プロジェクト管理のテクノロジー面は多く語られていますが、マインドセットの重要性は断片的にしか語られていません。これまで発表された役立ちそうなノウハウを、自分なりの視点でまとめてみました。

1. プロジェクト管理
心の持ち方編
2019年2月11日
西垣真澄

2. IT業界はメンタルヘルス不調になりやすい業種
厚生労働省：平成28年「労働安全衛生調査（実態調査）」の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/h28-46-50_gaikyo.pdf

3. なぜ、メンタル不調になり易いのか（１）
①仕事が多く追われる
②技術の変化についていくのが困難
③長時間労働が多く、体力的につらい
④仕事の上で人間関係を維持するのが困難
⑤ユーザの要求が厳しい
「日経コンピュータ」2001年5月7日号
特集『ITプロフェッショナルを襲う心の病』、日経ＢＰ社

4. なぜ、メンタル不調になり易いのか（２）
1.1プロジェクト環境に起因するもの
（１）プロジェクト体制をとる
（２）できない約束、スケジュール
（３）労働時間の長さ
（４）お客様先への常駐
（５）プロジェクト風土
1.2仕事の特徴に起因するもの
（１）仕事そのものが機械相手
（２）時間に追われる
（３）技術の変化、ITの脆弱性
（４）お客様要求の変化

5. なぜ、メンタル不調になり易いのか（３）
1.3個人の性格に起因するもの
（１）自己評価が低くなりがち
（２）まじめで几帳面な人が多い
（３）テクノストレス、テクノ耽溺症
（４）仕事の性質を理解しない上司、家族
プロジェクトマネジメント学会誌Vol.5,No1,2003
「ITエンジニアのメンタルケア～プロジェクトマネジメント領域への提言～」原田奈美

6. では、どうすれば良いのか？
• 荷物の総量の重さは変わらないとしても、荷物の持ち方によって感
じ方は変わります
• ノウハウを知って荷物を軽く感じる事が出来れば、途中に困難が
あっても、登頂（ＧＯＡＬ）が容易になります

7. ここで取り上げる範囲
問題の扱い方の２種類－ 問題の解消には、どちらも必要
問題の発生
原因分析 問題の受け止
め方を変える
問題の解消
・なせなぜ分析
・特性要因図 など ・認知行動療法
・論理療法 など
使われる技法
使われる技法
適した問題
・解決する問題
・先の見える問題
適した問題
・解決しない問題
・先の見えない問題
よくある問題解決技法 本編で扱う問題解決技法

8. 認知のゆがみに気づく
・挨拶をしたのに、相手が返事をしてくれなかった
↓
・返事を返してくれるに越し
たことはないが、耐えられる
↓
・残念、ちょっとイライラする
が、仕事は普通に続けられ
る
↓
・あの人は、自分を嫌ってい
るに違いない。最悪だ！
↓
・怒り、不安、不眠、仕事が
手につかない
事実
人々を混乱させるのは物事そのものではなく、その受け止
め方にある（エピクテートス）
Ａさんの受け止め方 Ｂさんの受け止め方

9. エンジニアの持つ不合理な信念
『納期は絶対に守らなければならない（納期は命）』
『私は、たくさんの仕事を引き受けて立派にこなさなければならない』 は、ＳＥ
が持つ“不合理な信念”です。
出典：http://cbt.kokoronet.ne.jp/
東京家政大学/東京家政大学大学院 福井 至 教授
認知行動療法
の先生
＜詳細は付録参照＞
論理情動行動療法(Rational Emotive Behavior Therapy)とは？
認知療法(Cognitive Therapy)とは？

10. メンタル不調をきっかけに休職に至るプロセス
• 以下では、実際に、ＳＥがメンタルヘルス不
調をきっかけに休職に至ったプロセスの分
析結果を紹介します
• 以下の３つの時期に分けて、要因がカテゴ
リー分けされています
• メンタル不調のきっかけ
• メンタル不調になった時期
• 休職に至る時期
下山満理、桜井しのぶ「IT産業で働くシステムエンジニアがメ
ンタルヘルス不調をきっかけに休職に至るまでのプロセス」順
天堂大学医療看護学部 医療看護研究 第14巻1号（2017）

11. メンタル不調のきっかけ（１）
• 客先常駐のなか、タイムリーに相談することができない
• メンバー皆が厳しい条件でストレスを抱える
• 周囲と会話不足の環境
• 同僚とのつながりが希薄
• メンバー皆が多忙で相談しづらい環境
• 上司の不在が多く相談できない環境
• 指導がないと業務が進まない苦悩
• 分からないことで悩み、回らなくなる
• 新たな業務に戸惑いストレスを抱える
• 経験のない作業への戸惑い
• 大プロジェクトのリーダーを担い悩む
• 久しぶりの業務ですぐに取り組めない苦悩
• 納期に間に合わず先の不安を抱える
繋がっているが、孤独な関係性

