SlideShare ist ein Scribd-Unternehmen logo
1 von 52
Downloaden Sie, um offline zu lesen
統一理論はできるのか?



  京都大学 基礎物理学研究所

     野尻 美保子
1)力の統一と素粒子実験
 4つの力とはなんだろうか


2)ストリングの統一理論
   重力の理解をめざして
3)ストリング理論は検証可能か
重力と電磁力
• 重力と電磁力          物質は引き合う

もっとも身近な力。
                 光は遠くまで
 • 「重力子」と「光子」の   伝わっていく。
  やり取りから生まれる。
  遠くまで届く力。

 • 遠くまで届く力がなけれ
  ば、われわれはお互いの
  存在を知ることはない。
力の強さ           1/(距離)2

• 重力:力の強さは質量mに比例
           m1 m2
    F = GN
            r2
• 電磁力:力の強さは電荷Q に比例
           2 Q1 Q2
    F =   e
              r2

水素原子をつくる陽子と電子の間に
    はたらく力でみると

   重力:電磁力= 10-40:1
「弱い力」と「強い力」
• 太陽の寿命を決める「弱い    弱い力
力」

 • 陽子2つ→重水素+陽電子
  +ニュートリノ(弱い力、
  反応は1010年に一回)

• 太陽の出す熱に関わる「強い
力」

 • 重水素+陽子→ヘリウム3
  →。。。(強い力。早い反
  応(3秒)と高い熱の発     強い力
  生)
現在の素粒子像
• 強い力 「グルーオン」交換                
p=(uud), n= (udd)

• 弱い力: W粒子 Z粒子交換 (重さは陽子の80倍)
• 電磁相互作用: 光の交換 
 • ゲージ相互作用
 • 重力を除く3つの力を伝える粒子は、それぞれある群の微
   少変換に対応している。強い力は「SU(3)」、電磁力と弱
   い力は「SU(2) とU(1)」

 • 電磁力と弱い力は「SU(2)」と「U(1)」という2つの力が
   混ざったもの。                    
                              
                              

  電荷の強さ SU(3):SU(2):U(1)=1/8: 1/30: 1/60
物質によって力の感じかたは違う
                SU(3) SU(2) U(1)Y U(1)EM
陽子     (u,d)L    ✓     ✓     1/6 2/3,-1/3
中性子     uR       ✓           2/3   2/3
        dR       ✓          -1/3 -1/3
       (ν,e)L          ✓    -1/2 0,-1
        eR                   -1     -1

 • 粒子はゲージ群の作用で互いに移り変わる。
 • 「内部スピン。」
 • 電荷の値が複雑、3世代
弱い力が「弱い」のは?
• 素粒子は力を伝える粒子を吐
き出して、他の粒子と「相互
作用」しようとする。

• W粒子は重いので、放出する
にはエネルギーがあわない。


     ΔxΔp= /2
  (不確定性)
「量子力学」の不確定性ために放出されW粒子は、ほんの少しの距離
( /m W )だけ存在することができる。近くにきた粒子とは力のやりとり
                  ができる。
対称性とその破れ

•   真空中には、特定のゲージ      SU(2)xU(1)   U(1)Q
    場の組み合わせしか通さな
    い、「偏光板」が存在す
    る。

    • 光は偏光板を通る
    • W粒子は通れない。
• 短い距離にいくと新しい力
    が見えてくる。E= ν:波長が
    短い=エネルギーが高い。
短い距離での力の姿は?




• さらに短い距離にいった時に、素粒子の間に働く力はどう
みえるだろうか。

• 「大統一理論」 とても短い距離で、3つの力を含む「よ
り基本的な力」が現れる?          

• クオークや電子という違う性質の粒子を基本的な力の内部
スピンの違いとしてとして表すことができる。
大統一理論
   • 三つの力は一つの力なら、
      うまくいってない
     力の強さは、大統一するス
    ケールで同じになるはず。

   • LEP 実験(1989∼)で
    ゲージ結合の精密測定
ゲージ相互作用と重力
• 大統一のおこるスケールは高い。
• 重力はエネルギーに結合する力で、結合は決
して小さいわけではない。1019GeV の衝突で
は、重力も無視できないだろう。
                         重力:ゲージ相互作用
    m1 m2   GN E 1 E 2
 GN    2
          →               10 : 1
     r         r2

• 「重力も含む統一」を目指すべき。
発散の問題

• 光や重力が粒子間を飛び交うと、その間に多数の粒
子が誘起される(真空の分極)
• 真空の分極は「発散」を引き起こす。重力の発散
は、短い距離で強さが激増するので、たちが悪い。
• 解決するには「超対称性」が必要
超対称性は素粒子倍増理論
• スピンが1/2違う粒子対の間の対称性
• 粒子のおこす発散は、超対称粒子のおこす発散と相
 殺。発散の問題は楽になる。

発見      クオーク               スカラークオーク
                       ⇄
     u,d,c..(スピン1/2)         ˜ ˜˜
                             u, d, c, ....

