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大学生および大学院生の
研究時間とメンタルヘルス
〇小野田 淳人1, 4、有馬 陽介2, 4、西村 亮祐3, 4
1 名古屋大学医学部 学振特別研究員PD
2 島根大学医学部 助教
3 徳島大学大学院医科学教育部 学振特別研究員DC
4 生化学若い研究者の会 キュベット委員会
1
背景:大学の研究室に配属された学生のメンタルヘルス
大学院生のメンタルヘルスが危機的状況に
2018年6月
2
背景:大学の研究室に配属された学生のメンタルヘルス
大学院生のメンタルヘルスが危機的状況に
▶ 大学院生の 約4割 が研究の過程で
抑うつ症 や 不安障害 を抱えた経験を持つ
▶ これは一般の人の 約6倍 の発症率
Evans et al., Nat biotech. 2018
2018年6月
3
背景:大学の研究室に配属された学生のメンタルヘルス
大学院生のメンタルヘルスが危機的状況に
▶ 大学院生の 約4割 が研究の過程で
抑うつ症 や 不安障害 を抱えた経験を持つ
▶ これは一般の人の 約6倍 の発症率
Evans et al., Nat biotech. 2018
2018年6月
学生の研究活動と健康状態を把握し、
疾病の発症を未然に防ぐことが大切
目的:
大学生及び大学院生の研究時間と健康状態、
それら管理意識についての実態を調査
4
手法:調査規模と質問事項
1. 学年と所属
2. 月間研究時間と適正感
3. 月間休日数と満足度
4. 1日の睡眠時間と満足度
5. 研究時間の管理形態
6. 教員及び所属機関における研究時間の把握の有無
7. 研究活動に起因する強いストレスや不安の有無
8. 研究活動によって生じたストレスや不安に伴う疾患の有無
9. ストレスや不安に関する相談相手の有無とその種類
10. 所属機関における健康診断とストレスチェックの受診
11. 所属機関による研究時間と健康状態の管理の必要性
調査時期:2018年9月
調査対象:生命科学や健康科学を専門とする全国の
学部生 13 名、修士課程 31 名、博士課程 17 名、合計 61 名
5
結果:1カ月あたりの研究時間
38%
0%
8%
8%
23%
0%
0%
23%
0% 10% 20% 30% 40%
~180
180~200
200~220
220~240
240~260
260~280
280~300
300~
月間研究時間 [時間] 学部3年生・4年生
労働基準法
ブラック企業
厚労省
過労死
ライン
労働基準法
+
時間外労働上限
平均 ± 標準偏差:219 ± 88
参考:
「研究が一般的な労働と同程度の負荷であると仮定すると、
その研究時間がどの程度の労働時間に相当するのか」を
示している
6
結果:1カ月あたりの研究時間
13%
0%
19%
10%
10%
16%
3%
29%
0% 10% 20% 30% 40%
~180
180~200
200~220
220~240
240~260
260~280
280~300
300~
38%
0%
8%
8%
23%
0%
0%
23%
0% 10% 20% 30% 40%
~180
180~200
200~220
220~240
240~260
260~280
280~300
300~
月間研究時間 [時間] 修士課程学部3年生・4年生
労働基準法
ブラック企業
労働基準法
+
時間外労働上限
平均 ± 標準偏差:219 ± 88 平均 ± 標準偏差:249 ± 83
厚労省
過労死
ライン
参考:
「研究が一般的な労働と同程度の負荷であると仮定すると、
その研究時間がどの程度の労働時間に相当するのか」を
示している
7
結果:1カ月あたりの研究時間
0%
18%
12%
0%
12%
0%
0%
59%
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60%
~180
180~200
200~220
220~240
240~260
260~280
280~300
300~
13%
0%
19%
10%
10%
16%
3%
29%
0% 10% 20% 30% 40%
~180
180~200
200~220
220~240
240~260
260~280
280~300
300~
38%
0%
8%
8%
23%
0%
0%
23%
0% 10% 20% 30% 40%
~180
180~200
200~220
220~240
240~260
260~280
280~300
300~
労働基準法
ブラック企業
労働基準法
+
時間外労働上限
月間研究時間 [時間] 博士課程修士課程学部3年生・4年生
平均 ± 標準偏差:219 ± 88 平均 ± 標準偏差:249 ± 83 平均 ± 標準偏差:285 ± 92
厚労省
過労死
ライン
▶ 各立場で、多くの学生が
長時間研究に従事していた
▶ 立場が上がるほどに
研究時間が長くなる傾向
参考:
「研究が一般的な労働と同程度の負荷であると仮定すると、
その研究時間がどの程度の労働時間に相当するのか」を
示している
8
結果:1カ月あたりの研究時間
0%
18%
12%
0%
12%
0%
0%
59%
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60%
~180
180~200
200~220
220~240
240~260
260~280
280~300
300~
13%
0%
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10%
10%
16%
3%
29%
0% 10% 20% 30% 40%
~180
180~200
200~220
220~240
240~260
260~280
280~300
300~
38%
0%
8%
8%
23%
0%
0%
23%
0% 10% 20% 30% 40%
~180
180~200
200~220
220~240
240~260
260~280
280~300
300~
労働基準法
ブラック企業
労働基準法
+
時間外労働上限
月間研究時間 [時間] 博士課程修士課程学部3年生・4年生
研究時間の管理形態
定時制
5%
フレックス・
コアタイム制
52%
個人の裁量
43%
256 258 253
0
100
200
300
400
定時制 フレックス・
コアタイム制
個人の
裁量
管理形態別研究時間[時間]
平均 ± 標準偏差:219 ± 88 平均 ± 標準偏差:249 ± 83 平均 ± 標準偏差:285 ± 92
n.s.
