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ゲーム理論とマーケットデザイン入門
<ゲーム理論編>
安田洋祐 | 政策研究大学院大学
早稲田大学オープンカレッジ資料(2013年)	
1
イントロダクション
2
}  テキスト
}  天谷研一『図解で学ぶゲーム理論』
}  参考図書
1.  ジョン・マクミラン『市場を創る』
2.  安田洋祐「社会を変える新しい経済学」
}  講義用ウェブサイト
}  https://sites.google.com/site/yosukeyasuda/jp/lecture/wo13 
}  第一回:戦略的状況とは何か --- 4~27
}  テキスト1~2章
}  第二回:ナッシュ均衡 --- 28~52
}  テキスト2~3章
}  第三回:ビジネス競争のゲーム --- 53~74
}  テキスト3章
イントロダクション
3
}  第四回:ゲームを後ろから解く --- 75~101
}  テキスト4章
}  第五回:長期的関係と協力の発生 --- 102~123
}  テキスト7章
【ここまでが「ゲーム理論入門」】
}  第六回:マッチングの理論と実践
}  参考図書1&2
}  第七回:オークションの理論と実践
}  テキスト5章、参考図書1
}  第八回:メカニズムデザインの考え方
}  参考図書2
【後半三回は「マーケットデザイン入門」】
ゲーム理論とマーケットデザイン入門
<ゲーム理論編>
Lecture 1: 戦略的状況とは何か
Lecture 14
ゲーム理論とは何か?
Lecture 15
}  ゲーム理論は応用数学の一分野
}  結果があなただけでなく、他の参加者たちの行
動によっても影響をうける状況を分析
}  このような状況を戦略的状況(または戦略的な相
互依存関係)と呼ぶ
}  対立と協調のメカニズムを明らかにする数学!
⇒そもそも数学は役に立つのだろうか?
⇒戦略的状況(/思考)ってそんなに重要?
天谷(12-13ページ)
数学は役に立つのか?
Lecture 16
自然現象
- 自然科学
}  一定のパターンに自然と従
う(自然法則)
}  分析対象に直接その理由を
聞くことができない
⇒数学や数理モデルが分析
に欠かせない
経済(社会)現象
- 社会科学
}  各人は自分の思うがままに
自由に行動する
}  分析対象に理由を聞くこと
ができる
⇒数学がなくても“分析”でき
るのではないだろうか?
経済学の2つのアプローチ
Lecture 17
}  制度的知識: “事実”をじっくりと調べる
}  表面的な知識だけでは経済の動きを掴むことが難しい
}  理論的な指針がないと、何が“事実”かの特定も困難
}  経済理論: 現象の背後にある“法則”を探す
}  経済理論の構築に数学は絶大な効果を発揮!
}  制度的知識を補完:2つのアプローチはどちらも重要
Q: 経済(学)の法則っていったい何?
A: 各人は自分にとって得になるように行動する(「イン
センティブに従って行動する」と同じ意味)
伝統的な経済学
Lecture 18
}  経済学は理想的な市
場の分析をもっぱら
行ってきた
}  完全競争市場
}  需要と供給が分析のメ
インツール
}  各人のインセンティブは
どこに隠れている?
戦略的思考は重要なのか?
Lecture 19
}  需要と供給による分析では、経済活動は需要曲線と供
給曲線の交点として描写される
}  需要曲線は消費者、供給曲線は生産者の最適化行動の結果
として導くことができる
}  一見すると複雑そうにも見えるこのフレームワークでは、
実は戦略的状況が全く発生していない!
Q: なぜ戦略的な状況が発生していないのか?
A: その秘密は…
  ⇒各参加者がプライス・テイカ―だから!(各人は価格
を基準にお互いの影響を考えることなく意思決定)
ゲーム理論はこうして生まれた
Lecture 110
Q: 経済学の多くの問題は
需給と供給だけで分析で
きるのだろうか?
A: できない!
von Neumann and
Morgenstern (1944)
「社会科学のさまざまな問題
を解くためには、本質的に
新しい数学理論が必要!」
⇒  「ゲーム理論」の誕生!
天谷(14-15ページ)
戦略的状況の例
Lecture 111
例: グーグル vs. アップル
}  グーグルの最適な戦略はグーグルがアップルの行
動をどう予想するかによって決まる
}  ここでアップルの行動はアップルがグーグルの行動をど
う予想するかによって決まる
}  グーグルの最適な戦略はグーグルが「アップルが
グーグルの行動をどう予想するか」をどう予想する
かによって決まる
}  グーグルの最適な戦略はグーグルが「アップルが
「グーグルがアップルの行動をどう予想するか」をど
う予想するか」によって決まる
以下、無限に続く… (予想の「無限後退」と呼ばれる)
ゲーム理論による静かな革命
Lecture 112
}  ゲーム理論は「他の参加者の行動をどう予想するか」と
いう問題に首尾一貫した答えを提供
}  戦略的状況をきちんと分析できるようになった!
}  ゲーム理論の貢献
}  理想的な市場(完全競争市場)を超えた様々な経済現象の分
析や理解を可能にした
}  異なる経済の仕組み(資源配分メカニズム)を理論的に比較
することを可能にした
}  一般には「対立と協調のメカニズム」を明らかにした!
}  ゲーム理論は1980年代以降の経済学の中身を劇的に
変えた!
}  「ゲーム理論による経済学の静かな革命」(by 神取道宏)
ゲーム理論が切り拓いた新しい分野
Lecture 113
}  市場が未成熟あるいは存在しない状況で経済活動がど
のように機能しているのか?
}  経済史、開発経済学
}  政府(官僚組織、政治家)はどのように行動するのか?
}  政治の経済学
}  私企業の中でなにが起こっているのか?
}  組織の経済学、企業統治(コーポレート・ガバナンス)
}  異なる市場経済をどのように比較するか?
}  比較制度分析
ノイマン&モルゲンシュテルンの発見
Lecture 114
}  どんな社会問題も、次の3つの要素からなるゲームとし
て記述する(/定式化する)ことができる!
}  【プレイヤー】 分析対象となる参加者たち
}  【戦略】 個々のプレイヤーがとることのできる行動
}  【利得】 起こり得る行動の組み合わせに応じた満足度、効用
Q: ゲームの解(結果・予測)はどうやって与えられる?
A: 実はノイマン達は一般的な解を生み出せなかった…
}  この問題を解決してゲーム理論に魂を吹き込んだのがも
う一人の(若き)天才数学者だった!	
天谷(14-15、26-27ページ)
ビューティフル・マインドの生んだ発見
Lecture 115
}  John Nash (1950)がゲーム理
論のザ・解概念を確立!
}  (ナッシュ)均衡においては、
(誰にとっても)自分一人が行
動を変えても得できない
}  この解はほぼ常に存在する
}  ジョン・ハーサ二とラインハー
ト・ゼルテンがその後ナッシュ
均衡を大幅に拡張
}  ゲーム理論の爆発的な応用の
きっかけとなる
⇒ゲーム理論による革命!	
天谷(14-15ページ)
ノーベル賞:ゲーム理論の3人の父
Lecture 116
静かな革命はつづく…
Lecture 117
【1994以降のゲーム理論関連のノーベル賞(経済学)】
}  1996: マーリーズ、ヴィックリー
}  for their fundamental contributions to the economic theory of
incentives under asymmetric information.
}  2001: アカロフ、スペンス、スティグリッツ
}  for their analyses of markets with asymmetric information.
}  2005: オーマン、シェリング
}  for having enhanced our understanding of conflict and
cooperation through game-theory analysis.
}  2007: ハーヴィッチ、マスキン、マイヤーソン
}  for having laid the foundations of mechanism design theory.
18
そしてなんと昨年(2012年)も!
【ロス&シャプレーが「マーケットデザイン」で受賞!!】
Lecture 1
いよいよゲーム理論の中身を見ていこう!
Lecture 119
}  まずは1時点の(静学的な)ゲームを分析
}  各プレイヤーは独立かつ同時に戦略を決定
}  相手の決定を知らずに自分の戦略を決めるような状況
}  決定のタイミングは文字通り“同時”である必要は無い!
