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NPO法人北海道若年認知症の人と家族のi会‘・
(通称:NP半冬北亭道ひまわりの会)ゞ# 1
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C O N T E N T S
I.はじめに平野憲子(NPO法人北海道若年認知症の人と家族の会)……..……………………………1
Ⅱ、職場における若年I性認知症の就労支援中野倫仁(北海道医療大学心理科学部)…・………2
Ⅲ、若年‘性認知症の就労事例
1.記載事例の背景及び方法………………………………………………………………………………………………4
2.事例1「仕事の軽減、職場の見守り支援により関連会社で定年を迎えた事例」・…・5
3.事例2「産業医と人事担当者が本人・家族の相談役として対応した事例」……..…7
4.事例3「産業医の指導により配置転換、仕事の内容の変更により
就労し続けられている事例」……………………………・・…………………………………………9
5.事例4「職場の上司、同僚の支えにより就労しえている
早期アルツハイマー型認知症の事例」………………………………………………………11
6.事例5「退職後、ハローワークに求職の申し込みをし失業給付を受けた事例」….…13
7.事例の考察と課題…………………………………………………………・…………………………….………………15
Ⅳ、若年‘性認知症における雇用維持・支援伊古田俊夫(勤医協中央病院)………………..………18
V.就労時から退職前後までの主な支援制度…………・…………………………………………………………22
利用可能な制度の−ロメモ…………………………………………………………………………………………….23
Ⅵ、若年‘性認知症の理解と治療中野倫仁(北海道医療大学心理科学部)…….….……………….…24
相談窓□……・……………………………………………………………………………..…………………………………………….…29
「NPO法人北海道若年認知症の人と家族の会」の紹介………………………………………..…………30
参考資料の紹介……・………………………………………………………………………………………………….……………….31
鯵鯵冊.
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フ ム 目 次
若年認知症専門医は願う宮永和夫(NPO法人若年認知症サポートセンター理事長)…………………8
認知症専門のクリニックで若年認知症就労支援をする医師から
藤本直規((医)藤本クリニック院長)……………………………・……・…………………………………………………………・8
企業に対する若年認知症の調査から
若年認知症に関するアンケートー県下企業に対するアンケーート結果をとりまとめ−藤本直規…………・…・12
若年認知症就労問題の調査研究から若年性認知症をめぐる諸問題伊藤信子(精神医学)……・・12
若年認知症の人の思い……………………………………………………………………………………………………………14
家族の思い…………………………………………………………………………………………………………………………………14
就労における支援の原則と対応のキーワード………………………………………………………………・……27
職場における若年'性認知症の人の“支援のポイント"………・………………………………………………27
就労している若年‘性認知症の人とのコミュニケーション…………………………………………………28
一 員 − 1 − −
茸 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一
I 。 は じ め に
一 一 一 一 一 h 合 一 例 ー 一 ー 一 一 一 一 一 一 一 一
「夫は50代半ばで、会社で中間管理職としてまじめに働いていたんです。数年前から元気が
なくうつの薬を飲んでいたけれども、職場から様子がなんかおかしい、仕事のミスが気になる
ので専門医に調べてもらってはと言われ受診した結果、診断は若年認知症でした。今の仕事は
どうしたら、まだ、元気なのに夫はこれからどう生きていったら…」と、当会に訪れ暗い表情
で帰られる家族の相談に私達はいつも無力感に雲われています。
今日、職場においては糖尿病などの生活習慣病の他、がんや脳卒中後遺症など病気や障害を
抱えながら仕事をしている方は多くいると思われます。さらに、うつ病などはメンタルヘルス
が大きな対策として取り組まれています。しかし、若年認知症の患者数は多くはなく身近に発
症した人や療養している人に出会う機会が少ないためか、関わったことがないとして関心や情
報を得る機会は少なく、職場の人々の理解が得られにくい状況です。
「若年認知症」は64歳以下の認知症疾患の総称を言います。従って働き盛りの年代に発症
し、入ごとではないと昨今、新聞や雑誌などで取り上げられる機会は多くなってきておりま
す。認知症という病気の特性から病状の進行と機能の低下は、今日の医学医療の限界から避け
られませんが、発症イコール全ての能力喪失状態ではありません。言うまでもなく軽度で初期
に発見し、医療につながり、職場の配慮・支援があれば活動能力を活かし就労できる人がいま
す。その就労には、原因疾患や症状・進行度、本人の意欲、仕事の内容や環境、職場の受け入
れの考え方や支援体制、通勤や家族の協力など様々なことが左右すると思われます。また、そ
の状況によって就労期間が短い人も長い人もおり、受け入れる職場も容易でないと思われます。
東京都は職場内での正しい理解と支援のために、産業医及び企業団体の人事・労務担当者等
を対象に「若年認知症の就労支援ハンドブック」(2013年3月)を発行しました。職場内にお
いて若年性認知症の人を早期に発見し、適切な支援に繋げてほしいと作成の目的が述べられ、
産業医の研修のテキストとしても活用が考えられているようです。
北海道においても職場の健康問題として若年認知症の人の理解と支援が急務になっていると
考えました。そこで今回、家族会の相談を通して実際の若年認知症の人の就労に関わる現状を
事例の形でとりあげ、医療や職場においてよりわかりやすく、初期支援の手がかりとなるよう
な就労支援の手引きを作成しました。就労中に告知を受けた若年認知症の人の持てる能力や就
労の可能性を支援し、その後の就業の継続、休業、退職など、どの経過をたどるにしてもその
対応についてできるだけ納得のいく最善の方法が考えられるように、少なくとも発症が即、退
職誘導となったり、十分な手続きの支援がないまま退職という状況が生まれないよう、この手
引きを活用していただけますと幸いです。
NP○法人北海道若年認知症の人と家族の会事務局長
平 野 憲 子
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皿 ・ 職 場 に お け る 若 年 性 認 知 症 の 就 労 支 援
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北 海 道 医 療 大 学 心 理 科 学 部
中 野 倫 仁
若年性認知症については、認知症の発症において中高年期から初期病変が形成されることが
明らかになってきたために、診断や治療面で改めて注目されるようになってきた。また、従来
からも、在職中に発症することになる若年性認知症は、その対応をめぐって老年期とは異なる
問題を多く抱えていることが知られている。認知症の発症に伴い職を失い、経済的にも精神的
にも苦境に陥っている多くの事例を見るにつけ、関係者の創意工夫で有効な支援がなされ、他
の事例に対して参考になるような経験を集積することの重要性を痛感するようになった。今回
作成した事例集は関係者の多大なる努力と協力により完成したものであり、就労支援を必要と
している患者様.ご家族・関係者に対していくらかでも参考になることがあれば幸いである。
我が国が超高齢社会に入ったため、従来の「無病息災」は難しくなり、現実には「一病息
災」程度の実現が健康管理の目標にならざるを得ない。この「−病」として多くの人が思い浮
かぶのは、高血圧、糖尿病などの生活習I慣病であろうが、この中にぜひ「認知症」も加えてU
ただきたいと思う。一昔前まで認知症は進行性で回復不能であるとの定義が存在していたが、
最近の医学・介護の進歩によって、進行を遅延させ、少数例ではあるが回復を期待できる場合
もあることが知られてきた。認知症の発症によっても、いわゆる「年の功」に相当する結晶性
知能が相対的に保たれる時期があり、雇用の継続が患者さんと事業所双方にメリットがあるよ
うな形で図られることができれば一番望ましい形である。厚生労働省は、平成21年から精神
障害者保健福祉手帳を所持している若年性認知症者については、障害者雇用枠に含まれること
を通知している。国としても雇用継続への道を拓く決定として歓迎するものであるが、現実に
は他の障害を含めても障害者雇用枠は有効に使われていないのが実態である。
認知症においては、その多くが進行性であることから早期診断・治療そのものにも医療従事
者を含めて積極的でない事例が認められている。在職中に認知症を発症しながら診断もされず
に退職に追い込まれ、失業中に診断がついたものの在職中でないために厚生年金ではなく国民
年金での障害者年金受給者となった事例を経験したことがある。この事例では1年間に100万
円を超える年金の減額となったが、診断に関与した医療関係者がこのような事態が発生するこ
とを想定できていなかったと思われる。社会的支援のシステムを関係者は熟知する必要がある
ことを痛感した。しかしながら、職場の同僚に過大なストレスが生じる場合には雇用の継続が
