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研究経過発表
2016年11月15日
コアーセミナーB 火曜5講時
W16M004 松永瞭太
指導教員:斎藤文彦
副指導教員:鈴木滋、杉本バウエンス・ジェシカ 出典:吉田昌夫・白石壮一郎(2012)『ウガンダを知るた
めの53章』 明石書店, p14
1
研究テーマ
ウガンダのHIV/AIDS問題における
パフォーマンスを用いた活動の役割の考察から、
他の低開発地域への応用の可能性を考える
2
研究背景①
多くの開発途上国:様々な社会問題を抱えている(低開発地域の識字率の低さなど)
開発途上国の社会問題:地域や国の独特の文化や思想が関わっていることが多い
→諸問題の解決には、政府の努力だけではなく、地域社会の理解と協力が必要
→芸術表現が人々の行動変容を促す手段の一つとして利用
3
ウガンダにおけるHIV/AIDS問題
ウガンダ:音楽や劇をHIV/AIDS問題解決の手段として使った国の一つ
ウガンダHIV/AIDS問題:
→1980年代後半、アフリカ諸国の中で最も深刻な状況である国の一つに
→危機感を感じたムセベニ大統領が1986年末にACP(AIDS Control Program)に着手
→ACPの一環としてパフォーマンスを利用した啓蒙活動を地域社会と連携して取り組む
1990年代前半:
感染者数を減少させ、モデルケースとし世界的注目を浴びる
4
5
先行研究①
パフォーマンスがHIV/AIDS問題解決の一助となるとされ、研究者も注目
HIV/AIDS問題におけるパフォーマンスを用いた活動に関する先行研究は多く存在
例)Barz(2006):役割の重要性を歌詞分析や演者からの証言を中心にして言及
→民族音楽学という視点から論じている
→活動数や活動の評価を用いた分析は行っていない
6
先行研究②
先行研究における共通点
① 地方における伝統的な要素を持ったパフォーマンスが研究対象の中心
② 活動の重要性に関する証言のほとんどが「演者視点」
先行研究から分かった明らかな点
① 伝統的な要素を持つパフォーマンスを用いた活動は、地方で重要な役割を担っていた
② 芸術表現(特に音楽)は、HIV/AIDS問題以外においても啓発効果を発揮をしてきた
7
先行研究では十分に言及されていない点
① どのような種類のパフォーマンスが、どのような人々の共感を呼び、場合に
よっては疎外してきたのか
② 1986年のACP開始以来からのウガンダ社会の状況変化を考慮して、ACP開
始当初の状況と2000年代半ば以降から現在の活動の比較
③ パフォーマンスから情報を受ける(視聴者)側の意見が殆どない
④ (子どもが関係する事象がほとんど扱われていない)
8
「聴ける音楽の種類を選ばなければいけない決断を迫られたとき、
伝統的音楽かポピュラー音楽のどちらを選ぶか」
36%
60%
4%
Respondents choice
traditional music
pop music
can't chose
9
2015年8月実施
回答者数:83人
研究目的
先行研究では、十分な解明がされなかった点の明確化
① どのような種類のパフォーマンスが、どのような人々の共感を呼び、場合によっては疎外し
てきたのか
② 1986年のACP開始以来からのウガンダ社会の状況変化を考慮して、ACP開始当初の状況
と2000年代半ば以降から現在の活動の比較
③ パフォーマンスから情報を受ける(視聴者)側の意見が殆どない
④ (子どもが関係する事象がほとんど扱われていない)
10
研究意義
本研究:パフォーマンスを用いた活動が力を発揮する場面や対象の多面性に注目
① どのような種類の音楽や劇が、どのような人々の共感を呼び、場合によっては疎外してきたのか
→種類分けによる相関性が見られた場合、新たな活動の形の示唆に繋がる可能性がある
② ウガンダ社会の状況の変化を考慮して、過去と現在の活動の考察
→他の低開発地域での諸問題解決に対して示唆を与えられる可能性がある
よって、本研究は学術的にも十分な意義があると考える
11
研究対象の選定
HIV/AIDS問題
• アフリカのみならず、世界規模の深刻な社会問題である
• 行動変容を促す手段として音楽や劇を用いる
• 一時的に減少した感染者総数が再び上昇している
研究対象地:ウガンダ
• アフリカでもっとも早くにHIV感染者数を減少させた国として多くの国から関心を集めた
