SlideShare a Scribd company logo
1 of 29
Download to read offline
ビッグデータにおいて
何故プライバシーが課題となるのか


       NPO情報セキュリティ
       研究所
       上原哲太郎
        twitter: @tetsutalow
よくある構図
                                クレーマー?
                   イノベーションの種   テクノフォビア?
                     なんですよ     イデオロギー?
なんとなく    危険!やめて!      利便性を
 不安      個人情報漏洩      提供しますよ
         事故が起きたら   そもそも個人情報
          どうするの!   じゃないんですよ


           根深い対立・成立しない対話


  利用者                          事業者
                       あちこち
                       間違いが
ビッグデータ・ビジネスの現状
 研究ベースではさまざまな応用がある…
 ビジネスは…
  カーナビのトラフィックデータから渋滞情報
   ホンダのinternaviで1億km/月
   東日本大震災では「通れる経路」の把握に威力
  センサ+ソーシャル情報から局地的天気予報
   ウェザーニュースは1日5000~30000通の情報


  一番成功しつつあるのはマーケティング
行動ターゲティングによる
  マーケティング手法
 各顧客のサービス利用履歴・Web閲覧履歴…
  等からプロファイリングして広告を打つ手法
 究極は顧客関係管理(CRM)によるマーケ




    総務省:「ビッグデータの活用に関するアドホックグループの検討状況」
顧客関係管理:CRM
      (Customer Relationship Management)
 顧客データベースを元にしたマーケティング手法
  各顧客について綿密なデータを取る
    いつどんな商品を買ったか/返品したか等の購買記録
    どんなクレームをしてきたか それにどう対応したか等の
     応対記録
  これらのデータを元に適切なマーケティングを行う手法
 分野によっては昔からある手法
  高額商品(家、車etc...)、家電製品等
  医学の世界では常識
 「ポイントカード」商法によって
  一般小売に導入しやすくなった
 ネット販売とは適合性が高い
  (IDがある/強制できるから)
これが一番やりやすいのは
   「ポイントカード」商法
 マイレージ商法や電子マネーも同じ
 マーケティング上2つの効果がある
  「ロイヤリティ」の向上
   ポイントという実質の値引きを使って
    『囲い込み』が可能に
     ポイントは企業にとって負債になるが先送り可能
  CRMの容易さ
   住所氏名etcを登録してもらえればベストだが
    そうでなくても・・・
 実質上会員カードなのだがポイントという
  インセンティブで消費者の抵抗感を減らす
CRMは必ずしも「住所氏名」と
         紐付けしなくてよい
               403842は必ず                今日はイチゴが
               果物を買うわね                   特売ですよ




                          別の
                           日
会員番号
403842
             403842            会員番号
             02/02 豆腐          403842        !?
             02/02 りんご
             02/03 カレー粉
             02/03 バナナ
             02/04 肉
             02/04 みかん
広がるポイントカードの共通化
 主な共通ポイントカード
  Tカード=ファミマ+TSUTAYA+ドラッグユタカ+…
   最近Yahoo! Japanとの提携を発表
    ネット上のポイント制度と統合
  Ponta=ローソン+ゲオ+HMV+Dental Ponta+…


 異業種を横断することで多面的な
  プロファイリングが可能になる
ターゲティング広告
 パソコンで見るホームページ内のバナー広告
  にサードパーティCookieを埋め込む
       OL募集中!
       若い女性雑誌
       のページ
                         132345さんは
         安産祈願は…          若い女性?
        プレママ雑誌           妊娠中??
        のページ


