1. 第１特集 消毒 滅菌の疑問を解決！
・
Key Words
感染症 消毒薬の
・ ［新常識］
3
小野 和代
毒
カフの消
Kazuyo Ono
Q&A Part
ディスポーザブルカフ
東京医科歯科大学医学部
附属病院看護部
1986年岡山大学医学部附属看護学校卒業
後，岡山大学病院勤務を経て，1993年から
マスク ガウンの使用法
・ 現病院勤務．2001年に感染管理認定看護師
資格取得．2008年東京医科歯科大学大学院
医歯科学専攻修士課程医療管理政策学卒業
Q8
カフの消毒は
どうすればいいのでしょうか？
「血圧計のカフの適正管理」
は簡単なことのように思えて，実
践レベルにおいてはさまざまな課題があることを実感します．
感染防止に努め，対策について考える必要があります．
血圧計カフの汚染に対する認識の低 されます． な方法で行います．二重カフ，一重カ
さもありますが，処理しにくい材質・ カフには，二重カフ
（外袋と内袋〈空 フともに，汚染が少量の場合は，その
構造であることも大きな要因です．血 気袋〉と一重カフがあります．素材と
） つど10倍希釈程度の中性洗剤で清拭
圧計カフの感染リスクを示す研究から しては布製やナイロン製，プラスチッ したあと，しっかり拭き取り乾燥させ
も適切に処理することの必要性は明ら ク製やゴム製（内袋）などさまざまで ます．消毒薬の使用が可能な場合は，
かです．ディスポーザブルでないかぎ す．素材に適合する処理方法を選択す 指示された消毒薬（低レベル消毒薬ま
り，適切な処理を施し，患者間での交 る必要があり，基本的には製品の取り たはアルコール）による清拭を行いま
差感染防止に努めなければなりませ 扱い説明書によりメーカー推奨の処理 す．
ん． を行います．
カフの管理
カフの処理に関する カフの具体的処理方法
カフは使用や保管による劣化は避け
基本的知識
二重カフの場合は，内袋と外袋を分 られないため，適切なタイミングで交
血圧計のカフは傷のない正常な皮膚 解し別々に処理します
（図１） 処理後，
． 換し，安全に使用しなければなりませ
に触れる器材なので，スポルディング 組立てる際には，内袋が折れ曲がって ん．
の分類 ではノンクリティカル器材に
３）
いないかなど，収納状況を十分に確認 交換時期に関しては，カフは使用開
「
分類されます．したがって，低レベル の上使用しましょう． 始から約１年を目安に交換（内袋の寿
消毒または洗浄処理が一般的には適用 一重カフの場合は，図２に示すよう 命は加減圧30,000回が目安） ４）
」 などの
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2. メーカーの説明文もあります．しかし，
中性洗剤で洗浄後，すすぎ，
汚染具合はさまざまでありその処理に
乾燥させる よるカフへの影響を加味することや，
測定回数の把握が難しいことなどを考
えると，カフごとに交換時期を判断す
ることは現実的ではありません．施設
《洗浄不可》
で使用頻度や汚染具合などを考慮し
水拭き
て，交換の目安をあらかじめ決めてお
き管理することが適切でしょう．
ディスポーザブルカフの使用は交差
感染防止の面で非常に有効です（図
中性洗剤で洗浄後，すすぎ， ３）
．わが国においてもその需要は増
乾燥させる していることが実感されます．ディス
ポーザブルとして適切な運用をしまし
ょう．ディスポーザブルカフについて
の詳細はQ９を参照してください．
《洗浄可》
カフ用のカバー（外袋をさらにカバ
袋内の空気を完全に抜いてから
キャップを閉め，中性洗剤で洗 ーリング）などもあります．装着 脱着
・
浄後，すすぎ，乾燥させる のわずらわしさといった難点がありま
すが，使用場面を選択し，使用すると
効果的です．
図１ 二重カフの処理（例）
臨床現場で理想的なカフとは
臨床現場での使用において，カフの
・カフからチューブをはずし（①），洗浄専用のプラグ（フタ）を装
着し密閉する（②） 管理を徹底するためにはどのようなカ
・中性洗剤により洗浄，すすぎ，乾燥させる フがよいのかを考えてみましょう．カ
フを採用する際には，多角的に十分な
検討が望まれます．
② 〈処理，取り扱いが簡便であること〉
カフの処理として最も簡便な方法は