厚労省
過労死
ライン
▶ 各立場で、多くの学生が
長時間研究に従事していた
▶ 立場が上がるほどに
研究時間が長くなる傾向
252 249
298
0
100
200
300
400
9
結果:1カ月あたりの研究時間
0%
18%
12%
0%
12%
0%
0%
59%
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60%
~180
180~200
200~220
220~240
240~260
260~280
280~300
300~
13%
0%
19%
10%
10%
16%
3%
29%
0% 10% 20% 30% 40%
~180
180~200
200~220
220~240
240~260
260~280
280~300
300~
38%
0%
8%
8%
23%
0%
0%
23%
0% 10% 20% 30% 40%
~180
180~200
200~220
220~240
240~260
260~280
280~300
300~
労働基準法
ブラック企業
労働基準法
+
時間外労働上限
月間研究時間 [時間] 博士課程修士課程学部3年生・4年生
教員による研究時間の把握
不明
13%
把握している
63%
把握していない
24%
把握有 把握無 不明
把握の有無別研究時間
▶ 各立場で、多くの学生が
長時間研究に従事していた
▶ 立場が上がるほどに
研究時間が長くなる傾向
▶ 研究時間の長さに
管理形態・教員の把握の有無は
関係がなかった
[時間]
平均 ± 標準偏差:219 ± 88 平均 ± 標準偏差:249 ± 83 平均 ± 標準偏差:285 ± 92
n.s.
厚労省
過労死
ライン
223
258 258
315
266
0
100
200
300
400
1 2 3 4 5
10
結果:月間研究時間と1カ月当たりの休日数
38%
17%
25%
19%
23%
33%
6%
40%
33%
19%
3%
8%
19%
17%
0% 20% 40% 60% 80% 100%
博士
修士
学部
満足 やや満足 どちらともいえない やや不満足 不満
0
2
4
6
8
10
12
0 100 200 300 400
0
2
4
6
8
10
12
0 100 200 300 400
0
2
4
6
8
10
12
0 100 200 300 400
月間休日数[日]
月間研究時間 [時間]
博士課程修士課程学部3年生・4年生
月間研究時間 [時間] 月間研究時間 [時間]
平均 ± 標準偏差:4.8 ± 2.8平均 ± 標準偏差:5.8 ± 2.6平均 ± 標準偏差:5.7 ± 2.9
y = 0.0021x + 5.2
相関係数 = 0.07
p値 = 0.82
y = -0.016x + 9.85
相関係数 = -0.52
p値 = 0.048
y = -0.030x + 13.9
相関係数 = -0.75
p値 = 0.0013
月間休日数に対する満足度・不満足度
足
満足
やや
満足
どちらとも
いえない
月間休日数の満足度別研究時間
やや
不満足
不満足
n.s.