}  すべての可能な行動の組み合わせに応じてそれぞれの
プレーヤーの利得を定めておかなければいけない
}  個々のプレーヤーにとって、利得が高いほど望ましい結果
}  利得の値(絶対値)自体には意味が(ほとんど)無い!	
天谷(38-39ページ)
囚人のジレンマ:ストーリー
Lecture 120
}  AさんとBさんの2人がある犯罪容疑で逮捕された!
}  有罪にするだけの証拠がなく、検事は自白が頼り(焦)
}  そこで、次のような司法取引を容疑者に持ちかけた…
}  2人とも自白すれば、A、Bともに懲役3年
}  2人とも黙秘すれば、A、Bともに懲役1年
}  Aが自白、Bが黙秘すれば、Aは釈放、Bは懲役5年
}  Bが自白、Aが黙秘すれば、Bは釈放、Aは懲役5年
}  まず、このゲームを表の形でまとめてみよう!
}  プレイヤー、戦略、利得が一目で分かるようになる	
天谷(20-21ページ)
囚人のジレンマ:利得表(/利得行列)
Lecture 121
}  ここでは、懲役の年数(×マイナス)を利得に設定
}  (実は他の数字でも同じ「囚人のジレンマ」を表すことが可能)	
B
A
黙秘 自白
黙秘 -1
-1
0
-5
自白 -5
0
-3
-3
天谷(20-21、38-39ページ)
囚人のジレンマ:利得表による分析
Lecture 122
}  (黙秘、黙秘)が2人にとって望ましい結果に見えるが…
}  実は相手の戦略によらず「自白」するのが各自の最適戦略!
}  各人が合理的に選択する結果、(自白、自白)が実現!
}  まさに、囚人の「ジレンマ」が起こってしまう…	
B
A
黙秘 自白
黙秘 -1
-1
0
-5
自白 -5
0
-3
-3
天谷(22-23ページ)
囚人のジレンマ:注意点
Lecture 123
}  このゲームでは個々のプレーヤーが最適戦略を持つ
}  【最適戦略(支配戦略)】 他のプレーヤーたちがどのような行
動を選択しても、自分がある特定の行動Aを選ぶことによって
利得が最大化されるとき、行動Aを「支配戦略」と呼ぶ。
}  支配戦略の組み合わせは必ずナッシュ均衡になる!
}  支配戦略が存在しないゲームもたくさんある
}  各人の最適な意思決定 ≠	
 全体にとっての効率性
}  ナッシュ均衡が全体にとって望ましい結果(パレート効率的な
結果)をもたらすとは限らない!
}  「アダム・スミスは間違っていた!」(映画『ビューティフル・マイ
ンド』のナッシュの台詞)を簡潔に体現している
天谷(24-25、40-41ページ)
囚人のジレンマ:別の利得表
Lecture 124
}  それぞれのプレイヤーにとっての結果の望ましさ:
}  (裏切、協力)>(協力、協力)>(裏切、裏切)>(協力、裏切)	
プレイヤー2
プレイヤー1
協力 裏切り
協力 2
2
3
0
裏切り 0
3
1
1
囚人のジレンマの応用例
Lecture 125
現象 プレイヤー 「協力」 「裏切り」
軍拡競争 国 軍縮 軍拡
国際貿易政策 国 関税引き下げ 税率据え置き
男女間の協力 カップル 相手に従う 相手に要求
公共財供給 地域住民 貢献/負担 ただ乗り
森林伐採 きこり 控えめに伐採 とれるだけ伐採
天谷(24-25ページ)
ゲームのルールが変わると…
Lecture 126
}  検事が司法取引を提示しなかったら、(黙秘、黙秘)が実現
}  相手の戦略によらず「黙秘」するのが各自の最適戦略に
}  検事が望んでいる結果=(自白、自白)は実現できない…
}  司法取引によって初めて囚人の「ジレンマ」が起こる!	
B
A
黙秘 自白
黙秘 -1
-1
-3
-3
自白 -3
-3
-3
-3
天谷(28-29ページ)
ゲーム理論を活用した制度設計
Lecture 127
}  人々に望ましい行動をとらせるためにゲームのルールを
変更するような実例はたくさんある!
}  課徴金減免(リニエンシー)制度
}  談合・カルテルを自己申告した企業に課徴金を減免
}  インセンティブ契約
}  業績に連動した人事制度や報酬体系
}  マーケットデザイン
}  オークション制度やマッチング・メカニズムへの実装	
天谷(30-31ページ)
ゲーム理論とマーケットデザイン入門
Lecture 2: ナッシュ均衡
Lecture 228
コーディネーションゲーム:利得表
Lecture 229
}  共同作業のために新しいパソコンを購入する
}  相手と異なるOSでは全く意味がないとする
}  (Mac, Mac)の方が(Win,Win)よりも2人にとってベター
   学生2
学生1
Windows Mac
Windows 1
1
0
0
Mac 0
0
2
2
天谷(72-73ページ)
コーディネーションゲーム:分析1
Lecture 230
}  最適戦略(支配戦略)は存在しない!
}  相手がMacなら自分もMac、相手がWinなら自分もWinが得
}  最適な行動が相手の行動によって変化する!
}  個人の合理性だけからでは問題を解くことができない
}  囚人のジレンマのようにはいかない
}  「ナッシュ均衡」の考えを使う必要がある!
}  一見するとベストな結果(Mac, Mac)が選ばれそうだが…
}  まずはナッシュ均衡の定義をおさらいしよう!
天谷(72-73、48-49ページ)
ナッシュ均衡の定義
Lecture 231
}  プレーヤーたちの選択した行動の組がナッシュ均衡
であるとき
1.  (すべてのプレーヤーにとって)自分一人だけが行動を
変更しても利得を上げることができない
}  安定的な状況をうまく描写できる
2.  プレーヤー同士がお互いの行動を正しく予想してそれ
に対して最適な行動を選択し合っている
}  合理的な結果の予測として優れている
}  数学的には全く同じ定義でも多様な解釈ができる!	
天谷(50-53ページ)
コーディネーションゲーム:分析2
Lecture 232
}  このゲームには2つナッシュ均衡がある!
}  (Mac, Mac)と(Win,Win)のどちらもナッシュ均衡
}  ナッシュ均衡の見つけ方 →天谷(56-59ページ)
}  コーディネーションゲームのように
}  (一般に)ナッシュ均衡は複数存在する場合がある
}  プレイヤー全員にとってあるナッシュ均衡よりも別のナッシュ均衡の
方が望ましい場合もある
}  良い均衡(Mac, Mac)ではなく悪い均衡(Win,Win)が選ばれ
てしまう危険性がある
}  「コーディネーションの失敗」と呼ばれる
}  失敗を防ぐには? →天谷(74-75ページ)	
天谷(72-73ページ)
男女の争い:利得表
Lecture 233
}  妻(プレイヤー1)と夫(プレイヤー2)が休みの日にどこに
遊びに行くかをそれぞれ決定
}  別々の場所に行くのは2人にとって最悪
}  妻は遊園地、夫は野球観戦の方が好き	
     夫
妻
遊園地 野球
遊園地 1
2
0
0
野球 0
0
2
1
天谷(80-81ページ)
男女の争い:分析
Lecture 234
}  このゲームにもナッシュ均衡が2つ!
}  (遊園地、遊園地)と(野球、野球)のどちらもナッシュ均衡
}  今回は “良い”(“悪い”)均衡は存在しない
}  双方にとって「より望ましい均衡」というものがない!
}  状況が対称的でどちらの均衡が実現しそうか分からない
}  理論以外の要素ーたとえば慣習や文化、規範などーに
よってどちらのナッシュ均衡が選ばれるかが決まる
}  例)レディファースト →(遊園地、遊園地)
}  例)男社会(?) →(野球、野球)
天谷(80-81ページ)
タカ-ハト・ゲーム(別名:チキンゲーム)
Lecture 235
}  交渉事に強気(「タカ」戦略)でのぞむか弱気(「ハト」戦略)で
のぞむかをそれぞれのプレーヤーが決定
}  (ハト、ハト)はどちらも納得の行くもっともらしい結果か?