難しくなる。仕事を手伝おうとすると馬鹿にしているといって怒ったり、性格変化のために迷
惑行為が頻発したりするなどの事例では、同僚の受忍範囲を超えることになる。また、認知症
の治療のために休職する場合においても、人事管理上、休職は傷病を治療する機会を与えて回
復した後に職場復帰することを期待する措置である。したがって、人事管理上、基本的には解
雇の猶予期間であるとの性格を有していることになる。回復する可能性が低い認知症の場合
に、通常の配転などによる解雇回避義務をとることが難しい事態が想定されることから、有効
な就労支援事例の集積に期待する面が多いと考えられる。
認知症の人が働き続けなければならないのは経済的に困るからだけだろうか。働くことそれ
自体に人生においてどのような意味があるのか。若者では職業を通じての自己実現という目標
があるが、若年性認知症の人でもそれは同様に大事なことである。精神分析学の創始者である
ジークムント・フロイトは晩年に「人生において大切なことはなんですか」と間かれ次のよう
に答えたと言われている。「それは愛することと働くことである」。
若年性認知症の人にも健康な人と同じ権利を認めなければならない。また、認知症の臨床を
していて痛感することであるが、世の中の人は記憶や認知機能の障害された人に総じて厳しい
ようである。健康な人だって毎日さまざまな間違いをして生きている。自分と同程度の間違い
は他の人でも許されていいのではないか。若年性認知症を例外にする根拠は希薄である。ドイ
ツの精神医学者のカール・ヤスパースの有名な教科書『精神病理学原論(1913)』に次のよう
な−節がある。「精神障害者も健康者と同じくらい論理の間違いをする権利はあるのであっ
て、この間違いをあるものは病的な症状とし、あるものは正常とするのは正しくない」。若年
性認知症の人においても同じである。
この事例集の作成に当たって、そうは言っても実際の就労支援が難しいことを痛感せざるを
得なかった。進行した時点で受診された患者・関係者に対して医療者として何ができるのかを
自問自答する日々である。それが故に、就労支援の上で貴重なヒントが示された事例は貴重で
ある。就労支援の実践はまだ始まったばかりであり、今後も継続されてゆく。関係各位の一層
の理解とご協力をお願いする次第である。
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Ⅲ 。 若 年 性 認 知 症 の 就 労 事 例
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1.記載事例の背景及び方法
(1)記載事例の背景
就労中に発症した若年性認知症の人を支援するため参考になるように、掲載の事例はなる(
<広く多職種、事業所の大小を問わない事例を求めた。しかしながら実際の事例は、「北海道
若年認知症の人と家族の会」の会員に対象を限定した。これは事例として取り上げるに当た
り、本人及び家族の立場の視点とコンセンサスのもと調査に協力が得られること、及び事例の
羊治疾の協力を具体的に得ることを条件に限定したことによる。
事例のうち、4例は各事業所に勤務する定年を間近に控えた例であり、40歳代から50歳
代、全て男性で会社員又は公務員であった。病型は、全てがアルツハイマー型認知症であり、
若年性認知症に比較的多いとされる脳血管型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症
の例を掲示できなかった。また、事例として今回は定年後、再就職し得た事例や障害者就労支
援事業所などで働いている事例は得られなかった。
(2)調査方法・内容
調査方法は、家族に対する面接を行い、前もって用意した調査票に沿って約120分程度聞き
取り調査を行った。
調査内容は、①認知症発症初期の気づき、症状②診断名③受診時の病名の告知、本人及
び家族の受け止め方④職場での仕事の内容・役職、就労状況④職場での発症後の対応、実
援⑤公的支援の有無・内容⑥主治医・産業医の支援内容⑦その他仕事上で困ったこと、
家族の支援など⑦基本情報は家族の会の相談記録票に基づいた。
当調査では、職場の管理者・同僚へのインタビューはかなわず、職場での告知前後の職場の
状況・雰囲気、サポート体制の苦労、認知症の知識の程度などは、家族からの間接的な情報で
ある。
尚、記載にあたって、個人情報保護の観点から匿名性が維持されるよう、−部内容を変更し
ている。
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●発症54歳頃男性会社員(営業管理職)
●家族構成:妻、子(高校3年)3人暮らし
●人柄:非常にまじめな性格で、周囲から信頼も厚く、仕事上の評価も高し、
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今から6年ほど前から職場で、もの忘れ、意欲の低下、書類が書けない、会議資料が不十
分で説明もおかしい、パソコンの操作でトラブルなどの症状が出始めていた。同じ頃、家族
も気づき始めていたが多忙のためストレスと受け止めていた。
4年前、関連会社に異動になった頃、会社から気になるところがあり受診した方がよいと
の連絡を受けて、脳ドックを受診したが異常は指摘されなかった。その後、再度家族が職場
の同僚と共に認知症専門医(神経内科)に受診した結果「アルツハイマー型認知症疑い」と
の告知を受けた。告知を受けた時、専門医の指導は「仕事は、通えるうちは通ってくださ
い。今まで通りのことを続けてください」とのことであった。この時、医師に本人は「そう
ですか、病気と闘います、また治験があったら協力します。」と言い、子どもにも「"明日の
記憶”になってしまったよ」と気丈に話していた。
3年ほど前、次第に仕事ができなくなっても会社は机を用意し見守ってくれたことから、
通勤で戸惑うことがあっても1日も休まず背広を着て鞄を持って出社し続けることができ
た。会社に対し専門医から雇用継続の指導は再三あり、会社としても働ける間はできるだけ
働いてもらいたいとの配慮からポストは降格になるが、スタッフがカバーしながら就労し続
けている。この頃、コーチ役を担ってくれている同僚のフォローが大きく、トイレや食堂に
まごついた時は誘導案内してくれたり、会話がうまくできなかったり、トイレを汚すなどの
ことがあっても、もう少し仕事を続けましょうと言って同僚がカバーしてくれている。この
ような会社での状況を時々、同僚が家族に知らせてくれるが、相談事項は「この病気は休業
するとよくなるのか」と質問をしてきたことがあり、同僚のサポートが大変であることがう
かがわれた。
この時から妻は将来の経済不安からパートを始めた。
昨年暮れ、本人は仕事を続けることにこだわっているが、仕事中に席を外し休憩室にいる
ことが多くなり書類の整理もほとんど無理になってきている。家族は、息子と話し合いそろ
そろ無理かもという思いであるが、会社側は本人がそれ程までに会社に行きたいと言ってい
るのなら翌年の3月退職でも良いと配慮してくれた。
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●発症54歳頃男性会社員(営業管理職)
●家族構成:妻、子(高校3年)3人暮らし
●人柄:非常にまじめな性格で、周囲から信頼も厚く、仕事上の評価も高い
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今から6年ほど前から職場で、もの忘れ、意欲の低下、書類が書けない、会議資料が不十
分で説明もおかしい、パソコンの操作でトラブルなどの症状が出始めていた。同じ頃、家族
も気づき始めていたが多忙のためストレスと受け止めていた。
4年前、関連会社に異動になった頃、会社から気になるところがあり受診した方がよいと
の連絡を受けて、脳ドックを受診したが異常は指摘されなかった。その後、再度家族が職場
の同僚と共に認知症専門医(神経内科)に受診した結果「アルツハイマー型認知症疑い」と
の告知を受けた。告知を受けた時、専門医の指導は「仕事は、通えるうちは通ってくださ
い。今まで通りのことを続けてください」とのことであった。この時、医師に本人は「そう
ですか、病気と闘います、また治験があったら協力します。」と言い、子どもにも「"明日の
記憶”になってしまったよ」と気丈に話していた。
3年ほど前、次第に仕事ができなくなっても会社は机を用意し見守ってくれたことから、
通勤で戸惑うことがあっても1日も休まず背広を着て鞄を持って出社し続けることができ
た。会社に対し専門医から雇用継続の指導は再三あり、会社としても働ける間はできるだ{す
働いてもらいたいとの配慮からポストは降格になるが、スタッフがカバーしながら就労し続
けている。この頃、コーチ役を担ってくれている同僚のフォローが大きく、トイレや食堂に
まごついた時は誘導案内してくれたり、会話がうまくできなかったり、トイレを汚すなどの
ことがあっても、もう少し仕事を続けましょうと言って同僚がカバーしてくれている。この
ような会社での状況を時々、同僚が家族に知らせてくれるが、相談事項は「この病気は休業
するとよくなるのか」と質問をしてきたことがあり、同僚のサポートが大変であることがう
かがわれた。
この時から妻は将来の経済不安からパートを始めた。
昨年暮れ、本人は仕事を続けることにこだわっているが、仕事中に席を外し休憩室にいる
ことが多くなり書類の整理もほとんど無理になってきている。家族は、息子と話し合いそろ
そろ無理かもという思いであるが、会社側は本人がそれ程までに会社に行きたいと言ってけ
るのなら翌年の3月退職でも良いと配慮してくれた。
本年2月、会社の上司と面接し3月まで就業を承諾、その後「病気欠勤扱い」「有給休暇」
−弱L且
などしばらくは会社の就業規定に沿って経済的対応を図ってくれることになった。