12. • 関係性のなかで業務をうまく遂行できない
• 上司と自分の認識のズレ
• 上司と相性が合わず苦悩
• 分らない作業の中、顧客対応で苦悩
• 受け止めてもらいない不満や苛立ち
• 相談したが理解が得られず不満を抱く
• 怒られるのが嫌で報告ができない
• 期待する応えが得られず苛立つ
• 作業に対する矛盾を感じるが報われない現状
メンタル不調のきっかけ（２）
繋がっているが、孤独な関係性

13. メンタル不調のきっかけ（３）
• 自身の強固な信念にこだわり辛くても頑張る
• 仕事は自分で責任を持ちやるものという価値観
• 負けず嫌いで周りに頼れない性格
• 毎日極限までやるという思い
• 納期が守れずＳＥのプライドが折れた
• 自分の負の部分を表に出せない
• 本音を相談できず自分を追いつめた
• 辛くても我慢しないといけないという思い
• 仕事を一人で抱え込む
繋がっているが、孤独な関係性

14. メンタル不調になった時期
• 叱責や評価されないことの苦悩
• 進捗が遅れ叱責される
• 頑張りが認められない苦悩
• 期待に応えられない辛さ
• 無理な作業の取り繕い
• 自分で解決しようと無理をして欠勤
• 残業が続き仕事が回らずミスをする
問題を抱え込み自身を追いつめる

15. 休職に至る時期（１）
• 自分の中で解決できず苦悩を抱える
• 仕事が回らず全然ダメになり嫌悪感
• 辛くても休めずミスをする悪循環
• 思いつめ眠れない日が続き欠勤
• 不能感が強くなる
• 原因は自分の能力不足という思い
• 周囲からの自信を失う言葉かけに苦悩
• 思い通りにならない自分に失望
自らを閉じ込める

16. 休職に至る時期（２）
• 思考が内向きになる
• 自分を閉じ込めてゆく
• 自分のことは放っておいてくれという意識
• 周囲に気遣ってほしいという思い
• シャットダウン
• 身動きが取れず周囲から休みを勧告
• バーンと一気にはじけた状況
• 迷惑をかけたくないと思い自ら休んだ
• 自分でも状況を認識し休職を受け入れた
自らを閉じ込める

17. メンタルヘルス不調の高リスク者
・長時間労働が続いている
・多くの、あるいは困難な仕事を抱えている一方で、仕事の裁量権があまり与えられていない
・周囲に相談相手があまりいない
・非常に仕事にのめり込んでいるが、なかなか成果が上がらない、或いは仕事ぶりを認めてもらえ
ていない
・仕事を抱え込みがちで、周囲に任せられない
・何事も杓子定規に考え、融通が利きにくい
・最近、仕事上の大きな失敗をしてしまった
・最近、仕事の内容や職場での役割が大きく変わった
・私生活で大きなストレスを抱えている
・職場あるは私生活で、ショッキングな出来事を体験した
・私生活で、住環境や家族構成が大きく変わった
産業医学振興財団委託研究「メンタルヘスル不調者の早期発見・早期対応の手引き≪管理監督者のために≫」

18. 周囲で気づく変化
• 職場不適応－周囲で気づく変化
１、以前と言動が変化（表情、態度、声音）
２、仕事の能率の低下、ミスの増加
３、欠勤、遅刻、早退の増加
４、周囲との折り合いが悪くなる
５、取り止めのない訴え（体調など）の増加
６、アルコールの問題（酒量、酒癖）
７、他人の言動を異常に気にする
８、その他
原田奈美「ITエンジニアのメンタルケア～プロジェクトマネジメント領域への提言～」
プロジェクトマネジメント学会誌Vol.5,No1,2003

19. メンタルヘルス不調のサイン≪管理監督者のために≫
• 顔色・表情がさえない、あるいは険しい
• 出勤がいつもより遅い
• 早退が多くなっている
• 寝不足の様子である（仕事中上の空の様子である）
• 報告や会話が少ない、あるいは多すぎる
• 被害的な事を口にする
• 食欲が無さそうである（昼食が）おいしくなさそうである
• 話題にのってこない（乗って来ても無理している様子である）
• 話に脈略がない、あるいは飛躍が多い
• 気分のムラが目立つ
• 落ち着きが無くなってきている
• 仕事でミスが増えた（それをまた気にする）
• 残業が増加している（ルーチンの仕事に時間が掛かる）
• 行動が機敏でない（どうしてよいかわからない様子がみられる）
• 身だしなみが乱れてきた
• 出勤時酒臭がすることが多い
産業医学振興財団委託研究「メンタルヘスル不調者の早期発見・早期対応の手引き≪管理監督者のために≫」