}  相手が「ハト」でくるなら自分は「タカ」を選んだ方が得	
プレイヤー2
プレイヤー1
ハト タカ
ハト 1
1
2
0
タカ 0
2
-5
-5
天谷(82-85ページ)
タカ-ハト・ゲーム:ナッシュ均衡
Lecture 236
}  このゲームにもナッシュ均衡は2つあるが…
}  ナッシュ均衡は非対称な行動の組:(ハト、タカ)と(タカ、ハト)
}  結果は非対称で不公平だが、安定(均衡)になっている!	
プレイヤー2
プレイヤー1
ハト タカ
ハト 1
1
2
0
タカ 0
2
-5
-5
天谷(82-85ページ)
ストーリーとしてのナッシュ均衡
Lecture 237
}  なぜ/どのようにしてナッシュ均衡は実現するのか?
}  少なくとも次の4つのストーリー(理由)が考えられる
1.  合理的な推論によって導かれる
2.  (理論以外の理由で)結果がそもそも目立つ
3.  話し合いの結果
4.  時間を通じた調整(試行錯誤)
}  状況に応じて、どのストーリーがよくあてはまりそうかは
違ってくる	
天谷(54-55ページ)
1. 合理的な推論
Lecture 238
}  個々のプレーヤーの合理性だけで解けるゲームもある
}  合理性:自分にとってより高い利得をもたらす行動を選ぶ
}  最適戦略(支配戦略)がある場合:例)囚人のジレンマ
}  すべてのプレーヤーに支配戦略が無いゲームでも解け
る場合がある
}  「支配される戦略の逐次消去」(後述)
}  (お互いの行動に関する)「正しい予想の共有+合理性」
によってナッシュ均衡は実現する!
}  いかにして正しい予想が形成されるかが重要…
2. 目立つ均衡(フォーカル・ポイント)
Lecture 239
}  個々人の推測だけから正しい予想が共有されることも!
}  実験)都内の地下鉄の駅を一つを選んで駅名を紙に書く
}  一番多い答えを書いていれば勝ち(利得が1)
}  それ以外は負け(利得は0)
}  周りのプレーヤーが書きそうな駅名をうまく予想するのがミソ
⇒どんな駅名が“目立つ”のかを考えよう!	
}  潜在的なナッシュ均衡は駅名の数だけ存在する
}  しかし、状況によって非常に目立つ均衡がある場合も
}  トーマス・シェリングが最初に発見⇒「フォーカル・ポイント」
3. 自発的に守られる口約束
Lecture 240
}  ナッシュ均衡は、ゲームの外部で罰則や報酬がいっさい
与えられない状況でも口約束によって達成できる
}  相手が口約束にしたがって(ナッシュ均衡の)行動をとるので
あれば、自分にとっても約束した(ナッシュ均衡の)行動を選
ぶのが最適!⇒合意が“自己拘束的”	
}  ナッシュ均衡ではない結果は達成不可能
}  口約束の結果がナッシュ均衡ではないので、少なくとも一人
は約束をやぶって他の行動をとることで得できる人がいる
}  ナッシュ均衡=「自己拘束的な合意」
4. 試行錯誤の結果
Lecture 241
}  繰り返しゲームを行い経験を積むことで予想を共有
}  コーディネーションゲームの例
}  エスカレーター(左側と右側どちらに並ぶか)
}  ビデオテープ規格(VHS vs. ベータ)
}  キーボード配列(QWERTY型 vs. DVORAK型)
}  ゲームが行われる初期の段階でどのような行動がとら
れたか、という“歴史”が均衡を決定する上で重要
}  ポール・デイヴィットが提唱 → 「経路依存性」
合理的なプレーヤーの行動
Lecture 242
}  合理的な(利得を最大化する)プレーヤーは
}  支配戦略があれば常にそれを選択する
}  強く支配される戦略は絶対にとらない
}  戦略Bが戦略Aに「強く支配される」
}  相手がどんな行動をとってきたとしても、自分が戦略Aを選ん
だ場合の利得が戦略Bを選んだときの利得よりも常に大きい
}  戦略Bが戦略Aに「弱く支配される」
}  相手がどんな行動をとってきたとしても、自分が戦略Aを選ん
だ場合の利得が必ず戦略Bを選んだときの利得以上になる
合理的な豚:利得表
Lecture 243
}  大豚(プレイヤー1)と子豚(プレイヤー2)が同じオリの中
でエサをまっている
}  エサ箱のスイッチを押すか待つかをそれぞれ決定
}  エサは5単位、スイッチを押すのに1だけコストがかかる	
    子豚
大豚
スイッチ押す 待つ
スイッチ押す -1
4
3
1
待つ -1
5
0
0
天谷(42-43)
合理的な豚:分析
Lecture 244
}  子豚には最適戦略(支配戦略)が存在する!
}  大豚の行動によらず「待つ」のが常に最適
}  子豚が合理的ならば絶対にスイッチを押さない
}  子豚の「スイッチを押す」は可能性から消去される
}  大豚は子豚が「待つ」を選ぶので「スイッチを押す」
}  子豚の行動を織り込んでしぶしぶスイッチを押す羽目に…
}  (スイッチを押す、待つ)が実現される
}  これがこのゲームの唯一のナッシュ均衡
}  合理的な推論からナッシュ均衡が導かれた!	
天谷(44-45ページ)
合理的な豚:ナッシュ均衡
Lecture 245
}  大豚が「スイッチ押す」、子豚が「待つ」ことに
}  一見すると不利な子豚が大豚よりも高い利得を得る
}  戦略的な要因をうまく使えば弱者が強者に勝てることも!	
    子豚
大豚
スイッチ押す 待つ
スイッチ押す -1
4
3
1
待つ -1
5
0
0
天谷(42-43)
合理的な推論で解ける例:利得表
Lecture 246
}  どのようにして答えを導くことができるだろうか?
}  プレイヤーたちの合理性だけからゲームを解いてみよう!
}  (強く)支配される戦略を見つけることはできるだろうか?
       2
1
左 真ん中 右
上 0
1
2
1
1
0
下 3
0
1
0
0
2
支配される戦略の逐次消去
Lecture 247
}  強く支配される戦略はとられないことに注目!
1.  プレイヤー2の「右」は「真ん中」に強く支配される
}  プレイヤー2の「右」を消去
2.  プレイヤー1の「下」は「上」に強く支配される
}  プレイヤー1の「下」を消去
3.  プレイヤー2の「左」は「真ん中」に強く支配される
}  プレイヤー2の「左」を消去
4.  (上、真ん中)のみが逐次消去によって生き残る!
}  この結果(上、真ん中)は唯一のナッシュ均衡に一致
}  一見すると複雑なゲームでも合理的な推論から解けた!
}  逐次消去で残った行動の組にナッシュ均衡は含まれる?
天谷(46-47ページ)
合理的な推論とナッシュ均衡の関係
Lecture 248
}  自分が合理的なだけでなく、相手が合理的なこともお互
いに知り合っていないと消去が進まない点に注意	
}  支配される戦略の逐次消去は多くの場合不十分
}  消去のプロセスが途中で(場合によっては最初から)止まる
}  理論的な結果(の予測)をあまり絞ることができない
}  ナッシュ均衡の概念の方がより“強い”
}  逐次消去の途中でナッシュ均衡においてとられる行動が消去
されることは絶対にない!
}  もしも逐次消去で唯一の行動の組が生き残った場合には、そ
れは必ずナッシュ均衡になっている!
鹿狩りゲーム:利得表
Lecture 249
}  2人のハンターがどちらの獲物を狙うかを決める
}  鹿は2人で協力しないと捕えることができない
}  兎は自分1人でも必ず捕えることができる=安全な戦略	
 ハンター2
ハンター1
 シカ  ウサギ
シカ 3
3
2
0
ウサギ 0
2
2
2
鹿狩りゲーム:分析
Lecture 250
}  このゲームには2つナッシュ均衡がある!