器械洗浄（洗濯）です．その際には，内
袋と外袋との分解 組立てが簡便であ
・
ること，もしくは一重カフで分解 組
・
①
立ての必要がないことなど，扱い上の
簡便さが求められます．
器械洗浄が可能な場合，さらに耐熱
性であり熱水消毒が可能であれば「高
＊中性洗剤による清拭，アルコールによる清拭消毒なども可能（メーカーの レベル消毒処理」が達成でき効果的で
処理指示に従う） す．
図２ 一重カフの処理（例） 少量の汚染の場合では，簡単な処理
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3. 図３ ディスポーザブルのカフ
（例）
（たとえば，微温湯での清拭，低レベ などでは長時間の装着もありえますの っていないのは，コスト面での問題が
ル消毒剤含有クロス，アルコール含有 で，カフの皮膚への影響に関するデー 大きいと考えます．
クロスなどでの清拭消毒等）で清浄化 タを確認し選択することや，使用時の リユースカフ（使い捨てでなく繰返
できる素材であることは大きなメリッ 観察を十分に行い異常の早期発見に努 し使用するカフ）も，再使用するには
トです．アルコール清拭が可能な素材 めることが重要です． 適切な処理が必要で，それにはある一
であれば「中レベル消毒処理」が達成で 〈測定結果の信頼性が高く安定してい 定の処理コストがかかること，またリ
きます． ること〉 ユースカフも消耗品であり，更新が必
〈適合性，汎用性にすぐれていること〉 一定の耐久性保証，カフサイズが豊 要であることを再認識しなければなり
各臨床現場では，複数メーカーのモ 富であるなど，信頼性の高い安定した ません．場面や使い方により，リユー
ニタが導入されていることもありま 測定結果が維持できることが大切で スカフ，ディスポーザブルカフのどち
す．複数メーカーのモニタとの適合性 す．医療現場でのモニタ類において， らの使用がトータルマネジメント的に
があり，汎用性にすぐれていることが 測定結果の正確性は絶対条件です．カ 有効であるのかを考えていく必要があ
求められます． フによる影響で測定結果に誤差が生じ ります．
患者は状態や状況に合わせて移動し るようなことがあってはなりません．
ます（たとえば，救急初療室から手術 カフの適切な処理における機能低下
室へなど）ので，その際には汎用性が がなく一定の耐久性が保証されるこ
あり，複数モニタに共通対応できるカ と，またカフのサイズが豊富であり，
引用 参考文献
・
フであれば「一患者一カフ」の管理がし 常に最適サイズのカフが選択できるこ
１）C de Gialluly, V Morange, E de Gialluly, J
やすくなり，交差感染防止に効果的で とが望まれます． Loulergue, N van der Mee, R Quentin :
Blood Pressure Cuff as a Potential Vector of
す． 〈コストパフォーマンスがよいこと〉 Pathogenic Microorganisms : A Prospective
Study in a Teaching Hospital. Infection
〈皮膚への影響がないこと〉 交差感染防止に配慮し，適切な処理 Control and Hospital Epidemiology, 27 (9) ,
長期間の使用においても皮膚への影 を簡便に実施するという視点で考えた 2006.
２）Walker N, Gupta R, Cheesbrough J :
響（皮膚障害やアレルギーなど）がない 場合「ディスポーザブルカフ」
の使用が Blood pressure cuffs ; friend or foe?. Journal
of Hospital Infection, 63 : 167-169, 2006.
ことが大切です．現時点でもラテック ベストであることに異論はありません ３）Rutala WA : APIC Guideline for selection
スフリー素材や皮膚障害に配慮し，開 （Q９参照）
．しかし，すべての場面で and use of disinfectants. Am J Infect
Control, 24 : 313-342, 1996.