博士課程修士課程学部3年生・4年生
[時間]
11
結果:月間研究時間と1日当たりの睡眠時間
31%
27%
31%
25%
17%
23%
13%
20%
15%
25%
23%
31%
6%
13%
0% 20% 40% 60% 80% 100%
博士
修士
学部
満足 やや満足 どちらともいえない やや不満足 不満
1日当たりの睡眠時間に対する満足度・不満足度
229
258
291
243
338
0
100
200
300
400
1 2 3 4 5
満足
やや
満足
どちらとも
いえない
睡眠時間の満足度別研究時間
0
2
4
6
8
10
0 100 200 300 400
0
2
4
6
8
10
0 100 200 300 400
0
2
4
6
8
10
0 100 200 300 400
1日の睡眠時間[時間]
月間研究時間 [時間] 月間研究時間 [時間] 月間研究時間 [時間]
平均 ± 標準偏差:6.1 ± 1.4平均 ± 標準偏差:6.3 ± 1.2平均 ± 標準偏差:6.9 ± 1.1
y = 0.0040x + 6.8
相関係数 = 0.24
p値 = 0.392
y = 0.00020x + 6.19
相関係数 = 0.26
p値 = 0.352
y = -0.013x + 10.1
相関係数 = -0.59
p値 = 0.020
やや
不満足
不満足
足
n.s.
博士課程修士課程学部3年生・4年生
[時間]
12
結果:月間研究時間と1日当たりの睡眠時間
▶ 修士課程において研究時間の長さと休日数に、
博士課程において研究時間の長さと休日数ならびに睡眠時間の間に
負の相関性が認められた
大学院生は、研究時間を捻出するために、
休日や睡眠時間を削っている可能性が示唆される
▶ 学部の場合、受講する講義も多いためか、
研究時間と睡眠時間・休日数は単純には相関していなかった
▶ 休日数や睡眠時間に対する満足度・不満足度の
立場ごとの違いはほとんど見られなかった
唯一、休日数の不満足度が、立場が上がるほどに上昇する傾向にあった
▶ 休日数や睡眠時間の満足度(不満足度)は、
研究時間の長さに伴って低下(上昇)する傾向がみられたが、
各満足度・不満足度間における研究時間の違いに
統計学的有意性は認められなかった(標本数の不足に基づく可能性が高い)
13
結果:研究活動によって生じたストレスや不安に伴う疾患
研究活動によって生じた
ストレスや不安が原因となって、
疾患を発症した経験があるか?
「ない」
56人
92%
「ある」
5人
8%
▶ 先行研究では大学院生の約4割が
抑うつ症や不安症をかかえるとあったが、
本調査では1割程度であった
14
結果:研究活動によって生じたストレスや不安に伴う疾患
研究活動によって生じた
ストレスや不安が原因となって、
疾患を発症した経験があるか?
「ない」
56人
92%
「ある」
5人
8% 修士課程学生(31名中3名:9.7%)
月間研究時間 疾患
283時間 抑うつ症、不眠症、歯ぎしり
309時間 抑うつ症
360時間 風邪
博士課程学生(17名中2名:11.8%)
月間研究時間 疾患
394時間 抑うつ症、不眠症、歯ぎしり
400時間 不眠症、偏頭痛、不整脈、吐き気
学部3・4年生(13名中0名:0%)
月間研究時間 疾患
該当なし 該当なし
※厚労省が、過労死のリスクが生じ始めると警鐘を鳴らす労働時間は
月260時間以上
▶ 先行研究では大学院生の約4割が
抑うつ症や不安症をかかえるとあったが、
本調査では1割程度であった
▶ 疾患を訴えた者は、調査対象の中でも
特に研究時間の長い者であった
15
結果:研究に起因するストレスや不安と健康面に対する意識調査
88%
70%
46%
6%
27%
38%
6%
3%
15%
0% 20% 40% 60% 80% 100%
博士
修士
学部
1ある 2ない 3わからない感じている 感じていない わからない
研究による強いストレスや不安を感じているか
▶ 多くの学生が、疾患を自覚していないものの、
メンタルヘルスへの潜在的なリスクを
抱えている状況にあった
283
212
297
0
100
200
300
400
感じている 感じていない わからない
ストレスや不安の有無別研究時間
n=41 n=14 n=4
結果:研究に起因するストレスや不安と健康面に対する意識調査
88%
70%
46%
6%
27%
38%
6%
3%
15%
0% 20% 40% 60% 80% 100%
博士
修士
学部
1ある 2ない 3わからない感じている 感じていない わからない
研究による強いストレスや不安を感じているか
▶ 多くの学生が、疾患を自覚していないものの、
メンタルヘルスへの潜在的なリスクを
抱えている状況にあった
▶ 強いストレスや不安を感じている者は、
感じていない者に対して、
研究時間が有意に長かった
p=0.014*
n.s.
