SlideShare ist ein Scribd-Unternehmen logo
1 von 36
認知症の理解とケア
医療法人社団 正心会岡本病院
相澤加奈
こころの健康 メンタルヘルス講座 (2014.9.26 別海町)
はじめまして
鷹栖町生まれ
よろしくお願いします
お話させていただく内容
認知症の方に起こっていること
認知症の治療と予防
認知症の方への接し方
認知症の方に起こっていること
認知症 (Dementia:デメンチア)
=こころが失われた状態
〈痴呆〉に含まれる差別的な
意味合いを 除く
2004~〈認知症〉
こころ全体の問題
老化や病気で大脳がダメージを受け
それが心にも影響している
知能低下、記憶障害を
中心とした問題〈痴呆〉
認知症の「認知」って何のことでしょう?
認識
•対象や刺激を正しく認識
する
処理
•問題を解決するための情
報を処理したり解釈する
行動
•日常生活に支障が出ない
ための行動をとる
午後から雨が降りそ
うなので、傘を持っ
て外出した方がいい
認知症は特別な病気?
日本における認知症人口
高齢者の15% 462万人
(2013年厚生労働省調査)
280万人
160万人
380万人
健康な高齢者
※ピラミッドは
2010年調査
誰かの支援がないと
日常生活が難しい
正常と認知症の
中間の人
65歳以上高齢者人口 2874万人
3年前より
22万人増
何らかの認知症症状はあるが
日常生活は自立してる
認知症の原因と考えられる病気
アルツハイマー病 脳血管障害
レビー小体病 前頭側頭葉変性症
パーキンソン病
頭部外傷 正常圧水頭症脳腫瘍
甲状腺機能低下症
などなど
認知症は病名ではなく、いったん発達した知能が後天的に起きた
脳のダメージによって、社会生活を送ることが難しくなるまで低
下した「状態」のことです
認知症で見られる症状
中核症状
記憶障害
言語障害(失語)
失行 失認
遂行機能障害
見当識障害
判断、学習の障害
など
周辺症状
(BPSD)
行動症状 心理症状
徘 徊
暴言・暴力
不 穏
多 動
不潔行為
収 集
不安・焦燥
抑うつ
幻想・妄想
被害念慮
ケアへの抵抗
認知症の診断
画像検査 認知機能検査 身近な人からの情報
CT
MRI
100から7を順番に
引いてください
知っている野菜の
名前を言ってください
・
・
・
最近何だか今までと
様子が違うんです
性格が変わって
別人のようです
症状の内容や経過が
最も重要です
その 「もの忘れ」 は認知症のせい?加齢のせい?
認知症のもの忘れは出来事全体を、
加齢によるもの忘れは出来事の
一部を忘れる
認知症のもの忘れはヒントを
与えられても思い出せない
お財布はタンスの中
って言われてもねぇ
認知症のもの忘れは
進行する
認知症では物忘れ以外
の症状も現れる
認知症では生活に
支障が出る
アルツハイマー型認知症
 認知症の5~6割を占
め、女性に多い
 脳にタンパク質(アミ
ロイドβ)が付着し、
神経細胞が死んでしま
うことによって起こる
⇒初期では特に記憶を
司る場所(海馬)が
変化する
 時間、場所、人が分からなくなる(見当識障害)
 同じ話を何度もするようになる
 なくし物が多くなる
 ぼんやり過ごす時間が増える
 今まで出来ていた家事や身だしなみが雑になる
〈初期の徴候〉
アルツハイマー型認知症の経過
重症度
軽 い
重 い
症状は徐々に進んでいくのが特徴
軽 度
2 年
中等度
1.5年
高 度
5 年
〈軽 度〉
・置き忘れが多くなる
・買い物で必要なもの
を必要な量だけ買う
ことが出来ない
・料理の段取りが出来
ない
〈中等度〉
・季節に合った洋服が選べない
・慣れない場所で迷う
・車の運転が難しくなる
・大声をあげる、落ち着きのなさ、
不眠がみられる
〈高度〉
・着衣、入浴に要介助
・トイレの後始末が困難
・失禁
〈高度〉
・言葉が出ない
・歩行不能
・寝たきり
血管性認知症
白く見える箇所は循環障害が生じている
 認知症の約3割を占め、
男性に多い
 脳血管障害(脳梗塞、脳
出血)が原因で発症する
⇒全身の血管障害が基盤
にある
高血圧症、糖尿病
高脂血症など
〈初期の徴候〉
 多くの場合は、小さな脳梗塞繰り返すうちに、手足の麻痺などを伴いなが
ら、段階的に認知機能が低下していく
 身体の麻痺のほかに、しゃべりにくさ、飲み込みにくさ、しびれなどの症
状がみられる
血管性認知症の経過
 記憶障害は高度なのに、他の認知機能(計算力、判断力など)は保たれて
いることもある まだら認知症
 精神面では、意欲低下や抑うつが目立つようになったり、場違いな感情表
出(怒る、泣く、笑う)が見られたりする
