでは、システムの複雑性より、分散、非線形に対す
る耐性の方が重要視されるため、本研究では DBPSK 方式を用いる。また長距離伝送において、非線形
第 2 章 PSK 方式の基本原理・動作特性                                                                                 6

効果は伝送性能に影響を与えるほど大きいため、非線形効果への耐性の大きい RZ 方式を用いた。尚、本
論文では以後、DBPSK 方式のことを単に BPSK 方式と表記する。


        ataD              revirD             ataD       redocerP                revirD

                                                             ST


          .doM e sahP                                                                    .doM e sahP
                   rettim snarT KS PB )a(                    re ttimsna rT KSPD )b(

                    relpuoC
        re saL OL
                                                                           ST



          rev ieceR KS PB enydor ete H )c(                   reviece R KSPD noitceteD-tceriD )d(
                                   図 2.3 BPSK 送受信器の基本構造




2.2.2   RZ-BPSK 送信器

 図 2.4 は RZ-BPSK 信号を生成するための送信器であり、強度変調器と位相変調器が直列になってい
る。強度変調器には、その搬送波の基本位相に対して位相の変化がない、ゼロチャープな RZ パルス列を
生成することが望まれる。位相変調器は RZ-BPSK 信号を生成するために RZ 信号の位相を変調する。図
2.3(b) と似ていて、位相変調器の駆動信号は、前もって入力情報を差動符号化するためにプリコーダーに
通しておく必要がある。これは図 2.3(d) の直接検波干渉器を用いて位相差から情報を復調できるように
するためである。
 図 2.4 のパルス生成器は、データ元と同期された sin 信号で駆動している強度変調器である。また、最


                                           y tisnetnI             e sahP
                                              .doM                 .doM



                                   .cnyS
                                                 redocerP
                                      ataD
                                                        ST

                                   図 2.4 RZ-BPSK 送信器の構造
第 2 章 PSK 方式の基本原理・動作特性                                                         7


                          2 relpuoC )t(1E 1 relpuoC
                 )t(0E
                                                           )t(nocE   )t(i
                             )t(2E       T
                                         S      )t(2’E
                                                         )t(sedE

                          図 2.5   直接検波 BPSK 受信器の基本構造




高のパフォーマンスを出すためには、位相変調器に入力される RZ パルスと差動符号の同期も取っておく
必要がある。


2.2.3   直接検波 BPSK 受信器

 図 2.5 に直接検波型の受信器を示す。これの基本的な部分は MZI とバランスレシーバーからなって
いる。
 光フィルタを通り、受信器に入射した電界 E0 は 3dB 光カプラ 1 で分光され、それぞれの電界 E1 、E2
は E0 を用いて

                                               1
                                     E1 (t) = √ E0 (t)                      (2.1)
                                                2

                                                 1
                                     E2 (t) = i √ E0 (t)                    (2.2)
                                                  2
と表される。さらに分光された電界のうち一方は遅延量 Ts の 1bit 遅延器を通過する。そのため、1bit 遅
延器通過後の電界 E2 は式 2.2 より

                                              1
                                  E2 (t) = i √ E0 (t − Ts )                 (2.3)
                                               2
となる。そして 3dB 光カプラ 2 で E1 と E2 は合波され、図 2.5 の上側のポート、下側のポートの電界
Econ (t)、Edes (t) はそれぞれ
                                         1
                            Econ (t) =     [E0 (t) + E0 (t − Ts )]          (2.4)
                                         2

                                         i
                            Edes (t) =     [E0 (t) − E0 (t − Ts )]          (2.5)
                                         2
と表される。尚、隣り合うパルスのの電界の和が出力されるポートを Constructive Port と言い、差が出
力されるポートを Destructive Port と言う。このときそれぞれのポートで出力される波形を図 2.6 に示
す。Constructive Port では隣り合うパルスの位相差が 0 の時パルスが立ち、一方の Destructive Port で
は位相差が π の時パルスが立つ。
第 2 章 PSK 方式の基本原理・動作特性                                                                                   8

         ∆φ    0     π      0             0         π                 ∆φ   0      π    0      0   π
 Power




                                                              Power
                           Time                                                       Time
                   Constructive Port                                           Destructive Port
                                                  図 2.6   干渉後出力される波形


                                          i(t)
                                                                           ∆φ=0
                                  Power




                                                                           ∆φ=π



                                                                 Time

                         図 2.7 BPSK 信号をバランスレシーバーで受信した時のアイパターン




 バランスレシーバーにはこの二つのポートの出力を入力し、電気的に処理される。その出力 i(t) は以下
のとおりとなる。

                                                 i(t) = |Econ (t)|2 − |Edes (t)|2                     (2.6)

そしてこのとき得られるアイパターンは図 2.7 のようになる。Constructive Port・Destructive Port ぞ
れから情報を復元することは可能だが、バランスレシーバーで検波することで受信感度が 3dB 良くなる
ことが知られている。そのため、本研究で検波をする際にはバランスレシーバーを用いることにした。



2.3           QPSK 方式
2.3.1         QPSK 方式の基本原理・特徴

 QPSK 方式とは、データ値”00”、”01”、”10”、”11”に応じて搬送波の位相を変化させる変調方式で、
1 シンボル内で従来の 1 ビットではなく 2 ビットを伝送することができる。無線システムで昔から用いら
れている変調方式を光に適用したものである。
第 2 章 PSK 方式の基本原理・動作特性                                                                              9

 QPSK 方式にも同期 QPSK 方式と DQPSK 方式の 2 種類がある。同期 QPSK 方式とは、図 2.8 のよ
うに、データ値”00”、”01”、”11”、”10”をそれぞれ, 搬送波の位相”0”、”π/2”、”π”、”3π/2”に対応さ
せて変調する変調方式である。DQPSK 方式とは図 2.9 のようにデータ値を隣り合うシンボル間の位相差
に対応させたもので、前のパルスとの位相差が 0 ならデータ値”00”を、π/2 なら”01”を、π なら”11”を、
3π/2 なら”10”を表す。表 2.3、表 2.4 には、それぞれの符号化の一例を示した。データが”11011000”の
場合、同期 QPSK 方式では、表 2.3 のようにパルスの位相は”π π/2 3π/2 0”に、DQPSK 方式では、表
2.4 のように”0 π π/2 π π”となる。

                       I                                I
                  10                       00                            00
                                                       10
                                                       01
                                 Q 00            01  11                       Q
          11                                  10        01 10
                                                    01
                                           00       10        00
                       01

 図 2.8   同期 QPSK のコンステレーションマップ           図 2.9 DQPSK のコンステレーションマップ




          表 2.3   同期 QPSK 符号の一例                 表 2.4 DQPSK 符号の一例

          情報文          11 01    10 00       情報文                 11       01       10       00
                            π   3π
         対応する位相        π    2    2   0   差動符号化された情報         0        2        1        2        2
                                                                              π
                                           対応する位相           0    π            2        π        π


 QPSK 方式は、ASK 方式や FSK 方式など他の変調方式に比較し、BPSK 方式と似通った特徴を持つ。
また同じビットレートの BPSK 方式と比較した場合、1 シンボルにおけるパルス幅が 2 倍で、変調スペ
クトル幅は 1/2 となる。したがって波長分散耐力は理論的には 4 倍になり、PMD 耐力も理論的には 2 倍
に上る。さらにはスペクトル利用効率の向上や、電子回路の周波数帯域が半分でよいといった利点を持
つ。一方で、BPSK 方式と比べて C/N 比が厳しくなるといった欠点を持つ。これは図 2.1 と図 2.8、ま
たは図 2.2 と図 2.9 を見比べてもわかるように、QPSK 方式が BPSK 方式に比べて位相配置の間隔が狭
く、強度・位相雑音に敏感であるためである。従って受信 C/N 比を確保するためには伝送路中の平均電
力を大きくする必要があり、結果として非線形効果の影響が大きくなってしまう。また、変調器にプリ
コーダーを用いたり、受信器では MZI が 2 つ必要になってくるなど、構成が複雑になってしまうという
欠点がある。
 本研究では BPSK 方式の時に述べたように、同期変調方式より差動変調方式の方が長距離伝送に向い
ていると考えられるため、DQPSK 方式を採用した。なお、これより後に QPSK 方式といえば DQPSK
第 2 章 PSK 方式の基本原理・動作特性                                                                  10

方式を指すものとする。また、搬送波には BPSK 方式と同様に RZ 信号を用いる。


2.3.2    RZ-QPSK 送信器

 QPSK 信号の生成には、図 2.10 で示した 2 駆動 MZ 変調器が用いられる。これは、変調器に 2 つの駆
動電圧 V1 と V2 を加えて変調するもので、位相が π となるような電圧 Vπ をそれぞれに入力する。こう
して作り出したもののうち一方を π/2 位相シフトさせてその二つを加えることで 4 つの位相を持つパル
ス列を作り出す。この方法を用いた QPSK 送信器は図 2.9 のようなコンステレーションを作り出す。
 ほかに、QPSK 信号は直列につないだ2つのバイナリ位相変調器で生成することもできる。1つ目の
強度変調器で BPSK 方式の時と同じように、位相が 0 と π を持つゼロチャープの RZ パルスを作り出し、
2つ目の位相変調器で π/2 の位相変調を行えばよい。
 さらに他の方法として、4つの電圧レベルを与えて一気に 4 つの位相を持つパルス列を生成することの
できる位相変調器を用いる方法もある。しかし駆動電圧レベルを4値生成することは容易ではないため、
あまり用いられない。


                                                         ev irD-lauD
                  V1   tfihs 2/π                             .doM          .d oM ZR


                  V2
                                              ataD        redocnE
        図 2.10 2駆動 MZ 変調器の基本構造
                                                                        .cnyS
                                               図 2.11 MZ 変調器をもつ RZ-QPSK 送信器


 RZ-QPSK 信号の送信器は図 2.11 で示したような 2 駆動 MZ 変調器と強度変調器で構成されている。
2 駆動 MZ 変調器の出力信号は位相揺らぎはないが強度揺らぎがあるといった特徴がある。この信号を強
度変調器に通すことにより、強度揺らぎが抑えられ、位相・強度に揺らぎのない RZ-QPSK 信号が得ら
れる。


2.3.3    直接検波 QPSK 受信器

 QPSK 信号の復調には、BPSK 方式の時にも用いた MZI を2つ用いる。その基本構成を図 2.12 に示
した。受信器に入射した電界 E0 は、3dB 光カプラで分光され、それぞれ MZI を通る。この際 1bit 遅延
器側の位相をさらに ±π/4 回転させる。ここで、受信した電界を E0 (t) = Aejφs (t) として、3dB 光カプ
ラとバランスレシーバーを理想的なものとしたとき、図の上側出力における光電流 iI (t) は
                                  A2
                       iI (t) =      cos[φs (t) − φs (t − TS ) + π/4]                 (2.7)
                                  2
下側出力の光電流 iQ (t) は
                                  A2
                       iQ (t) =      cos[φs (t) − φs (t − TS ) − π/4]                 (2.8)
                                  2
第 2 章 PSK 方式の基本原理・動作特性                                                   11




                                        IZ M                 )t( i
                                                             I


                   )t( E
                    0                     S
                                           T
                                               tfihs 4/π+
                                        IZ M                 ) t( i
                                                             Q


                                         S
                                           T
                                               tf ihs 4/π-
                           図 2.12   直接検波 QPSK 受信器の構造




となる。
 ここで、MZI に通した時に 1bit 遅延させる側の位相をさらに ±π/4 回転させる理由を説明する。一
方を ±π/4 回転させたものの I 側、Q 側の Constructive Port・Destructive Port における電界 EIcon 、
EIdes 及び EQcon 、EQdes の電力波形は図 2.13 のようになる。またそのピーク電力は

                                                 1 A2
                               iImax|∆φ=0,π/2 = √                      (2.9)
                                                  2 2


                                                   1 A2
                              iImax|∆φ=π,3π/2 = − √                   (2.10)
                                                    2 2


                                                    A2
                                iQmax|∆φ=0,3π/2 =                     (2.11)
                                                    2

                                                  1 A2
                              iQmax|∆φ=π/2,π = − √                    (2.12)
                                                   2 2
で表され、図 2.14 のように I 側と Q 側でそれぞれ異なった位相差の組み合わせを持つアイパターンが得
られる。ここで ∆φ はビット間の位相差である。これら iI (t)、iQ (t) のデータを組み合わせることで情報
が決定できるため、MZI に通した時に 1bit 遅延器側の位相を ±π/4 回転させるのである。



2.4   結言
 本章では、本論文で比較・検討の対象にした BPSK 方式・QPSK 方式について、それらの基本原理・
特徴や、送信器と受信器の構成を述べた。まず、BPSK 方式において、同期型と差動型の 2 つの変調方式
について説明し、どちらが本研究のシミュレーションに適しているかを述べた。続いて差動型の送信器の
構成に言及し、受信器の節においては、バランスレシーバーを用いた場合にどのようなアイパターンが得
られるかを示した。その後、QPSK 方式についても同様に述べた。
第 2 章 PSK 方式の基本原理・動作特性                                                                        12



         ∆φ 3π/2     π        0     π/2     π            ∆φ 3π/2     π      0     π/2    π
 Power




                                                 Power
                           Time                                            Time
                   Constructive Port                               Destructive Port



         ∆φ 3π/2     π        0     π/2     π            ∆φ 3π/2     π      0     π/2    π
 Power




                                                 Power




                           Time                                            Time
                   Constructive Port                               Destructive Port
                         図 2.13 ±π/4 回転させた時干渉後得られる波形 上:I 側 下:Q 側




         iI(t)                                           iQ(t)

                                    ∆φ=0,π/2                                      ∆φ=0,3π/2
                                                 Power
 Power




                                     ∆φ=π,3π/2                                    ∆φ=π/2,π


                          Time                                             Time

                         I 側出力                                           Q 側出力
                     図 2.14       ±π /4 回転させた時バランスレシーバー後得られるアイパターン
13




第3章

シミュレーションモデルの設計


3.1     緒言
 本章では、本研究の伝送シミュレーションを行うにあたり用いた理論を示す。まず、スプリット・ステッ
プ・フーリエ法 (Split-Step Fourier 法:SSF 法) の説明を行い、シミュレーションで用いるモデルの設計
方法と実際に用いたシミュレーションの各パラメータを説明する。そして最後に伝送性能を評価するため
に用いた Q 値について示す。



3.2     スプリット・ステップ・フーリエ法
3.2.1   スプリット・ステップ・フーリエ法の概略

 光ファイバ中の光波の伝搬は、マクスウェル方程式から直接導かれる非線形シュレディンガー方程式
(Nonlinear Schrodinger Equation:NLS) によって記述される。これは以下の式で表される。

                  δφ    1 δ2 φ 1 δ3 φ α     1
                     = j β2 2 + β3 3 − φ − j kn2 |φ|2 φ        (3.1)
                  δz    2 δτ   6 δτ   2     2
ここで φ は電界、β2 は分散、β3 は高次分散、α は減衰係数、k は波数、n2 は非線形屈折率を表す。NLS
を線形演算子:A および非線形演算子:B を用いて書くと次式となる。

                               δ
                                 φ = [A + B]φ                  (3.2)
                              δz
ただし、A、B は次式で与えられる。

                             1  δ2  1  δ3   α
                        A = j β2 2 + β3 3 −                    (3.3)
                             2 δτ   6 δτ    2