退職後は自宅で新間を見る、本を読む生活をし、時に散歩、買い物に同伴するなどで過ご
していた。その後、介護保険の手続きをした時点ではすでに要介護Ⅱで、老人保健施設のデ
イケアで身体と言語のリハビリを受けている。
生活において家族は住宅□−ンを抱えており、妻がパートで働かざるを得ない経済的状況
にある。
【ポイント】
会社はTさんに対し、本人が初期症状の時、従来の能力とは違う仕事ぶりがみられたこ
とから仕事量の逓減を図り様子をうかがっていた。その後、関連会社に異動になってから新
しい仕事が覚えられないことがきっかけで同僚から家族へ相談の連絡あり、この頃「脳ドッ
ク」を受診しているが異常は指摘されなかった。その後、症状が進行してから、再度職場の
同僚が家族と共に同伴し専門医のクリニックに受診し、「アルツハイマー型認知症疑い」と
告知された。
当事例のポイントは、産業医が関与せず専門医が診断、指導にあたり就労継続しえたこと
である。専門医の指導は、雇用を維持し可能な限り仕事を続けたさせた方が良いとのことで
あり、診断後会社側としても認知症は初めてのことであったが仕事内容を軽減しながら、更
に同僚スタッフを見守りとしてつけ支援を行った。当本人は日頃の能力、勤務姿勢が高く評
価され経営職の仕事についていたことが幸いし会社としても特別の配慮をしたと思われる。
職場の移動後、旧職場の同僚が新部署との相談役になり、更に非公式に家族との連絡、話
し合いを担ってカバーしている。仕事の内容は決済書類の閲覧、押印、書類点検などである
が、症状が進行しても毎朝仕事は楽しいと言い、生きがいを見出し出社することから理想的
な会社の対応が伺えられる。それでも一時期、不用意に所属部署の責任者から長谷川式認知
機能テストを実施され本人を傷つけ落ち込んだことがあり、本人を支える同僚・職場の認知
症の理解、支援スキルの共有、会社全体の認知症に対する啓発が求められた。また会社側か
ら主治医に対し、職場がさらに適切なサポート体制の構築、ケアのスキル取得のためアド/、
イスを求める、もう−歩踏む込んだ取り組みが望まれた。
さらには就労中、会社管理職と家族との話し合いは半年に−度しかなかった。このため家
族に勤務状況の情報が十分に入らないため、家族の心配事である「何時まで続けられるの
か」「職場で迷惑をかけていないか」「本人のプライドが傷つけられるようなトラブルがなし、
か」「辛いことがないか」など情報の提供を求める家族の思いへのフォローが求められた。
Yさん
産業医と人事担当者が、
本人。家族の相談役として対応した事例
肥 瀦
●発症時59歳男性製造業会社員(管理職)
●家族構成:夫婦と両親2世帯
●人柄:人づきあい良く部下の面倒見が良いタイプ
6 卿 副
最初の気付きは勤務している職場で、簡単な漢字が分からない、提出する書類が書けな
い、もの忘れが再三あるなどであった。このことから職場の友人が心配し度々病院に行くこ
とを勧めたが、本人も家族も仕事の疲れ、ストレス、高血圧のせいだろうと思っていた。ま
た認知症症状が出てきたこの頃、がんを発症し手術をしたが医師の病気の説明を全く覚えて
いない、病気を理解できてない感じなどおかしなことがあったが、それでも、まだ家族は
「歳だから」とか「男性の更年期?」「がんの手術の後遺症?」などと他の理由を考え認知症
を疑っていなかった。
会社の対応は、うつ病を疑い精神科医である産業医に紹介し面接した時、うつ症状、もの
忘れ、失語などの認知機能障害などがあったため、産業医を通じて専門医の「もの忘れ外
来」受診を勧めた。専門医の受診で厚期のアルツハイマー型認知症」と分かり、診断名の
告知を受けた。専門医による病名の告知では、本人は動揺を見せずどこまで病気のことが分
かっているのか泰然としていた。
その後、会社は専門医と産業医に相談し、若年性認知症の社員は初めてのケースであった
が、人事の対応として定年退職まで残り4か月と少ないことから職場の見守りで退職まで就
業させることとした。一方、本人は定年退職まで職場に行くのは当然と前向きであり、家族
の望みも定年まで勤務して、きちんと定年の挨拶ができることであった。出勤しても仕事は
書類の押印などであることから、同僚スタッフの見守りと支援を受けることで勤務し続ける
ことができた。しかし、家族は本人が会社に行っても仕事は無く新聞を読んでいるだけかも
しれないと受け止めていた。
また、自家用車通勤のため交通事故の心配が常にあったが、止めることができないままで
あった。
定年間近になって会社側から、本人と家族は退職の前準備のこと、就業規定の内容を約乏
時間位かけて説明を受けた。本人は定年後の再雇用が決まっていたが急遼60才で退職の道
を選択し、産業医と携帯電話で連絡を取りながら今後退職までどのようにすれば良いか相談
し過ごした。
病気に対する支援制度「精神障害者保健福祉手帳」の申請と合わせて精神通院医療費の公
)ll
費負担の申請を行った。また、休職するにあたり傷病手当金を申請、受給し退職後も継続中
である。健康保険は、退職後任意継続し2年目で国民健康保険に加入の予定である。更に障
害年金は、初診から1年半過ぎる頃申請する予定である。
退職後は、家で散歩、ガーデニング、野菜作り、冬は雪かきの日々である。
届 軍 団
当事例は、産業医がたまたま精神科医であったことから、専門医に紹介した時点で、早期
診断に繋がった幸いなケースである。
その後も、産業医は定期的に本人に面接し、人事担当者にタイムリーに仕事の内容、作業
の対応を指導していた。この産業医の指導を受け企業の人事担当者は、適切な指導に対し理
解を示し能力に見合った仕事を手当てし、更に同僚を見守り付き添いをさせ定年まで雇用を
維持する計らいをみせた。
また、認知症の専門医である主治医が、本人と家族の相談に対し生活指導など適切なアド
バイスをしていたことが幸いし家族の支えになっていた。
”若年認知症専門医は願う宮永和夫M震人着棚嬢サ淑ートセンター鯉事震
若年認知症が軽度な時、薬物治療などにより職場復帰が可能になる場合がある。し
かし、実際の職場復帰は困難なことが多い。それは復帰を支援する人の不足や支援方
法がわからないことによる。高次脳機能障害者の復帰プログラムのようにジョブコー
チのような職場に直接出向いて支援する人材と手段の取り組みが測られるべきであろ
う。少なくても病休や休職期間での早期退職は検討すべき課題である。
宮永和夫若年認知症に対する社会資源・制度の積極利用特集若年性認知症に対する精神科の役割精神科
治療学pi344Vol.25No.102010
認知症専門のクリニックで若年認知症就労支援をする医師から
私達は、在職中の人ができるだけその仕事を続けられるようにする支援をとても大
事にしています。具体的には、本人了解の上で、本人や家族を通じて職場と連絡をと
り、必要に応じて上司や人事担当者、産業医などと合同カンファレンスを行ったり、
日常的に書面のやりとりで、できるだけ長く仕事が続けられるようアドバイスをして
います。
藤本直規・奥村典子若年認知症の人の仕事の場つくりQ&Ap21-22クリエイツかもがわ201
Sさん
産業医の指導により配置転換、仕事内容の変更により
就労し続けられている事例
肥 励
●発症時53歳男性会社員(事務職)
●家族構成:妻と子供2人
●人柄:職場の人間関係が良く部下から慕われている
…
Sさんは今から6年ほど前より、職場で仕事の約束を忘れる、パソコンのIDを忘れる、
またパソコンの操作が分からないなどの症状が出始めていた。
5年ほど前、会社の産業医(精神科)から家族にSさんについて気になる症状があるので
専門医に受診してほしいとの連絡があり、総合病院の「もの忘れ外来」に受診し「アルツハ
イマー型認知症」と診断された。病名が告知された時、Sさんはショックを受けたようだ
が、まだ病気のことが良く理解できないためか悩んでいる様子を見せなかった。むしろ診断
後、ストレスの原因が病気のせいだと分かりすっきりしたようだった。妻の方は認知症を認
めたくない思いであるが、病気を受け止める覚悟が必要と思っていた。
当初、職場では若年性認知症に対する理解がなく、仕事ができないならと2か月ごとに上
司による「職能評価」と称する面談が行われ、Sさんがいるため職場の雰囲気がよくないこ
とを暗に匂わし退職を勧奨するようなことが度々あった。この面談では、上司によりSさ
んの仕事のできない働きぶりが話され、就労限界と暗示し、パワーハラスメントのような対
応が続いたことが妻のストレスになっていた。会社の産業医の立場からは、仕事の軽減が図
られる部署に移動させるよう、再三指導があったが、会社側の判断は難しいとの意見であレノ
2か月ごとの面談は続いていた。
4年ほど前、会社の産業医の提言により、会社の上司と職員相談室のスタッフ、Sさん本
人と家族、及び産業医の5者で今後の本人の対応についての会議が持たれた。産業医から、
「末期がんだけでなく、認知症、うつ病など他の精神疾患でも病気を持ちながら働き続けて
いる人がおり、更に病気に合わせて支援している職場がある。」など労務の軽減を図り雇用
を継続している事例が紹介された。更に具体的に病気の説明と、進行を遅らせるために能力
に見合った仕事を続けることが望ましいことなど、指導及び強い勧告がなされた。この勧告
によりSさんのポストは降格になるが、就業可能な職務に変更になり書類の整理、郵便物
の種分けなどに従事することになった。車の運転は、この時期までしていたが医師から止め
るように言ってもらい、やっと止めてもらうことになった。
この後、かかりつけ医が他の精神病院に変更になり、初めて各種の医療費の助成制度があ
ることを知り「精神通院医療費」の公費負担申請し、同時に「精神障害者保健福祉手帳」の
申請を行った。また、社会保険労務士との相談では、いずれ退職になるだろうからと制度に
ついて考えておきたいと、休職のこと、傷病手当金のこと、住宅□−ンのことなど相談した.
