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ニューヨーク州弁護士
望月 健太
2018年5月28日
オンラインの偽情報
(disinformation)対策に関する
欧州委員会政策文書
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免責事項
2
 本資料は、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的とした
ものではありません。本資料の内容(第三者から提供された情報を
含む)の正確性・妥当性の確保に努めておりますが、本資料の利用
によって利用者等に何らかの損害が生じた場合にも、一切の責任
を負うものではありません。
 本資料の内容については、予告なしに変更または削除されること
があります。
 本免責事項は、予告なしに変更されることがあります。本免責事
項が変更された場合、変更後の免責事項に従っていただきます。
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目 次
3
1. はじめに
2. これまでの経緯
3. 偽情報(disinformation)の定義
4. 偽情報に関する行動規範(Code of Practice)の策定
5. 独立した欧州のファクトチェッカー・ネットワークの創設
6. 偽情報に関する欧州のオンライン・プラットフォームの開始
7. メディア・リテラシーの向上
8. 選挙のレジリエンス確保に向けた加盟国支援
9. 自主的なオンライン(身元)確認システムの促進
10. 高品質かつ多様な情報のための支援
11. 戦略的コミュニケーション政策
12. 今後の予定
13. 業界団体や消費者団体の反応
14. 偽情報対策vs報道の自由
参考文献
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【参考】デジタル単一市場戦略の下、矢継ぎ早に措置を発表
4
デジタル単一市場戦略(2015年5月)
プラットフォーム政策文書(2016年5月)
決済サービス指令(PSD/PSD2)発効(2016年1月)
視聴覚メディアサービス指令(改革方針)案(2016年5月)
一般データ保護規則(GDPR)の施行(2018年5月)
eプライバシー規則案(2017年1月)
ライドシェアに関する欧州司法裁判所判決(2017年12月)
オンライン仲介サービスにおける透明性・公平性の促進に関する規則案(2018年4月)
EU法違反の告発者を保護する指令案(2018年4月)
欧州委員会政策文書「欧州のための人工知能(AI)」発表(2018年4月)
刑事手続における電子証拠の取扱いに関する規則案&関連指令案(2018年4月)
偽情報対策に関する欧州委員会政策文書の発表(2018年4月)
2019年5月
欧州議会選挙!
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1.はじめに
 オンラインの偽情報対策に関する欧州委員会政策文書とは?
 2018年4月26日に欧州委員会が提出した政策文書(Communication)。
 オンラインの偽情報(disinformation)に関連した課題に対する欧州委員会
の見解を示したもの。
 偽情報に関する国民意識を向上し、それに効果的に取り組むための行動、な
らびに、委員会が採ろうとしている特定の措置の指針となるような、主要か
つ包括的な原則および目的を説明。
偽情報に関する行動規範(Code of Practice)の策定
独立した欧州のファクトチェッカー・ネットワークの創設
偽情報に関する欧州のオンライン・プラットフォームの開始
メディア・リテラシーの向上
選挙のレジリエンス確保に向けた加盟国支援
自主的なオンライン(身元)確認システムの促進
高品質かつ多様な情報のための支援
戦略的コミュニケーション政策
 主なポイント(基本原則・目的は、①透明性、②多様性、③信憑性、④包摂性)
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2.これまでの経緯
2015年3月 欧州理事会(European Council)は上級代表(High Representative)
に対し、ロシアによる虚偽情報の拡散に対処するためのアクションプラン
を策定するよう指示
2015年6月 戦略的コミュニケーションに関するアクションプランが公表
2015年9月 欧州対外行動局(EEAS)内に設置されたタスクフォース(East
StratCom Task Force)が活動開始
2017年5月 Junker欧州委員長はGabriel欧州委員(デジタル経済・社会担当)に対し、
偽情報との関連でオンラインプラットフォームが創出する民主主義
に対する課題を洗い出し、対応策を開始するよう指示
2017年6月 欧州議会は欧州委員会に対し、フェイクニュースに関する現在の状況と法
的枠組みを詳細に分析し、法的介入の可能性を検証するよう指示
2017年6月 ドイツにおいて「ネットワーク執行法」成立(同年10月から施行)。
2017年11月 欧州委員会、フェイクニュースに関するハイレベル専門家グループ
(HLEG)を設置
2018年1月 フランスのMacron大統領は、フェイクニュース対策を進めるため、年内
にメディア法を改正する方針を表明
2018年2月 欧州委員会、2019年欧州議会選挙を見据えた勧告一覧を採択
2018年3月 フェイクニュースに関するハイレベル専門家グループが報告書を公表
2018年4月 欧州委員会、オンラインの偽情報対策に関する政策文書を公表
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3.偽情報(disinformation)の定義
 偽情報の定義
検証可能な形で虚偽または誤解を招く情報であって、経済的利益のために作