                                   1
                             B = −j kn2 [|φ|2 ]                (3.4)
                                   2
ここで、線形演算子 A として、分散、分散スロープ、減衰を考慮しており、非線形演算子 B として、カー
効果を考慮している。通常光通信に使われる数 ps 程度のパルス幅では、これらの項を考慮すれば十分で
第 3 章 シミュレーションモデルの設計                                                                   14

あることがわかっている。微分方程式 3.2 の解は以下の様に求まる。

                       φ(z + h, τ ) = exp[(A + B)h]φ(z, τ )                          (3.5)

この式は変形すると以下のように書ける。
                                         hA              hA
                 φ(z + h, τ ) = exp(        )exp(hB)exp(    )φ(z, τ )                (3.6)
                                          2               2
 この式は解析解を求めることが難しいため、SSF 法という数値計算を行うことで近似的に解を求める。
SSF 法では、線形演算子 A および非線形演算子 B を交互に作用させて、時間波形および周波数スペクト
ルの伝播過程を並列的に計算する。線形演算子 A は周波数領域において作用させ、非線形演算子 B は時
間領域において作用させる。また時間領域と周波数領域の間での変換に高速フーリエ変換 (Fast Fourier
Transform:FFT) を用いており、計算時間の大部分はここで消費される。
 これは、計算区間 h において、次の3段階の計算ステップを想定している (図 3.1)。まず、前半 h/2 に
対する線形演算子 A の効果を計算する。スペクトルに対し線形演算子 A を作用させ、h/2 だけ伝搬させ
た後、時間波形に戻す。
                                     h              hA
                           φ(z +       , τ ) = exp(    )φ(z, τ )                     (3.7)
                                     2               2
次に、非線形効果による位相補正として、区間 h において、前半 h/2 で求まった時間波形に対して非線
形演算子 B を作用させる。
                                 h                     h
                       φ∗ (z +     , τ ) = exp(hB)φ(z + , τ )                        (3.8)
                                 2                     2
最後に、後半 h/2 に対する線形演算子 A の効果を計算する。常識で求めた時間波形をスペクトルに変換
し、線形演算子 A で h/2 だけ伝搬させた後、再び時間波形に戻す。

                                                   hA ∗      h
                       φ(z + h, τ ) = exp(            )φ (z + , τ )                  (3.9)
                                                    2        2
以上で区間 h の 1 サイクルが完了し、これを繰り返して伝送シミュレーションを行う。

                 域領間時                      B                          B
                             T FFI             TFF       T FFI            TFF

                                     A               A           A              A
              域領ルトクペス
                                         間区    h                     間区   h

                   図 3.1    スプリットステップフーリエ法の概念図




3.2.2   線形演算子の具体的表現

 ここでは、線形演算子 A について、
                                         hA
                                 exp(       ) = att · gvd                           (3.10)
                                          2
第 3 章 シミュレーションモデルの設計                                                               15

の具体的表現について述べる。なお、att・gvd はそれぞれ振幅減衰・位相変化を表す。線形演算子 A の
具体的表現について、考慮すべき線形伝搬方程式は次式である。

                                  dφ     1  δ2  1  δ3  α
                                     = (j β2 2 + β3 3 − )φ                      (3.11)
                                  dz     2 δτ   6 δτ   2
これをフーリエ変換し、周波数領域でのスペクトル分布についての方程式を得る。
                                 δΨ      1          1        α
                                    = (−j β2 ω 2 − j β3 ω 3 − )Ψ                (3.12)
                                 δz      2          6        2
ここで ω は中心周波数 ω0 からの偏差である。
 まずファイバ減衰定数 α の定式化について説明する。ファイバのエネルギー減衰定数が α[dB/km] の
時、h/2 [m] 伝搬後の振幅減衰 att は次式で計算される。

                                            α     h                 αh
                            att = 10^ − (             3
                                                        ) = 10^(−         )     (3.13)
                                            20 2 × 10             4 × 104
 続いて、群速度分散 γ の定式化について説明する。ファイバの群速度分散による h/2 伝搬後のスペク
トル分布の位相変化 gvd は次式で計算される。

                                                      −jγh
                                        gvd = exp(         )                    (3.14)
                                                       2
ここで γ は次式である。

                                              1         1
                                       γ=       β2 ω 2 + β3 ω 3                 (3.15)
                                              2         6
ω=2πf を (3.15) に代入し、β2 [ps2 /km], β3 [ps3 /km], f [THz] として計算すると、γ[m−1 ] は次式と
なる。

                          γ[m−1 ] = 1.97 × 10−2 β2 f 2 + 4.13 × 10−2 β3 f 3     (3.16)

通常、β2 は波長偏差 1nm、伝搬距離 1km あたりの遅延時間 D[ps/nm/km] で与えられる。

                                       dβ1   dβ1 dω        2πc
                                  D=       =        = β2 (− 2 )                 (3.17)
                                       dλ    dω dλ          λ
            1          2πc  dω
ここで、β1 =   vg 、ω   =    λ 、 dλ   = − 2πc である。c=2.998 ×108 m/s を (3.17) に代入し、波長を λ[nm]
                                     λ2
とすると D は次式で与えられる。

                                                             β2 [ps2 /km]
                            D[ps/nm/km] = −1.88 × 106                           (3.18)
                                                               λ2 [nm]

逆に β2 は、次式となる。

                         β2 [ps2 /km] = −5.31 × 10−7 λ2 [nm]D[ps/nm/km]         (3.19)

通常、β3 は波長偏差 1nm あたりの分散 D[ps/nm/km] の変化 Sl [ps/nm2 /km] で与えられる。λ を固定
して Sl を計算すると次式となる。
                                   dD     2πc dβ2 dω     2πc
                            Sl =      = (− 2 )       = (− 2 )2 β3               (3.20)
                                   dλ      λ   dω dλ      λ
第 3 章 シミュレーションモデルの設計                                                               16

c=2.998 ×108 m/s を (3.20) に代入し、波長を λ[nm] とすると、Sl は次式となる。
                                                             β3 [ps3 /km]
                       Sl[ps/nm2 /km] = 3.55 × 1012                             (3.21)
                                                               λ4 [nm]
逆に β3 は、次式となる。

                   β3 [ps3 /km] = 2.82 × 10−13 λ4 [nm]Sl[ps/nm2 /km]            (3.22)

(3.19) および (3.22) を (3.16) に代入して、γ を計算すると次式を得る。
                 γ[m−1 ] = −1.05 × 10−8 λ2 Df 2 + 1.16 × 10−14 λ4 Slf 3         (3.23)

ただし、f [THz] は信号の中心周波数 f0 からの偏差である。特に λ=1550 nm の場合、(3.23) は次式と
なる。

                    γ[m−1 ] = −2.52 × 10−2 Df 2 + 6.70 × 10−2 Slf 3             (3.24)

 時間波形 φ とスペクトル分布 ψ の間には、FFT により次式の関係がある。
                               N −1
                       1                           ln
                   Ψ= √               φexp(−j2π       )      (l = 0 ∼ N − 1)    (3.25)
                        N      n=0
                                                   N

                               N −1
                        1                        ln
                    φ= √              Ψexp(j2π      )       (n = 0 ∼ N − 1)     (3.26)
                         N                       N
                                l=0

ここで時間刻み ∆t と周波数刻み ∆f 、波長刻み ∆λ およびサンプル数 N の間には次式の関係がある。
                                                        1
                                          ∆f ∆t =                               (3.27)
                                                        N

                                                      1
                                      ∆f [THz] =                                (3.28)
                                                   ∆t[ps]N

                                      ∆f    λ2                 λ2
                     ∆λ[nm] = λ          =      = 3.34 × 10−6                   (3.29)
                                       f   c∆tN               ∆tN
周波数領域での中心周波数からの周波数偏差 f [THz] は次式で与えられる。
                                                     N   N
                              f = l∆f      (l = −      ∼   − 1)                 (3.30)
                                                     2   2
(3.28)、(3.30) を (3.23) に代入すると、次式を得る。
                                             l 2                         l 3
            γ[m−1 ] = −1.05 × 10−8 λ2 D(        ) + 1.16 × 10−14 λ4 Sl(     )   (3.31)
                                            ∆tN                         ∆tN
特に λ = 1550 nm では、次式となる。
                                             l 2                     l 2
              γ[m−1 ] = −2.52 × 10−2 D(         ) + 6.70 × 10−2 Sl(     )       (3.32)
                                            ∆tN                     ∆tN
(3.13)、(3.14) から h/2 [m] 伝搬させる線形演算子 A の具体的表現は次式となる。
                          hA                         αh            jγh
                   exp(      ) = att · gvd = 10^(−        4
                                                            )exp(−     )        (3.33)
                           2                       4 × 10           2
ここで、γ は (3.31) で与えられる。
第 3 章 シミュレーションモデルの設計                                                17



3.2.3   非線形演算子の具体的表現

 ここでは、非線形演算子 B について、

                                   exp(hB)                       (3.34)

の具体的表現について述べる。線形演算子で距離刻み h の 1/2 だけ伝搬させた時間波形に、非線形演算
子を作用させて区間 h における非線形効果にともなう位相補正量を計算する。考慮すべき方程式は、

                              h                     h
                    φ∗ (z +     , τ ) = exp(hB)φ(z + , τ )       (3.35)
                              2                     2
である。ここで B は (3.4) で与えられる。

                                    1
                              B = −j kn2 [|φ|2 ]                 (3.36)
                                    2
波数 k は、波長を λ[nm] とすると次式で与えられる。

                                    2π   6.28 × 109
                        k[m−1 ] =      =                         (3.37)
                                     λ     λ[nm]

単位断面積あたりの信号電力 |φ|2 は次式となる。

                                              P [mW]
                         |φ|2 [W/m2 ] = 109                      (3.38)
                                              s[µm2 ]

ここで P は伝送中の時間波形から計算した瞬時パワー、s は有効コア断面積である。カー定数 n2 は石英
系光ファイバにおいて、次の実測値が報告されている。

                         n2 = 2.24 × 10−20 [m2 /W]               (3.39)

(3.37)、(3.38) より、(3.36) のカー効果に対する項は次式となる。
                                                n2 P
                          B = −j3.14 × 1018                      (3.40)
                                                 λs
(3.35) に代入し、カー効果にともなう非線形演算子の具体的表現を求めると次式となる。
                                                       hn2 P
                    exp(hB) = exp(−j3.14 × 1018              )   (3.41)
                                                        λs


3.3     計算機シミュレーションモデルの設計
 図 3.2 に今回シミュレーションで作成した伝送路モデルを示す。まずはじめに 65G symbol/s 及び
32.5G symbol/s の RZ-パルス列を生成する。続いて PN7 段・PN8 段の擬似乱数バイナリシーケンス
(Pseudorandom Binary Sequence:PRBS) により生成した擬似ランダムデータを位相変調器に入力する。
こうして生成された 127 個の RZ-BPSK ないしは RZ-QPSK パルス列 E1i (t) をシングルモードファイ
バー (Single Mode Fibre:SMF) に通した後、SMF の分散によるパルス歪みを補償するために分散補償
第 3 章 シミュレーションモデルの設計                                                             18

ファイバー (Dispersion Compensating Fiber:DCF) に通す。ここで 1555nm における分散の値が 0 であ
る分散シフトファイバーを用いない理由は、分散の影響が小さい時パルスは 4 光波混合の影響を大きく受
けてしまうが、この 4 波混合は補償が困難であるからである。そこで、意図的に局所的な分散の影響を大
きくして 4 波混合の影響を減らす一方、ファイバー全体の平均分散を抑えるためにこの分散補償技術を用
いる。その模式図を図 3.3 に示す。


                      :FCD 1L:FMS
                                2L
         KSP -ZR                                                  revi eceR
        rot aren eG
        rot aren eG

                      図 3.2   シミュレーションで用いた伝送回路モデル




                               D

                               D    1                 L   2
                                            LD
                                             1 1
                              LD                              Z
                                             L   1   LD
                                                      2 2
                               D2




                                    図 3.3    分散補償の模式図



 SMF の長さを L1 、分散係数を D1 、DCF の長さを L2 、分散係数を D2 とした時、
                                        L1 D1 + L2 D2 = DL                    (3.42)

                                           L1 + L2 = 50                       (3.43)

となるように L1 、L2 の値を定める。なお、DL は分散補償を行った際に補償しきれていない分散量を表
し、1 周期、50km 伝送させた時に補償できずに残ってしまった分散量 DL を残余分散と呼ぶ。この出力
E1o (t) を光アンプに通して伝送中の損失を補償する。なお、この際に ASE 雑音として白色ガウシアン雑
音を加えた。その雑音の大きさは、実際の光アンプで測定した S/N 比 (Signal/Noise Ratio) を参考にし
た。 平均電力が 0.1mW である CW 光を光アンプで 10dB 増幅し、その出力を光スペクトルアナライザ
で測定した。その際得られたスペクトルを図 3.4 に示す。これより、光アンプ後の S/N 比が 40dB ほど
であることが見て取れる。そこで、シミュレーションにおいても平均電力が 0.1mW である RZ パルスを
10dB アンプしたときにその出力の S/N 比が 40dB になるように調節したところ図 3.5 のようになった、
平均雑音電力-65dBm を ASE 雑音として加えることにした。E1o (t) のスペクトルを F1o (ν)、光アンプ
のの出力 Eamp (t)、そのスペクトル Famp (ν)、光アンプの利得係数を G とした時、Famp (ν) について以
下のような計算を行った。
                          Famp (ν) = GF1o (ν) + noise terms.                  (3.44)
第 3 章 シミュレーションモデルの設計                                                                                    19


              02-
          )
         m
         B
         d
              04-
          (
          r                                       Bd04
         e
         w
         o    06-
         P
                  08-
              3551                        4551            5551                  6551          7551
                                                     )mn(htgnelevaW
                    図 3.4              実際に光アンプを通した際の雑音が加わったスペクトル



                                 -20

                                 -30
                    Power(dBm)




                                 -40
                                         40dB
                                 -50

                                 -60

                                 -70
                                  1554                 1555                            1556
                                                   Wavelength(nm)

                    図 3.5              シミュレーションで光アンプを通した時のスペクトル




ここで noise terms. とは、平均電力-65dBm、分散 1.0 のガウス雑音である。そして光フィルタを通して
この白色雑音を切り落とした。この時の光フィルタの半値全幅は、各変調方式において最適な値に設定し
た。光フィルタの出力スペクトルを Ff ilter (ν)、光フィルタの半値全幅を ν1 とした時

                                                                ν2
                                         Ff ilter (ν) = exp(      2 )Famp (ν)                        (3.45)
                                                               2ν1

という計算を行った。この SMF から光フィルタまでの流れを 1 周期 50km として、これを 20 周周回伝
送させることで 1000km の伝送とした。このようにして 1000km 伝送させた信号を直接検波器及びバラ
ンスレシーバーに通して検波した。なお、表 3.1 に今回のシミュレーションで用いた固定パラメータを
示す。
 本研究では、はじめに入力電力を最適化するために入力電力を変化させる。続いて、残余分散に対する
第 3 章 シミュレーションモデルの設計                                                    20

耐性を評価するために SMF 及び DCF のファイバー長 L1 および L2 を変化させる。最後に PMD に対
する耐性を評価するために PMD の値を変化させる。

