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こどもと家族を支える
社会福祉サービスとツールあれこれ
TKLF(チームクリフ):精神障がいのある親と暮らす子ども
へのチーム学校を基盤とした支援モデルの開発研究会
長沼葉月(首都大学東京)
北野陽子(NPO法人ぷるすあるは)
2019.03.23
日本学校健康相談学会第15回学術集会
© Pulusualuha All Rights Reserved
養護教諭対象の調査結果
精神障がいのある親と暮らす
学齢期の子どもの実態と学校での支援
長沼葉月
(首都大学東京/TEAM KIDs LIFE FUTURE)
調査方法
•  対象:A県の全公立小中学校の養護教諭(※全小学校814
校、中学校419校のうち2016年4月1日時点で休校中の
小学校3校、中学校1校を除く、計1229校に調査票を送
付)468 校から回収(回収率 38.1%)。
•  時期:2016年10月~11月
•  方法:無記名式自己記入式質問紙調査(郵送回収法)
•  費用:科学研究費補助金(基盤研究(C)研究課題番号
16K04149)から支出。謝金は無し。
•  首都大学東京研究安全倫理審査委員会による承認(承認
番号 H29-28)を受けて実施(個人を特定する情報は収
集しない)
親の診断
6.4%
0.9%
1.4%
4.8%
3.0%
2.3%
31.8%
13.1%
9.0%
5.4%
4.1%
3.8%
0.0% 5.0% 10.0% 15.0% 20.0% 25.0% 30.0% 35.0%
うつ病
躁うつ病
統合失調症
アルコール/薬物依存
知的障害
発達障害
父同居(N=438)に占める割合 母同居(N=689)に占める割合
母親のうつ病や躁うつ病が多い
伝えやすい・覚えやすいという
こともあるのかも?
父親はうつ病についで
依存の問題が多い
自由記述では、不安障害・パニック障害、適応障害、人格障害等に加え、
DVやDV後遺症、親の自死(本人が目撃)なども挙がっていました
子どもの生活ニーズについてより具体的に把握
するため、最大4事例まで挙げていただき、752
事例分ご回答いただいた結果の集計です
児童生徒の支援ニーズ
31.0%
28.4%
28.2%
26.1%
19.2%
16.7%
16.4%
12.4%
6.3%
6.1%
11.7%
41.1%
24.7%
34.6%
26.2%
18.2%
29.9%
4.3%
34.3%
28.7%
14.5%
6.5%
9.0%
38.3%
遅刻が多いなど生活状況が乱れている
欠席日数が多い
友人関係でトラブルが多い
家で十分な食事をとっていない
頭痛や腹痛の訴えが多い
状況や季節にそぐわない服装である
不登校・長欠児童である
不安・うつ症状がある
死にたいという訴えがある
ほとんど話さない・緘黙
学校では適応できており、特に気になる点はない
その他
小学校 中学校
小学校と中学校では子どものニーズの「見え方」が変わってくる
「見え方」が違う分、見落としやすいポイントが違ってくるかもしれない
家族の支援ニーズ
39.5%
31.4%
30.6%
19.9%
19.4%
18.3%
16.0%
13.1%
28.8%
49.2%
35.8%
41.5%
19.7%
21.1%
20.4%
6.7%
13.0%
22.7%
ひとり親家庭である
電話に出ない等、学校から連絡が取りづらい
経済的に困窮している
学校に対する苦情が多い
夫婦間のトラブルがある
諸費用の未納・滞納が多い
保護者同士でのトラブルが多い
教員との面談に応じない
その他
小学校 中学校
保護者同士のトラブルは小学校の方が多い。ひとり親家庭、連絡が取りづら
い、経済的困窮状態等は中学生でより目立つようになっている。
連携している機関
49.9%
37.9%
28.7%
25.7%
20.9%
10.1%
5.7%
4.8%
2.7%
14.6%
39.0%
33.7%
27.3%
29.2%
22.8%
7.9%
2.2%
3.0%
1.9%
19.9%
市町村の子ども支援担当課
公的な教育相談機関
児童相談所
病院・診療所
市町村の生活保護担当課
市町村の障害福祉担当課
児童養護施設
市町村以外の子育て支援機関
障がい福祉サービス事業所(居宅介護、移動支援等)
その他
小学校 中学校
全般的に中学校は
連携している機関
が少ない。子ども
支援担当課と児童
養護施設は有意に
少ない
直接的な生活サポートを提供できる事業所との連携は少ない
子どもの受け入れる場の提供
(日常的声かけ・休養の場の提供・気分転換のサポート)
信頼関係を深める関与
(給食を一緒に食べる・交換日記・スキンシップ)
子どもの話を聴く
困りごとを聴く/家庭の状況を聴く/とにかく傾聴する/不安の軽減
