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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
深川恒喜文書を用いた『学校図書館運
営の手びき』ならびに1953年「学校図
書館基準」の作成過程の検討
今井福司
白百合女子大学基礎教育センター
2022 年 10 月 30 日
Fukuji IMAI 白百合女子大学基礎教育センター
深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
目次
1 はじめに
2 「深川文書」
「深川ノート」について
「深川文章」について
「深川ノート」について
3 「深川ノート」の検討結果
「メモ B」の内容について
「メモ A」の内容について
4 おわりに
Fukuji IMAI 白百合女子大学基礎教育センター
深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
1 はじめに
2 「深川文書」
「深川ノート」について
「深川文章」について
「深川ノート」について
3 「深川ノート」の検討結果
「メモ B」の内容について
「メモ A」の内容について
4 おわりに
Fukuji IMAI 白百合女子大学基礎教育センター
深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
学校図書館史研究における深川恒喜の位置づけ
深川は、1946 年から文部省図書監修官および文部事務
官となり、1961 年に東京学芸大学へ転じるまで、学校
図書館行政に深く関わった。
著名なものでは 1948 年発行の『学校図書館の手引』が
挙げられるが、それ以外に 1959 年発行の『学校図書館
運営の手びき』
(以下『運営の手びき』とする)といっ
た手引書の発行にも携わっている。また学校図書館法
の成立にも深く関与した。
Fukuji IMAI 白百合女子大学基礎教育センター
深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
研究の動機
発表者は深川が遺した文書(ぶんしょ)群(以降「深
川文書」とする)から、
『運営の手びき』ならびに
1953 年制定の「学校図書館基準」
(以下「1953 年版基
準」とする)についての制作過程について記された
ノート(以降「深川ノート」とする)を発見した。
本発表はこの史料の紹介ならびに、
『運営の手びき』な
らびに「基準」について、制作過程や議論の一部につ
いて明らかにすることを目的とする。
Fukuji IMAI 白百合女子大学基礎教育センター
深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
先行研究との対応
先行研究としては、深川に対するものとして、塩見昇
らによる本人へのインタビューや根本彰の論考などが
挙げられる。
また『運営の手びき』や「1953 年版基準」については
堀川照代の論考などが挙げられ、同時代の文献でも盛
んに取り上げられているが、同ノートの内容や存在を
扱った研究については、管見の限り存在しない。
Fukuji IMAI 白百合女子大学基礎教育センター
深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
『運営の手びき』
「1953年版基準」について
『運営の手びき』は 1948 年出版の『学校図書館の手
引』の改訂版として企画された文部省による学校図書
館の手引書である。総勢 38 名の編集委員が名を連ね、
全 17 章にわたって学校図書館の運営に関わるノウハウ
が掲載されている。
学校図書館基準は、文部省による学校図書館の設備や
蔵書冊数などの目安を示したものである。
今回取り上げる「1953 年版基準」は、文部省「学校図
書館の手びき(改訂版)
」編集委員会の基準委員会が立
案し、1953 年 2 月に文部省から「学校図書館基準
(案)
」として発表されたものである。
Fukuji IMAI 白百合女子大学基礎教育センター
深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
1 はじめに
2 「深川文書」
「深川ノート」について
「深川文章」について
「深川ノート」について
3 「深川ノート」の検討結果
「メモ B」の内容について
「メモ A」の内容について
4 おわりに
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深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
「深川文章」について
深川は退官時に、自らが関わった政策に関する文書類
や図書を持ち帰っていた。
東京学芸大学を離れた際に一部の文書や図書は段ボー
ル箱に収められ、そのまま残されたままになっていた。
その後、東京学芸大学の高鷲忠美氏が管理し、その後、
高鷲氏の転任先である八洲学園大学の研究室に保管さ
れていた(同文献の使用については高鷲氏が遺族より
許諾を受けている)
。
Fukuji IMAI 白百合女子大学基礎教育センター
深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
「深川文章」について
「深川文書」は高鷲氏が文献リストを作成、一部は電
子化された。現在、国立教育政策研究所へ寄贈の手続
きを行った。
「深川文書」は、封筒に収められたメモや文書類なら
びに図書で構成され、1951 年から 1956 年頃までの史
料が多く含まれている。
Fukuji IMAI 白百合女子大学基礎教育センター
深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
「深川文章」について
図 1: 深川文書 (上が封筒に納められた文書、下が図書)
Fukuji IMAI 白百合女子大学基礎教育センター
深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
「深川文章」について
図 2: 深川文書に含まれる文書
Fukuji IMAI 白百合女子大学基礎教育センター
深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
「深川ノート」について
図 3: 深川ノート表紙
Fukuji IMAI 白百合女子大学基礎教育センター
深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
「深川ノート」について
「深川ノート」の概要
「深川ノート」は「深川文書」中の封筒に収められて
いた A5 サイズのノートである。
表紙には “手引 編集(I) School Library
Handbook(Revised Edition)” との記載があり、深川の