                    表 3.1   シミュレーションの固定パラメータ

                            意味                           値
                 BPSK のシンボルレート                      65Gsymbol/s
                 QPSK のシンボルレート                     32.5Gsymbol/s
                 BPSK のパルスの半値全幅                        7.69ps
                 QPSK のパルスの半値全幅                        15.39ps
                SMF の分散係数 (2次分散)                   17.0ps/nm/km
                SMF の分散傾斜 (3次分散)                   0.03ps/nm2 /km
                   SMF の非線形係数                       4.040/km/W
                  SMF のファイバー損失                       0.20dB/km
                DCF の分散係数 (2次分散)                   -100.0ps/nm/km
                DCF の分散傾斜 (3次分散)                   -0.03ps/nm2 /km
                   DCF の非線形係数                       4.040/km/W
                  DCF のファイバー損失                       0.20dB/km
                        中心波長                          1555.0nm
                  光アンプの利得係数:G                         10.10dB
                  光アンプの平均雑音電力                         -65dBm
              BPSK の時の光フィルタの半値全幅                       5.0nm
              QPSK の時の光フィルタの半値全幅                       2.5nm




3.4   評価方法
 信号伝送品質の評価は Q 値を用いて行う。図 3.6 に Q 値の定義を示す。

                                      |µ0 − µ1 |
                                 Q=                                  (3.46)
                                       σ0 + σ1
ここで µ0 および µ1 は 0 レベルおよび 1 レベルの平均電力を、σ0 および σ1 はそれらの標準偏差を表す。
また、0 および 1 の各レベルがガウス分布であると仮定すると、次式により Q 値から符号誤り率 (Bit
Error Rate:BER) を計算することができる。

                             1        Q     exp(−Q2 )/2
                    BER =      erf c( √ ) ≈     √                    (3.47)
                             2         2       Q 2π

この式を用いて BER を計算すると Q=6 で 10−9 、Q=7 で 10−12 程度の誤り率となる。Q 値が大きい
時、数値計算において BER=0 となってしまい、比較が困難になるため、本研究では比較方法として Q
値を用いる。
第 3 章 シミュレーションモデルの設計                           21



                       rewoP
                                 σ  1



                                         μ1
               emiT              .borP

                                         μ0

                                 σ  0




                 図 3.6 RZ 信号に対する Q 値の定義




3.5   結言
 本章では、SSF 法の基本的な原理とその計算過程を説明した後、シミュレーションモデルの設計方法や
各パラメータの値を示した。そして最後にシミュレーションの性能比較のパラメータとして用いる Q 値
について述べた。
22




第4章

シミュレーションの結果


4.1     緒言
 本章では実際に行ったシミュレーションの結果を示す。はじめに適正な入力電力を求めるために入力電
力を変化させて Q 値の変化を調べる。続いて残余分散を変化させて Q 値の変化を見ることでそれに対す
る耐性を比較した。そして最後に PMD に対する耐性を評価するために、偏波多重を用いた 130Gbps 伝
送のシミュレーションを行った。



4.2     出力波形の比較
4.2.1   入力電力による比較

 まずはじめに、正確に 分散補償がなされていて残余分散 DL=0 という理想的な状態において、
伝 送 路 に 入 力 す る 電 力 の 値 を 変 え て そ の 最 適 値 を 求 め た 。SMF、DCF の ファイ バ ー 長 は そ れ ぞ
れ L1 =42.735 L2 =7.265 とした。BPSK 方式・QPSK 方式それぞれ入力電力を変化させていき、
1000km 伝送後検波した波形についてそれぞれアイパターンと Q 値を求めた。図 4.1 に入力パワーと Q
値の関係を表したグラフを、図 4.2 にそのうちの入力電力が 0.1、0.6、2.0mW のもののアイパターンを
示す。
 まず BPSK 方式と QPSK 方式の同一入力電力のアイパターンを比較する。図 4.2 の (a) と (b) を比べ
ると、ピーク電力のばらつきの幅は同程度であることが見て取れる。しかし図 4.1 において、入力電力が
1mW よりも小さい時、BPSK 方式の方が QPSK 方式に対して Q 値がよいことがわかる。これは QPSK
方式において、検波する際 ±π/4 位相をシフトさせていることが原因である。そのため、入力電力が同
じであっても検波後のアイパターンでのピーク電力は BPSK 方式よりも落ちてしまう。よって、電力の
平均値 µ0 及び µ1 がそれぞれ BPSK 方式のそれに比べて下がってしまい、|µ0 − µ1 | の値が小さくなり、
Q 値の低下をもたらすのである。また、QPSK 方式の方が位相間隔が狭く雑音に弱いことも一因である。
入力電力が小さい時は雑音の影響を大きく受けるため、QPSK 方式の方が Q 値が悪くなったと考えられ
る。続いて、図 4.2 の (e) と (f) を見比べてもわかるように、入力電力が 1mW よりも大きい時その関係
が逆転してることが図 4.1 から見て取れる。これはスペクトル幅が QPSK 方式に対して BPSK 方式の方
が広いことが原因だと考えられる。BPSK 方式の方がスペクトル幅が広く、入力電力が大きい場合には
第 4 章 シミュレーションの結果                                            23


             61

             21

           値
           Q   8

               4

               0

                   1. 0                    1            01

                                   )Wm(rew oP t upnI


                                    KSPB         KSPQ



                          図 4.1   入力パワーと Q 値の関係




非線形効果によるスペクトル拡がりが強く起きる。そこに分散効果が加わってくることで QPSK 方式よ
り Q 値が悪くなったと考えられる。以上より、入力電力には、雑音の影響と SPM の影響がバランスをと
り、双方の影響が最も現われにくくなる、最適値が存在するということが分かる。今回のシミュレーショ
ンでは図 4.1 に示すとおり、BPSK 方式、QPSK 方式共に入力電力を 0.6mW にして伝送を行うのがもっ
ともよいと言える。また、共に分散補償が正確にされている理想環境下では BPSK 方式の方が QPSK 方
式よりも優れていることがわかった。


4.2.2   残余分散耐性による比較

 前節では、正確に分散補償がなされていて、残余分散 DL=0 が満たされている場合の伝送について
の考察を行った。しかし実環境においては、熱やファイバーの曲がりなど外的かつ動的な影響によって、
ファイバー長や分散係数は常に変化している。そのため、正確に分散補償された状態を保つことは長距
離伝送において不可能である。短距離で伝送を行った際にはさほど問題にならなかったような小さなファ
イバー長や分散係数のずれも、長距離伝送させた時には大きな問題となりうる。そこで、BPSK 方式と
QPSK 方式がどれほど残余分散に耐性があるかを検討する。
 比較方法として、SMF、DCF のファイバー長、L1 と L2 の値を変化させ、DL の値を 0 からずらすこ
とで残余分散を変化させるものとした。具体的な L1 と L2 の値や DLtotal については表 4.1 に示した。
なお、DLtotal は 20 周周回伝送させた後の残余分散の値である。また、入力電力は 0.1、0.6、2.0mW と
した。
 図 4.3、図 4.4 にそれぞれ入力電力が 0.6mW の時の BPSK 方式・QPSK 方式で得られたアイパターン
を示す。DL=0 のものに関してはそれぞれ図 4.2(c)、(d) を参照してもらいたい。また、図 4.5 にそれぞ
れの残余分散と Q 値の関係を表したグラフを示す。
 図 4.3 の (a)、(b) を見ると、(a) ではパルスの位相が π − π または 0 − 0 と続いた時にシンボルス
ロットの間で電力が 0 まで戻らずに、浮いてしまっているが (b) ではその現象が見られないことがわか
る。(a) においてシンボルスロット間でこのような現象が生じた理由は、隣り合うパルスが同位相の時シ
第 4 章 シミュレーションの結果                                                                                                  24




      0.2                                                    0.15
 Power(mW)




                                                             Power(mW)
             0                                                           0




   -0.2                                                    -0.15
      -15             -10   -5      0     5      10   15       -30             -20   -10      0     10   20   30
                                 Time(ps)                                                  Time(ps)

                    (a) 入力パワー 0.1mW の BPSK                                   (b) 入力パワー 0.1mW の QPSK
             1                                                  0.8
 Power(mW)




                                                           Power(mW)




             0                                                           0




             -1                                             -0.8
              -15     -10   -5      0     5      10   15       -30             -20   -10      0     10   20   30
                                 Time(ps)                                                  Time(ps)
                    (c) 入力パワー 0.6mW の BPSK                                   (d) 入力パワー 0.6mW の QPSK
             3                                                  2.5
 Power(mW)




                                                           Power(mW)




             0                                                           0




             -3                                             -2.5
              -15     -10   -5      0     5      10   15       -30             -20   -10      0     10   20   30
                                 Time(ps)                                                  Time(ps)

                    (e) 入力パワー 2.0mW の BPSK                                   (f) 入力パワー 2.0mW の QPSK
                                              図 4.2 1000km 伝送後のアイパターン
第 4 章 シミュレーションの結果                                                                                            25




      0.8                                                    0.8
 Power(mW)




                                                        Power(mW)
             0                                                      0




   -0.8                                                   -0.8
      -15             -10   -5      0     5   10   15        -15           -10   -5      0     5   10   15
                                 Time(ps)                                             Time(ps)

                    (a) 残余分散 DLtotal (ps/nm)=6                          (b) 残余分散 DLtotal (ps/nm)=-6
      0.8                                                    0.8
 Power(mW)




                                                        Power(mW)




             0                                                      0




   -0.8                                                   -0.8
      -15             -10   -5      0     5   10   15        -15           -10   -5      0     5   10   15
                                 Time(ps)                                             Time(ps)

                 (c) 残余分散 DLtotal (ps/nm)=20                            (d) 残余分散 DLtotal (ps/nm)=-20
             1                                                      1
 Power(mW)




                                                        Power(mW)




             0                                                      0




             -1                                                     -1
              -15     -10   -5      0     5   10   15                -15   -10   -5      0     5   10   15
                                 Time(ps)                                             Time(ps)

                 (e) 残余分散 DLtotal (ps/nm)=200                           (f) 残余分散 DLtotal (ps/nm)=-200
                                       図 4.3 BPSK の 1000km 伝送後のアイパターン
第 4 章 シミュレーションの結果                                                                                              26




      0.8                                                    0.8
 Power(mW)




                                                        Power(mW)
             0                                                      0




  -0.8                                                    -0.8
     -30            -20   -10      0     10   20   30        -30           -20   -10      0     10   20   30
                                Time(ps)                                               Time(ps)

                 (a) 残余分散 DLtotal (ps/nm)=6                             (b) 残余分散 DLtotal (ps/nm)=-6
      0.6                                                    0.6
 Power(mW)




                                                        Power(mW)




             0                                                      0




  -0.6                                                    -0.6
     -30            -20   -10      0     10   20   30        -30           -20   -10      0     10   20   30
                                Time(ps)                                               Time(ps)

                 (c) 残余分散 DLtotal (ps/nm)=20                            (d) 残余分散 DLtotal (ps/nm)=-20
      0.6                                                    0.8
 Power(mW)




                                                        Power(mW)




             0                                                      0




  -0.6                                                    -0.8
     -30            -20   -10      0     10   20   30        -30           -20   -10      0     10   20   30
                                Time(ps)                                               Time(ps)

                 (e) 残余分散 DLtotal (ps/nm)=200                           (f) 残余分散 DLtotal (ps/nm)=-200
                                      図 4.4 QPSK の 1000km 伝送後のアイパターン
第 4 章 シミュレーションの結果                                                                           27

                                表 4.1    ファイバー長と残余分散

                            L1 (km)     L2 (km)   DLtotal (ps/nm)
                            42.6500      7.1790        -200
                            42.7260      7.2740         -20
                            42.7330      7.2670         -6
                            42.7350      7.2650         0
                            42.7380      7.2620         6
                            42.7440      7.2560         20
                            42.8210      7.1790        200


        61
        21
        8値Q                                                              01=REB
                                                                         01=REB   9-



        4
         0
          52-   0 0 1-
                02- -
                001       51-   01--
                                0 1-
                                01        5       0
                                                  0
                                                  0   5-      01
                                                              01
                                                              01    51    001
                                                                          001
                                                                          02           52
                                          )latotLD(散分余残
                         )Wm 1.0(KSPB        )Wm 6.0(KSPB       )Wm 0.2(KSPB
                         )Wm 1.0(KSPQ        )W m 6.0(KSPQ      )Wm 0.2(KSPQ
                                 図 4.5    残余分散と Q 値の関係




ンボルスロット間で強め合いが起き、非線形効果の影響も大きくなるためである。(b) においても (a) と
同様にパルスの歪みをもたらす分散の影響があるにも関わらずこのようにパルスの歪みが生じていない
のは、残余分散と SPM との相互作用によるもので、ソリトン効果として知られている。なおソリトン
効果というものは、分散の値が負である異常分散と非線形効果が存在するファイバー中において、負の
分散が SPM によって引き起こされた周波数チャープを補償することにより、その両者のバランスを取り
ながらもともとのパルスの波形が安定な波形 (ソリトン) へ変形していく現象である。図 4.5 において、
DLtotal = 0 の時より DLtotal = −6 の方が Q 値が向上しているのも、このソリトン効果による影響であ
る。このことから、伝送を行う際には正確に分散補償をするのではなく、少し負の残余分散が残るように
ファイバー長や分散係数を調整して伝送した方が伝送性能が向上すると考えられる。また、BPSK 方式に
おいて (a) や (c)・(d) で見られるようなパルス歪みは、図 4.4 のとおり QPSK 方式では |DLtotal | ≤20
までははっきりと見ることはできない。その原因は、BPSK 方式と QPSK 方式の、同じビットレートを
実現する時のシンボルレートの違いだと考えられる。2 章でも述べたように、QPSK 方式は BPSK 方式
に対して 2 倍の情報を1つのシンボルに乗せて運ぶことができる。そのため、同じ 65Gbps を実現するた
めに必要なシンボルレートは、BPSK 方式では 65G symbol/s、QPSK 方式では 32.5G symbol/s であ
第 4 章 シミュレーションの結果                                                               28

り、QPSK 方式のパルス幅が BPSK 方式のパルス幅の 2 倍になる。その結果、同じだけ残余分散の影響
が残っても、QPSK 方式の方がその残余分散から受ける影響が少なくなる。
 ここで、実環境においてどれほど残余分散が変化するのかを考察する。光ファイバーは温度によって
ファイバー長や分散係数が変化することが知られている。分散係数について、0.001ps/nm/km/℃ほど
の分散温度係数を持つという研究結果がある [12] [13]。1000km 伝送させた時には 1.0ps/nm/℃の分散
温度係数となり、一日の温度変化を 15 ℃と見積もると残余分散の変化は ±15 ps/nm ほどあることがわ
かる。これを図 4.5 において考慮すると、例えば BER=10−9 を得るのに必要となってくる Q=6 に対し
て、BPSK 方式の耐性は 30ps/nm ほどしかない。一方で QPSK 方式は 100ps/nm 超あることがわかる。
そのため、初期状態において正確に分散補償を行い DL = 0 として温度が 15 ℃変化して残余分散が 15
ps/nm 生じた時、BPSK 方式では BER=10−9 を保つのは困難である。一方の QPSK 方式では 15ps/nm
の残余分散が生じても BER=10−9 を保つことができる。
 以上を踏まえて、理想的環境下でよい結果が得られる BPSK 方式よりも、環境変化によって生じる残
余分散に対する耐性のある QPSK 方式の方が、実験や実用化する際に用いるには適していると言える。



