『ソーシャルワーカーのための労働相談ハンドブック』
- 10. 01 労災保険の仕組みを知る
a. 概要
b. 労災保険を利用するメリット
c. 補償を受けるための手続き・条件
d. 労災保険を申請するリスク
02 問題を把握する
a. 心理的負荷の大きな出来事はあるか?
b. 労働時間はどのくらいか?
c. 業務外のストレスや個体側要因はあるか?
d. チェックリスト
03 その他の社会保険制度
a. 傷病手当金
b. 雇用保険
1110
01 労災保険の仕組みを知る
a. 概要
仕事が原因で傷病を負った場合、労災指定病院(労災保険指定医療機関)で無償で治療を受けること
ができます。労災指定病院以外の病院で治療を受けても治療費は返還されますが、労災指定病院では
治療を受ける際に代金を支払う必要が無くなるという違いがあります。
労災指定病院は下記の URL から検索することが可能です。
[URL]http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/rousai_iryoukensaku.html
※労災指定病院
労災保険は、雇われて働いている人なら誰もが加入している制度です。学生のアルバイトであっても
一日限りの派遣であっても、労災保険に加入させる義務が使用者の側に定められています。
しかし、こうした制度の利用に対して、企業は必ずしも積極的ではありません。後述するように、制
度利用を妨害する「ブラック企業」もあります。そこで、精神疾患を抱えたクライアントに制度を適
切に紹介し、制度利用を支援することが医療ソーシャルワーカーに求められるスキルだと言えます。
2.問題把握と対応
b. 労災保険を利用するメリット
労災保険を利用するメリットはいくつかありますが、ここでは、労災保険によって受けられる給付の
内容を紹介しておきます。
もっとも利用頻度が高いのが「療養補償給付」と「休業補償給付」で、前者は、労災指定病院(※)
で治療を無料で受けることができる制度です。病院の直接給付が基本ですが、労災指定病院以外の病
院に通う場合には、治療費が事後的に給付されます。後者は、病気で休んでいる間にトータルで平均
賃金の8割を受け取れる制度です。休職中だけではなく、会社を辞めてしまっていても、一定の給付
を受けることができます。
他にも、表に掲げたような給付を受けることができます。これらは、いずれも私傷病の場合に利用で
きる健康保険の傷病手当金よりも手厚い内容になっています。
表1 労災保険給付の内容
必要な療養かそれにかかった費用が給付される
休業 4 日目から、休業 1 日につき給付基礎日額の 8 割が支給される
症状固定後に残った障害の程度に応じて一時金や年金が支給される
被災者が死亡した場合、遺族に一時金や年金などが支給される
死亡した人の葬祭を行うときに葬祭料が支給される
給付の種類
療養(補償)給付
休業(補償)給付
障害(補償)給付
遺族(補償)給付
葬祭料・葬祭給付
給付の内容
- 11. 01 労災保険の仕組みを知る
a. 概要
b. 労災保険を利用するメリット
c. 補償を受けるための手続き・条件
d. 労災保険を申請するリスク
02 問題を把握する
a. 心理的負荷の大きな出来事はあるか?
b. 労働時間はどのくらいか?
c. 業務外のストレスや個体側要因はあるか?
d. チェックリスト
03 その他の社会保険制度
a. 傷病手当金
b. 雇用保険
1110
01 労災保険の仕組みを知る
a. 概要
仕事が原因で傷病を負った場合、労災指定病院(労災保険指定医療機関)で無償で治療を受けること
ができます。労災指定病院以外の病院で治療を受けても治療費は返還されますが、労災指定病院では
治療を受ける際に代金を支払う必要が無くなるという違いがあります。
労災指定病院は下記の URL から検索することが可能です。
[URL]http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/rousai/rousai_iryoukensaku.html
※労災指定病院
労災保険は、雇われて働いている人なら誰もが加入している制度です。学生のアルバイトであっても
一日限りの派遣であっても、労災保険に加入させる義務が使用者の側に定められています。
しかし、こうした制度の利用に対して、企業は必ずしも積極的ではありません。後述するように、制
度利用を妨害する「ブラック企業」もあります。そこで、精神疾患を抱えたクライアントに制度を適
切に紹介し、制度利用を支援することが医療ソーシャルワーカーに求められるスキルだと言えます。
2.問題把握と対応
b. 労災保険を利用するメリット
労災保険を利用するメリットはいくつかありますが、ここでは、労災保険によって受けられる給付の
内容を紹介しておきます。
もっとも利用頻度が高いのが「療養補償給付」と「休業補償給付」で、前者は、労災指定病院(※)
で治療を無料で受けることができる制度です。病院の直接給付が基本ですが、労災指定病院以外の病
院に通う場合には、治療費が事後的に給付されます。後者は、病気で休んでいる間にトータルで平均
賃金の8割を受け取れる制度です。休職中だけではなく、会社を辞めてしまっていても、一定の給付
を受けることができます。
他にも、表に掲げたような給付を受けることができます。これらは、いずれも私傷病の場合に利用で
きる健康保険の傷病手当金よりも手厚い内容になっています。
表1 労災保険給付の内容
必要な療養かそれにかかった費用が給付される
休業 4 日目から、休業 1 日につき給付基礎日額の 8 割が支給される
症状固定後に残った障害の程度に応じて一時金や年金が支給される
被災者が死亡した場合、遺族に一時金や年金などが支給される
死亡した人の葬祭を行うときに葬祭料が支給される
給付の種類
療養(補償)給付
休業(補償)給付
障害(補償)給付
遺族(補償)給付
葬祭料・葬祭給付
給付の内容
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02 問題を把握するために確認すること
適切なアドバイスをするために、労災かどうか判断されるに当たって何が重視されるのかを把握し、
それに沿って具体的な事実を確認するようにしましょう。「心理的負荷による精神障害の認定基準」が
厚生労働省のホームページからダウンロードできますので、こちらを参考にしてください(本ページ
に URL を掲載)。
「認定基準」によると、基本的には発病前の6ヶ月間に業務による強いストレスがあり、業務以外のス
トレスや本人の脆弱性が原因だと認められない場合は、うつ病を労災と認定することになっています。
業務による強いストレスは、「起きた出来事」と「労働時間」の二つの側面から評価されます。
2.問題把握と対応
a. 心理的負荷の大きな出来事はあるか?
