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2002002002003333年年年年5555月月月月1111日日日日
台頭する中国ベンチャー投資台頭する中国ベンチャー投資台頭する中国ベンチャー投資台頭する中国ベンチャー投資
力を増す中国経済力を増す中国経済力を増す中国経済力を増す中国経済
中国は、いまや日本を抜いて世界第二の輸
出大国となった(2002年の世界シェア8.8%)。
WTO加盟と2008年の北京オリンピックの開催
で注目を集め、「世界の工場」として世界経
済における存在感はますます増加している。
真偽のほどは議論の余地があるものの、近年
の世界的なデフレ傾向は中国の低賃金を武器
とした過剰なまでの生産能力の増強が原因で
あると言われるほど、影響力を及ぼすように
なった。90年以降の10年間の名目GDP増加率は
年平均10%を越え、2000年には1兆800億ドル
となった。ついに、東南アジア5カ国(タイ、
シンガポール、マレーシア、フィリピン、イ
ンドネシア)と韓国の合計額を追い抜き、今
後も、少なくとも2010年までは年率7~8%の
ペースで成長を続けていくと予測されている。
世界からの対中直接投資も順調に拡大してお
り、2002年第1四半期には前年比56.7%増加
の130億ドルまで達し、これまで長い間首位の
座にあった対米向け直接投資を抜き、ついに
世界一となった。高成長を続ける中国は、魅
力的な投資対象に見えるが、プライベート・
エクイティ投資においてはどのような動きが
あるのだろうか。ITベンチャーの発祥である
シリコンバレーから、日本、台湾、中国に広
がる環太平洋地域における、IT産業の勃興と
VC投資の動きを見てみたい。
ITITITIT産業の広がり-シリコンバレーからアジア産業の広がり-シリコンバレーからアジア産業の広がり-シリコンバレーからアジア産業の広がり-シリコンバレーからアジア
エレクトロニクス・コンピュータ・半導体・
ソフトウェア・情報通信関連機器などの所
謂IT産業は、対象となるユーザーの裾野が広
く、大きな市場を有する。従って、一つの新
しい技術・アイデアが商品化に成功し、有望
な市場と認知されるや否や参入者が相次ぐ。
市場サイクルの初期段階では、先進的な技術
開発力やマーケティング力を要することから、
多くの商品で欧米企業が先駆者となるケース
が多かった。しかしながら、一旦市場が立ち
上がり、拡大段階から成熟段階に移行してく
ると、次第に競争の重点は、技術開発力から
大量生産をベースとしたコストダウン競争に
移行していく。そのため、市場サイクルの後
半には、低コストオペレーションを武器に、
アジア企業が台頭してくるケースが少なくな
い。
マイクロチップをベースとする現在のIT産
業は、1955年にシリコンバレーのパロアルト
に設立されたショックレー研究所を源流とす
る。1957年には、ノイス、ムーア、ロバーツ
やクライナー(72年に有力VCクライナー・パ
ーキンスを創業)などショックレー研究所設
立に参画した若手研究者8名が独立し、フェ
アチャイルド・セミコンダクター社を設立し、
本格的に半導体ビジネスを開始した。更に、
1968年にノイス、ムーアらがフェアチャイル
ドをスピンアウトしVCのアーサー・ロックの
力を借りてインテル社を設立し、世界初のマ
イクロプロセッサーとDRAMを生んだ。フェア
チャイルド社からは更に多くの企業が派生し、
ナショナルセミコンダクター社、AMD、LSIロ
ジック、ザイリンクスなど30以上もの半導体
メーカーが生まれた。
その後、コンピュータ産業がメインフレー
ム主体からパソコン主体へとシフトしていく
流れに従い、世界中からも多くの企業がこの
分野に参入してきた。その中で、日本の総合
電機メーカーは高い製造技術を武器に次第に
勢力を増し、80年代後半から90年代前半には
DRAMやエレクトロニクス分野で市場を席巻し、
日米貿易摩擦を起こすほどまで成長した。
90909090年代における台湾・韓国の台頭年代における台湾・韓国の台頭年代における台湾・韓国の台頭年代における台湾・韓国の台頭
しかしながら、半導体産業やコンピュータ
産業が巨大化し装置産業化するに従い、その
製造技術のノウハウは、製造会社から製造装
置メーカーへと重点が移ってきた。90年代前
半から、台湾や韓国では、政府によるこの分