20. 特徴的な認知のゆがみ（１）
①根拠のない決めつけ
証拠が少ないままに思いつきを信じ込むこと
例）初めて手がけた仕事がうまく進まない時に、この仕事はうまくいなかいだろう
と直ぐに決めつけてしまった。
②白黒思考
灰色（あいまいな状態）に耐えられず、ものごとを全て白か黒かという極端な考
え方でわりきろうとする
例）何でも完全にできていないと気になってしまう。
③部分的焦点づけ
自分が着目していることだけに目を向け、短絡的に結論づける
例）ある人に苦手意識をもっていると、行き会ったときに挨拶されなかったという
事実に目が向いて、やはり嫌われていると考えてしまう。
大野裕「こころが晴れるノート」

21. 特徴的な認知のゆがみ（２）
④過大評価・過小評価
自分が関心があることは過大してとらえ、反対に自分の考えや予想に合わない部分は
ことさらに小さく見ることもある
例）対人交渉が下手だと思っているために、上手に交渉できなかったときのことばかり
を思い出して、うまくいったときのことは忘れてしまう
⑤べき思考
「こうすべきだ」「あのようにすべきではなかった」と過去のことをあれこれ思い出して悔
やんだり、自分の行動を自分で制限して自分を責めること
例）家事が十分できない自分を見て、「主婦なら家事を完璧にするべきだ」と責める
⑥極端な一般化
少数の事実を取り上げ、全てのことが同様の結果になるだろうと結論づけてしまう
例）ひとつのあるプロジェクトが思ったように進まない時に、過去の失敗を思い出して、
自分はいつも失敗すると考える

22. 特徴的な認知のゆがみ（３）
⑦自己関連付け
何か悪いことが起こると、自分のせいで起こったのだと自分を責めてしまう
例）子供が学校で問題を起こして担任から注意を受けたときに、全て自分の育て方がわるかった
んだと自分を責める
⑧情緒的な理由づけ
その時の自分の感情に基づいて、現実を判断してしまう
例）新しい仕事についた時に不安を感じると、「はじめてでよくわからないから不安なんだ」とは思
わずに、「こんな不安なんだから、自分にはできないほど難しい仕事に違いない」と思い込んでしま
う
⑨自分で実現してしまう予言
自分で否定的予測を立てて自分の行動を制限してしまい、自分の行動を制限するものだから、
予測通り失敗してしまう。その結果、否定的な予測をますます信じ込み、悪循環に陥ってしまう。
例）人前で話そうとすると声が震えるのではないかと心配していたが、いざ実際に人前で話すこ
とになると、失敗する事ばかり考えて意識過剰になり声が震えてしまい、結局そうだったと考える。

23. 声のかけ方、話の聴き方

24. 不調者対応、べからず集
①相手のいうことを頭から否定しない
「とにかく、君の考えは間違っている」
「そんな考えではやっていけない」
②相手の苦しみやつらさに対して、気持ちや気分の問題としたり、一般論化した話・他者との比較
をしたりしない
「そんなことを考えて悩んでいるよりも、楽しいことを考えよう」
「普通はそこまで気にしない。要は気の持ちようだ」
「他の人はこうしている」
③相手の言うことを先回りしない。話を途中でさえぎらない
（話の途中で）「早い話が、君は○○と言おうとしているのでしょ？それはもう分っているよ」
④無理な励ましをしない
「弱音を吐かずに、頑張らないとだめだ」
⑤無理に行動を促さない
「気分転換にレジャーに行ってみたらどう？」
メンタルヘスル不調者の早期発見・早期対応の手引き≪管理監督者のために≫

25. 参考資料
• 厚生労働省：平成28年「労働安全衛生調査（実態調査）」の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/h28-46-50_gaikyo.pdf
• 原田奈美「ITエンジニアのメンタルケア～プロジェクトマネジメント領域への提言～」プロジェクトマネジメント
学会誌Vol.5,No1,2003
• 下山満理、桜井しのぶ「IT産業で働くシステムエンジニアがメンタルヘルス不調をきっかけに休職に至るま
でのプロセス」順天堂大学医療看護学部 医療看護研究 第14巻1号（2017）
• 大野裕「こころが晴れるノート」創元社
• 産業医学振興財団委託研究「中小規模事業場におけるメンタルヘルス対策の進め方に関する研究」：メン
タルヘスル不調者の早期発見・早期対応の手引き≪管理監督者のために≫
• 厚生労働省. （2012）. ITにおけるストレス対処への支援. 中央労働災害防止協会, 17.
https：//kokoro.mhlw.go.jp/brochure/supporter/files/stresstaisyo22-it.pdf
• 福井至・石井華・SEのメンタルヘルス研究会 2010 メンタルヘルス・ワークブック＜SE編＞