成、表示、および頒布されたもの、あるいは一般大衆を意図的に欺くための
もので、公益を害しうるもの(verifiably false or misleading information that
is created, presented and disseminated for economic gain or to intentionally
deceive the public, and may cause public harm)。
 偽情報とフェイクニュース(fake news)の違い
偽情報とは、世論に影響を与えたり
真実を分からなくするために、意図
的に生成または拡散される誤った情
報。
フェイクニュースとは、偽情報の複
雑な問題を単純化したもの。
 偽情報に含まれないもの
誤報、風刺、パロディー、明らかに党派的と特定できるニュースやコメンタリー。
※この他、違法コンテンツが含まれた偽情報といったような、現在他で議論されている問題に関する適用可能なEU法・
加盟国法を損なわず、また、テロリストコンテンツや児童性虐待記録物(CSAM)に関するものを含む、違法コンテンツ
に関して継続中のアプローチや措置も損なわないとしている。
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4.偽情報に関する行動規範(Code of Practice)の策定
 オンラインプラットフォームは、まず第一段階として、2018年7月までに、
以下の事項を目的とした行動規範を策定し、遵守すべきとしている。
【オンラインプラットフォームや広告業界が達成すべき主な5つの目的】
他方、①表現の自由を厳格に尊重すべきこと、②検閲といった濫用(misuse)を避
けるためのセーフガードを設けること、③オープンで安全な、信頼性のあるインター
ネットに向けた欧州委員会のコミットメントを厳格に尊重すべきことも規定。
① スポンサードコンテンツ、とりわけ政治広告についての透明性を確保し、政治広
告のターゲット設定オプションを制限、偽情報の提供者の広告収益を減らすこと
② アルゴリズムの機能についてより明確化し、第三者による検証を可能とすること
③ 他の見解を示している別の新たな情報源をユーザーが見つけ、アクセスできるよ
うにすること(発見・アクセスしやすいようにすること)
④ 偽アカウントを検知・閉鎖し、ボット(automatic bots)の問題に取り組むため
の措置を導入すること
⑤ ファクトチェッカー、研究者、そして公的機関が偽情報を継続的に監視できるよ
うにすること
※政策文書の中では、上記目的がより詳細に9つに分けて記載。
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5.独立した欧州のファクトチェッカー・ネットワークの創設
 欧州委員会は、まず第一段階として、独立した欧州のファクトチェッ
カー・ネットワーク(an independent European network of fact-
checkers)の創設をサポートするとしている。
共通の作業方法を
確立
ベストプラクティスを
共有
(EU全体にわたる)
可能な限り最も
広範な事実的修正の
範囲を達成
※ファクトチェッカーは、
国際ファクトチェッキングネットワーク
(International Fact Checking Network)の
EUメンバーから選ばれる。
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6.偽情報に関する欧州のオンライン・プラットフォームの開始
 欧州委員会は、ファクトチェッカー・ネットワークに引き続く第二段階と
して、偽情報に関する安全な欧州のオンライン・プラットフォーム(a
secure European online platform on disinformation)を開始するとして
いる。
 この目的は、独立した欧州のファクトチェッカー・ネットワークや関係す
る学術研究者をサポートすること。
EU全体にわたるオープンデータへの
アクセスを提供
(信頼性のある独立した統計情報等)
越境データ収集・分析ツールを提供
「信頼性のあるフラガー(trusted flaggers)」として
ネットワークが機能することを可能に
①オンラインの偽情報に関するさらに深い理解
②偽情報の拡散をさらに制限するための、証拠に基づく戦略の立案
※「Connecting Europe Facility」の活用の検討+「Safer Internet」プログラムの実施に際し得た経験
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7.メディア・リテラシーの向上
 メディア・リテラシーの水準がより高ければ、欧州市民がオンラインの偽
情報を特定し、批判的な目でオンラインコンテンツにアプローチできるよ
うになるとのこと。
ファクトチェッカーや市民団体による学校・教師への教材提供
「#SaferInternet4EU」キャンペーンへの対象イニシアティブの組み込み
「European Week of Media Literacy」の開催
メディア・リテラシーに関する報告(EU視聴覚メディアサービス指令との関係)
OECD生徒の学習到達度調査(PISA)との連携(メディア・リテラシーを基準に追加)
デジタルスキルと職連合(Digital Skills and Jobs Coalition)の作業をさらに奨励
デジタル教育アクションプラン(Digital Education Action Plan)の継続的実施とその他イニシアティブの支援
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8.選挙のレジリエンス確保に向けた加盟国支援
 民主主義の根本である選挙プロセスのセキュリティーはとりわけ重要であ
るとして、オンラインの偽情報やサイバー攻撃を含む、ますます複雑化す
るサイバー脅威に対処する必要があるとしている。