16
[時間]
283
212
297
0
100
200
300
400
感じている 感じていない わからない
ストレスや不安の有無別研究時間
n=41 n=14 n=4
結果:研究に起因するストレスや不安と健康面に対する意識調査
88%
70%
46%
6%
27%
38%
6%
3%
15%
0% 20% 40% 60% 80% 100%
博士
修士
学部
1ある 2ない 3わからない感じている 感じていない わからない
研究による強いストレスや不安を感じているか
ストレスや不安に関する相談相手
(複数回答可)
14
21
29
13
1 5
0
10
20
30
上司 研究室
仲間
友人 家族 その他 いない
[回答数]
▶ 多くの学生が、疾患を自覚していないものの、
メンタルヘルスへの潜在的なリスクを
抱えている状況にあった
▶ 強いストレスや不安を感じている者は、
感じていない者に対して、
研究時間が有意に長かった
▶ 相談相手の多くは、友人や研究室仲間といった
同世代の者が多かった
p=0.014*
n.s.
17
[時間]
所属機関でストレスチェックを受けているか
19%
10%
8%
13%
10%
8%
69%
79%
85%
0% 20% 40% 60% 80% 100%
博士
修士
学部
1受けている 2受けていない 3行われていない受けている 受けていない 行われていない
18
結果:研究に起因するストレスや不安と健康面に対する意識調査
88%
70%
46%
6%
27%
38%
6%
3%
15%
0% 20% 40% 60% 80% 100%
博士
修士
学部
1ある 2ない 3わからない
研究による強いストレスや不安を感じているか
感じている 感じていない わからない
88%
90%
77%
13%
7%
8%
3%
15%
0% 20% 40% 60% 80% 100%
博士
修士
学部
1受けている 2受けていない 3行われていない
所属機関で健康診断を受けているか
受けている 受けていない 行われていない
▶ 多くの学生が、疾患を自覚していないものの、
メンタルヘルスへの潜在的なリスクを
抱えている状況にあった
▶ しかし、ストレスチェックを受けている割合は
健康診断の受診率に比べて低い
▶ ストレスチェックは、
労働者の精神的な健康状態を測るものとして
導入されたためか、
学生には広く浸透していないものと考えられる
19
結果:所属機関による研究時間と健康状態の管理の必要性
81%
72%
92%
19%
10%
8%
17%
0% 20% 40% 60% 80% 100%
博士
修士
学部
1管理すべき 2管理すべきでない 3わからない
所属機関が研究時間・健康状態を管理すべきか
管理すべき 管理すべきでない わからない
▶ 自分のやりたい研究を
時間に束縛されずにしたいので
強制はされたくないから
▶ 研究とは知的生産であり、
研究時間ではなく成果に基づいて
評価されるべきであるから
▶ 研究時間や健康管理も含めて
研究者の裁量であるため
▶ 自分自身で研究時間を管理しても
適切な管理ができず、
結果的に生産性の低下に繋がるから
▶ 精神的に負担が大きい時、
自分が無理をしていることに
気づけないから
▶ 自制を効かせられない人も多く、
外部からの強制力は少なからず必要だから
管理すべき 管理すべきでない
20
結果:所属機関による研究時間と健康状態の管理の必要性
81%
72%
92%
19%
10%
8%
17%
0% 20% 40% 60% 80% 100%
博士
修士
学部
1管理すべき 2管理すべきでない 3わからない
所属機関が研究時間・健康状態を管理すべきか
管理すべき 管理すべきでない わからない
▶ 自分のやりたい研究を
時間に束縛されずにしたいので
強制はされたくないから
▶ 研究とは知的生産であり、
研究時間ではなく成果に基づいて
評価されるべきであるから
▶ 研究時間や健康管理も含めて
研究者の裁量であるため
▶ 自分自身で研究時間を管理しても
適切な管理ができず、
結果的に生産性の低下に繋がるから
▶ 精神的に負担が大きい時、
自分が無理をしていることに
気づけないから
▶ 自制を効かせられない人も多く、
外部からの強制力は少なからず必要だから
管理すべき 管理すべきでない
▶ 大半の学生が、
「管理すべき」と答えた
▶ その狙いには、
管理することによる
生産性の向上や、
制御することの困難な
メンタルヘルスに関わる
疾患の予防があった
21
調査のまとめと考察・結論
 限定的な調査ではあるものの、本研究により、大学生及び大学院生の
研究時間と健康状態、それら管理意識についての実態が明らかになった
 大学や研究室運営において、大学生や大学院生が “より健康的に” 学問・研究に
励むことのできる環境を整えることが大切であり、本成果がその参考になると期待する
▶過度の不安とストレスにより健康障害が生じる前に、
