高槻病院院内学習会2015『乳房の解剖と母乳分泌の生理』15. 乳頭の形態による哺乳状況の調査
Vazirinejad R, Darakhshan S, et al.
The effect of maternal breast variations on neonatal weight
gain in the first seven days of life.
Int Breastfeeding J 2009, 4:13. doi:10.1186/1746-4358-4-13
P: 乳頭形態が生後早期の体重増加に影響を与えるかどうか
I: 初産婦で、以下のいずれかをもつ女性50名(A:あり群)と
いずれもない女性50名(B:なし群)
(1)扁平乳頭 27名(54%) (2)大きな乳頭 17名(34%)
(3)大きな乳房 12名(24%) (4)陥没乳頭 7名(14%)
C: 児の出生体重と日齢7における体重
O: 体重増加に差が見られるかどうか
16. 両群の背景因子
A: あり群 n=50 B: なし群 n=50
年 齢
20歳未満 7 14 % 7 14 %
20~29歳 31 62 % 30 60 %
30歳以上 12 24 % 13 26 %
世帯収入
中 39 78 % 41 82 %
高 11 22 % 8 16 %
出生体重
3kg未満 16 32 % 14 28 %
3~4kg 32 64 % 34 68 %
4kg以上 2 4 % 2 4 %
児の性別 男児 21 42 % 20 40 %
在胎週数
37~38週 10 20 % 9 18 %
39~40週 28 56 % 29 58 %
42~42週 12 24 % 12 24 %
17. 結果:体重と体重増加
出生体重 日齢7の体重
その間の
体重増加
A: あり群 n=50 3246±480 3084±427 -162±125.5
B: なし群 n=50 3238±490 3185±450 +53±154.4
Paired t-test p = 0.515 p = 0.09 p = 0.00
【結論】
乳頭の形態が児の体重増加に与える影響を考慮して、妊娠中の女性において
乳房の観察をルチーンに行う必要性を示している。この結果から、医療者は
このような特徴を持つ母親が哺乳で困ることに対処できる適切な支援を
身につけておく必要がある。
【論文の問題点】
• 厳密な乳頭や乳房の定義(計測値)がない
• この間具体的にどんな母乳育児支援が行われたか記載されていない
18. 陥没乳頭に対する介入(1)
Kesaree N, Banapurmath CR, et al.
Treatment of inverted nipples
using a disposable syringe.
J Hum Lact. 1993 Mar;9(1):27-9.
1. 注射用10mLシリンジを1本用意し、
先を鋭利なハサミで切断する
※原著は10mLシリンジとなっているが乳頭の
大きさに合わせて20mlシリンジでも可
2. 押子をその断端から逆向きに挿入する
3. もう一方のシリンジ本体を乳頭にあて
押子を痛みがない程度に吸引する。
7人の女性に実施し有効な哺乳が可能に
19. 陥没乳頭に対する介入(2)
Chakrabarti K, Basu S.
Management of Flat or Inverted Nipples with Simple Rubber
Bands
Breastfeeding Med 2011; 6(4): 215-9
P: 陥没・扁平乳頭への介入で直接授乳ができるようになるか
I: 授乳中のみ乳頭基部に輪ゴムを装着することで、その後
児が直接授乳ができるようになるか
対象19名すべてで介入時点は哺乳瓶で授乳している
C: 日齢3・7・28の時点での児の哺乳状況
O: 日齢3の時点で69%が適切な吸着が可能になった
日齢28の時点で全員が適切に吸着しており、分泌不全は
時間経過とともに改善していた
24. 乳汁生成Ⅰ期
• 妊娠16週ごろから産後2日まで
• この時期に分泌される乳汁を初乳colostrumと呼ぶ
• 乳糖、総蛋白、 免疫グロブリンが増加し、乳汁産生のための
基質が集められる。
• 乳腺房の上皮細胞が分泌細胞に分化し、乳腺葉が大きくなっ
て、乳房のサイズも大きくなる。
• 乳糖とαラクトグロブリンが乳管腔から間質に移行し、血中の
濃度が上昇する。(腺房細胞の細胞間隙があいているため)
• 産後1~2日間は胎盤由来のプロゲステロンが消失する時期
であり、初乳の分泌は少ない。
• 分泌量は10~100ml/日、平均30ml/日
• 出産直後より頻回授乳や搾乳で乳頭・乳輪に刺激を与えるこ
とで、乳汁生成Ⅱ期に移行しやすくなる。
29. 乳汁生成の3段階:まとめ
段階 期間 特徴
乳腺
発育期
妊娠~ 乳腺が発育し、乳房の大きさ、重量が増大する。
エストロゲンとプロゲステロンの作用により乳管や
乳腺組織が増殖する。
乳汁生成
Ⅰ期
妊娠中期~
産後2日
妊娠中期~後期の間に乳汁産生を開始する。
乳汁分泌細胞は腺房細胞へと分化する。
プロラクチン刺激により乳腺上皮細胞が乳汁を分泌する。
乳汁生成
Ⅱ期
産後3~8日 プロゲステロン・エストロゲン・hPLの母体血中濃度が
急激に低下する。
乳腺細胞間隙が閉じる。
乳汁の分泌量が増加し、乳房に熱感や緊満を感じる。
乳汁生成
Ⅲ期
産後9日~
退縮期
オートクリンコントロール(需要と供給のバランス:
乳汁産生量は児が飲み取った量)で調整される。
乳房の大きさは産後6~9か月で縮小する。
乳房
退縮期
最後の授乳
~40日
分泌抑制作用のあるペプチドの働きにより乳汁分泌が
低下する。母乳中のNa濃度が増加する。
38. プロラクチン濃度
• 日内変動:夜間(睡眠中)のほうが高値
• 授乳期間を通じてゆっくり低下
• 授乳している限り、児の乳頭刺激(授乳)によって一過性に上昇
• 吸啜により上昇し、授乳回数が多いほど濃度が上昇
24時間に8回以上の授乳で、次の授乳までの濃度低下を防げる
• 母乳産生の開始と維持に不可欠だが、一旦母乳産生が確立すれ
ば高濃度でなくてもよい。
• プロラクチン濃度と母乳産生量とは必ずしも相関しないが、
2人同時に授乳すると濃度は2倍に上昇し2人分の母乳を産生
• 吸啜から45分でピークに達し、血中濃度は約2倍に達する。
• 分娩後授乳しなければ、分娩後7日から2~3週間くらいで非妊娠
時のレベルまで低下
54. 主な参考図書
• 日本ラクテーション・コンサルタント協会:母乳育児支援スタン
ダード第2版, 医学出版, 2015.
