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私の考える輸液療法 Ver.2(症例で学ぶ輸液療法)
- 2. 何故輸液が必要か
循環(血圧)を維持するため!?
↓
末梢組織・臓器の十分な血流(還流圧)を維持するため
↓
末梢組織・臓器への物質の運搬(水,電解質,栄養・・・)
老廃物の回収
↓
全身のhomeostasis(恒常性)の維持
通常の生活環境では我々の体は輸液を行わなくとも
homeostasisを維持する能力がある.しかし,周術期の様
な特殊な環境では生体内の恒常性を維持できる範囲を大き
く逸脱するため,輸液が必要となる.(外傷・手術・病気⇔健
常人が寝ている時)
- 4. 目 次
【症例1】24歳女性.抜歯.
【症例2】67歳男性.肝切除.
【症例3】7歳男児.鼡徑ヘルニア根治
術.
- 6. 【症例1】24歳女性 抜歯
周術期輸液の考え方:不足分を補う
輸液量 = 維持輸液 + 欠乏量輸液 + 補充輸液
維持輸液 :「何もしなくても生体から出て行く水分」を補うための輸液
欠乏量輸液:術前の絶飲食などにより不足している水分を補うための輸液.
維持輸液の絶飲食時間分と考えてよい.
補充輸液 :「手術という特殊環境下で異常に失われる水分」を補うための輸液
- 7. 【症例1】24歳女性 抜歯
周術期輸液の考え方:不足分を補う
輸液量 = 維持輸液 + 欠乏量輸液 + 補充輸液
維持輸液 :「何もしなくても生体から出て行く水分」を補うための輸液
欠乏量輸液:術前の絶飲食などにより不足している水分を補うための輸液.
維持輸液の絶飲食時間分と考えてよい.
補充輸液 :「手術という特殊環境下で異常に失われる水分」を補うための輸液
- 8. 【症例1】24歳女性 抜歯
周術期輸液の考え方:不足分を補う
・何もしなくとも生体から出て行く水分(維持輸液)
1日の水分の出納(平均的な成人のもの)
in out
飲料水 1200ml 尿 1500ml
食物水分 1000ml 不感蒸泄・肺 300ml
代謝水 200ml 不感蒸泄・皮膚 500ml
糞便 100ml
合 計 2400ml 合 計 2400ml
(1日の必要水分量)=(尿量)+(不感蒸泄)-(代謝水)
不感蒸泄(900ml/day)と代謝水(200ml/day)はほぼ一定であるので
(1日の必要水分量≒輸液量)=(尿量)+700ml
- 9. 【症例1】24歳女性 抜歯
周術期輸液の考え方:不足分を補う
・何もしなくても生体から出て行く水分(維持輸液)
(輸液量ml/h)=(尿量+700)÷24
体重50kg,尿量1ml/kg/h(=1×50×24=約1500ml/day)とすると,
(1500+700)÷24=92ml/h
→しかし,尿量は変化するし,年齢(というか体の大きさ)によって体液
の組成や腎濃縮能も異なるので,尐し不便.
{4×(10kgまでのBW)}+{2×(10kg-20kgまでのBW)}+{1×(20kg-のBW)}(ml/h)
(4:2:1の法則???)
あるいは,もっと簡単な式もある.→ BW×2(ml/h)
(ただし,小児には不可)
・例:体重50kg→(4×10)+(2×10)+(1×30)=90ml/h
50×2=100ml/h
(ちなみに体重15kg→(4×10)+(2×5)=50ml/h:子供にも使える!!)
- 10. 【症例1】24歳女性 抜歯
周術期輸液の考え方:不足分を補う
何もしなくても生体から出て行く水分を補うために,本患者
には維持輸液として90-100ml/h程度の輸液を投与する.
- 11. 【症例1】24歳女性 抜歯
周術期輸液の考え方:不足分を補う
輸液量 = 維持輸液 + 欠乏量輸液 + 補充輸液
維持輸液 :「何もしなくても生体から出て行く水分」を補うための輸液
欠乏量輸液:術前の絶飲食などにより不足している水分を補うための輸液.
