2014年11月22日の第31回国際コミュニケーションフォーラムでの情報通信学会・個人研究発表資料です

1. ネット流言の行動コストと対処行動 との関連についての実験研究報告
2014年11月22日
関西大学 小笠原盛浩
駒澤大学 山口浩
第30回情報通信学会大会
第31回国際コミュニケーションフォーラム

2. 背景
•ソーシャルメディア上の流言に対する懸念
–コスモ石油コンビナート火災に伴う「有害物質の雨」流言等
–警察庁から通信事業者等に不確かな情報の確認や利用者 への注意喚起を要請
•一方で、
–流言は現状を解釈するための集合的コミュニケーション （Shibutani, 1966、DiFonzo & Bordia, 2007等）
–誤った行動で実害が出ない範囲ならば、許容されるのでは
–流言の流通自体よりも、流言によって実害を伴う対処行動 が引き起こされることを抑制するべきでは

3. 問題意識・概念定義
•問題意識
–災害時のツイッター流言が、人々の対処行動を 引き起こす際の影響要因は何か？
•定義：（流言への）対処行動
–流言によって勧告された、脅威に対応するための 特定の対処行動
–※脅威アピール研究（後述）に対応

4. 分析枠組み（１）
•脅威アピール
–「脅威の危険性を強調して受け手を脅すことに よって、脅威に対処するための対処行動の勧告 にたいする受け手の受容を促進させようと意図さ れた説得コミュニケーション」（深田, 1988)
•流言を脅威アピールの一種と見なす
–「千葉市近辺に在住の方！コスモ石油の爆発に より有害物質が雲などに付着し、雨などといっ しょに降るので外出の際は傘かカッパを持ち歩き、 身体が雨に接触しないようにしてください！！！」 （コスモ石油流言）

5. 分析枠組み（２）
•修正版防護動機理論（Rogers, 1983)
–防護動機
•勧告された特定の対処反応を実行する意図
–2種類の認知的評価が結合
•脅威評価（対処行動を取らないことへの評価）
•対処評価（対処行動を取ることへの評価）
–脅威評価と対処評価の要因間で交互作用
•脅威評価の生起確率、対処評価の反応コスト

6. 修正版防護動機理論のモデル略図
情報源
対処
様式
認知的媒介過程
行 動 / 行 動 抑 制
環 境 的 / 個 人 内
防 護 動 機
脅 威 評 価
対 処 評 価
不 適 応 反 応
適 応 反 応
内 的 報 酬 外的報酬
対 処 行 動
の効果性
自 己 効 力
反 応 コスト
深 刻 さ
生起 確率
－
－
＝
＝
増加
減少
Rogers(1983) から作成

7. 仮説
•仮説1：脅威の生起確率が高いほど、防護動機が高くなる
•仮説2：脅威への対処行動のコストが高いほど、防護動機が 低くなる
•仮説3：防護動機について、脅威の生起確率と対処行動の コストの間には交互作用がみられる
•仮説4：マスメディアのツイッターアカウントの方が個人のツイッ ターアカウントよりも情報源としての信憑性が高く評価される
•仮説5：マスメディアのアカウントから発信された流言ツイート の方が、個人のアカウントから発信された流言ツイートよりも、 脅威の生起確率が高く評価される

8. 方法
•質問紙実験
–実施時期： 2014年7月
–対象者 ： 関東・関西の大学生
–抽出法
•講義受講者に集合法により調査実施
•場面提示（4パターン）をランダムに割り当て
–回答者数：428名
•うちTwitter利用者の344名のデータを使用 （男性：148名、女性：194名、不明2）

9. 実験デザイン
•2 要因被験者間実験
–情報源（2）×対処行動コスト（2）＝4パターン
•情報
–マスメディア（NHKニュース）
–友達
•対処行動コスト
–高コスト条件 ： 防災用品セット（1万円）
–低コスト条件 ： 3日分の飲料水（数百円）
•場面提示文を読ませた後、質問票に回答させた

10. 場面提示の例
深夜、あなたが家にいたところ、急に家具が激しく揺れ、 食器が落ちて割れました。揺れがおさまったころ、ツイッターで 以下のツイートを目にしました。 「 @nhk_news 気象庁の発表では、○○地方で最大震度6強の 地震が数日中に発生すると予想されます！ 震災に備えて防災用品を用意してください #nhk_news」 （注 @nhk_newsは、NHKニュースのアカウント名です。 あなたはツイッターでNHKニュースをフォローしていたとお考えください。 また、「○○地方は、あなたが住んでいる地方とお考えください」） あなたの家には防災用品がありません。 近所のスーパーでは、防災用品セットが1万円で売られていました。

11. 従属変数
•防護動機（対処行動実行意図）
–「あなたは、次のことをしますか？」 「このツイートで用意するように書かれていた物を買う」
–「確実にする」～「確実にしない」 の5件法
•脅威の生起確率
–「どのくらい「数日中に、さらに大規模な余震」が起こりそう だと思いますか。」
–「確実に起こる」～「確実に起きない」 の5件法
•情報源の信憑性
–「このツイッターアカウントのツイート情報は、基本的に信 用できると思いますか。」
–「非常にそう思う」～「まったくそう思わない」の5件法

