SlideShare ist ein Scribd-Unternehmen logo
1 von 69
WORKSHOP:
ふだん使いの
ナラティヴ・セラピー
国重浩一
2017年12月9日(土)・10日(日)
関西生産性本部 A会議室
主催: 日本キャリア開発研究センター(JICD)
後援: 日本・精神技術研究所
社会的・文化的・言語的な
影響を受けた私たちの語り
連絡先: kou_kunishige@hotmail.com
ナラティヴ・セラピーのフェイスブックグループ:
https://www.facebook.com/groups/narrativejp/
コンフィデンス(Confidence) & 自信
• 同じ意味であるとされる英語と日本語の言葉がある。とこ
ろが、両者が意味することは必ずしも同じであるとは限ら
ない。
• 日本の「自信」
• 何かを成し遂げることによって、身に付けるもの
• つまり事後的もの
• ニュージーランドの「コンフィデンス(Confidence)」
• 何かをスタートさせるために、必要なもの
• つまり先立ってあるもの
• 「何もやり遂げたこともないのに、口ばかり達者で・・・」
日本とNZの学校の違い
• 儀式の違い
• 整列
• 「先生の日」とは
• 高校の試験と期間
• 大学の入学について
• 授業の選択について
• 大学の授業料とそのローン
多民族国家
• ダイバシティ・カウンセリング・ニュージーランド
• 移民枠の話(移民前のこと VS 移民後のこと)
• 言語のバラツキ
• 人の目、みんな一緒という要求
• キョロキョロする度合い
「話し手」と「聞き手」で生じる変化
私たちにはどれほど自分のことをしっかり
と語る機会が提供されているのだろう
か?
話を聴いてもらった体験
(話し手として)
ありがちな会話
• 相手が途中で早合点してしまう。(会話における「遅
れ」 スティーヴ・ド・シェイザー 「自分の意味が先行
する」)
• 話を最後まで聞いてくれない。
• 分かってもらっている気がしない。
• 自分の言いたいことを言わせてもらえない。
• 自分の言いたくないことを言わされる。
• 下手なアドバイスをもらって終わる。
• 相手が話したいことに話題が変わる。
自分が思っていること、考えていること、
相手にしてもらいたいことをどの程度しっ
かりと伝えることができるのか?
相手に伝える難しさ
(話し手として)
自分の話し方をどう思うか?
• 言いたいことが適切に表現できるか?
• 回りくどい言い方をしないか?
• 相手に分かってくれるようなうまい言い方ができるか?
• 話していることに矛盾がないか?
• 話が行きつ戻りつしていないか?
• 自分がどこに向かって話しているのか理解しているのか?
• なぜその話をしているのか理解しているのか?
話を聞くことになると、自分ができていな
いことなどどこかに行ってしまい、相手を
しっかりとした話し手と見なしてしまってい
ないだろうか?
話す相手をどのように見なすのか
(聞き手として)
話を聞くときに相手を
どのように見なすのか?
• 自分自身のことだから、当然、話したいことは分かっ
ているはずである。
• 話すときに、回り道をせずに話せるはずだ。
• 話し始めは、話したい要点のところから話をするはず
だ。
• 一貫性のあり、理路整然とした話し手
私たちは自分の話をするときに何がおき
ているのだろうか?
自分が話すとき
(話し手として)
• とりあえず使える言葉を使用する。もっと適切な言葉が
あるのかもしれないが、そんなの知らない。
• 話しながら言うことを考える。後になって見れば、言っ
たことがかならずしも適切であったとは思えない。
• 実際には自分が何を考えているのか分からないけど、
とりあえず差し障りのないことを言ってしまう。
• どんなふうにいっていいのか分からないので、結局言
えない。
• 話すときに、事前に用意されているセリフを読み上げる
わけではない。
• 何度も繰り返してきた話は、だんだんうまくなっていく。
一度言葉が口から出てくると、その言葉
は意味を持って私たちに伝わる。
言葉の力
(聞き手として)
言葉のパフォーマティヴ性
• オースティンの『言語行為論』によると、文には事実を述べて
いる(コンスタティヴ)のと、行為をさせようとする(パフォーマ
ティヴ)のとがある。
• 「このマイクはおかしい」というのは、ある客観的な事実を述
べているように見えながら、それは「直せ」と語っているわけ
です。したがって「何々である」というようなことは、客観的な
事実の陳述というより、つねに命令というか、何かしらそうい
うメッセージを含んでいます。(中略)