      XX産婦人科
      自分の友達の      昔はバナー広告で追跡したのが
      ブログ         今は広告のないページでも追跡
ターゲティングの行き着く先
 日経ビジネス記事より:
  買い物カゴの中身で妊娠を判定する~行動心
  理学で企業は「習慣」という金脈を生み出せる
  か
 「統計学者は、独自のデータ分析によって、買
  い物カゴの内容から妊娠初期の女性も高い確
  率で特定することができるというのだ。」
 家族より早くスーパーが妊娠を知る是非
プライバシー的にこれでいいのか
 個人情報保護法的にはどうなの?
 個人情報とは…
  「生存する個人に関する情報であって、特定個
  人を識別できるもの・他の情報と容易に照合す
  ることができ、個人が識別できるものを含む」
  「照合容易性」がなければ個人情報ではない
   Q:IPアドレスは個人情報か?
     メールアドレスは個人情報か?
 では個人情報でないならよいのか?
どの情報を誰に
         個人→ID→属性情報                      渡したいかは
                                         個人によって
                                         異なる
切ればIDは     住民票コード            生年月日
個人情報で
なくなる?     基礎年金番号
                                    性別
上原哲太郎     免許証番号…
                             住所     固定電話番号
          Tカード番号…
                           勤務先      卒業校
          Suica番号…
容易照合性が                     昨日行ったところ      会った人
ない        メールアドレス
=リンクが弱け                   昔の恋人       性癖
れば問題ない?   携帯電話番号     ?
                                 信じている宗教
          ケータイID         支持政党
                                  犯罪歴      性的嗜好
          Cookie…        かかっている病気
固定ID問題
   本人の身体もしくは行動に何らかの形で結びつい
    ており、容易にその内容が変更できない何らかの
    ID(識別子)が存在する場合に可能性あり
   本人に意識されることなく収集されることがあれ
    ば、本人の望まない相手にもIDと「位置」や「行
    動」等の情報が蓄積され、リスクが高まる
   IDが何らかの理由で、望まぬ相手に本人識別さ
    れた瞬間にプライバシー侵害発生
   例:ケータイID、モバイルルータのWiFiのMACア
    ドレス、固定IPv6アドレス…
CSS2012にて発表予定
2B1-3: ワイヤレスデバイスのもたらすロケーションプライバシー問題に関する一考察
IDにリスクアセスメントが必要
 IDの性質を分類する必要
  本人がそのIDの存在を意識できるか
  本人識別性(本人確認)の強固さ
  本人による変更や破棄の容易さ
   もしくは本人が意識せず変化するまでの時間
  IDが取得された先や取得タイミング、
   付随する属性情報が識別できるか

  IDと結びつく属性の種類や蓄積先・量の制御可能性
  IDが個人識別性を持ったときのリスクヘッジ
属性情報もいろいろ
 一般的機微性
  差別の要因になりうるもの
  思想信条の自由を阻害しかねないもの
   ただし私企業の活動に後者がどう関係するか?


 実際には個人により大きな幅
  性同一性障害を持つ人の「性別」
  DV被害を受けている人の「住所」
属性情報も集まれば…
属性情報→個人特定を
     考える上でのカギ
 k-Anonymity(k-匿名性)
   同一の属性情報の組み合わせが常にk人以上である状態
     属性情報による絞り込みではk人未満にできず個人特定不能
 l-diversity(l-多様性)
   グループ内で属性の持つ値がl通り以上ある状態
     知られたくない(機微性の高い)属性値が
      l通り未満に絞り込めず、属性情報が特定できない
 これらを維持したマイニングが
  Privacy Preserving Data Mining (PPDM)

 だがここにあるのは「個人識別性」の話がメイン
そもそも個人情報保護法の裏にある
       「自己情報コントロール権」
               何を持っている?
               何に使っている?
                内容は正確?
              簡単に漏洩しない?     誰に渡している?
                            何を渡している?
                          本人の了解を得ている?
  入手経路は適切?
  使用目的は明白?
  何を入手している?
  山田太郎
67年8月9日生
  住所:XXX
 TEL:012…

                               他企業・団体
                企業・団体
なぜ「自己情報コントロール権」が
   重要なのか?
 セキュリティとは「全体主義」
  組織防衛のために行う


 プライバシーとは「個人主義」
  個人の「感じ方の違い」を包み込む必要


     「私は平気、あなたは気にしすぎ」は通用しない
      ならば必要なのは
     「社会的に過負荷にならない程度の自己選択権」
じゃあ、どうすればいいの?
 まずは「何をやっているか」提示する
 「サービス利用約款」「個人情報保護ポリシー」
  「プライバシーポリシー」に明記する

 …ただ…あまりにも長い
  場所も判りにくい
  まして、「間違っていたりする」
  これを是正していくこと
  いわゆる「アリバイ的コンプライアンス」は×
その上で「オプトアウト」を保証
 追跡や個人情報収集・第三者提供を
  「停止してくれ」と申し込むこと