署名が入っている。
表紙に「I」と記載があることから、これ以降も記録さ
れたノートが存在した可能性が考えられるが、深川文
書の中には同様のノートは含まれていないため、実際
に存在したかどうかは不明である。
Fukuji IMAI 白百合女子大学基礎教育センター
深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
「深川ノート」について
図 4: 深川ノート 1 ページ目
Fukuji IMAI 白百合女子大学基礎教育センター
深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
「深川ノート」について
「メモA」と「メモB」について
ノートは、後から挟み込んだと思われる、左側に 4 つの綴
じ穴がある「メモ A」
(計 20 ページ)と最初からノートの
綴じで止まっている「メモ B」
(計 40 ページ)で構成され
ている。
「メモ A」は『運営の手びき』完成間際のものと考え
られ、目次構成の改訂や説明会での発表原稿の草稿な
どが含まれている。
「メモ B」は 1952 年(昭和 27 年)1 月 12 日から 5 月
8 日にかけて行われた会議のメモだと思われる。日時の
記載、打合せの参加者名、会合場所と打合せ内容のメ
モが記載されている。
Fukuji IMAI 白百合女子大学基礎教育センター
深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
「深川ノート」について
図 5: 深川ノート「メモ A」の例
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深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
「深川ノート」について
図 6: 深川ノート「メモ B」の例
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深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
1 はじめに
2 「深川文書」
「深川ノート」について
「深川文章」について
「深川ノート」について
3 「深川ノート」の検討結果
「メモ B」の内容について
「メモ A」の内容について
4 おわりに
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深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
「メモ B」の内容について
開催された打合せについて
「メモ B」の記録に基づけば、1952 年 1 月 12 日から 5
月 8 日にかけて、総会 3 回を含む、40 回の会合が開か
れていた。
会議場所が記載されている 22 回の会合のうち、ほぼ半
数の 10 回が文部省の「教育課程文庫」で開催されて
いる。
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深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
「メモ B」の内容について
会議に参加した関係者について
「メモ B」の氏名が書かれている箇所を取り出し、誰
が出席していたかを確認した。その結果、延べ参加人
数 110 名、異なり参加者数 24 名で、芦谷清が最も多い
12 回の打合せに出席している。
そのほか、6 回以上の出席者を抽出したところ、鈴木英
二(7 回)
、青野伊予児(7 回)
、若林元典(7 回)
、渡辺
正(6 回)
、鳥生芳夫(6 回)
、松尾弥太郎(6 回)
、山崎
哲男(6 回)
、阪本一郎(6 回)が登場している。
芦谷は全体のとりまとめを担当していたと思われる。
また鳥生は、学校図書館基準でのとりまとめ役となっ
ていたようである。
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深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
「メモ B」の内容について
打合せの内容について
打合せの内容について、
「メモ B」の多くでは、議題の
みが書かれたり、議論の内容について書かれていても
断片的で文脈がわかりにくいといった箇所が多いもの
の、一部の回については会議での実際の発言と思われ
る箇所がある。
例えば、1952 年 1 月 12 日の会議では、議論の経過が
話された後で「 手引は理想的にやり過ぎている。よい
例のみでなく」
、
「目次について論理的に組みすぎると
ムリもでる、読み手がとりつきにくい点もでる。
」とい
うように、1948 年に出版された『学校図書館の手引』
への意見が出されていた。
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深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
「メモ B」の内容について
「1953年版基準」の1月の議論について
主な記録として、1 月 22 日と 1 月 29 日の記録がある。
1 月 22 日の記録では、基準の章については、武田虎之
助や岡田温がとりまとめを行い、松尾弥太郎が小学校
の部分、佐野友彦、鳥生芳夫が中学校、若林元典が高
等学校の章を担当すると書かれ、鳥生の箇所に青野が
補助として加わるような記載が見られる。
1 月 29 日の記録では、
「基準を刷って意見を聞くこと」
とし、官製の学校図書館協議会委員、教育委員会、有
力な学校へ送ると書かれている。
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深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
「メモ B」の内容について
「1953年版基準」の他の記録について
2 月 8 日は旧基準について全体討議を行ったこと、2 月
21 日には、鳥生の原案や割合(percentage)の原案を
審議した。
3 月 4 日は図書費について割合の数字について「総校費
の一割をくだらない」との提案がされていた。
3 月 18 日は図書館教育についてトピックを 14 項目を
盛り込み、少なくとも 15 時間は必要であるとの文言を
含むとの決定が行われた。
5 月 1 日の委員会では、この基準は最低基準であるこ
と、成立の経過と基準の関係、基準の読み方、各県の
教育委員会で倣った基準を作られることが好ましいこ
とが確認された。
Fukuji IMAI 白百合女子大学基礎教育センター
深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