維持輸液の絶飲食時間分と考えてよい.
補充輸液 :「手術という特殊環境下で異常に失われる水分」を補うための輸液
- 12. 【症例1】24歳女性 抜歯
周術期輸液の考え方:不足分を補う
・術前の絶飲食などにより不足している水分(欠乏量輸液)
(欠乏量輸液)=(維持輸液ml/h)×(絶飲水時間)
本患者の場合,当日0時から13時までの13時間が絶飲水時間であり,「維持輸液」
は前述の通り90-100ml/hであることから,(90~100)×13=1200~1300ml.
入れるタイミング
・手術開始後1-2時間かけて
・最初の30分で半分を,その後1時間かけて残り半分を
- 13. 【症例1】24歳女性 抜歯
周術期輸液の考え方:不足分を補う
術前の絶飲食などによって不足している水分を補うために,
本患者には麻酔開始後1-2時間程度で1200-1300ml程度の輸液
を行う.
註1)ただし,良識のある(?)外科医の場合には,午後から始まる手術などの場
合,全身麻酔に用いる麻酔薬の影響により末梢血管の拡張と循環抑制が生ず
ると,麻酔導入後の高度な低血圧が生ずるため,術前に十分な補液を行って
くれる場合がある(というか本当はみんなそうであってほしい).
註2)麻酔薬による血管拡張の影響:6ml/kg(←本当かなぁ?)
- 14. 【症例1】24歳女性 抜歯
周術期輸液の考え方:不足分を補う
輸液量 = 維持輸液 + 欠乏量輸液 + 補充輸液
維持輸液 :「何もしなくても生体から出て行く水分」を補うための輸液
欠乏量輸液:術前の絶飲食などにより不足している水分を補うための輸液.
維持輸液の絶飲食時間分と考えてよい.
補充輸液 :「手術という特殊環境下で異常に失われる水分」を補うための輸液
- 15. 【症例1】24歳女性 抜歯
周術期輸液の考え方:不足分を補う
・手術という特殊環境下で失われる異常な水分(補充輸液)
術野からの蒸発 third spaceへの水分移行
出血(怒!)
- 16. 【症例1】24歳女性 抜歯
周術期輸液の考え方:不足分を補う
・手術という特殊環境下で失われる異常な水分(補充輸液)
出血
術野からの蒸発(腹腔鏡手術の問題も)
third spaceへの水分移行
drainからの排液
基礎疾患による異常な水分喪失(イレウスや腹膜炎,発熱など)
麻酔薬による血管拡張
体内水分量は減尐していないが,相対的にhypovolemiaとなる.
全身麻酔導入後の末梢血管拡張:6ml/kg
硬膜外麻酔や脊髄くも膜下麻酔の影響
利尿薬の投与
本症例では,術中出血0gであり,術野の浮腫も認めなかった.
- 17. 【症例1】24歳女性 抜歯
周術期輸液の考え方:不足分を補う
手術という特殊環境下で失われる異常な水分を補うために本
症例で必要となる補充輸液の量は0mlである.
- 18. 【症例1】24歳女性 抜歯
周術期輸液の考え方:不足分を補う
輸液量 = 維持輸液 + 欠乏量輸液 + 補充輸液
維持輸液 :90-100ml/h
欠乏量輸液:1200-1300mlを1-2時間かけて投与
補充輸液 :なし
本症例の手術は滞りなく進行し,手術時間40分,麻酔時間60分であった.輸液
は,維持輸液として100ml/hの投与を行うと共に,欠乏量輸液として1200mlの投
与を1時間で行った.その結果,本患者には術中ヴィーンF 1300mlが投与され
た.
- 20. 体液組成と細胞外液組成
体液の組成(主たるもののみ)
Na+ K+ Ca2+ Mg2+ Cl- HCO3- HPO4-
内液 14 157 0 26 4 10 113
外液 145 5 5 3 104 20 2
註)外液には間質液,血漿などがあるが,上記は結晶の組成.