• 赤ちゃんとお母さんにやさしい母乳育児支援ガイド ベーシッ
ク・コース, 医学書院, 2009.
• 水野克己:母乳育児学, 南山堂, 東京, 2012.
• 水野克己・水野紀子:母乳育児支援講座, 南山堂, 東京,
2011.
• Hale TW. Medications and Mother's Milk. 15th ed. Hale
Publishing, Texas, 2012.
55. Take Home Message
• 乳房や乳頭は女性によって形態が異なっており、ご
くわずかな例外を除いて完全に機能している。
• 乳汁生成の過程は妊娠中から始まり、胎盤の娩出
を契機とした急激なホルモン変化により乳汁生成が
始まる。
• 乳汁生成の確立には生後早期からの頻回の哺乳や
搾乳が、またその維持には乳房を「空」に近い状態
にする哺乳や搾乳が必要である。
Editor's Notes まず乳房全体の構造についてお話しします。
乳腺組織と脂肪細胞はクーパー靱帯などの結合組織で支えられています。
乳房の重さは通常150-200gで、授乳中は400-500gにもなります。
乳房の形や大きさは女性によりさまざまであり、母乳の産生量は乳房の大きさと関係ありません。
授乳開始6-9か月後には乳房サイズは縮小しますが、乳汁産生量は変わりません。
乳房平均乳汁蓄積量は左右それぞれ170ml前後で、一日乳汁生産量はそれぞれ400ml前後です。
乳腺組織には7-10個程度の乳腺葉が存在します。
ひとつの乳腺葉は20-40個の小葉から成り立っています。
そしてひとつの小葉はおよそ10-100個の細乳管を有し、主乳管へとつながります。
乳管の主な作用は乳汁の輸送であり、貯蔵する働きはありません。
乳管の主な作用は乳汁の輸送です。
さきほどの細乳管が小葉から延び合流して大きな乳管となり、最終的に1本の太い主乳管に合流し
乳頭表面に開口します。この乳管の数には4~18本と個人差があり、平均すると9本です。
授乳中の女性の乳頭の平均直径は16mmです。
乳腺房の断面を見てみましょう。(右上図)
細乳管を取り囲むように、一層の腺房細胞(乳汁分泌細胞)が配置されており、
その周囲には筋上皮細胞と毛細血管が網の目のように張り巡らされています。
乳頭が刺激されて下垂体からオキシトシンが分泌されると、この筋上皮細胞を
収縮させ、乳汁を乳管内に押し出します。これが「射乳反射」です。
乳輪にはモントゴメリー腺という小結節が平均8.9個あります。
モントゴメリー腺には皮脂腺とともに乳腺の開口部も含まれているため、皮脂腺からの分泌物と
母乳によって母親の独特なにおいを作り上げる。児の鼻が接しやすい乳房上外側に多い
乳汁生成Ⅲ期:産後9日からをさします。
授乳をしなくなり、乳房の退縮が始まるまでがこの乳汁生成Ⅲ期となります。
★プリントとスライドでグラフ下段の日数がややこしいので修正しています。 【乳汁生成Ⅰ期】
妊娠中期(16週)~産後2日くらいまでの乳汁を分泌できるようになる時期をさします。
乳汁分泌細胞が腺房細胞へと分化し、プロラクチン刺激により乳汁を産生します。
この時期に得られる母乳は「初乳」と呼ばれ、Na、Cl、免疫グロブリンやラクトフェリンなどの感染防御因子を多く含みます。
【乳汁生成Ⅱ期】
乳汁分泌が増加・確立する時期で、産後3~8日を指します。
分娩により胎盤が娩出され、母親のプロゲステロン・エストロゲン・hPLの血中濃度が急激に低下すると、プロラクチンの作用が前面に出て、乳汁生成Ⅱ期が開始される。
乳汁生成Ⅱ期の開始には、プロゲステロンの急激な低下が必須だが、母乳分泌の確立にはプロラクチン、インスリン、コルチゾールが必要である。
産後2、3日は細胞間隙が開いており、NaやCl、蛋白質が毛細血管から
間質を通り、乳腺腔内に移行しやすく、これが乳汁生成1期の状態です。
産後36時間ごろになるとプロゲステロン低下の影響で腺房細胞が膨張し、
産後72時間までに細胞間隙が閉じます。
それにより乳汁中のNa、Cl、蛋白質の濃度が低下して、反対に
乳糖や乳脂肪が上昇するしくみになっています。
これが乳汁生成2期以降の状態です。
乳汁生成Ⅲ期:産後9日からをさします。
授乳をしなくなり、乳房の退縮が始まるまでがこの乳汁生成Ⅲ期となります。
★プリントとスライドでグラフ下段の日数がややこしいので修正しています。 アンダーライン部分が変更箇所 (スライドを読み上げた上で)