認定基準にある「心理的負荷評価表」(※下記 URL を参照。次ページに一部抜粋)を見ると、具体的
な出来事が列挙され、その程度や出来事以後の状況によって「強」「中」「弱」の三段階で評価される
ようになっています。なお、「特別な出来事」といって、強姦や強制わいせつといったセクハラ被害に遭っ
たり、業務上の重大事故の加害者や被害者となってしまったりした場合には、出来事以後の状況によ
らず、業務上のストレスを「強」と判断することになっています。なお、「強」に該当する出来事がな
い場合でも、「中」に該当する出来事が複数あれば、業務上のストレスは「強」と評価されることがあ
ります。
このことを踏まえた相談援助の実践としては、「心理的負荷評価表」を手元に置き、ここに該当する事
実が無いかどうかをまずクライアントに確認しましょう。そして、その態様やアフターケアの状況な
どを聞き、記録しておきましょう。
c. 補償を受けるための手続き・条件
[ 請求書のダウンロード URL] http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken06/index.html
[ 様式記入例のダウンロード URL] http://www.rousai-ric.or.jp/tabid/70/Default.aspx
※手続き書類の入手先
申請書は労働基準監督署でもらえますし、厚生労働省のホームページでダウンロードすることもでき
ます。請求書の提出先は、基本的に職場を管轄する労働基準監督署です。労災指定病院で治療を受け
ている人が治療に関する請求書を出す場合のみ、その病院に提出します。記入例は財団法人「労災保
険情報センター」のホームページで閲覧することができます(文末に URL を記載)。事業主と、(労災
指定病院以外の病院で治療を受けた場合は)医師に記載事項の証明をもらった上で提出しましょう。
このように、労災の申請手続き自体はさほど難解ではありませんが、労災の認定率は決して高くあり
ません。ですので、認定の基準を把握し、あらかじめそれに沿って事実関係の確認をしておく必要が
あります(具体的な聞き取り項目は次章で紹介)。実際に申請する際には、労災問題に詳しい弁護士の
相談窓口を 3 章 4 節「労働相談窓口一覧」(43 ページ ) に掲載していますので、一度申請書の内容を確
認するよう勧めましょう。
d. 労災保険を申請するリスク
まず注意しておかないといけないのは、労災保険の申請は必ず会社に知られてしまうということです。
労災保険を申請するとはすなわち「私の病気は仕事が原因ではないかと思う」という意思表明にもな
るので、会社側が協力的でない場合も少なくありません。特にクライアントが在職中の場合には、違
法な報復を受ける可能性を考慮し、水面下で準備を進めながら万一に備えて労働トラブルの専門家と
連携を図りましょう。
申請に当たって障害になるのは、使用者が証明をしてくれない場合です。労災保険の申請書には、事
故時に自社の従業員であることなどを使用者が証明する欄があり、これにサインしてもらえない場合
があります。その場合にも、「事業主が証明してくれなかった」と一筆添えれば申請することが可能です。
心 理 的 負 荷 評 価 表 の 全 体 は 厚 生 労 働 省「精 神 障 害 の 労 災 認 定」
[http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040325-15.pdf] から見られます。
※心理的負荷評価表の入手先
- 13. 1312
02 問題を把握するために確認すること
適切なアドバイスをするために、労災かどうか判断されるに当たって何が重視されるのかを把握し、
それに沿って具体的な事実を確認するようにしましょう。「心理的負荷による精神障害の認定基準」が
厚生労働省のホームページからダウンロードできますので、こちらを参考にしてください(本ページ
に URL を掲載)。
「認定基準」によると、基本的には発病前の6ヶ月間に業務による強いストレスがあり、業務以外のス
トレスや本人の脆弱性が原因だと認められない場合は、うつ病を労災と認定することになっています。
業務による強いストレスは、「起きた出来事」と「労働時間」の二つの側面から評価されます。
2.問題把握と対応
a. 心理的負荷の大きな出来事はあるか?
認定基準にある「心理的負荷評価表」(※下記 URL を参照。次ページに一部抜粋)を見ると、具体的
な出来事が列挙され、その程度や出来事以後の状況によって「強」「中」「弱」の三段階で評価される
ようになっています。なお、「特別な出来事」といって、強姦や強制わいせつといったセクハラ被害に遭っ
たり、業務上の重大事故の加害者や被害者となってしまったりした場合には、出来事以後の状況によ
らず、業務上のストレスを「強」と判断することになっています。なお、「強」に該当する出来事がな
い場合でも、「中」に該当する出来事が複数あれば、業務上のストレスは「強」と評価されることがあ
ります。
このことを踏まえた相談援助の実践としては、「心理的負荷評価表」を手元に置き、ここに該当する事
実が無いかどうかをまずクライアントに確認しましょう。そして、その態様やアフターケアの状況な
どを聞き、記録しておきましょう。
c. 補償を受けるための手続き・条件
[ 請求書のダウンロード URL] http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken06/index.html
[ 様式記入例のダウンロード URL] http://www.rousai-ric.or.jp/tabid/70/Default.aspx
※手続き書類の入手先
申請書は労働基準監督署でもらえますし、厚生労働省のホームページでダウンロードすることもでき
ます。請求書の提出先は、基本的に職場を管轄する労働基準監督署です。労災指定病院で治療を受け
ている人が治療に関する請求書を出す場合のみ、その病院に提出します。記入例は財団法人「労災保
険情報センター」のホームページで閲覧することができます(文末に URL を記載)。事業主と、(労災
指定病院以外の病院で治療を受けた場合は)医師に記載事項の証明をもらった上で提出しましょう。
このように、労災の申請手続き自体はさほど難解ではありませんが、労災の認定率は決して高くあり
ません。ですので、認定の基準を把握し、あらかじめそれに沿って事実関係の確認をしておく必要が
あります(具体的な聞き取り項目は次章で紹介)。実際に申請する際には、労災問題に詳しい弁護士の
相談窓口を 3 章 4 節「労働相談窓口一覧」(43 ページ ) に掲載していますので、一度申請書の内容を確
認するよう勧めましょう。
d. 労災保険を申請するリスク
まず注意しておかないといけないのは、労災保険の申請は必ず会社に知られてしまうということです。
労災保険を申請するとはすなわち「私の病気は仕事が原因ではないかと思う」という意思表明にもな
るので、会社側が協力的でない場合も少なくありません。特にクライアントが在職中の場合には、違
法な報復を受ける可能性を考慮し、水面下で準備を進めながら万一に備えて労働トラブルの専門家と
連携を図りましょう。
申請に当たって障害になるのは、使用者が証明をしてくれない場合です。労災保険の申請書には、事
故時に自社の従業員であることなどを使用者が証明する欄があり、これにサインしてもらえない場合
があります。その場合にも、「事業主が証明してくれなかった」と一筆添えれば申請することが可能です。
心 理 的 負 荷 評 価 表 の 全 体 は 厚 生 労 働 省「精 神 障 害 の 労 災 認 定」
