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放浪天文学者の宇宙ゆんたく(おしゃべり)
島袋隼士(云南大学、SWIFAR)
©GETTYIMAGES
第13夜:はじめての天文学入門②
#宇宙ゆんたく
#月夜サイエンス
テキスト
本日の内容
• 1.4「銀河宇宙の発見」

• 1.5「膨張宇宙の発見からビッグバンへ」
銀河宇宙の発見
キーワードは「距離」と
「明るさ」
見かけの明るさと絶対等級
遠くにある星ほど暗く見える。つまり「見かけの明るさ」とは我々からの距離によっ
て変わる明るさ。一方で星固有の明るさは距離によらず変わらない。それを絶対等級
と呼ぶ(天文学的には10pcの位置においた時の星の明るさを絶対等級と定義)。
Q・宇宙空間に恒星はどのように分布しているの?
ハーシェルは「恒星は、空間のどこにでも一様に分布しているのではな
く、限られた空間にいびつな分布をしている」ことを示した(1785年
頃)。後に銀河系と呼ばれるモデル。
カントは1755年頃「島宇宙(星が集団になって群れている)」を提唱。
カプタインはガスや雲による星の光の吸収を考慮してより正確な銀河系の
奥行きを求めた。しかし、近くの恒星の分布に限られていて、銀河の大き
さを確定することはできていなかった。
Q・太陽系は銀河系の中心? (20世紀前半の銀河に関する疑問)
1908年、レヴィットはマゼラン星雲中のセファイドと呼ばれる変光星は、その変光の
周期が長いものは(見かけの明るさが)明るく、 短いものは暗く、ある簡単な関係
(周期‒光度関係)にしたがっていることを発見した。
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m M = 5 log10
✓
D
10
◆
m:見かけの明るさ
M:星固有の明るさ(絶対等級)
D:星までの距離
距離と明るさの関係
距離がわかる⇔絶対等級が分かる
周期から見かけの明るさが分かると・・・
Q・太陽系は銀河系の中心? (20世紀前半の銀河に関する疑問)
距離がわかる⇔絶対等級が分かる
しかし、マゼラン星雲までの距離が分からないので、変光星の絶対等級
が分からなかった・・・
銀河系のハローにある、こと座RR型変光星に注目。
年周視差を用いて、こと座RR型変光星までの距離を測定!
→絶対等級を求めた。
ここで話は再び銀河系に。
その結果、どのこと座RR型変光星も同じくらいの絶対等級を持つことを発見。
Q・太陽系は銀河系の中心? (20世紀前半の銀河に関する疑問)
年周視差とは?
1年間で太陽と地球の位置が変わり、そ
れに応じて天体の見える角度(年周視
差)は変わる。
<latexit sha1_base64="8g0z/J5WGKva+t/0TZTvZoF5fCM=">AAAB9XicbVDLSgNBEOyNrxhfUY9eBoPgKeyKohch6MVjFPOA7BpmJ5NkyOzsMtOrhCX/4cWDIl79F2/+jZPHQRMLGoqqbrq7wkQKg6777eSWlldW1/LrhY3Nre2d4u5e3cSpZrzGYhnrZkgNl0LxGgqUvJloTqNQ8kY4uB77jUeujYjVPQ4THkS0p0RXMIpWeuj4SJWPfY708o60iyW37E5AFok3IyWYodoufvmdmKURV8gkNabluQkGGdUomOSjgp8anlA2oD3eslTRiJsgm1w9IkdW6ZBurG0pJBP190RGI2OGUWg7I4p9M++Nxf+8VordiyATKkmRKzZd1E0lwZiMIyAdoTlDObSEMi3srYT1qaYMbVAFG4I3//IiqZ+UvbOye3taqlzN4sjDARzCMXhwDhW4gSrUgIGGZ3iFN+fJeXHenY9pa86ZzezDHzifPwE9ki4=</latexit>
d tan ✓ = R
d : 太陽から天体までの距離
R : 地球と太陽の公転半径
θ:年周視差
「地球と太陽の距離」と「年周視差」が
分かれば、天体までの距離が分かる!