(1)基本的権利に関する会議(Colloquium on Fundamental Rights)の開催
• 2018年11月26日から27日にかけて開催。
• 民主主義にフォーカスした会議となる予定。
• 包摂的かつ健全な民主社会の主要な要素について議論される予定。
(2)サイバー攻撃や偽情報から守るため、民主的な選挙プロセスに対するリスク
を管理するEU加盟国をサポートするための継続的対話の実施
• 加盟国における選挙、および2019年の欧州議会選挙を意識。
• 2018年4月25日から26日にかけて開催される「選挙のベストプラクティスに関する会議
(conference on electoral best practices)」の場でEU加盟国と意見交換・その後フォロー
アップ。
• 欧州ネットワーク・情報セキュリティー機関(ENISA)とともに、ネットワーク・情報システ
ム協力グループ(NIS Cooperation Group)の関連作業に必要な全てのサポートを行う。そし
て2018年末までに、同グループが実践的な勧告・措置の大要(compendium)を策定。
• 2018年の後半に、欧州委員会のタスクフォース(Security Union Task Force)の下、選挙に
対するサイバー脅威に関し、EU加盟国とハイレベル会合を開催。
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9.自主的なオンライン(身元)確認システムの促進
 トレーサビリティーと情報提供者の(身元)確認を改善し、オンラインの
やりとりや情報、そしてその情報源の信頼性を高めるためには、自主的な
オンライン(身元)確認システムの促進が必要としている。
オンラインの責任強化 新たな技術の活用
• IPv6の利用促進
• ドメインネーム・IP WHOISシステ
ムの機能、およびその入手可能性と
正確性の改善(ICANNの作業に沿った形
で、かつデータ保護ルールを完全に遵守す
る形)
• eIDAS協力ネットワークの促進奨励
• 人工知能(AI)
• メディアにとってカスタマイズ可能
で双方向的なオンライン・エクスペ
リエンスを可能とする技術
• ブロックチェーン等の革新的な技術
• 認識アルゴリズム
欧州委員会は、これらの技術を導入するための「Horizon 2020 work programme」を全
面的に活用するとしている(さらには追加のサポートも模索)。
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 欧州委員会は、多元的で、多様かつ持続可能なメディア環境を確保するた
め、質の高いジャーナリズムへのサポートを拡大するよう、EU加盟国に求
めるとしている。
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10.高品質かつ多様な情報のための支援
EU加盟国による、質の高いジャーナリ
ズムの持続可能性に向けた水平的な援
助スキームの検討
国家援助に関するオンライン・レポジ
トリーの公開、および透明性登録簿
(Transparency Register)へのアク
セス確保
データ主導のニュースメディアを通じ
た、EU事項に関する質の高いニュース
コンテンツの制作・頒布の要請
(2018年中)
メディアの自由、多元性、そして質の
高いニュースメディアとジャーナリズ
ムを促進するイニシアティブを支援す
るためのさらなる資金援助を模索
欧州基本権機関(FRA)のメディアプ
ロフェッショナル向けツールキットに
よる、偽情報の取扱いに係る勧告や助
言、ツールのジャーナリストへの提供
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11.戦略的コミュニケーション政策
 欧州委員会は欧州対外行動局(EEAS)と協力し、戦略的なコミュニケー
ション政策を実施するとしている。
 欧州に関する誤った陳述(false narratives)に対抗し、EU内外で偽情報に
取り組むことを目的としたアウトリーチ活動が、この政策に含まれる。
(1)偽情報対策を目的として、コミュニケーション活動に関する内部調整をまず補
強することによって、戦略的なコミュニケーション能力を強化
(2)欧州委員会と欧州対外行動局(EEAS)の連携強化、他のEU機関やEU加盟国
へのその知見と活動の共有(※偽情報に関する安全なオンライン・プラットフォーム
によって収集されたデータを活用)
(3)レジリエンスを向上し、偽情報キャンペーンや外国政府による欧州市民等に対
する干渉(hybrid interference)に対抗するため、EU加盟国とともに戦略的
なコミュニケーション対応のさらなる選択肢を模索
(4)サイバーセキュリティー、戦略的コミュニケーション、そして防諜(counter
intelligence)分野を含む、脅威(hybrid threats)に対処する能力の強化に
関する進捗状況を6月に報告
【欧州委員会と欧州対外行動局(EEAS)の協力施策】
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12.今後の予定
(1)欧州委員会は、近くマルチステークホルダー・フォーラムを開催。
 オンラインプラットフォーム、広告産業や主要な広告主を含む関係者間の効果的な協
力のための枠組みを提供
 連携して偽情報への取組みを強化するコミットメントを確保
 フォーラムのアウトプットは、2018年7月までに発表される、偽情報に関するEU全
域の行動規範となる予定(2018年10月の効果測定を目途)
(2)欧州委員会は、2018年12月までに、進捗状況に関する報告を行う予定。
 継続的な監視や評価を確保するために必要な、更なるアクションの必要性を精査
 Facebookなどのプラットフォーム企業に対策強化を求め、効果が見られな
ければ法規制を含めた追加措置を検討する方向。
※つまり欧州委員会は、プラットフォーム、広告業界、広告主、メディア、市民グループ等
