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Prengo評価の考察
- 4. 1-1 研究背景、問題意識
筆者らは1回生の頃からAPU公認団体 学生NGO PRENGOに
所属しており、支援地であるタイの貧困地域において教育支援活動
を行ってきた。
その活動の中で、学生NGOというメンバーの入れ替わりが激しい
団体だからこそ、活動をより効果的に、現地の方々に責任を持って
行うためには、過去の活動の反省、次の活動の改善のために評価
を行い、その結果を後輩に伝えて行くことが重要だと感じていた。そ
れを先輩から後輩へのいわゆる経験の「口伝え」ではなく、より明確
に客観的に評価を行い、結果を残していく必要があると考えた。
2015年から新しい地域での活動が始まるというPRENGOの転換
期であるこの時期に、PRENGOの評価体制を確立すべく、開発評
価の学生NGOへの適用を図る、この研究を開始した。
4
- 10. 2 ①モノ中心の開発 1950〜70年 :開発の潮流
現代の開発援助は、第二次世界大戦後のヨーロッパに対して行われたアメリカ
のマーシャル・プラン(欧州復興計画・1948-52)によって始まったと言われている。
当時、世界は二度に渡る大戦を経験し、多くの課題を抱えており、その一つに「貧
困」があった。国連を始めとした先進国は貧困の原因を模索し、開発を行うことに
よって貧困の緩和と解決を試みた。「国連開発の十年」とされた1960年代、新た
な独立国を迎えた国際社会は、「援助する側」と「される側」の役割分担を明確に
しつつ、「援助」の体制を整え始める。その1960年代に急激な経済成長を開始し
た日本の姿は、新たな独立国家の開発戦略に大きな影響を与えたのみならず、
国際援助機関にも「経済成長による近代化」戦略の有効性を示すという意味で大
きな自信を与えた。日本の奇跡はまず、欠乏している経済的資源を援助すること
によって経済の「離陸」をはかり、それによって国の経済が活性化しパイが大きく
なることで、Trickle downによって国民生活が向上するという理論の成功例として
見なされたのである。このような効果が期待できるならば、経済成長さえすれば
人々の生活は良くなる、との想定に基づいて、マクロな経済発展を支援する「ビッ
グプッシュ戦略」が援助機関の主流戦略となったのである。しかしながら相当な額
の経済支援が行われたにもかかわらず、実際にはほとんどの途上国において、
期待された経済の「離陸」は起こらなかった。
- 11. 2 ①モノ中心の開発 1970〜80年 :開発の潮流
第二次「国連開発の十年」となった1970年代は、「援助する側」と「される側」が
共に近代化という指向性を共有しながらも、その戦略について異なる意見を持ち
はじめる時期であった。ビッグプッシュ戦略は、多大なコストがかかるにもかかわ
らず、その結果がすぐに表れるわけではないため、マクロの経済成長も大事だが、
目に見える変化をもたらすミクロレベルでの生活の向上も目指すべきではないか
ということから、BHS(Basic Human Needs)戦略が提唱される。人間が生きてい
くために最低限必要なもの、例えば、食糧や、住居、保険サービス、教育サービス
に対して直接支援する開発援助が行われるようになるのである。
- 12. 2 ①モノ中心の開発 1980〜90年 :開発の潮流
1980年代になるとBHN戦略のような直接支援をしようとしても、援助側の限られ
た資源がすべ貧困者に分け与えられるわけではないため、本来BHNを供与する
責任を負うべき途上国政府が自身の力で必要な資金をまかなえるように経済構
造の強化が必要だという考えが強まった。そこで国際通貨基金(IMF)、世界銀行、
そしてこれら両機関に影響力の大きいアメリカ合衆国のレーガン政権(1981-89)
の意向によって「構造調整」戦略が開始された。これは「貿易収支」「財政収支」の
赤字をできる限り、少なくすることを目指して大掛かりなマクロ経済改革を命じるも
のであった。
- 14. 2 ②ヒト中心の開発 1990年〜現代 :開発の潮流
2000年に開催された国連総会では、「ミレニアム開発目標(MDGs)」が合意され、貧困削
減が、21世紀初頭の開発援助の中心的なテーマに置かれるようになった。貧困削減のため
マクロ政策としては、大きく分けて、経済成長政策、分配政策の二つの取り組みがあり得る。
経済成長政策は従来型のトリクルダウンの効果に依存する方法である。
一方GDPが成長しなくても、例えば上位10%の人の取り分を減らしそれを貧困者に配分
すれば、貧困削減には繋がりうるというのが分配政策である。一方ミクロレベルの貧困削減
政策は、農村開発、教育支援、保険医療プロジェクトなどの形をとって実行される。
- 15. 2 モノ中心:ヒト中心の開発の特徴対比 :開発の潮流
モノ中心(1950〜80年) ヒト中心(1980年〜現代)
・Trickle downに沿った開発(都市開発、
インフラストラクチャーの整備)
・直線的な開発観(西欧社会の産業革
命以降の経験をたどる前提の近代化と