組織液(間質液)と血漿の電解質組成は異なるが,似通っている.
細胞外液補充液の組成(ヴィーンF)
Na+ K+ Ca2+ Cl- Acetate- 糖質 熱量 浸透圧比
ヴィーンF 130 4 3 109 28 0 0 約1
- 21. 細胞外液補充液の特徴
・組成が細胞外液(特に血漿成分)と類似
→投与した外液は,細胞外spaceにほぼ100%とどまる
→血管内に1/4分布,残り3/4は間質などに分布
細胞外液補充液のみで失われた循環血液を維持しようと考え
ると,喪失量の4倍の輸液をしなくてはならない.
(実際は組織の浮腫なども考慮して2-3倍を投与)
- 26. 輸液量 = 維持輸液 + 欠乏量輸液 + 補充輸液
維持輸液 :「何もしなくても生体から出て行く水分」を補うための輸液
欠乏量輸液:術前の絶飲食などにより不足している水分を補うための輸液.
維持輸液の絶飲食時間分と考えてよい.
補充輸液 :「手術という特殊環境下で異常に失われる水分」を補うための輸液
- 27. 水・電解質・エネルギーの必要量(≒消費量)
必要量
水 分 2,000-2,500ml/day
Na+ 70-120mEq/day
K+ 40-70mEq/day
Cl+ 80-130mEq/day
エネルギー 1,500kcal/day以上
維持液(3号液)
Na+ K+ Ca2+ Cl- buffer 糖 浸透圧比
ヴィーン3G 45 17 0 37 A20 P10 G5% 約1.5
アクチット 45 17 0 37 A20 M5% 約1
ソリタT3 35 20 0 35 L20 G4.3% 約1
註)ヴィーン3GはMg2+ 5mEq/lも含む
A:acetate P:phosphate L:lactate G:glucose M:maltose
- 30. 【症例2】67歳男性 肝切除
輸液量 = 維持輸液 + 欠乏量輸液 + 補充輸液
維持輸液 :(4×10)+(2×10)+(1×40)=100ml/h
または, 2×60=120ml/h よって100-120ml/hの維持輸液
欠乏量輸液:絶飲食時間9時間であるので (100~120)×9=900~1100ml
よって900-1100mlの欠乏量輸液
これより,本患者には維持輸液100ml/hに加え,麻酔開始後
1時間で1000mlの細胞外液補充液を投与することとした.
???補充輸液は???
- 31. 【症例2】67歳男性 肝切除
周術期輸液の考え方:不足分を補う
輸液量 = 維持輸液 + 欠乏量輸液 + 補充輸液
維持輸液 :「何もしなくても生体から出て行く水分」を補うための輸液
欠乏量輸液:術前の絶飲食などにより不足している水分を補うための輸液.
維持輸液の絶飲食時間分と考えてよい.
補充輸液 :「手術という特殊環境下で異常に失われる水分」を補うための輸液
- 32. 【症例2】67歳男性 肝切除
周術期輸液の考え方:不足分を補う
・手術という特殊環境下で失われる異常な水分(補充輸液)
術野からの蒸発 third spaceへの水分移行
出血(怒!)
- 33. 【症例2】67歳男性 肝切除
周術期輸液の考え方:不足分を補う
・手術という特殊環境下で異常に失われる水分(補充輸液)
出血:出た分を補えばよい
尐量出血・・・細胞外液補充液で出血量の2-3倍を補う
中等量の出血・・・上記+代用血漿(HES)やアルブミンなどの膠質液
大量出血・・・上記+輸血
- 34. 【症例2】67歳男性 肝切除
周術期輸液の考え方:不足分を補う
・手術という特殊環境下で異常に失われる水分(補充輸液)
術野からの蒸発やthird spaceへの水分移行
third spaceとは・・・
細胞内液分画でもなく,正常な細胞外液分画でもない「第3の」スペース.外傷や
手術操作による術野の炎症により局所の血管透過性が亢進し,同部位が浮腫を起こ
すことによって水分が貯留する.主として,元来の「間質」(=細胞外液分画)に
該当する部位に水分が貯留するため,失われるものは細胞外液である.