• 言語は、その根底においてパフォーマティヴだというべきで
す。ところがコミュニケーションの理論は、まったくそれを省い
ています。実のところ、そのような理論はモノローグに過ぎな
いのですが。(柄谷行人「言葉と悲劇」70~71頁)
• 事例 「マイクの場所知っていますか?」
発語することによって、パフォームし
ているということ
• 私たちの悩み・苦悩は、もともと自分に内在するので
はなく、発語によって、私たちは自分がどのような考
えを持ち、どのようなことに悩み、どのようなことを望
んでいるのかを作り上げていく。
• さて、その発語はどのようにして生まれていくのだろう
か?
• 相手が望むことによって、誘導されたところがないとは言い
切れないだろう。
• よって、相手によって、その発語は異なってくる可能性が多
分にある。
その人の発語だが…
• 「あなたの好きな色は何ですか?」
• 「あなたは今日何を食べたいですか?」
• 「相談はなんですか?」
• 「お困りごとはなんですか?」
• 「何を望んでいるのでしょうか?」
• 「どうしてそのようなことをしたのですか?」
• 「家庭の様子を聞かせてもらっていいですか?」
• → 質問が相手の答えを誘導していることに気づくべき。そして
それを避けることはできない。そのため、「相手が自分で語ること
によって、有益なことに気づくための問いかけとは何か?」を検
討すべき。
問いかけが変われば、相手の発語にど
のような変化が生まれるだろうか?
• 「あなたの好きな色は何ですか?」 → 「色はあなたにとって、どのよ
うに重要なものなのか教えてもらえませんか?」
• 「あなたは今日何を食べたいですか?」 → 「今日の食事は、今日のあ
なたにとってどのようなものしたいのでしょうか?」
• 「相談はなんですか?」 → 「何が今日この場にあなたを連れてきたの
でしょうか?」
• 「お困りごとはなんですか?」 → 「あなたをこの場に駆り立てたものが
何か少し見当はつくでしょうか?」
• 「何を望んでいるのでしょうか?」 → 「あなたにとって、望ましいことが
何か少し当てはありますか?」
• 「どうしてそのようなことをしたのですか?」 → 「何があなたにそのよう
なことをさせたのでしょうか」
• 「家庭の様子を聞かせてもらっていいですか?」 → 「あなたの周りにあ
る関係性において、わたしが知っておいた方がいいと思われるようなこ
とがあれば教えてもらえないでしょうか?」
カウンセリングでの会話
とりとめのない話、行き先のない話、 結論の
ない話、確信のない話をするもの。心配なこと、
不安なこと、気がかりなことは、人に話すこと
によって、ある程度整理することができる。
一連の会話の後で、その人の気持ち、考えが
整理された形になる。それは、会話を始める
前には形になっていたのではない。
カウンセリングの会話とは
話の筋道
• その人の中にある話の筋道を、私たちが最初から分
かっているとは思わない。まずは、その筋道を探す。
• 「なぜこの人はこの話をしているのだろうか?」
• 「それは、私が考える道筋とどのように違うのだろう
か?」
• 「無知の姿勢」
トム・アンデルセン
ハリー・グリーシャンがとても熱心に言っ
ていたことだが、「僕らは、自分が考えて
いることを言ってみないことには、それが
何かわからない」ということだ。彼は言っ
た。「考えることを見つけるためには、話
し続けなければならない」。表現が先で、
それから意味が生じる。(会話・協働・ナラティヴ―ア
ンデルセン・アンダーソン・ホワイトのワークショップ)
ものごとの程度
•ものごとの程度は、言葉では伝
わらない。
•好き→嫌い、少し→すごく、全然、
絶対、まったく
•スケーリング質問法の問題点
相手が使っているその言葉は、私が理解
しているその言葉も意味を持っていると
は限らない。
言葉の意味
バフチン
言語における言葉の中立的、辞書的定
義は、言葉の共通した特徴を確定し、そ
の言語の話し手すべてがそれぞれ理解し
合うことを保証するが、生きた対話のコ
ミュニケーションにおける言葉の使用は、
本質的に、常に個人的で文脈的なもので
ある…言葉は何かを表現するが、その表
現された何かはその言葉に内在するもの
ではない(Bakhtin, 1986, p.88)。
ことば−コミュニケーション場面
における興味深い特徴
• 同じ単語が同じ意味を指していないと
きもあるのに、会話は進む。
• 思ってもいないことでも言える。
• ものごとの程度を正確に伝えることが
できない。
• 自分のことを正確に表現できる「こと
ば(表現)」が常にあるわけではない。
