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ST08:性的同意(sexualconsent)
———何をもって同意していると言えるのか？
ST07の復習
同意の定義
レイプ神話からNomeansNO/YesmeansYesへ
紅茶の比喩
同意とその条件：(1)判断能力、(2)強制、(3)欺瞞
家まできたらOKなのか問題
社会思想(SocialThought,TCUE2023)
福原正人:nonxxxizm@icloud.com

わたしたちは他者を自分の欲求のために利用しがちである
マーサ・ヌスバウムは、この人間を欲求を満たすための<道具>として扱ってていること
を「モノ化(objectification)」と呼んで分析した。ただしヌスバウムも、このモノ化がど
んな場合でも不正であるとは考えていない。
メディア表現に含まれる性的モノ化。例えば「女性誌」／「ポルノ」。
一部のフェミニストはポルノだけが問題であると主張したい。そのためには？
女性誌もポルノも問題がないという主張もある
-女性誌もポルノもモデルが＜同意＞しているから
-ではこの＜同意＞とは何であるのか？
ST08:ST07の復習:性的モノ化

同意(consent)とは？
通常は許されない行為や危険な行為などを道徳的または法的に認める手続き
免責事項への個人の同意
医者の処置に対する患者の同意
戦うことに対するボクサーの同意
セックスに対する相手の同意
→性的行為に関わる意思確認を＜性的同意(sexualconsent)＞と呼ぶ
ST08:同意の定義

性的同意もまた、レイプやハラスメント等の性犯罪を考えるうえで重要な論点の一つで
あり、第二波から引き継がれる重要な論点の一つである
実際に、上記に関わる裁判事例は、性的同意の有無（強姦か和姦か）が問題になるわけ
だが、(1)推定無罪と犯罪の故意、(2)レイプ神話が相まって、有罪判決が出づらいこと
で有名である。
今日のタスク
レイプ神話→性的同意の基本的なイメージ→同意論の難しさ
これによって以下のことが理解できる
(1)有罪判決が出ずらい理由を理解したうえで、(2)ここでもフェミニズムにとっては同
意が鬼門になることを確認できる
ST08:今日のタスク

レイプ神話ーー抵抗されなければNOではない
-1970~80年代以前の性犯罪のステレオタイプなイメージ
犯行は性的欲求により衝動的に行われる
加害者は見ず知らずの人間である
犯行には物理的な強制や暴力が使用される...など
レイプ神話に従えば、レイプの場合は女性は抵抗したりケガをしているはずである。逆
に言えば、この神話の下では、女性は十分に抵抗していなければ、行為に同意している
（＝レイプではない）とみなされる。
よって裁判では、加害者の故意（相手が同意していないことを認識して犯行に及んだの
か）を証明するためには、女性側は抵抗やケガの証拠を示す必要になる。逆に抵抗して
いなければ、レイプとして認定されず無罪判決がでることが多い。
ST08:レイプ神話からNomeansNO/YesmeansYesへ(1)

デートレイプ(datarape)——NoといえばNoである
-1980年代あたりから性犯罪の暴力的なイメージは犯罪学の知見により解体されてゆく
犯行は計画的に行われる
加害者は配偶者や顔見知り、職場の同僚
犯行には暴力的というより説得や押し問答などもある
datarape/acquaintancerapeなど、性犯罪は日常的なものであると理解される
レイプは、暴力的なセックスではなく、当事者の意思に反した強制的なセックスとして
定義される。よって、女性が十分に抵抗していなくとも、自由に不同意を表明できない
状況で行われるセックスは、レイプとみなされる。
これにより性的同意が本格的に取り上げられる。法改革の他、NomeansNO/Yes
meansYes（積極的同意）といったスローガンや大学学則が制定される。
ST08:レイプ神話からNomeansNO/YesmeansYesへ(2)