レビー小体型認知症
 認知症の2割程度を占め、男性
に多い
 大脳にタンパク質(レビー小
体)が蓄積されることによって
起こる
⇒脳幹にレビー小体が貯まる
とパーキンソン病となる
脳の強い萎縮はみられない
〈症状の特徴〉
 進行性の認知機能障害
(日によって変動する)
 具体的でありありとした幻視
 パーキンソン症状(特に体の動きやバランスが悪くなる)
 睡眠障害(寝ている時に大声を出す、体を激しく動かすなど)
前頭側頭葉変性症
 前頭葉、側頭葉にタンパク質が蓄積されることによって起こるらしい
 男性の方が女性よりも多い
 アルツハイマー病よりも年齢が若い人に多い
認知症の治療と予防
認知症治療の3本柱
薬物療法
ケ ア 非薬物療法
・症状の進行を遅らせる
・物忘れや判断力の低下を
改善させる
・脳を活性化させる
・回想法や音楽療法が行われる
・自分の気持ちが理解されて
受け入れられる体験は、何
よりも大切です
認知症の薬物療法
薬物治療の目的は、①根本的な治療ではなく中核症状の進行を
遅らせること、②周辺症状をやわらげること
神経のネットワーク障害を改善する
記憶や学習に関わっている
神経伝達物質をコントロールする
メマリー
(1日1回の内服)
アリセプト
(1日1回の内服)
レミニール
(1日2回の内服)
イクセロンパッチ
/リバスタッチ
(1日1回の貼用)
精神症状を改善する
抗精神病薬
(幻覚や妄想)
抗うつ薬 抗不安薬
睡眠導入剤
脳血管障害を改善する
高血圧、高脂血症薬など
パーキンソン症状を改善する
抗パーキンソン病薬
認知症の予防①
脳の血管を詰まらせない!
高血圧、糖尿病、高脂血症の予防・コントロール
〈食事〉
1日3食 色んな食材を 腹八分目
認知症予防に大切な食材
青 魚
緑 茶赤ワイン・ココア
緑黄色野菜・果 物
認知症の予防②
糖尿病と認知症の関係
インスリンの不足
血糖の上昇
アミロイドβが
分解されず蓄積される
アルツハイマー型認知症の
リスクが高まる
糖 尿 病
認知症の予防③
〈運動〉
自分のペースで継続的に
身体を動かす!
散歩
ウォーキング
ストレッチ
軽スポーツ
〈生活の楽しみ〉
自分らしく生き生きと!
認知症の方への接し方
認知症ケアの基本にあるもの
人間の尊厳を取り戻す
他者によって自分の存在を
認められること
人間らしさを尊重したケア
(ユマニチュード:Humanitude)
あらゆる手段を使って
「人間であること」を感じさせる
認知症の人との人間関係、
「絆」をつくるテクニック
見 る 触れる
話 す 立 つ
本人の正面から
見つめる
手首をつかむの
ではなく下から
支える
相手が心地よく
感じる言葉を穏
やかな声で
立つことで筋力
が鍛えられ、骨
が強くなり、呼
吸機能の低下を
防ぐ
見 る 「見ない=いない」
「見る」ことが相手に与えるメッセージ
プラス マイナス
水平な
高さで
正面
から
近く
から
時間的
に長く
平 等
正直・信頼
優しさ・親密さ
愛情・友情
垂直な
高さで
時間的
に短く
遠く
から
横
から
支配・見下し
攻 撃
関係の薄さ・否定的
恐れ・自信のなさ
視線をつかみにいく
認知症による認知機能の低下
⇒外からの情報を受け取れる
範囲が狭くなっている
⇒情報の入口としての視
野もせまくなっている
と考えられる
自分の視界に突然人が現れる
↓
驚き!
大声をあげる(自分を守る防御)
目の高さで食事を見てもらう
触れる
「触れる」ことが相手に与えるメッセージ
プラス マイナス
広く
柔ら
かく
ゆっくり
包み込む
ように
狭く
粗暴に
強く
急に
優しさ
喜 び
自 愛
信 頼
怒 り
葛 藤
憎しみ
5歳の子の力以上は使わない
つかまないで下から支える
身体は触れる場所によって
伝わる情報量が異なる
⇒手・顔・唇から伝えられる
情報は多い
⇒ケアを行う時はいきなり顔
や手に触れず、腕や背中か
ら触れることで、ケアを受
ける人の驚きが軽減できる
話 す
穏やかに
優しく
最も悪いことは
相手を無視して話しかけないこと
甲高く
怒 る
攻撃的
自分が行っているケアを言葉にする
依頼
「右手挙がるかい?」
予告
「これから着替えをしますよ」
実況中継
「腕を伸ばしてね、袖を通すよ」
「新しいパジャマで気持ちいいね」
気持ちが明るくなる言葉で!
立 つ
40秒立つことが出来れば寝たきりは防げる
立つことは「人間」の誇り
すでに寝たきり状態になっている場合
⇒短時間でも足を下ろして座位になれる
時間をつくる
⇒肺や循環器の働きを良くする
外側の世界へ視野を広げる
自分らしく生きる
柴田トヨ
(1911~2013)