 例えばマイクロアド社の例

 これにより自己選択権を
  確保してゆく
米国の最近の動き
 FTCによる「Do Not Track合意」
  2010年
   FTC「急変する時代の消費者プライバシー保護」
    特にターゲティング広告を行う事業者に対し
     「統一的かつ包括的消費者選択の仕組み」を求める
    HTTPリクエストに「DNT:1」ヘッダを付加する
    Digital Advertising Allianceとの間で実装合意
    ブラウザへの実装が進むが…
      Firefox, Safari, Chromeは「デフォルトオフ」
      Internet Explorer 10 は「デフォルトオン」??
続・米国の最近の動き
 2012年2月22日
  カリフォルニア州司法長官との合意
  スマホアプリケーションに対する
   Amazon, Apple, Google, HP, Microsoft,
   RIMとの合意
  州オンラインプライバシー保護法に基づく
   プライバシーポリシーの明示
    表示手段・領域・事業者の対応手続・BPなど取り決め
    「アプリ開発者」のプライバシーポリシー違反は
     州の不正競争防止法・虚偽広告禁止法に違反
米国プライバシー権利章典
 2012年2月23日 オバマ政権発表
 権利章典 Bill of Rights!
 7つの原則
  コントロール・透明性・「コンテキスト」の尊重・
   安全性・アクセスと正確性・対象を絞った収集
   説明責任
 「プライバシー権は
   民主主義に最初からあったものだ
   そして今、私たちは何よりも必要としている」
スマートフォンを経由した利用者情報の取扱いに関するWG(第3回)
筑波大学 石井夏生利先生の資料より
スマートフォンを経由した利用者情報の取扱いに関するWG(第3回)
筑波大学 石井夏生利先生の資料より
EUデータ保護指令→規則
 データ保護指令(95年)
  「全ての者は、自らに関する個人データを保護する
   権利を有する。」
  OECDガイドラインに沿った規定
   +プライバシーコミッショナー制度(PIA)
  第三国持ち出しについて規制
 データ保護規則(現在は素案)
  「忘れられる権利」の明記
  Privacy by Design
   など
SNSの登場が産んだ新しい問題
 SNS問題:人の「つながり」のプライバシー
  AさんとBさんが「友達」である時に
   「友達である」という事実は誰のもの??


 「連絡先」問題
  住所やメールアドレス、電話番号はより活用ニー
   ズがある
  個人識別子の代わりに活用するとさまざまな弊害
   例:FacebookやLINEにおける「連絡先」取得問題
おわりに
 個人情報漏洩じゃなく「プライバシー」を語ろう
  自分の情報はどこにあって誰が何に使っているか
   意識できる・想像の範囲内に収まる世の中を
  「意識の高い」人に選択権を
 世界の議論に追随しよう
  アクセルとブレーキの両方が必要
  日本のビジネスの世界展開に障害?
 ビッグデータ内の「個別例外処理」という
  問題が今後大きな課題になるのでは?

More Related Content

More from UEHARA, Tetsutaro

シンクライアントの解説
シンクライアントの解説シンクライアントの解説
シンクライアントの解説UEHARA, Tetsutaro
 
PPAPを何とかしたいがPHSも何とかしたい
PPAPを何とかしたいがPHSも何とかしたいPPAPを何とかしたいがPHSも何とかしたい
PPAPを何とかしたいがPHSも何とかしたいUEHARA, Tetsutaro
 
データベースセキュリティの重要課題
データベースセキュリティの重要課題データベースセキュリティの重要課題
データベースセキュリティの重要課題UEHARA, Tetsutaro
 
米国におけるDfコンテストと日本における展開の可能性
米国におけるDfコンテストと日本における展開の可能性米国におけるDfコンテストと日本における展開の可能性
米国におけるDfコンテストと日本における展開の可能性UEHARA, Tetsutaro
 
システム安定運用からサイバーレジリエンスへ
システム安定運用からサイバーレジリエンスへシステム安定運用からサイバーレジリエンスへ
システム安定運用からサイバーレジリエンスへUEHARA, Tetsutaro
 
サイバーセキュリティ人材の育成に向けて
サイバーセキュリティ人材の育成に向けてサイバーセキュリティ人材の育成に向けて
サイバーセキュリティ人材の育成に向けてUEHARA, Tetsutaro
 
20181030 DBSCシンポジウム 情報システムと時間の表現
20181030 DBSCシンポジウム 情報システムと時間の表現20181030 DBSCシンポジウム 情報システムと時間の表現
20181030 DBSCシンポジウム 情報システムと時間の表現UEHARA, Tetsutaro
 
