1. 修士論文発表
観光動向におけるシグナリング効果に関する考察
複雑系工学講座
調和系工学研究室
修士2年 寺西俊樹

2. 研究の背景
観光では「観光立国」をキーワードに振興がはかられている
しかし，ある戦略による観光客数の変化を予測することは困難
観光客数が変化する要因
サービス・サイエンスの研究より シグナリング [Kirmani,2000]
情報所持者から情報非所持者へ
サービスの性
サービスの性 [日高,2007][本村,2008] と情報を発信する方法
質 宣伝
同時性 無形性 消滅性 異質性 例 保証
クーポン
評判
ブランド
観光客は行ってみないと観光地の正確な評価が不可能
⇒事前の評価は観光地の宣伝や口コミなどの情報が大きな影響を持つと考えられる
シグナリングと呼ばれる
あるシグナリングが行われた時に，シグナリングにより観光客を呼び込む効
果がどのように変化するのかを知ることが重要

3. 世界遺産登録によるシグナリング効果
世界遺産である白川郷と原爆ドームの累積観光客数の推移
白川郷・五箇山の合掌造り集落 原爆ドーム
世界遺産に登録
世界遺産に登録
1
1
0 0
1992 1995 2006 1989 1996
世界遺産に登録された年の累積観光客数を1とし 世界遺産に登録された年の累積観光客数を1とした
た時の観光客数の推移(白川村・富山県HPより) 時の観光客数の推移(広島平和記念資料館入込客数より)
世界遺産に登録されて以降，観光客数が大きく変化している
・各観光地そのものは大きく変わっていない
・観光客数の変化に影響を与える要因の一つ＝世界遺産に登録されたというシグナリ
ング効果
あるシグナリングが行われた時のシグナリングが
観光客を呼び込む効果の変化を分析

4. 観光動向の仮説
観光地 観光地
・宣伝・口コミ・キャンペーン等の ・世界遺産という保証付きの
シグナルを常に発信 シグナルを発信
シグナルa 一定割合が来訪 登録 シグナルb
・シグナリング効果は，シ
グナルの累積
・シグナリング効果は一定 一定割合が再び
割合ずつ減衰 潜在観光客に
シグナリング効果
に比例して増加
一定割合は興味
を失う
潜在観光客 潜在観光客
登録前 世界遺産の登録時には，通常と 登録後
は別に大きなシグナルが発信

5. 観光モデル
登録
観光地 観光地
・宣伝・口コミ・キャンペーン等の ・世界遺産という保証付きの
シグナル a1 を常に発信 シグナル a2を発信
シグナルa 累積観光客数 S 2
・シグナリング効果A(t) シグナルb
dA(t )
(t dA(t )
= −kA(t ) + a1 = −kA(t ) + a2 + I
dt dS 2 (t ) dt
= r2 S1 (t )
dt
シグナリング効果
に比例して増加
dS1 (t )
潜在観光客 S1 = A(t ) − r1S1 (t ) 潜在観光客
dt
登録前 世界遺産の登録時には，通常と 登録後
は別に大きなシグナル I を発信

6. 実験
dS1 (t )
= A(t ) − r1S1 (t )
dt
dS 2 (t ) a2 + I の同定
= r2 S1 (t )
dt
dA(t )
= −kA(t ) + a1 a1 の同定
dt
dA(t ) a1 + I とした場合
= −kA(t ) + a2 + I
dt 累積観光客数のデータをD(t) 1992 1995 2006
初期値 世界遺産に登録された時間をTとして
r1 = 0.5 S1 (0) = ( D(T ) − D(0)) / Tr2
r2 = 0.2 S 2 (0) = D(0) a2
k = 0.2 A(0) = r1S1 を取ることによりシグナリング効果
a1
の変化を見ることが可能
・客数データの入手出来る最初の年をt=0
・ A(t ), S1 (t ), S 2 (t ), D (t ) には，客数データの入手出来る年から世界遺産に
登録された年までの累積観光客数を1とした時の比を用いた
世界遺産の登録により，シグナルが
ケース1 ケース2
a1で同定してI以外変化 a1 ，a2 +I で同定した場合
しないとした場合
の２つのケースについて実験を行った