工業化)
・上位下達(トップダウン)の考えを根底
とした活動(中央集権的な計画立案と政
府事業を通じた活動)
・貧困=資金不足という解釈
・学習過程を伴うボトムアップ型のアプ
ローチによる主体的参加の促進(計画/
活動において公平さを最優先事項とし
開発を受ける側が主体とする)
・人間のエンパワーメント重視(個人の
能力の成長)
・活動/効果の持続性(長期的視点に
立った政策・施策)
・地域単位での草の根的活動(地元住
民の需要を優先とし、NPO/NGO組織を
中心とした活動)
- 24. 4-4 評価の枠組み(続き) :JICA評価の説明
①PJの現状把握と検証 について
1:実績の検証…PJで何を達成したか、達成状況は良好か
中間評価以降では、そのPJで何が達成されたかを把握し、それが期待通りであるかの判断
を行う。具体的には目標の達成度(PJ目標や上位目標)、アウトプット(結果)の産出状況、
投入(PJにかける費用や人員時間など)を確認し、PJ計画時の目標値と比較する。
2:実施プロセスの検証…それらを達成する過程(プロセス)で何が起きているのか
それは達成にどんな影響を与えているのか
中間評価以降では、活動は計画どおりに行われているか、マネジメントは適切か、PJ内の
人間関係に問題はないか、受益者の認識はどのように変化したかを調査する。つまりPJを
実施する過程で何が起きているかを把握することが中心である。
☆これら実施プロセスの検証で得る情報は、PJの効率性や有効性を検証する際の根拠と
なる場合が多く、PJの阻害要因や貢献要因の見当に活用される。
3:因果関係の検証…達成されたことが本当にPJを実施したためであるかどうか
PJ目標や上位目標の達成度が本当にPJ実施によりもたらされたものであるかどうかを調査
する。PJは社会全体から見れば1つの「介入」に過ぎず、PJ以外の要因による影響は常に
ある。PJを実施した価値があるかどうかを結論づけるためには、効果とPJ実施との因果関
係を検証しなければならない。
<因果関係を検証するための比較方法と定性分析>
Before/After比較、With/Without比較と定性分析がある。後のスライドにて詳しく説明する。
24
- 25. 4-4 評価の枠組み(続き) :JICA評価の説明
①PJの現状把握と検証 3:因果関係の検証の方法
因果関係の検証の方法は、(1)定量的手法(2)定性的手法 の2つに分けられる。
(1)定量的手法
before/after比較
PJの前と後では
どのように変化したか
with/without比較
PJを行った地域と、
行っていない地域では、
どのような違いが見られるか
(2)定性的手法
a 投入から活動、アウトプット、目標に至る実施プロセスの経緯を積みあげる
b プロジェクトの実施を効果のロジックの論理的な説明を試みる
c 技術の移転、普及過程を分析する
d プロジェクトから受益する地域や対象を限定し、より深くデータ分析を行う
PJ実施前の
対象地域のデータ
PJ実施後の
結果、数値
比較<before> <after>
・事前評価でデータを得る ・中間時評価、終了時評価
モニタリングでデータを得る
PJを
行っている地域
PJを
行っていない地域
<地域A> with PJ <地域B> without PJ
比較
・PJ実施中のモニタリング、
評価資料を用いる
・新たに調査を行う
その地域に詳しい人物が必要
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- 30. 4-6 ログフレームの活用 :JICA評価の説
明<ログフレームとは>
ログフレームとは、ロジカルフレームワークの略であり、1960 年代後半に米国国際開発庁
(USAID)が開発したものである。その後1970年代後半以降、国連開発計画や国連児童基金
など多くの国際機関がこれを導入し、それぞれのPJの運営管理に生かしてきた。
<PCM手法とPDM>
ログフレームを使用した開発プロジェクトの計画内容を詰める手段が
プロジェクト・デザイン・マトリクス(PDM)と呼ばれ、国際的に使われている表である。
この表をプロジェクトの計画段階だけではなく、実施・評価の段階においても用いる手法が
プロジェクト・サイクル・マネジメント(PCM)手法と呼ばれ、JICAのプロジェクトマネジメントの基
本ともなっている。
<PCM手法の流れ>
PJ立案=PDMの作成…対象とする問題を決定し、その要因を把握する
目標の設定(数値で設定される)、
PJ実施プロセスの確認=PDMとの比較によりPJの実施状況、問題点の検証、方向性の修正
PJ評価=PDM上の目標が達成されたか確認
FACID(2006)によると、参加型開発におけるPDMの使用の際は、
PDMの作成(=PJ立案)を現地住民と行うことが望ましいとされている。
しかし援助側のみでPDMを作成することも可能である(現地の状況との乖離に注意する必要)
30
- 31. 4-6 ログフレームの活用(続き):JICA評価の説明
PJの要約 指標 入手手段 外部条件
上位目標
PJの目標達成後
何を目指すのか?