       ゲージ粒子
                       ⇄
                            ゲージーノ
                                              見
     γ,W,Z(スピン1)            ˜ ˜ ˜
                                      発
                            γ , Z, W , ....
      ヒッグス粒子
       H(スピン0)
                       ⇄    ˜ ˜
                                未
                            ヒグシーノ
                            H1 , H2 , ....
超対称模型の成功
               • 超対称粒子が1TeV程
                度の質量をもっている
                と、3つの力の強さは
                本当に同じになる。
                (重力相互作用とは統
                一しない。)




理論的に魅力的なものを取り入れて、力の統
  一がうまくいくようになった!
統一理論とは




• 重力の強さが他のちからと同じになるのが、もっと高い
スケール。

• 「重力を含む統一理論」はできるのだろうか。
超対称粒子は発見されている?



                  • 標準模型の粒子で
                   は暗黒物質は説明
                   できない。




暗黒物質は銀河の形成を説明するのに絶対必要。
超対称粒子の中に安定なものがあれば、暗黒物質になりう
る。(傍証)
LHC実験が拓く物理


円周27Kmの巨大リング
ビームエネルギー7TeV(今の7倍)
エネルギーが高い=
より短い距離の力が見えてくる!!
場所:スイス、フランス
トンネルの中には陽子
加速器が配置される
• 実験は2007年開始(?)予定。
陽子の衝突によってでてきた粒子は、測定器で多数
の電荷をもつ粒子に代わり、エネルギーが測定され
 る。どんな衝突がおこったかを再構成できる。
コライダー実験は宇宙初期を
       再現している。
1 粒子をぶつけると超対称粒
 子が生まれる。(宇宙の初
 めにおこったように)
2 超対称粒子はかならず超対
 称粒子に崩壊する。一番軽
 い超対称粒子(暗黒物質)
 は安定。

3 暗黒物質は電荷がないの
 で、測定されない。見かけ
 の運動量が保存しないのが
 超対称粒子発生の証拠。
                 見えない運動量
2)ストリングの統一理論
 重力の理解をめざして
重力とストリング理論
• 重力を含まない理論:発散の問題は超対称性で解決。
• 重力の発散の問題:超対称性+ストリング(ひも)理論
• 粒子はひもの振動として表される。高い振動モードは張力に
比例した重さをもつ。張力が大きいとひもの構造は見えな
い。
ストリングの相互作用




• 重力とゲージ相互作用は一つのひもの運動として記述
される。ストリングは重力とゲージ理論の統一理論
空間9次元の理論
• 我々の日常 3次元空間+時間
• ストリング理論は       
 3+6次元の空間を予言

• 余分な空間は球面のように小さく
 丸まっている。(コンパクト化)

• あるいは、
 • 平坦な空間のはじが同一視さ
  れている

 • 空間が2つに折り返されてい
  る。
6次元空間はどこへ?




• 空間が小さければ、低いエネルギー(長い波長)
でその構造は見えない。

• 高次元空間の大きさが R なら、その構造をみる
には、エネルギーE>h/R の衝突が必要
高次元空間の粒子の量子力学
                  空間3次元                                  空間4次元
              2    2        2        2        2
エネルギー・運動量 E =     px   +   py   +   pz   +m       E 2 = p2 + p2 + p2 + (p2 + m2 )
                                                         x    y    z     EX



 波動関数      exp i(px x + py y + pz z) ψ(x, y, z) exp(ipEX X)


• 高次元空間の境界条件
        ψ(x, y, z, X) = ψ(x, y, z, X + R)
• 無限個の質量がn/Rの粒子(KKモード=カルツァクライン
 モード)が空間の構造を表現する。
                                                                             2
                                                                     2πn
pEX = 2πn/R                               m2
                                           (4)       =   m2
                                                          (5)   +
                                                                      R
空間の大きさ・粒子の質量
• 空間の大きさの逆数に比
例した新しい粒子が存在
する。(KK粒子)

• 空間の形は粒子のスペク
トラム(質量のパター
ン)で表現される。

• 粒子の衝突エネルギーが
とても大きければKK粒子
が生まれて、空間の形が
わかるだろう
ストリング理論
• ストリング理論はいろいろあって、軽い粒子になにが出る
かも違っている。ヘテロテッィクストリング、タイプI,タ
イプIIA, タイプIIB,........

