8. 1 性能保証・検収・瑕疵担保
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【よくある質問】
(1) ユーザから学習済みモデルを用いた出力の精度について一
定の保証をするようにと強く要請された場合、AIベンダはどのよう
に対応すべきか
(2) AI開発契約において検収基準や瑕疵担保についてどのよう
に定めたら良いか。
9. 1 性能保証・検収・瑕疵担保
🄫Storialaw.jp All rights reserved. 8
(1) 通常のシステム開発とAI開発の違い
通常のシステム開発 AI開発
開発手法 演繹型 帰納型
性能保証 可能
訓練データに統計的バイアスが
含まれることが避けられないた
め、未知のデータに対する性能
保証は困難
性能不足の場合の事後検証 可能
原因の切り分け(データの品質、
ハイパーパラメータ設定、ソー
スコードのバグ等)が困難
性能テスト 可能
① 学習に利用しない独立した
データセットが必要
② (当然だが)未知データで
のテスト不可能
10. 1 性能保証・検収・瑕疵担保
🄫Storialaw.jp All rights reserved. 9
(2) ではどうしたらよいのか
① AI開発の特性をユーザとベンダが理解すること
→AI・データ契約ガイドラインの活用
② 開発プロセス及び契約の分割
→探索型段階型開発方式
③ 契約内容の工夫
→準委任型
11. 1 性能保証・検収・瑕疵担保
🄫Storialaw.jp All rights reserved. 10
① AI開発の特性をユーザとベンダが理解すること
→AI・データ契約ガイドラインを活用する
(http://www.meti.go.jp/press/2018/06/20180615001/201
80615001.html)
→2018年6月15日公表
→AI開発における基礎概念、AIの技術的特性、利点と限界に
ついて詳細に記載
12. 1 性能保証・検収・瑕疵担保
🄫Storialaw.jp All rights reserved. 11
② 開発プロセス及び契約の分割:探索型段階型開発方式
→「開発を進めてみないと、うまくいくかどうかわからない」の
が本質
→ユーザ・ベンダお互いのリスクヘッジのために徐々に開発を進
めていこうという発想
ガイドライン(AI編)より引用
16. 2 権利と知財
🄫Storialaw.jp All rights reserved. 15
【よくある質問】
AIベンダとして、事業会社との共同プロジェクトを立ち上げる際
の、知財・法務に対する最初のニギリ方 (契約書への文言の入れ
方) が事業会社側、AIベンダ側とも曖昧なケースが多く、実際に売
り上げが発生した際にモメそうな不安があります。
17. 2 権利と知財
🄫Storialaw.jp All rights reserved. 16
(1) 通常のシステム開発とAI開発の違い
① 通常のシステム開発と異なり、複数の材料、中間成果物、成
果物が存在する
② 材料、中間成果物、成果物が高い価値を持ち、ユーザ・ベン
ダ共に独占/再利用したいという需要が存在する
20. 2 権利と知財
🄫Storialaw.jp All rights reserved. 19
② 材料、中間成果物、成果物が高い価値を持ち、ユーザ・ベン
ダ共に独占/再利用したいという需要が存在する
▼ ユーザ
学習用データセット、学習済みモデルは自社のノウハウや機密
が詰まった生データを用いて生成されたものであり、開発に際して
委託料も支払っていることから、自社で独占したい。
▼ ベンダ
生データを用いて学習用データセットを生成する過程、訓練過
程いずれにおいても自社の高度のノウハウ及び多大な労力を用いて
いること、額主要データセットや学習済みモデルは再利用が可能で
あることから、この開発案件以外にも横展開したい。
→この2つの相反する希望を調整する枠組が必要
21. 2 権利と知財
🄫Storialaw.jp All rights reserved. 20
(2) どうしたらよいのか
① 材料・中間成果物・成果物について、何が知的財産権の対象
となるのか・ならないのかを知っておく
② ①についてデフォルトルール(=法律上のルール)として誰
がどのような権利を持っているかを知っておく
③ 契約条項をどのようにして自社に有利にデザインするかを
知っておく(「権利帰属」にこだわらず「利用条件」で「実」をと
る)
22. 2 権利と知財
🄫Storialaw.jp All rights reserved. 21
(2) どうしたらよいのか
① 材料・中間成果物・成果物について、何が知的財産権の対象
となるのか・ならないのかを知っておく
② ①についてデフォルトルール(=法律上のルール)として誰
がどのような権利を持っているかを知っておく
③ 契約条項をどのようにして自社に有利にデザインするかを
知っておく(「権利帰属」にこだわらず「利用条件」で「実」をと
る)
23. 2 権利と知財
🄫Storialaw.jp All rights reserved. 22
▼ 法律と契約の関係
1 法律に書いてあることでも、契約で法律とは別の約束をすれば原則とし
て契約の方が優先する。
2 契約に定めていないことがある場合には、自動的に法律に従うことになる。
43. 2 権利と知財
🄫Storialaw.jp All rights reserved. 42
(2) どうしたらよいのか
① 材料・中間成果物・成果物について、何が知的財産権の対象
となるのか・ならないのかを知っておく
② ①についてデフォルトルール(=法律上のルール)として誰
がどのような権利を持っているかを知っておく
③ 契約条項をどのようにして自社に有利にデザインするかを
知っておく(「権利帰属」にこだわらず「利用条件」で「実」をと
る)
49. 2 権利と知財
🄫Storialaw.jp All rights reserved. 48
■ 権利帰属の考え方
① ベンダ全部帰属
② ユーザ全部帰属
③ 共有
→モデル契約では「著作権の対象となるもの」と「著作権の対象
とならないもの」に分けて規定している。
「著作権の対象となるもの」:16条
「著作権の対象とならないもの」:17条
50. 2 権利と知財
🄫Storialaw.jp All rights reserved. 49
■ 利用条件の考え方
ユーザ、ベンダそれぞれが、材料・中間成果物・成果物を、自社