サマータイムとうるう秒と2038年問題
サマータイムとうるう秒と2038年問題サマータイムとうるう秒と2038年問題
サマータイムとうるう秒と2038年問題UEHARA, Tetsutaro
 
サマータイムに関する現状の認識整理
サマータイムに関する現状の認識整理サマータイムに関する現状の認識整理
サマータイムに関する現状の認識整理UEHARA, Tetsutaro
 
サマータイム実施は不可能である
サマータイム実施は不可能であるサマータイム実施は不可能である
サマータイム実施は不可能であるUEHARA, Tetsutaro
 
だいじょうぶキャンペーン2009スライド
だいじょうぶキャンペーン2009スライドだいじょうぶキャンペーン2009スライド
だいじょうぶキャンペーン2009スライドUEHARA, Tetsutaro
 
ブロッキングの技術的課題(公開版)
ブロッキングの技術的課題(公開版)ブロッキングの技術的課題(公開版)
ブロッキングの技術的課題(公開版)UEHARA, Tetsutaro
 
デジタル・フォレンジックとOSS
デジタル・フォレンジックとOSSデジタル・フォレンジックとOSS
デジタル・フォレンジックとOSSUEHARA, Tetsutaro
 
CSS2017キャンドルスターセッション
CSS2017キャンドルスターセッションCSS2017キャンドルスターセッション
CSS2017キャンドルスターセッションUEHARA, Tetsutaro
 
企業セキュリティ対策の転換点
企業セキュリティ対策の転換点企業セキュリティ対策の転換点
企業セキュリティ対策の転換点UEHARA, Tetsutaro
 
自治体・警察・民間を含めた情報セキュリティ共同体の構築と運営~京都の事例~
自治体・警察・民間を含めた情報セキュリティ共同体の構築と運営~京都の事例~自治体・警察・民間を含めた情報セキュリティ共同体の構築と運営~京都の事例~
自治体・警察・民間を含めた情報セキュリティ共同体の構築と運営~京都の事例~UEHARA, Tetsutaro
 
Security days 2016「セキュリティ対策の転換点」
Security days 2016「セキュリティ対策の転換点」Security days 2016「セキュリティ対策の転換点」
Security days 2016「セキュリティ対策の転換点」UEHARA, Tetsutaro
 
20160924自治体セキュリティ
20160924自治体セキュリティ20160924自治体セキュリティ
20160924自治体セキュリティUEHARA, Tetsutaro
 
20160531業務効率化とセキュリティ(配布版)
20160531業務効率化とセキュリティ(配布版)20160531業務効率化とセキュリティ(配布版)
20160531業務効率化とセキュリティ(配布版)UEHARA, Tetsutaro
 

More from UEHARA, Tetsutaro (20)

シンクライアントの解説
シンクライアントの解説シンクライアントの解説
シンクライアントの解説
 
PPAPを何とかしたいがPHSも何とかしたい
PPAPを何とかしたいがPHSも何とかしたいPPAPを何とかしたいがPHSも何とかしたい
PPAPを何とかしたいがPHSも何とかしたい
 
データベースセキュリティの重要課題
データベースセキュリティの重要課題データベースセキュリティの重要課題
データベースセキュリティの重要課題
 
米国におけるDfコンテストと日本における展開の可能性
米国におけるDfコンテストと日本における展開の可能性米国におけるDfコンテストと日本における展開の可能性
米国におけるDfコンテストと日本における展開の可能性
 
システム安定運用からサイバーレジリエンスへ
システム安定運用からサイバーレジリエンスへシステム安定運用からサイバーレジリエンスへ
システム安定運用からサイバーレジリエンスへ
 
サイバーセキュリティ人材の育成に向けて
サイバーセキュリティ人材の育成に向けてサイバーセキュリティ人材の育成に向けて
サイバーセキュリティ人材の育成に向けて
 
20181030 DBSCシンポジウム 情報システムと時間の表現
20181030 DBSCシンポジウム 情報システムと時間の表現20181030 DBSCシンポジウム 情報システムと時間の表現
20181030 DBSCシンポジウム 情報システムと時間の表現
 