}  (シカ、シカ)(ウサギ、ウサギ)のどちらもナッシュ均衡
}  コーディネーションゲームの一種と考えられる
}  どちらの均衡の方がもっともらしい?
}  (シカ、シカ)は2人にとって望ましい効率的な均衡だが…
}  (ウサギ、ウサギ)の方が実現しやすい可能性がある
}  相手がランダムに戦略を選んでくる場合には
}  「シカ」よりも「ウサギ」を選ぶ方が(期待)利得が高い!
}  「ウサギ」=リスク支配戦略、(ウサギ、ウサギ)=リスク支配均衡
}  この例のように、リスク支配均衡が効率的とは限らない…
鹿狩りゲームの応用1:銀行取り付け
Lecture 251
}  銀行が危ないという噂に対して預金者はどうするか
}  実際は健全経営なので、急な引き出しがなければ破綻しない
}  「引き出さない」→危険、「引き出す」→安全
}  みんなが「引き出す」と健全な銀行が破綻してしまう…
  預金者2
預金者1
 引き出さない  引き出す
引き出さない 2
2
1
-10
引き出す -10
1
0
0
天谷(78-79ページ)
鹿狩りゲームの応用2:イジメ問題
Lecture 252
}  クラスメートがいじめ問題に立ち向かえるか
}  どちらの生徒にとっても、いじめが解決するのがベスト
}  自分だけ「立ち向かう」といじめの標的になる危険がある
}  みんなが安全に「見ないフリ」をするといじめは無くならない…
   生徒2
生徒1
 立ち向かう  見ないフリ
立ち向かう 2
2
0
-10
見ないフリ -10
0
0
0
天谷(78-79ページ)
ゲーム理論とマーケットデザイン入門
Lecture 3: ビジネス競争のゲーム
Lecture 353
単純なゲームのビジネスへの応用例
Lecture 354
1.  囚人のジレンマ
}  価格競争
2.  コーディネーション・ゲーム
}  出店先の選択
3.  タカ-ハト・ゲーム
}  新たな投資決定
4.  合理的な豚
}  タカ-ハト・ゲームの変形
5.  鹿狩りゲーム
}  国債・通貨の空売り
囚人のジレンマ:飲食店の価格競争
Lecture 355
}  (現状価格、現状価格)が両者にとって望ましいが…
}  相手の戦略によらず「値下げ」するのが各自の最適(支配)戦略!
}  各企業が利潤を増やそうとする結果、(値下げ、値下げ)に!
}  消費者にとっては有り難いが、企業にとっては「ジレンマ」…	
 M屋
Y野家
現状価格 値下げ
現状価格 2
2
3
-1
値下げ -1
3
0
0
天谷(20-25、70-71ページ)
コーディネーション・ゲーム:出店先選択
Lecture 356
}  補完的なビジネスなので同じビルに店舗を出店したい
}  (ビルB、ビルB)の方が(ビルA、ビルA)よりも望ましいが…
}  (ビルA、ビルA)と(ビルB、ビルB)はどちらもナッシュ均衡
}  (ビルA、ビルA)に陥る「協調の失敗」を避けることが重要!
旅行代理店
旅行用品店
ビルA ビルB
ビルA 2
2
1
0
ビルB 0
1
3
3
天谷(72-75ページ)
タカ-ハト・ゲーム:航空機の開発投資
Lecture 357
}  両者とも投資をすると費用が回収できず、お互い大赤字に!
}  (投資する、しない)と(しない、投資する)がナッシュ均衡
}  うまく工夫して自社に有利なようにゲームを変えられるか?
}  たとえば、A社が「しない」場合に社長をクビにできるとすると…
  B社
A社
投資する しない
投資する -5
-5
-2
10
しない 10
-2
0
0
天谷(82-85ページ)
合理的な豚:タカ-ハト・ゲームの変形
Lecture 358
}  A社の社長は「しない」でクビになると、利得が5減るとする
}  一見するとA社にとって状況が不利になった気がするが…
}  タカ-ハト・ゲームから合理的な豚にゲームが変わる
}  (投資する、しない)が唯一のナッシュ均衡に!
  B社
A社(の社長)
投資する しない
投資する -5
-5
-2
10
しない 10
-7
0
-5
天谷(42-45、86-87ページ)
鹿狩りゲーム:日本国債の空売り
Lecture 359
}  両者とも「空売り」すれば国債が暴落して大もうけできる!
}  自分一人だけ「空売り」しても損するだけ
}  (空売り、空売り)と(しない、しない)はどちらもナッシュ均衡
}  投資家の戦略的行動(協調)が国債暴落を引き起こす危険性…
  投資家B
投資家A
空売りする しない
空売りする 5
5
0
-5
しない -5
0
0
0
天谷(78-79ページ)
もう少し複雑なゲーム
Lecture 360
}  今まで扱ってきたゲームの共通点
1.  ゲームを利得表で表すことができた
2.  ナッシュ均衡が(ひとつは)必ず存在した
}  今回の講義で取り上げるゲーム
1.  利得表で表すことができない(難しい)ようなゲーム
}  戦略がたくさんある(無限個も含む)ゲーム
}  プレーヤーが3人以上のゲーム(ただし今回は扱わない)
2.  ナッシュ均衡が“ない”ゲーム
}  戦略を適切な形で拡張するとナッシュ均衡が“ある”
}  ほとんどのゲームでこのナッシュ均衡がきちんと存在する
ホテリング・モデル:立地ゲーム
Lecture 361
}  【プレイヤー】 (浜辺の)2軒のアイスクリーム屋:AとB
}  【戦略】 お店の立地場所:0から100の間の数字
}  【利得】 利益(集客数に比例する)
ホテリング・モデルの仮定
}  お客は浜辺沿い(0から100)に均一に散らばっている
}  個々のお客は自分から近い方のお店に行って、1単位
ずつアイスクリームを購入する
}  お店が等距離にある場合には半々の確率で店を選ぶ
⇒ナッシュ均衡はどのようになるだろうか?	
天谷(88-89ページ)
立地ゲーム:ナッシュ均衡
Lecture 362
}  このゲームにはナッシュ均衡がひとつだけ存在する
}  どちらのお店も真ん中(=50)に立地する!
}  「最少差別化の原理」(Principle of Minimum Differentiation)
なぜこうなるのだろうか? 2つのお店が
1.  異なる場所を選ぶのは(ナッシュ)均衡にならない
}  相手の立地により近づくと必ずお客が増える
2.  真ん中以外の同じ場所を選ぶのも均衡にはならない
}  左右どちらかに少し動くとお客が急に増える
3.  真ん中をともに選ぶ場合はナッシュ均衡になる!
}  どこに立地を変えても客の数が減ってしまう
天谷(90-91ページ)
立地ゲーム:応用例
Lecture 363
}  どのような現実の現象を説明できるのか?
1.  できるだけ多くの客を獲得することを目的としている
2.  ライバル同士が同じ土俵(プラットフォーム)で競争していて
3.  競争の結果として同じような戦略を取り合っている状況
プレイヤー	
 戦略	
 現象	
政党(民主党と自民党)	
 政策スタンス	
 中道的な政策(2大政党
制のジレンマ)	
コンビニ・チェーン	
 ロケーション	
 隣り合うコンビニ	
テレビ局	
 放送時間	
 同ジャンル番組の集中	
メーカー	
 製品の味や外見など	
 似たような無難な商品
(家電、コーラ、etc)	
天谷(90-91ページ)
合理性で立地ゲームは解けるか?
Lecture 364
}  最適戦略(支配戦略)は存在しない!	
}  戦略が連続な数ではなく0から100の整数としよう	
}  実は「支配される戦略の逐次消去」でゲームが解ける!	
}  【ステップ1】 0は1に、100は99に強く支配される	
}  合理的なプレイヤーは端の点(0と100)はとらない⇒消去!	
}  【ステップ2】 1は2に、99は98に強く支配される	
}  合理的なプレイヤーは端の点(1と99)はとらない⇒消去!	
(以下このステップが続く)	
}  【ステップ50】 49、51はそれぞれ50に強く支配される⇒消去	
	
⇒どちらのプレーヤーも50(真ん中)を選ぶ!