のマルチステークホルダーによるフォーラムを開催、このフォーラムにおいて、偽情報対策
の具体的実施項目をまとめた「行動規範」を7月までに策定する。この「行動規範」の10月
までの実施状況を受けて、欧州委が12月までに効果を報告するとしている。
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13.業界団体や消費者団体の反応
 欧州委員会の政策文書に対し、以下の反応があった模様。
(1)Digital Europe
Google、Amazon、Apple、Microsoft、日立、富士通、NECといった企業が参加する業界団
体。Bonefeld-Dahl事務局長は、ガーディアンの取材に対し、自主規制としたことは評価し
つつ、視聴者のデモグラフィーに応じた広告のターゲティングはテレビ時代からあるとして
「これは違法行為ではないし、過剰反応は避けるべきだ」と指摘。
(2)コンピューター・通信産業協会(CCIA)
Facebook、Google、Amazon、eBay, Oath、楽天等が参加する業界団体。
Sacquet欧州上席ポリシーマネージャーは、ロイターに対し、スケジュールのスピードに警
戒感を示しながら、「IT業界は、ネット上での偽情報拡散を非常に深刻な問題と捉えてい
る。だが、関連するサービスは多岐に渡っており、行動規範を作る際には1つの対策で全て
解決できるわけではないと認識することも重要だ」と発言。
(3)欧州消費者機構(BEUC)
Goyens事務局長は、ガーディアンの取材に対し、「欧州委員会のこの問題の分析は的を射
ているのに、その対応はパンチに欠ける」と指摘。その上で、「欧州委員会がフェイク
ニュース対策を真剣に考えているなら、大手プラットフォーム企業の広告ビジネスモデルこ
そが、虚偽情報の拡散の原動力になっているという事実に取り組む必要がある。これまでの
経緯から見れば、自主規制によってFacebookのような企業を変革させることなどできそう
もない」と発言。
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14.偽情報対策vs報道の自由
 EUに対する訴訟に発展
• 2015年11月、オランダ・アムステルダムに住むフリージャーナリストが、EUに対し批
判的な論陣を張るウェブメディア「TPO」に記事を投稿。
• 2018年1月、この記事が、EUの外交をつかさどる欧州対外行動庁(EEAS)のタスク
フォース(East StratCom Task Force)が運営する検証サイト「EUVSDisinfo」のデー
タベース上で、偽情報と指定されていたことが判明。
• 2018年2月、フリージャーナリストは、自らの記事が不当に偽情報に指定されたとして、
データベースからの削除を求めてEUを提訴。原告には、別の記事が偽情報と指定された
オランダの地方紙「ヘルダーランダー」等2社も連名。
• これに対し、EU側は、提訴後に誤りを全面的に認めて削除を発表。EUの対応を受けて、
訴訟も取り下げ。
 オランダ議会の動き
• 2018年3月、オランダ議会は、上記のような一連の流れを受け、EUの検証サイトが報道
の自由に干渉しているとして、サイト廃止をEUに働きかけるよう政府に求める動議を可
決、EUや政府機関が報道を偽ニュースだと分類すること自体が望ましくないと指摘した。
• 一方、その後のオランダ政府の動きは鈍く、他のEU加盟国に同調する動きもないとの事。
偽情報の意図的な流布について、EUが「最も大きな脅威の一つ」(EUのTusk大統領)
と位置付けているためとの事。サイトを運営する対外行動庁(EEAS)も、運営方針の変
更はしない意向を明らかにしているとの事。
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19
参考文献
• European Commission – Press Release, Tackling Online Disinformation: Commission
Proposes an EU-wide Code of Practice, 26 April 2018, http://europa.eu/rapid/press-
release_IP-18-3370_en.htm .
• European Commission, Communication from the Commission to the European Parliament,
the Council, the European Economic and Social Committee and the Committee of the
Regions, Tackling Online Disinformation: a European Approach, 26 April 2018, https://eur-
lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:52018DC0236&from=EN .
• 平 和博「フェイクニュース対策に揺れるEU:『表現の自由』と『いまそこにある危機』」
(HUFFPOST, 2018年5月7日)、https://www.huffingtonpost.jp/kazuhiro-taira/fake-news-
20180507_a_23427954/ .
• REUTERS「EU、大手IT企業に偽ニュース対策強化要請 行動規範策定へ」(2018年4月27日)、
https://jp.reuters.com/article/eu-fakenews-it-idJPKBN1HY0YW .
• 毎日新聞「検証 フェイクニュース対策 EU『偽』断定で波紋 『報道干渉だ』VS「情報操作
対策』」(2018年5月19日)、
https://mainichi.jp/articles/20180519/ddm/003/030/040000c .