サマータイムとうるう秒と2038年問題
サマータイムとうるう秒と2038年問題サマータイムとうるう秒と2038年問題
サマータイムとうるう秒と2038年問題
 
サマータイムに関する現状の認識整理
サマータイムに関する現状の認識整理サマータイムに関する現状の認識整理
サマータイムに関する現状の認識整理
 
サマータイム実施は不可能である
サマータイム実施は不可能であるサマータイム実施は不可能である
サマータイム実施は不可能である
 
だいじょうぶキャンペーン2009スライド
だいじょうぶキャンペーン2009スライドだいじょうぶキャンペーン2009スライド
だいじょうぶキャンペーン2009スライド
 
ブロッキングの技術的課題(公開版)
ブロッキングの技術的課題(公開版)ブロッキングの技術的課題(公開版)
ブロッキングの技術的課題(公開版)
 
証拠保全とは?
証拠保全とは?証拠保全とは?
証拠保全とは?
 
デジタル・フォレンジックとOSS
デジタル・フォレンジックとOSSデジタル・フォレンジックとOSS
デジタル・フォレンジックとOSS
 
CSS2017キャンドルスターセッション
CSS2017キャンドルスターセッションCSS2017キャンドルスターセッション
CSS2017キャンドルスターセッション
 
企業セキュリティ対策の転換点
企業セキュリティ対策の転換点企業セキュリティ対策の転換点
企業セキュリティ対策の転換点
 
自治体・警察・民間を含めた情報セキュリティ共同体の構築と運営~京都の事例~
自治体・警察・民間を含めた情報セキュリティ共同体の構築と運営~京都の事例~自治体・警察・民間を含めた情報セキュリティ共同体の構築と運営~京都の事例~
自治体・警察・民間を含めた情報セキュリティ共同体の構築と運営~京都の事例~
 
Security days 2016「セキュリティ対策の転換点」
Security days 2016「セキュリティ対策の転換点」Security days 2016「セキュリティ対策の転換点」
Security days 2016「セキュリティ対策の転換点」
 
20160924自治体セキュリティ
20160924自治体セキュリティ20160924自治体セキュリティ
20160924自治体セキュリティ
 
20160531業務効率化とセキュリティ(配布版)
20160531業務効率化とセキュリティ(配布版)20160531業務効率化とセキュリティ(配布版)
20160531業務効率化とセキュリティ(配布版)
 