発されたカフがあります．モニタ監視 「ディスポーザブルカフ」の使用とはな ４）日本光電取扱い説明書：カ
フYP-702T/703T
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4. ディスポーザブルのカフ（マンシェッ とは
ト）
どういった物なのでしょうか？
Q9
わが国においてもディスポーザブルカフはすでに使用されて 使用可であることが理想です．それが
います（p.○参照）
．今後，コスト面での課題，感染リスクの 可能であれば，
「一患者一カフ」の使用
問題と適切な処理の徹底などを総合的に判断した場合，ディ により交差感染のリスク回避ととも
スポーザブルカフが選択されていく場面は多いと考えます． に，コスト面の問題もかなり軽減でき
ます．
そのほかの適応としては，接触予防
「
血圧計のカフの使用では「単回使用 トが削減できる． 策」を必要とする疥癬，薬剤耐性菌や
で廃棄する」清浄化し再使用する」カ
「 「 ・比較的カフサイズが豊富であり，適 クロストリジウム ディフシル菌，ノ
・
バーリングなどで汚染を防止し再使用 切なサイズのカフが使用できる． ロウイルスなどが検出されている患者
する」といった方法があります．どの デメリット で環境を汚染する可能性が高い状況で
方法であっても，カフによる感染リス ・１セット当たりのコストが高い． ある場合も，ディスポーザブルカフの
クを十分に配慮し，適切に運用するこ ＊使い方いかんで，高コストは問題 選択が望まれます．
とが重要です． とならないこともある
（Q８参照）
ディスポーザブルカフの管理
ディスポーザブル駆血帯や聴診器の ・そのつどの廃棄によりゴミが増え
使用が配慮されているアメリカなどに る． ディスポーザブルカフは使用終了
おいては，血圧計のカフもディスポー 時，次に使いまわすことなく適切に廃
ディスポーザブルカフの適応
ザブル製品の使用が考慮されていま 棄します．また使用中はカフの破損が
す．わが国とは医療材料の流通現状の コストパフォーマンスを考え，現状 ないかなど，観察を密に行うことはリ
違いは否めませんが，考えるべきは， においては場面を限定した使用も考慮 ユースカフの使用時と同様です．異常
適切な処理がなされないまま使いまわ されます．たとえば救命救急センター がある場合は新しいカフと交換しま
しされている現状に対する対策です． などに搬送された患者で，外傷などに す．
メリット デメリットについて考える
・ より大量出血をみとめる場合，全身汚 ディスポーザブルカフの汚染が少量
ことが重要です． 染が著明な場合，皮膚症状などから感 の場合，清拭などで清浄化できる場合
染症を疑われるような場合などにおい は処理後に同一患者への使用は続行で
ディスポーザブルカフ使用の
ては，後々の処理を考慮しディスポー きると判断されますが，大量の汚染を
メリット デメリット
・
ザブルカフの使用が望ましいでしょ みとめる場合などでは完全な処理は不
メリット う． 可能です．
・
「一患者一カフ」の使用により交差感 そうした場合，患者はその後手術部 見かけ上処理ができたように思えて
染のリスクが回避できる． や入院病床へと移動しますので，最初 も，単回使用資材である以上，処理後
・再使用するための処理が不要であ に装着したカフがどの部位のモニタで の機能性が保証されませんので，適切
り，その分に費やすランニングコス あっても，面倒な操作なしでそのまま に廃棄し交換する必要があります．
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5. 感染予防のための
Q10
マスクやガウンの正しい使い方は？
アメリカ労働安全衛生局
（OSHA）
は，個人防護具
（PPE）「感
を
染性物質に対する防御のために職員によって着用される，特
殊な衣服や器具」
と定義しています．
マスクやガウンはPPEの１つです． し，確実に実践できるよう訓練してお スク（レスピレータ： N95微粒子用マ
適切にPPEを用い感染伝播を防止す きましょう． スクなど）があります．その使用目的
」
ることは，医療従事者と患者双方の安 や留意点を表１に示します．目的に合
マスク
全を確保するうえで，きわめて重要で わせてマスクを選択し，使用上の留意
す．どの用具を，どのタイミングで， 一般的に医療機関で使用されるマス 点を守り適切に使用しましょう．
どのような手順で使用するかを理解 クには「サージカルマスク」 「濾過マ
と サージカルマスクはベッドサイドの
表１ マスクの使用目的と留意点
サージカルマスク 濾過マスク
・着用者の呼気から排出される飛沫の飛散防止 ・結核菌などの感染性エアロゾル（飛沫核）の吸入防止