ベルトラン・モデル:価格競争ゲーム
Lecture 365
}  【プレイヤー】 2社の製品メーカー:AとB
}  【戦略】 製品1単位あたりの価格:0以上の数字
}  【利得】 利益:(価格-コスト) ×需要量
ベルトラン・モデルの仮定
}  右下がりの需要曲線
}  1単位あたりのコストは c
}  低い価格をつけた企業が市場需要分をすべて供給する
}  企業が同じ価格を付けた場合は半々のシェアを得る
⇒ナッシュ均衡はどのようになるだろうか?
価格競争ゲーム:ナッシュ均衡
Lecture 366
}  このゲームにはナッシュ均衡が一つだけ存在する
}  どちらもコストに一致する価格をつける: p(価格) = c (コスト)
}  つまり利潤がゼロに!
なぜこうなるのか? 2つの企業が
1.  異なる価格を付けるのは(ナッシュ)均衡にならない
}  必ずどちらか片方の企業は価格を変えて得できる
2.  コスト以外の同じ価格をつけるにも均衡にならない
3.  限界費用と一致する価格を共につけるのは均衡!
}  値上げしても利潤は0のまま、値下げはマイナスの利益=損
⇒利得表や最適化の手法でなく論理的に均衡を導出!
ベルトラン・パラドックス
Lecture 367
}  2企業間の競争で価格が一気に限界費用まで下がる
}  1社増えるだけで1企業の独占価格から完全競争価格に!
}  実際には、ベルトランモデルのような価格競争が行われ
ている(ように見える)産業でも価格は急落しない
}  現実とのギャップ=「ベルトラン・パラドックス」
ベルトラン・パラドックスを解く3つの理由
}  【製品差別化】 相手よりも高くてもある程度は売れる
}  【生産量制約】 安価では市場需要をすべて満たせない
}  【動学的競争】 時間を通じて暗黙のカルテル、共謀
クールノー・モデル:数量競争ゲーム
Lecture 368
}  【プレイヤー】 2社の製品メーカー:AとB
}  【戦略】 製品の生産量:0以上の数字
}  【利得】 利益:(市場価格-限界費用) ×需要量
クールノー・モデルの仮定
}  各企業は独立に価格を設定できない
}  企業の総供給が市場需要に一致する水準で価格が決まる
}  ここでは、簡易版のゲームを考える
}  各企業は300、400、600個の中から数量を選ぶ
}  利得表は次のページで与えられるとする
⇒ナッシュ均衡はどのようになるだろうか?
数量競争ゲーム(簡易版):利得表
Lecture 369
}  中程度の生産(400、400)が唯一のナッシュ均衡に!
}  利潤を最大にする(300、300)はナッシュ均衡にならない
}  価格=コストとなる(600、600)もナッシュ均衡にならない	
メーカーB
メーカーA	
300	
 400	
 600	
300	
 1800
1800	
2000
1500	
1800
900	
400	
 1500
2000	
1600
1600	
1200
800	
600	
 900
1800	
800
1200	
0
0
ベルトランかクールノーか?
Lecture 370
}  次のような疑問がわいてくるかもしれない
}  「どちらのモデルが優れているのか?」
}  「なぜ複数のモデルを必要とするのか?」
}  ベルトランとクールノー、どちらのモデルも、各企業が価
格と数量(生産設備)を共に選べるような一般的な寡占
市場競争の一面を捉えたものと解釈できる
}  状況に応じてより適したモデルを採用すべき
}  【ベルトラン】 企業が数量(の上限)を価格よりも早く調整でき
るような産業: 例) ソフトウェア
}  【クールノー】 価格の方が数量よりも早く調整されるような産
業: 例) 小麦、セメント
ゲーム理論が変えた寡占市場の見方
Lecture 371
}  1970年代まで
}  戦略的な状況が生じる寡占市場(不完全競争)を分析する統
一的な視点がなく、バラバラな分析の寄せ集めだった
}  1980年代以降
}  ゲーム理論が積極的に応用され、性質の異なる市場を異なる
ゲームとして定式化するようになった
}  市場ごとに異なる解が存在するのではなく、ナッシュ均衡とい
う単一の解で様々な寡占市場が統一的に分析できる
⇒きちんと個々の寡占市場の特徴を把握してゲームとして
定式化すれば、あとはナッシュ均衡を求めれば良い!
ゼロサムゲーム:マッチング・ペニー
Lecture 372
}  2人のプレーヤーがそれぞれコイン(1セント)を置く
}  面が揃えば1が、異なれば2が相手に1セントを支払う
}  2人の利得の和が常にゼロ(/一定)
}  「ゼロサム(/定和)ゲーム」と呼ぶ	
     2
1
表 裏
表 1
-1
-1
1
裏 -1
1
1
-1
天谷(60-61ページ)
ナッシュ均衡が“ない”?
Lecture 373
}  ゼロサムゲームの特徴
}  相手の裏をかくのが常に最適
}  お互いが納得できるWin-Winの状況がない
}  ゼロサムゲームの例
}  【ポーカー】 ブラフ(はったり)を「かける」か「かけない」
}  【戦争】 「海側」から攻める/守る、「陸側」から攻める/守る
}  【テニス】 「中央」にサーブ/備える、「端」にサーブ/備える
}  プレーヤーは常に相手の裏をかこうとする
}  安定的な状況(ナッシュ均衡)は存在しない??	
天谷(62-63ページ)
混合戦略:行動を確率的に選択する
Lecture 374
}  混合戦略
}  複数の行動を確率的に混ぜてプレーする
}  じゃんけんなどで無意識に行っている“戦略”
}  純粋戦略
}  特定の行動を確実に(確率1で)選ぶ:今までの“戦略”
}  混合戦略の特殊ケースとみなすことができる
}  戦略を混合戦略に拡張してナッシュ均衡を定義!
}  すべてのプレーヤーにとって、自分一人だけが(混合)戦略を
変えても得できないような混合戦略の組み合わせ
}  合理的なプレーヤーは利得の「期待値」を最大化すると仮定
}  ノイマン&モルゲンシュテルンによる「期待効用理論(仮説)」	
天谷(62-63ページ)
ゲーム理論とマーケットデザイン入門
Lecture 4: ゲームを後ろから解く
Lecture 475
混合戦略で解くマッチング・ペニー
Lecture 476
}  プレーヤー1は
}  表を確率 q、裏を確率 1-q で選ぶとする
}  プレーヤー2は
}  表を確率 p、裏を確率 1-p で選ぶとする	
     2
1
表 (p) 裏 (1-p)
表
(q)
1
-1
-1
1
裏
(1-q)
-1
1
1
-1
天谷(60-63ページ)
どうやって均衡を見つけるのか?
Lecture 477
}  プレーヤーが表と裏をともに正の確率で選ぶのなら、ど
ちらの純粋戦略を選んでも差がないはず
}  均衡においてはどちらも同じ期待利得になっている!
}  もしそうでないとすると、期待利得の大きい行動を確率1で選
び、小さい行動を一切とらないのが最適になり矛盾する
}  プレーヤー1の選択が無差別になるためには
}  -p + (1-p) = p - (1-p), よって p = 0.5.
}  プレーヤー2の戦略が決定される点に注意!
}  プレーヤー2の選択が無差別になるためには
}  q - (1-q) = -q + (1-q), よって q = 0.5.
}  プレーヤー1の戦略が決定される点に注意!
天谷(64-67ページ)
混合戦略(ナッシュ)均衡の確認
Lecture 478
}  無差別条件から q = p = 0.5 が求まった
}  これはきちんと混合戦略均衡になっているか?
}  どちらのプレーヤーも戦略を切り替えても利得が一定
}  相手が半々で表裏を選ぶ時に、自分も半々で表裏を選ぶの
が最適戦略のひとつにきちんとなっている
}  お互いに最適な戦略を取り合っている →	
 ナッシュ均衡!
}  混合戦略均衡では、均衡戦略をとる強いインセンティブ
が無さそうに見えるが…
}  お互いに相手の裏をかこうとすると自然とナッシュ均衡に!	