[http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040325-15.pdf] から見られます。
※心理的負荷評価表の入手先
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具体的出来事 心理的負荷の総合評価の視点
心理的負荷の強度を「弱」「中」「強」とする具体例
弱 中 強
退職を強要された
(ひどい)嫌がらせ、
いじめ、又は暴行
を受けた
セクシュアルハラ
スメントを受けた
・解雇又は退職強要の経過、強
要の程度、職場の人間関係等
・嫌がらせ、いじめ、暴行の内
容、程度等
・その継続する状況
・セクシュアルハラスメントの
内容、程度等
・その継続する状況
・会社の対応の有無及び内容、
改善の状況、職場の人間関係
等
[ 解説 ]
退職勧奨が行われたが、その方法、頻度等からして
又は「中」と評価
[「弱」になる例 ]
・複数の同僚等の発言により不快感を覚えた(客
観的には嫌がらせ、いじめとはいえないものも含
[「弱」になる例 ]
・「○○ちゃん」等のセクシュアルハラスメントに
当たる発言をされた場合
・職場内に水着姿の女性のポスター等を掲示され
た場合
[「中」になる例 ]
・上司の叱責の過程で業務指導の範囲を逸脱した発
言があったが、これが継続していない
・同僚等が結託して嫌がらせを行ったが、これが継
続していない
[「中」である例 ]
・胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラス
メントであっても、行為が継続しておらず、会社
が適切かつ迅速に対応し発病前に解決した場合
・身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハ
ラスメントであって、発言が継続していない場合
・身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハ
ラスメントであって、複数回行われたものの、会
社が適切かつ迅速に対応し発病前にそれが終了し
た場合
[「強」である例 ]
・退職の意思のないことを表明しているにもかかわ
らず、執拗に退職を求められた
・恐怖感を抱かせる方法を用いて退職勧奨された
・突然解雇の通告を受け、何ら理由が説明されるこ
となく、説明を求めても応じられず、撤回される
こともなかった
[「強」である例 ]
・部下に対する上司の言動が、業務指導の範囲を逸
脱しており、その中に人格や人間性を否定するよ
うな言動が含まれ、かつ、これが執拗に行われた
・同僚等による多人数が結託しての人格や人間性を
否定するような言動が執拗に行われた
・治療を要する程度の暴行を受けた
[「強」になる例 ]
・胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラス
メントであって、継続して行われた場合
・胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラス
メントであって、行為は継続していないが、会社
に相談しても適切な対応がなく、改善されなかっ
た又は会社への相談等の後に職場の人間関係が悪
化した場合
・身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハ
ラスメントであって、発言の中に人格を否定する
ようなものを含み、かつ継続してなされた場合
・身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハ
ラスメントであって、性的な発言が継続してなさ
れ、かつ会社がセクシュアルハラスメントがある
と把握していても適切な対応がなく、改善がなさ
れなかった場合
※「具体的出来 事」ごとの平均的な強度を、「心理的負荷の強度を『弱』『中』『強』とする具体例」欄の網掛けで表示しています。
強要とはいえない場合には、その方法等から「弱」
表2 心理的負荷評価表(一部)
- 15. 1514
具体的出来事 心理的負荷の総合評価の視点
心理的負荷の強度を「弱」「中」「強」とする具体例
弱 中 強
退職を強要された
(ひどい)嫌がらせ、
いじめ、又は暴行
を受けた
セクシュアルハラ
スメントを受けた
・解雇又は退職強要の経過、強
要の程度、職場の人間関係等
・嫌がらせ、いじめ、暴行の内
容、程度等
・その継続する状況
・セクシュアルハラスメントの
内容、程度等
・その継続する状況
・会社の対応の有無及び内容、
改善の状況、職場の人間関係
等
[ 解説 ]
退職勧奨が行われたが、その方法、頻度等からして
又は「中」と評価
[「弱」になる例 ]
・複数の同僚等の発言により不快感を覚えた(客
観的には嫌がらせ、いじめとはいえないものも含
[「弱」になる例 ]
・「○○ちゃん」等のセクシュアルハラスメントに
当たる発言をされた場合
・職場内に水着姿の女性のポスター等を掲示され
た場合
[「中」になる例 ]
・上司の叱責の過程で業務指導の範囲を逸脱した発
言があったが、これが継続していない
・同僚等が結託して嫌がらせを行ったが、これが継
続していない
[「中」である例 ]
・胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラス
メントであっても、行為が継続しておらず、会社
が適切かつ迅速に対応し発病前に解決した場合
・身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハ
ラスメントであって、発言が継続していない場合
・身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハ
ラスメントであって、複数回行われたものの、会
社が適切かつ迅速に対応し発病前にそれが終了し
た場合
[「強」である例 ]
・退職の意思のないことを表明しているにもかかわ
らず、執拗に退職を求められた
・恐怖感を抱かせる方法を用いて退職勧奨された
・突然解雇の通告を受け、何ら理由が説明されるこ
となく、説明を求めても応じられず、撤回される
こともなかった
[「強」である例 ]
・部下に対する上司の言動が、業務指導の範囲を逸
脱しており、その中に人格や人間性を否定するよ
うな言動が含まれ、かつ、これが執拗に行われた
・同僚等による多人数が結託しての人格や人間性を
否定するような言動が執拗に行われた
・治療を要する程度の暴行を受けた
[「強」になる例 ]
・胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラス
メントであって、継続して行われた場合
・胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラス
メントであって、行為は継続していないが、会社
に相談しても適切な対応がなく、改善されなかっ
た又は会社への相談等の後に職場の人間関係が悪
化した場合
・身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハ
ラスメントであって、発言の中に人格を否定する
ようなものを含み、かつ継続してなされた場合
・身体接触のない性的な発言のみのセクシュアルハ
ラスメントであって、性的な発言が継続してなさ
れ、かつ会社がセクシュアルハラスメントがある
と把握していても適切な対応がなく、改善がなさ
れなかった場合
※「具体的出来 事」ごとの平均的な強度を、「心理的負荷の強度を『弱』『中』『強』とする具体例」欄の網掛けで表示しています。
強要とはいえない場合には、その方法等から「弱」
表2 心理的負荷評価表(一部)
- 16. 1716
2.問題把握と対応
b. 労働時間はどのくらいか?