4.3   伝送シミュレータによるシミュレーション
 65Gbps の BPSK 方式・QPSK 方式をそれぞれ偏波多重させて 130Gbps とした信号を 1000km 伝送
させた時、PMD が信号にどのような影響を与えるかを調べた。なお、このシミュレーションを行うに当
たって偏波モード及び PMD を考慮できるシミュレータを用いた。まず、4.2.1 で行ったシミュレーション
のように最適な入力電力を求めると、BPSK 方式では 0.1mW、QPSK 方式では 0.06mW となった。以
後のシミュレーションではその値を用いた。図 4.6 は PMD の値とその時の Q 値の関係を示したグラフ

                   04
                                                   KSPB            KSPQ
                   03
                  値
                  02Q
                   01
                             0
                      0 0 0. 0    0 50.0  5 20.0        5 7 0. 0     0 0 1. 0
                                      DMP     / sp (   ) mk




                                 図 4.6 PMD と Q 値の関係



である。これを見ると PMD=0 の時は、BPSK 方式の方が QPSK 方式に比べて Q 値が良いことが分か
る。これは 4.2.1 で述べたように、QPSK 方式が雑音に弱いことや検波方法によりピークパワーにおける
平均電力が小さくなってしまうことが一因である。また、偏波多重させたときには偏波が同一である場合
の 1/3 ではあるものの、相互位相変調 (Cross Phase Modulation : XPM) の影響を受けてしまう。その
ため、位相雑音に弱い QPSK 方式は雑音や検波方法による影響に加え XPM の影響も大きく受けてしま
うので、BPSK 方式に比べ Q 値が悪くなったと考えられる。
第 4 章 シミュレーションの結果                                                              29




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                                          I
  I




      51-                0           51       03-                0        03
                    )sp(emiT                                )sp(emiT
             (a) PMD=0 の BPSK                        (b) PMD=0 の QPSK




  y                                       y
                                          t
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                                          I
  I




      51-                0           51       03-                0        03
                    )sp(emiT                                )sp(emiT
            (c) PMD=0.05 の BPSK                     (d) PMD=0.05 の QPSK




  y
  t                                       y
                                          t
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  I




      51-                0           51       03-                0        03
                    )sp(emiT                                )sp(emiT
            (e) PMD=0.10 の BPSK                     (f) PMD=0.10 の QPSK
                               図 4.7 1000km 伝送後のアイパターン



 一方で PMD を大きくしていくに連れてそれが逆転していることがわかる。これは 4.2.2 で述べた、
QPSK 方式に対して BPSK 方式は残余分散耐性が悪いということと同じように、BPSK 方式の方がパル
ス幅が狭く、PMD の影響を大きく受けたためだと考えられる。
 実際に用いるファイバーとして、PMD の値は 0.05 から 0.1 ほどであり、この範囲でより有効な変調方
式は QPSK 方式だということができる。
第 4 章 シミュレーションの結果                                       30



4.4   結言
 本章では、BPSK 方式と QPSK 方式について、入力電力と残余分散に対する Q 値の関係をシミュレー
ションで得て、それをそれぞれグラフに表すことでその性能を評価した。続いて、65Gbps の信号を 2 波
偏波を直交させた 130Gbps の信号を 1000km 伝送させた時、PMD を変化させることで PMD に対する
耐性を評価することで BPSK 方式と QPSK 方式のどちらの方が実環境において伝送に適しているかを示
した。
31




第5章

結論

 本研究では、長距離大容量伝送に適した通信方式の比較・検討として、BPSK 方式と QPSK 方式の
特性を検証してきた。計算機シミュレーションにおいて一偏波 65Gbps で 1000km の伝送を行った際、
BPSK 方式・QPSK 方式にそれぞれに入力電力に最適値があることが確認できた。また、理想的な状況
下では雑音に耐性があり、受信感度も良い BPSK 方式の方が伝送性能は良いものとなったが、残余分散
を与えた場合には QPSK 方式の方が良い Q 値が得られた。温度やファイバの伸縮により正確に分散補償
が行えない実環境上では、刻々と残余分散の値は変化するため、QPSK 方式を用いた方が安定した性能
を得られると言える。さらに、偏波多重させて 130Gbps として 1000km 伝送させた場合にも、BPSK 方
式に比べ QPSK 方式の方が PMD に対する耐性があることがわかった。以上をまとめると、130Gbps で
1000km の伝送を実環境上で行う場合、残余分散・PMD に対する耐性のより大きな QPSK 方式を用いた
ほうが良いということがわかった。
 今後の課題として、他の不安定な要因、例えば送信器におけるパルス生成時のピーク電力のばらつき
や、位相変調時における位相のばらつきに対する耐性などを考慮することがあげられる。更には今回シ
ミュレーションで得られた結果を実験で実証することや、より伝送容量を増やすために WDM を行いそ
れに対する耐性を調べること、更に多値数を増やして 8PSK 方式などの伝送品質評価などを行いたい。
32




謝辞

 本研究を行なうに際して、御教示、御鞭撻を賜わりました大阪大学大学院工学研究科 北山 研一 教授に
深甚なる感謝の意を表します。
 本研究の遂行にあたり、終始一貫して懇切丁寧に直接御指導、御助言を頂きました大阪大学大学院工学
研究科 丸田 章博 助教授 に深く感謝致します。
 また、数々の有益な御教示、御助言を頂きました大阪市立大学大学院工学研究科 原 晋介 教授に厚く御
礼申し上げます。
 さらに、研究を進める上で多くの御助言を頂きました本学大学院生 河南 求嶺 氏、三枝 史明 氏、三科
健 氏、北川 達 氏、国広 隆志 氏に厚く御礼申し上げます。
 最後に、日頃熱心に御協力下さいました大阪大学大学院工学研究科電子情報エネルギー工学専攻北山研
究室ならびに通信工学専攻河崎研究室の諸兄に厚く御礼申し上げます。
33




参考文献

 [1] A.H.Gnauck ”Optical Phase-Shift-Keyed Transmission” JOUNAL OF LIGHTWAVE TECH-
    NOLOGY, vol.23, NO.1, Jan.2005.
 [2] 総務省 情報通信政策研究所 http://www.soumu.go.jp/iicp/index.html
 [3] 総務省 情報通信統計データベース http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp
 [4] 山本貴司・田村公一・中沢正隆”位相変調器による 3 次,4 次分散同時補償を用いた 1.28 Tbit/s-70km
    フェムト秒パルス OTDM 伝送”           
 [5] R. W. Tkach, R. M. Derosier, A .H. Gnauck, A. M. Vengsarkar, D. W. Peckham, J. L. Zyskind,
    J. W. Sulhoff, A. R. Chraplyvy, “ Transmission of eight 20-Gb/s channels over 232 km of
    conventional single-mode fiber, ”IEEE Photonics Technology Letters, vol.7, no.11, pp.1369–1371,
    Nov.1995.
 [6] T. Itoh, K. Fukuchi, T. Kasamatsu, “ Enabling technologies for 10 Tb/s transmission capacity
    and beyond, ”IEEE European Conference on Optical Communication, vol.4, pp.598–601, Sept.–
    Oct.2001.
 [7] 財団法人 光産業技術振興協会 http://www.oitda.or.jp/
 [8] M.Nakazawa,J.Hongou,K.Kasai and M.Yoshida ”64 and 128 coherent QAM preliminary trans-
    mission experiments using a frequency-stabilized laser and a local oscillator”
 [9] G.Charlet,P.Tran,H.Mardoyan,M.Lefrancois,T.Fauconnier,S.Bigo and F.Jorge, ”151x43Gb/s
    Transmission over 4,080km based on Return-to-Zero Differential Quadrature Phase-Shift Key-
    ing.” Technical Digest of ECOC2005,Th.4.1.3.
[10] H.Weber,S.Ferber,M.Kroh,C.Schmidt-Langhorst,R.Ludwig,V.Marembert,C.Schubert,F.Futami
    and S.Watanabe, ”Signal Channel 1.28 Tbit/s and 2.56 Tbit/s DQPSK Transmission” Technical
    Digest of ECOC2005,Th.4.1.2.
[11] Kazuhiro SHIMOURA”長距離大容量光ファイバ伝送系の最適設計手法に関する研究”
[12] S.Matuo,Y.Takeshima,K.Himeno and K.Harada ”Non-Zero Dispersion-Shifted Fiber with Ultra
    Small DIspersion Slope FutuerGuide-USS”
[13] T.Kato,Y.Koyano and M.Nishimura ”Temperature Dependence of Chromatic Dispersion in Var-
    ious Types of Optical Fibers”