のビジネスにおいてどのように利用したいかをよく検討しなければ
ならない。
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【主体】
ユーザ
【対象】 【利用条件】
生データ 利用条件1
学習用データセット
ノウハウ 利用条件10ベンダ
・
・
・
・
・
・
学習前モデル
学習済みパラメータ
学習済みモデル
利用条件2
52. 2 権利と知財
🄫Storialaw.jp All rights reserved. 51
■ 権利帰属+利用条件の具体例
▼ 対象
学習済みモデル
▼ 権利帰属
全部ユーザ
▼ 利用条件
ユーザ:当然何の制限もなく利用可能。
ベンダ:原則として制限なく利用可能。ただし平成●年●月●
日から●ヶ月間は、●●業の分野を事業領域とする事業者には提供
しない。
▼ 条項例
モデル開発契約16条B案+18条A案【別紙】利用条件一覧
表(ケース3)
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53. 2 権利と知財
🄫Storialaw.jp All rights reserved. 52
【質問】
ユーザが提供した生データを用いて生成された学習済みモデル
(プログラム)はユーザが独占的に利用できるのか、それともベン
ダが横展開できるのか。学習済みモデル内の学習済みパラメータに
ついてはどうか。
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54. 2 権利と知財
🄫Storialaw.jp All rights reserved. 53
【回答】
(1) 契約条項に学習済みモデルの権利帰属・利用条件に関する
記載がない場合
①学習済みモデル(プログラム)は知的財産権(著作権)の対
象であり、同モデルを創作したのはベンダであるため、ベンダが著
作権者として権利保有。
②パラメーターは知的財産権の対象ではないため、契約条項が
なければ「保持している者が自由に利用できる」ことになる。した
がって、ユーザに可読性がある形で納品していれば、ベンダ・ユー
ザ双方自由利用可能。納品していなければベンダが独占して利用可
能。
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55. 2 権利と知財
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【回答】
(2)契約条項に学習済みモデルの権利帰属・利用条件に関する記
載がある場合
→契約条項に従う
例 ①学習済みモデルに関する知的財産権はユーザ帰属。
②ユーザは学習済みモデルを特段の利用条件なく利用可能。
③ベンダは学習済みモデルを再利用モデル生成目的のために
利用できるが、一定期間はユーザの競合事業者に対して、当該再利
用モデルを提供できない。また、ベンダは学習済みモデルをそのま
まの形で第三者提供や譲渡ができない。
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56. 2 権利と知財
🄫Storialaw.jp All rights reserved. 55
【まとめ】
① 材料・中間成果物・成果物について、何が知的財産権の対象
となるのか・ならないのかを知っておく
② ①についてデフォルトルール(=法律上のルール)として誰
がどのような権利を持っているかを知っておく
→「生データ」「学習用プログラム」「学習用データセット」
「学習済みモデル」「学習済みパラメータ」「ノウハウ」それぞれ
について知っておく
③ 契約条項をどのようにして自社に有利にデザインするかを
知っておく
→ 「権利帰属」にこだわらず「利用条件」で「実」をとる
60. 3 責任
🄫Storialaw.jp All rights reserved. 59
(2) 3種類の責任
① AI開発遂行に際して生じた損害についての責任
②成果物であるAIの利用により生じた損害についての責任
③AIの利用により第三者の知的財産権を侵害した場合の責任
61. 3 責任
🄫Storialaw.jp All rights reserved. 60
(2) 3種類の責任
(ア) AI開発遂行に際して生じた損害についての責任
例:通常のAIベンダであればやらないレベルのミスにより納
期が遅延した
① 当然のことであるが「準委任契約=一切責任を負わない」
ということではない
→ベンダは「善管注意義務」(民法644条。委任の本旨に
従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務)
を負う。
② 「開発遂行に際して生じた責任」についてはAI開発と通
常のシステム開発を区別する合理性がない。
→モデル開発契約22条では、モデル契約2007と同様の規定
を設けている。
62. 3 責任
🄫Storialaw.jp All rights reserved. 61
(2) 3種類の責任
(イ)成果物であるAIの利用により生じた損害についての責任
例:ベンダがユーザに提供したAIを利用した生体認証システ
ムが誤判定をした。
① 誤判定の原因が不明(ユーザの提供したデータが原因、ア
ルゴリズムが原因、想定外の入力デーが原因など様々な原因が考
えられる)
② システムに組み込まれている場合因果関係が否定される
(フェールセーフ機能を設定すべき等)
③ ベンダにも結果が予見できないのでベンダに故意過失なし
→ベンダが責任を負うケースは少ないのではないかと思われる。
→モデル開発契約20条では原則としてベンダの責任を否定す
る条項にしている。
63. 3 責任
🄫Storialaw.jp All rights reserved. 62
(2) 3種類の責任
(ウ) AIの利用により第三者の知的財産権を侵害した場合
例:ベンダがユーザに提供した学習済みモデルが第三者の特許
を侵害していたためユーザが特許権者から損害賠償請求を受けた
→「AIの利用により生じた損害」の一種であるが、知的財産
権侵害についてはユーザの関心が非常に高く、ベンダが知財保証
(第三者の知的財産権を侵害しないことの保証)するように求め
られるケースも多い
【考えられる契約条項のパターン】
① 一切保証しないパターン
② 著作権非侵害のみ保証するパターン
③ すべての知的財産権の非侵害を保証するパターン
→モデル開発契約においては②(21条B案)と③(21条A案)
を提示