• いくつかのストリング理論の中で、標準模型はヘテロ型の
コンパクト化で作られると思われていた。(他の理論はな
に?)

• もっとも次元の高い超対称重力理論は空間10次元だが、
ストリング理論は9次元だった。(不満)
ストリングの統一理論
• Witten は10次元空間の  
 M(Mother) 理論のもとにす
 べてのストリング理論に関係
 がついていることを明らかに
 た。

• M理論のもとで、違う形をし
 た空間、異なる結合をもつ理
 論が驚くべき等価性をもって
 いる。
ストリングをコンパクト化された
      空間においてみよう。
• コンパクト化された空間にはストリングが巻き付く。空間が小
さいほどストリングは短く、張力を稼がないので、 「巻き付
きモード」は軽い。
巻きつきもいれた粒子スペクトラム
コンパクト化のサイズが大きい空間と小さい空間は
 ストリングの運動からみると同じである。




            性
          対      )
         双 lity
       T       a
            d u
         (T
ぐにゃぐにゃ物差しで
                  えらい
 空間を表現する         すんません


そんなに巻き付いたら 
  はかれないよ!


• 空間を計るには、それに依存する        
 物理量が必要。

• すべての物理量が、Rと1/Rで          
 同じなら、大きい空間と小さい空間は区別できな
 い。
重力か、空間か
• われわれの認識する空間は単なる幾何学的な
構造ではない。その性質は粒子と、その相互
作用によって表現される。
• 空間の形は「計量」で表されているが、「計
量」そのものは、「重力子」の期待値であ
る。ストリングは空間を作り、その波は粒子
として空間を伝わっている。
• 空間とは?重力とは?
S duality
• 開いたストリングのあるい理論では、ストリングがはりつく
ことができるDブレインという高次元の「板」がある。

• 板の質量は結合定数が大きいほど小さい。

• 結合の大きいストリング理論では、軽いDブレインが一番
「軽い粒子」となる。T duality の巻き付きモードのように、
軽いDブレインが理論を支配する。このDブレインはあたか
も、「10次元目の空間」のKKモードのように振る舞う。

• 強く相互作用する9次元空間のストリング理論=     
コンパクト化された10次元空間の理論
• 多くの双対性が発見されてストリング理論は一つになった。

• しかし、10次元空間の理論の正体はまだわかっていない。
3)ストリング理論
 は検証可能か。
•   1019GeV のエネルギースケールで重力の量

    子論は困難に直面し、ストリング理論が必要
    になる。
• ストリングのパラメーターは一つだけ。重力
    のスケールをだすためには、基本的なスケー
    ルは 1019GeV程度。6次元空間の大きさ
    もそのくらい?

• そんな重たい粒子はとうてい実験にかからな
    い!
M理論の新しい可能性(HW模型)

• 強結合へテロ型の10次元空間
のうち6次元はコンパクト化。

• 残りの空間は2枚の3次元の境
界面に挟まれた4次元空間。R
の大きさは大きくても良い。

• ゲージ場、物質は境界面に住
む。(われわれは、面の上に住
んでいる!)

• 重力は4次元空間も伝搬でき
る。
この変な空間でわれわれの感じる
                重力定数は。。。
 • 4次元目の空間の中では力線は3次元の空間を感じるだ
  ろう からF=1/r3

 • 長距離では4次元目の空間の効果がみえないので、重力
  の力線は2次元球面を薄まっていく。 F=1/r2

 •
高次元の重力定数は案
外大きいかもしれない

  (4)        (5)
 GN     =   GN /R
もし高次元空間の重力定数
  が大きければLHCでは

• 高次元空間が大きいから、重力のKKモードが見えるか
もしれない。(高次元空間の検証)

• ストリングはぶよぶよなので、ストリングの高次モード
が粒子衝突で簡単に見える。(ストリングの検証)

• 重力が強いのでブラックホールができる。(ホーキング
輻射の研究
M理論での力の統一
• 超対称模型では大統一のス
ケールで重力とゲージ相互作
用の大きさに開きがあった。
ゲージ結合の統一を犠牲にしない限り、
• 低いスケールで、高次元空間
    ストリングスケールは高い。
がみえてくれば、重力の結合
定数は          
       GN E 2
空間3次元:        
空間4次元: GN E 3
   4次元目の空間が大統一スケールより一桁下なら、
 ゲージ相互作用と重力相互作用の同じスケールでの統一。
ストリング理論はなにか予言できる
          だろうか?
• ゲージ相互作用の強さ(電荷eとか)、空間の大きさ(Rとか)
は高次元重力の値の関数で、M理論を解けば、その値ごとにエ
ネルギーが決まる。エネルギーの低いところが安定。