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  • 1. 長距離伝送における光位相変調方式の分散耐力に関する研究 大阪大学 工学部 電子情報エネルギー工学科 通信工学科目 中村 哲也 平成 19 年 2 月 19 日
  • 2. i 内容梗概 近年、インターネットにおけるトラフィックは急増しており、利用者数の増加、アプリケーションの多 様化により、今後さらなる増加が予想される。それに伴い、データの集中するバックボーンネットワーク では、高速化・大容量化が求められている。しかし現在バックボーンネットワークで用いられている変調 方式である OOK 方式は、伝送性能に悪影響を与える分散・非線形効果・雑音の影響を大きく受けてしま うため、伝送速度や伝送距離の向上に限界があり、将来ボトルネックが生じると考えられている。そこで OOK 方式に代わり次世代のバックボーンネットワークに使用する、新たな変調方式の研究・開発が急務 となっている。 そのような背景から様々な変調方式が検討されているが、今日注目されているのが位相変調方式であ る。位相変調方式は先ほど述べた伝送性能に悪影響を与える要素に強いことがわかっており、長距離・大 容量伝送に適した変調方式である。その中でもっとも構成がシンプルな BPSK 方式を用いた様々な長距 離伝送実験が行われている [1]。また、最近ではスペクトル利用効率を更に向上させるために 1 つのシン ボルで 3 値以上を表すことのできる多値位相変調にも注目が集まっている。その中でも 1 つのシンボルで 4 値を表すことのできる QPSK 方式は検波方法も確立し、実験において伝送に成功している [1]。 そこで本研究では次世代に要求されると予想される長距離・大容量伝送、具体的な数値として 130Gbps で 1000km 伝送に適した光位相変調方式を特定するために、残余分散や偏波モード分散に対する各位相 変調方式の耐性比較をシミュレーションにて行った。130Gbps を達成するために 1 波 65Gbps の信号を 2 波の偏波を直交させ伝送することとした。そのため、残余分散への耐性を検討するときには、BPSK 方 式・QPSK 方式それぞれ 1 波 65Gbps のみで伝送性能比較を行い、続いての偏波モード分散耐性を検討 するときに偏波多重させ 130Gbps としてシミュレーションを行った。そして、その結果 BPSK 方式に対 して QPSK 方式の方が残余分散や偏波モード分散に対して耐性があり、長距離伝送に適していることを 示した。
  • 3. ii 目次 第1章 序論 1 第2章 PSK 方式の基本原理・動作特性 4 2.1 緒言 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 2.2 BPSK 方式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 2.2.1 BPSK 方式の基本原理・特徴 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4 2.2.2 RZ-BPSK 送信器 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6 2.2.3 直接検波 BPSK 受信器 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7 2.3 QPSK 方式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 2.3.1 QPSK 方式の基本原理・特徴 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8 2.3.2 RZ-QPSK 送信器 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10 2.3.3 直接検波 QPSK 受信器 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10 2.4 結言 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11 第3章 シミュレーションモデルの設計 13 3.1 緒言 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13 3.2 スプリット・ステップ・フーリエ法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13 3.2.1 スプリット・ステップ・フーリエ法の概略 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13 3.2.2 線形演算子の具体的表現 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14 3.2.3 非線形演算子の具体的表現 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17 3.3 計算機シミュレーションモデルの設計 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17 3.4 評価方法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20 3.5 結言 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21 第4章 シミュレーションの結果 22 4.1 緒言 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22 4.2 出力波形の比較 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22 4.2.1 入力電力による比較 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22 4.2.2 残余分散耐性による比較 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23 4.3 伝送シミュレータによるシミュレーション . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 28
  • 4. 目次 iii 4.4 結言 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 30 第5章 結論 31 謝辞 32 参考文献 33
  • 5. 1 第1章 序論 近年、インターネットトラフィックは急激に増加している。主要インターネットプロバイダー 6 社か らブロードバンド契約者へのダウントラフィックが 2004 年では 111.8Gbps であるのに対し、2006 年に は 226.2Gbps と約 2 倍の増加になっている。この背景として、インターネット加入者の急増、インター ネットを流れるコンテンツの情報量増加が挙げられる。国内のインターネット利用者は、1997 年には 1155 万人であったのに対し 2005 年には 8529 万人に達し、普及率も 66 %を超えている [3]。また ADSL (Asymmetric Digital Subscriber Line) や FTTH (Fiber To The Home) の導入によって、アクセス系の 高速化が実現され、P2P・高画質映像のストリーミング配信・電話・音楽・ソフトウェア配信など、利用 されるコンテンツの種類も拡大している。また、IPv6 の普及に伴う情報源の増加や携帯端末におけるコ ンテンツの利用拡大が予想され、ネットワークのトラフィックは今後さらに増加すると考えられている。 これに伴い、データの集中するバックボーンネットワークにおいて、さらなる高速化、大容量化への対応 が急務となっている。 現在、その打開策として、伝送容量を増大するために、光時分割多重 (Optical Time Division Mul- tiplexing:OTDM) 方式や波長多重 (Wavelength Division Multiplexing:WDM) 方式が導入されている。 OTDM 方式とは、同じ波長の光信号を時間で分割し多数のチャネルに割り当てる多重通信方式であり、 2001 年には 1.28Tbps の OTDM 実験の結果が報告されている [4]。また、WDM 方式とは、1 本の光 ファイバに複数の波長チャネルを割り当てる多重通信方式である。WDM1 チャネルあたりの通信容量は 増加しており、研究レベルでは、1995 年頃には 20Gbps×8 波の通信容量 [5] しかなかったが、2001 年に は 10Tbps を越える 42.7Gbps×273 波の実験が報告されている [6]。 今日、バックボーンネットワークには On/Off Keying(OOK) 方式が用いられている。これは、送信 データに光パルス強度を対応させる強度変調 (Amplitude Shift Keying:ASK) の一方式であり、デー タ”1”、”0”を光パルスが”存在する”、”存在しない”に対応させた変調方式である。OOK 方式は送受信 機の構成が簡単であるため、アクセス系ネットワークからバックボーンネットワークまで幅広く用いられ ている。しかし、OOK 方式はパルス強度に情報を乗せているため、光ファイバのもつ分散性によるパル ス拡がり、非線形性によるスペクトル拡がり、光アンプを通した時に加わる自然放出増幅光 (Amplified Spountaneous Emission:ASE) 雑音などによる強度揺らぎの影響を強く受けてしまう。そのため伝送速 度や伝送距離が制限される。 そのため、従来からの OOK 方式を用いたバックボーンネットワークにおいて伝送速度は向上してい
  • 6. 第 1 章 序論 2 るものの、それを上回る速度でインターネットトラフィックは増加しているため、将来的にバックボーン ネットワークにおいてボトルネックが生じると予想される。 そこで、バックボーンネットワークの更なるの高速化を実現するための手段として、従来の OOK 方 式に代わる変調方式への関心が高まっている。その中で今日注目されているものとして、Frequency Shift Keying(FSK) 方式、Phase Shift Keying(PSK) 方式、多値 ASK 方式、Quadrature Amplitude Modulation(QAM) 方式などが挙げられる。 FSK 方式は、周波数にデータを割り振り周波数をデジタル信号で変調し、受信側では光ヘテロダイン あるいは光の遅延検波器を用いて受信する方式である。OOK 方式のように振幅に情報を乗せないため、 強度雑音に強い利点がある。他に、MSK(Minimum Shift Keying) 方式など狭帯域 FSK 方式の利用や、 広帯域 FSK 方式と狭帯域光フィルタを併用することで従来の FSK 方式よりスペクトル利用効率を向上 でき、半導体レーザの直接変調により FSK 方式を実現することで送信器構成がより簡易になるなどの特 徴がある。一方で 1 チャネルにおける周波数占有帯域が大きくなってしまうことがこの変調方式の欠点で ある。WDM システムにおいて複数のチャネルを多重化する時、当然のことながら 1 つのチャネルに与 えられた周波数帯域は狭い方が多くのチャネルを多重化することができる。しかし、FSK 方式は1チャ ネルあたりの占有帯域が広いため、スペクトル利用効率が落ちる。また、1 チャネルにおける通信速度を 挙げるためには周波数のより高速な切り替えが必要になってくる。しかし、高速に周波数をスイッチし、 長期的に安定な光源を開発するのは難しいため、1 チャネルあたりの通信速度が向上することはあまり見 込めない。WDM システムが主流の現在では FSK 方式は、長距離大容量伝送には適していないと考えら れる。 PSK 方式は搬送波の位相を、データ”0”、”1”にあわせて”0”、”π”に変化させて情報を送る変調方式で ある。これも FSK 方式同様、振幅に情報を乗せないため強度雑音に耐性がある。また一般に、同じ bit 誤 り率 (Bit Error Rate:BER) を得るために必要となってくる搬送波対雑音比 (Carrier to Noise Ratio:C/N 比) も、OOK 方式に比べて 6dB、FSK 方式に比べて 3dB よいことが知られている。また、BPSK 送信 器は OOK 同様に構成が簡素であるが、一方で受信機は OOK 方式に比べて複雑になるといった特徴を持 つ。しかし、バックボーンネットワークで用いる時には、送受信機の複雑性よりも高速化において問題と なる、分散や非線形効果に対する耐性の方が重要視されるため、PSK 方式を用いた長距離伝送の研究が 主流となっている。 また近年、多値 ASK 方式というものも研究されてきた。これは OOK 方式が 2 値振幅の ASK 方式で あるのに対して、4 値振幅、8 値振幅の ASK 方式のことである。こうすることでひとつのシンボルスロッ トに 2 倍、4 倍の情報を乗せることができるようになるため、現在用いられている OOK 方式と同じビッ トレートを得るために必要なシンボルレートは 1/2、1/4 で済み、分散に対する耐性は向上する。一方で 電力レベルが現状の 3 倍、7 倍必要になり、非線形効果が大きくなってしまう。そのため、長距離の伝送 には適していないと考えられる。 さらにこの多値 ASK 方式と PSK 方式を組み合わせた QAM 方式というものも検討されている。これ は、3 値以上の強度レベルを持つ位相変調方式であり、1 つの強度レベルに対して複数の位相レベルを与 え、それを複数の強度レベルでも同様に行うことで1シンボルあたりで伝送できる情報量を増やしたもの である。最近では、20Msymbol/s の 64 値ならびに 128 値 QAM 信号の伝送実験が報告されている [8]。 ここ数年は、遅延干渉計を用いて復調する差動位相変調 (Differential Phase-Shift Keying:DPSK) 方
  • 7. 第 1 章 序論 3 式を中心に検討されてきたが、さらに進んだ変復調方式技術についての検討が進展した。特に、情報伝 送に用いる位相状態を DPSK 方式の 2 相から 4 相に増やして多値化した差動 4 値位相変調 (Differential Quadrature Phase-Shift Keying:DQPSK) 方式の検討が進み、DQPSK 光信号を用いた伝送実験に関す る報告が多数あった。DQPSK 方式の最大の利点はスペクトル利用効率の向上、つまり、同一のビット レートを得るためのシンボルレートを低減できることであり、これにより、信号スペクトル幅の狭窄化、 各種伝送制限要因に対する耐力向上が得られると共に、光/電子部品の所要周波数帯域も低減できる。1 チャネル当たりの伝送速度を 40Gbps とした長距離大容量伝送実験に関する報告では、RZ-DPSK 方式と RZ-DQPSK 方式の特性比較が行われ、RZ-DQPSK 方式は非線形位相雑音の累積の影響をより大きく受 けるが、波長分散・偏波モード分散 (Polarization Mode Dispersion:PMD) に対する耐力は大きくなるこ とが示された [9]。また、DQPSK 信号によるシンボル速度の低減の効果を伝送速度の高速化に利用する 検討も進められ、DQPSK 光信号と OTDM、偏波多重を併用することで、単一チャネルの伝送速度とし ては最高となる 2.56Tbps 伝送実験も報告された [10]。偏波多重とは、1つの周波数帯に2つの直交偏波 を利用することであり、隣り合うパルスの偏波は互いに直交している。こうすることで隣接パルスでの相 互干渉の影響を減らすことができ、片偏波でのデータ伝送量の 2 倍の伝送量を実現できる。 以上のような長距離大容量伝送のための変調方式における最近の動向を踏まえた上で、本研究では非 線形効果や雑音に強く、長距離伝送に適していると考えられている BPSK 方式と、波長分散に強くスペ クトル利用効率も良い 4 値位相変調 (Quadrature Phase Shift Keying:QPSK) 方式について、比較を 行っていく。なお、長距離伝送のひとつの目標として、一偏波あたり 65Gbps のパルスを偏波多重させて 130Gbps、1000km の伝送を行う、というものを定めた。 以下に本論文の構成を示す。第 2 章では、本研究で比較する 2 つの変調方式、BPSK 方式と QPSK 方 式についての基本原理や送受信機の構造を示す。第 3 章では、実際に計算機で行ったシミュレーションの モデル設計と伝送性能の評価方法について説明を行う。第 4 章では、シミュレーションによって得られた 結果と考察を示す。第 5 章では、結論として本研究で得られた成果の総括を行う。
  • 8. 4 第2章 PSK 方式の基本原理・動作特性 2.1 緒言 本章では、BPSK 方式・QPSK 方式について、それらの基本原理・特徴や、送信器と受信器の構成に 言及する。まず、BPSK 方式において、同期型と差動型の 2 つの変調方式について説明し、その特徴を 比較、どちらが今回のシミュレーションに適しているかを述べる。また、搬送波として用いるのに RZ 信 号と NRZ 信号のどちらが良いか比較する。続いて差動型の送信器の構成に言及し、受信器の節において は、今回の検波方法として用いたバランスレシーバーについての仕組みとどのようなアイパターンが得ら れるかを示す。その後、QPSK 方式についても同様に述べる。 2.2 BPSK 方式 2.2.1 BPSK 方式の基本原理・特徴 BPSK 方式とは、データ値”0”と”1”に応じて搬送波の位相を変化させる変調方式であり、現在、同期 BPSK 方式と差動 BPSK(Differential BPSK:DBPSK) 方式が提案、検討されている。またそれぞれに、 搬送波としてパルス光源を用いた Return-to-Zero(RZ)-BPSK 方式と、連続光 (Continuous Wave:CW 光) 光源を用いた NRZ-BPSK 方式がある。同期 BPSK 方式とは、図 2.1 のように、データ値”0”と”1” をそれぞれ搬送波の位相”0”と”π”に対応させて変調させる変調方式である。DBPSK 方式とは図 2.2 の ようにデータ値を隣り合うシンボル間の位相差に対応させたもので、データ値”0”なら前のシンボルと の位相差を 0 にして、”1”なら位相差を π にする。表 2.1、表 2.2 には、それぞれの符号化の一例を示し た。データが”110101”の場合、同期 BPSK 方式では、表 2.1 のようにパルスの位相は”π π 0 π 0 π”に、 DBPSK 方式では、表 2.2 のように”π 0 π π 0 0 π”となる。 表 2.1 同期 BPSK 符号化の例 表 2.2 DBPSK 符号化の例 情報文 1 1 0 1 0 1 情報文 1 1 0 1 0 1 対応する位相 π π 0 π 0 π 差動符号化された情報 1 0 1 1 0 0 1 対応する位相 π 0 π π 0 0 π