を目指して聴く/心の整理になるように聴く/子どもの考える解決の
方向性を聴く
直接的ケア
・洗濯
・食事
・身だしなみ
(洗髪・銭湯)
体調不良ケア
・休養の提供
・健診の支援
・受診予約
・受診同行
生活指導・支援
・規則正しい生活習慣の獲得支援
・衣類の選び方指導
・家事のやり方指導
・提出物の出し方指導
登校支援
・朝のお迎え
・遅刻時の迎え入れ
・欠席時の連絡調整
・長期欠席時の支援
友人関係づくり支援
・関係づくり支援
・トラブル回避支援
・トラブル時の調整支援
「普通」のやり方、
価値観の教育
親の障害
について
の説明
親との関係づくり
・来校時に声掛け
・傾聴に努める
・電話
・手紙
・家庭訪問
親へのケア
•  相談に応じる
•  受容的に関わる
•  親のメンタルに配慮しな
がら関わる
他の親族との関係構築
•  健康な配偶者
•  祖父母等、他の親族とも
関係を作る
親への対応子への対応
子どもと家族への対応
自由記述から見えてきた支援のバリエーションの多彩さ
学外の関係機関
校内連携体制
担任
管理職
SC/SSW
その他相談員
生徒指導部
教育相談部
PTA
児童相談所
一時保護/里親
/児童養護施設
学外と
の連携
ケース会議
連絡・調整
個人情報の管理に配慮した情報共有
市町村
ケースワーカー
保健師
民生委員
児童委員
医療機関
必要に応じて本人・保護者を
これらの関係機関につなぐ支援
学校内での対応
支援体制を考えるコツ
医療・福祉の支援制度は不足だらけです
精神症状は良くなったり悪くなったりします
「正解」や「スッキリする解決策」はありません
不確かな状況の中を生き続けている親と子どもと共に、
「その場しのぎ」を「多機関で連携して」
一緒に作り出してください
© Pulusualuha All Rights Reserved
家庭
親族
精神障がい
のある親
三層で考える
児童
生徒
安心できる「対話」の時
間・場所・雰囲気
養護
教諭
担任
SC
等
管理
職
ミクロレベル
SSW
メゾレベル
チーム学校
チーム学校内での連携親や親せきとの連携 医療機関
児童相談所
市町村
地域の機関・
団体
マクロレベル
円滑なネットワーキング
不確かさをつなぐ情報共有
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なぜこの三層か?
自己肯定感が低くなりがちな子ども自身の、想いを肯定する
ためにも、表現の場を提供するため
周囲の環境に振り回され諦めている子どもを、良かれと思っ
て振り回さないため
スッキリ解決がない状況に「チームで支え合えば、何とかしの
げる」「大人は本気だ」というモデルを子どもに示すため
子どもや親が「自分の話を聞いてくれる人がいる」と周囲を
信頼し、希望を抱けるようになるのを支えるため
話を聴くときのコツ①
――聴きながらアドバイスを考えない
•  「話す」と「聴く」を分けない場合
話す 話す
話を聴きながら次に話すことを考えてしまう
聴いてすぐにアドバイスをすると…
•  既にやって失敗した方法だとガッカリ
•  うまくいかないとき、期待した分だけ余
計に信頼感が下がる
•  自分には何もできないから先生に頼るし
かない、と依存的になる人も
話す 聴く 聴きとった内容が正しいか確認
聴いたことについて確認するた
めに話すうちに、自分の考えが見
えてくる。早すぎるアドバイスをし
ないで済む。
相手の「確認」の言葉を聴き、
•  落ち着いて自分の話したことを振
り返る時間がとれる
•  相手がこんな風に聴いてくれたん
だ、と分かる
話を聴くときのコツ②
――まず聴き、確認し、応答する
•  「聴く」と「話す」を意図して分ける
本人はどう対処したかを確認話す
どう感じたか Iメッセージで
提案があれば伝える
聴く
相手の提案を現実的に考えやすくなる
多層的な支援の組み立て例:
親が子どもに暴力を振るったため、子ども支援課の相談員、警察、教育委員会
の指導主事とケース会議等で連携しながら、支援体制を随時確認している。学
校では保健室が安全の居場所になっている
母へは、役所の保健師、ケースワーカーが関わり、定期的に家庭訪問して支援
しているほか、病院からも母に合わせた処方量の調整をしている。また子ども
は毎朝自宅まで教員が迎えに行き、帰りは学童まで送る。
近くに住む祖父母にときどき情報共有し、親への働きかけを依頼することが
ある。朝、担任と共に養教や女性教諭が訪問し、親の調子が良い日は準備がで
きるまで30分程待ち、一緒に登校する
不登校であったが、医師、教育センター、市の子ども支援担当、保健所と学校
でケース会議を定期的に行い、「この母子と、健全な社会とのつながりを断た
ないこと」を第一の目標に、週に1回、放課後の登校を目指して対応し続けた
期待されている支援とは
行政や医療機関・障害福祉サービス・NPO等への期待
家族全体を見据えた生活支援