天谷(64-67ページ)
最適反応曲線による分析
Lecture 479
}  相手の混合戦略に対する最適な反応を図示
}  「最適反応(Best Reply)曲線」の交点=混合戦略均衡	
q
p
0
1
1
BR2	
BR1	
0.5	
0.5	
NE
ナッシュ均衡は常に存在するか?
Lecture 480
ナッシュの定理(1950)
}  プレーヤーの人数と(純粋)戦略の数がともに有限であ
るどのようなゲームにおいても、混合戦略均衡を含めれ
ば少なくとも一つはナッシュ均衡が存在する!
}  有限ではないゲームにも多くの場合ナッシュ均衡は存在
}  ホテリング、ベルトラン・モデルなどはいずれも戦略数が無限
}  ナッシュ均衡が全く存在しない特殊なゲームの例
}  【整数ゲーム】 一番大きな数字を書いたプレーヤーが勝ち
}  (敗者には)勝者よりも常に大きい数を言うインセンティブが…
変形版マッチング・ペニー
Lecture 481
}  (表、表)の利得が(-1, 1)から(-2, 2)に変化
}  プレーヤー2にとって表は一見すると有利な戦略に
}  表を選ぶ確率(p’)は0.5よりも増えそうだが…
}  混合戦略均衡を解いてみよう!	
     2
1
表 (p’) 裏 (1-p’)
表
(q’)
2
-2
-1
1
裏
(1-q’)
-1
1
1
-1
天谷(64-67ページ)
無差別条件を使って解く!
Lecture 482
}  プレーヤー1の選択が無差別になるためには
}  -2p’ + (1-p’) = p’ - (1-p’), よって p’ = 0.4.
}  プレーヤー2の選択が無差別になるためには
}  2q’ - (1-q’) = -q’ + (1-q’), よって q’ = 0.4.
}  混合戦略の組 (p’, q’) = (0.4, 0.4) が唯一のナッシュ均衡
}  変形前の均衡 (p, q) = (0.5, 0.5) はもはや安定ではない
}  均衡においてプレイヤー2は、一見すると有利に見える「表」を
以前よりも低い40%の確率でしか選択しない!
天谷(64-67ページ)
おまけ:サッカーのPK
Lecture 483
}  (混合戦略)ナッシュ均衡はどうなるだろうか?
}  キーパー(1/3、4/9、2/9)、キッカー(15/31、6/31、10/31)	
キッカー
キーパー
左 (x) 真ん中 (y) 右 (1-x-y)
左
(p)
40
60
100
0
80
20
真ん中
(q)
80
20
0
100
80
20
右
(1-p-q)
80
20
100
0
20
80
動学的なゲーム:参入ゲーム
Lecture 484
}  プレーヤーは2種類の企業
}  既存企業と(潜在的な)参入企業
}  まずはじめに参入企業がこの独占市場に「参入する」か「しな
い」かを決定する
}  後者の場合ゲームはただちに終了
}  参入企業は 0、既存企業は 4 の利得を得る
}  前者の場合、既存企業が次の意思決定を行う
}  参入が起こった場合に既存企業は「価格競争」するか「しな
い」かを決定する
}  前者の場合、両企業はそれぞれ -1 の損失を被る
}  後者の場合、両企業はそれぞれ 1 の利得を得る
天谷(94-95ページ)
「ゲームの木」による描写
Lecture 485
}  参入ゲームは以下のような「木」として表現できる
(0,4)	
(-1,-1)	
(1,1)	
参入企業	
独占企業	
しない	
参入する	
価格競争	
しない	
天谷(96-97ページ)
利得表を書いて分析すると…
Lecture 486
}  ふたつのナッシュ均衡が存在する
}  左下(しない、価格競争)はもっともらしい均衡か?
 独占企業
参入企業
価格競争 しない
参入する -1
-1
1
1
しない 4
0
4
0
天谷(98-99ページ)
動学ゲーム分析で気を付けること
Lecture 487
}  時間を通じた動学ゲームにはナッシュ均衡が複数存在
する場合が多い → これ自体は問題ではないが…	
 
}  一部の均衡が信憑性のない「から脅し」に依存している
}  ゲームを「後ろから解く」ことによって、信憑性のない均
衡をきちんと排除することができる!
}  「バックワード・インダクション(後方帰納法)」と呼ぶ
}  この考えを解概念としてフォーマルに一般化すると
}  「部分ゲーム完全均衡」となる(本講義では省略)	
天谷(100-103ページ)
バックワード・インダクション解
Lecture 488
( ,4)	
(-1, )	
( , )	
参入企業	
独占企業	
しない	
参入	
価格競争	
しない	
天谷(104-105ページ)
逐次手番による男女の争い
Lecture 489
}  もしも妻が先に戦略を決めて、夫が妻の選択を見た後で
戦略を決める場合には何が起こるだろうか?
}  妻の戦略は「遊園地」か「野球」の2つ
}  夫の戦略は実は4つ! ← 妻の戦略に応じて変更できるから	
     夫
妻
遊園地 野球
遊園地 1
2
0
0
野球 0
0
2
1
逐次版男女の争い:利得表による分析
Lecture 490
}  このゲームには3つのナッシュ均衡が存在
}  (遊、遊遊’), (遊、遊野’), (野、野野’) → もっともらしいのは?
}  バックワード・インダクションは (遊、遊野’) を選ぶ!	
夫
妻	
遊, 遊’	
 遊, 野’	
 野, 遊’	
 野, 野’	
遊園地	
 1
3	
1
3	
0
0	
0
0	
野球	
 0
0	
3
1	
0
0	
3
1	
天谷(98-99ページ)
逐次手番ゲームの例:Not 21
Lecture 491
}  2人のプレーヤーが交互に数字を数え上げていく
}  各プレーヤーは1~3個の連続した数字を数える
}  最後に21の数字を数えたプレーヤーが負け
}  「Not XX」は一昔前に結構流行ったゲーム(のハズ)
}  先手もしくは後手に必勝戦略(必勝法)はあるだろうか?
}  あるとしたらそれはいったいどんな戦略か?
}  ネタバレになってしまうので必勝法は講義で…
}  もしも数字が他の数だったらどのように必勝法は変わる?
ツェルメロの定理と“必勝法”
Lecture 492
}  どのような動学的な2人ゲームにおいても
1.  結果が「勝ち」か「負け」しかなく
2.  プレイヤーが交互に行動を選択し
3.  過去のプレーをすべて観察することができ
4.  偶然の要素による影響が全くなく
5.  必ず有限回の手番でゲームが終わる
のであれば、どちらかのプレイヤーに必ず必勝戦略がある
}  【必勝戦略】 相手がどんなプレーをしてきても、必ず自分が
最終的に勝利できるような(動学的な)戦略
}  上の条件を満たせば必勝法は必ず存在する!
}  オセロ、チェス、将棋、囲碁には必ず必勝戦略がある!
ツェルメロの定理の注意点
Lecture 493
}  結果が「勝ち」「負け」「引き分け」の場合には…
1.  先手に必勝戦略がある
2.  後手に必勝戦略がある
3.  どちらのプレーヤーにも「最低でも引き分けに持ち込むこと
ができる」ような戦略がある (例: 三目並べ)
のいずれかが必ず成り立つ
}  必勝戦略の求め方については何も教えてくれない
}  複雑なゲームで必勝戦略を求めるのは現実的には不可能
}  「必ず必勝法がある」ことと「必勝法が見つかる」は違う
}  オセロ(8×8)ですら、まだ先手・後手必勝どちらかは不明
【復習】クールノーの数量競争ゲーム
Lecture 494
}  【プレイヤー】 2社の製品メーカー:AとB
}  【戦略】 製品の生産量:0以上の数字
}  【利得】 利益:(市場価格-限界費用) ×需要量
クールノー・モデルの仮定
}  各企業は独立に価格を設定できない
}  企業の総供給が市場需要に一致する水準で価格が決まる
}  ここでは、簡易版のゲームを考える
}  各企業は300、400、600個の中から数量を選ぶ
}  利得表は次のページで与えられるとする
⇒これを逐次手番(Aが先に決定)にするとどうなるだろうか?