[ 出来事後に月 100 時間程度の残業 ]「中」→「強」
[ 出来事前に月 100 時間程度の残業 ] 出来事があってから約 10 日以内に発症した場合のみ、「中」→「強」
[ 前後に月 100 時間程度の残業 ]「弱」→「強」
業務上のストレスは、労働時間も考慮に入れられることになっています。残業時間が月に 160 時間を
超えるペースで行われていた場合、職場でどんな出来事があったかにかかわらず、業務上のストレス
は「強」と判断されます。また、労働時間が長い場合には、次のように「具体的な出来事」の評価を
上方修正することも定められています。
したがって、相談現場では、発症前に起きた出来事だけではなく、労働時間も聞き取ることが大切です。
その上で、セルフチェックで「強」と判断されるような場合には、労災申請を念頭に法律相談窓口に
連絡をとるようクライアントに勧めましょう。もちろん、セルフチェックでは「強」と判断されない
ような場合でも、労災として絶対に認められないというわけではありません。まずは適切な情報を提
供し、セルフチェックの結果が「強」でないことも踏まえて「申請したい」という本人の意思が確認
される場合には、法律相談窓口を紹介しましょう。特殊な事案でセルフチェックが難しい場合には、
特に法律家の意見を参考にする必要がありますので、やはり法律相談窓口を紹介するよう勧めるのが
無難です。MSW が間接的に相談することも珍しくありません。
加えて、連続した長時間労働は、それ自体が「具体的な出来事」として「心理的負荷評価表」に示さ
れています。以下の場合には業務上のストレスが「強」と判断されます。
・発病直前の2ヶ月間に平均120時間以上の残業
・発病直前の3ヶ月間に平均100時間以上の残業
・1ヶ月以上の連続勤務
d. チェックリスト
以上のことを踏まえて、クライアントの相談に乗る際には、次のことを確認しましょう。これは、労
災申請を身近なものにするための重要な手続きです。
[ 業務上のストレス ]
・初めて精神疾患が診断されたのはいつ・どの病院か?
・自覚症状が現れたのはいつか?
・発症前の半年間に心理的負荷評価表に該当する出来事はあったか?
・出来事に関する記録・証拠にはどのようなものがあるか?
・発症前半年間の労働時間は毎月どのくらいか?
・労働時間に関する記録・証拠にはどのようなものがあるか?
[ 業務外のストレス ]
・心理的負荷評価表に該当する出来事は無いか?
[ 個体側要因 ]
・既往歴は無いか?
・アルコール依存などの症状は無いか?
※チェックリスト
[URL] http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001z3zj.html
※「認定基準」のダウンロード先
c. 業務外のストレスや個体側要因はあるか?
既に示したように、労災認定の判断に当たっては、業務上のストレスだけではなく、業務外のストレ
スや「個体側要因」というものも検討されます。業務外のストレスについては、業務上のストレスと
同様に、「心理的負荷評価表」に沿って判断されます。「個体側要因」とは要するに精神疾患の既往歴
やアルコール依存状況などのことで、これらの事実が認められると、業務上のストレスが「強」であっ
ても、労災ではないと判断されることがあります。
- 17. 1716
2.問題把握と対応
b. 労働時間はどのくらいか?
[ 出来事後に月 100 時間程度の残業 ]「中」→「強」
[ 出来事前に月 100 時間程度の残業 ] 出来事があってから約 10 日以内に発症した場合のみ、「中」→「強」
[ 前後に月 100 時間程度の残業 ]「弱」→「強」
業務上のストレスは、労働時間も考慮に入れられることになっています。残業時間が月に 160 時間を
超えるペースで行われていた場合、職場でどんな出来事があったかにかかわらず、業務上のストレス
は「強」と判断されます。また、労働時間が長い場合には、次のように「具体的な出来事」の評価を
上方修正することも定められています。
したがって、相談現場では、発症前に起きた出来事だけではなく、労働時間も聞き取ることが大切です。
その上で、セルフチェックで「強」と判断されるような場合には、労災申請を念頭に法律相談窓口に
連絡をとるようクライアントに勧めましょう。もちろん、セルフチェックでは「強」と判断されない
ような場合でも、労災として絶対に認められないというわけではありません。まずは適切な情報を提
供し、セルフチェックの結果が「強」でないことも踏まえて「申請したい」という本人の意思が確認
される場合には、法律相談窓口を紹介しましょう。特殊な事案でセルフチェックが難しい場合には、
特に法律家の意見を参考にする必要がありますので、やはり法律相談窓口を紹介するよう勧めるのが
無難です。MSW が間接的に相談することも珍しくありません。
加えて、連続した長時間労働は、それ自体が「具体的な出来事」として「心理的負荷評価表」に示さ
れています。以下の場合には業務上のストレスが「強」と判断されます。
・発病直前の2ヶ月間に平均120時間以上の残業
・発病直前の3ヶ月間に平均100時間以上の残業
・1ヶ月以上の連続勤務
d. チェックリスト
以上のことを踏まえて、クライアントの相談に乗る際には、次のことを確認しましょう。これは、労
災申請を身近なものにするための重要な手続きです。
[ 業務上のストレス ]
・初めて精神疾患が診断されたのはいつ・どの病院か?
・自覚症状が現れたのはいつか?
・発症前の半年間に心理的負荷評価表に該当する出来事はあったか?
・出来事に関する記録・証拠にはどのようなものがあるか?
・発症前半年間の労働時間は毎月どのくらいか?
・労働時間に関する記録・証拠にはどのようなものがあるか?
[ 業務外のストレス ]
・心理的負荷評価表に該当する出来事は無いか?
[ 個体側要因 ]
・既往歴は無いか?
・アルコール依存などの症状は無いか?
※チェックリスト
[URL] http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001z3zj.html
※「認定基準」のダウンロード先
c. 業務外のストレスや個体側要因はあるか?