薄い描写と豊かな(厚い)描写
Thin Description and Thick Description
薄い描写 → 豊かな描写
• 自分について語るときに、学歴、肩書き、収入、未婚結婚、年齢などと
いった、ありきたりの要因を提示することで済ましてしまうことは、往々に
してあるであろう。そのようなありきたりの描写で人を語る場合、その描
写はたいへん表面的なものとなり、その人自身の固有の側面が表明さ
れることもない。社長は社長でしかなく、先生は先生でしかなく、母親は
母親でしかないのだ。そこから、その人がどのような「人となり」をもって
いるのかなど分かるわけもない。
• ところが日常において、このような薄っぺらな描写で人を判断してしまう
ことしきりである。引きこもり、ニート、不登校、うつ病、発達障害、精神病
などといったラベルを聞いただけで、相手に対する先入観を作り上げ、
そのからいろいろと考えていくのだ。まだあったこともない人に対して、い
くらでも相手のイメージを妄想することだってできる。
• ナラティヴ・アプローチでは、このような表現を「薄い描写」というが、ここ
で目指すのはこれの対極となる「豊かな(厚い)描写」なのである。人の
人となりを十分に語ってもらう機会をカウンセリングの場で提供するのだ。
表面的描写に囚われない
• もう少し教えてください
• もう少しそのことを話せますか?
• それってどういうことなんですか?
• もう少しそのときの様子を話してもらえ
ますか?
• 私の理解をもう少し助けてください。
相手の話の歴史に興味を示す
• ○○は、いつからのことなのでしょうか?
• ○○が目立ってきたのは、いつ頃からなので
しょうか?
• ○○は、どのような変遷を経てここまで来たの
でしょうか?
• いったいどのようなことが、その問題を大きく
することに貢献してしまったのでしょうか?
相手が伝えようとしている程度を確認する
• それはどの程度のことなのか、もう少し
教えて下さい。
• その程度がわかるように、少し具体的に
な話を教えてもらえないでしょうか?
• その出来事の大きさを表現するとすれ
ばどのようになりますか?
伝えようとしていることの意味を確認する
• それは、どのような意味なんですか?
• それは、どれほど重要な事なんですか?
• それは、○○さんの人生において、常にあっ
たようなことなのですか、それともまったく新し
いことだったのでしょうか?
• それの重大性というのは、どれほどのことな
のか、少し語れますでしょうか?
何が語られていないのか
•私は、そのことについてすべて聞い
たのでしょうか?
•この話の流れには出てこないもの
の、私が知っておいた方がいいこと
が何かほかにありますでしょうか?
語られていないもの
•語られていないことがある。
•語られたことからでしか、私たち
は相手を理解できない。
•何が語られたのかだけでなく、
どのようなことがまだ語られて
いないのだろうかに興味を示す。
好奇心・関心
•相手の話に興味と関心を
示す。
•相手の話の細部・詳細を
しっかりと聞く。
語りを豊かにする二つの風景
「行為の風景」と「意識/アイデンティティの風景」
行為の風景
ブルーナーは、文学評論家であるグレ
マスとコルテス(Griemas & Courtes,
1976)から大いに借用して、ストーリーは
主に二つの風景—「行為の風景」と「意識
の風景」から構成されていると提案した。
行為の風景とは、ストーリーの「題材」で
あり、プロットを構成する一連の出来事
(スジェート)と基本的テーマ(ファーブラ)
である。
意識/アイデンティティの風景
意識の風景は、「その行為に関わる人
びとの知っていること、考えていること、
感じていること、ないしは知らないこと、考
えていないこと、感じていないこと」からな
る(Buruner, 1986, p.14/邦訳p.21)。
この風景は、ストーリーの主役たちの意
識を取り上げており、行為の風景の出来
事への彼らのリフレクションからなること
が大きい(White, 2007/邦訳p.66-67)
「夏子さんとの会話」
ある母親の子どもが不登校状態に陥ってしまっ
たために、私のところに定期的に相談に来るよ
うになりました。その中で母親としての不全感
や、今までの関わりの後悔、そして、今も十分
に関わってあげることができないことへの苦悩
について話しをしてくれました。そのような中で、
自分の祖母が見守ってくれているという感覚が
その母親にとっての支えになってくれていること
がみえてきました。
「ナラティヴ・セラピーの会話術」
カウンセラー: それでは、もうすでに亡くなられているおばあさ