Weitere ähnliche Inhalte

Was ist angesagt?

семінар синдром професійного вигорання бзш №5
семінар синдром професійного вигорання бзш №5семінар синдром професійного вигорання бзш №5
семінар синдром професійного вигорання бзш №5
Liyda
 
Terapia Comportamental e Cognitiva, uma introdução.
Terapia Comportamental e Cognitiva, uma introdução.Terapia Comportamental e Cognitiva, uma introdução.
Terapia Comportamental e Cognitiva, uma introdução.
Marcelo da Rocha Carvalho
 
Módulo 1 - Aula 3
Módulo 1 - Aula 3Módulo 1 - Aula 3
Módulo 1 - Aula 3
agemais
 

Was ist angesagt? (20)

TERAPIA COGNITIVO COMPORTAMENTAL - Volume 1.pdf
TERAPIA COGNITIVO COMPORTAMENTAL - Volume 1.pdfTERAPIA COGNITIVO COMPORTAMENTAL - Volume 1.pdf
TERAPIA COGNITIVO COMPORTAMENTAL - Volume 1.pdf
 
Introdução à Terapia cognitivo comportamental
Introdução à Terapia cognitivo comportamentalIntrodução à Terapia cognitivo comportamental
Introdução à Terapia cognitivo comportamental
 
Psicologia Hospitalar - Pacientes Terminais 2
Psicologia Hospitalar - Pacientes Terminais 2Psicologia Hospitalar - Pacientes Terminais 2
Psicologia Hospitalar - Pacientes Terminais 2
 
Neuropsicologia do autismo
Neuropsicologia do autismoNeuropsicologia do autismo
Neuropsicologia do autismo
 
「自己肯定感」~自分を信じることは、生きる基礎~
「自己肯定感」~自分を信じることは、生きる基礎~「自己肯定感」~自分を信じることは、生きる基礎~
「自己肯定感」~自分を信じることは、生きる基礎~
 
Neuropsicologia
NeuropsicologiaNeuropsicologia
Neuropsicologia
 
Upoznajte svoja osećanja
Upoznajte svoja osećanjaUpoznajte svoja osećanja
Upoznajte svoja osećanja
 
Aula 1 tanatologia christus introdução
Aula 1 tanatologia christus introduçãoAula 1 tanatologia christus introdução
Aula 1 tanatologia christus introdução
 
семінар синдром професійного вигорання бзш №5
семінар синдром професійного вигорання бзш №5семінар синдром професійного вигорання бзш №5
семінар синдром професійного вигорання бзш №5
 
Slides de Apoio para a Unidade Curricular de Neuropsicologia
Slides de Apoio para a Unidade Curricular de NeuropsicologiaSlides de Apoio para a Unidade Curricular de Neuropsicologia
Slides de Apoio para a Unidade Curricular de Neuropsicologia
 
Saude MENTAL
Saude MENTAL Saude MENTAL
Saude MENTAL
 
Transtornos depressivos
Transtornos depressivosTranstornos depressivos
Transtornos depressivos
 
Manual de Psicologia Hospitalar
Manual de Psicologia HospitalarManual de Psicologia Hospitalar
Manual de Psicologia Hospitalar
 
Neuropsicologia
NeuropsicologiaNeuropsicologia
Neuropsicologia
 
Curso Memoria e Trauma Psíquico - Parte 01
Curso Memoria e Trauma Psíquico - Parte 01Curso Memoria e Trauma Psíquico - Parte 01
Curso Memoria e Trauma Psíquico - Parte 01
 
6 Zivcana stanica.pdf
6 Zivcana stanica.pdf6 Zivcana stanica.pdf
6 Zivcana stanica.pdf
 
Terapia Comportamental e Cognitiva, uma introdução.
Terapia Comportamental e Cognitiva, uma introdução.Terapia Comportamental e Cognitiva, uma introdução.
Terapia Comportamental e Cognitiva, uma introdução.
 