  • 9. 第 2 章 PSK 方式の基本原理・動作特性 5 I I 1 Q 0 0 1 Q 0 1 図 2.1 同期 BPSK のコンステレーションマップ 図 2.2 DBPSK のコンステレーションマップ 図 2.3 には同期 BPSK 方式と DBPSK 方式の送受信器の基本構成を示した。(a) 及び、(c) に示したも のが同期 BPSK 方式の送信器と受信器である。受信器にはヘテロダイン受信器が用いられ、その際、縦 モード光 (Longitudinal Optical:LO) レーザーの波長は信号光の波長にあわせる。こうすることで、光カ プラにおいて信号光と LO レーザーの同期が取れ、情報を復元することができる。 (b) と (d) に示したものは DBPSK 方式の送信器と受信器である。受信器では非対称のマッハツェン ダー干渉計 (Mach-Zehnder Interferometer:MZI) による直接検波が用いられる。光カプラで信号を二つ に分けた後、シンボル時間 TS に一致した光路長差を与えてもう一度光カプラで結合させる。こうする ことで 1bit 前のシンボルと干渉するため、差動化された情報を復調することができる。バランスレシー バーは、干渉器の後に乗算器として置かれ、電気変換器の役割を担う。 同期 BPSK 方式と DBPSK 方式を比較すると、同期 BPSK 方式に比べ DBPSK 方式は送信機の構造 が複雑である。これは変調する際、DBPSK 方式は、データを一旦プリコーダーに通す必要があるためで ある。しかし、DBPSK 方式を用いることである所望の BER を得るための C/N 比が改善されることが 知られている。これにより、同期 BPSK 方式に比べ、DBPSK 方式は小さな電力で同期 BPSK 信号と同 じ BER を得ることができ、効率が良いと言える。また、強度変動に伴う非線形光学効果、例えば自己位 相変調効果や相互位相変調効果を受けたとしても、パルスごとの電力は全て一定なため、位相変調効果の 影響は全てのパルスに同様であり、そのためパルス間での位相差に変化はない。そのため、光ファイバー 中での非線形光学効果に耐性があると言える。 続いて NRZ 方式と RZ 方式の特徴を示す。NRZ 方式の利点として、スペクトル幅が RZ 信号に比べて 狭いということが挙げられる。よって現在はこの特長を生かして WDM システムに用いられ、大容量伝 送を実現させている。しかし、これ以上の大容量伝送を実現するために、1 チャンネル当りで伝送速度を あげようとすると、S/N 比を充分とるために信号電力を大きくする必要があり、結果として非線形効果が 発生し、たとえ群速度分散が 0 になるようなファイバーを用いても波形歪みを伴うことが分かっている。 この結果、1 チャネル当りの伝送速度は NRZ 方式では 5Gbps 以上にすることは困難とみなされている。 一方、RZ 方式は NRZ 方式に比べてパルス幅が狭く、スペクトル幅が広くなるという特徴がある。この ため、WDM を行うときには NRZ に比べてスペクトル利用効率が落ちてしまう欠点がある。しかし電力 が 0 まで落ちているところがあるため、NRZ 方式で問題となっていた非線形効果が起こりにくいという 利点がある。 以上のことを踏まえるとバックボーンネットワークでは、システムの複雑性より、分散、非線形に対す る耐性の方が重要視されるため、本研究では DBPSK 方式を用いる。また長距離伝送において、非線形
  • 10. 第 2 章 PSK 方式の基本原理・動作特性 6 効果は伝送性能に影響を与えるほど大きいため、非線形効果への耐性の大きい RZ 方式を用いた。尚、本 論文では以後、DBPSK 方式のことを単に BPSK 方式と表記する。 ataD revirD ataD redocerP revirD ST .doM e sahP .doM e sahP rettim snarT KS PB )a( re ttimsna rT KSPD )b( relpuoC re saL OL ST rev ieceR KS PB enydor ete H )c( reviece R KSPD noitceteD-tceriD )d( 図 2.3 BPSK 送受信器の基本構造 2.2.2 RZ-BPSK 送信器 図 2.4 は RZ-BPSK 信号を生成するための送信器であり、強度変調器と位相変調器が直列になってい る。強度変調器には、その搬送波の基本位相に対して位相の変化がない、ゼロチャープな RZ パルス列を 生成することが望まれる。位相変調器は RZ-BPSK 信号を生成するために RZ 信号の位相を変調する。図 2.3(b) と似ていて、位相変調器の駆動信号は、前もって入力情報を差動符号化するためにプリコーダーに 通しておく必要がある。これは図 2.3(d) の直接検波干渉器を用いて位相差から情報を復調できるように するためである。 図 2.4 のパルス生成器は、データ元と同期された sin 信号で駆動している強度変調器である。また、最 y tisnetnI e sahP .doM .doM .cnyS redocerP ataD ST 図 2.4 RZ-BPSK 送信器の構造
  • 11. 第 2 章 PSK 方式の基本原理・動作特性 7 2 relpuoC )t(1E 1 relpuoC )t(0E )t(nocE )t(i )t(2E T S )t(2’E )t(sedE 図 2.5 直接検波 BPSK 受信器の基本構造 高のパフォーマンスを出すためには、位相変調器に入力される RZ パルスと差動符号の同期も取っておく 必要がある。 2.2.3 直接検波 BPSK 受信器 図 2.5 に直接検波型の受信器を示す。これの基本的な部分は MZI とバランスレシーバーからなって いる。 光フィルタを通り、受信器に入射した電界 E0 は 3dB 光カプラ 1 で分光され、それぞれの電界 E1 、E2 は E0 を用いて 1 E1 (t) = √ E0 (t) (2.1) 2 1 E2 (t) = i √ E0 (t) (2.2) 2 と表される。さらに分光された電界のうち一方は遅延量 Ts の 1bit 遅延器を通過する。そのため、1bit 遅 延器通過後の電界 E2 は式 2.2 より 1 E2 (t) = i √ E0 (t − Ts ) (2.3) 2 となる。そして 3dB 光カプラ 2 で E1 と E2 は合波され、図 2.5 の上側のポート、下側のポートの電界 Econ (t)、Edes (t) はそれぞれ 1 Econ (t) = [E0 (t) + E0 (t − Ts )] (2.4) 2 i Edes (t) = [E0 (t) − E0 (t − Ts )] (2.5) 2 と表される。尚、隣り合うパルスのの電界の和が出力されるポートを Constructive Port と言い、差が出 力されるポートを Destructive Port と言う。このときそれぞれのポートで出力される波形を図 2.6 に示 す。Constructive Port では隣り合うパルスの位相差が 0 の時パルスが立ち、一方の Destructive Port で は位相差が π の時パルスが立つ。
  • 12. 第 2 章 PSK 方式の基本原理・動作特性 8 ∆φ 0 π 0 0 π ∆φ 0 π 0 0 π Power Power Time Time Constructive Port Destructive Port 図 2.6 干渉後出力される波形 i(t) ∆φ=0 Power ∆φ=π Time 図 2.7 BPSK 信号をバランスレシーバーで受信した時のアイパターン バランスレシーバーにはこの二つのポートの出力を入力し、電気的に処理される。その出力 i(t) は以下 のとおりとなる。 i(t) = |Econ (t)|2 − |Edes (t)|2 (2.6) そしてこのとき得られるアイパターンは図 2.7 のようになる。Constructive Port・Destructive Port ぞ れから情報を復元することは可能だが、バランスレシーバーで検波することで受信感度が 3dB 良くなる ことが知られている。そのため、本研究で検波をする際にはバランスレシーバーを用いることにした。 2.3 QPSK 方式 2.3.1 QPSK 方式の基本原理・特徴 QPSK 方式とは、データ値”00”、”01”、”10”、”11”に応じて搬送波の位相を変化させる変調方式で、 1 シンボル内で従来の 1 ビットではなく 2 ビットを伝送することができる。無線システムで昔から用いら れている変調方式を光に適用したものである。
  • 13. 第 2 章 PSK 方式の基本原理・動作特性 9 QPSK 方式にも同期 QPSK 方式と DQPSK 方式の 2 種類がある。同期 QPSK 方式とは、図 2.8 のよ うに、データ値”00”、”01”、”11”、”10”をそれぞれ, 搬送波の位相”0”、”π/2”、”π”、”3π/2”に対応さ せて変調する変調方式である。DQPSK 方式とは図 2.9 のようにデータ値を隣り合うシンボル間の位相差 に対応させたもので、前のパルスとの位相差が 0 ならデータ値”00”を、π/2 なら”01”を、π なら”11”を、 3π/2 なら”10”を表す。表 2.3、表 2.4 には、それぞれの符号化の一例を示した。データが”11011000”の 場合、同期 QPSK 方式では、表 2.3 のようにパルスの位相は”π π/2 3π/2 0”に、DQPSK 方式では、表 2.4 のように”0 π π/2 π π”となる。 I I 10 00 00 10 01 Q 00 01 11 Q 11 10 01 10 01 00 10 00 01 図 2.8 同期 QPSK のコンステレーションマップ 図 2.9 DQPSK のコンステレーションマップ 表 2.3 同期 QPSK 符号の一例 表 2.4 DQPSK 符号の一例 情報文 11 01 10 00 情報文 11 01 10 00 π 3π 対応する位相 π 2 2 0 差動符号化された情報 0 2 1 2 2 π 対応する位相 0 π 2 π π QPSK 方式は、ASK 方式や FSK 方式など他の変調方式に比較し、BPSK 方式と似通った特徴を持つ。 また同じビットレートの BPSK 方式と比較した場合、1 シンボルにおけるパルス幅が 2 倍で、変調スペ クトル幅は 1/2 となる。したがって波長分散耐力は理論的には 4 倍になり、PMD 耐力も理論的には 2 倍 に上る。さらにはスペクトル利用効率の向上や、電子回路の周波数帯域が半分でよいといった利点を持 つ。一方で、BPSK 方式と比べて C/N 比が厳しくなるといった欠点を持つ。これは図 2.1 と図 2.8、ま たは図 2.2 と図 2.9 を見比べてもわかるように、QPSK 方式が BPSK 方式に比べて位相配置の間隔が狭 く、強度・位相雑音に敏感であるためである。従って受信 C/N 比を確保するためには伝送路中の平均電 力を大きくする必要があり、結果として非線形効果の影響が大きくなってしまう。また、変調器にプリ コーダーを用いたり、受信器では MZI が 2 つ必要になってくるなど、構成が複雑になってしまうという 欠点がある。 本研究では BPSK 方式の時に述べたように、同期変調方式より差動変調方式の方が長距離伝送に向い ていると考えられるため、DQPSK 方式を採用した。なお、これより後に QPSK 方式といえば DQPSK
  • 14. 第 2 章 PSK 方式の基本原理・動作特性 10 方式を指すものとする。また、搬送波には BPSK 方式と同様に RZ 信号を用いる。 2.3.2 RZ-QPSK 送信器 QPSK 信号の生成には、図 2.10 で示した 2 駆動 MZ 変調器が用いられる。これは、変調器に 2 つの駆 動電圧 V1 と V2 を加えて変調するもので、位相が π となるような電圧 Vπ をそれぞれに入力する。こう して作り出したもののうち一方を π/2 位相シフトさせてその二つを加えることで 4 つの位相を持つパル ス列を作り出す。この方法を用いた QPSK 送信器は図 2.9 のようなコンステレーションを作り出す。 ほかに、QPSK 信号は直列につないだ2つのバイナリ位相変調器で生成することもできる。1つ目の 強度変調器で BPSK 方式の時と同じように、位相が 0 と π を持つゼロチャープの RZ パルスを作り出し、 2つ目の位相変調器で π/2 の位相変調を行えばよい。 さらに他の方法として、4つの電圧レベルを与えて一気に 4 つの位相を持つパルス列を生成することの できる位相変調器を用いる方法もある。しかし駆動電圧レベルを4値生成することは容易ではないため、 あまり用いられない。 ev irD-lauD V1 tfihs 2/π .doM .d oM ZR V2 ataD redocnE 図 2.10 2駆動 MZ 変調器の基本構造 .cnyS 図 2.11 MZ 変調器をもつ RZ-QPSK 送信器 RZ-QPSK 信号の送信器は図 2.11 で示したような 2 駆動 MZ 変調器と強度変調器で構成されている。 2 駆動 MZ 変調器の出力信号は位相揺らぎはないが強度揺らぎがあるといった特徴がある。この信号を強 度変調器に通すことにより、強度揺らぎが抑えられ、位相・強度に揺らぎのない RZ-QPSK 信号が得ら れる。 2.3.3 直接検波 QPSK 受信器 QPSK 信号の復調には、BPSK 方式の時にも用いた MZI を2つ用いる。その基本構成を図 2.12 に示 した。受信器に入射した電界 E0 は、3dB 光カプラで分光され、それぞれ MZI を通る。この際 1bit 遅延 器側の位相をさらに ±π/4 回転させる。ここで、受信した電界を E0 (t) = Aejφs (t) として、3dB 光カプ ラとバランスレシーバーを理想的なものとしたとき、図の上側出力における光電流 iI (t) は A2 iI (t) = cos[φs (t) − φs (t − TS ) + π/4] (2.7) 2 下側出力の光電流 iQ (t) は A2 iQ (t) = cos[φs (t) − φs (t − TS ) − π/4] (2.8) 2
  • 15. 第 2 章 PSK 方式の基本原理・動作特性 11 IZ M )t( i I )t( E 0 S T tfihs 4/π+ IZ M ) t( i Q S T tf ihs 4/π- 図 2.12 直接検波 QPSK 受信器の構造 となる。 ここで、MZI に通した時に 1bit 遅延させる側の位相をさらに ±π/4 回転させる理由を説明する。一 方を ±π/4 回転させたものの I 側、Q 側の Constructive Port・Destructive Port における電界 EIcon 、 EIdes 及び EQcon 、EQdes の電力波形は図 2.13 のようになる。またそのピーク電力は 1 A2 iImax|∆φ=0,π/2 = √ (2.9) 2 2 1 A2 iImax|∆φ=π,3π/2 = − √ (2.10) 2 2 A2 iQmax|∆φ=0,3π/2 = (2.11) 2 1 A2 iQmax|∆φ=π/2,π = − √ (2.12) 2 2 で表され、図 2.14 のように I 側と Q 側でそれぞれ異なった位相差の組み合わせを持つアイパターンが得 られる。ここで ∆φ はビット間の位相差である。これら iI (t)、iQ (t) のデータを組み合わせることで情報 が決定できるため、MZI に通した時に 1bit 遅延器側の位相を ±π/4 回転させるのである。 2.4 結言 本章では、本論文で比較・検討の対象にした BPSK 方式・QPSK 方式について、それらの基本原理・ 特徴や、送信器と受信器の構成を述べた。まず、BPSK 方式において、同期型と差動型の 2 つの変調方式 について説明し、どちらが本研究のシミュレーションに適しているかを述べた。続いて差動型の送信器の 構成に言及し、受信器の節においては、バランスレシーバーを用いた場合にどのようなアイパターンが得 られるかを示した。その後、QPSK 方式についても同様に述べた。
  • 16. 第 2 章 PSK 方式の基本原理・動作特性 12 ∆φ 3π/2 π 0 π/2 π ∆φ 3π/2 π 0 π/2 π Power Power Time Time Constructive Port Destructive Port ∆φ 3π/2 π 0 π/2 π ∆φ 3π/2 π 0 π/2 π Power Power Time Time Constructive Port Destructive Port 図 2.13 ±π/4 回転させた時干渉後得られる波形 上:I 側 下:Q 側 iI(t) iQ(t) ∆φ=0,π/2 ∆φ=0,3π/2 Power Power ∆φ=π,3π/2 ∆φ=π/2,π Time Time I 側出力 Q 側出力 図 2.14 ±π /4 回転させた時バランスレシーバー後得られるアイパターン
  • 17. 13 第3章 シミュレーションモデルの設計 3.1 緒言 本章では、本研究の伝送シミュレーションを行うにあたり用いた理論を示す。まず、スプリット・ステッ プ・フーリエ法 (Split-Step Fourier 法:SSF 法) の説明を行い、シミュレーションで用いるモデルの設計 方法と実際に用いたシミュレーションの各パラメータを説明する。そして最後に伝送性能を評価するため に用いた Q 値について示す。 3.2 スプリット・ステップ・フーリエ法 3.2.1 スプリット・ステップ・フーリエ法の概略 光ファイバ中の光波の伝搬は、マクスウェル方程式から直接導かれる非線形シュレディンガー方程式 (Nonlinear Schrodinger Equation:NLS) によって記述される。これは以下の式で表される。 δφ 1 δ2 φ 1 δ3 φ α 1 = j β2 2 + β3 3 − φ − j kn2 |φ|2 φ (3.1) δz 2 δτ 6 δτ 2 2 ここで φ は電界、β2 は分散、β3 は高次分散、α は減衰係数、k は波数、n2 は非線形屈折率を表す。NLS を線形演算子:A および非線形演算子:B を用いて書くと次式となる。 δ φ = [A + B]φ (3.2) δz ただし、A、B は次式で与えられる。 1 δ2 1 δ3 α A = j β2 2 + β3 3 − (3.3) 2 δτ 6 δτ 2 1 B = −j kn2 [|φ|2 ] (3.4) 2 ここで、線形演算子 A として、分散、分散スロープ、減衰を考慮しており、非線形演算子 B として、カー 効果を考慮している。通常光通信に使われる数 ps 程度のパルス幅では、これらの項を考慮すれば十分で