んの存在がお母さんの支えになっているのですね?
夏子さん: はい。
カウンセラー: おばあさんは、今のお母さんになんと言ってくれ
ているのでしょうか?(アイデンティティの風景)
夏子さん: そのままでいいよと言ってくれていると思うので
す。焦らないでいいよと(アイデンティティの風景)
カウンセラー: なるほど。そのままでいいよと言ってくれている
のですね。そのままとは、どのようなことを示しているの
ですか?(行為の風景)
夏子さん: 自分では、いつもできないということばかり目に
つくんですが、祖母はいつも私をほめてくれていたんで
す。
カウンセラー: なるほど。自分では気づかないところでも、おば
あさんには見えていたところは、どのようなことなんで
しょうか?(行為の風景)
夏子さん: そうですね。人のことを考えてあげることとか、
人に譲ったりしたときのことを、ほめてくれた記憶があり
ます(行為の風景)
カウンセラー: それは、どのようなことをしたときのことなのか
覚えていますか?(行為の風景)
夏子さん: いいえ、どんなことをしたのか覚えてはいませ
ん。ほめてくれた記憶だけですね(アイデンティティの風
景)
カウンセラー: なるほど。今、おばあさんが、お母さんという役
割についている夏子さんを見て、どのようなところを見
てくれているのだと思いますか?(行為の風景)
夏子さん: そうですね。今子どもに十分なことをしてやれな
いのですが、気持ちの上では、子どものことをしっかり
考えているようなことだと思います。(行為の風景)
カウンセラー: なるほど。子どものことをしっかり考えているこ
とについて、おばあさんは、なんと言ってくれるでしょう
か?(アイデンティティの風景)
夏子さん: たぶん、よく頑張っているね、と……(アイデン
ティティの風景)
カウンセラー: 子どものことをしっかり考えてあげると言う
ことは、よく頑張ってくれていると言ってくれそうなの
ですね(アイデンティティの風景)
よく頑張ってくれているということに関係して、おば
あさんは、ほかにどのようなことに気づくのでしょう
か?(行為の風景)
夏子さん: 自分の体調が優れなくて、子どもとうまくか
かわれないときでも、何とか時間を一緒に過ごすよ
うにしているんです。そのことにも、気づいてくれる
かもしれません。(行為の風景)
カウンセラー: それは、夏子さんのどのような側面を示して
いると、おばあさんは見てくれるのでしょうか?(ア
イデンティティの風景)
夏子さん: そうですね。優しいと言ってくれると思いま
す。(アイデンティティの風景)
カウンセラー: 子どもへの関わりにおいて、十分にしてあ
げることができないと話されていましたが、お母さ
んの「優しさ」をお子さんが気づいているような出来
事って何かありますでしょうか?(行為の風景)
夏子さん: あの子も優しいので、そのようなことには気
づいてくれているようです。無理しなくてもいいよと
言ってくれます。たぶん、いつも何か必要なものが
ないかを聞くので、わかってくれていると思うのです
(アイデンティティの風景)
カウンセラー: なるほど。そのようなお子さんなんですね。
デモンストレーション
行為に伴う目的、希望、価値、そしてビジョン
行為→目的→希望→
• ニュージーランドのナラティヴ・セラピストであるドナルド・マクミニ
マンは、マイケル・ホワイトに大いにヒントをもらいながら、一つ
の行動から豊かに語ってもらうためのインタビューフォーマットを
作成している。
• (1)行動には目的があること
「この行動をとった時、あなたの目的は何だったのでしょうか?
そのことを振り返れば、何を得ようとしていたのでしょうか?」
• (2)その目的には希望が伴っていること
「そのことで重要なことは何でしょうか? あなたの希望とは何で
しょうか?」
価値→ビジョン→
• (3)希望には自分が価値を置いているものが含まれているとい
うこと
「そのあなたの希望は、あなたが価値をおくものついて何を物
語っているのでしょうか? なぜそれがあなたにとって重要なの
か、私の理解を助けるための話をしてもらえないでしょうか?」
• (4)そしてそのような価値や希望は、人生をどのように送るべき
なのかというビジョンにつながっている
「このような価値は、あなたやあなたの大切な人々にとって、人
生がどのようなものであるべきかというビジョンとつながっている
でしょうか?」
関係性→差異
• (5)以上のことはけっして個人的なものではなく、人との関係性
の中で育まれてきたことである
「あなたがそのようなビジョンを持っていることを誰か知っている