3年前、Sさんはいつまで働けるか分からないが、毎日職場に行くことに意欲あり、やめ
lb
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てもすることがないので定年まで働きたいと出勤している。それでも家族にとってはなんど
き退職勧告されるか不安であり、今どのような仕事をしているか知りたいし、本人にとって
仕事が苦痛になっていないかなどの心配事が続いていた。これら妻の不安やストレスになっ
ている事柄に対し、以前から親交のある職場の友人が気遣い、時々家族の話を聞いてくれる
機会を作ってフォローしており、友人による本人・家族へのサポート、精神的なケアに救わ
れていた。まして、未だSさんは同部署で就労していることから、家族にとって働かせて
もらっていることに感謝の念が大であった。
2年前、その後、症状も進み出勤も難しくなり、Sさんは会社の福祉制度をフルに活用し
年次休暇、90日の病気休暇、1か月の「病期休職」と続け、「病気休職」で傷病手当金を受
給し定年を迎えることになった。
現在、要介護2になり精神保健福祉手帳1級取得、自立支援法精神通院医療費を利用、更
に住宅□−ン返済は退職金で一括返済を考えたが、今後の生計の不安もあり返済免除の可能
性を検討することとした。
【ポイント,
当事例のSさんは、本人のアルツハイマー型認知症の病名が分かってから、職場の病気
に対する無理解のため執鋤に退職を促すような動きがみられた。しかし産業医の職務上の強
い勧告を受け入れ、適切な部署への移動、仕事の配分がなされ雇用継続が可能になった。ま
た当初、会社側が主催する「職能評価」と称する面談は、事業所の労務管理上の制度である
が内実、早期退職勧奨を指向するものであり、その定期的な実施は家族の不安、ストレスを
惹起するものとなっていた。このことからも家族への思いやりにも配慮した従業員に優しし
制度運用が望まれた。
後に、会社側も会社の産業医の指導に適切に対処するようになり、本人の気持ちを大事に
された就労が維持され、家族の負担も軽減されるに至った。これらのことから労務管理者'三
病気に対する正しい理解と、職場のスタッフ・同僚の啓発そして病気の重症度レベルに合た
せた管理のあり方と職務配分が強く望まれる。
更に当事例では、Sさん及び家族が医療及び福祉制度に対する情報入手が遅かったこと方
ら支援制度をタイムリーに利用できないでいた。告知を受けてからも長期にわたり医療費2
割負担をしていたし、又「精神障害者保健福祉手帳」の申請も遅れ日常生活、社会生活の手
助けも遅れていた。これらの情報は、若年性認知症の診断を受けた後、早々提供され活用さ
れることが望ましい。
家族はこのことについて医療機関の情報提供の在り方、サービスの在り方、制度に不満を
持ち、「若年性認知症家族の会」に入会後、初めて系統的に情報入手し過ぎ去った時間のこ
とを後I悔していた。
一方、Sさんが勤める会社は規模が大きく、労務、福祉制度が充実していたことから、症
状が進み勤務できなくなってからも、長期に渡り制度を活用し出勤せず休職状態で何らかの
収入を確保できていた。これは事業所が大きいことから恵まれた処遇であり、他の事例には
見られない待遇であった。
○ さ ん
職場の上司、同僚の支えにより就労しえている
早期アルツハイマー型認知症の事例
肥 瀦
●発症時45歳男性地方公務員(事務職
●家族構成:妻と子供1人(学生)同居
●人柄:実直で職務に忠実なタイプ
‐
今から4年ほど前より、趣味のプラモデル作りの興味が薄れてきたとか、VTRの録画の
仕方が分からず何度も聞くようになったなど症状が出始めていた。職場では訪問先の道路の
道順が分からない、提出し忘れた書類のことで問題になったことがある、「もの忘れ」が原
因で人と課いを起すなどの症状がでていた。また、これらのことで職場の人間関係がきまず
くなってきたことから、本人は家族に「俺は職場で嫌われているからね」とか「仕事をやめ
たい」と再三□にしていた。
2年前頃、勤務態度が従来と違い顕著に変化がみられるようになってきたことから、職場
の仲間の飲み会の場で話題になり受診を勧められていた。このためこの夏、総合病院の精神
科に受診した結果「初期のアルツハイマー型認知症」と診断され、告知された。この受診
時、本人と同伴した同僚が、上司が記載した日頃の認知症によると思われる行動の変化のメ
モを持参したことが早期診断の一助になった。診断後、本人は今まで続いた日頃の不安や不
穏、そしてトラブルの原因が病気のせいと分かったため、落ち着きを取り戻し仕事をやめた
いとは言わなくなった。その後、本人は職務変更になり広報の資料収集と編纂に携わるよう
になった。
当病気に対する職場の理解はインターネットなどで情報を収集し、職場全員で共有化し、
支援及び見守る環境を作っている。また、本人も、職場に迷惑をかけないようにと休むこと
なく出勤し、「今、仕事をやめるわけにはいかない」「家族のために働き続けなくては」と必
死に頑張っている。その職場での頑張りや緊張のため、家に帰ってから妻に愚痴をこぼすこ
とがあり、そのことで妻は疲れることもあった。
妻は病気の原因が分かったことから「自立支援医療費(精神通院医療)」受給、同時に
「精神障害者保健福祉手帳」を申請し、さらに今後に向け障害者年金など制度や介護サービ
スの情報収集など前向きに取り組むようになった。
0ポイント】
当事例は受診時、上司の日頃のメモ情報が、同伴した同僚を通して診断情報の一助として
医師に提供されたことが、早期発見早期診断のきっかけとなっている。当にアルツハイマー
Tl"
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型認知症の診断方法が生活診断と言われるように、日常生活の変化、勤務態度の変化などの
「生活情報」が診断のための情報として重要であることを示している。
当事例の本人は、病気が原因で長いこと悩み、対人関係がうまくいかず、人と接すること
がストレスになっていたが、告知後職種変更で降格になったが対人関係の仕事を離れたこと
によりストレスから解放され落ち着きを取り戻し、働き続けることができた。
また、職場での本人への支援体制の構築のあり方として、どこの職場でも認知症の病気に
対する理解、知識の共有が必要であり、当職場では専門医、産業医から病気の十分な知識・
情報が得られない分、インターネットなどから情報入手し支援体制の在り方を学習し実践し
ていた。このことからも一般的な疾病啓発活動、情報提供の在り方の課題が指摘される。
以上、当事例では早期診断により、職場での病気の理解が進み認知症の人が就労する職場
の同僚の支援体制の構築ができたことであり、なによりも本人が告知後、一時期でも病気を
受け入れ前向きに働く意欲を見出したことの意義が大きい。
企業に対する若年認知症の調査から
社会や家庭における重要な役割の只中にある若年層の認知症の人には一層の周囲の
理解や支援の仕組みが必要であり、規模の大小にかかわらず、企業も重要な支援の担
い手であることに変わりはない。若年認知症の人への支援は若年認知症の正しい理解
が前提である。若年認知症の人でも働きやすい職場つくりを行おうとする企業に対し
て、十分な情報提供、認知症専門職・機関による研修やコンサルティング、経済的支
援など、若年認知症を支援する企業にも支援が必要。
藤本直規若年認知症に関するアンケートー県下企業に対するアンケート結果とりまとめ−p172013.12
若年認知症就労問題の調査研究から
一就労について若年認知症の人に必要な支援とは、病気であるが故に以前と同じよ
うに仕事を続けることは難しいという現実を、本人、家族も関係者も受け入れられる
体制を整備することではないかと考える。本調査では発症後、本人、家族が納得する
まで事業所と話し合ったというケースはごくわずかであった。状況を吟味することで
本人の現在の能力、事業所の受け入れの可能性などが明
継続について判断したのであれば、働かないという選択
対して最善の選択がなされるのでないか−
若年性認知症者の就労問題伊藤信子・田谷勝夫特集若年性認知
Vol.51No.102009
らかになり、その時点で就労
肢も視野に入り、働くことに
症をめぐる諸問題p976精神医学
Kさん
退職後、ハローワークに求職の申し込みをし
失業給付を受けた事例
肥 踊
●発症時:58歳男性会社員(内勤)
●家族構成:妻と娘1人が同居、3人暮らし
●人柄:じっくり仕事に取り組むタイプ
g …
今から5年ほど前58歳の頃より、忘れっぽくなり買い物で同じもの買ってくることが
あった。
4年前の9月、会社から、Kさんは仕事をあまりやる気がないようだし、もの忘れが多い
ので病院に一度受診してほしいと連絡があった。このため近所の脳神経外科クリニックに受
診したところ「アルツハイマー型認知症」と診断、告知され、医師から「認知症は、今後の
生活が大変だから頑張ってください」と励まされた。告知後、Kさんは「退職後の楽しみが
消えてしまった」と妻に愚痴をこぼしていた。
この後、定年まで約1年になり、妻も職場に同行し定年時の手続きの説明を受けた。会社
側の説明では「Kさんの定年後の再雇用は難しいが、定年までこのまま一生懸命仕事を続け
てください」と残り1年の雇用の継続を約束してくれた。
その後、Kさんは比較的仕事量の少ない職場に移動になり負担は軽減されたが、本人は'│冒
れない仕事でもあることから「馬鹿にされている」と不満を持ち、家庭では退職に関わる話
題になると機嫌が悪くなりイライラするようになった。
3年前の7月誕生日を境に定年退職し退職金は普通通りもらうことができた。その後、雇
用保険の手続きをしてハローワークに妻といっしょに通うようになり失業給付を受け続ける
ことができた。
2年前、主治医が「指定自立支援医療機関」である精神病院に変わったのを機会に「精神
障害者保健福祉手帳」を取得し、また、精神通院医療費の助成も利用できるようになった。
更に障害厚生年金2級を申請し介護保険は要介護1となった。
現在、Kさんは老人福祉センターに妻といっしょに通い体操を楽しんだり、家庭菜園で野
菜作りに精を出している。また、デイサーピスは週2回通っている。
毎 軍 団
本事例のKさんは、発症が定年まで間近になっていたことから、定年までの短期間の雇
用が保障されたケースである。
Kさんは、発症後も雇用が継続され仕事量が軽減された職場に変更になったにも関わら
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ず、会社の対応には不満を持っていた。これは職場の変更の理由について納得するような十
分な説明がなされていないことと、新しい職場では同僚のサポートが不十分であったことに
よると考えられる。
更に定年後は、仕事の継続は無理とされ再雇用にはならなかったため失業保険受給の道し
か残っていなかった。
又、│〈さんの場合、認知症者のための基本的な支援策の「精神障害者保健福祉手帳」の交
付、「精神通院医療費」の補助受給などが遅れている。これは医療機関の主治医の制度に対
する考え方の違いと考えられ、同じ病気ありながら医療機関の違いによって得られる情報、
サービス、支援が違うことが問題であった。
一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 − 一 一 一 一 − 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 − − − − − − − − − 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 − 一 一 一 一 一 ー 一 一 一 一 一 ■ ■ ■ 、
/ 弓
若年認知症の人の思い。。“
○働けるならまだ働きたい会社には迷惑かけたくない
●少しは役に立ちたい、必要とされるところにいたい
●いつまで働けるか、解雇されるのかなあ、その先は仕事があるのか
●やめてどうする
●働かないと家計はどうなるのか
本人の病識は様々です
○今の自分の病気について表現できる人がいれば、できない人もいます
O病気を意識している人、意識をしていないように見える人などもいます
しかし、これまでの自分と何か違うと感じ不安を感じ、戸惑いを経験しています
、∼一一一一一一一一一一一一一一‘.。.一‘ロ。.一一一一‘一−一一勺..‘-0...,一一一一一一一一二==========三=一一三一-一二==−−−−−−−==二=二一一
一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 ー 一 一 一 ・ ■ ■ ■ 一 一 一 一 一 一 一 一 一 − 一 一 一 一 一 一 ー − − − − − 一 一 一 一 一 一 一 − 一 一 一 一 一 一 ■ ■ ■ ' 一 一 一 ■ ■ ■ 一 一 一 一 一 一 一 一 ∼
〆
家族の思い
家族はできることなら働き続けてほしい
○生活を考えると働けるものなら働いて欲しい
●なんとか支えてもらい、ポストが降格でも時短でもいいから少しでも長く働いて欲しし.