  • 18. 第 3 章 シミュレーションモデルの設計 14 あることがわかっている。微分方程式 3.2 の解は以下の様に求まる。 φ(z + h, τ ) = exp[(A + B)h]φ(z, τ ) (3.5) この式は変形すると以下のように書ける。 hA hA φ(z + h, τ ) = exp( )exp(hB)exp( )φ(z, τ ) (3.6) 2 2 この式は解析解を求めることが難しいため、SSF 法という数値計算を行うことで近似的に解を求める。 SSF 法では、線形演算子 A および非線形演算子 B を交互に作用させて、時間波形および周波数スペクト ルの伝播過程を並列的に計算する。線形演算子 A は周波数領域において作用させ、非線形演算子 B は時 間領域において作用させる。また時間領域と周波数領域の間での変換に高速フーリエ変換 (Fast Fourier Transform:FFT) を用いており、計算時間の大部分はここで消費される。 これは、計算区間 h において、次の3段階の計算ステップを想定している (図 3.1)。まず、前半 h/2 に 対する線形演算子 A の効果を計算する。スペクトルに対し線形演算子 A を作用させ、h/2 だけ伝搬させ た後、時間波形に戻す。 h hA φ(z + , τ ) = exp( )φ(z, τ ) (3.7) 2 2 次に、非線形効果による位相補正として、区間 h において、前半 h/2 で求まった時間波形に対して非線 形演算子 B を作用させる。 h h φ∗ (z + , τ ) = exp(hB)φ(z + , τ ) (3.8) 2 2 最後に、後半 h/2 に対する線形演算子 A の効果を計算する。常識で求めた時間波形をスペクトルに変換 し、線形演算子 A で h/2 だけ伝搬させた後、再び時間波形に戻す。 hA ∗ h φ(z + h, τ ) = exp( )φ (z + , τ ) (3.9) 2 2 以上で区間 h の 1 サイクルが完了し、これを繰り返して伝送シミュレーションを行う。 域領間時 B B T FFI TFF T FFI TFF A A A A 域領ルトクペス 間区 h 間区 h 図 3.1 スプリットステップフーリエ法の概念図 3.2.2 線形演算子の具体的表現 ここでは、線形演算子 A について、 hA exp( ) = att · gvd (3.10) 2
  • 19. 第 3 章 シミュレーションモデルの設計 15 の具体的表現について述べる。なお、att・gvd はそれぞれ振幅減衰・位相変化を表す。線形演算子 A の 具体的表現について、考慮すべき線形伝搬方程式は次式である。 dφ 1 δ2 1 δ3 α = (j β2 2 + β3 3 − )φ (3.11) dz 2 δτ 6 δτ 2 これをフーリエ変換し、周波数領域でのスペクトル分布についての方程式を得る。 δΨ 1 1 α = (−j β2 ω 2 − j β3 ω 3 − )Ψ (3.12) δz 2 6 2 ここで ω は中心周波数 ω0 からの偏差である。 まずファイバ減衰定数 α の定式化について説明する。ファイバのエネルギー減衰定数が α[dB/km] の 時、h/2 [m] 伝搬後の振幅減衰 att は次式で計算される。 α h αh att = 10^ − ( 3 ) = 10^(− ) (3.13) 20 2 × 10 4 × 104 続いて、群速度分散 γ の定式化について説明する。ファイバの群速度分散による h/2 伝搬後のスペク トル分布の位相変化 gvd は次式で計算される。 −jγh gvd = exp( ) (3.14) 2 ここで γ は次式である。 1 1 γ= β2 ω 2 + β3 ω 3 (3.15) 2 6 ω=2πf を (3.15) に代入し、β2 [ps2 /km], β3 [ps3 /km], f [THz] として計算すると、γ[m−1 ] は次式と なる。 γ[m−1 ] = 1.97 × 10−2 β2 f 2 + 4.13 × 10−2 β3 f 3 (3.16) 通常、β2 は波長偏差 1nm、伝搬距離 1km あたりの遅延時間 D[ps/nm/km] で与えられる。 dβ1 dβ1 dω 2πc D= = = β2 (− 2 ) (3.17) dλ dω dλ λ 1 2πc dω ここで、β1 = vg 、ω = λ 、 dλ = − 2πc である。c=2.998 ×108 m/s を (3.17) に代入し、波長を λ[nm] λ2 とすると D は次式で与えられる。 β2 [ps2 /km] D[ps/nm/km] = −1.88 × 106 (3.18) λ2 [nm] 逆に β2 は、次式となる。 β2 [ps2 /km] = −5.31 × 10−7 λ2 [nm]D[ps/nm/km] (3.19) 通常、β3 は波長偏差 1nm あたりの分散 D[ps/nm/km] の変化 Sl [ps/nm2 /km] で与えられる。λ を固定 して Sl を計算すると次式となる。 dD 2πc dβ2 dω 2πc Sl = = (− 2 ) = (− 2 )2 β3 (3.20) dλ λ dω dλ λ
  • 20. 第 3 章 シミュレーションモデルの設計 16 c=2.998 ×108 m/s を (3.20) に代入し、波長を λ[nm] とすると、Sl は次式となる。 β3 [ps3 /km] Sl[ps/nm2 /km] = 3.55 × 1012 (3.21) λ4 [nm] 逆に β3 は、次式となる。 β3 [ps3 /km] = 2.82 × 10−13 λ4 [nm]Sl[ps/nm2 /km] (3.22) (3.19) および (3.22) を (3.16) に代入して、γ を計算すると次式を得る。 γ[m−1 ] = −1.05 × 10−8 λ2 Df 2 + 1.16 × 10−14 λ4 Slf 3 (3.23) ただし、f [THz] は信号の中心周波数 f0 からの偏差である。特に λ=1550 nm の場合、(3.23) は次式と なる。 γ[m−1 ] = −2.52 × 10−2 Df 2 + 6.70 × 10−2 Slf 3 (3.24) 時間波形 φ とスペクトル分布 ψ の間には、FFT により次式の関係がある。 N −1 1 ln Ψ= √ φexp(−j2π ) (l = 0 ∼ N − 1) (3.25) N n=0 N N −1 1 ln φ= √ Ψexp(j2π ) (n = 0 ∼ N − 1) (3.26) N N l=0 ここで時間刻み ∆t と周波数刻み ∆f 、波長刻み ∆λ およびサンプル数 N の間には次式の関係がある。 1 ∆f ∆t = (3.27) N 1 ∆f [THz] = (3.28) ∆t[ps]N ∆f λ2 λ2 ∆λ[nm] = λ = = 3.34 × 10−6 (3.29) f c∆tN ∆tN 周波数領域での中心周波数からの周波数偏差 f [THz] は次式で与えられる。 N N f = l∆f (l = − ∼ − 1) (3.30) 2 2 (3.28)、(3.30) を (3.23) に代入すると、次式を得る。 l 2 l 3 γ[m−1 ] = −1.05 × 10−8 λ2 D( ) + 1.16 × 10−14 λ4 Sl( ) (3.31) ∆tN ∆tN 特に λ = 1550 nm では、次式となる。 l 2 l 2 γ[m−1 ] = −2.52 × 10−2 D( ) + 6.70 × 10−2 Sl( ) (3.32) ∆tN ∆tN (3.13)、(3.14) から h/2 [m] 伝搬させる線形演算子 A の具体的表現は次式となる。 hA αh jγh exp( ) = att · gvd = 10^(− 4 )exp(− ) (3.33) 2 4 × 10 2 ここで、γ は (3.31) で与えられる。
  • 21. 第 3 章 シミュレーションモデルの設計 17 3.2.3 非線形演算子の具体的表現 ここでは、非線形演算子 B について、 exp(hB) (3.34) の具体的表現について述べる。線形演算子で距離刻み h の 1/2 だけ伝搬させた時間波形に、非線形演算 子を作用させて区間 h における非線形効果にともなう位相補正量を計算する。考慮すべき方程式は、 h h φ∗ (z + , τ ) = exp(hB)φ(z + , τ ) (3.35) 2 2 である。ここで B は (3.4) で与えられる。 1 B = −j kn2 [|φ|2 ] (3.36) 2 波数 k は、波長を λ[nm] とすると次式で与えられる。 2π 6.28 × 109 k[m−1 ] = = (3.37) λ λ[nm] 単位断面積あたりの信号電力 |φ|2 は次式となる。 P [mW] |φ|2 [W/m2 ] = 109 (3.38) s[µm2 ] ここで P は伝送中の時間波形から計算した瞬時パワー、s は有効コア断面積である。カー定数 n2 は石英 系光ファイバにおいて、次の実測値が報告されている。 n2 = 2.24 × 10−20 [m2 /W] (3.39) (3.37)、(3.38) より、(3.36) のカー効果に対する項は次式となる。 n2 P B = −j3.14 × 1018 (3.40) λs (3.35) に代入し、カー効果にともなう非線形演算子の具体的表現を求めると次式となる。 hn2 P exp(hB) = exp(−j3.14 × 1018 ) (3.41) λs 3.3 計算機シミュレーションモデルの設計 図 3.2 に今回シミュレーションで作成した伝送路モデルを示す。まずはじめに 65G symbol/s 及び 32.5G symbol/s の RZ-パルス列を生成する。続いて PN7 段・PN8 段の擬似乱数バイナリシーケンス (Pseudorandom Binary Sequence:PRBS) により生成した擬似ランダムデータを位相変調器に入力する。 こうして生成された 127 個の RZ-BPSK ないしは RZ-QPSK パルス列 E1i (t) をシングルモードファイ バー (Single Mode Fibre:SMF) に通した後、SMF の分散によるパルス歪みを補償するために分散補償
  • 22. 第 3 章 シミュレーションモデルの設計 18 ファイバー (Dispersion Compensating Fiber:DCF) に通す。ここで 1555nm における分散の値が 0 であ る分散シフトファイバーを用いない理由は、分散の影響が小さい時パルスは 4 光波混合の影響を大きく受 けてしまうが、この 4 波混合は補償が困難であるからである。そこで、意図的に局所的な分散の影響を大 きくして 4 波混合の影響を減らす一方、ファイバー全体の平均分散を抑えるためにこの分散補償技術を用 いる。その模式図を図 3.3 に示す。 :FCD 1L:FMS 2L KSP -ZR revi eceR rot aren eG rot aren eG 図 3.2 シミュレーションで用いた伝送回路モデル D D 1 L 2 LD 1 1 LD Z L 1 LD 2 2 D2 図 3.3 分散補償の模式図 SMF の長さを L1 、分散係数を D1 、DCF の長さを L2 、分散係数を D2 とした時、 L1 D1 + L2 D2 = DL (3.42) L1 + L2 = 50 (3.43) となるように L1 、L2 の値を定める。なお、DL は分散補償を行った際に補償しきれていない分散量を表 し、1 周期、50km 伝送させた時に補償できずに残ってしまった分散量 DL を残余分散と呼ぶ。この出力 E1o (t) を光アンプに通して伝送中の損失を補償する。なお、この際に ASE 雑音として白色ガウシアン雑 音を加えた。その雑音の大きさは、実際の光アンプで測定した S/N 比 (Signal/Noise Ratio) を参考にし た。 平均電力が 0.1mW である CW 光を光アンプで 10dB 増幅し、その出力を光スペクトルアナライザ で測定した。その際得られたスペクトルを図 3.4 に示す。これより、光アンプ後の S/N 比が 40dB ほど であることが見て取れる。そこで、シミュレーションにおいても平均電力が 0.1mW である RZ パルスを 10dB アンプしたときにその出力の S/N 比が 40dB になるように調節したところ図 3.5 のようになった、 平均雑音電力-65dBm を ASE 雑音として加えることにした。E1o (t) のスペクトルを F1o (ν)、光アンプ のの出力 Eamp (t)、そのスペクトル Famp (ν)、光アンプの利得係数を G とした時、Famp (ν) について以 下のような計算を行った。 Famp (ν) = GF1o (ν) + noise terms. (3.44)
  • 23. 第 3 章 シミュレーションモデルの設計 19 02- ) m B d 04- ( r Bd04 e w o 06- P 08- 3551 4551 5551 6551 7551 )mn(htgnelevaW 図 3.4 実際に光アンプを通した際の雑音が加わったスペクトル -20 -30 Power(dBm) -40 40dB -50 -60 -70 1554 1555 1556 Wavelength(nm) 図 3.5 シミュレーションで光アンプを通した時のスペクトル ここで noise terms. とは、平均電力-65dBm、分散 1.0 のガウス雑音である。そして光フィルタを通して この白色雑音を切り落とした。この時の光フィルタの半値全幅は、各変調方式において最適な値に設定し た。光フィルタの出力スペクトルを Ff ilter (ν)、光フィルタの半値全幅を ν1 とした時 ν2 Ff ilter (ν) = exp( 2 )Famp (ν) (3.45) 2ν1 という計算を行った。この SMF から光フィルタまでの流れを 1 周期 50km として、これを 20 周周回伝 送させることで 1000km の伝送とした。このようにして 1000km 伝送させた信号を直接検波器及びバラ ンスレシーバーに通して検波した。なお、表 3.1 に今回のシミュレーションで用いた固定パラメータを 示す。 本研究では、はじめに入力電力を最適化するために入力電力を変化させる。続いて、残余分散に対する
  • 24. 第 3 章 シミュレーションモデルの設計 20 耐性を評価するために SMF 及び DCF のファイバー長 L1 および L2 を変化させる。最後に PMD に対 する耐性を評価するために PMD の値を変化させる。 表 3.1 シミュレーションの固定パラメータ 意味 値 BPSK のシンボルレート 65Gsymbol/s QPSK のシンボルレート 32.5Gsymbol/s BPSK のパルスの半値全幅 7.69ps QPSK のパルスの半値全幅 15.39ps SMF の分散係数 (2次分散) 17.0ps/nm/km SMF の分散傾斜 (3次分散) 0.03ps/nm2 /km SMF の非線形係数 4.040/km/W SMF のファイバー損失 0.20dB/km DCF の分散係数 (2次分散) -100.0ps/nm/km DCF の分散傾斜 (3次分散) -0.03ps/nm2 /km DCF の非線形係数 4.040/km/W DCF のファイバー損失 0.20dB/km 中心波長 1555.0nm 光アンプの利得係数:G 10.10dB 光アンプの平均雑音電力 -65dBm BPSK の時の光フィルタの半値全幅 5.0nm QPSK の時の光フィルタの半値全幅 2.5nm 3.4 評価方法 信号伝送品質の評価は Q 値を用いて行う。図 3.6 に Q 値の定義を示す。 |µ0 − µ1 | Q= (3.46) σ0 + σ1 ここで µ0 および µ1 は 0 レベルおよび 1 レベルの平均電力を、σ0 および σ1 はそれらの標準偏差を表す。 また、0 および 1 の各レベルがガウス分布であると仮定すると、次式により Q 値から符号誤り率 (Bit Error Rate:BER) を計算することができる。 1 Q exp(−Q2 )/2 BER = erf c( √ ) ≈ √ (3.47) 2 2 Q 2π この式を用いて BER を計算すると Q=6 で 10−9 、Q=7 で 10−12 程度の誤り率となる。Q 値が大きい 時、数値計算において BER=0 となってしまい、比較が困難になるため、本研究では比較方法として Q 値を用いる。
  • 25. 第 3 章 シミュレーションモデルの設計 21 rewoP σ 1 μ1 emiT .borP μ0 σ 0 図 3.6 RZ 信号に対する Q 値の定義 3.5 結言 本章では、SSF 法の基本的な原理とその計算過程を説明した後、シミュレーションモデルの設計方法や 各パラメータの値を示した。そして最後にシミュレーションの性能比較のパラメータとして用いる Q 値 について述べた。
  • 26. 22 第4章 シミュレーションの結果 4.1 緒言 本章では実際に行ったシミュレーションの結果を示す。はじめに適正な入力電力を求めるために入力電 力を変化させて Q 値の変化を調べる。続いて残余分散を変化させて Q 値の変化を見ることでそれに対す る耐性を比較した。そして最後に PMD に対する耐性を評価するために、偏波多重を用いた 130Gbps 伝 送のシミュレーションを行った。 4.2 出力波形の比較 4.2.1 入力電力による比較 まずはじめに、正確に 分散補償がなされていて残余分散 DL=0 という理想的な状態において、 伝 送 路 に 入 力 す る 電 力 の 値 を 変 え て そ の 最 適 値 を 求 め た 。SMF、DCF の ファイ バ ー 長 は そ れ ぞ れ L1 =42.735 L2 =7.265 とした。BPSK 方式・QPSK 方式それぞれ入力電力を変化させていき、 1000km 伝送後検波した波形についてそれぞれアイパターンと Q 値を求めた。図 4.1 に入力パワーと Q 値の関係を表したグラフを、図 4.2 にそのうちの入力電力が 0.1、0.6、2.0mW のもののアイパターンを 示す。 まず BPSK 方式と QPSK 方式の同一入力電力のアイパターンを比較する。図 4.2 の (a) と (b) を比べ ると、ピーク電力のばらつきの幅は同程度であることが見て取れる。しかし図 4.1 において、入力電力が 1mW よりも小さい時、BPSK 方式の方が QPSK 方式に対して Q 値がよいことがわかる。これは QPSK 方式において、検波する際 ±π/4 位相をシフトさせていることが原因である。そのため、入力電力が同 じであっても検波後のアイパターンでのピーク電力は BPSK 方式よりも落ちてしまう。よって、電力の 平均値 µ0 及び µ1 がそれぞれ BPSK 方式のそれに比べて下がってしまい、|µ0 − µ1 | の値が小さくなり、 Q 値の低下をもたらすのである。また、QPSK 方式の方が位相間隔が狭く雑音に弱いことも一因である。 入力電力が小さい時は雑音の影響を大きく受けるため、QPSK 方式の方が Q 値が悪くなったと考えられ る。続いて、図 4.2 の (e) と (f) を見比べてもわかるように、入力電力が 1mW よりも大きい時その関係 が逆転してることが図 4.1 から見て取れる。これはスペクトル幅が QPSK 方式に対して BPSK 方式の方 が広いことが原因だと考えられる。BPSK 方式の方がスペクトル幅が広く、入力電力が大きい場合には