でしょうか? その人たちはどのようにしてそれを知っているので
しょうか?」
• (6)このように意識/アイデンティティの風景についての語るこ
とは、その人にとってたいへん大きな発見につながっていく。そ
の発見が将来的に何らかの違いをもたらす可能性があるのだ。
そして、その可能な違いについて語ることによって気づき、それ
が現実味を伴っていく
「このことについて話をすることは、いま取り組んでいることに何
か違いをもたらすでしょうか?」
ペアになり、一人は話題を提供、もう一人はその話題につい
ての詳細について興味・関心・好奇心(3K)を持ってきく。そ
して、相手のストーリーが持つ「意識/アイデンティティの風
景」をききとっていく。最後に、このように語ることはどのよう
なことだったのかを尋ねて、インタビューのフィードバックをも
らう。
次に、役割を交代するして同じプロセスをおこなう。
WORK:
「豊かな描写をききとる」
WORKSHOP:
Day 2
外在化する会話法
外在化とは
「人々にとって耐えがたい問題を、客観化また
は人格化するように人々を励ます、治療におけ
るひとつのアプローチである。この過程におい
て、問題は分離した単位となり、問題と見なさ
れていた人や人間関係の外側に位置すること
となる。問題は、人々や人間関係の比較的固
定された特徴と同様に生来のものと考えられて
いるが、その固有性から解き放たれ、限定され
た意味を失っていく(White & Epston, 1991)」
のです。
外在化によって
1.誰が問題に対して責任があるのかという論争も含め、
人々の間の非生産的な葛藤を少なくし、
2.問題解決の試みにも関わらず存続する問題のために、
多くの人々がもつに到った不全感を帳消しにし、
3.問題に対して一致団結して立ち向かい、人々やその人
間に対する問題の影響から身を引けるような方法を示し、
4.人々が、問題やその影響から、彼らの人生との人間関
係を取り戻す、新しい可能性を開き、
5.『恐ろしくシリアスな」』問題に対する、ライト感覚でより有
効な、それでいて、さほど緊張しなくてすむアプローチを取
る自由を与え、
6.問題に対しては、モノローグ(独話)よりもダイアローグ
(対話)を提供する(White & Epston, 1991)
外在化する会話の効果
• 相手から最もよく返ってくる答は、安堵感です。自分たちが
問題なのではないこと、自分たちについての別のストー
リー、つまり問題の影響によって視界を遮られていた人生
の別の側面に触れる方法があることを知った、安堵の念な
のでしょう。
• 外在化する会話は、人々の人生において問題を「脱中心
化」します。これは、問題ないし人々を困らせているものと
人々とのあいだに、空間が創造されるということです。ある
人が自分自身を「役立たず」だと理解していたのが、今や、
その代わりに、「役立たなさ」が自分の人生を支配するに
至ったのだと理解するわけです。それには歴史があり、そ
の影響から人生を取り戻すチャンスさえあることも、理解さ
れるのです。
本人に適切な表現を探す
• 「うつ病と診断されたんです」
• →「うつ病」という名称は、自分の状態に照らし合わせて適
切な表現だと感じますか?
• →「うつ病」と言われる前には、自分の状態をどのように表
現していたのでしょうか?
• →「うつ病」とは、どなたの言葉でしょうか?
• →「うつ病」という名称にあまり同意できないのであれば、ど
のような名称が考えられるでしょうか?
• →診断名を使わないとすれば、どのような言葉がご自分の
状態を表現できると思いますか?
• →「うつ病」以外に何か自分のことを表現する言葉がありま
すか?
ニックネームを付ける
• 「わたしの中にある怒りが・・・」
• → 「その怒りをなんと名付けられるでしょう?」
• → 「その怒りをなんと表現できるでしょう?」
• → 「その怒りに名称を付けるとすれば何になるでしょう?」
• たとえば
• 「プンプン」は・・・
• 「怒り心頭」は・・・
• 「いい加減にしてよ!」は・・・
• 「どうしてわたしなの!」は・・・
• 大切なことは本人からの表現を引き出すこと
擬人化
• 「くん」や「さん」、「ちゃん」をつけて呼ぶ。
• 「うつ病くん」は・・・
• 「リスカさん」は・・・
• 「落ち込んじゃうちゃん」は・・・
• それが、人格を持ったように扱う
• 「うつ病くん」は、いったい何の目的があって・・・
• 「うつ病くん」は、いったいどんなことに喜びを見出して・・・
• 「うつ病くん」は、どんなやり方で・・・
• 「うつ病くん」は、どのような仲間と共に・・・
• 「うつ病くん」が、苦手な・・・