●上司や担当部署などまわりの人は夫をどうみているのか
●どんな仕事ぶりをしているのか
○作業に困っていないのか
家に帰ってくるまで心配している
○無理に働いてもらい病気の進行に拍車をかけることにならないか
○迷惑をかけていないか
○通勤はいつまでできるか
○行き帰り事故に遭わないか
家族は本人が仕事に出かけ、ほっとする一方、無事帰ってくるかなどなど家に帰ってくるま
であれこれ心配しています。
∼−−−−−−q■■■一ー一一一一一■■■■一再画一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一−4■■■■■■■一一一一一一句一一一一一一F=]=
〃
7.事例の考察と課題
当事例集には、5例の若年性認知症を取り上げた。以下、5例の教訓から課題を整理列記し
今後の若年性認知症者の支援のあり方を考察する。
(1)若年'性認知症の病気特I性と早期受診早期診断の難しさ
若年性アルツハイマー型認知症の最初の「症状の気づき」は、職場であることが病気の特性
として多くみられる。事例1,2,3は家庭よりも職場同僚の方が早く気づき、職場での指摘で
早期受診に繋がった。これは就労において常に高度な状況認識力、判断力、実行力、そして協
調性などが求められることから、職場においては僅かな能力の変化も表出することによると思
われる。一方、あくまで私的観測であるが、家庭にいる時の男性は、休養時であり、家族によ
るさりげないサポートがあることから気づきが遅れることが多いと考えられる。
また、僅かな症状での認知症の徴候において、家族には経済的にも社会活動が盛んな壮年で
あるがゆえにその懸念は受け入れがたく、ストレスとか疲労とか誤解しがちであり、あるいは
うつ病?と思い込みたい状況にある。
認知症は早期診断が求められているが若年性認知症においても同様であり、早期診断がなさ
れることにより雇用の継続はもちろん見守りによって就労は可能になり、本人のやりがい維
持・リハビリにもつながる。このことからも早期診断により経済活動の損失を最小限にするこ
とが可能になる。
事例1は、脳神経外科病院の「脳ドックjに受診しても異常が見いだされず診断が遅れた例
であるが、事例4ように、職場の勤務状況の「上司のメモ」が、診療の場で参考になり早期診
断につながった重要な事例がある。この事例は早期のアルツハイマー型認知症の診断の難しさ
と早期診断の重要な方法論を教えてくれている。
また、事例2と事例3は、産業医が精神科医であったことから、会社からの依頼で面談した
時点で「若年性アルツハイマー型認知症」を早々に疑い、総合病院の専門医の「もの忘れ外
来」に受診勧告していることで早期診断に至っている。この事例から精神科以外の産業医が認
知症を疑い受診勧告する難しさを表している。
(2)就労の維持と医師による職場への病気の知識の啓発、指導・助言
職場におけるメンタルヘルスの課題で「うつ病」「神経症」などの精神疾患は啓発が進んで
いるが、「若年性認知症」は発症数が少ないことから啓発活動はこれからの課題である。この
ため若年の認知症の人に対する労務管理のあり方、ケア・見守りのあり方が分からないのが現
状で、管理者に病気の知識啓発が必要であり医師の専門的な立場からの指導・助言が望まれて
いる。
事例1,2,3では、嘱託医、産業医あるいは専門医が管理者に対し専門的な立場から積極的
に指導・助言をし、しばらくは雇用が維持された例である。
しかし事例3は当初「若年性アルツハイマー型認知症」に対する理解が不十分なため、労務
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管理上「職能評価」と称する暗に退職を促すような面談が定期的に行われていた。このことは
上司によるパワー・ハラスメントと家族は受けとめていた。当事例は後に、産業医が会社の管
理者と相談室スタッフ、及び家族と本人の同席の会議を提案し5者で会議を持ったことから、
会社側が病気の認知と本人の仕事の負担軽減によって雇用継続を約束され、無事定年退職に
至った。アルツハイマー型認知症の早期は、仕事の内容にもよるが僅かな同僚のサポートさえ
あれば仕事が継続できることが多い。このように指導が生かされたケースは幸いで、初期に本
人を支える職場の理解と支えるケアのスキルが求められるのである。
しかし残念ながら疾病に対する理解不足から「若年性認知症」と分かってから即、退職勧告
に至ることが多く、早期に経済的に困窮する例が見られる。経営者、管理者の疾病の理解向上
と雇用の寛容を望みたい。
また、若年性認知症に比較的多い血管性認知症や外傷性認知症の場合は、病気が進行しなし・
ことも多いのでジョブコーチの導入などで就労継続、社会復帰を目指すことが可能になること
もある。
(3)良き福祉的職場風土の醸成と支援する同僚への精神的配慮の必要I性
会社側にとって、傷病による労働災害の発生防止が一番の重要事項で、職場の安全安心の確
保が管理者の大事な役割である。うつ病や何らかの心の病を持った従業員がいると健全な環境
の確保に支障をきたし業務運営の妨げになると判断されることが多い。このような時、現場の
管理者には従業員の適切な疾病の理解と健康管理と対応が求められる。若年性認知症者がいる
職場においても、職場風土、職場の生産性、効率性を確保するために病気の正しい理解と見守
りなどの支援が求められる。
多くの事例で、当初、管理者の病気に対する理解が乏しく認知症の人にとって働きづらい職
場環境であった。特に事例3では、産業医が介入するまでは退職を勧奨するような内容で管理
者との定期面談が持たれていたようであるし、事例4は、病気がはっきりするまで、同僚との
関係が気まずい状況にあったことを報告している。
共通なのはそれぞれのどの企業・団体に会っても「認知症」という疾病が初めての経験であ
ることから病気の理解、支援体制が不十分なことである。このため雇用が維持されても同僚の
支援・見守りが不十分なことが多い。
又、認知症は進行性の疾患であることから、就労が維持されても支援する同僚の負担が時間
の経過と共に増大し、次第に本人への不満感情が大きくなり職場風土の悪化が懸念される。こ
のことからも管理者は支援し見守りを行う従業員に対しても十分な配慮が求められる。
更に、あえて記述するなら、営利追求の民間企業において傷病を抱える社員を雇用すること
は、同僚に「明日は我が身の保障」を与えることで安心を与え、会社にとって企業の社会的責
任の履行で評価を高めることとなる。このことからも企業の「障害者雇用調整金」などの積極
的な制度履行を望みたい。
(4)経済的支援と制度の活用
若年性認知症の多くは就労中の年齢に発症し進行することから、退職では経済的困窮をきた
すことが大きな問題である。このことから、何としても就労の継続による収入の確保と医療福
祉の支援制度の早期活用が望まれ、勤務先の労務担当者と休職・退職などに関わる「就業規
則」の事前確認は早期の前提となる。
今回の事例の多くは、上位の管理職であったため会社から手厚いフォローを受けていたが、
それでも勤務先の人事労務担当者による就業規則などの情報提供・確認は、不十分な状態が見
られた。
又、実際、多くの事例において就労時から利用可能な医療、福祉支援制度の情報提供及び活
用がなされていなかった。事例3,5では、医療機関が変更になってから初めて諸々の制度の
情報を知り、診断・告知から数年以上もたっていた。
特に若年性認知症の患者さんは、経済的弱者の立場に立たされることから、認知症診断後、
就労中でも早期に利用可能な「精神障害者保健福祉手帳」の申請・取得、医療費の自己負担が
軽減される「自立支援医療(精神通院医療)」助成制度、傷病手当金その他の情報提供が、早
期になされることが望ましい。
現状は診断後、医療機関のソーシャルワーカーや退職後の介護保険サービスでのケアマネー
ジャーなどの支援専門職との連携がうまく機能していない実態が伺われる。
(5)家族に対する精神的サポート
家庭に居て認知症の夫、父を心配する家族の気苦労は大であり、また家族の方から職場に問
い合わせ相談できないことからも、家族への十分な気配り・情報提供も求められる。多くの事
例において、職場での本人の様子を家族に伝えるのは同じ職場の同僚であり、かつての部下で
あることが多かった。このことによる同僚の負担は、認知症者への支援だけでも負担が大きい