2012年10月26日 サイエンティフィックシステム研究会(SS研) ビッグデータにおいて何故プライバシーが問題になるのか

  • 1. ビッグデータにおいて 何故プライバシーが課題となるのか NPO情報セキュリティ 研究所 上原哲太郎 twitter: @tetsutalow
  • 2. よくある構図 クレーマー? イノベーションの種 テクノフォビア? なんですよ イデオロギー? なんとなく 危険!やめて! 利便性を 不安 個人情報漏洩 提供しますよ 事故が起きたら そもそも個人情報 どうするの! じゃないんですよ 根深い対立・成立しない対話 利用者 事業者 あちこち 間違いが
  • 3. ビッグデータ・ビジネスの現状  研究ベースではさまざまな応用がある…  ビジネスは…  カーナビのトラフィックデータから渋滞情報  ホンダのinternaviで1億km/月  東日本大震災では「通れる経路」の把握に威力  センサ+ソーシャル情報から局地的天気予報  ウェザーニュースは1日5000~30000通の情報  一番成功しつつあるのはマーケティング
  • 4. 行動ターゲティングによる マーケティング手法  各顧客のサービス利用履歴・Web閲覧履歴… 等からプロファイリングして広告を打つ手法  究極は顧客関係管理(CRM)によるマーケ 総務省:「ビッグデータの活用に関するアドホックグループの検討状況」
  • 5. 顧客関係管理:CRM (Customer Relationship Management)  顧客データベースを元にしたマーケティング手法  各顧客について綿密なデータを取る  いつどんな商品を買ったか/返品したか等の購買記録  どんなクレームをしてきたか それにどう対応したか等の 応対記録  これらのデータを元に適切なマーケティングを行う手法  分野によっては昔からある手法  高額商品(家、車etc...)、家電製品等  医学の世界では常識  「ポイントカード」商法によって 一般小売に導入しやすくなった  ネット販売とは適合性が高い (IDがある/強制できるから)
  • 6. これが一番やりやすいのは 「ポイントカード」商法  マイレージ商法や電子マネーも同じ  マーケティング上2つの効果がある  「ロイヤリティ」の向上  ポイントという実質の値引きを使って 『囲い込み』が可能に  ポイントは企業にとって負債になるが先送り可能  CRMの容易さ  住所氏名etcを登録してもらえればベストだが そうでなくても・・・  実質上会員カードなのだがポイントという インセンティブで消費者の抵抗感を減らす
  • 7. CRMは必ずしも「住所氏名」と 紐付けしなくてよい 403842は必ず 今日はイチゴが 果物を買うわね 特売ですよ 別の 日 会員番号 403842 403842 会員番号 02/02 豆腐 403842 !? 02/02 りんご 02/03 カレー粉 02/03 バナナ 02/04 肉 02/04 みかん
  • 8. 広がるポイントカードの共通化  主な共通ポイントカード  Tカード=ファミマ+TSUTAYA+ドラッグユタカ+…  最近Yahoo! Japanとの提携を発表 ネット上のポイント制度と統合  Ponta=ローソン+ゲオ+HMV+Dental Ponta+…  異業種を横断することで多面的な プロファイリングが可能になる
  • 9. ターゲティング広告  パソコンで見るホームページ内のバナー広告 にサードパーティCookieを埋め込む OL募集中! 若い女性雑誌 のページ 132345さんは 安産祈願は… 若い女性? プレママ雑誌 妊娠中?? のページ XX産婦人科 自分の友達の 昔はバナー広告で追跡したのが ブログ 今は広告のないページでも追跡
  • 10. ターゲティングの行き着く先  日経ビジネス記事より: 買い物カゴの中身で妊娠を判定する~行動心 理学で企業は「習慣」という金脈を生み出せる か  「統計学者は、独自のデータ分析によって、買 い物カゴの内容から妊娠初期の女性も高い確 率で特定することができるというのだ。」  家族より早くスーパーが妊娠を知る是非
  • 11. プライバシー的にこれでいいのか  個人情報保護法的にはどうなの?  個人情報とは… 「生存する個人に関する情報であって、特定個 人を識別できるもの・他の情報と容易に照合す ることができ、個人が識別できるものを含む」  「照合容易性」がなければ個人情報ではない  Q:IPアドレスは個人情報か? メールアドレスは個人情報か?  では個人情報でないならよいのか?
  • 12. どの情報を誰に 個人→ID→属性情報 渡したいかは 個人によって 異なる 切ればIDは 住民票コード 生年月日 個人情報で なくなる? 基礎年金番号 性別 上原哲太郎 免許証番号… 住所 固定電話番号 Tカード番号… 勤務先 卒業校 Suica番号… 容易照合性が 昨日行ったところ 会った人 ない メールアドレス =リンクが弱け 昔の恋人 性癖 れば問題ない? 携帯電話番号 ? 信じている宗教 ケータイID 支持政党 犯罪歴 性的嗜好 Cookie… かかっている病気
  • 13. 固定ID問題  本人の身体もしくは行動に何らかの形で結びつい ており、容易にその内容が変更できない何らかの ID(識別子)が存在する場合に可能性あり  本人に意識されることなく収集されることがあれ ば、本人の望まない相手にもIDと「位置」や「行 動」等の情報が蓄積され、リスクが高まる  IDが何らかの理由で、望まぬ相手に本人識別さ れた瞬間にプライバシー侵害発生  例:ケータイID、モバイルルータのWiFiのMACア ドレス、固定IPv6アドレス… CSS2012にて発表予定 2B1-3: ワイヤレスデバイスのもたらすロケーションプライバシー問題に関する一考察
