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ゴール指向要求分析における
不確かさの考察
~ IoT・AIのケース ~
筑波大学大学院 ビジネス科学研究科
岡野 道太郎
SES2017 WS2
1
はじめに:要求分析
• 要求分析:要求を抽出し、要求仕様を作成
– 要求の抽出方法の1手法:ゴール指向要求分析
• ゴール:望ましい状態/意図を含んでいる
• 意図を含まない事実:ドメイン知識・システム固有情報
– ゴール指向要求分析の1手法:KAOS
• KAOSの手順
– 最終的な目標をトップゴールとして挙げる
– トップゴールをいくつかのゴールに分ける
– 最終的に、1人または1システム(エージェント)が、達成可能
なレベルまで詳細化する=末端のゴールが要求・期待になる
• 詳細化の手法は明確になっていない
– 今までの研究
トップゴール
は多くの人
が関わる
2
制約に
はじめに:現在研究中の詳細化手法
• トップゴールをQ、現状をPとすると、ゴールは
P→◇Qと表現できる:達成ゴール
• P→◇Qの詳細化を2通りで考える
– →(状態遷移の過程)を分解:マイルストーン分解
• P→M→Qと状態が遷移する場合、P→◇MとM→◇Qに
分解する:プロセスを分解する場合に適している
– Q(結果の状態)を分解:要素分解
• Qが{Q1,Q2,・・・Qn}から構成される場合、P→◇Q1,
P→◇Q2,・・・・, P→◇Qn, {Q1,Q2,・・・Qn}→◇Qに分
割:データ構造などに着目する場合に適している
3
はじめに:要求分析の実際の例
• AIレジの導入の例:パン屋さんの場合
4
OR分解:1つ以上
が行われればよい:
本稿の対象外
AND分解:すべ
てのサブゴール
実現必要
待ち時間を減らす 会計時間を短くする
はじめに:要求分析の実際の例
5
識別(判
別)・分類・
予測:AIの
活用分野
要求分析での「不確かさ」への課題
• 要求分析で「不確かさ」を考慮しなければならな
い場合の課題
– そもそも、ゴールが達成するかどうかわからない
• AI:学習が終わり、適切な「学習済みモデル」ができれば
ゴールは達成する→モデルが出来なければ?
• 過去のデータを元に、未来が確かに予測できるのか?
• 研究アイデア論文にて議論
– 不確かさが累積されると、ゴールがほど遠くなる
• 画像認識(不確か)→認識したものを分類(不確か)→それ
に基づき予測(不確か)・・・・
• 詳細化が進む=(不確かな)ゴールが増える→不確かさが
累積され、ゴール達成が遠のく?
• ゴール達成のための詳細化を行うとゴールが遠のく?
6
今回扱う「不確かさ」について
• 「不確かさの累積」について扱う
• 「不確かさ」:IoTとAIの場合について考える
– IoTの場合
• データ取得の不確かさ
• 通信の不確かさ
– AIの場合
• モデルの正しさ
– 目的変数・説明変数・手法
• 学習済みモデルの妥当性
– 環境の違い(転移学習/環境変化に伴う追加の学習)
7
IoTの場合の不確かさ
• 不確かさが起きる可能性:異なる性質
– データ取得の不確かさ
• 正確なデータが取れるとは限らない
– 通信の不確かさ
• 無線はつながらないこともある
8
AIの場合の不確かさ
• AIのシステム構築
– モデルの決定
• 目的変数、説明変数の候
補、モデルの候補
– 学習するためのシステ
ムの構築
– 機械学習の実施
• 十分な精度の機械学習
モデル:学習済みモデル
– 学習済みモデルを用い
て、実運用=推論
• 不確かさ
– モデルの正しさ
• 目的変数の妥当性
• 説明変数は妥当性
• 機械学習手法は妥当性
– 学習済みモデルの妥当性
• 他学習結果を利用:転移学習
– 人やモノの認識:万人共通
– 売上予測:人により見解相違
• 環境変化:追加学習の必要
9
不確かさに対する対応
• 対応-3種類
– (1)不確かさは問題にならないほどにして、不確かさ
はないものとみなす
• 不確かさの低減/リスク低減:従来も研究されている
– (2)(設計上の不確かさ)一部実装してみる
• リアルオプション/アジャイル/PoC
– (3)不確かさがあるものとして対処する=ゴールは
達成するときもあるが、達成しないこともある
• 確率的に扱う→期待値とエラーのどちらが問題か?
• 複数の手法を用いて、不確かさを低減→OR分解
– 多数の手法を用いて、結果を合議する(アンサンブル)
» 答えの正しさ:ビザンチン将軍問題?
– 人が介在する:どこに介在するのが効果的か?
10
今後の課題
• 人が介在するとしたら、何処が効果的?
– AIレジの場合、画像識別か、商品の決定か
– 人の知識も不確か
• (不確かさがあるとき)詳細化すると、ゴールに
近づくのか
– AIでなくても、詳細化しないほうが良い可能性もある
→一括発注と分割発注
– 詳細化を行うより、複数の代替案を見つけたほうが
ゴール達成に有利?→AND分解よりOR分解
– もし、トップゴールから、要求までの詳細化ができるAI
が出来たとしたら?
11
要求分析のAI化
• ゴール中の名詞、動詞を特徴ベクトルとして表現
– (1)上位ゴールを入力、下位ゴールを出力とし、各ゴー
ル分割を機械学習し、推論させる
– (2)上位ゴールを入力、分割方法を出力として機械学
習、その後、上位ゴールと分割方法を入力、下位ゴー
ルを出力する機械学習を行う(2段階)
– ※(2)は分割の理由がわかる。(1)は解らない
• もし、この手法でゴールが機械学習できるのであ
れば、トップゴールを提示すると、機械学習によっ
て、要求分析が行える可能性がある?
– 機械学習可能な場合、人手で詳細化したほうがよいの
か、機械学習による詳細化のほうが良いのか?
– 詳細化より、トップゴールの出し方のほうが重要?
12
Q&A
13
Q1:環境変化の不確かさについて
• Q:今回の不確かさの話は、システムに内包する
不確かさのような話であったが、外部環境の変
化に不確かさについては、どう思う?
• A:外部環境の変化は、機械学習で追加学習を
することによって対応することになるが、必ずしも
学習できる、良くなるとは限らないと思う。もし、
学習することにより環境変化に追随できるとす
れば、MicrosoftのTayのようなことは起こらない
はずであり、意図しない学習が起こる「不確か
さ」は存在すると思う。
14
Q2:何が「たしか」なのか?
• Q:今回の提案で、「不確か」という言葉を連発し
ているが、どういう状態になったら「確か」なの
か?(不確かではないのか)
• A:IoTとAIで異なる
– IoT:想定している機能が、誤差なく想定通りに動く理
想状態が不確かではない状態
• ステークホルダーの意図は機能に盛り込まれているものと
する
– AI:ステークホルダーの意図が明確であるという理想
状態において、意図通りに動くこと
• AIが機能通りに動いているかというのは、わからない
15
Q3:KAOSでは無理なのでは?
• KAOSの達成ゴールはP→◇Qで、いつかはQ
が達成しているものとしている。しかし、Qは達成
するとは言い切れない。この考えに無理がある
のでは・・・
• A:たしかにQを「常に必ず100%達成する」と考
えると、AIは100%できると言い切れないので
無理になる。そこで、ゴール達成に必要な、AIの
精度をもとめ、その精度を上回ったら達成したと
みなす研究をしている。
– SES2017の研究アイデア論文で行っている
16

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