        我々は今、エネルギーの極小値(真空)
         のどこかにいる。どこにいるかで、
             素粒子の性質は違う
• ストリングの真空をまじめに調べていくと、実はその
        String Theory Landscape
    数は無限にあって、その間に優劣をつけることは難し
    いことがわかってきた。

•



                                 100     1000
                   Perhaps 10 - 10
                     different minima


           Lerche, Lust, Schellekens 1987


         Bousso, Polchinski; Susskind; Douglas, Denef,…
Landscape 問題
• ストリング理論の真空は実質的に無限個ある。
• 宇宙は一つの真空から、違う真空へと遷移しながら発展
していくと考えられる。

• 大半の真空は人間とは無関係である。宇宙の大半は生ま
れるとたちまち消滅したり、星や知的生命体が明らかに
存在できないようなものばかりのようだ。

• われわれの存在は偶然?
• 「知的生命がある」という条件を加えたときに、ストリ
ング理論は何かを予言するだろうか。
• 実験で素粒子の性質を決め
ても, ストリング理論に対
する手がかりにならないか
もしれない。

                 たすけてー
• 統一理論は、できるのだろ
うか?
量子重力理論の発散の問題を
解決するには超対称性と
ストリング理論が必要。

ストリングの統一理論
(M理論)は空間の構造
についても大きな示唆をあた
えてくれる。

しかし、現状で、素粒子を支
配する力の起源を説明するに
いたっていない。
実験は素粒子の性質を
精密に計ってきた。

超対称性が自然界にあれば、
LHCで超対称粒子を発見する
ことは可能だろう。
暗黒物質を発見することもで
きるかもしれない。(中畑)

しかし、ストリング理論の理
解に直接寄与することできる
だろうか?
実験と理論は、同じ素粒子を扱って

いるが、2つの知識は融合されない

    かもしれない。
我々が理解しているところは、きっとほんの一部。
思いがけない展開が、これからも理論と実験にみいだ
      されることを期待したい。

Weitere ähnliche Inhalte

Was ist angesagt?

Was ist angesagt? (6)

20130116
2013011620130116
20130116
 
Jaxa
JaxaJaxa
Jaxa
 
Information geometry chap6
Information geometry chap6Information geometry chap6
Information geometry chap6
 
20121017
2012101720121017
20121017
 
20100929
2010092920100929
20100929
 
プレゼン@うたとも11周年パーティー
プレゼン@うたとも11周年パーティープレゼン@うたとも11周年パーティー
プレゼン@うたとも11周年パーティー
 

Ähnlich wie Kagaku

博士論文公聴会(完全版)
博士論文公聴会(完全版)博士論文公聴会(完全版)
博士論文公聴会(完全版)Hayato Shimabukuro
 
ざっくりとした物理~宇宙論
ざっくりとした物理~宇宙論ざっくりとした物理~宇宙論
ざっくりとした物理~宇宙論Hiroaki Kuroda
 
(20080330 1986)bachelor thesis
(20080330 1986)bachelor thesis(20080330 1986)bachelor thesis
(20080330 1986)bachelor thesisSho Iwamoto
 
セミナー @ 岡山大学 2016.02.17
セミナー @ 岡山大学 2016.02.17セミナー @ 岡山大学 2016.02.17
セミナー @ 岡山大学 2016.02.17Yoshitaro Takaesu
 
材料力学と複屈折
材料力学と複屈折材料力学と複屈折
材料力学と複屈折Shinsuke Ogawa
 

Ähnlich wie Kagaku (6)

博士論文公聴会(完全版)
博士論文公聴会(完全版)博士論文公聴会(完全版)
博士論文公聴会(完全版)
 
ざっくりとした物理~宇宙論
ざっくりとした物理~宇宙論ざっくりとした物理~宇宙論
ざっくりとした物理~宇宙論
 
20121024
2012102420121024
20121024
 
(20080330 1986)bachelor thesis
(20080330 1986)bachelor thesis(20080330 1986)bachelor thesis
(20080330 1986)bachelor thesis
 
セミナー @ 岡山大学 2016.02.17
セミナー @ 岡山大学 2016.02.17セミナー @ 岡山大学 2016.02.17
セミナー @ 岡山大学 2016.02.17
 
材料力学と複屈折
材料力学と複屈折材料力学と複屈折
材料力学と複屈折
 

Kagaku