野への様々な支援策が打たれてきたことを契
機に、米国などに留学して電子工学やコンピ
ュータなどの高等教育を受けたあと、シリコ
ンバレーなどで実績を積んだ頭脳が本国に呼
び戻され、ベンチャー投資やIT産業に従事し
た。台湾や韓国などのアジア企業は、日本に
対し後発ではあったものの、米国などからの
帰国者たちが新興のIT企業をリードし、日本
と同じ性能の製造装置を採用しながら、技術
的なキャッチアップを果たしてきた。加えて、
安い人件費などによる低コストを武器に次第
に競争力を持ちはじめたのである。また、電
子機器の製造を受託するアウトソーシング企
業も、同様な要因でコスト競争力を武器に台
頭してきた。そのため、90年代後半には台湾
のファウンドリーと呼ばれる受託生産に特化
したTSMCやUMC、DRAM製造に注力した韓国の三
星電子、台湾のエイサーをはじめとするパソ
コンのマザーボードメーカーのような企業が
台頭し、ついに日本の総合電機メーカーを市
場から追いやってしまったのである。
2000200020002000年以降の中国へのシフトの加速年以降の中国へのシフトの加速年以降の中国へのシフトの加速年以降の中国へのシフトの加速
近年の中国の台頭は、台湾と同様、米国へ
の留学生の動きが大きな要因となっているこ
とは見逃せない。中国は80年代に始まった開
放政策により、数十万人に上る多数の優秀な
若者を海外に留学させるチャンスを与えた。
しかしながら、海外に渡航した大半の留学生
は、本国に比較するとはるかに自由な雰囲気
と大きなビジネスチャンスが存在することを
目の当たりにしたことから、卒業後も海外に
留まり続けた。皮肉なことに、90年代前半ま
で中国政府の思惑とは反対に、多くの優秀な
人材を海外に流出させる結果となった。
ところが、1992年の鄧小平による全面的市
場経済化政策の推進は状況を変化させてきた。
特に90年代後半からは、海外渡航者に対して
も、人材の流出をむしろ肯定的にとらえるよ
うな柔軟な政策に転換し、一時帰国者を拘束
することなく、還流を促進してきたのである。
更に、2000年のITバブルの崩壊とその後のシ
リコンバレーのIT企業のリストラが、還流を
加速した。これまで長い間、多くの人材の流
出を招いたことが、結果的には海外での先進
的な実務経験を積んだ厚い人材層を生むこと
となったのである。
それら、中国に帰国した若き頭脳集団が中
国のIT 産業をリードすることとなったが、台
湾、韓国に比べ圧倒的なコスト競争力ある中
国が世界経済において存在感を増すこととな
った。かつて製造現場が日本の強みであった
が、欧米の焼き直しであるビジネスは、次第
に台湾、韓国に取って変わられた。それと同
様に、今度は台湾が、中国に取って変わられ
ることとなった。いまや中国の輸出品目のト
ップは、以前の繊維関連ではなくエレクトロ
ニクス関連である。2000 年のIT バブル崩壊
は、世界的にIT 関連投資へのコスト削減圧力
を高めたが、これが製造工場を台湾や韓国か
ら中国へのシフトを加速させることとなった。
台湾のTSMC などファウンドリーは、巨大な製
造拠点を中国に築き、今や中国が主力工場と
して稼動している。更に、台湾のエレクトロ
ニクス業界をリードしてきたパソコンのマザ
ーボード業界においても同様の動きが起こり、
エイサーなど大半のメーカーが主力工場を中
国にシフトしてしまったのである。
ベンチャー企業の広がりベンチャー企業の広がりベンチャー企業の広がりベンチャー企業の広がり
半導体産業やコンピュータ産業は、最終製
品製造業を支える製造装置メーカー、部品メ
ーカー、測定装置企業、制御装置メーカー、
ソフトウェア企業など、数多くの周辺企業を
要する巨大な産業である。そのため、多くの
エレクトロニクス企業やソフトウェア企業に
ビジネスチャンスを与えることとなり、ベン
チャー企業が生まれる土壌を提供してきた。
親元となる半導体メーカーやコンピュータメ
ーカーの主役が国境を越えてシフトしていく
のに従い、ベンチャー企業が生まれる土壌が、
ベンチャーのメッカであるシリコンバレーか
ら、海を越えて日本、台湾、韓国へ波及し、
そして、今や中国にまで広がってきたのであ
る。
VCVCVCVCの動き-台湾から中国への動き-台湾から中国への動き-台湾から中国への動き-台湾から中国へ
台湾では、84年にはじめてVCが設立されて
