シャッター商店街の町おこしからリニアモーターカーの開発計画に至るまで,地域住民同士が対話して合 意形成する場が多数存在する.そのような場では,各地方自治体では住民参加型のタウンミーティングや市 民討議会によって解決を図ることが目的である.しかし,住民がタウンミーティングや市民討議会に参加 するためには,各参加者が決められた時間に決められた場所へ集まらなければならないため,参加者の人 数の制限や年齢層が偏ってしまうなど多くの問題を抱えている.実例として,大阪府堺市で平成 25 年度に 実施された人口調査 [?] および同自治体で同年に実施されたタウンミーティングでのアンケート調査 [?] に よれば,同年における 60 歳以上の人口は全人口に対して 32%であるのに対し,同年実施されたタウンミー ティングでの全参加者に対する 60 歳以上の参加者の割合は 74.6%と大きく偏りが生じている. このような問題を解決するために,オンライン上における大規模議論システムの研究が行われている.伊藤 らは,より多数で多様な市民が参加することを前提とした Web へのアクセス環境があれば時間および場所を 問わずに議論に参加可能な大規模議論システム COLLAGREE を開発している [?].しかし,COLLAGREE への投稿数が増加し,議論が複雑化することによって,各参加者が議論の概観を把握するには大きな精神 的,時間的負担を伴ってしまう問題を抱えている.以上から,Web 議論掲示板における投稿の意図を自動 で分類することで議論の構造化を支援し,各参加者が容易に議論の概観を理解できるようにすることがで きることが重要となる. 議事録や意見に対する分類,分類の研究は,合意形成を目的として対話的に意見を展開する Web 議論掲 示板を対象としたものが少なく,大規模なコーパスの整備も不十分なため,有効な手法が提案されていな い.例えば,談話や随筆などの非対話的な意見文書への分類,構造化に関する研究としては,Stab らによ る,随筆内の談話のそれぞれの文を前提,主張,主要な主張へ分類する手法 [?] や,Smith らによる,談話 における文を Situation-Entity と呼ばれる 10 クラスに分類することの提案など [?] が対話的に意見を展開 する文書を対象に研究を進めている.しかし,これらの研究は談話などの非対話的な文書を対象とした手 法であり,合意を形成するために質問や同意,反発,提案などといった Web 議論掲示板のような文書を整 理するためにはこれらの分類区分ではなく,直接これらの成果を大規模議論に適用することは容易ではな い.また,コーパスの作成には相当数の参加者を用意した上で議論を行った上でこれをアノテーションする必要があるため,コストが高い.このように,合意形成のための Web 議論掲示板における投稿など,対 話的な議論を構造化するための分類区分や手法,コーパスについてはほとんど研究がされていない. 1.2 本研究の目的 論文では,Web 議論掲示板を対象とした投稿の内容を自動で分類する手法を提案する.具体的には,各 投稿に対して文ごとに賛成,反対,質問,提案,意見,情報,経験の分類を教師あり学習によって行う手法 を提案する.提案手法では,教師あり学習を用いるに当たって文章の係り受け構造に着目し,(A) 係り受け 木の枝刈り込みにより短縮された文における形態素 N-gram,(B) 各形態素に係り受け木の深さを付与した 形態素 N-gram の二種類の方法による素性抽出を行うことで,分類器が特定の議論テーマに依存すること を防ぐ.また,評価実験において,提案手法が Bag-of-Words や Bag-of-形態素 N-gram による手法に対し て,F 値において同等またはそれらを上回ることを示す.