  • 27. 第 4 章 シミュレーションの結果 23 61 21 値 Q 8 4 0 1. 0 1 01 )Wm(rew oP t upnI KSPB KSPQ 図 4.1 入力パワーと Q 値の関係 非線形効果によるスペクトル拡がりが強く起きる。そこに分散効果が加わってくることで QPSK 方式よ り Q 値が悪くなったと考えられる。以上より、入力電力には、雑音の影響と SPM の影響がバランスをと り、双方の影響が最も現われにくくなる、最適値が存在するということが分かる。今回のシミュレーショ ンでは図 4.1 に示すとおり、BPSK 方式、QPSK 方式共に入力電力を 0.6mW にして伝送を行うのがもっ ともよいと言える。また、共に分散補償が正確にされている理想環境下では BPSK 方式の方が QPSK 方 式よりも優れていることがわかった。 4.2.2 残余分散耐性による比較 前節では、正確に分散補償がなされていて、残余分散 DL=0 が満たされている場合の伝送について の考察を行った。しかし実環境においては、熱やファイバーの曲がりなど外的かつ動的な影響によって、 ファイバー長や分散係数は常に変化している。そのため、正確に分散補償された状態を保つことは長距 離伝送において不可能である。短距離で伝送を行った際にはさほど問題にならなかったような小さなファ イバー長や分散係数のずれも、長距離伝送させた時には大きな問題となりうる。そこで、BPSK 方式と QPSK 方式がどれほど残余分散に耐性があるかを検討する。 比較方法として、SMF、DCF のファイバー長、L1 と L2 の値を変化させ、DL の値を 0 からずらすこ とで残余分散を変化させるものとした。具体的な L1 と L2 の値や DLtotal については表 4.1 に示した。 なお、DLtotal は 20 周周回伝送させた後の残余分散の値である。また、入力電力は 0.1、0.6、2.0mW と した。 図 4.3、図 4.4 にそれぞれ入力電力が 0.6mW の時の BPSK 方式・QPSK 方式で得られたアイパターン を示す。DL=0 のものに関してはそれぞれ図 4.2(c)、(d) を参照してもらいたい。また、図 4.5 にそれぞ れの残余分散と Q 値の関係を表したグラフを示す。 図 4.3 の (a)、(b) を見ると、(a) ではパルスの位相が π − π または 0 − 0 と続いた時にシンボルス ロットの間で電力が 0 まで戻らずに、浮いてしまっているが (b) ではその現象が見られないことがわか る。(a) においてシンボルスロット間でこのような現象が生じた理由は、隣り合うパルスが同位相の時シ
  • 28. 第 4 章 シミュレーションの結果 24 0.2 0.15 Power(mW) Power(mW) 0 0 -0.2 -0.15 -15 -10 -5 0 5 10 15 -30 -20 -10 0 10 20 30 Time(ps) Time(ps) (a) 入力パワー 0.1mW の BPSK (b) 入力パワー 0.1mW の QPSK 1 0.8 Power(mW) Power(mW) 0 0 -1 -0.8 -15 -10 -5 0 5 10 15 -30 -20 -10 0 10 20 30 Time(ps) Time(ps) (c) 入力パワー 0.6mW の BPSK (d) 入力パワー 0.6mW の QPSK 3 2.5 Power(mW) Power(mW) 0 0 -3 -2.5 -15 -10 -5 0 5 10 15 -30 -20 -10 0 10 20 30 Time(ps) Time(ps) (e) 入力パワー 2.0mW の BPSK (f) 入力パワー 2.0mW の QPSK 図 4.2 1000km 伝送後のアイパターン
  • 29. 第 4 章 シミュレーションの結果 25 0.8 0.8 Power(mW) Power(mW) 0 0 -0.8 -0.8 -15 -10 -5 0 5 10 15 -15 -10 -5 0 5 10 15 Time(ps) Time(ps) (a) 残余分散 DLtotal (ps/nm)=6 (b) 残余分散 DLtotal (ps/nm)=-6 0.8 0.8 Power(mW) Power(mW) 0 0 -0.8 -0.8 -15 -10 -5 0 5 10 15 -15 -10 -5 0 5 10 15 Time(ps) Time(ps) (c) 残余分散 DLtotal (ps/nm)=20 (d) 残余分散 DLtotal (ps/nm)=-20 1 1 Power(mW) Power(mW) 0 0 -1 -1 -15 -10 -5 0 5 10 15 -15 -10 -5 0 5 10 15 Time(ps) Time(ps) (e) 残余分散 DLtotal (ps/nm)=200 (f) 残余分散 DLtotal (ps/nm)=-200 図 4.3 BPSK の 1000km 伝送後のアイパターン
  • 30. 第 4 章 シミュレーションの結果 26 0.8 0.8 Power(mW) Power(mW) 0 0 -0.8 -0.8 -30 -20 -10 0 10 20 30 -30 -20 -10 0 10 20 30 Time(ps) Time(ps) (a) 残余分散 DLtotal (ps/nm)=6 (b) 残余分散 DLtotal (ps/nm)=-6 0.6 0.6 Power(mW) Power(mW) 0 0 -0.6 -0.6 -30 -20 -10 0 10 20 30 -30 -20 -10 0 10 20 30 Time(ps) Time(ps) (c) 残余分散 DLtotal (ps/nm)=20 (d) 残余分散 DLtotal (ps/nm)=-20 0.6 0.8 Power(mW) Power(mW) 0 0 -0.6 -0.8 -30 -20 -10 0 10 20 30 -30 -20 -10 0 10 20 30 Time(ps) Time(ps) (e) 残余分散 DLtotal (ps/nm)=200 (f) 残余分散 DLtotal (ps/nm)=-200 図 4.4 QPSK の 1000km 伝送後のアイパターン
  • 31. 第 4 章 シミュレーションの結果 27 表 4.1 ファイバー長と残余分散 L1 (km) L2 (km) DLtotal (ps/nm) 42.6500 7.1790 -200 42.7260 7.2740 -20 42.7330 7.2670 -6 42.7350 7.2650 0 42.7380 7.2620 6 42.7440 7.2560 20 42.8210 7.1790 200 61 21 8値Q 01=REB 01=REB 9- 4 0 52- 0 0 1- 02- - 001 51- 01-- 0 1- 01 5 0 0 0 5- 01 01 01 51 001 001 02 52 )latotLD(散分余残 )Wm 1.0(KSPB )Wm 6.0(KSPB )Wm 0.2(KSPB )Wm 1.0(KSPQ )W m 6.0(KSPQ )Wm 0.2(KSPQ 図 4.5 残余分散と Q 値の関係 ンボルスロット間で強め合いが起き、非線形効果の影響も大きくなるためである。(b) においても (a) と 同様にパルスの歪みをもたらす分散の影響があるにも関わらずこのようにパルスの歪みが生じていない のは、残余分散と SPM との相互作用によるもので、ソリトン効果として知られている。なおソリトン 効果というものは、分散の値が負である異常分散と非線形効果が存在するファイバー中において、負の 分散が SPM によって引き起こされた周波数チャープを補償することにより、その両者のバランスを取り ながらもともとのパルスの波形が安定な波形 (ソリトン) へ変形していく現象である。図 4.5 において、 DLtotal = 0 の時より DLtotal = −6 の方が Q 値が向上しているのも、このソリトン効果による影響であ る。このことから、伝送を行う際には正確に分散補償をするのではなく、少し負の残余分散が残るように ファイバー長や分散係数を調整して伝送した方が伝送性能が向上すると考えられる。また、BPSK 方式に おいて (a) や (c)・(d) で見られるようなパルス歪みは、図 4.4 のとおり QPSK 方式では |DLtotal | ≤20 までははっきりと見ることはできない。その原因は、BPSK 方式と QPSK 方式の、同じビットレートを 実現する時のシンボルレートの違いだと考えられる。2 章でも述べたように、QPSK 方式は BPSK 方式 に対して 2 倍の情報を1つのシンボルに乗せて運ぶことができる。そのため、同じ 65Gbps を実現するた めに必要なシンボルレートは、BPSK 方式では 65G symbol/s、QPSK 方式では 32.5G symbol/s であ
  • 32. 第 4 章 シミュレーションの結果 28 り、QPSK 方式のパルス幅が BPSK 方式のパルス幅の 2 倍になる。その結果、同じだけ残余分散の影響 が残っても、QPSK 方式の方がその残余分散から受ける影響が少なくなる。 ここで、実環境においてどれほど残余分散が変化するのかを考察する。光ファイバーは温度によって ファイバー長や分散係数が変化することが知られている。分散係数について、0.001ps/nm/km/℃ほど の分散温度係数を持つという研究結果がある [12] [13]。1000km 伝送させた時には 1.0ps/nm/℃の分散 温度係数となり、一日の温度変化を 15 ℃と見積もると残余分散の変化は ±15 ps/nm ほどあることがわ かる。これを図 4.5 において考慮すると、例えば BER=10−9 を得るのに必要となってくる Q=6 に対し て、BPSK 方式の耐性は 30ps/nm ほどしかない。一方で QPSK 方式は 100ps/nm 超あることがわかる。 そのため、初期状態において正確に分散補償を行い DL = 0 として温度が 15 ℃変化して残余分散が 15 ps/nm 生じた時、BPSK 方式では BER=10−9 を保つのは困難である。一方の QPSK 方式では 15ps/nm の残余分散が生じても BER=10−9 を保つことができる。 以上を踏まえて、理想的環境下でよい結果が得られる BPSK 方式よりも、環境変化によって生じる残 余分散に対する耐性のある QPSK 方式の方が、実験や実用化する際に用いるには適していると言える。 4.3 伝送シミュレータによるシミュレーション 65Gbps の BPSK 方式・QPSK 方式をそれぞれ偏波多重させて 130Gbps とした信号を 1000km 伝送 させた時、PMD が信号にどのような影響を与えるかを調べた。なお、このシミュレーションを行うに当 たって偏波モード及び PMD を考慮できるシミュレータを用いた。まず、4.2.1 で行ったシミュレーション のように最適な入力電力を求めると、BPSK 方式では 0.1mW、QPSK 方式では 0.06mW となった。以 後のシミュレーションではその値を用いた。図 4.6 は PMD の値とその時の Q 値の関係を示したグラフ 04 KSPB KSPQ 03 値 02Q 01 0 0 0 0. 0 0 50.0 5 20.0 5 7 0. 0 0 0 1. 0 DMP / sp ( ) mk 図 4.6 PMD と Q 値の関係 である。これを見ると PMD=0 の時は、BPSK 方式の方が QPSK 方式に比べて Q 値が良いことが分か る。これは 4.2.1 で述べたように、QPSK 方式が雑音に弱いことや検波方法によりピークパワーにおける 平均電力が小さくなってしまうことが一因である。また、偏波多重させたときには偏波が同一である場合 の 1/3 ではあるものの、相互位相変調 (Cross Phase Modulation : XPM) の影響を受けてしまう。その ため、位相雑音に弱い QPSK 方式は雑音や検波方法による影響に加え XPM の影響も大きく受けてしま うので、BPSK 方式に比べ Q 値が悪くなったと考えられる。
  • 33. 第 4 章 シミュレーションの結果 29 y y t t i i s s n n e e t t n n I I 51- 0 51 03- 0 03 )sp(emiT )sp(emiT (a) PMD=0 の BPSK (b) PMD=0 の QPSK y y t t i i s s n n e e t t n n I I 51- 0 51 03- 0 03 )sp(emiT )sp(emiT (c) PMD=0.05 の BPSK (d) PMD=0.05 の QPSK y t y t i i s s n n e t e t n n I I 51- 0 51 03- 0 03 )sp(emiT )sp(emiT (e) PMD=0.10 の BPSK (f) PMD=0.10 の QPSK 図 4.7 1000km 伝送後のアイパターン 一方で PMD を大きくしていくに連れてそれが逆転していることがわかる。これは 4.2.2 で述べた、 QPSK 方式に対して BPSK 方式は残余分散耐性が悪いということと同じように、BPSK 方式の方がパル ス幅が狭く、PMD の影響を大きく受けたためだと考えられる。 実際に用いるファイバーとして、PMD の値は 0.05 から 0.1 ほどであり、この範囲でより有効な変調方 式は QPSK 方式だということができる。
  • 34. 第 4 章 シミュレーションの結果 30 4.4 結言 本章では、BPSK 方式と QPSK 方式について、入力電力と残余分散に対する Q 値の関係をシミュレー ションで得て、それをそれぞれグラフに表すことでその性能を評価した。続いて、65Gbps の信号を 2 波 偏波を直交させた 130Gbps の信号を 1000km 伝送させた時、PMD を変化させることで PMD に対する 耐性を評価することで BPSK 方式と QPSK 方式のどちらの方が実環境において伝送に適しているかを示 した。
  • 35. 31 第5章 結論 本研究では、長距離大容量伝送に適した通信方式の比較・検討として、BPSK 方式と QPSK 方式の 特性を検証してきた。計算機シミュレーションにおいて一偏波 65Gbps で 1000km の伝送を行った際、 BPSK 方式・QPSK 方式にそれぞれに入力電力に最適値があることが確認できた。また、理想的な状況 下では雑音に耐性があり、受信感度も良い BPSK 方式の方が伝送性能は良いものとなったが、残余分散 を与えた場合には QPSK 方式の方が良い Q 値が得られた。温度やファイバの伸縮により正確に分散補償 が行えない実環境上では、刻々と残余分散の値は変化するため、QPSK 方式を用いた方が安定した性能 を得られると言える。さらに、偏波多重させて 130Gbps として 1000km 伝送させた場合にも、BPSK 方 式に比べ QPSK 方式の方が PMD に対する耐性があることがわかった。以上をまとめると、130Gbps で 1000km の伝送を実環境上で行う場合、残余分散・PMD に対する耐性のより大きな QPSK 方式を用いた ほうが良いということがわかった。 今後の課題として、他の不安定な要因、例えば送信器におけるパルス生成時のピーク電力のばらつき や、位相変調時における位相のばらつきに対する耐性などを考慮することがあげられる。更には今回シ ミュレーションで得られた結果を実験で実証することや、より伝送容量を増やすために WDM を行いそ れに対する耐性を調べること、更に多値数を増やして 8PSK 方式などの伝送品質評価などを行いたい。
  • 36. 32 謝辞 本研究を行なうに際して、御教示、御鞭撻を賜わりました大阪大学大学院工学研究科 北山 研一 教授に 深甚なる感謝の意を表します。 本研究の遂行にあたり、終始一貫して懇切丁寧に直接御指導、御助言を頂きました大阪大学大学院工学 研究科 丸田 章博 助教授 に深く感謝致します。 また、数々の有益な御教示、御助言を頂きました大阪市立大学大学院工学研究科 原 晋介 教授に厚く御 礼申し上げます。 さらに、研究を進める上で多くの御助言を頂きました本学大学院生 河南 求嶺 氏、三枝 史明 氏、三科 健 氏、北川 達 氏、国広 隆志 氏に厚く御礼申し上げます。 最後に、日頃熱心に御協力下さいました大阪大学大学院工学研究科電子情報エネルギー工学専攻北山研 究室ならびに通信工学専攻河崎研究室の諸兄に厚く御礼申し上げます。
  • 37. 33 参考文献 [1] A.H.Gnauck ”Optical Phase-Shift-Keyed Transmission” JOUNAL OF LIGHTWAVE TECH- NOLOGY, vol.23, NO.1, Jan.2005. [2] 総務省 情報通信政策研究所 http://www.soumu.go.jp/iicp/index.html [3] 総務省 情報通信統計データベース http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp [4] 山本貴司・田村公一・中沢正隆”位相変調器による 3 次,4 次分散同時補償を用いた 1.28 Tbit/s-70km フェムト秒パルス OTDM 伝送”            [5] R. W. Tkach, R. M. Derosier, A .H. Gnauck, A. M. Vengsarkar, D. W. Peckham, J. L. Zyskind, J. W. Sulhoff, A. R. Chraplyvy, “ Transmission of eight 20-Gb/s channels over 232 km of conventional single-mode fiber, ”IEEE Photonics Technology Letters, vol.7, no.11, pp.1369–1371, Nov.1995. [6] T. Itoh, K. Fukuchi, T. Kasamatsu, “ Enabling technologies for 10 Tb/s transmission capacity and beyond, ”IEEE European Conference on Optical Communication, vol.4, pp.598–601, Sept.– Oct.2001. [7] 財団法人 光産業技術振興協会 http://www.oitda.or.jp/ [8] M.Nakazawa,J.Hongou,K.Kasai and M.Yoshida ”64 and 128 coherent QAM preliminary trans- mission experiments using a frequency-stabilized laser and a local oscillator” [9] G.Charlet,P.Tran,H.Mardoyan,M.Lefrancois,T.Fauconnier,S.Bigo and F.Jorge, ”151x43Gb/s Transmission over 4,080km based on Return-to-Zero Differential Quadrature Phase-Shift Key- ing.” Technical Digest of ECOC2005,Th.4.1.3. [10] H.Weber,S.Ferber,M.Kroh,C.Schmidt-Langhorst,R.Ludwig,V.Marembert,C.Schubert,F.Futami and S.Watanabe, ”Signal Channel 1.28 Tbit/s and 2.56 Tbit/s DQPSK Transmission” Technical Digest of ECOC2005,Th.4.1.2. [11] Kazuhiro SHIMOURA”長距離大容量光ファイバ伝送系の最適設計手法に関する研究” [12] S.Matuo,Y.Takeshima,K.Himeno and K.Harada ”Non-Zero Dispersion-Shifted Fiber with Ultra Small DIspersion Slope FutuerGuide-USS” [13] T.Kato,Y.Koyano and M.Nishimura ”Temperature Dependence of Chromatic Dispersion in Var- ious Types of Optical Fibers”