「メモ B」の内容について
「メモB」における「1953年版基準」について
後日関係者による回顧記事と比べると、
「メモ B」の内
容は「1953 年版基準」の内容と一致しており、回顧記
事を裏付ける内容である。
ただし、予算の数字では学校予算に応じた基準が作ら
れようとしていた痕跡が見受けられた点はこれまで指
摘されていない箇所である。
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深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
「メモ A」の内容について
『運営の手びき』目次案について
「メモ A」の最初では 4 パターンの目次案が掲載されてい
るが、実際の順番通りに並んでいるかは確かではない。
最初のページに近い方を便宜上、パターン 1 として、4
パターンを比較した。
まずパターン 4 は鉛筆書きで「32.11.26 最終委(全
体)提出」とあり、実際の『運営の手びき』の目次構
成に一番近く、その後、パターン 3、2、1 の順で実際
の『運営の手びき』と目次の構成が異なっている。
おそらくパターンの番号(ページの順番)通りに構成
案の策定が進んでいったのだと思われる。
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深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
「メモ A」の内容について
『運営の手びき』目次案の変遷について
パターン 1 の段階で、別々の章であった「読書指導と
その基本問題」と、
「学校図書館の利用指導」が一つに
まとめられた痕跡がみられる。
パターン 1 からパターン 2 までの間に、対外活動、統
計・調査、諸規定などの項目が追加されている。
パターン 1 では「視聴覚資料」となっていた章が「図
書以外の資料」という項目になっている。
パターン 3 ではそれ以前やそれ以後のパターンと比べ
て、項目の変化はあまり見られないが、章の番号に訂
正の書き込みが多く見られる。
Fukuji IMAI 白百合女子大学基礎教育センター
深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
「メモ A」の内容について
図 7: 『運営の手びき』編集の趣旨について
Fukuji IMAI 白百合女子大学基礎教育センター
深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
「メモ A」の内容について
『運営の手びき』編集の趣旨について
編集の趣旨について書かれたメモでは 9 項目の箇条書
きが行われている。
例えば、問題解決につながる具体例を挙げつつ、最近
の動向も盛り込んだが、参考書なども見て次の研究を
してほしいといった内容が書かれている。
Fukuji IMAI 白百合女子大学基礎教育センター
深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
「メモ A」の内容について
図 8: 『運営の手びき』編集方針について
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深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
「メモ A」の内容について
『運営の手びき』の編集方針について
編集方針が書かれたページでは、“minimum essential
は何か”、“専門人に読ませるのか、一般教諭に読ませる
のか” といった項目が走り書きされている。
Fukuji IMAI 白百合女子大学基礎教育センター
深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
「メモ A」の内容について
「メモA」の評価について
実際の『運営の手びき』や関係者の回顧を踏まえると、
「メモ A」の内容も実際の内容と一致する内容が多い。
他の史料を組み合わせて目次案の時期の特定ができれ
ば、
『運営の手びき』が何を重視しようとしていたか
が、さらに明確になる可能性があるだろう。
Fukuji IMAI 白百合女子大学基礎教育センター
深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
1 はじめに
2 「深川文書」
「深川ノート」について
「深川文章」について
「深川ノート」について
3 「深川ノート」の検討結果
「メモ B」の内容について
「メモ A」の内容について
4 おわりに
Fukuji IMAI 白百合女子大学基礎教育センター
深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
本研究で得られた知見について
以上、
「深川ノート」には、
『運営の手びき』の策定の
初期段階と完成間近の段階でのメモが、
「1953 年版基
準」については議論の初期のメモが掲載されていた。
メモの内容は実際の『運営の手びき』や「1953 年版基
準」の内容と一致する内容が多かったものの、一部の
記録では一致しない内容が含まれており、作成過程で
の議論が伺える記録が残されていることが分かった。
Fukuji IMAI 白百合女子大学基礎教育センター
深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
今後の展望について
本発表では、
『運営の手びき』や「1953 年版基準」に
ついて業界誌で表明された反応などとの対応について
検討ができなかった。
「深川ノート」の内容についても他の史料と照らし合
わせる必要がある。
今後はこれらの検討を深めることで、論文化すること
を目指したいと考えている。
Fukuji IMAI 白百合女子大学基礎教育センター
深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討
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はじめに 「深川文書」
「深川ノート」について 「深川ノート」の検討結果 おわりに 謝辞
謝辞
本発表においては、安藤友張先生、根本彰先生、高鷲
忠美先生から多大なるサポートを受けました。
八洲学園大学の野口久美子先生ならびに八洲学園大学
の皆さまには、深川文書閲覧ならびに寄贈のために多
大なるご協力を頂きました。
本発表は白百合女子大学教員特別研修制度の支援を受
けています。
Fukuji IMAI 白百合女子大学基礎教育センター
深川恒喜文書を用いた『学校図書館運営の手びき』ならびに 1953 年「学校図書館基準」の作成過程の検討

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