1 inteligencia emocional
1 inteligencia emocional1 inteligencia emocional
1 inteligencia emocional
 
Módulo 1 - Aula 3
Módulo 1 - Aula 3Módulo 1 - Aula 3
Módulo 1 - Aula 3
 
Saúde Mental
Saúde MentalSaúde Mental
Saúde Mental
 

Ähnlich wie こころの健康 メンタルヘルス講座(2014.9.26 別海町)

2016医療哲学3・4講目「病気とは何か」印刷
2016医療哲学3・4講目「病気とは何か」印刷2016医療哲学3・4講目「病気とは何か」印刷
2016医療哲学3・4講目「病気とは何か」印刷
yasushi abe
 
120826 特定非営利活動法人LightRing.団体概要
120826 特定非営利活動法人LightRing.団体概要120826 特定非営利活動法人LightRing.団体概要
120826 特定非営利活動法人LightRing.団体概要
Ayaka Ishii
 

Ähnlich wie こころの健康 メンタルヘルス講座(2014.9.26 別海町) (20)

認知症診療について知ってほしいこと (市民向け講演)
認知症診療について知ってほしいこと (市民向け講演)認知症診療について知ってほしいこと (市民向け講演)
認知症診療について知ってほしいこと (市民向け講演)
 
発達障害研究会105
発達障害研究会105発達障害研究会105
発達障害研究会105
 
統合失調症を持つ人の就労サポートについて 統合失調症就労編
統合失調症を持つ人の就労サポートについて 統合失調症就労編統合失調症を持つ人の就労サポートについて 統合失調症就労編
統合失調症を持つ人の就労サポートについて 統合失調症就労編
 
発達障害と二次障害への理解
発達障害と二次障害への理解発達障害と二次障害への理解
発達障害と二次障害への理解
 
認知症の診断と治療
認知症の診断と治療認知症の診断と治療
認知症の診断と治療
 
うつ家族教室20150121
うつ家族教室20150121うつ家族教室20150121
うつ家族教室20150121
 
知的障害についてH27
知的障害についてH27知的障害についてH27
知的障害についてH27
 
機能性(心因性)難聴について
機能性(心因性)難聴について機能性(心因性)難聴について
機能性(心因性)難聴について
 
認知症についてじぶんのことばで説明しよう。
認知症についてじぶんのことばで説明しよう。認知症についてじぶんのことばで説明しよう。
認知症についてじぶんのことばで説明しよう。
 
認知症ケアとはなにか?
認知症ケアとはなにか?認知症ケアとはなにか?
認知症ケアとはなにか?
 
神戸医療イノベーションフォーラム 2013 slideshare用
神戸医療イノベーションフォーラム 2013 slideshare用神戸医療イノベーションフォーラム 2013 slideshare用
神戸医療イノベーションフォーラム 2013 slideshare用
 
ERで遭遇する脳以外の神経疾患入門
ERで遭遇する脳以外の神経疾患入門ERで遭遇する脳以外の神経疾患入門
ERで遭遇する脳以外の神経疾患入門
 
20140323 スキルアッップ勉強会 プレゼン資料 発達障害
20140323 スキルアッップ勉強会 プレゼン資料 発達障害20140323 スキルアッップ勉強会 プレゼン資料 発達障害
20140323 スキルアッップ勉強会 プレゼン資料 発達障害
 
認知症講座
認知症講座認知症講座
認知症講座
 
2016医療哲学3・4講目「病気とは何か」印刷
2016医療哲学3・4講目「病気とは何か」印刷2016医療哲学3・4講目「病気とは何か」印刷
2016医療哲学3・4講目「病気とは何か」印刷
 
W nousyuyou190520
W nousyuyou190520W nousyuyou190520
W nousyuyou190520
 
120826 特定非営利活動法人LightRing.団体概要
120826 特定非営利活動法人LightRing.団体概要120826 特定非営利活動法人LightRing.団体概要
120826 特定非営利活動法人LightRing.団体概要
 
発達障害について
発達障害について 発達障害について
発達障害について
 
Relax conference
Relax conferenceRelax conference
Relax conference
 
重心・医療的ケア2013榛名養護 一部修正
重心・医療的ケア2013榛名養護 一部修正重心・医療的ケア2013榛名養護 一部修正
重心・医療的ケア2013榛名養護 一部修正
 

こころの健康 メンタルヘルス講座(2014.9.26 別海町)