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201805 [Kenta Mochizuki, Esq.] EC Communication on Tackling Online Disinformation

  • 1. Copyright © 2018 Kenta Mochizuki. All Rights Reserved. ニューヨーク州弁護士 望月 健太 2018年5月28日 オンラインの偽情報 (disinformation)対策に関する 欧州委員会政策文書
  • 2. Copyright © 2018 Kenta Mochizuki. All Rights Reserved. 免責事項 2  本資料は、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的とした ものではありません。本資料の内容(第三者から提供された情報を 含む)の正確性・妥当性の確保に努めておりますが、本資料の利用 によって利用者等に何らかの損害が生じた場合にも、一切の責任 を負うものではありません。  本資料の内容については、予告なしに変更または削除されること があります。  本免責事項は、予告なしに変更されることがあります。本免責事 項が変更された場合、変更後の免責事項に従っていただきます。
  • 3. Copyright © 2018 Kenta Mochizuki. All Rights Reserved. 目 次 3 1. はじめに 2. これまでの経緯 3. 偽情報(disinformation)の定義 4. 偽情報に関する行動規範(Code of Practice)の策定 5. 独立した欧州のファクトチェッカー・ネットワークの創設 6. 偽情報に関する欧州のオンライン・プラットフォームの開始 7. メディア・リテラシーの向上 8. 選挙のレジリエンス確保に向けた加盟国支援 9. 自主的なオンライン(身元)確認システムの促進 10. 高品質かつ多様な情報のための支援 11. 戦略的コミュニケーション政策 12. 今後の予定 13. 業界団体や消費者団体の反応 14. 偽情報対策vs報道の自由 参考文献
  • 4. Copyright © 2018 Kenta Mochizuki. All Rights Reserved. 【参考】デジタル単一市場戦略の下、矢継ぎ早に措置を発表 4 デジタル単一市場戦略(2015年5月) プラットフォーム政策文書(2016年5月) 決済サービス指令(PSD/PSD2)発効(2016年1月) 視聴覚メディアサービス指令(改革方針)案(2016年5月) 一般データ保護規則(GDPR)の施行(2018年5月) eプライバシー規則案(2017年1月) ライドシェアに関する欧州司法裁判所判決(2017年12月) オンライン仲介サービスにおける透明性・公平性の促進に関する規則案(2018年4月) EU法違反の告発者を保護する指令案(2018年4月) 欧州委員会政策文書「欧州のための人工知能(AI)」発表(2018年4月) 刑事手続における電子証拠の取扱いに関する規則案&関連指令案(2018年4月) 偽情報対策に関する欧州委員会政策文書の発表(2018年4月) 2019年5月 欧州議会選挙!
  • 5. Copyright © 2018 Kenta Mochizuki. All Rights Reserved. 5 1.はじめに  オンラインの偽情報対策に関する欧州委員会政策文書とは?  2018年4月26日に欧州委員会が提出した政策文書(Communication)。  オンラインの偽情報(disinformation)に関連した課題に対する欧州委員会 の見解を示したもの。  偽情報に関する国民意識を向上し、それに効果的に取り組むための行動、な らびに、委員会が採ろうとしている特定の措置の指針となるような、主要か つ包括的な原則および目的を説明。 偽情報に関する行動規範(Code of Practice)の策定 独立した欧州のファクトチェッカー・ネットワークの創設 偽情報に関する欧州のオンライン・プラットフォームの開始 メディア・リテラシーの向上 選挙のレジリエンス確保に向けた加盟国支援 自主的なオンライン(身元)確認システムの促進 高品質かつ多様な情報のための支援 戦略的コミュニケーション政策  主なポイント(基本原則・目的は、①透明性、②多様性、③信憑性、④包摂性)
  • 6. Copyright © 2018 Kenta Mochizuki. All Rights Reserved. 6 2.これまでの経緯 2015年3月 欧州理事会(European Council)は上級代表(High Representative) に対し、ロシアによる虚偽情報の拡散に対処するためのアクションプラン を策定するよう指示 2015年6月 戦略的コミュニケーションに関するアクションプランが公表 2015年9月 欧州対外行動局(EEAS)内に設置されたタスクフォース(East StratCom Task Force)が活動開始 2017年5月 Junker欧州委員長はGabriel欧州委員(デジタル経済・社会担当)に対し、 偽情報との関連でオンラインプラットフォームが創出する民主主義 に対する課題を洗い出し、対応策を開始するよう指示 2017年6月 欧州議会は欧州委員会に対し、フェイクニュースに関する現在の状況と法 的枠組みを詳細に分析し、法的介入の可能性を検証するよう指示 2017年6月 ドイツにおいて「ネットワーク執行法」成立(同年10月から施行)。 2017年11月 欧州委員会、フェイクニュースに関するハイレベル専門家グループ (HLEG)を設置 2018年1月 フランスのMacron大統領は、フェイクニュース対策を進めるため、年内 にメディア法を改正する方針を表明 2018年2月 欧州委員会、2019年欧州議会選挙を見据えた勧告一覧を採択 2018年3月 フェイクニュースに関するハイレベル専門家グループが報告書を公表 2018年4月 欧州委員会、オンラインの偽情報対策に関する政策文書を公表