Q・太陽系は銀河系の中心? (20世紀前半の銀河に関する疑問)
シャプレーは球状星団に含まれること座RR型変光星の見かけの明るさと
絶対等級から距離を測定。
距離がわかる⇔絶対等級が分かる
その結果、太陽から離れたところを中心にして球状星団は球状に分布して
いることを発見。
話が複雑になってきたのでまとめると・・・
<latexit sha1_base64="uuptc0BXV9av5N/eyYj9RkPO8tU=">AAACEHicbVBNS8NAEN3Ur1q/oh69BItYD5ZELHoRinrwIlSwH9CUstlu0qW7SdidCCX0J3jxr3jxoIhXj978N27bHLT1wcDjvRlm5nkxZwps+9vILSwuLa/kVwtr6xubW+b2TkNFiSS0TiIeyZaHFeUspHVgwGkrlhQLj9OmN7ga+80HKhWLwnsYxrQjcBAynxEMWuqah+L49qLi8ijopo49cjn1oeT6EpP0ejRRJAv6cNQ1i3bZnsCaJ05GiihDrWt+ub2IJIKGQDhWqu3YMXRSLIERTkcFN1E0xmSAA9rWNMSCqk46eWhkHWilZ/mR1BWCNVF/T6RYKDUUnu4UGPpq1huL/3ntBPzzTsrCOAEakukiP+EWRNY4HavHJCXAh5pgIpm+1SJ9rNMAnWFBh+DMvjxPGidlp1K2706L1cssjjzaQ/uohBx0hqroBtVQHRH0iJ7RK3oznowX4934mLbmjGxmF/2B8fkDflKcQw==</latexit>
m M = 5 log10
✓
D
10
◆
距離がわかる⇔絶対等級が分かる
•見かけの明るさは変光星の周期から分かる。
•年周視差を用いてRR型変光星までの距離を測定→絶対等級はどれも大体同じ
•見かけの明るさと絶対等級が分かったので、銀河系内の球状星団中のRR型
変光星までの距離が分かる。
•恒星の分布が分かった!太陽系から離れたところに恒星が集まっている!
m:見かけの明るさ
M:星固有の明るさ(絶対等級)
D:星までの距離
現在の銀河イメージ
上から見た図 横から見た図
次なる疑問:アンドロメダ星雲はどこにあるのか?
シャプレー:銀河系内にある
カーチス:銀河系外にある
1924年、ハッブルがアンドロメダ星雲内のセファイドを観測し、銀河系
外にあることを発見。以後、この様な星の星団は銀河と呼ばれることに
なった。銀河は我々の天の川銀河だけではなく、宇宙には銀河がいくつも
存在している!銀河宇宙の発見。
膨張宇宙からビッグバンへ
銀河のスペクトル観測
20世紀までに恒星からの光を波長ごとに分ける分光技術が発展した。
太陽の光をプリズムに入射すると、虹のような色の
帯が見られる(スペクトル)。スペクトルは発光源
の物理状態や元素組成の手がかり。
連続スペクトル:波数、周波数に対して
連続
線スペクトル:特定の波数、周波数で
強くなるスペクトル。原子に固有。
Q.スペクトル観測から何が分かる?