既に示したように、労災認定の判断に当たっては、業務上のストレスだけではなく、業務外のストレ
スや「個体側要因」というものも検討されます。業務外のストレスについては、業務上のストレスと
同様に、「心理的負荷評価表」に沿って判断されます。「個体側要因」とは要するに精神疾患の既往歴
やアルコール依存状況などのことで、これらの事実が認められると、業務上のストレスが「強」であっ
ても、労災ではないと判断されることがあります。
- 18. 1918
03 その他の社会保険制度
労災保険が使いづらいような場合でも、健康保険の傷病手当金や、雇用保険をきちんと活用することで、
病気によって働けない人を支えることができます。これらの制度についても最低限必要な知識と相談
すべき窓口を把握し、支援の幅を拡げましょう。
a. 傷病手当金
傷病手当金は健康保険制度の一つで、次のような条件を満たせば、クライアントは支給日から最長1年
6 ヶ月にわたって、仕事に就けない間は賃金の約 3 分の 2 を受け取ることができます。
・仕事に就くことができない
・連続する 3 日間を含み 4 日以上仕事に就けなかった
・休業期間中に給与の支払いがない
b. 雇用保険
疾病のために失職したような場合には、雇用保険を利用することができます。このとき、病気による
離職の場合には「特定理由離職者」に該当し、通常よりもよい条件で保険を利用することができます。
あまり一般には知られていないので、クライアントにこのことも伝えるようにしましょう。
条件の違いなど詳細は 2 章 2 節(30 ページ)を参照してください。
大内衆衛荏原病院 精神科医
精神科領域で医師が書く診断名が うつ病 であるこ
とはとても多い。また患者自身が自分の診断を う
つ病 と話すことも日常茶飯事である。( 医師の説明
によって患者が自分は うつ病 と認識していること
もあれば、患者の思い込みや自己流の解釈で うつ病
と認識していることもある ) では、 うつ病 は実際
にどれだけうつ病であるだろう。
従来、精神科医が言うところの典型的なうつ病とは
内因性のうつ病のことである。大雑把に言うと、外
的な要素に影響されにくい内的な要因から成るうつ
病という意味で、遺伝的素因が強く、抗うつ薬に反
応しやすい。こうしたうつ病は外的な影響を受けに
くいので、急増したり激減することはない。では増
えているとされる うつ病 とは何か。
1980 年代以降臨床の場に深く浸透していった DSM
や ICD といった 客観性 を重視したとされる ( 症状
の記述を主体とした ) 診断基準には うつ病 という
診断項目はない。あるのは うつ病エピソード とい
う項目である。
うつ病エピソード という診断 ( 名 ) はその原因を
問わない。極端な話をすれば、患者が病院やクリニッ
クを受診した際に①気分の落ち込み、あるいは②興
味や喜びの喪失に加え、睡眠障害、集中力の低下、
意欲の減退、食欲不振等々を訴えれば、 うつ病エピ
ソード と診断される。そしてそれが うつ病 と短
絡される。その原因に関わらずである。
うつ病 はうつ病ではない
うつ病 の診断を疑うこと
上記の流れで診断された うつ病 は従来の意味での
うつ病ではない。例えば過労に過労を重ねた人間が
疲れ果てて気分が沈みがちになり、終には寝られな
くなればそれも うつ病 、職場の対人関係の問題や
パワハラから楽しいと思えることがなくなり、仕事
に対する意欲もなくなって、食事が進まなくなれば
それも うつ病 というわけである。
大事なことは うつ病 の診断を一度疑ってみること。
その うつ病 と言われる状態に陥った原因は何か考
えてみること。その原因の必然的な結果として う
つ病 があるのなら、原因を取り除くことによって う
つ病 の状態は解除・改善される。そこに介入の糸
口がある。そしてその うつ病 はうつ病ではない。
うつ状態の原因に応じた対応を
うつ病 を うつ状態 と読み替えてみよう。所謂
うつ病もうつ病以外の うつ病 も追い込まれれば最
終的には うつ状態 になる。 うつ状態 は状態像
であって診断名ではないから、そこからまた考える
ことができる。
経済的に苦しくて行き詰った果てに うつ状態 となっ
た人がいれば、経済的な支援を取り付けよう。対人
関係が不安定で孤立してしまい結果 うつ状態 になっ
てしまっていたら、対人関係の再構築について共に
考えよう。これこそやっぱり典型的うつ病と考える
なら、薬物治療を考慮しよう。そうした実際的で臨
機応変な対応が支援者に求められている。
- 19. 1918
03 その他の社会保険制度
労災保険が使いづらいような場合でも、健康保険の傷病手当金や、雇用保険をきちんと活用することで、
病気によって働けない人を支えることができます。これらの制度についても最低限必要な知識と相談
すべき窓口を把握し、支援の幅を拡げましょう。
a. 傷病手当金
傷病手当金は健康保険制度の一つで、次のような条件を満たせば、クライアントは支給日から最長1年
6 ヶ月にわたって、仕事に就けない間は賃金の約 3 分の 2 を受け取ることができます。
・仕事に就くことができない
・連続する 3 日間を含み 4 日以上仕事に就けなかった
・休業期間中に給与の支払いがない
b. 雇用保険
疾病のために失職したような場合には、雇用保険を利用することができます。このとき、病気による
離職の場合には「特定理由離職者」に該当し、通常よりもよい条件で保険を利用することができます。
あまり一般には知られていないので、クライアントにこのことも伝えるようにしましょう。
条件の違いなど詳細は 2 章 2 節(30 ページ)を参照してください。
大内衆衛荏原病院 精神科医
精神科領域で医師が書く診断名が うつ病 であるこ
とはとても多い。また患者自身が自分の診断を う
つ病 と話すことも日常茶飯事である。( 医師の説明
によって患者が自分は うつ病 と認識していること
もあれば、患者の思い込みや自己流の解釈で うつ病
と認識していることもある ) では、 うつ病 は実際
にどれだけうつ病であるだろう。
従来、精神科医が言うところの典型的なうつ病とは
内因性のうつ病のことである。大雑把に言うと、外
的な要素に影響されにくい内的な要因から成るうつ
病という意味で、遺伝的素因が強く、抗うつ薬に反
応しやすい。こうしたうつ病は外的な影響を受けに
くいので、急増したり激減することはない。では増
えているとされる うつ病 とは何か。
1980 年代以降臨床の場に深く浸透していった DSM
や ICD といった 客観性 を重視したとされる ( 症状
の記述を主体とした ) 診断基準には うつ病 という
診断項目はない。あるのは うつ病エピソード とい
う項目である。
うつ病エピソード という診断 ( 名 ) はその原因を
問わない。極端な話をすれば、患者が病院やクリニッ
クを受診した際に①気分の落ち込み、あるいは②興
味や喜びの喪失に加え、睡眠障害、集中力の低下、
意欲の減退、食欲不振等々を訴えれば、 うつ病エピ
ソード と診断される。そしてそれが うつ病 と短
絡される。その原因に関わらずである。
うつ病 はうつ病ではない
うつ病 の診断を疑うこと
上記の流れで診断された うつ病 は従来の意味での
うつ病ではない。例えば過労に過労を重ねた人間が
疲れ果てて気分が沈みがちになり、終には寝られな
くなればそれも うつ病 、職場の対人関係の問題や
パワハラから楽しいと思えることがなくなり、仕事
に対する意欲もなくなって、食事が進まなくなれば
それも うつ病 というわけである。
大事なことは うつ病 の診断を一度疑ってみること。
その うつ病 と言われる状態に陥った原因は何か考
えてみること。その原因の必然的な結果として う
つ病 があるのなら、原因を取り除くことによって う
つ病 の状態は解除・改善される。そこに介入の糸
口がある。そしてその うつ病 はうつ病ではない。
うつ状態の原因に応じた対応を
うつ病 を うつ状態 と読み替えてみよう。所謂
うつ病もうつ病以外の うつ病 も追い込まれれば最
終的には うつ状態 になる。 うつ状態 は状態像
であって診断名ではないから、そこからまた考える
ことができる。
経済的に苦しくて行き詰った果てに うつ状態 となっ
た人がいれば、経済的な支援を取り付けよう。対人
関係が不安定で孤立してしまい結果 うつ状態 になっ
てしまっていたら、対人関係の再構築について共に
考えよう。これこそやっぱり典型的うつ病と考える
なら、薬物治療を考慮しよう。そうした実際的で臨
機応変な対応が支援者に求められている。
- 24. 01 問題を把握する
02 対応の方法
a. 残業代を請求する
b. その他の労働問題はないか?