PJの達成度を
計る基準
指標を得るための
データソース
PJに重要だが、コン
トロールできず、満
たされるか否か不
確かな条件
PJ目標
PJは期間内に何を
達成すべきか?
アウトプット
PJ目標をどのよう
に達成するのか?
活動
アウトプットを実現
するために具体的
何をするのか?
投入
PJに必要な人材、資機材・施設、資金
前提条件
PJ開始前に満たさ
れるべき条件
<PDM(プロジェクト・デザイン・マトリックス)>
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- 32. 4-6 ログフレームの活用(例):JICA評価の説明
PJの要約 指標 入手手段 外部条件
上位目標
OTOP家庭、2家庭の教育費捻出
とMahad地域の教育環境の向上
パーゲンとパーウア(PJメン
バー)の家庭がOTOPから年間
27360B を給料として受け取る。
OTOPからの支
払い記録
(教育環境向上
のために使われ
たか)モニタリング
体調不良等の要因により
タイパンツが毎月送られて
こない
タイBのレートが上がる
PJ目標
現地の教育環境のニーズの把
握
とタイパンツの販売促進
現地の教育環境における問題
点を把握し、OTOP資金の使用
用途の候補が挙げられる
上半期でタイパンツを250枚売
り上げる。
現地住民との
MTGヒアリング、
調査
OTOPの売り上げ
の記録
タイの情勢に関係し渡航
へ行けない
体調不良、仕事の都合が
合わず、会えない
アウトプット(成果)
<国内活動>
タイパンツの購入者が増える
<国外活動>
日本人の好みにあうタイパンツを
把握している。
市場の数、出店日数が増加す
る
前年度より、タイパンツの売り上
げ枚数が増加
現地との連絡回数が月に1回以
上
活動
<国内>タイパンツの販売
<国外>現地住民とのMTG
投入
OTOPプロジェクトメンバー 6名
月に2、3回週末にフリーマーケットに参加するため
の出店料(約2000円/回) 前提条件
現地メンバーがタイパンツ
を製作できる
<PRENGOのOTOP PJ(伝統的なズボンタイパンツを売るPJ)のPDM >
32
- 42. 6-1 学生NGOについて :PRENGO評価
この後対象にする学生NGO PRENGOは、立命館アジア太平洋大学の生徒のみで構成され
ている学生NGOである。これまで開発行為に対する評価手法を見てきたが、それらが対象とし
ている組織はJICAであったり、ある程度規模の大きいNGOである。そのため、事例研究として
PRENGOの評価を紹介する前に、学生NGOの特徴を述べ、その後学生NGOに適した評価
法を模索する。
学生NGOは学生のみで構成されいていることにより、一般のNGOと比べると以下のような特
徴を持つと言える。
長所 短所
勉強をすることにより様々な分野に対して支
援を行うことができる。
支援に対する知識・経験が不足している。
メンバーに賃金を払う必要がない。 賃金による拘束力がない反面、活動の規模
や継続性がメンバーのモチベーションに左
右されることもある。
その時のメンバーの意見や、現地の状況に
よって柔軟に活動内容を変化させることがで
きる。
学生であるためメンバーが卒業することで、
主体となるメンバーの入れ替わりが激しく、
活動や方向性の確実な引き継ぎが困難。
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- 43. 6-2 PRENGO概要 :PRENGO評価
今回実際に、APU公認団体 学生NGO PRENGOの活動評価を行ったため、
初めにPRENGOの概要を述べる。
団体名:PRENGO
代表:西岡航平(2014年9月現在)
所在地:立命館アジア太平洋大学(大分県別府市)
設立:2003年4月
主な支援:教育支援を中心とした地域開発
部員数:国内学生54人、国際学生25人(2014年9現在)
立命館アジア太平洋大学公認団体 学生NGO PRENGOは、「アジア太平洋地域の発
展と相互協力」を理念に掲げ、教育支援を根底に置いて活動を行っている。
2004年からタイ王国Rayong県Mahad地域で「地域住民主体による教育機会の創出と教
育環境の向上」を活動方針とし、計11年間包括的に活動を行ってきた。しかし、支援地域の