ものがあるのに、更に家族にも気遣って負担が増大している。この実態に対し会社は同僚の社
員をフォローする体制、制度を具体的に求められる。
以上、5事例を例に若年性認知症者のおかれている実態を検証し報告した。
当5事例の内、4例は定年を間近に控えてから発症していたことからいずれも円満に定年退
職しているが、再雇用・再就職は断念せざるを得ない状況にあった。このことは進行性の若年
性認知症の病態の厳しさを理解しなければならない現実を示している。
最後に、どの事例においても、何にもまして求められるのは診断・告知された後、勤務する
企業が認知症者を受け入れ雇用継続する寛容さと従業員への疾病の啓発と心理的支援であり、
また、早期に主治医・専門医と職場の労務管理者、家族の緊密な連携により支援制度・サービ
スの活用を図ることが望まれる。
以上、若年性認知症を取り囲む優しい社会の拡大を期待してやまない。
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− − = ー 一 − − − − 口 − 一 一 一 一 一 F , 一 一 一 一 一 一 一
Ⅳ 、 若 年 性 認 知 症 に お け る 雇 用 維 持 ・ 支 援
− − ー ニ ロ l ー − − − − − 一 一 一 一 一 F = F 1 一 一 一 一 一
勤医協中央病院
伊 古 田 俊 夫
「自分は働きたい、まだやれることがあると思う、だけどどうしたらいいかわからない、考
え出すともうわからなくなり具合悪くなる。これからどうやって生きていけばいいんだ」(札
幌市・若年性認知症実態調査2007、本人インタビューから)。
若年性認知症の方々の心の奥底には「働きたい」という渇望があります。その希望を何とか叶
えたいと家族、支援者、医療関係者が努力をされています。しかしなかなかうまく行かない現実
があります。その「現実」をごー緒に見つめながら、どう打開できるかを考えてみましよう。
[若年I性認知症の人と仕事、私の考え]
私は若年性認知症の人でも仕事をできるだけ続けて欲しいと願っています。突然仕事を失う
と生活が乱れ、精神状態、体調を崩すきっかけとなってしまうでしょう。退職するにしても時
間をかけできるだけ本人の納得を得て辞めていけるよう配慮が必要です。現代の社会の雇用環
境は厳しいものがあり、若年性認知症の人が働く環境は整ってはいません。社会制度の速い変
化、競争社会、不況と経営環境の悪化など…。しかしどこかに解決の糸□があるはずです。
一方で、ストレスの多い仕事の場合、その継続は認知症を悪化させることもあり、注意が必
要です。ストレス過多と判断された場合、仕事から離れることも必要です。仕事とは二面的な
もので、継続した方が良い場合とやめた方が良い場合とがあります。ご本人、ご家族としっか
り向き合い話合って決めていくことが必要です。
[これまでに診療を担当した患者さんの概況]
これまでに診療させていただいた若年性認知症の患者さんは47名(2007.4-2014.3)です。
病型別内訳は表1のとおりです。
47名のうち初診時に就労していた方は8名(表2)です。8名中7名がアルツハイマー型認
知症、1名がアルツハイマー型十血管性の混合型認知症でした。8名の方々の現在(2014年了
月31日現在)の状況は表2の通りです。この8名の方々の診療経験を墓に若年性認知症の雇
用支援について考えてみたいと思います。
雇用維持最長期間は4年、最短11ケ月です。最長4年の方は施設管理業務(ボイラー管理>
の方で、定年退職後も嘱託職員制度で働きつづけられました。ただし最後の−年間は仕事の遂
行は困難で事実上仲間のご好意で「在職」していたといえます。いわゆる転職に成功した事例
はありません。
表 1 病 型 別 内 訳
病型別疾患
血管性認知症
、管I性十アルツハイマー混合型
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型十アルコール性
レビー小体型認知症
前頭側頭型認知症
アルコール性
その他(低酸素脳症外傷性認知症舞踏病性)
表2初診時就労していた人
その後
就労継続(休職中を含む。公務、会社)
医師から退職を助言し退職(公務)
定年(早期を含む)まで働き退職(公務、
医療など)
解雇
事実上仕事ができなくなった(自営、
*悪性疾患発症)
若年性認知症の人が仕事を継続するうえでその障害となりうる下記の問題(1∼3)にそって
考察し、対策(4)を検討してみましょう。
1仕事能力の低下、
2社会的認知の能力の低下
3過大なストレス、避難の大切さ
4療養支援と就労訓練、リハビリ
[仕事能力の低下]
若年性認知症の人がうまく働くことができない理由の第一は記憶力や判断力、計算力など能
力の低下あるためです。計算や事務作業には一定の知的能力が必要で、若年性認知症ではその
低下のためにミスをしやすい状況にあります。仕事遂行上の「能力の低下」を補うには職場内
での仕事内容のフォロー、ミスのチェック、修正が必要です。
物忘れに基づく失敗の回避には工夫が必要です。メモを取り見えるところに貼っておく、時
刻を知らせるアラームを使用する、リマインダー(スマフォなどについている装置、予定時刻
が来ると予定を知らせてくれる)を使用するなどです。認知症になる前から使っている方法で
対処します。職場の机の周りが「メモでいっぱい」になるかもしれません。
若年性認知症の人が長期間の雇用継続に成功している例は「単調で変化の少ない仕事」につ
いている場合です。農業や物づくり、施設管理などの仕事では仕事内容が変化しない場合、
持っている知識で仕事が継続できます。持っていた知識で仕事を継続できると相当長期にわた
り仕事ができます。一般に転職は困難です。新しい仕事内容を新規に覚えることは単純な労働
でも難しいと思われます。私の患者さんで成功した方はいません。
[社会的認知の能力低下]
若年性認知症の方々が仕事に行き詰まり、職場での支援が得られにくくなる第二の問題(さ
「職場の周りの人々とうまくやっていく能力」の低下という問題があります。周りの人々の苦
1 "
2毎I
労も理解し、自分のことも分かってもらい上手に仲間と仕事や人間関係をこなして行く能力、
これを「社会的認知」の能力と呼びます。若年性認知症では「社会的認知」の力が落ちてしま
い、周りの人々とうまくやっていけなくなる現象(症状)があり、それが若年性認知症の人が
職場になじめない大きな原因となっています。
若年性認知症の人が職場に発生した場合、職場の同僚は支援・援助を惜しみません。診察の
機会に「職場の同僚からは良くしてもらっている」などの言葉が多くの方から聞かれます。し
かしやがて職場の支援体制は徐々に失われていきます。なぜでしょうか?
認知症の人が周りの人の気持ちを理解できない、職場の方たちの支援を理解できない、認知
症の人自身の言動が周りを混乱させてしまうことがある、などの事態が発生してくるためで
す。自分の作った書類を同僚がダブルチェックしているのを見つけると「何余計なことやって
いるのか」などと攻撃的な態度をとる、自分のミスをあげつらわれていると勘違いしているの
です。周りの人がいろいろ苦労し配慮してくれている、周囲の配慮で仕事を継続できている現
実を当人は理解できていない、そのギャップが立場を決定的に悪化させてしまいます。
私は若年性認知症の人が働く職場の管理者と話合いを持ったことがあります。仕事上のミス
の問題とは異なる次のような指摘を受けました。お伝えしにくい内容ですが、大切な問題です
のでリアルに書かせていただきます。
「仕事中私語が多い(飼っている犬のことなど)、そのため職場全体が仕事に集中できない、予
定された休み以外にもしばしば休む、注意すると「何か問題ですか」と言い返される、仕事への
意欲はあまり感じられない、職場として相当に配慮しているがそれを分かってもらえない…。」
人の気持ちを分からなければ良い人間関係は作れません。自分の周りの人々の気持ち・感情
を理解することは良い人間関係を作る基礎です。その能力を「社会的認知」と呼び、社会性、
協調性を生み出す認知的能力です。先に述べた若年性認知症の人の職場における言動は社会的
認知の力が落ち、社会性・協調性が低下し、周りの人々うまくやっていけなくなったのです。
[社会的認知の障害を直視し支えよう]
「自分のことや周りの人の気持ちが分からなくなる」という症状、社会性、協調性の低下
(社会的認知の力の低下)は何故うまれるのでしょうか?