c. 雇用保険を受給する
d. 住宅支援給付金と求職者支援制度を使おう
2524
01 問題を把握する
生活相談の窓口に訪れるクライエントの多くは、差し迫った生活課題を抱え、心身ともに消耗してい
ます。そのため、対応にあたっては、まずは各種の福祉制度や社会的資源につなぎ、当面の生活と心
身の安定を図り、そのうえで、労働問題を積み残さないよう対処していくということが求められます。
その方の抱えている課題に合わせて適切な支援制度の利用を促し、あるいは、相談窓口につないでい
くことが必要です。では、どのように課題を分別し、適切な対処法を選択していけば良いのでしょうか?
下に簡単なクライエントの状況ごとの聞き取り項目と対応をまとめたものを掲載しました。これは、
あくまでも聞き取り方法・対応方法の一例に過ぎず、また、すでに第1章でみた内容を省略していま
すが、前章と合わせてアセスメントに役立ててください。
2.問題把握と対応
表3 クライエントの状況ごとの聞き取り項目と対応
すでに仕事を辞めている
クライエントの状況 聞き取るべき項目 考えられる対応
現在、働いている
・仕事を辞めたタイミング
・仕事を辞めた理由
・労働条件
・労働問題の有無・職場の状況
※詳しくは 02 b.その他の労働問題へ
・労働条件
・労働問題の有無・職場の状況
※詳しくは 02 b.その他の労働問題へ
[ 失業中の生活を経済面から支える ]
02 a. 残業代請求 p.26
02 c. 雇用保険 p.30
02 d. 住宅支援給付金と求職者支援
制度 p.32
[ 前職での労働問題の解決を図る ]
02 b. その他の労働問題 p.28
2 章 01・02 労災 p.10 ∼
[ 次の就職へ向けて準備を進める ]
02 d. 求職者支援制度 p.33
[ 現職での労働問題の解決を図る ]
02 a. 残業代請求 p.26
02 b. その他の労働問題 p.28
2 章 01・02 労災 p.10 ∼
2 章 03 傷病手当 p.18
※本ハンドブックでは、基本的に雇われて働いている/働いていた方への支援を想定しています。
- 25. 01 問題を把握する
02 対応の方法
a. 残業代を請求する
b. その他の労働問題はないか?
c. 雇用保険を受給する
d. 住宅支援給付金と求職者支援制度を使おう
2524
01 問題を把握する
生活相談の窓口に訪れるクライエントの多くは、差し迫った生活課題を抱え、心身ともに消耗してい
ます。そのため、対応にあたっては、まずは各種の福祉制度や社会的資源につなぎ、当面の生活と心
身の安定を図り、そのうえで、労働問題を積み残さないよう対処していくということが求められます。
その方の抱えている課題に合わせて適切な支援制度の利用を促し、あるいは、相談窓口につないでい
くことが必要です。では、どのように課題を分別し、適切な対処法を選択していけば良いのでしょうか?
下に簡単なクライエントの状況ごとの聞き取り項目と対応をまとめたものを掲載しました。これは、
あくまでも聞き取り方法・対応方法の一例に過ぎず、また、すでに第1章でみた内容を省略していま
すが、前章と合わせてアセスメントに役立ててください。
2.問題把握と対応
表3 クライエントの状況ごとの聞き取り項目と対応
すでに仕事を辞めている
クライエントの状況 聞き取るべき項目 考えられる対応
現在、働いている
・仕事を辞めたタイミング
・仕事を辞めた理由
・労働条件
・労働問題の有無・職場の状況
※詳しくは 02 b.その他の労働問題へ
・労働条件
・労働問題の有無・職場の状況
※詳しくは 02 b.その他の労働問題へ
[ 失業中の生活を経済面から支える ]
02 a. 残業代請求 p.26
02 c. 雇用保険 p.30
02 d. 住宅支援給付金と求職者支援
制度 p.32
[ 前職での労働問題の解決を図る ]
02 b. その他の労働問題 p.28
2 章 01・02 労災 p.10 ∼
[ 次の就職へ向けて準備を進める ]
02 d. 求職者支援制度 p.33
[ 現職での労働問題の解決を図る ]
02 a. 残業代請求 p.26
02 b. その他の労働問題 p.28
2 章 01・02 労災 p.10 ∼
2 章 03 傷病手当 p.18
※本ハンドブックでは、基本的に雇われて働いている/働いていた方への支援を想定しています。
- 28. 2928
聞き取り項目
労働問題の聞き取り項目として以下のものを参考にしてください。ただし、本来業務である生活相談
のなかで当然尋ねるであろう項目 ( 年齢など ) は省略しています。
1 基本情報
・雇用形態…正社員/契約社員/派遣社員/パート・アルバイト/自営業
・雇用期間…無期雇用/有期雇用 ( 契約更新までの期間 )
・直接/間接雇用
・業種
・職種
・企業規模…従業員数で示す
・労働時間…残業を含む総実労働時間
・月収
・勤続期間
・離職時期、離職理由…離職されている方のみ
・労働組合の有無
2 労働問題
・契約と実態が違う
・パワー・ハラスメント
・暴言、暴行
・セクシュアル・ハラスメント
・いじめ
・賃金カット、雇用形態の変更、職種転換など労働条件の中途変更
・長時間労働
・有給休暇が取れない
b. その他の労働問題はないか?