メンタルヘルスについて気軽に相談できる環境や
研究時間を適切に管理できる体制を整えることが、
これからの研究室・大学には必要になると考えられる
 身体的な健康診断の受診率は高かったが、
メンタルヘルスについては軽視されていた
 研究時間と健康の適切な管理を
多くの学生が望んでいた
▶研究活動は労働に酷似するため、過度の研究活動は
過重労働と同様にメンタルヘルスへ潜在的な悪影響を
引き起こすと懸念される
 長時間の研究に伴い、
半数近くの学部生、大多数の大学院生が
強いストレスや不安を感じていた
 極端に長い時間、研究に携わる一部の学生は、
研究活動に起因する疾患の発症を訴えていた
 多くの学生が長時間研究に勤しんでいた
 研究時間を捻出するために、
休日や睡眠を削っている可能性が示された
▶労働基準法等のルールが存在しないためか、
長時間研究をする・させる環境が
常態化していると考えられる
22
調査のまとめと考察・結論
 限定的な調査ではあるものの、本研究により、大学生及び大学院生の
研究時間と健康状態、それら管理意識についての実態が明らかになった
 大学や研究室運営において、大学生や大学院生が “より健康的に” 学問・研究に
励むことのできる環境を整えることが大切であり、本成果がその参考になると期待する
▶過度の不安とストレスにより健康障害が生じる前に、
メンタルヘルスについて気軽に相談できる環境や
研究時間を適切に管理できる体制を整えることが、
これからの研究室・大学には必要になると考えられる
 身体的な健康診断の受診率は高かったが、
メンタルヘルスについては軽視されていた
 研究時間と健康の適切な管理を
多くの学生が望んでいた
▶研究活動は労働に酷似するため、過度の研究活動は
過重労働と同様にメンタルヘルスへ潜在的な悪影響を
引き起こすと懸念される
 長時間の研究に伴い、
半数近くの学部生、大多数の大学院生が
強いストレスや不安を感じていた
 極端に長い時間、研究に携わる一部の学生は、
研究活動に起因する疾患の発症を訴えていた
 多くの学生が長時間研究に勤しんでいた
 研究時間を捻出するために、
休日や睡眠を削っている可能性が示された
▶労働基準法等のルールが存在しないためか、
長時間研究をする・させる環境が
常態化していると考えられる
23
調査のまとめと考察・結論
 限定的な調査ではあるものの、本研究により、大学生及び大学院生の
研究時間と健康状態、それら管理意識についての実態が明らかになった
 大学や研究室運営において、大学生や大学院生が “より健康的に” 学問・研究に
励むことのできる環境を整えることが大切であり、本成果がその参考になると期待する
▶過度の不安とストレスにより健康障害が生じる前に、
メンタルヘルスについて気軽に相談できる環境や
研究時間を適切に管理できる体制を整えることが、
これからの研究室・大学には必要になると考えられる
 身体的な健康診断の受診率は高かったが、
メンタルヘルスについては軽視されていた
 研究時間と健康の適切な管理を
多くの学生が望んでいた
▶研究活動は労働に酷似するため、過度の研究活動は
過重労働と同様にメンタルヘルスへ潜在的な悪影響を
引き起こすと懸念される
 長時間の研究に伴い、
半数近くの学部生、大多数の大学院生が
強いストレスや不安を感じていた
 極端に長い時間、研究に携わる一部の学生は、
研究活動に起因する疾患の発症を訴えていた
 多くの学生が長時間研究に勤しんでいた
 研究時間を捻出するために、
休日や睡眠を削っている可能性が示された
▶労働基準法等のルールが存在しないためか、
長時間研究をする・させる環境が
常態化していると考えられる
24
本調査の限界と課題
▶研究に従事している時間の内、
強制的な活動時間や自発的に行っている時間の割合を
評価する必要がある
 研究活動に対する自発性次第では、
ストレスや不安の感じ方が異なるが、
学生の自発性について評価できていない
 少人数で、本業である研究の合間に行うには制限が大きいので、
我こそはという方がいらっしゃいましたら、手伝っていただけると嬉しいです
 生命科学・健康科学系という
限定的な学問領域における調査であった
▶より幅広い分野において、
より多くの標本数で分析することが求められる
▶とくに、実験系や理論系、フィールド調査系など
研究の形態による差異の評価が必要と考えられる
▶経済的状況をはじめとした生活基盤の状態、
就職に向けた不安等についての調査が求められる
 不安という面では、
研究時間や研究成果のみならず
金銭面や将来への見通しなどが関与するが
その点が考慮されていない
 職場において、上司や同僚との関係性が
悪化すると、大きなストレス要因になるが
その点が考慮されていない
▶研究室における教員や先輩・同期・後輩との
人間関係やコミュニケーションの状況についての
調査が必要になる

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