- 35. 【症例2】67歳男性 肝切除
周術期輸液の考え方:不足分を補う
・手術という特殊環境下で異常に失われる水分(補充輸液)
術野からの蒸発,third spaceへの水分移行
術式 輸液量(速度)
体表面,脳外科手術, 2-3ml/kg/h
その他小手術
小開胸手術 4-6ml/kg/h
開腹・大開胸手術 7-10ml/kg/h
註)文献により様々な輸液量が呈示されている.
(上記表は「輸液量」?,それとも「移行量」?)
小手術 2-3ml/kg/h,中手術4-6ml/kg/h,大手術7ml/kg/h以上
腹腔鏡手術???
- 36. 【症例2】67歳男性 肝切除
周術期輸液の考え方:不足分を補う
本症例は開腹による肝切除術を施行するため,third spaceへの
水分喪失は8-10ml/kg/h(体重60kgであるので500-600ml/h)程
度と考えられる.
- 37. 【症例1】24歳女性 抜歯
周術期輸液の考え方:不足分を補う
総括すると,下記の通り.
出血:出た分だけ,しかるべき輸液で補えばよい.
third spaceへの移行など:500-600ml/h
手術という特殊環境下で失われる異常な水分を補うために本
症例で必要となる補充輸液の量は500-600ml/h+出血分であ
る.
+
- 38. 【症例2】67歳男性 肝切除
周術期輸液の考え方:不足分を補う
輸液量 = 維持輸液 + 欠乏量輸液 + 補充輸液
維持輸液 :100ml/h
欠乏量輸液:1000mlを1時間程度かけて投与
補充輸液 :500-600ml/h
本症例において,麻酔開始後1時間でヴィーンF 1100mlの投与を行った.ま
た,それとは別に,手術開始時より500ml/hの速度でヴィーンFの投与を開始し
た.
麻酔開始から1時間経過した時点で,バイタルが安定していたために,総量で
ヴィーンF 700ml/hの持続点滴とした.この時点で目立った出血は認めなかっ
た.
- 40. 【症例2】67歳男性 肝切除
hypovolemiaであると判断
何が足りない?
(輸液)=(維持輸液)+(欠乏量輸液)+(補充輸液)
維持輸液と欠乏量輸液は,きちんと補った.また,これらは
手術操作によって多尐の変化が認められる程度のものであ
る.
「補充輸液」が不足している.
・third spaceへの移行分など・・・計算上は十分に入っている
・出血の影響・・・これはまだ考慮していない
- 42. 【症例2】67歳男性 肝切除
出血への対応
尐量出血:循環血液量の10%まで 細胞外液補充液を投与
中等量出血:循環血液量の10-20% 上記 and 代用血漿投与を考慮
大量出血:循環血液量の20%以上 上記 and/or 輸血を考慮
註)文献によって上記指標はかなり異なる.
術中は上記指標のみならず,バイタルや採血結果なども踏まえて輸液を検討する.
- 43. 【症例2】67歳男性 肝切除
出血への対応
循環血液量:70ml/kg
(循環血漿量は×(1-Ht))
成人:70ml/kg,新生児:85ml/kg,乳児:80ml/kg,幼児:75ml/kg
最近の研究では成人も80ml/kg程度といわれるが.
本患者の場合は 60kg×70ml/kg=4200ml
したがって,出血量700gは循環血液量の17%にあたる.
細胞外液補充液の投与に加え,膠質液(代用血漿)の投与を考慮
- 46. 【症例2】67歳男性 肝切除
出血への対応
細胞外液補充液のみで出血を補充しようとした場合,
700×2~3=1400-2100ml!!
細胞外液補充液は,計算上は3/4が間質に漏れるため,循環動態を維持するのには
非効率的であると同時に,組織の浮腫(間質浮腫)なども生ずる可能性がある(酸
素化も悪くなる).
より効果的に血管内volumeを増加させるためにはどうしたらよいか?