クライエントが、残業代請求以外にも労働問題を抱えていた場合、どのように対処すればよいでしょ
うか?「就業中にケガをしたが、何の補償もしてもらえなかった」「長時間労働とパワーハラスメント
で精神疾患を患ってしまった」「突然、明日から来なくていいと解雇された」。このような問題は、適
切な労働問題の相談窓口を活用することで、解決することができます。
しかし、クライエントは差し迫った生活上の課題を解決したいという思いから相談窓口を訪れていま
すし、自分が経験した労働問題はとうてい解決できないと思っていることもしばしばです。ですから、
ここで、クライエントの主訴として現れない労働問題も掘り起こして、適切な機関につないでいくソー
シャルワーカーの役割が重要です。また、きちんと労働問題を把握していくことで、自尊心を傷つけ
られた若者が自信を取り戻し、「自分が悪いのではなかった」と元気を取り戻すことができるのだとい
うことは忘れてはなりません。
・退職勧奨を受けた
・中途解約・雇止め ( 有期雇用であって、契約を更新しない ) にあった
・解雇された
・辞めさせてくれない
・会社都合の休業
・違法行為を命じられた
・労災
・懲戒
・その他労働条件に不満
3 証拠の有無
・契約書
・給与明細
・就業規則
・労働時間の記録
・パワーハラスメント等の場合には録音やメモといった記録
労働相談窓口を活用する
ここで取り上げたような労働問題の解決には、第4章で紹介する 4 つの相談窓口――①労働基準監督
署、②労働局、③弁護士、④ユニオンが利用できます。それぞれの機関のメリット・デメリットを勘案し、
クライエントの経済的・精神的状況を踏まえて活用していきましょう。
利用できる解決方法
相談窓口 労働基準監督署 労働局 弁護士 ユニオン
対応できる労働問題
申告
労災申請
賃金遅配・不払
い、労災申請
あっせん
すべて
労働審判
訴訟
団体交渉
争議
すべて すべて
表4 相談窓口ごとの特徴
- 29. 2928
聞き取り項目
労働問題の聞き取り項目として以下のものを参考にしてください。ただし、本来業務である生活相談
のなかで当然尋ねるであろう項目 ( 年齢など ) は省略しています。
1 基本情報
・雇用形態…正社員/契約社員/派遣社員/パート・アルバイト/自営業
・雇用期間…無期雇用/有期雇用 ( 契約更新までの期間 )
・直接/間接雇用
・業種
・職種
・企業規模…従業員数で示す
・労働時間…残業を含む総実労働時間
・月収
・勤続期間
・離職時期、離職理由…離職されている方のみ
・労働組合の有無
2 労働問題
・契約と実態が違う
・パワー・ハラスメント
・暴言、暴行
・セクシュアル・ハラスメント
・いじめ
・賃金カット、雇用形態の変更、職種転換など労働条件の中途変更
・長時間労働
・有給休暇が取れない
b. その他の労働問題はないか?
クライエントが、残業代請求以外にも労働問題を抱えていた場合、どのように対処すればよいでしょ
うか?「就業中にケガをしたが、何の補償もしてもらえなかった」「長時間労働とパワーハラスメント
で精神疾患を患ってしまった」「突然、明日から来なくていいと解雇された」。このような問題は、適
切な労働問題の相談窓口を活用することで、解決することができます。
しかし、クライエントは差し迫った生活上の課題を解決したいという思いから相談窓口を訪れていま
すし、自分が経験した労働問題はとうてい解決できないと思っていることもしばしばです。ですから、
ここで、クライエントの主訴として現れない労働問題も掘り起こして、適切な機関につないでいくソー
シャルワーカーの役割が重要です。また、きちんと労働問題を把握していくことで、自尊心を傷つけ
られた若者が自信を取り戻し、「自分が悪いのではなかった」と元気を取り戻すことができるのだとい
うことは忘れてはなりません。
・退職勧奨を受けた
・中途解約・雇止め ( 有期雇用であって、契約を更新しない ) にあった
・解雇された
・辞めさせてくれない
・会社都合の休業
・違法行為を命じられた
・労災
・懲戒
・その他労働条件に不満
3 証拠の有無
・契約書
・給与明細
・就業規則
・労働時間の記録
・パワーハラスメント等の場合には録音やメモといった記録
労働相談窓口を活用する
ここで取り上げたような労働問題の解決には、第4章で紹介する 4 つの相談窓口――①労働基準監督
署、②労働局、③弁護士、④ユニオンが利用できます。それぞれの機関のメリット・デメリットを勘案し、
クライエントの経済的・精神的状況を踏まえて活用していきましょう。
利用できる解決方法
相談窓口 労働基準監督署 労働局 弁護士 ユニオン
対応できる労働問題
申告
労災申請
賃金遅配・不払
い、労災申請
あっせん
すべて
労働審判
訴訟
団体交渉
争議
すべて すべて
表4 相談窓口ごとの特徴
- 30. 3130
給付日数
雇用保険を受給できる日数は、年齢や障害の有無、被保険者期間、離職理由によって決まります。自
己都合退職の場合には [ i ] 一般受給資格者、解雇や会社都合退職の場合には [ ii ] 特定受給資格者・特
定理由離職者、障害者の場合には [ iii ] 就職困難者と区分されます。
c. 雇用保険を受給する
雇用保険は、労働者が会社を辞めてから次の仕事を探す間、各々の条件に応じて国からお金が給付さ
れる制度で、退職前の給料水準の 5 ∼ 8 割が給付されます。クライエントが失業直後であればぜひ利
用したいものです。
雇用保険の利用に関して最も重要なのは、週 20 時間以上、31 日以上働いていれば必ず被保険者にな
るということです。「雇用保険に加入していなかった」という方でも、辞めた後から 及的に加入する
こともできるので、給付資格があるかどうかを確認するようにしましょう。
また、雇用保険は給付を受けられる期間が決まっており、通常離職日から 1 年、障害者など就職困難
者は 1 年 2 ヶ月が受給期間です。受給期間がすぎると、給付される日数が残っていても、手当を受け
ることができなくなってしまうので、早めに手続きをすべきでしょう。