紅茶の比喩(イギリス警察署の啓発動画,2015年)
「紅茶飲む？」
-相手が飲むと言わない限り紅茶を無理やり飲ませない
-最初は飲むといってもやっぱり要らないという言われたら無理やり飲むませない
-紅茶を飲みたいか判断できないひとひとに無理やり紅茶を飲ませない
-毎週会う度に紅茶を飲みたいと言っているからといって無理やり飲ませない
紅茶とその同意→セックスとその同意
性的同意、とりわけ「積極的同意」の直観適合性を確認する動画
ST08:性的同意の具体例

同意の効力を損なう三つの考慮
(1)判断能力(competency)
同意者に一定の能力がなかったりそれを行使できない場合、同意は無効化される
e.g.刑法上の性的同意年齢(16歳)、アルコールや薬物の摂取
(2)強制(coercion)
同意者が同意することを強制されている場合、同意は無効化される
e.g.ポルノ女優が撮影を強制されている場合
(3)欺騙(deception)
同意者が同意内容について誤った情報を与えられている場合、同意は無効化される
e.g.医療行為を騙った性犯罪
ST08:同意とその条件

どのような場合に強制されていると言えるのか？
(1)あなたはナイフを突きつけられてセックスに同意しろと言われている。あなたは同意して
しまった。
(2)あなたは貧困に苦しんでいるとしよう。あなたには高額の金銭的対価によりセックスをす
る選択肢が与えられている。あなたは同意してしまった。
(3)あなたは付き合って間もない彼氏とデートに行った。終電が無くなってしまったあと、あ
なたの家に来た彼氏は付き合っているんだからよいでしょ？と圧力をかけられている。あな
たは同意してしまった。
ST08:主体性と強制

-強制されている
暴力や身体的危害による脅迫は、同意を無効化する
→これは狭い意味での強制であり法的にも道徳的にも論争的でない
ST08:事例(1)

-強制されていない
魅力的な金銭の提案は、選択肢が与えられているだけ。よって当事者の同意は尊重される。
-強制的提案(coerciveoffer)
魅力的な金銭の提案は（それが拒否できないほどの条件である場合には）当事者が自発的に
同意しているかを疑わしくする。よって同意を無効化する(Wertheimer2003)。
→後者が正しい場合、一部の性風俗や経済徴兵は当事者が同意しているとは言えないと議論
することができる
ST08:事例(2)

-強制されていない
通常の誘惑や圧力は（当事者の意思に反して同意させるものであったとしても）道徳的に問
題がない行為である——事例(1)の脅迫とは明らかに異なる。よって当事者の同意を踏まえて
レイプではない(Conly2004)。
-強制されているかも？
通常の誘惑や圧力は（それ自体としては問題がない行為であっても）、それを支える性規範
に関する社会構造を踏まえると、当事者が自発的に同意しているかを疑わしくする(Anderson
2005)。よって通常のレイプではないが道徳的に問題がある。
a.異性愛カップルは男性優位の社会構造のなかで選好を形成する(cf.ST06)
b.男性は女性の性的関心を過大に見積もる傾向がある（心理学的な知見）
ST08:事例(3)

女性誌もポルノも同意しているからOKを出発にして性的同意について検討してきた
同意しているからOKというためには、同意がどのような状況で行われているのかを確認
しなければならない
判断能力、強制、欺騙などに引っかかる場合、同意は無効化される
しかしながら、強制という概念もきわめて曖昧である。とりわけ最後の議論を踏まえた
場合、家父長的な社会構造のなかでは、
(1)「（同意がない）レイプ」と「同意のあるセックス」のあいだには大きなグレーゾー
ンがある可能性がある。
(2)加害者はセックスの不同意に気づかないと考えられるので、裁判では加害者の故意を
立証するのは最初から困難である(Estrich1987)。
ST08:まとめ

今日のお題
性的同意にはどのような場合に問題になるだろうか。
事例(2)と事例(3)についてあなたはどのような直観をもつだろうか。
再確認だが、リアペは（投稿欄の名前欄は無記名にすれば）教員以外には誰が書いたか
のかはわからない。
その他、通常のリアペとして。お題以外について書いても問題ありません。
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ST09:インターセクショナリティ
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