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Kokogatari:実環境を介した
リレー小説執筆ツール
関西大学総合情報学部
○堤 悠太,安尾 萌,松下 光範
1
背景
リレー小説
・小説の執筆形態の一つ
・一つの小説を複数人で執筆する
・共創型コンテンツ
特徴
・執筆者が想定しなかった展開を楽しむ
・物語の一貫性を担保することが難しい
2
従来のリレー小説サービス
「物語の一貫性の担保」
強い制約によって,執筆者が不愉快に感じる
ことが報告されている
Writing consistent stories based on Structured Multiauthores
Narrative Spaces[Tapscott, 2013]
制約: 物語に影響を与える要素
(登場人物や展開等)を共有
https://relayb.com/
3
本研究の位置付け
物語の舞台となる実環境を共有することが,
執筆者間の想像における共通基盤になるの
ではないか?
物語の「舞台」を共有する
• 実環境を物語の「舞台」として利用する
• その場に行って物語の舞台を体験できるようにする
4
関連研究:場所に応じたコンテンツ提供
Location-based storytelling in the
urban environment[Paay, 2008]
• 物理的な環境を背景とした物語
をその場で体験できるサービス
• 現実とフィクションの境界を
曖昧にする
5
ユーザのいる環境と物語の舞台を関連づけることで,
物語がよりリアルに伝わってくることが報告された
提案システム
●実環境に紐づいた物語をその場で共創させるアプリケーション
特徴
・実環境に物語が埋め込まれている
・実際にその場に出向いて続きを執筆する
6
システムの概要
7
スポットへ移動
携帯端末
スポットにて物語の続きを執筆する
既に投稿された物語を読む
気がつけば記憶
がなくなってい
た・・・
〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜〜
だから僕は考え
るのをやめた.
.
〜〜〜〜〜〜〜
だから僕は考え
るのをやめた.
目の前には、
見ているだけ
で吐き気が〜
閲覧フェーズ 執筆フェーズ
ログイン ログイン
マップの中から物語
が埋め込まれている
スポット選択
物語を読む
前ページで選択された
作品の登場人物の詳細
を読む
タイトルを一つ選択
閲覧フェーズ
8
タイトル画面 登場人物画面 マップ画面 物語の閲覧画面
https://www.google.com/maps/
実環境の半径40m以内にいる場合のみ、
物語の続きが執筆可能になる
執筆フェーズ①
9
実環境へ移動
40m
40m
https://www.google.com/maps/
執筆内容に合った写真を撮影する
執筆フェーズ②
10
https://www.google.com/maps/
実験
11
●明らかにすること
・実環境を介した執筆が,
1:物語の一貫性を担保できるか
2:執筆内容にどのような影響があるか
●実験協力者
・10〜20代の学生・社会人24名
●方法
・実環境を介してリレー小説を行う群(A群)実環境を介さずリレー小説を
行う群(B群)で生み出されたコンテンツを比較する
・12名ずつランダムにA群とB群に割り当てた
A群:実環境を介して執筆する群(4人) B群:実環境を介さず執筆する群(4人)
物語に影響を与える情報を提供(舞台となるエリア・登場人物・プロローグ・前の人が書いた文章)
物語の舞台である実環境に行く
小説を執筆する
実環境を観察する
小説を執筆する
12
実験手順
コンテンツの分析手法
リレー小説執筆の際に実環境を介することで・・・
1:物語の内容の一貫性を担保するか
2:執筆内容にどのような影響を与えるか
13
内容評価のアンケート
執筆された文章の内容分析
内容評価アンケート
14
一貫性に関する群別比較
風景描写に関する群別比較
●結果
風景描写については,実環境を
介した群が高く評価された
一貫性については,必ずしも
実環境を介した群が評価された
わけではなかった