26. 付録

27. 厚生労働省. （2012）. ITにおけるストレス対処への支援. 中央労働災害防止協会, 17.
https：//kokoro.mhlw.go.jp/brochure/supporter/files/stresstaisyo22-it.pdf
（抜粋）

28. 論理情動行動療法(Rational Emotive
Behavior Therapy)とは？
• 出来事が結果を生むのではなく、その人が持つビリーブ(信念)が不
合理なものであると不適応を生み出すという考え方から、その不合
理な信念を認知・感情・行動の面から介入・論駁していくことにより合
理的信念に変えていく技法です。
• 「～でなければならない」という信念を持ってるのは、ご自身の志が
高く望ましいことであり成功した時は適応できて問題となりませんで
したが、結果が悪いと絶望感や抑うつ感といった不適切な感情や、
抑圧された行動などの不適切な行動が生じてしまうのです。

29. 認知療法(Cognitive Therapy)とは？
• うつ病患者には体系的な推論の誤りがあり、認知の根底に独特の信念や
構造があることを指摘し、これをスキーマと名付けました。そして、治療に
おいて重要なのは、スキーマや認知を変えることだと指摘したのが認知
療法の始まりです。
• 自動思考の特徴
1.理性とか理論の産物ではなく、何の前触れもなく思いつくもの
2.不合理で役に立たないもの
3.不合理ではあるが、当然のこととして受け入れられてしまうもの
4.無批判的に信じ込むと、感情や行動の制御ができなくなるもの

30. 思考トレーニング －優秀志向
1－1 私は優秀なSEでなくてはならない
1－2 私は上司から常に高い評価をされていなければならない
1－3 私は仕事において、常に優秀でなければならない
1－4 私は同僚のSEから常に高い評価をされていなければならない
1－5 私は上司から多くの仕事を任される優秀なSEでなければならない
1－6 私はいつも業績を上げなければならない
1－7 私は他のSEよりも優れていなければならない
1－8 私は人一倍早く仕事をこなさなければならない
1－9 私は仕事の出来具合が他のSEより劣っているのは我慢できない
1－10 私は常に仕様書に書かれている仕事以上のことをこなさなければ
ならない

31. 思考トレーニング ー自己犠牲思考
1－11 SEは休日もプロジェクトのために仕事を進めるべきだ
1－12 SEは寝る間も惜しんで納期は守るべきだ
1－13 SEは休日であっても担当の作業をすべきである
1－14 SEは趣味の時間を犠牲にしても仕事を進めなければならない
1－15 SEは自分を犠牲にしてもプロジェクトをうまく進めるべきだ
1－16 SEは体を壊してでも納期は守るべきだ
1－17 SEは1週間くらいほとんど寝ないでも納期を守るべきだ
1－18 SEは休息よりも開発作業を優先すべきである
1－19 SEは3ヵ月くらいは毎日残業してでも仕事を終わらせるのが当然である
1－20 SEは1週間くらい徹夜してでも仕事を終わらせるのが当然である
1－21 SEは食事の時間を犠牲にしてでも仕事を優先すべきである
1－22 大規模なシステムに関わるためにはプライベートを犠牲にしなければならない

32. 思考トレーニング －仕事上の対人脅威
1－23 プロジェクトメンバーと人間関係がうまくいかないのはとても恐ろしい
1－24 同僚のSEとうまくコミュニケーションがとれないのは恐ろしい
1－25 プロジェクトメンバーから協力を得られないのは恐ろしい
1－26 同僚のSEから信頼されないのは恐ろしい
1－27 話ができるプロジェクトメンバーがいないのはとてもつらい
1－28 相談できる同僚のSEがいないのは恐ろしい
1－29 要求仕様元（顧客）と人間関係がうまくいかないのは恐ろしい
1－30 プロジェクトメンバーから必要とされないのはとても嫌だ
1－31 要求仕様元（顧客）から信用されないのは恐ろしい
1－32 プロジェクトメンバーから無視されることはとても恐ろしい
1－33 要求仕様元（顧客）から悪く思われるのは恐ろしい
1－34 上司とうまくコミュニケーションがとれないのは恐ろしい
1－35 上司から信用されないのは恐ろしい