  • 14. IDにリスクアセスメントが必要  IDの性質を分類する必要  本人がそのIDの存在を意識できるか  本人識別性(本人確認)の強固さ  本人による変更や破棄の容易さ もしくは本人が意識せず変化するまでの時間  IDが取得された先や取得タイミング、 付随する属性情報が識別できるか  IDと結びつく属性の種類や蓄積先・量の制御可能性  IDが個人識別性を持ったときのリスクヘッジ
  • 15. 属性情報もいろいろ  一般的機微性  差別の要因になりうるもの  思想信条の自由を阻害しかねないもの  ただし私企業の活動に後者がどう関係するか?  実際には個人により大きな幅  性同一性障害を持つ人の「性別」  DV被害を受けている人の「住所」
  • 17. 属性情報→個人特定を 考える上でのカギ  k-Anonymity(k-匿名性)  同一の属性情報の組み合わせが常にk人以上である状態  属性情報による絞り込みではk人未満にできず個人特定不能  l-diversity(l-多様性)  グループ内で属性の持つ値がl通り以上ある状態  知られたくない(機微性の高い)属性値が l通り未満に絞り込めず、属性情報が特定できない  これらを維持したマイニングが Privacy Preserving Data Mining (PPDM)  だがここにあるのは「個人識別性」の話がメイン
  • 18. そもそも個人情報保護法の裏にある 「自己情報コントロール権」 何を持っている? 何に使っている? 内容は正確? 簡単に漏洩しない? 誰に渡している? 何を渡している? 本人の了解を得ている? 入手経路は適切? 使用目的は明白? 何を入手している? 山田太郎 67年8月9日生 住所:XXX TEL:012… 他企業・団体 企業・団体
  • 19. なぜ「自己情報コントロール権」が 重要なのか?  セキュリティとは「全体主義」  組織防衛のために行う  プライバシーとは「個人主義」  個人の「感じ方の違い」を包み込む必要 「私は平気、あなたは気にしすぎ」は通用しない ならば必要なのは 「社会的に過負荷にならない程度の自己選択権」
  • 20. じゃあ、どうすればいいの?  まずは「何をやっているか」提示する  「サービス利用約款」「個人情報保護ポリシー」 「プライバシーポリシー」に明記する  …ただ…あまりにも長い 場所も判りにくい まして、「間違っていたりする」 これを是正していくこと  いわゆる「アリバイ的コンプライアンス」は×
  • 21. その上で「オプトアウト」を保証  追跡や個人情報収集・第三者提供を 「停止してくれ」と申し込むこと  例えばマイクロアド社の例  これにより自己選択権を 確保してゆく
  • 22. 米国の最近の動き  FTCによる「Do Not Track合意」  2010年 FTC「急変する時代の消費者プライバシー保護」  特にターゲティング広告を行う事業者に対し 「統一的かつ包括的消費者選択の仕組み」を求める  HTTPリクエストに「DNT:1」ヘッダを付加する  Digital Advertising Allianceとの間で実装合意  ブラウザへの実装が進むが…  Firefox, Safari, Chromeは「デフォルトオフ」  Internet Explorer 10 は「デフォルトオン」??
  • 23. 続・米国の最近の動き  2012年2月22日 カリフォルニア州司法長官との合意  スマホアプリケーションに対する Amazon, Apple, Google, HP, Microsoft, RIMとの合意  州オンラインプライバシー保護法に基づく プライバシーポリシーの明示  表示手段・領域・事業者の対応手続・BPなど取り決め  「アプリ開発者」のプライバシーポリシー違反は 州の不正競争防止法・虚偽広告禁止法に違反
  • 24. 米国プライバシー権利章典  2012年2月23日 オバマ政権発表  権利章典 Bill of Rights!  7つの原則  コントロール・透明性・「コンテキスト」の尊重・ 安全性・アクセスと正確性・対象を絞った収集 説明責任  「プライバシー権は 民主主義に最初からあったものだ そして今、私たちは何よりも必要としている」
  • 27. EUデータ保護指令→規則  データ保護指令(95年)  「全ての者は、自らに関する個人データを保護する 権利を有する。」  OECDガイドラインに沿った規定 +プライバシーコミッショナー制度(PIA)  第三国持ち出しについて規制  データ保護規則(現在は素案)  「忘れられる権利」の明記  Privacy by Design など
  • 28. SNSの登場が産んだ新しい問題  SNS問題:人の「つながり」のプライバシー  AさんとBさんが「友達」である時に 「友達である」という事実は誰のもの??  「連絡先」問題  住所やメールアドレス、電話番号はより活用ニー ズがある  個人識別子の代わりに活用するとさまざまな弊害  例:FacebookやLINEにおける「連絡先」取得問題
  • 29. おわりに  個人情報漏洩じゃなく「プライバシー」を語ろう  自分の情報はどこにあって誰が何に使っているか 意識できる・想像の範囲内に収まる世の中を  「意識の高い」人に選択権を  世界の議論に追随しよう  アクセルとブレーキの両方が必要  日本のビジネスの世界展開に障害?  ビッグデータ内の「個別例外処理」という 問題が今後大きな課題になるのでは?