・自己都合退職:労働者側の都合により、労働者と会社が合意したうえで退職すること
・解雇:会社が一方的に労働者を辞めさせること
・会社都合退職:会社側の都合により、労働者と会社が合意したうえで退職すること
※離職理由の区分
よくあるトラブル
Q. 会社側に「うちは雇用保険に入っていない」と言われた
A. 雇用保険は一定要件を満たした労働者であれば事業者に加入させる義務があります。ハローワーク
に申告すれば辞めた後でも加入することができます。
Q. 自己都合退職で辞めるよう迫られている
A. すでにみたように、雇用保険は自己都合退職で辞めると受給まで 4 ヶ月ほどかかり、受給期間が短
くなってしまうこともあります。クライエントにとって大きな不利となるので、絶対に同意しない
よう説得すべきでしょう。
しつこい場合は、ユニオンなどへの相談を検討してください。
Q. 会社が離職票を発行してくれない
A. 離職票の発行は会社側の義務です。発行しない場合は、ハローワークに申告しましょう。
離職の日以前 1 年間に、被保険者期間が
6 ヵ月以上
3 ヶ月 なし
項目
表6のとおり
離職の日以前 2 年間に、被保険者期間が
12 ヵ月以上
表5 自己都合退職と会社都合退職の比較
[ ii ] 特定受給資格者・特定理由離職者
※正当な退職理由がある場合、解雇や退職
勧奨で辞めた場合
[ i ] 一般受給資格者
※正当な退職理由のない場合
表7のとおり
受給要件
受給制限期間
給付日数
65 歳未満
10年未満 10年以上20年未満 20年以上
90 日 120 日 150 日
表6 一般受給資格者の給付日数
年齢
加入期間
30 歳未満
年齢
1年未満 5年以上
10年未満
10年以上
20年未満
20年以上
30 歳以上
35 歳未満
表7 特定受給資格者・特定理由離職者の給付日数
加入期間
35 歳以上
45 歳未満
45 歳以上
60 歳未満
60 歳以上
65 歳未満
90 日
180 日
150 日
90 日 120 日
180 日
180 日
240 日
210 日
180 日
240 日
210 日
270 日
240 日
270 日
240 日
330 日
−
1年以上
5年未満
1年未満 1年以上
45 歳未満 150 日 300 日
表8 就職困難者の給付日数
年齢
加入期間
45 歳以上 65 歳未満 360 日
- 31. 3130
給付日数
雇用保険を受給できる日数は、年齢や障害の有無、被保険者期間、離職理由によって決まります。自
己都合退職の場合には [ i ] 一般受給資格者、解雇や会社都合退職の場合には [ ii ] 特定受給資格者・特
定理由離職者、障害者の場合には [ iii ] 就職困難者と区分されます。
c. 雇用保険を受給する
雇用保険は、労働者が会社を辞めてから次の仕事を探す間、各々の条件に応じて国からお金が給付さ
れる制度で、退職前の給料水準の 5 ∼ 8 割が給付されます。クライエントが失業直後であればぜひ利
用したいものです。
雇用保険の利用に関して最も重要なのは、週 20 時間以上、31 日以上働いていれば必ず被保険者にな
るということです。「雇用保険に加入していなかった」という方でも、辞めた後から 及的に加入する
こともできるので、給付資格があるかどうかを確認するようにしましょう。
また、雇用保険は給付を受けられる期間が決まっており、通常離職日から 1 年、障害者など就職困難
者は 1 年 2 ヶ月が受給期間です。受給期間がすぎると、給付される日数が残っていても、手当を受け
ることができなくなってしまうので、早めに手続きをすべきでしょう。
・自己都合退職:労働者側の都合により、労働者と会社が合意したうえで退職すること
・解雇:会社が一方的に労働者を辞めさせること
・会社都合退職:会社側の都合により、労働者と会社が合意したうえで退職すること
※離職理由の区分
よくあるトラブル
Q. 会社側に「うちは雇用保険に入っていない」と言われた
A. 雇用保険は一定要件を満たした労働者であれば事業者に加入させる義務があります。ハローワーク
に申告すれば辞めた後でも加入することができます。
Q. 自己都合退職で辞めるよう迫られている
A. すでにみたように、雇用保険は自己都合退職で辞めると受給まで 4 ヶ月ほどかかり、受給期間が短
くなってしまうこともあります。クライエントにとって大きな不利となるので、絶対に同意しない
よう説得すべきでしょう。
しつこい場合は、ユニオンなどへの相談を検討してください。
Q. 会社が離職票を発行してくれない
A. 離職票の発行は会社側の義務です。発行しない場合は、ハローワークに申告しましょう。
離職の日以前 1 年間に、被保険者期間が
6 ヵ月以上
3 ヶ月 なし
項目
表6のとおり
離職の日以前 2 年間に、被保険者期間が
12 ヵ月以上
表5 自己都合退職と会社都合退職の比較
[ ii ] 特定受給資格者・特定理由離職者
※正当な退職理由がある場合、解雇や退職
勧奨で辞めた場合
[ i ] 一般受給資格者
※正当な退職理由のない場合
表7のとおり
受給要件
受給制限期間
給付日数
65 歳未満
10年未満 10年以上20年未満 20年以上
90 日 120 日 150 日
表6 一般受給資格者の給付日数
年齢
加入期間
30 歳未満
年齢
1年未満 5年以上
10年未満
10年以上
20年未満
20年以上
30 歳以上
35 歳未満
表7 特定受給資格者・特定理由離職者の給付日数
加入期間
35 歳以上
45 歳未満
45 歳以上
60 歳未満
60 歳以上
65 歳未満
90 日
180 日
150 日
90 日 120 日
180 日
180 日
240 日
210 日
180 日
240 日
210 日
270 日
240 日
270 日
240 日
330 日
−
1年以上
5年未満
1年未満 1年以上
45 歳未満 150 日 300 日
表8 就職困難者の給付日数
年齢
加入期間
45 歳以上 65 歳未満 360 日