7. 実験結果1
主な世界遺産の累積観光客数とケース1，ケース2の S 2
登録後シグナリング効果が増加
1
1
1
1992 1993 2006 1992 1995 2006 1992 2000 2004
屋久島 白川郷・五箇山の合掌造り集落 琉球王国のグスク及び関連遺跡群
登録前後にシグナリング効果 登録後シグナリング効果が減少
が変化せず
1 1
1
1992 1998 2008 1988 1996 2008 1992 1996 2006
奈良市 原爆ドーム 厳島神社
世界遺産登録後，シグナリングの効果が増減して ケース1の S 2
ケース2の S 2
いる様子を見ることが出来る
実累積観光客数

8. 実験結果2
主な世界遺産の世界遺産登録前後によるシグナルの変化 a2 a
1
日光の
日光の社寺
厳島神社 琉球 白神山地
原爆ドーム 奈良市
原爆ドーム 屋久島 白川郷
0.81 0.90
0 11.04 1.19 1.34 1.46 1.61
2
・白川郷・白神山地・屋久島等はシグナリング効果が高くなっている
・世界遺産登録前はあまり有名ではなかったと思われる観光地
・世界遺産に登録されたことで発信される情報量が増加
・原爆ドームや日光の社寺等はシグナリング効果が変わらないか低くなっている
・世界遺産の登録前から有名だったと思われる観光地
・元々情報量が多いため，世界遺産に登録されても大きく変化しない

9. 実験結果3
主な世界遺産の世界遺産登録前後によるシグナルの変化 a2 a
1
鎌倉市 金沢市
日光の
日光の社寺
厳島神社 琉球 白神山地
原爆ドーム 奈良市
原爆ドーム 屋久島 白川郷
0.81 0.90 1.04
0 0.93
1 1.07 1.19 1.34 1.46 1.61
2
大河ドラマの放映前後によるシグナリング効果の
大河ドラマの放映前後によるシグナリング効果の変化
ドラマの放映前後によるシグナリング効果
・大河ドラマの放映による影響として，鎌倉市「北条時宗(2001)」と
金沢市「利家とまつ(2002)」についても適用
・世界遺産の登録に比べてシグナリング効果の変化は比較的小さい
・前スライドの考察より，両市はある程度知名度のあると思われる観
光地であることも影響していることも考えられる

10. 実験結果4
主な世界遺産の世界遺産登録前後によるシグナルの変化 a2 a
1
鎌倉市 金沢市
日光の
日光の社寺
厳島神社 琉球 白神山地 佐世保市
原爆ドーム 奈良市
原爆ドーム 屋久島 白川郷
0.81 0.90 1.04
0 0.93
1 1.07 1.19 1.34 1.46 1.61 1.74
2
ハウステンボスのオープンに伴うシグナリング効果の
ハウステンボスのオープンに伴うシグナリング効果の変化
効果
・ハウステンボスのシグナリング効果の変化は
世界遺産の登録よりも大きかった
・オープン前の知名度は低かったと思われる
・九州最大と言われるテーマパーク
ハウステンボス(Wikiより転載)

11. 結論
主な世界遺産の世界遺産登録前後によるシグナルの変化 a2 a
1
鎌倉市 金沢市
日光の
日光の社寺
厳島神社 琉球 白神山地 佐世保市
原爆ドーム 奈良市
原爆ドーム 屋久島 白川郷
0.81 0.90 1.04
0 0.93
1 1.07 1.19 1.34 1.46 1.61 1.74
2
・シグナリング効果によって観光客が来訪する観光モデル
を作成
・あるシグナリングが行われる以前の知名度の違いにより，
シグナリング効果の変化に差が生じると思われる
・種類の異なるシグナリングも比較可能
・観光戦略立案に向けてどのようなシグナリングを選択する
かの検討に利用可能