強力な浸透圧活性を持ち,血管内から漏れ出しにくいものを投与する.
代用血漿の使用(HES),Alb
- 48. 【症例2】67歳男性 肝切除
出血への対応
代用血漿
Na+ K+ Ca2+ Cl- lactate HES glucose
ヘスパンダー 105.6 4 2.7 92.3 20 6% 1%
サリンヘス 154 0 0 154 0 6% 0%
ヘスパンダーはほぼ開始液(1号液)にHESを入れた様なもの(外液にも似てる)
サリンヘスは生食にHESを入れたようなもの
・HES(hydroxy-ethyl-starch)は分子量約70,000で,強力な膠質浸透圧を発揮
→ほぼ100%血管内にとどまるだけでなく,間質(と細胞内)から水を引く
・腎機能に注意(尿はどろどろに)
・抗sludging作用(血球凝集抑制)による出血傾向(vWF)
→腎機能,出血傾向などに与える影響は,諸外国で使用されている高分子の代
用血漿(或いは低分子デキストラン)ほど顕著ではない
・体内への残留 などの理由+保険にて上限1000ml???
・HESを1000ml以上入れるようなケースでは,輸血が必要な場合が多い
- 49. 【症例2】67歳男性 肝切除
出血への対応
細胞外液補充液に加え,HES 500mlを投与することとした.
- 50. 【症例2】67歳男性 肝切除
周術期輸液の考え方:不足分を補う
輸液量 = 維持輸液 + 欠乏量輸液 + 補充輸液
維持輸液 :100ml/h
欠乏量輸液:既に投与済み
補充輸液 :third spaceへの移行分などとして500-600ml/h
出血分:細胞外液補充液+HES
仮にHESを500ml輸液するとすると,不足している血管内volumeは200ml.その
2-3倍の細胞外液を投与すればよいので,細胞外液補充液を500ml程度投与する.
本症例において,麻酔開始1時間後からヴィーンF 700ml/hの持続点滴としてい
た.手術開始2時間までに700gの出血を認めた.したがって,補充輸液において
は,出血分を補うためにヴィーンF 500mlおよびヘスパンダー500mlの急速静
注を行った.その結果,ABP 110/65(75),HR 72となり,尿の流出も目視で確
認できるようになった.
- 52. 【症例2】67歳男性 肝切除
出血への対応(再掲)
本患者の出血量は1100÷4200×100=26%!!
- 53. 【症例2】67歳男性 肝切除
・循環血液量の20%以上の出血で輸血を考慮
(出血直後はHb低下を来さない)
・Hb 8g/dl未満にて輸血を考慮
・心疾患合併症患者や心臓手術などでは,より早い段階で輸血を考慮
(貧血の場合は代償性頻脈を来たし,心不全となる)
・透析患者は晶質液によるvolume負荷を避けたいため,早期から輸血
出血への対応(再掲)
尐量出血:循環血液量の10%まで 細胞外液補充液を投与
中等量出血:循環血液量の10-20% 上記 and 代用血漿投与を考慮
大量出血:循環血液量の20%以上 上記 and/or 輸血を考慮
- 54. 【症例2】67歳男性 肝切除
Hb低下または循環血液量の20%以上の出血を認めた場合の輸血
RCC
FFP
PC
比較的尐血量 中等量 大量
出血量
- 55. 【症例2】67歳男性 肝切除
比較的尐量出血ならRCCのみ
大量出血なら消費性の凝固因子欠乏,血小板減尐がみられる
ので,できるだけ早い段階でFFP,PC投与を考慮
(注文してもすぐに届かないし,溶かすのにも時間がかかる)
- 56. 【症例2】67歳男性 肝切除
RCC(濃厚赤血球)
大量出血,貧血時の赤血球(ヘモグロビン)補充目的に使用
合併症のない患者ではHb8未満で投与を考慮.
投与の目安はHb10g/dl,Ht 31%.
大量投与時には必ずCaの補充.Kの上昇,acidosisにも注意
1単位のRCCにはHbが約30g含有される(計算に必要).