使用目的 ・血液や体液のしぶきが着用者の鼻腔 口腔粘膜へ付着す
・
ることの防止
・鼻，口，顎を覆うようにしっかりと広げる ・鼻，口，顎を覆う
・可変式の鼻部分を鼻梁にフィットさせる ・可変式の鼻部分を鼻梁の上にフィットさせる
・ひも/ゴムバンドで頭にしっかり固定し，フィットする
よう調節する
・ユーザーシールチェック＊１を使用ごとに行う
使用上の
留意点 ＊１ 両手でマスクを覆って息を吐き，
：
マスクの周囲からの息漏れがないか
を確認する
・はずす際は，汚染表面に触れないようヒモまたはゴム部
分を持ってはずし，すみやかに廃棄する
・材質（耐水性），防御能力（細菌濾過効率や圧力差など）， ・防御能力の保証された濾過マスクを何種類か準備する
耐久性，機能性，デザイン性，装着感，価格を総合的に ・フィットテスト＊２を行い，自分にフィットする濾過マス
製品選択
判断する クを選択する（種類，サイズ）
＊２ テストキットを用い顔面の密着性の適否を評価する
：
OSHA：Occupational Safety and Health Administration，アメリカ労働安全衛生局
PPE：personal protective equipment，個人防護具
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6. エプロン アイソレーションガウン プラスチックガウン
吸引，尿の廃棄処理 下部消化管内視鏡時，曝 広範囲の創部洗浄など，
など 露状況が予測しにくい場 液体の飛散が多いと予測
合など される場合
図４ エプロン，ガウンの用途に合わせた使い分け
みならず，汚染器材の処理などにおい 濾過マスク
（N95微粒子用マスク）は る場合はガウンを，汚染が体幹部分に
ては手袋やガウンと同時に，サージカ 汚染 破損しなければフィルターが機
・ 限定させる場合はエプロンを選択しま
ルマスクを使用します．目への飛散も 能するまで使用できます．型くずれし す．
考慮し，フェイスシールド付マスク
（ま ないよう，また十分乾燥させるように 素材は，綿製，不織布製，プラスチ
たは，サージカルマスク＋ゴーグル） 配慮した個別収納できるボックスや， ック製などがありますが，防水性を有
が適切でしょう． 紙袋などを使用し，適切に保管します． し，血液や体液が飛散しても透過しに
濾過マスクは，飛沫核の吸入防止が くいことが求められます
（図４）
．
ガウン（エプロン）
目的ですので，すき間がなく顔にしっ 使用上の留意点として，目的に合っ
かりとフィットした状態で使用しま ガウンやエプロンは，処置やケア中 たガウンやエプロンを選択すること
す．事前にフィットテストを行い，自 に衣服や肌が血液 体液 分泌物，排泄
・ ・ と，使用後のはずし方があげられます．
分に適合するマスクを確認し，装着方 物に接触することが予想されるときに 使用後はすみやかに，周囲への汚染を
法を訓練しておきます．また，使用の 使用します．また，予測される曝露状 拡大しないよう，また自分自身が汚染
たびにシールチェック（表１）を行い， 況（接触範囲，曝露量等）によってガウ を受けないよう，汚染面を中に封じ込
息漏れがないか，フィット状況を確認 ンやエプロンを使い分けます．汚染が めるようにはずします
（図５）
．
します． 広範囲で衣服全体や腕を覆う必要があ
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7. ａ：アイソレーションガウン
ひもをほどく 首と肩から脱ぎ 汚染した外側を内側へとくるくる巻いてゆく
下ろす 小さくまとめて（汚染面が中）廃棄する
文献１）より
ｂ：エプロン
首の後のヒモを切る 前あてを前に垂らす エプロンの裾部分の内側 腰の後のリボンを切る
に手を入れ，裾を持ち上 たたみ，まるめて一束に
げ，汚染面を中に折込む して廃棄する
図５ 防護具のはずし方
引用 参考文献
・
１）Guideline for Isolation Precautions :
Preventing Transmission of Infectious
Agents in Healthcare Settings 2007 http://
（
www.cdc.gov/ncidod/dhqp/gl_isolation.
html）
２）ASTM Ｆ2100-04：Standard Specification
for Performance of Materials Used in
Medical Face Mask.2004
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