• 「うつ病くん」が、いやがる・・・
主語を置き換える
• 「うつ病なんです」 → 「うつ病」は・・・
• 「わたし怠け者なんです」 → 「怠け者」は・・・
• 「わたしどんなに頑張ってもいつも失敗ばかりなんで
す」 「いつも失敗ばかり」は・・・
• 「子ども時代の両親のことがどうしても忘れられない
のです」 「子ども時代の両親のこと」は・・・
• 「友人の○○さんに裏切られて・・・」
「友人に裏切られたこと」は・・・
動詞を名詞に変えて、主語とする
• 「どうしても○○さんを恨んでしまうんです」
→ 「恨んでしまうこと」は・・・
• 「どうしても落ち込んでしまうんです」
→ 「落ち込んでしまう」は・・・
• 「会社にどうしても行くことができないんです」
→ 「行くことができないこと」は・・・
• 「怒りが収まらないんです」
→ 「収まらないこと」は・・・
• 主語にすべきは、「怒り」ではなく、「収まらないこと」かもしれ
ない。
• 動詞(Verb)から動名詞(…ing)への変更
ひとつのフレーズをまとめて、主語とする
• 「昨夜、彼が○○して…」
→ 「昨夜起こったこと」は・・・
• 「いつも私クヨクヨしてしまうんです。」
→ その「いつもクヨクヨすること」は・・・
• 「やっぱりダメなんです」
→ 「やっぱりダメなんです」は・・・
• 「なんで、わたしっていつもこうなってしまうんでしょう」
→その「なんで、わたしっていつもこう
なってしまうんでしょう」は・・・
そこに含まれている概念や感情
• 「パートナーと別れてから、わたしは本当に寂しいん
です」
• →「その寂しいという気持ち」は・・・
• →「寂しいという考え」は・・・
• →「わたしが寂しさを感じてるという気づき」は・・・
• →「寂しさに気づくこと」は・・・
• →「寂しさという言葉」は・・・
• →「自分が寂しさの中にいるという理解」は・・・
「個人的特質」の外在化
外在化されるのは、問題だけではありま
せん。内在化されていることの多い(つま
り、あたかも個人の内面、ないし個人に
固有のものであるかのように見られやす
い)、「力強さ」、「自信」、「自己評価」の
ような個人的特質も、ナラティヴ・セラ
ピーの会話では外在化されます。
(ナラティヴ・セラピーみんなのQ&A)
「よいもの」
• 「なんとかなりそうだという感覚」をお持ちだとお聞きし
ましたが、そのような感覚を持てるあなたはどのよう
な人なんだろうかと考えているのですが、少し説明で
きますでしょうか?
• 「これほどの苦しみの中でも自殺だけはしないという
信念」をお持ちなのですね。その信念は、あなたがど
のような人だと物語っているのでしょうか?
• 「先週やり遂げたこと」を聞いて、誰が一番驚かない
でしょうか?
• 「先週やり遂げたこと」を現実のものにしたのは、どの
ような努力、プラン、協力などがあったからなのでしょ
うか?
4名のグループを作る。一人が相談者、一人がカウンセラー、
他は観察。相談者は自分のことについてカウンセラーに語る。カ
ウンセラーは「すべて」外在化の会話法で返す。外在化に詰まっ
て、外在化の語りかけができなくなったら、そのセッションは終わ
り。次のペアに進む。ペアを順次変えて、外在化の会話をおこな
う。時間内続ける。
相談者はあまり面倒なことは話題にしない、そしてできるだけ
手短に返事をすること。カウンセラーは相談者の話から、外在化
した質問を作り上げていく。
これは「練習」です。楽しみながらしてください。
WORK:
「外在化のリフティング練習
(壁打ち練習)」
WORK:「ロール・モデル・プレイ」
別資料を参照のこと
シナリオ
事例の概要(シナリオ)を聞いて、面接に入る前にできるだけ質
問の準備をします。
いったいどのような問いかけを準備して、面接に臨むでしょう
か? 質問をできるだけ多く考えてみてください。
そのような質問は、面接を構造化するために利用するのでは
ありません。また、相手を自分のたちの方向性に誘導するので
はありません。それは、カウンセリングにおける会話を問題解決
という狭い領域に限定しないように、会話を豊かに保つために持
ち駒として準備しておくのです。
WORK:
「質問の準備」
3名一組になります。一人は相談者、一人はカウンセラー、一
人はカウンセラーの助っ人+オブザーバーです。
先ほどのシナリオと、ロール・モデル・プレイに基づいて、会話
を進めていってください。
時間になったら、相談者がセッションに対するフィードバックを
行います。
そして、オブザーバーが、カウンセラーの質問について印象
に残ったところをフィードバックします。
WORK:
「ロール・モデル・プレイ」