  • 7. Copyright © 2018 Kenta Mochizuki. All Rights Reserved. 7 3.偽情報(disinformation)の定義  偽情報の定義 検証可能な形で虚偽または誤解を招く情報であって、経済的利益のために作 成、表示、および頒布されたもの、あるいは一般大衆を意図的に欺くための もので、公益を害しうるもの(verifiably false or misleading information that is created, presented and disseminated for economic gain or to intentionally deceive the public, and may cause public harm)。  偽情報とフェイクニュース(fake news)の違い 偽情報とは、世論に影響を与えたり 真実を分からなくするために、意図 的に生成または拡散される誤った情 報。 フェイクニュースとは、偽情報の複 雑な問題を単純化したもの。  偽情報に含まれないもの 誤報、風刺、パロディー、明らかに党派的と特定できるニュースやコメンタリー。 ※この他、違法コンテンツが含まれた偽情報といったような、現在他で議論されている問題に関する適用可能なEU法・ 加盟国法を損なわず、また、テロリストコンテンツや児童性虐待記録物(CSAM)に関するものを含む、違法コンテンツ に関して継続中のアプローチや措置も損なわないとしている。
  • 8. Copyright © 2018 Kenta Mochizuki. All Rights Reserved. 8 4.偽情報に関する行動規範(Code of Practice)の策定  オンラインプラットフォームは、まず第一段階として、2018年7月までに、 以下の事項を目的とした行動規範を策定し、遵守すべきとしている。 【オンラインプラットフォームや広告業界が達成すべき主な5つの目的】 他方、①表現の自由を厳格に尊重すべきこと、②検閲といった濫用(misuse)を避 けるためのセーフガードを設けること、③オープンで安全な、信頼性のあるインター ネットに向けた欧州委員会のコミットメントを厳格に尊重すべきことも規定。 ① スポンサードコンテンツ、とりわけ政治広告についての透明性を確保し、政治広 告のターゲット設定オプションを制限、偽情報の提供者の広告収益を減らすこと ② アルゴリズムの機能についてより明確化し、第三者による検証を可能とすること ③ 他の見解を示している別の新たな情報源をユーザーが見つけ、アクセスできるよ うにすること(発見・アクセスしやすいようにすること) ④ 偽アカウントを検知・閉鎖し、ボット(automatic bots)の問題に取り組むため の措置を導入すること ⑤ ファクトチェッカー、研究者、そして公的機関が偽情報を継続的に監視できるよ うにすること ※政策文書の中では、上記目的がより詳細に9つに分けて記載。
  • 9. Copyright © 2018 Kenta Mochizuki. All Rights Reserved. 9 5.独立した欧州のファクトチェッカー・ネットワークの創設  欧州委員会は、まず第一段階として、独立した欧州のファクトチェッ カー・ネットワーク(an independent European network of fact- checkers)の創設をサポートするとしている。 共通の作業方法を 確立 ベストプラクティスを 共有 (EU全体にわたる) 可能な限り最も 広範な事実的修正の 範囲を達成 ※ファクトチェッカーは、 国際ファクトチェッキングネットワーク (International Fact Checking Network)の EUメンバーから選ばれる。
  • 10. Copyright © 2018 Kenta Mochizuki. All Rights Reserved. 10 6.偽情報に関する欧州のオンライン・プラットフォームの開始  欧州委員会は、ファクトチェッカー・ネットワークに引き続く第二段階と して、偽情報に関する安全な欧州のオンライン・プラットフォーム(a secure European online platform on disinformation)を開始するとして いる。  この目的は、独立した欧州のファクトチェッカー・ネットワークや関係す る学術研究者をサポートすること。 EU全体にわたるオープンデータへの アクセスを提供 (信頼性のある独立した統計情報等) 越境データ収集・分析ツールを提供 「信頼性のあるフラガー(trusted flaggers)」として ネットワークが機能することを可能に ①オンラインの偽情報に関するさらに深い理解 ②偽情報の拡散をさらに制限するための、証拠に基づく戦略の立案 ※「Connecting Europe Facility」の活用の検討+「Safer Internet」プログラムの実施に際し得た経験
  • 11. Copyright © 2018 Kenta Mochizuki. All Rights Reserved. 11 7.メディア・リテラシーの向上  メディア・リテラシーの水準がより高ければ、欧州市民がオンラインの偽 情報を特定し、批判的な目でオンラインコンテンツにアプローチできるよ うになるとのこと。 ファクトチェッカーや市民団体による学校・教師への教材提供 「#SaferInternet4EU」キャンペーンへの対象イニシアティブの組み込み 「European Week of Media Literacy」の開催 メディア・リテラシーに関する報告(EU視聴覚メディアサービス指令との関係) OECD生徒の学習到達度調査(PISA)との連携(メディア・リテラシーを基準に追加) デジタルスキルと職連合(Digital Skills and Jobs Coalition)の作業をさらに奨励 デジタル教育アクションプラン(Digital Education Action Plan)の継続的実施とその他イニシアティブの支援