A.銀河の速度が分かる。銀河が運動していると、スペクトルの位置がずれるの
で、そのずれから逆に銀河の速度を推定できる(ドップラー効果)。
波長 波長
銀河が運動すると・・・
ハッブルは24個の銀河の速度を観測して、銀河が我々から遠ざかってい
ることを発見した。
天文学辞典より(http://astro-dic.jp/hubbles-law/)
ハッブル・ルメートルの法則
ハッブルは銀河が我々から遠ざかっていることを発見。
~
v = H~
r
ハッブル・ルメートルの法則
天体の後退速度
我々から天体までの距離
天体の後退速度は天体までの距離に比例する
(遠い天体ほど早く遠ざかる。)
ハッブル定数
(おまけ)ハッブル定数測定の歴史
~
v = H~
r
<latexit sha1_base64="y9PG/sDPmaw25yK9NlwAStWVTlg=">AAACAnicbZDLSsNAFIZP6q3WW9SVuBksgquSiKgboeimywr2Am0ok+mkHTqZhJlJoYTgxldx40IRtz6FO9/GaZuFtv4w8PGfczhzfj/mTGnH+bYKK6tr6xvFzdLW9s7unr1/0FRRIgltkIhHsu1jRTkTtKGZ5rQdS4pDn9OWP7qb1ltjKhWLxIOexNQL8UCwgBGsjdWzj/RNN5CYpDJLx1nObpbWsp5ddirOTGgZ3BzKkKves7+6/YgkIRWacKxUx3Vi7aVYakY4zUrdRNEYkxEe0I5BgUOqvHR2QoZOjdNHQSTNExrN3N8TKQ6VmoS+6QyxHqrF2tT8r9ZJdHDtpUzEiaaCzBcFCUc6QtM8UJ9JSjSfGMBEMvNXRIbYpKBNaiUTgrt48jI0zyvuZcW5vyhXb/M4inAMJ3AGLlxBFWpQhwYQeIRneIU368l6sd6tj3lrwcpnDuGPrM8f86WXyQ==</latexit>
t =
r
v
=
1
H
これを変形すると
つまり、ハッブル定数の逆数は大体の宇宙年齢(ハッブル時間)を表す。
1931年に測定されたハッブル時間は18億年。しかし、放射線年代測定によると地球
に存在する最古の岩石の年齢が約30億年。 宇宙年齢の方が地球年齢より若い??
実は銀河までの距離の測定に誤りがあったので、ハッブル定数が間違っていた。
ハッブル定数の値を巡って長年に渡って議論が
繰り広げられた。
(おまけ)ハッブル定数測定の歴史
現在、ハッブル定数の値は大体、
H=70km/s/Mpcで落ち着いている。しか
し、宇宙マイクロ波背景放射による観測値と
超新星の距離測定による観測値にわずかに違
いがあり、現代宇宙論の の一つ。
ハッブル・ルメートルの法則の理論的基礎
Rµ⌫
1
2
gµ⌫R + ⇤gµ⌫ =
8⇡G
c4
Tµ⌫
✓
ȧ
a
◆2
+
kc2
a2
c2
⇤
3
=
8⇡G
3c2
⇢
時空の歪み(曲率) 物質分布
フリードマン方程式:宇宙膨張を記述する式
アインシュタイン方程式:「物質があると時空が歪む」
宇宙定数項
アインシュタイン方程式に宇宙の幾何学を代入すると・・・
©郡さん
宇宙の中身の内容によって、宇宙
が膨張するか収縮するか決まる。
宇宙の未来がどうなるか分かる!?
宇宙膨張の振る舞いの様子
近年の観測では宇宙は加速膨張していることが分かった
膨張宇宙から予想されること
宇宙膨張を巻き戻すと、宇宙は1点に収束する。
宇宙の始まりは高温、高密度だったに違いない(ビッグバン)
宇宙誕生後約3分くらい:宇宙は高温・高密度でこの時期に元素(水素やヘ
リウムなど)が合成される
宇宙誕生後40万年くらい:宇宙の温度が1万度くらいに下がって、光子が直
進できるようになる(宇宙の晴れ上がり)→宇宙マイクロ波背景放射
(CMB)
宇宙誕生後数億年くらい:宇宙最初の星や銀河が形成される。
ビッグバン宇宙の名残
•1964年、ペンジアス&ウィルソンは電波観測
のために空の温度を測定しようとした。
ペンジアス&ウィルソン
•しかし、どうしても取り除けない雑音が全天に
存在することを発見して悩む(鳥の糞なども取
り除いたがそれでも雑音が存在)。
•たまたま、ビッグバンが予言する宇宙マイクロ
波背景放射を研究していたプリンストン大学の
グループ(ピーブルス等)と議論した結果、雑
音が宇宙マイクロ波背景放射であると結論。
ペンジアス&ウィルソンは1978年に、ピーブルスは2019年にノーベル物理学賞を受賞。
今日のまとめ
• 見かけの明るさや絶対等級、距離の関係から球団星団ま
での距離を決定。恒星の分布が分かる。銀河の発見。
• ハッブルがアンドロメダ星雲が天の川銀河系の外にある
ことを発見。銀河は天の川銀河だけではなかった!
• さらに、銀河の速度を測定することで宇宙の膨張を発
見。
• 宇宙膨張からビッグバンが示唆される。

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