投与量の計算
予測上昇Hb量(g/dL)=投与Hb量(g)/循環血液量(dL)
例)本患者(体重60kg)にRCC1単位を投与すると
循環血液量(dl)=70×60÷100=42(dl)
RCC1単位当たりのHb量=30g であるから
(予測上昇Hb)=30÷42≒0.7
本患者の現在のHbは7.8であるからRCC 3単位を投与すればHb 9.9g/dl,4単位
投与すればHb 10.6g/dl程度となることが予想される.
- 57. 【症例2】67歳男性 肝切除
新鮮凍結血漿(FFP)
大量出血,肝機能障害時などの凝固因子補充目的に使用
→大量の血漿蛋白を含むため,volume負荷にもなる
→volume負荷目的の使用は保険診療上不適切
術中は,RCC10単位以上の輸血には併用したほうがよいかもしれない
出血傾向が出現した場合,臨床的には凝固因子の血中レベル
を20-30%上昇させる量を投与すればよいとされている.
循環血漿量(ml)=70ml/体重×(1-Ht/100)≒40ml/㎏
(凝固因子を20-30%上昇させるための血漿量)=40mL/㎏×0.2-0.3=8-12ml/㎏
投与血漿量(ml)=8-12(ml/㎏)×体重(㎏)
本患者(体重60kg)に投与する場合,60×(8-12ml)=480-720ml.FFPは1
単位120mlであるので,4-6単位程度を投与すればよい.
(ちなみに,5単位は450ml)
- 58. 【症例2】67歳男性 肝切除
濃厚血小板(PC)
血小板数・機能低下時の補充目的にて使用
1単位当たり0.2×1011個以上の血小板を含有
血小板数5万/μlを下回ったら投与
→ガイドラインには3万とあるが,厳しすぎる?
投与量
予測血小板増加数(/μL)=輸血血小板総数/{循環血液量(mL)×103}×2/3
(2/3は輸血された血小板が脾臓に捕捉されることを予測した補正係数)
例)体重60kgの患者で10単位のPCを投与したとき
(予測血小板増加数)= (0.2×1011×10)÷(70×60×1000)×2/3≒3万
- 59. 【症例2】67歳男性 肝切除
肝門部処理中に出血1100g,採血上Hb 7.8g/dlとなったが,
RCC 4単位を投与し経過を観察した.
- 61. 【症例2】67歳男性 肝切除
このとき,まず何をするか(輸液だけでなく)
・人員を集める(マンパワー)
・術野に檄を飛ばす(切除を中止して押さえてください!!)
・点滴全開・ポンピング!手元にあるもので
(外液,HES,アルブミン・・・)
・ありったけの血液を集める(場合によっては異型輸血も)
・新たに輸液ルートを確保する
・除細動器,救急カートなど「蘇生」のセットを用意する
・麻酔を浅くする
・循環がどうしても維持できないときにはカテコラミン等の使用も考慮
実際には上記を同時進行で行っていく.
- 63. 【症例2】67歳男性 肝切除
大量出血と同時に麻酔科医を集め,直ちに全てのルートでHES,手持ちのRCC,
FFP,アルブミンなどをポンピングした.術野の外科医に対しては圧迫止血を
指示し,循環動態が落ち着くまで止血操作を行うように伝えた.除細動器や緊
急カートを用意すると同時に,更なる輸血のオーダーを行った.幸いにも院内
に血液型適合血が十分にあり,異型輸血は行わなかった.
術者は穿破した下大静脈を血管鉗子でクランプすることに成功し,プロリンで
血管縫合を行ったところ,かろうじて止血に成功した.その後慎重に肝切除を
継続した結果,予定通りの範囲で転移巣の切除に成功した.患者は人工呼吸を
継続しながらICU入室した.
手術時間8時間30分,麻酔時間9時間55分.
総出血量6890g,投与した輸液はヴィーンF7800ml,
ヘスパンダー2400ml,5%アルブミン2000ml,
RCC36単位,FFP30単位,PC30単位であった.