その原因は社会脳と呼ばれる脳の障害で発生します。認知症医学の歴史の中で「社会脳」
「社会的認知」という問題はあまり関心を持たれませんでした。しかし2013年5月、米国精神
医学会で正式に「社会的認知の障害」が認知症の基本症状と認められ、診断基準の1項目とし
て採択されました。今後は認知症を語る時には「社会的認知」「社会脳」という言葉がどんど
ん登場するでしょう。多くの方がそれを理解してくれるようになるでしょう。若年性認知症の
人の社会的活動を支える時、社会性や協調性が落ちている(社会脳の働きが低下している)と
いう視点から若年性認知症の方々の問題を考える必要があります。
職場での障害の一般的なサポートは能力が低下した部分を支援すればうまく行きます。若年
性認知症では能力低下部分のサポートに加え、社会性・協調性の低下のフォロー、サポートが
大切となります。
[過大なストレス、過酷な仕事からの避難]
世の中には特別ストレスの大きな仕事があります。いつでも周囲の目にさらされ監視され休
む暇の無い職業などです(例タレントやアナウンサー、首長や議員など)。私が診療を担当
した方を紹介します。50代の地方議会議員さんです。数年前物忘れがあると受診されまし
た。診察室では長谷川スケール、ミニメンタル検査などでほぼ満点に近い状態で推移しまし
た。周りの方々からは物忘れが目立つと心配の声が寄せられました。演説や講演は可能でした
が質疑応答で多数の質問を同時にされると対応困難となります。
記憶テストでは軽度認知障害(MCI)レベルでしたが、脳血流SPECTではアルツハイマー
型認知症の所見を示しました。過大なストレスを鑑み私はご本人に引退を助言しました。引退
後この方は大変明るくなり、長谷川スケールも一時期改善しました。退職を助言することは医
師にとっても苦しいことですがしなければならないことがあることをご理解いただきたいと思
います。
[療養支援、就業訓練、リハビリ]
若年性認知症の皆様が認知症の療養と仕事の継続を目指している時、どうしても療養のこと
は通院して服薬を続ける程度で片手間になりかねません。しかしこの時期こそしっかり病気と
向かい合うことが大切です。
雇用継続支援の中心は働いている職場での仕事を継続するよう支援することです。職場に病
名を伝えることは必要ですが、家族からの説明という形がよいと思われます。また「疑い病
名」段階で'│荒ててはなりません。認知症といううわさが立つだけで解雇への動きがでることも
あります。
各種の認知症予防策を実践しましょう。運動と食事などが中心です。内容についてはここに
は字数の関係で書けませんがぜひ書籍などを参考にされてください。認知症予防策とは生活の
改善策でもあります。きちんと取り組むよう廻りの方々はぜひ支援しましょう。
若年性認知症の方のための就業訓練は未だ行われていません。研究と創意・工夫の必要な分
野であり、家族会やサポートセンターとしても研究課題です。転職、復職に挑戦するためには
軽度認知症の方々のための“就業訓練”などの整備が望まれます。
介護保険では最近、機能訓練専門デイサービス、リハビリ特化型デイケアなどが普及してい
ます。これらの内容は若年性認知症の皆様に十分役立つと思われます。また仕事的な内容(家
屋の修理、公園の清掃・遊具修理など)を取り入れたデイケア、デイサービスも注目されてい
ます。ぜひ事業者の方々取り組んでいただきたく思います。
医療機関での認知症のリハビリテーションは冷遇されており、認知症、アルツハイマー病などと
いう病名はリハビリの対象になっていません。高次脳機能障害という病名で細々とリハをしており
ます。病院医療で「認知症をリハビリテーションの対象とする」ことを強く求めるものです。
注:本稿はひまわり塾(2014年3月15日、北海道若年性認知症の人と家族の会主催)でお話
しした内容をまとめたものです。
−房L望
22
− − − 一 一 − 一 ■ 一 一 一 一 ー − − 一 一 一 一
V . 就 労 時 か ら 退 職 前 後 ま で の 主 な 支 援 制 度
− −
気づき
受 診
就業継続
休 職
職場復帰
退職の検討
退 職
再就職活動
− − 6 = − − ー
経 過
認知症を専門とする医師のいる医療機関、もの忘れ外
来を標傍している医療機関に受診をして診断を受ける。
①自立支援医療(精神通院医療)
②精神障害者保健福祉手帳申請
就業について主治医や産業医、職場の担当者との相談
①現在の就業を継続
②仕事内容の変更、職位や役割の変更、就業時間の変
更やサポートによる就業を継続
休職に関する職場の就業規則を確認
①有給休暇の利用の検討
②傷病手当金利用の検討
退職に関する職場の就業規則を確認
退職後に加入する健康保険の選択
①健康保険任意継続
②国民健康保険(保険料は退職前年の収入により決定
されるため、1年間は①の任意継続をすることが多
い)
③家族の健康保険被扶養者
退職後の年金受給について検討(障害年金受給、老
齢基礎年金の繰り上げ支給など、受給者にとっての
有利な選択)
・介護保険制度についての情報収集
・雇用保険の手続き(離職が解雇なのか自己都合なの
かによって受給内容に違いがあるため、ハローワー
クで状況を説明する)
年金の切り替え(60歳前に厚生年金・共済年金から退
職した場合、国民年金への切り替えをする)
健康保険の切り替え
失業給付を受けながら再就職を検討
障害者総合支援法による障害者就労支援事業
介護保険認定申請(デイサーピス/デイケアの利用
地域活動支援センター等での作業や活動
在宅での社会参加
ト ー ∼ 一 一 − 一 一 ー ウ 一 一 一 − − −
│利用可能な制度相談窓□
自立支援医療(精神通院医療)
→市町村窓□
精神障害者保健福祉手帳
→市町村窓□
傷病手当金
→健康保険組合
障害年金制度
→年金事務所
市町村障害年金窓□
介護保険制度
→市町村介護保険窓□
雇用保険制度
→ ハ ロ ー ワ ー ク
→就業・生活相談事業所
→市町村障がい者支援
窓□
利用可能な制度の一口メモ
し
手
続
き
な
ど
の
予
定
日
を
記
入
く
だ
さ
い
。
洲ユョー
月 E
/
/
/
/
/
/
/
/
そ
O
f
制 度
精神障害者
保健福祉手帳
自立支援医療費
(精神通院医療)
助 成 制 度
傷病手当金
雇用保険制度
障害年金制度
障害者総合支援法
による就労支援
所得税・住民税の
障害者控除
介護保険制度
国民健康保険料の減免、国民年金保険料の法定免除、生命保険の高度障害認定、
住宅□−ン免除、介護休業制度(介護する家族のための制度)、身体障害者手帳
修学援助制度
企業の障害者雇用
納付金制度
説 明
症状や生活状況によって、1∼3級の各種優遇措置を受けられ
る。この手帳は若年認知症の診断を受けた後に申請し、税金
の控除・免除やNHK受信料の減免などが受けられる
精神医療に係る医療費のうち、医療保険の本人負担分の一部
を公費負担する。総医療費のうち、原則として本人負担は1
割に軽減される。病院以外に薬局、デイケア、訪問看護ス
テーシヨンも該当する、
職場の健保組合・共済組合に加入している本人が、病気やけ
がなどで休業する場合、療養中の生活保障として支給され
る。国民健康保険には適用されない
離職し就職する意志はあるが職につけず、求職活動を行って
いる状態にある場合、失業給付(基本手当)が支給される《
公的年金に加入中、障害の程度と一定の要件によって支給さ
れる。障害年金には①国民年金の障害基礎年金②厚生年金の
障害厚生年金③共済年金の障害共済年金があり、申請の要件
は障害の原因となった傷病の初診日から、1年6カ月経過し
ていることが原則。
通常の就業は困難だが働きたい人のための障害者の就労支援
制度。就労継続支援として雇用型と非雇用型があり、就労移
行に必要な訓練として就労移行支援がある二
「精神保健福祉障害者手帳」を取得することで税金の控除等が
受けられる。介護認定を受けている場合、「障害者控除認定証
明書」にて申告する
「初老期における認知症」の場合、40歳から64歳までは介護
保険の第2号被保険者に該当し、介護保険サービスを利用で
きる:
障害者の雇用促進を図るために、法定雇用率を超えて雇用し
ている事業所に対して、各種調整金、助成金等が支給される。
24
一 一 鼻 ' 一 一 一 凸 一 一 一 一 一
h − − − − − − P ー − − − − −
一 ー
Ⅵ、若年性認知症の理解と治療
− − −− − − − −
−
北 海 道 医 療 大 学 心 理 科 学 部
中 野 倫 仁
(1)はじめに
認知症とは、18歳以降の時期に何らかの原因で脳の機能が持続的に障害されて低下した状
態をいいます。一般的には、少なくとも6カ月間は続くことが想定されています。その原因と
しては、①脳に異常なたんぱく質などが沈着しておこる場合、②血管障害のために脳の機能が
障害される場合、③感染症のために脳の機能が障害される場合、④頭部の外傷による場合、⑤
脳以外の臓器(甲状腺など)の障害のために脳の機能が障害される場合などに分けられます。
多くは記憶力の障害を認め、加えて判断力や思考力などの減退を認めるとされています。この
うち、18歳から64歳までの間に発症した認知症を若年性認知症といっています。65歳以降発
症の老年期認知症と区別する理由としては、認知症のタイプによっては、若年期に発症すると
進行が早く症状も老年期発症のそれと異なることがあるということや、職業や家庭での役割が
相対的に重い時期に相当することなどがあります。
若年性認知症の原因疾患の順位としては、我が国には正確な統計はありませんが、専門家間
の間では、第1位はアルツハイマー型認知症、第2位は血管性認知症(脳血管性認知症ともし
う)、第3位以降にレピー小体型認知症や前頭側頭型認知症(前頭側頭型変性症ともいう)が
続くと考えられています。
(2)アルツハイマー型認知症
1906年にAアルツハイマーが報告し、当時非常に珍しい認知症とされていたものですが、
今日では最も多い認知症となっています。その原因としては、脳内にアミロイドたんぱくとし
う異常な物質が沈着するために、神経細胞が死んでしまい、脳が萎縮するためと考えられてじ
ます。沈着する理由はまだ不明なため、根本的な治療法は分かっていません。症状は徐々に進
行性に出現することが多く、ある日突然に発症するということは基本的にはありません。病初
期には、最近の物事を忘れる近時記憶障害や近所で道に迷う道順障害などが生じますが、程度
の軽い場合は見過ごされることが多いです。中期になると、過去の出来事が思い出せない、簡
単な字が害けなくなる、日常的に使用する物品を正確に用いることができないなどの症状が生
じてきます。具体的には、ネクタイの結び方が分からなくなる、針仕事が不正確になる、炊飯
器の操作ができなくなる、鏡に映った自分の姿に話しかけ続けるなどの事例があります。末期
になると、高度な知的低下を示し、寝たきりになります。
原因が不明ですので予防法は確立していませんが、調査研究により相対的になりやすい人が
分かっていて、女性であることや年齢を問わず糖尿病、喫煙、高脂肪摂取などが危険因子であ
り、若年期については高血圧や肥満もリスクを高めます。一方、発症を抑制する因子として
は、適度な運動、知的刺激を伴う余暇活動、魚の高摂取などが知られています。しかし、これ
らの生活習慣の管理によって発症を完全に防止できるわけではなく、もちろん発症した人の自
己責任であるというようなことではありません。
アルツハイマー型認知症を確実に診断できる方法がまだないため、記憶力検査などの心理検
査、CTやMRIなどの脳形態検査、SPECTなどの脳血流検査などを用いながら、症状を総合
的に判定して診断します。若年期では典型的な症状が揃うことが多く、専門家であれば比較的
正確に診断できるとされています。
治療法としては、脳で不足している物質を補うような薬物(コリンエステラーゼ阻害薬)や
神経細胞が減少するのを遅らせる薬物が使用されており、進行を遅らせることが期待できます。
(3)血管I性認知症
脳梗塞や脳出血などのいわゆる脳卒中の結果として起こる認知症です。19世紀には存在が
知られていました。嘗ては、認知症の原因第1位でしたが、1980年代から1990年代にかけて
減少してアルツハイマー型認知症と順位が入れ替わりました。これには降圧薬の服用の必要性
が認知され、高血圧の管理が改善したことが関係しています。ただ、我が国では最近になり糖
尿病の増加によって低下傾向に歯止めがかかり、現在の発生率は横ばいであるとする報告があ
ります。
生活習慣病(高血圧症、糖尿病、高脂血症)による動脈硬化が原因であることが多く、突然
の発症や階段状の発症、またはアルツハイマー型認知症のように進行性の発症する場合など
様々なタイプがあります。血管障害が必ずしも脳の部位で均一に生じるわけではないことか
ら、症状はまだら状であることが多く、記憶障害が高度であっても、一般常識や判断力の障害
が軽いことがあるとされています。身体症状としては、初期からの歩行障害や泌尿器科疾患に
よらない排尿障害などを示す場合があります。画像診断では、CTやMRIで血管病変を確認
することが必要ですが、画像所見の存在十認知症=血管性認知症とは限りません。血管病変に
対応する症状がない場合などは、血管病変を持つアルツハイマー型認知症の可能性があること
が、専門家の間では知られるようになってきました。この場合は、アルツハイマー型認知症と
しての治療が必要です。
血管性認知症では、生活習慣病の予防により進行抑制や改善が期待できるため、日頃からの
内科的管理が重要となっています。また、血管障害を生じてからも、再発防止のための薬物投
与に効果があるとの報告も増えています。
(4)レビー小体型認知症
運動障害や姿勢障害を生じるパーキンソン病という難病にはレビー小体というものが脳の一
部に沈着することが知られています。最近、これが大脳全体に沈着して認知症を生じることが
あることが分かってきて、レピー小体型認知症といいます。症状としては、進行する記憶障害
に加えて、短時間の間に注意や意識が変動する、リアリテイのある幻視が出現する、パーキン
ソン病と同じような運動障害や姿勢障害がみられる、などの特徴があります。また、睡眠中に
大声や著しい体動を呈することなども特徴的とされています。従来、アルツハイマー型認知症
と診断されていた人の中に本症が多く含まれていたことが分かってきました。
Th!