●手法
A群,B群二つの文章を提示し,
4つの観点(読みやすさ・内容
の一貫性・風景描写・人物描写)
でどちらが優れているかを回答
する形式
文章の内容分析
15
優しい夢をみた気がした。こんなに心地いい朝はいつぶりだろう。体はいつもの疲れから解放さ
れ、心は静止清澄の水の如く澄み切っている。しかし、どれだけ頑張っても夢の内容を思い出す
ことはできない。こういう時は、昨晩あったことを思い出すところから始めるといいときく。ソ
ースは僕。昨日、僕は…
生い茂る草の上でギターの練習をしていた。大学生になって何か1つ趣味でもと思って始めたが
なかなか好きになれない上達はしないし、何よりも昔からの性格のせいなのか何事も続かずに終
わってしまう。たしか、練習に飽きてしまってギターをかかえたまま寝てしまったことを思い出
した。
爽やかな風に身を委ねていると、大きな音が聞こえた。時計を見る。いつの間にか、かなりの間
眠ってしまっていたらしい。最近あんまり眠れていなかったからなぁ。そう思っていると、後ろ
から突然声をかけられた。寝ぼけたままふりかえると、一人の少年が僕を見て立っていた。
見たことがある顔だ。サークルの後輩だろうか。もっとも、名前を覚えているわけではないが。
「そんなところで寝てると風邪引いちゃうよ。こっちにおいでよ」との声。普段なら断るような
話だが、その時はまだ微睡みの中。熟考もないまま、その誘いを受けた。「何であんなところで
寝てたの?」
少し間を空けて「特に理由はないんだ。ただなんとなくで。」と答えた。それを聞くた後輩らし
き奴は少し笑いながら温かい缶コーヒーを僕に手渡してきてタバコに火をつけた。そのタバコの
煙の匂いは普段絶対に近づくことのない、でもどこか懐かしいような甘ったるい匂いがした。
優しい夢をみた気がした。こんなに心地いい朝はいつぶりだろう。体はいつもの疲れから解放され、
心は静止清澄の水の如く澄み切っている。しかし、どれだけ頑張っても夢の内容を思い出すことはで
きない。こういう時は、昨晩あったことを思い出すところから始めるといいときく。ソースは僕。昨
日、僕は…
大学で講義を受けていた。板書が進んでいく黒板をぼんやりと見つめながら、二日酔いの頭をフル回
転させていた。放課後は研究室の手伝いの事や、課題の事など、色々考えることはある。突然の背後
から声をかけられ、僕の思考は一気に現実の世界へと戻された。ふりかえるとそこにいたのは…
いつも隣で授業を受けている剛山剛太郎であった。名前とは裏腹に細見であり、手の甲や首筋に芸術
的とも取れる血管がうきでている。名前は親から子への祈りごとであるとは聞くがここまで成就しな
いものをみると神様仏様なんてのはこの世にいないということを実感させられる。彼は言った。「お
前昨日こま
くに響くくらいデカい声で喋ってたぞ?そりゃ二日酔いにもなるわな」とその美しい容姿からは想像
も出来ないような明るく、軽快な声で話した。自分は酔うと声が大きくなると以前から聞いていたが
このように言われるのは初めてでなんだか少し恥ずかしいような情けないような複雑な気分になる。
彼は言った
「あの後、ちゃんと家に帰れたのかよ」まるで母親が子を心配するかのように自分を見つめてる。優
しい奴だ。やっぱり、名前と性格は一致しない。いっそのこと明山優太郎にでも改名すればいいのに。
A群 B群
・総計
風景描写(青):15箇所
感情描写(黄):5箇所
イベント(赤):9箇所
・総計
風景描写(青):9箇所
感情描写(黄):8箇所
イベント(赤):7箇所
考察
● 実環境を介した執筆は,風景描写を増加させる
実環境を介した執筆行為やその過程における実環境の観察が影響した
● 執筆環境は執筆内容に影響を及ぼす
B群では全ての物語において新しい人物が登場し,外見や性格などが詳細に
記述された
● 「内容の一貫性」における実環境の影響は観察されなかった
アンケートの回答者ごとに「一貫性」についての解釈の差が生じた
16
今後の展望
●物語の一貫性に影響する要素の調査
●実装したツールのシステムデザインの改良
・提示する情報を再検討
17

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