12. 独立変数
•脅威の生起確率
–防護動機の独立変数として
–※情報源条件は生起確率を直接操作している訳ではない
•対処行動コスト評価
–「このツイートで用意するように書かれていた物を買う ことが、どのくらいあなたにとって負担だと思いますか。」
–「非常に負担だ」～「まったく負担ではない」の5件法

13. 場面操作の有効性チェック
•情報源条件により脅威の生起確率得点を比較
–NHK条件（M=3.18）、友達条件（M=2.93）
–t=-3.046、df=342、p<.01
–仮説5：マスメディアのアカウントから発信された流言 ツイートの方が、個人のアカウントから発信された流言 ツイートよりも、脅威の生起確率が高く評価される ⇒支持
•対処行動コスト条件によりコスト評価得点を比較
–高コスト条件（M=3.53）、低コスト条件（M=3.02）
–t=-4.713, df=342、p<0.001

14. 結果１：情報源と信憑性
•t検定結果
–NHK条件（M=3.20）、友達条件（M=2.61）
–t=-6.108, df=342、p<0.001
•仮説4：マスメディアのツイッターアカウントの方が個 人のツイッターアカウントよりも情報源としての信憑 性が高く評価される
•⇒ 支持

15. 結果２：情報源・対処行動コストと防護動機
• 2要因分散分析結果
平方和自由度平均平方F値
情報源4.217 1 4.217 4.675*
対処行動コスト31.59 1 31.59 35.024***
交互作用0.406 1 0.406 0.450
誤差303.956 337 0.902
合計341.308 340
仮説3は棄却？
n 平均SD n 平均SD
情報源：NHK 87 2.56 0.898 91 3.24 1.036
情報源：友達83 2.41 0.924 80 2.95 0.926
高コスト低コスト

16. 結果３：生起確率・対処行動コスト評価と防護動機
•階層的重回帰分析結果（従属変数：防護動機）
•仮説１、２、３ ⇒支持
β（モデル1）β（モデル2）β（モデル3） 性別 .113* 0.076 0.077 情報源条件（1：友達、2：NHK） .121* 0.055 0.06 対処行動コスト条件（1：低、2：高） -.296*** -.272*** -.273*** 脅威の生起確率評価 .323*** .334*** 対処行動コスト評価 -.174*** -.177*** 交互作用項（生起確率×コスト） -.114* R2 0.12 0.247 0.260R2変化量 0.12 .127*** .013*

17. 結果：まとめ
•◎仮説1：脅威の生起確率が高いほど、防護動機が高くなる
•◎仮説2：脅威への対処行動のコストが高いほど、防護動機が低 くなる
•◎仮説3：防護動機について、脅威の生起確率と対処行動の コストの間には交互作用がみられる
•◎仮説4：マスメディアのツイッターアカウントの方が個人のツイッ ターアカウントよりも情報源としての信憑性が高く評価される
•◎仮説5：マスメディアのアカウントから発信された流言ツイートの 方が、個人のアカウントから発信された流言ツイートよりも、脅威 の生起確率が高く評価される

18. 留意点
•生起確率と対処行動コストの交互作用関連
–情報源条件 ＝ 生起確率 ではない
–「防災用品セット」と「飲料水」では対処行動の効果性 評価が異なったかも？
•場面提示のワーディング不一致（手続きミス）
–場面提示
•「最大震度6強の地震が数日中に発生すると予想され ます！」
–質問票
•「どのくらい「数日中に、さらに大規模な余震」が 起こりそうだと思いますか」

19. インプリケーション
•Twitter流言により脅威アピールが行われても、 勧告される対処行動のコストが高い場合は、 （脅威を信じたとしても）対処行動が実行に 移される可能性が抑制される
•反面、マスメディアや政府・自治体等が災害時に Twitter上で対処行動を告知したとしても、 対処行動コストが高い場合は、（災害被害が甚大で 発生確率が高いとしても）対処行動が実行に 移される可能性が抑制される

20. •DiFonzo, N., & Bordia, P. (2007). Rumor Psychology, Washington: American Psychological Association.
•深田博己 (1988) 『説得と態度変容－恐怖喚起コミュニケーション研究』 北大路書房
•木村堅一 (2002) 「脅威認知・対処認知と説得：防護動機理論」 深田博己（編著）『説得心理学ハンドブック－説得コミュニケーション研究の 最前線』, 北大路書房, 374-417.
•Rogers, R.W.(1983) Cognitive and physiological process in fear appeals and attitudes change: A revised theory of protection motivation. In J.T. Cacioppo & R.E.Petty (eds.), Social psychophysiology. New York: Guilford Press. Pp.153-176
•Rosnow, R. L., Esposito, J. L., & Gibney, L. (1988). Factors influencing rumor spreading: Replication and extension. Language & Communication, 8, 29–42.
•Shibutani, T. 1966 Improvised News: A Sociological Study of Rumor. Bobbs- Merrill, Indianapolis.
参照文献