から、順調にベンチャー投資が拡大してきた。
シリコンバレーで花開いた半導体・コンピュ
ータ・エレクトロニクス産業は、台湾がそれ
らハイテク産業の工場の役割を果たすに従い、
VCも2002年末に約200社、その投資残高は約
5,000億円となった(経済規模で10数倍ある日
本であるが、VC投資残高は台湾の2倍の1兆円
にしか過ぎない)。しかしながら、2000年以
降、ITバブルが崩壊した影響を受け、VCファ
ンドへ流入する資金が急速にしぼんでしてし
まった。
一方、90年代の開放政策とともに中国の台
頭が進むにつれ、工場を台湾から人件費の安
い中国に移転する動きが激しくなってきたが、
VCについても中国投資が拡大してきた。台湾
からは、海外に設立したファンドなどを通じ
て中国への投資シフトが進んでいる。また、
日本の大手VCもここ数年遅ればせながら中国
事務所を開設したり、現地のVCと共同でファ
ンドを設立したりするなど、中国投資の拡大
を急いでいる。中国国内で活動するVCは1994
年に17社しか存在しなかったが、2001年には
250社にまで拡大した。ファンド総額も、1999
年には前年比67.8%、2000年には前年比103.0%
の増加率を見せ、2001年には400億人民元(約
6,800億円)まで達しており、日本に迫る勢い
である。
今後の課題今後の課題今後の課題今後の課題
活況を呈する中国投資だが課題もある。ま
ず、株式市場の閉鎖性と企業の粉飾の横行で
ある。更に、知的所有権の侵害が横行する体
質が改まらなければ、知識融合型のハイテク
産業の振興を阻害し、単に生産量で勝負する
だけの低付加価値の企業しか生まれない。単
にリスクマネーを提供するだけでは、今、中
国で起こっている起業ブームに便乗するにす
ぎず、資金以外に技術、経営管理、市場開拓
などの戦略を提供もしくは仲介することなし
には投資のインセンティブを高めることには
ならない。更に、深刻化を増しているSARSの
ような思いも寄らぬリスクもあり、この件は
一時的に大きな後退を招く可能性がある。
しかしながら、中長期的なトレンドとして
中国投資の流れは止められない。VC投資も、
台湾、香港、韓国企業を経由した中国への投
資、並行して直接中国への投資も進展して行
くものと思われ、今後も投資の機会は広がっ
ていくであろう。
エー・アイ・キャピタル 徳田浩司
(執筆当時)
三菱商事証券ニューズレター三菱商事証券ニューズレター三菱商事証券ニューズレター三菱商事証券ニューズレター
Alternative Investment OutlookAlternative Investment OutlookAlternative Investment OutlookAlternative Investment Outlook寄稿文寄稿文寄稿文寄稿文
徳田徳田徳田徳田 浩司(トクダ浩司(トクダ浩司(トクダ浩司(トクダ コウジ)コウジ)コウジ)コウジ)
Fusion Reactor LLC(在米国シリコンバレー)社長
三和銀行、三和総研、三菱商事証券などで、システムコンサルティング、ベンチ
ャー投融資などに従事。2004年に独立、米国シリコンバレーで、ベンチャーサポ
ート、IT・金融ビジネスのコンサルティング、ワイヤレス・ブロードバンド・ソリュー
ションの開発・ベンチャー経営、老舗スポーティング・グッズ・メーカの米国代表
などに従事。
本件に関するご意見・お問い合わせ
Fusion Reactor LLCFusion Reactor LLCFusion Reactor LLCFusion Reactor LLC
代代代代表表表表;;;; 徳田徳田徳田徳田 浩司浩司浩司浩司
電話電話電話電話 日本日本日本日本 050050050050----5534553455345534----1111111114141414 ((((国内電話で通じます国内電話で通じます国内電話で通じます国内電話で通じます))))
EEEE----mail: info@fusionmail: info@fusionmail: info@fusionmail: info@fusion----reactor.bizreactor.bizreactor.bizreactor.biz
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