教育環境の向上に伴い、2014年3月にMahad地域から撤退することを決定した。現在
Mahad地域で活動しているプロジェクトを順次終了し、PRENGO全体としては2018年3月に
Mahad地域での活動を終了する。
今後はMahad地域での活動終了に向けた活動を行いつつ、2015年夏から新支援地域で
の活動を開始する。
国内では夏と春の年に2回に行う渡航に向け、話し合いや勉強を重ね、現地での活動に
備えている。また、様々なイベント参加や写真展の開催、タイの伝統的なズボンであるタイ
パンツの販売なども行っている。
43
- 51. 6-5 評価の方法、モデル化 :PRENGO評価
51
<活動実施年数と主な教育部のPJ活動内容>
2004年 初めての支援:文房具等寄付
2005年 物質的支援の拡充
↓
2006年 日本の歌を教える、社会科見学
2007年 ハーブ栽培PJ、社会科見学
↓
2008年 基礎学力向上PJ(百マス計算の実施)
地域学習PJ、裁縫PJ、社会科見学
卒業アルバム製作PJ(以降毎年行う)
2009年 百マス計算、英語学習、社会科見学
↓
2010年 百マス計算、夢PJ(将来の夢を広げる進路学習)
2011年 百マス計算委託、夢PJ、チューター制度
(PRENGOメンバーが成績の悪い児童に勉強を教える)
2012年 自主学習制度(現地の中学生が小学生に宿題を教える)
夢PJ、Day Camp(算数、タイ語、英語のゲームをする)
スペシャルレクチャーPJ(理科の実験等)
2013年 夢PJ、スペシャルレクチャーPJ
学習できる環境が整い、
次に精神的援助の必要性を感じた
学校設備・教員と授業
の質が改善されたこと
から、カリキュラムでは
カバーしきれない特別
活動をPRENGOが提
供するようになった
児童が中学校に進学した時に授業につ
いていける程度の学力がついていない
ことが原因だと考えたために、基礎学
力向上を目標にした。
<活動の変化の理由/
現地の状況の変化の類推>
PJの変遷を把握することで、現地の状態の変化を類推した
- 54. 6-8 インタビュー例・報告書の形式 :PRENGO評価
日時:9/3 11:50〜12:15
インタビュアー:Bank、菅野朋之、
前嶋信哉、高橋和輝
※音声データあり。(ネット上・ハードディスクに保存)
———1番印象に残った活動はなんですか?
夢プロジェクトが印象に残っています。Mahadのような農村にいる子供たちは、多様にある職業について
の知識が乏しく、将来のイメージのないまま卒業するので、卒業後すぐに働き始める児童もいます。
PRENGOが行ったようにいろいろな職業について活動の中で実際に児童に宇宙飛行士なら宇宙飛行士
の衣装を着せたことで多くの児童が将来の職業についての実感がわいた のではないかと思います。
———PRENGOが活動で気をつけた方がいいことはありますか?
そうですね。PRENGOメンバーがMahad小学校の児童と仲良くなることはよいことだと思いますが、仲
良くなりすぎて、メンバーと児童との間に遠慮がなくなることはよくないと思います。PRENGOメンバーは
児童から見れば、十分大人です。そのように遠慮のない対応を続けてしまうと、児童が大人に対してのと
るべき態度に悪影響を及ぼします。また、児童一人でもそのような関係をとってしまうと、それが他の児童
にも伝染してしまいます。また、肩車など児童にとって危険な行為をすることは控えてほしいです。活動に
関しては、 活動する場所を自分たちの荷物を置いている場所以外で行ってほしいと思います。児童は好
奇心が強いために、PRENGOメンバーの財布や大事なものをとってしまうことがあります。そのようなこと
を防ぐために貴重品の管理はしっかりして、活動は別の場所でお願いしたいと思います。また、授業中の
活動は児童にとっては珍しい日本人に気が散ってしまい、授業に集中できなくなる児童がいました。
Gus教諭のインタビュー ・Mahad小学校に2011年
春から勤務。
・2014年現在は2年生
担任の先生である。
・自身の教育方針を持って
おり、児童の生活指導、し
つけ教育を行っている。
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