  • 12. Copyright © 2018 Kenta Mochizuki. All Rights Reserved. 12 8.選挙のレジリエンス確保に向けた加盟国支援  民主主義の根本である選挙プロセスのセキュリティーはとりわけ重要であ るとして、オンラインの偽情報やサイバー攻撃を含む、ますます複雑化す るサイバー脅威に対処する必要があるとしている。 (1)基本的権利に関する会議(Colloquium on Fundamental Rights)の開催 • 2018年11月26日から27日にかけて開催。 • 民主主義にフォーカスした会議となる予定。 • 包摂的かつ健全な民主社会の主要な要素について議論される予定。 (2)サイバー攻撃や偽情報から守るため、民主的な選挙プロセスに対するリスク を管理するEU加盟国をサポートするための継続的対話の実施 • 加盟国における選挙、および2019年の欧州議会選挙を意識。 • 2018年4月25日から26日にかけて開催される「選挙のベストプラクティスに関する会議 (conference on electoral best practices)」の場でEU加盟国と意見交換・その後フォロー アップ。 • 欧州ネットワーク・情報セキュリティー機関(ENISA)とともに、ネットワーク・情報システ ム協力グループ(NIS Cooperation Group)の関連作業に必要な全てのサポートを行う。そし て2018年末までに、同グループが実践的な勧告・措置の大要(compendium)を策定。 • 2018年の後半に、欧州委員会のタスクフォース(Security Union Task Force)の下、選挙に 対するサイバー脅威に関し、EU加盟国とハイレベル会合を開催。
  • 13. Copyright © 2018 Kenta Mochizuki. All Rights Reserved. 13 9.自主的なオンライン(身元)確認システムの促進  トレーサビリティーと情報提供者の(身元)確認を改善し、オンラインの やりとりや情報、そしてその情報源の信頼性を高めるためには、自主的な オンライン(身元)確認システムの促進が必要としている。 オンラインの責任強化 新たな技術の活用 • IPv6の利用促進 • ドメインネーム・IP WHOISシステ ムの機能、およびその入手可能性と 正確性の改善(ICANNの作業に沿った形 で、かつデータ保護ルールを完全に遵守す る形) • eIDAS協力ネットワークの促進奨励 • 人工知能(AI) • メディアにとってカスタマイズ可能 で双方向的なオンライン・エクスペ リエンスを可能とする技術 • ブロックチェーン等の革新的な技術 • 認識アルゴリズム 欧州委員会は、これらの技術を導入するための「Horizon 2020 work programme」を全 面的に活用するとしている(さらには追加のサポートも模索)。
  • 14. Copyright © 2018 Kenta Mochizuki. All Rights Reserved.  欧州委員会は、多元的で、多様かつ持続可能なメディア環境を確保するた め、質の高いジャーナリズムへのサポートを拡大するよう、EU加盟国に求 めるとしている。 14 10.高品質かつ多様な情報のための支援 EU加盟国による、質の高いジャーナリ ズムの持続可能性に向けた水平的な援 助スキームの検討 国家援助に関するオンライン・レポジ トリーの公開、および透明性登録簿 (Transparency Register)へのアク セス確保 データ主導のニュースメディアを通じ た、EU事項に関する質の高いニュース コンテンツの制作・頒布の要請 (2018年中) メディアの自由、多元性、そして質の 高いニュースメディアとジャーナリズ ムを促進するイニシアティブを支援す るためのさらなる資金援助を模索 欧州基本権機関(FRA)のメディアプ ロフェッショナル向けツールキットに よる、偽情報の取扱いに係る勧告や助 言、ツールのジャーナリストへの提供
  • 15. Copyright © 2018 Kenta Mochizuki. All Rights Reserved. 15 11.戦略的コミュニケーション政策  欧州委員会は欧州対外行動局(EEAS)と協力し、戦略的なコミュニケー ション政策を実施するとしている。  欧州に関する誤った陳述(false narratives)に対抗し、EU内外で偽情報に 取り組むことを目的としたアウトリーチ活動が、この政策に含まれる。 (1)偽情報対策を目的として、コミュニケーション活動に関する内部調整をまず補 強することによって、戦略的なコミュニケーション能力を強化 (2)欧州委員会と欧州対外行動局(EEAS)の連携強化、他のEU機関やEU加盟国 へのその知見と活動の共有(※偽情報に関する安全なオンライン・プラットフォーム によって収集されたデータを活用) (3)レジリエンスを向上し、偽情報キャンペーンや外国政府による欧州市民等に対 する干渉(hybrid interference)に対抗するため、EU加盟国とともに戦略的 なコミュニケーション対応のさらなる選択肢を模索 (4)サイバーセキュリティー、戦略的コミュニケーション、そして防諜(counter intelligence)分野を含む、脅威(hybrid threats)に対処する能力の強化に 関する進捗状況を6月に報告 【欧州委員会と欧州対外行動局(EEAS)の協力施策】
  • 16. Copyright © 2018 Kenta Mochizuki. All Rights Reserved. 16 12.今後の予定 (1)欧州委員会は、近くマルチステークホルダー・フォーラムを開催。  オンラインプラットフォーム、広告産業や主要な広告主を含む関係者間の効果的な協 力のための枠組みを提供  連携して偽情報への取組みを強化するコミットメントを確保  フォーラムのアウトプットは、2018年7月までに発表される、偽情報に関するEU全 域の行動規範となる予定(2018年10月の効果測定を目途) (2)欧州委員会は、2018年12月までに、進捗状況に関する報告を行う予定。  継続的な監視や評価を確保するために必要な、更なるアクションの必要性を精査  Facebookなどのプラットフォーム企業に対策強化を求め、効果が見られな ければ法規制を含めた追加措置を検討する方向。 ※つまり欧州委員会は、プラットフォーム、広告業界、広告主、メディア、市民グループ等 のマルチステークホルダーによるフォーラムを開催、このフォーラムにおいて、偽情報対策 の具体的実施項目をまとめた「行動規範」を7月までに策定する。この「行動規範」の10月 までの実施状況を受けて、欧州委が12月までに効果を報告するとしている。