Weitere ähnliche Inhalte

Mehr von Kou Kunishige

「組織に働きかけるナラティヴ・アプローチ」 21 Nov 2020
「組織に働きかけるナラティヴ・アプローチ」 21 Nov 2020「組織に働きかけるナラティヴ・アプローチ」 21 Nov 2020
「組織に働きかけるナラティヴ・アプローチ」 21 Nov 2020Kou Kunishige
 
JICD主催−ナラティヴ・セラピーの再著述 2017年12月2日3日
JICD主催−ナラティヴ・セラピーの再著述 2017年12月2日3日JICD主催−ナラティヴ・セラピーの再著述 2017年12月2日3日
JICD主催−ナラティヴ・セラピーの再著述 2017年12月2日3日Kou Kunishige
 
鹿児島伊佐市「支援を支えるケース会議」
鹿児島伊佐市「支援を支えるケース会議」鹿児島伊佐市「支援を支えるケース会議」
鹿児島伊佐市「支援を支えるケース会議」Kou Kunishige
 
ナラティヴ・セラピー会話術入門2015年12月
ナラティヴ・セラピー会話術入門2015年12月 ナラティヴ・セラピー会話術入門2015年12月
ナラティヴ・セラピー会話術入門2015年12月 Kou Kunishige
 
DCNZ PD: Talking with tsunami survivors in Japan (09 Dec 2014)
DCNZ PD: Talking with tsunami survivors in Japan (09 Dec 2014)DCNZ PD: Talking with tsunami survivors in Japan (09 Dec 2014)
DCNZ PD: Talking with tsunami survivors in Japan (09 Dec 2014)Kou Kunishige
 
Diversity Counselling at NZROK Friendship Society 13-nov
Diversity Counselling at NZROK Friendship Society 13-novDiversity Counselling at NZROK Friendship Society 13-nov
Diversity Counselling at NZROK Friendship Society 13-novKou Kunishige
 
ナラティヴ・セラピーの会話術ワークショップ 20141025
ナラティヴ・セラピーの会話術ワークショップ 20141025ナラティヴ・セラピーの会話術ワークショップ 20141025
ナラティヴ・セラピーの会話術ワークショップ 20141025Kou Kunishige
 
Mental Health Care for those who had earthquakes and Tsunami on 11 March 2011
Mental Health Care for those who had earthquakes and Tsunami on 11 March 2011Mental Health Care for those who had earthquakes and Tsunami on 11 March 2011
Mental Health Care for those who had earthquakes and Tsunami on 11 March 2011Kou Kunishige
 