• 発表者自身が、ウガンダでの1年間の滞在経験があり、現地人との繋がりもある、フィールドワークを取
り組みやすい環境である
以上から、HIV/AIDS問題におけるパフォーマンスを研究対象とし、ウガンダを研究対象地とすることは最
適であると考える
12
先行研究からの気づき①
① TASO(The AIDS Support Organization)の活動は伝統的音楽が基本
② パフォーマンスにメッセージ性を持たせるのは、組織団体の活動だけではな
い
→団体の活動とは無関係の個人(歌手など)が行う場合もある
③ パフォーマンスにも、演者や視聴者にも多様性がある
13
TASO(The AIDS Support Organization)
TASO→1987年に発足したウガンダのNGO
→国内の主要地に複数のオフィス
→HIV/AIDSに関わる活動全般を行う
→パフォーマンスを用いた活動を含む
HIV/AIDS問題を扱う団体としてウガンダで最大級の規模を持ち、知名度も高い
TASOが行うプログラム例(Mbarara支部)
①ドラマ ②コーラス ③フォークソング ④フォークダンス
出典:TASO HP,
https://tasouganda.org/
14
HIV/AIDSに関する音楽①(CD視聴)
TASOが行う実際の活動の一部
“TASO is going forward with positive living” by TASO Mulago Drama Group
歌詞/Barz(2006),p53:
コーラス/TASO is going forward, supporting with positive living
ソロ / We now without parents, we should all come together. Now and all times, for those in need.
It is a challenge; we should all come together. Encourage one another with positive living as the end.
We encourage everyone to never lose hope. We together in the struggle.
Everyone needs to know the facts about AIDS.
Abstaining is the sure way to stay safe.
Sponsors, counsellors, medical staffs, we want to thank you all. And let the almighty Lord bless you
15
Tafash and Twig(女性ラッパー)
Tafash
• 大学のマスコミュニケーションに関する学部を卒業
• 在学中にボランティアで、HIV患者のカウンセリングとテストを行う
• 歌詞のほとんどは故郷(ケニア)の言葉であるスワヒリ語
Twig
• AIDS遺児の子どもを引き受けて生活している
• パフォーマンス
→歌詞にはガンダ語を用いる
→AIDSフリーの子どもを産むことで、HIV/AIDS問題の改善を促すことは目的としていない
→AIDS遺児に救いの手を差し伸べて、希望を与えることを目的とする
16
HIV/AIDSに関する音楽②(CD視聴)
女性ラッパーが歌うHIV/AIDSに関する楽曲(スワヒリ語+英語)
UKIMWI(AIDS) by Tafash (女性ラッパー)
英訳歌詞(抜粋)/ Barz(2011), pp371-372:
I am AIDS and AIDS is me. They call me danger ‘cuz they were not ready for it’.
I am coming worse than a car accident. I am like a gamble.
I am spreading worse than news. I cause a lot of worries. When I arrive you cannot see me.
You get infected by me and you cannot heal. Most people do not believe that I exist.
I am hotter than fire. They take me as so simple. They think I am like a pimple.