  • 17. Copyright © 2018 Kenta Mochizuki. All Rights Reserved. 17 13.業界団体や消費者団体の反応  欧州委員会の政策文書に対し、以下の反応があった模様。 (1)Digital Europe Google、Amazon、Apple、Microsoft、日立、富士通、NECといった企業が参加する業界団 体。Bonefeld-Dahl事務局長は、ガーディアンの取材に対し、自主規制としたことは評価し つつ、視聴者のデモグラフィーに応じた広告のターゲティングはテレビ時代からあるとして 「これは違法行為ではないし、過剰反応は避けるべきだ」と指摘。 (2)コンピューター・通信産業協会(CCIA) Facebook、Google、Amazon、eBay, Oath、楽天等が参加する業界団体。 Sacquet欧州上席ポリシーマネージャーは、ロイターに対し、スケジュールのスピードに警 戒感を示しながら、「IT業界は、ネット上での偽情報拡散を非常に深刻な問題と捉えてい る。だが、関連するサービスは多岐に渡っており、行動規範を作る際には1つの対策で全て 解決できるわけではないと認識することも重要だ」と発言。 (3)欧州消費者機構(BEUC) Goyens事務局長は、ガーディアンの取材に対し、「欧州委員会のこの問題の分析は的を射 ているのに、その対応はパンチに欠ける」と指摘。その上で、「欧州委員会がフェイク ニュース対策を真剣に考えているなら、大手プラットフォーム企業の広告ビジネスモデルこ そが、虚偽情報の拡散の原動力になっているという事実に取り組む必要がある。これまでの 経緯から見れば、自主規制によってFacebookのような企業を変革させることなどできそう もない」と発言。
  • 18. Copyright © 2018 Kenta Mochizuki. All Rights Reserved. 18 14.偽情報対策vs報道の自由  EUに対する訴訟に発展 • 2015年11月、オランダ・アムステルダムに住むフリージャーナリストが、EUに対し批 判的な論陣を張るウェブメディア「TPO」に記事を投稿。 • 2018年1月、この記事が、EUの外交をつかさどる欧州対外行動庁(EEAS)のタスク フォース(East StratCom Task Force)が運営する検証サイト「EUVSDisinfo」のデー タベース上で、偽情報と指定されていたことが判明。 • 2018年2月、フリージャーナリストは、自らの記事が不当に偽情報に指定されたとして、 データベースからの削除を求めてEUを提訴。原告には、別の記事が偽情報と指定された オランダの地方紙「ヘルダーランダー」等2社も連名。 • これに対し、EU側は、提訴後に誤りを全面的に認めて削除を発表。EUの対応を受けて、 訴訟も取り下げ。  オランダ議会の動き • 2018年3月、オランダ議会は、上記のような一連の流れを受け、EUの検証サイトが報道 の自由に干渉しているとして、サイト廃止をEUに働きかけるよう政府に求める動議を可 決、EUや政府機関が報道を偽ニュースだと分類すること自体が望ましくないと指摘した。 • 一方、その後のオランダ政府の動きは鈍く、他のEU加盟国に同調する動きもないとの事。 偽情報の意図的な流布について、EUが「最も大きな脅威の一つ」(EUのTusk大統領) と位置付けているためとの事。サイトを運営する対外行動庁(EEAS)も、運営方針の変 更はしない意向を明らかにしているとの事。
  • 19. Copyright © 2018 Kenta Mochizuki. All Rights Reserved. 19 参考文献 • European Commission – Press Release, Tackling Online Disinformation: Commission Proposes an EU-wide Code of Practice, 26 April 2018, http://europa.eu/rapid/press- release_IP-18-3370_en.htm . • European Commission, Communication from the Commission to the European Parliament, the Council, the European Economic and Social Committee and the Committee of the Regions, Tackling Online Disinformation: a European Approach, 26 April 2018, https://eur- lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:52018DC0236&from=EN . • 平 和博「フェイクニュース対策に揺れるEU:『表現の自由』と『いまそこにある危機』」 (HUFFPOST, 2018年5月7日)、https://www.huffingtonpost.jp/kazuhiro-taira/fake-news- 20180507_a_23427954/ . • REUTERS「EU、大手IT企業に偽ニュース対策強化要請 行動規範策定へ」(2018年4月27日)、 https://jp.reuters.com/article/eu-fakenews-it-idJPKBN1HY0YW . • 毎日新聞「検証 フェイクニュース対策 EU『偽』断定で波紋 『報道干渉だ』VS「情報操作 対策』」(2018年5月19日)、 https://mainichi.jp/articles/20180519/ddm/003/030/040000c .