26
画像診断では、脳のSPECTや心臓の核医学検査(^I-MIBG心筋シンチ)で特徴的な所見
がある場合の診断精度が高いことが知られています。他の認知症に比べて、診断に特殊な検査
が必要なため、より専門家への受診が必要とされる疾患であるといえます。
薬物治療としては、アルツハイマー型認知症に用いられるコリンエステラーゼ阻害薬の有効
性が知られています。また、興奮やせん妄に対して用いられる抗精神病薬により副作用が出や
すいため、専門家でも慎重な対応が必要とされています。
(5)前頭側頭型認知症
脳の前方部である前頭葉や側頭葉が限局的に萎縮して特徴的な行動異常を生じる認知症のこ
とをいいます。類縁の症状を示す認知症があと2つあり、合わせて前頭側頭型変性症という場
合もあります。
症状としては、記憶障害より行動障害が目立つのが特徴です。自分の要求や他からの刺激に
反応して反社会的行動を起こしたり、他人を小馬鹿にしたりしますが、反対に自発性が低下し
無関心になることもあります。また、同じ文章を繰り返し話し、毎日同じ行動を時刻表のよう
に正確に繰り返すなどの常同行動をとることもあります。人格変化が目立ちますので、認知症
ではなく他の精神障害と間違われることもあります。若年期において、セクハラや万引きなど
の非行行為が出現した場合などに本症の可能性を考えてみるべきとされています。画像診断で
前頭側頭葉の障害が明らかでない場合でもそれだけでは本症を否定することはできないと考え
られます。
薬物療法として、抗うつ薬が常同行動に効果があったという報告がありますが効果は限定的
です。介護者を含めたケアがより重要になってくる認知症であると言えるでしょう。
(6)うつ病と認知症の鑑別
従来は中高年期以降のうつ病が、あたかも認知症のように見える「仮性認知症」の存在が指
摘され、両者を区別する必要性が強調されてきました。ただ、うつ病と認知症は同時期に存在
することも多く、必ずしも「認知症かうつ病か」という議論にはならないことが分かってきま
した。また、認知症に見られる「抑うつ」は、うつ病に認められる自責感、希死念慮、抑うつ
気分などが明らかでなく、自発性や興味・関心の低下が目立つものが多いという特徴がありま
す。したがって、意欲低下が前景に立ち、症状に深刻味を欠く場合は、一見うつ病のように見
えても、認知症の可能性を考えなければならず、注意が必要です。
(7)BPSDとその対応
認知症には、従来から中核的症状と考えられてきた記'億障害、実行機能障害などに加えて、
妄想・幻覚などの精神症状や攻撃性・俳個などの行動症状(両者を合わせてBPSDという)
が存在します。多くは進行した時期に出現しますが、全例に見られるわけではありません。適
切なケアがなされれば軽快することも多く、周囲の対応が重要です。ただ、向精神薬を短期間
(おおむね3カ月以内)使用しなければならない場合もあります。
拳
就労における支援の原則と対応のキーワード
−若年認知症社会参加支援センターでの支援から一
1認知機能障害のある人が作業を行う上で困難なこと】
壱二
鉾雪
久一亀戸
(’L ー
1作業目的の維持とその照合機能(点検・検証)の両方を同時的に行うことができない
2.常に緊張・不安があり、小さなパニックがおきている
3.行動を言語概念でまとめることが難しく、頭の中で未整理になっている、従って
すぐには答えられず、自分は「これでいい」とする同定がゆらいでいる。
1認知機能障害のある人の作業設定の原則し
原則1.作業の動作はできるだけシンプルにし、一度に複雑な動作を入れ込まなし
原則2.見本やモデルを見せて目的(行動)をわかりやすく伝える
原則3.準備の段階から参加し作業の流れがわかり、乗れるようにする
原則4.本人なりに試行錯誤をしている時は自R轄理の機会として尊重する
原則5.一緒に振り返る、努力と達成の経過を味わえるようにする
【対応のキーワード一惑わないようにするためにできること−】
作業の説明、メモや物、動作などの手がかりの提示、誘導、声かけ、動作援助、見守
り、同行、賞賛
比留間ちづ子.若年'性認知症の実態と地域生活への支援より抜粋
一特集若年性認知症の地域生活一地域リハビリテーション2013.2三輪書店
職場における若年性認知症の人の“支援のポイント”
自立と支援は別ものと考えている人もいますが、障害者や病気の人の場合は、“支
援があって自立の力が出る”ものです。認知症の場合もどんなに軽くてもサポートは
必要です。
■認知症であっても人や社会と繋がっていることで生きる力、能力を発揮する力
になっています。
できるだけ、孤立、孤独にさせない対人関係つくりの配慮が必要です。
■本人の状態は体調により波があり、作業が進まない時やできていたことが一時
的にできないこともあります。せかさず様子をみてください。
■集中力が続かない時は休憩の時間を短時間とって再開すると良いでしょう。
■"安易”に手伝うのは良くありませんが、失敗しそうな作業、戸惑いが起きそう
な作業はできるだけ先回りに準備をしたり、声かけをし失敗体験をしないよう
に配慮しましょう。
■本人の仕事は「できること」が前提です。仕事が無理となっているかどうか、
他の仕事が可能かどうか「見極め」が大切です。無理になってきた時の判断や
対応について話し合っておきましょう。
■状態により出勤・帰宅時間、就業時間、就労日数なども変更可能な選択肢を検
討しておくことも大切でしょう。
職場の中で対応に戸惑う場合は、主治医にまたは産業医に相談してみましよう。
1^!
■ Fcommunication4
28
就労している若年I性認知症の人との− − − −
コミュニケーション−
【若年性認知症の人は
●職場では何とか自分を保とうとして四苦八苦しています。
●言葉が出ずらいため、疑問や不明な点を人に聞くことができない人もいます。
●失敗をしないよう必死に頑張る人、失敗は自分ではないと防衛する人もいます戸
●周囲の人の自分に対する感情や表情は敏感にキャッチしています。
1ポイント
・本人に対応する時、本人に集中して接しましよう
・本人の言葉の一部を使って話を続けることもよいでしょう。
例:本人のにれ、わからない…」に、「わからないって?
ましようか」
・本人と目線を合わせて話しましょう
.本人の感情や感覚にあわせましょう
大丈夫ですよ、○○してみ
【 接 し 方 1
役割を持つ
・今まで仕事をしてきた人にとって、人から必要とされ、人に役立つことは重要なことで
す。人とのつながりを保ちながら何らかの役割、達成感が得られる環境が望ましいです。
行動を共にする
・戸惑いや失敗体験をできるだけしないよう声かけをし、行動を促す時は強制せず、一緒に
行動しましよう。
簡潔に伝える
。一度にいくつもの事を話したり指示をすると混乱しやすいです。簡単な短い言葉で話しま
しょう。
感I情に働きかける
・認知症の人は脳で理解して行動することは苦手でも感情や感覚は敏感です。
本人は孤独感、自信喪失感、など不安と緊張で仕事をしています。
うまくいった時は笑顔で不安を和らげ、リラックスするように接しましょう‐
思いやりを持ち接する
・認知症は病気です。部分しか見えない月でも丸い月であるように人格はあるのです。
・周囲から怒られたり、冷たくされたり、無視されたり、指示命令されたりすると、不安で
怒りや興奮が起きやすくなります。周りか
りが感じられるように接しましょう。
言葉だけでなくジェスチャーもつける
話をする時、言葉だけでなくジェスチャー
「コミュニケーションのとり方、接し方」:もしも若年性認知症
ら受け入れられ、支えられているという思いや
なども添えるとわかりやすいです←
になっても.北海道.2011.3より抜粋・改編
201503 職場における若年性認知症の人への支援手引き(北海道ひまわりの会)
201503 職場における若年性認知症の人への支援手引き(北海道ひまわりの会)
201503 職場における若年性認知症の人への支援手引き(北海道ひまわりの会)
201503 職場における若年性認知症の人への支援手引き(北海道ひまわりの会)
201503 職場における若年性認知症の人への支援手引き(北海道ひまわりの会)
201503 職場における若年性認知症の人への支援手引き(北海道ひまわりの会)

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