They sing about me like some jingle. I am illegal. They have advertised me on billboards……
17
先行研究からの気づき②
① Edutainment (Education + Entertainment)をキーワードに行う活動がある
→問題意識を高めたり、行動変容を促したりする目的で意図的に”media message”をデザインしてエンターテ
インメントのなかに組み込み、実施するもの(Barz [2011],p57)
→音楽学における、医療音楽や音楽療法も“Edutainment”を採用
② 子どもが関係する事象がほとんど扱われていない
→ウガンダ:子ども達がHIV/AIDSに関するパフォーマンスをする例が多数ある
→子ども達が演じるパフォーマンスには、NGOなどの諸団体が行うものとの影響の相違があるかもしれない
18
研究方法①
量的データの分析:各種資料・データ収集、アンケート調査より
二次資料を用いた分析
→活動数や感染者数など:HIV/AIDS問題の変遷
→トップセールスの内容など:音楽嗜好性や社会状況の変化を読み解く
→卒業論文で収集したデータなど
:若者の音楽嗜好性とHIV/AIDS問題におけるパフォーマンスの関係性を考える
国内で入手できる資料を基に、現地調査の準備を行う
19
研究方法②
質的データの分析:インタビュー、アンケート調査(現地調査)より
調査対象
→演者と視聴者の二面に行う
→分析では、性別や年齢、出身地などによって分析できるように属性を細分化
トップセールスの共通の要素など:音楽嗜好性
書籍やデータでは判断が難しい現象を明らかに(量的データ分析の補完)
量的データ+質的データ
「どのようなパフォーマンスの形式(種類)が、どのような人々にどのような影響を与えたか」を明らかに」
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今後の研究計画
現在~現地調査まで
① 論点の整理、研究対象の最終決定を行う
② 現地調査で使用するアンケートなどの作成、事前準備
 現地調査/一度目(2月~3月)
① インタビューおよび、アンケートの実施
② 現地でしか入手できない資料・データの収集
 現地調査後
① 各資料・データの整理後、分析を行う
② 同時に、収集データの抜け落ちを探す
 (現地調査/二度目(必要に応じて))
① 現地調査(一度目)の結果を踏まえて、必要な情報・データを収集
21
参考文献・資料紹介①
アフリカ日本協議会HP, データーベース, 「ウガンダ、エイズを撃退」, http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/db-infection/2001ar0202.html
(最終アクセス2016/06/23)
外務省HP, ODA(政府開発援助), 「ミレニアム開発目標(MDGs)」, http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/doukou/mdgs.html
久保田賢一 (1999)『開発コミュニケーション―地球市民におけるグローバルネットワークづくり』明石書店
日経新聞WEBページ, “2013/03/04 日経新聞記事”, http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK04016_U3A300C1000000/ (最終ア
クセス2016/06/19)
樋口耕一, KH Coder Index Page, http://khc.sourceforge.net/ (最終アクセス2016/06/23)
松田素二編(2014)『アフリカ社会を学ぶ人のために』 世界思想社
松永瞭太(2015)『平成27年度 天理大学卒業論文 “What’s the role of African Music in the Lives of Young Ugandans”』 天理大学
ロジェク・クリス著, 渡辺潤・佐藤生実訳(2009)『カルチュラルスタディーズを学ぶ人のために』 世界思想社
吉田昌夫・白石壮一郎(2012)『ウガンダを知るための53章』 明石書店
吉見俊哉編(2001)『知の教科書 カルチュラル・スタディーズ』 講談社選書メチエ
ーーー (2008)『思考のフロンティア カルチュラル・スタディーズ』 岩波書店
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参考文献・資料紹介②
•Barz, Gregory (2006), Singing for Life: HIV/AIDS and Music in Uganda, New York: Routeledge
•Byam, L. Dale (1999), Community in Motion: Theatre for Development in Africa, London:
BERGIN&GARVEY
•Clayton,Martin, Trevor Herbert, Richard Middleton (2003) The Cultural Study of Music- a critical
introduction, Great Britain: Routledge
•STD研究所、STD研究所WEBページ, “HIV感染症/AIDS”, http://www.std-lab.jp/stddatabase/hiv-
aids.php (最終アクセス2016/06/22)
•Uganda, the Republic of, Ministry of Health in Uganda Official Site “AIDS Control Program”,
http://www.health.go.ug/programs/aids-control-program (最終アクセス2016/06/19)
•UNICEF, UNICEF HP, UNICEF Statics, Literacy, “Access the Data”,
http://data.unicef.org/education/literacy.html (最終アクセス2016/06/24)
UNAIDS AIDS, info, ダウンロード資料 http://aidsinfo.unaids.org/
23
ご清聴ありがとうございました
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