Some lights on how culture, ethnicity and language operate in counselling and...
Some lights on how culture, ethnicity and language operate in counselling and...Some lights on how culture, ethnicity and language operate in counselling and...
Some lights on how culture, ethnicity and language operate in counselling and...Kou Kunishige
 
Walking the line between mainland's culture and new world's culture: Asian m...
Walking the line between  mainland's culture and new world's culture: Asian m...Walking the line between  mainland's culture and new world's culture: Asian m...
Walking the line between mainland's culture and new world's culture: Asian m...Kou Kunishige
 

Mehr von Kou Kunishige (10)

「組織に働きかけるナラティヴ・アプローチ」 21 Nov 2020
「組織に働きかけるナラティヴ・アプローチ」 21 Nov 2020「組織に働きかけるナラティヴ・アプローチ」 21 Nov 2020
「組織に働きかけるナラティヴ・アプローチ」 21 Nov 2020
 
JICD主催−ナラティヴ・セラピーの再著述 2017年12月2日3日
JICD主催−ナラティヴ・セラピーの再著述 2017年12月2日3日JICD主催−ナラティヴ・セラピーの再著述 2017年12月2日3日
JICD主催−ナラティヴ・セラピーの再著述 2017年12月2日3日
 
鹿児島伊佐市「支援を支えるケース会議」
鹿児島伊佐市「支援を支えるケース会議」鹿児島伊佐市「支援を支えるケース会議」
鹿児島伊佐市「支援を支えるケース会議」
 
ナラティヴ・セラピー会話術入門2015年12月
ナラティヴ・セラピー会話術入門2015年12月 ナラティヴ・セラピー会話術入門2015年12月
ナラティヴ・セラピー会話術入門2015年12月
 
DCNZ PD: Talking with tsunami survivors in Japan (09 Dec 2014)
DCNZ PD: Talking with tsunami survivors in Japan (09 Dec 2014)DCNZ PD: Talking with tsunami survivors in Japan (09 Dec 2014)
DCNZ PD: Talking with tsunami survivors in Japan (09 Dec 2014)
 
Diversity Counselling at NZROK Friendship Society 13-nov
Diversity Counselling at NZROK Friendship Society 13-novDiversity Counselling at NZROK Friendship Society 13-nov
Diversity Counselling at NZROK Friendship Society 13-nov
 
ナラティヴ・セラピーの会話術ワークショップ 20141025
ナラティヴ・セラピーの会話術ワークショップ 20141025ナラティヴ・セラピーの会話術ワークショップ 20141025
ナラティヴ・セラピーの会話術ワークショップ 20141025
 
Mental Health Care for those who had earthquakes and Tsunami on 11 March 2011
Mental Health Care for those who had earthquakes and Tsunami on 11 March 2011Mental Health Care for those who had earthquakes and Tsunami on 11 March 2011
Mental Health Care for those who had earthquakes and Tsunami on 11 March 2011
 
Some lights on how culture, ethnicity and language operate in counselling and...
Some lights on how culture, ethnicity and language operate in counselling and...Some lights on how culture, ethnicity and language operate in counselling and...
Some lights on how culture, ethnicity and language operate in counselling and...
 
Walking the line between mainland's culture and new world's culture: Asian m...
Walking the line between  mainland's culture and new world's culture: Asian m...Walking the line between  mainland's culture and new world's culture: Asian m...
Walking the line between mainland's culture and new world's culture: Asian m...
 

JICD主催−「ふだん使いのナラティヴ・セラピー」(大阪)12月9日10日

Hinweis der Redaktion

  1. 死にそう。
  2. 死にそう。
  3. 意味を与えない
  4. 話し始めたが、話の核心に到達する前に、相手が口を挟んでしまい。
  5. 話し始めたが、話の核心に到達する前に、相手が口を挟んでしまい。
  6. 話し始めたが、話の核心に到達する前に、相手が口を挟んでしまい。
  7. 死にそう。
  8. 死にそう。
  9. 死にそう。
  10. 死にそう。
  11. 死にそう。
  12. 死にそう。
  13. 死にそう。
  14. 死にそう。