①経済的支援
②食事
③弟妹のケア
④基本的生活習慣
⑤着衣
⑥医療ケア
障がいのある親への支援
①受診支援/通院支援
②カウンセリング(気持ちを話
せる支援)
③親が学ぶ機会(子育て・精神
障がいとの付き合い方)
子への支援
①一時的な暮らしの場(ショートステイ、
一時保護、シェルターなど)
②「普通」の家族像/大人モデルと出会
える支援
③放課後支援(居場所、学習支援、大学
生とお出かけ)
④24時間SOS支援
⑤自立に向けた支援(コミュニケーショ
ン、金銭管理、提出物の管理、進路、
調理や洗濯などの日常家事、余暇な
どの生活体験)
⑥精神障害について学ぶ機会
⑦子ども自身のメンタルケア
© Pulusualuha All Rights Reserved
 子どもと家族を支える
社会福祉サービスあれこれ
長沼葉月
経済的な困窮状態への支援
生活保護制度
• 収入が「最低生活費」に満たない場合に、その差
額を補填する形で受けることができます
• 働いていても、受給することができます
生活困窮者自立支援制度
• 生活に困っている時に就労や家計管理のやり方
についての相談を受け付けています
• 困窮者向け学習支援事業を行っている自治体も
あります
窓口は市町村役場
窓口は市町村役場
家事全般・子育てケア
障害者総合支援法による「居宅介護(家事援助が中心の場合)」
•  障がいのある本人に対する調理、洗濯、掃除、育児支援などの日常的な家事
(生活していく上で必須のこと)を提供
•  「育児支援」は、① 利用者(親)が障害によって家事や付き添いが困難な場合、
② 利用者(親)の子どもが一人では対応できない場合、 ③ 他の家族等による
支援が受けられない場合に受けられることになっている。支援例としては、親
子の掃除や洗濯や調理、子の通院付き添いのほか、学校との連絡援助等も挙
げられている
•  ②の条件について、自治体により判断が分かれる
自治体独自サービスによる家事支援、子育て支援
•  子育て中の家庭に対するヘルパー支援制度を設けている自治体がある
•  対象者、利用上限、利用条件等自治体により格差が大きい
市町村役場に相談
利用には「計画相談」が必要なので、まずは
市町村役場または障害者相談支援事業所に相談
子どもの一時的な暮らしの場
ショートステイ事業
•  親の入院等で一時的に子どもの面倒をみられないときに、児
童養護施設などの施設を借りて一時的な子どもの安全な暮ら
しの場を支援する事業
•  一部の自治体で実施
一時保護
•  棄児・家出などの理由で適当な保護者がいない場合、虐待、子
どもの非行などの理由で、子どもの安全を守る必要が生じた
場合に、一時保護所で保護することができる
•  職権措置。一時保護所や児童養護施設、里親等に保護される
児童相談所に相談
市町村の子育て支援担当に相談
放課後の子どもの居場所
放課後クラブ事業(学童保育)※厚労省系
放課後支援事業 ※文科省系
生活困窮者支援制度における学習支援事業
子どもの居場所づくり活動・子ども食堂・学習支援
精神障害について学ぶ機会
精神保健福祉センターでのプログラム
•  県や政令市の精神保健福祉センターで、精神障害につ
いて学ぶプログラムを開催していることがあります
•  どのような疾患・障害について扱っているかは、セン
ターによってかなり異なります
医療機関や学校での心理教育/メンタルヘ
ルスリテラシー教育
•  医療機関や学校で精神障害について学ぶ機会を設け
ている場所もあります。市役所の精神保健福祉相談員
に情報を確認してください
どう活用するか
やらないでほしいこと
•  本人や家族に「こういうサービスがあるみたいだから相
談に行ってみたら?」と投げないでください
•  自治体でサービスの提供内容が違ったり、条件が違った
りして使えないと言われることがあります
•  「先生が教えてくれたのに使えなかった!」と不信感にも
つながります
やってほしいこと
•  こういう情報に詳しい「核」となる人材と出会ってくださ
い
•  (スクールソーシャルワーカーをそう育てて下さい)
•  サービスが使えるかどうか、あらかじめ打診して見通しを
持ってください
ケース会議の活用を
要保護児童対策地域協議会(要対協)の個別支援ケー
スに挙げましょう
•  市町村の児童福祉主管課が会議の事務局
•  要対協のケースとして対応を協議する際には、法令に基づき必要
な情報共有がやりやすくなります
その他、法令に基づく会議いくつか
•  障害者総合支援法に基づくサービス担当者会議
•  生活困窮者自立支援法学習支援事業の「関係者会議」等
学校からケース会議の要請もできます
•  秘密保持などの条件が提示されることもありますが、しないより
はましです

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