シュタッケルベルグ・モデル
Lecture 495
}  クールノー・モデルの逐次手番バージョン
}  メーカーA(リーダー)が先に生産量を決定
}  それを見た後にB(フォロワー)が生産量を決定
}  ゲームを後ろから解くと…
}  メーカーAの生産量と利潤が増えて、Bのそれらは減る
}  「コミットメント」による利益
}  Aは少なくともクールノー・モデルの利潤は獲得できる
}  400を選べばクールノー・モデルと同じ結果になるから
}  Bは情報をたくさん得ているが、むしろ利得は低下してしまう
}  戦略的な状況では情報が多いほど有利とは限らない!
数量競争ゲーム(簡易版):利得表
Lecture 496
}  Aの生産量に対してBは最適な生産量を選んでくる
}  これを織り込むと、Aの最適な生産量は600になる
}  クールノー・モデルのナッシュ均衡よりもAの利益は増える!	
メーカーB
メーカーA	
300	
 400	
 600	
300	
 1800
1800	
2000
1500	
1800
900	
400	
 1500
2000	
1600
1600	
1200
800	
600	
 900
1800	
800
1200	
0
0
参入ゲーム:再考
Lecture 497
}  いったん参入が起これば価格競争は起こらない
}  もし独占企業が事前に「価格競争」にコミットできたら…
(0,4)	
(-1,-1)	
(1,1)	
参入企業	
独占企業	
しない	
参入	
価格競争	
しない	
天谷(106-107ページ)
参入ゲームとコミットメント
Lecture 498
}  事後的には(いったん参入が起こったら)最適な価格競
争「しない」を選ばないことにコミットすると…
(0,4)	
(-1,-1)	
(1,1)	
参入企業	
独占企業	
しない	
参入	
価格競争	
しない	
天谷(108-109ページ)
航空機の開発投資:国際貿易競争
Lecture 499
}  このゲームには2つの(非対称)ナッシュ均衡が存在
}  B社にもしもコミットメント・パワーがあるとどうなるか?
}  もちろん、「投資する」にコミットするのが最適!
}  現実にはどのようなコミットメント装置が考えられるか?
A社 ╲ B社	
 投資する	
 しない	
投資する	
 -5 -5	
 10 -2	
しない	
 -2 10	
 0 0
政府がゲームを変える:戦略的貿易政策
Lecture 4100
}  もしも政府がB社への補助金にコミットできたら?
}  B社が投資を行ったら、(結果によらず)5だけ補助金を出す
}  このような戦略的通商政策は結果を改善できる
}  B社にとって「投資する」のが支配戦略になる
}  (投資する、しない)はもはやナッシュ均衡ではない!	
A社 ╲ B社	
 投資する	
 しない	
投資する	
 -5 0	
 10 -2	
しない	
 -2 15	
 0 0
コミットメントの具体例
Lecture 4101
}  家電量販店などの「最低価格保証」
}  他店よりも1円でも高い商品があれば値下げします
}  事後的には最適ではない「価格競争」にコミットすることにより、
ライバル店の値下げを牽制する効果が期待できる!
}  代理人(エージェント)へ交渉や仕事を依頼する
}  代理人には条件を譲歩する権限が無い
}  交渉の余地がないことをコミットすることができる
}  ソフトウェアの「オープンソース」化
}  市場を独占化しないことにコミットする
}  ユーザーが安心してそのソフトを使えるように	
天谷(108-109、116-117ページ)
ゲーム理論とマーケットデザイン入門
Lecture 5: 長期的関係と協力の発生
Lecture 5102
長期的関係
Lecture 5103
}  ここまでの分析では、プレーヤーたちがゲームを一回だ
けプレーするという状況を扱ってきた
}  現実には、同じ相手と同様のゲームを繰り返す場合がある
}  繰り返しゲーム → 長期的関係を自然に描写できる
}  囚人のジレンマで協力することができる場合がある!
}  1回限りでは裏切るのが得 → 協調達成は不可能だった
}  いったん裏切ると、協調関係が崩れて将来相手から協力して
もらえなくなる、という脅し(お仕置き)が有効に
}  長期的な関係によって多様な結果が実現できるように
}  契約を使っても同じ結果が実現できるかもしれないが…
天谷(178-179ページ)
長期的関係のメリット 契約のデメリット
Lecture 5104
契約は長期的関係と比べて以下の短所がある
}  逸脱や裏切りを裁判所が見破ることは難しい
}  そもそも「協力」の定義や意味合い自体が曖昧
}  裏切り行為を当事者が立証するのはコストがかかる
}  そもそも裁判所や契約を監督する第三者がいない場合
}  例) 過去や途上国での経済活動、地球温暖化など
⇒  短期的(近視眼的)な利益の追求と長期的な損失とのト
レードオフを分析する最善のツールが繰り返しゲーム!
繰り返しゲーム
Lecture 5105
}  繰り返しゲームは同じプレーヤー達が同一のゲーム(「ステー
ジゲーム」と呼ぶ)をT回繰り返す
}  Tが有限: 有限回繰り返しゲーム
}  Tが無限: 無限回繰り返しゲーム
}  プレーヤー達は過去のプレー(「歴史」と呼ぶ)をすべて観察
することができる
}  「完全観測」(Perfect Monitoring)の仮定
}  不完全観測のケースについては複雑なので扱わない…
}  繰り返しゲーム全体の利得はどう定義するか
}  有限回: ステージゲームの利得の和
}  無限回: 将来利得の割引現在価値の和
天谷(180-181ページ)
2回繰り返し「囚人のジレンマ」
Lecture 5106
}  2期目は実質的に通常の(1回だけの)囚人のジレンマ
}  1期目にどうプレーしても、2期目の結果は(裏切り、裏切り)
}  ゲームを後ろから解くと、毎期(裏切り、裏切り)が実現
}  繰り返しても(協力、協力)は実現できない…
プレーヤー2
プレーヤー1
協力 裏切り
協力 2
2
3
-1
裏切り -1
3
0
0
天谷(196-197ページ)
有限回繰り返しゲーム
Lecture 5107
}  動学ゲームの一種 → 後ろ(最終期)から解くべし!
1.  一番最後のステージゲームのナッシュ均衡を求める
2.  その結果をもとに、最後から二番目のゲームを分析
3.  以下、順番に最初までさかのぼって全体のゲームの均衡
(これを「部分ゲーム完全均衡」と呼ぶ)を求める
}  ステージゲームにナッシュ均衡が一つしかない場合
}  毎期(それまでの歴史と関係なく)そのナッシュ均衡をプレーし
続けるのが、唯一の部分ゲーム完全均衡となる
}  ステージゲームのナッシュ均衡が複数の場合
}  様々な結果が均衡として実現できる → 詳しくは後述	
天谷(196-197ページ)
有限回繰り返しベルトランゲーム
Lecture 5108
}  ベルトランゲームを有限回(T)回繰り返してプレーし
た場合に、価格カルテルは実現できるだろうか?	
}  明示的なカルテルは違法 → 暗黙のカルテルを考える	
}  強制力のある合意や契約が結べないときに、参加企業
たちが自発的に価格カルテルを維持できるだろうか?	
}  ベルトランモデルにはナッシュ均衡は一つだけ	
}  どちらの企業も「価格=コスト」を選択する	
}  毎期そのナッシュ均衡(価格競争)が実現してしまう…
世界の終わりが分かるとお金は使えない?
Lecture 5109
もしも世界がT期後に終わるとすると…	
1.  T期 → 次の期が無いので誰もお金を受け取らない	
2.  T-1期 → お金を受け取っても来期は絶対使えない	
}  実質的に今期が最終期 → 誰もお金を受け取らない	
3.  T-2期 → お金を受け取っても将来に使うことは無理	
}  やはり誰もお金を受け取ろうとしない	
}  以下、1期にさかのぼるまでこの議論は続く…	
4.  世界の終わりが分かった瞬間に紙幣は紙くずに!?
有限回繰り返しゲームの罠
Lecture 5110
}  Tはどんなに大きい数でも構わない
}  いつかこの世界(人類の歴史)は終わる → Tは有限
}  疑問) だとすると、今すぐお金が使えなくなるのでは?
}  「有限の長さでゲームが終わる」のと「T期でゲームが終
わることが確実に分かっている」のは全く異なる状況
}  ゲームを後ろから解くためには、プレーヤーたちがいつゲー
ムが終わるのかをお互いに正確に知っている必要がある
}  知らない場合には、常に将来の可能性を考慮するはず!
}  例) 今期裏切ったら、将来お仕置きされるかもしれない…
}  実は「無限回繰り返しゲーム」として分析する方が適切
将来の価値を「割り引く」とは?
Lecture 5111
}  無限回繰り返しゲームでは、将来の利得を「割り引く」
}  来期の利得は、今期と比べて小さく(δ倍で)評価される
}  この(1より小さい)δを「割引因子」(discount factor)と呼ぶ
}  割引因子が大きい = 将来を重視(忍耐強い)
}  割引因子が小さい = 現在を重視(刹那的?)
}  さまざまな理由によって将来は割り引かれる
}  利子の存在: 金銭リターンは利回りで調整して評価する
}  主観的割引: 今すぐもらえる利得を将来の利得より重視する
}  ゲーム終了リスク: ゲームが終わる危険性を考慮する
天谷(184-185ページ)
ベルトラン・パラドクスのおさらい
Lecture 5112
}  ベルトランモデルのナッシュ均衡では、利潤は0に!
}  しかし、価格競争をしている(ように見える)多くの寡占市
場では、価格はコストよりも高いのでは?
}  例) 隣接するファーストフード店、ガソリンスタンドなど
⇒  どうやって企業は超過利潤を獲得しているのか?
}  製品差別化
}  生産設備の制約(供給するためには設備投資が必要)
}  長期的な相互依存関係: 談合やカルテル
}  有限回繰り返し => 価格競争に陥ってしまう…
}  無限回繰り返し => どうなる??
無限回の繰り返しベルトランゲーム
Lecture 5113
}  次の「トリガー戦略」を使うことで、割引因子が十分に大
きければ(δ ≥ 1/2)談合を実現することができる
}  個々の企業は、誰かが値下げを行うまでは独占価格をつける
}  もしも値下げが観察されたら、次の期からはずっとステージ
ゲームのナッシュ均衡をプレーし続ける
}  価格=コストで、価格競争に突入する
}  一度裏切ると、来期からはずっと利潤が0に…
t t+1 t+2 …
独占価格 π π π …
カルテル破り 2π 0 0 …
天谷(182-183、186-189ページ)
割引因子に関する条件の求め方
Lecture 5114
2/1
1
...
...2
2
2
≥⇔
−
≤⇔
++≤⇔
+++≤
δπ
δ
δ
π
πδδππ
πδδπππ
S := a +ra +r2
a +...
rS := ra +r2
a +r3
a +...
S −rS = (1−r)S = a
⇒ S =
a
1−r
}  次の公式を使って簡単に
計算することができる
【等比級数の公式】
}  初項: a
}  公比(1未満の): r
天谷(182-183、186-189ページ)
無限回繰り返し「囚人のジレンマ」
Lecture 5115
}  繰り返しが有限回だと協力は絶対に達成できない
}  ゲームを後ろから解くと、毎期(裏切り、裏切り)が実現
}  無限回の場合にはゲームに終わり(最終期)が無い
}  うまくお仕置きの仕組みを作ると(協力、協力)が実現できる
プレーヤー2
プレーヤー1
協力 裏切り
協力 2
2
3
-1
裏切り -1
3
0
0
天谷(182-183、186-189ページ)
協力を達成するための条件
Lecture 5116
}  次の形で定義される「トリガー戦略」を考える
}  最初の期には(協力、協力)をプレーする
}  過去に誰も裏切らない限り、(協力、協力)をプレーし続ける
}  もしも誰かが裏切った場合には、次の期以降ずっと(その後に
何が起きようが)(裏切り、裏切り)をプレーし続ける
}  協力を達成するためには、裏切りがもたらす将来の損失
が短期的な利益よりも大きくないといけない	
3/12
1
1
...221...2223 22
≥⇔
−
≤⇔
++≤⇔+++≤
δ
δ
δ
δδδδ
天谷(182-183、186-189ページ)
(ナッシュ回帰の)フォーク定理
Lecture 5117
}  プレーヤーたちの割引因子が十分に大きい(将来をほと
んど割り引かない)とき、ステージゲームのナッシュ均衡
利得を(全員にとって)上回るすべての利得の組み合わ
せを、部分ゲーム完全均衡として達成することができる
}  フォーク定理はトリガー戦略を使って証明できる
1.  目標とする利得を獲得できるような戦略をまずは計画する
2.  この長期的な戦略から誰も逸脱しない限り、全員で計画に
従ってプレーを続ける
3.  もしも誰かが逸脱した場合には、次の期以降ずっと(その
後に何が起きようが)ナッシュ均衡をプレーし続ける
フォーク定理のイメージ図
Lecture 5118
(2, 2)	
(0, 0)	
(-1, 3)	
(3, -1)	
実現可能な利得の集合	
ナッシュ均衡
共有地の悲劇と共有地の統治
Lecture 5119
}  一般に、共有資源(コモンズ)の管理は難しい
}  各人に消費/利用し過ぎるインセンティブが発生
}  例) 漁場の乱獲、森林破壊、環境汚染、温泉の枯渇
}  「共有地の悲劇」(Tragedy of Commons)と呼ばれる
}  伝統的な経済学による解決策
}  私有化: 共有地を区切って私有化してしまう
}  政府管理: 政府に直接管理を委ねて、利用料を適切に課す
}  「共有地の統治」 by オストロム(2009年ノーベル賞)
}  共有地を地元住民が(長期的関係を通じて)自分たちで統治
有限回繰り返しゲーム再考
Lecture 5120
}  次の利得表のゲームが2回続けてプレーされるとする
}  ステージゲームのナッシュ均衡はどうなるだろうか?
}  (A、X)の組を第1期に均衡でプレーすることはできるか?
1 ╲ 2	
 X	
 Y	
 Z	
A	
 7, 7	
 4, 8	
 1, 9	
B	
 8, 4	
 5, 5	
 0, 0	
C	
 9, 1	
 0, 0	
 0, 0
複数のナッシュ均衡をうまく使う
Lecture 5121
}  ステージゲームにナッシュ均衡が3つある
}  第2期はこの3つのどれかをプレーせざるを得ない
}  第1期のプレーに応じて、第2期のプレーを変えられる!
1 ╲ 2	
 X	
 Y	
 Z	
A	
 7, 7	
 4, 8	
 1, 9	
B	
 8, 4	
 5, 5	
 0, 0	
C	
 9, 1	
 0, 0	
 0, 0
複数のナッシュ均衡をうまく使う
Lecture 5122
}  ステージゲームにナッシュ均衡が3つある
}  第2期はこの3つのどれかをプレーせざるを得ない
}  第1期のプレーに応じて、第2期のプレーを変えられる!
1 ╲ 2	
 X	
 Y	
 Z	
A	
 7, 7	
 4, 8	
 1, 9	
B	
 8, 4	
 5, 5	
 0, 0	
C	
 9, 1	
 0, 0	
 0, 0	
1が裏切った場合	
2が裏切った場合	
(A,X)がプレー
された場合
有限回の繰り返しでも協力が達成できる!
Lecture 5123
}  第1期に協力=(A、X)をプレーした場合
}  第2期には(B、Y)をプレーすることになる
}  総利得: 7 + 5 = 12
}  第1期に裏切ってCをプレーした場合
}  第2期には(A、Z)が選ばれお仕置きされる
}  総利得: 9 + 1 = 10
}  裏切ると第2期の利得が大きく下がってしまう
}  これはナッシュ均衡が複数あるからできること
}  3期以上のケースでも同様の議論で協力の達成が可能

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