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災害精神保健医療マニュアルの開発について
- 2. 内容
災害精神保健マニュアルの作成について
方法
合意率の低かった項目についての考え方
災害精神保健システム
初期対応
外部支援のあり方
支援者ストレス対応
2
- 3. 災害精神保健医療マニュアル(平成22年3月版)
国際的にも様々な災害対応のガイドライ
ンがあるが、そのままでは我が国での使
用になじまないものが多い
わが国では自然災害対応経験の蓄積が
ある。
阪神大震災、新潟中越地震、中越沖地震
の支援者の経験を系統的に集積
フォーカスグループ、デルフィ法
わが国の経験を反映させたマニュアルを
開発http://www.ncnp.go.jp/pdf/mental_info_manual.pdf
これまでの経験を集積、発信することで
国際的にも貢献できる。
3
- 4. 災害時精神保健ガイドライン改訂における
Delphi法の使用
既存のガイドライン
「災害時地域精神保健医療活動ガイドライン」 平成13年度厚生
科学研究費補助金(厚生科学特別研究事業) 主任研究者:
金吉晴.
http://www.ncnp-k.go.jp/katudou/h12_bu/guideline.pdf
少数の専門家によって作成、
その後の経験を反映する必要性
災害時の適切な支援法
実験的な研究は実施困難(倫理的、実施、方法論的)
経験知の活用
一般的な専門的知識だけではなく、日本における豊富な災害
経験に基づく対応法を提示
4
- 5. 質問項目の選定
先行文献のレビュー
日本の自然災害後の精神保健支援経験者からのフォー
カスグループ
質問の4領域(94項目)
災害時の精神保健福祉体制
災害時こころのケアのあり方
外部支援のあり方
支援者のストレス対応
欧州のTENTSガイドラインとの比較も考慮し、TENTSガ
イドラインに含まれる項目を日本語訳した項目も含めた。
5
- 6. 調査対象者および依頼方法
災害時に活動経験のある支援者から広く意見を求める
ため、災害時に活動経験のある支援者を紹介してもらい、
調査への参加を依頼した(Snow-ball technique)。
被災地の行政職員、精神保健専門家
トラウマティックストレス学会会員
学校での危機介入に関わっている臨床心理士
被災地へ派遣された精神保健専門家
計100名
6
- 8. 改訂災害精神保健ガイドライン
I. 災害時の精神保健福祉体制
1. 災害精神保健計画の立案
2. 初動時のこころのケア対策本部の設置
3. 保健師の役割
4. 保健師活動の課題
5. 活動支援記録
6. メディアへの対応
II. 災害時こころのケアのあり方
III. 外部支援のあり方
IV. 支援者のストレス対応
8
- 9. 意見の分かれた項目:
初動時のこころのケア対策本部の設置
表2. 合意が得られなかった項目の7点以上と答えたものの割合と平均点の推移
第1ラウンド 第2ラウンド 第3ラウンド
7点 7点 7点以
以上 平 以上 平 上の 平均
の割 均 の割 均 割合 点
合 点 合 点 (%)
(%) (%)
初動時のこころのケア対策本部の設置
こころのケアサービスを計画するために、情報が不足して
いてもできるだけ早く、精神保健関係者が被災現場に出向
45.3 6.0 62.8 6.6 68.5 6.5
いてメンタルヘルスニーズ等を把握する必要がある。
こころのケアサービスを計画するために、被害状況の情報
を得てから、精神保健関係者は被災現場に出向くほうがよ 59.5 6.1 70.2 6.4 64.1 6.3
い。
9
- 10. 初動時のこころのケア対策本部の設置
こころのケアサービスを計画するために、「情報が不足
していてもできるだけ早く現地に入るべきか、情報を収
集してから現地に入るべきか」については意見が分かれ
た。
被災現場に入るタイミングが早すぎるとニーズの把握
は難しいという懸念を示す意見はあったが、災害対応に
関する見識と経験のある先遣隊が現地に出向きニーズ
調査をする必要性は支持された。
10
- 11. 「チームを派遣する前の偵察隊といった位置づけの早期派
遣は極めて重要です。」
「メンタルヘルスニーズの把握に限定することなく、精神保
健関係者が直接、被災地に出向いて状況を確認すること
は、外部支援等について検討する際の重要な判断材料に
なります。」
11
- 12. 「都道府県の精神保健担当課、地域の保健所、市町保
健部門と調整をしたうえで、被災現場に入り、現場に混
乱をもたらさない配慮が必要です。また、ニーズ把握や
分析を誰(どの機関)がするか等、平時から役割を決め
ておくことが大切です。」
「こころのケアサービスの計画は早期に状況を確認し、
確認後、計画を立案しておくことが必要と考えます。災害
本部の中にきちんとメンタルケアを位置づけることも必
要と考えます。」
12
- 13. 意見の分かれた項目:保健師の役割分担
表2. 合意が得られなかった項目の7点以上と答えたものの割合と平均点の推移
第2ラウン
第1ラウンド ド 第3ラウンド
7点
7点以
上の 平
7点以 以上 平
平均
上の割 割合 均 の割 均
合(%) 点
(%) 点 合 点
(%)
保健師の役割分担
被災地の保健師は現状の総合的判断や、指示、他機関との
連携のために、被災現場で住民に直接支援を行うより、役所
あるいは医療本部等にて、情報収集、電話対応、指示を出す 33.7 5.5 36.2 5.7 25.8 5.5
ことが望ましい。
外部から派遣された保健師は、被災現場に積極的に出向き
(アウトリーチして)、地域の情報収集、住民の安否確認、被災
65.3 6.6 71.3 6.6 71.9 6.6
者の支援を行い、その情報を被災地の保健師に伝達する。
被災地の保健師も、直接現場で積極的に支援を行えるように、
外部から派遣された保健師が、役所あるいは医療本部での 19.2 4.6 8.8 4.5
情報収集、電話対応を行うようにする。
13
- 14. 保健師の役割分担
「現地保健師は総合的判断など本部機能を担当し、外
部から派遣された保健師は被災現場にアウトリーチする
」という役割分担には合意は得られなかった。
被災状況と現地保健師の配置、経験を勘案して、外部
から派遣された保健師は、地元保健師とペアで活動する
とよいという意見が多かった。ペアで活動することで、現
地保健師の災害対応への不安、不全感の軽減、派遣さ
れた保健師の現地状況の把握や支援上の関係づくりと
いった点で、双方にとって良い効果があると思われる。
14
- 16. メディアへの対応
報道について、県に窓口を設定し、こころのケアに関す
る情報の発信を一元化する。
被災状況・安全に関する情報
心理教育やストレス対応法 イメージが先行する報道、
そしてモデル的取り組みなど プライバシーの侵害、
マスコミ対応への負担、
16
- 17. メディアとの協働:代表的なコメント
メディアをうまく活用することも、考えていく必要があると思います。
「こうしたことを伝えてください」とこちらから積極的に伝えることで
(リソースを提供することで)、過剰な取材は減るのではないでしょ
うか。
直接支援者は、個人情報の管理上、メディアとの緊密な協働は困
難であり、行政担当者が窓口として適任であるという意見に賛成で
あり、実際にそういう風に対応しよい結果を得た。
対策本部でメディア担当者を定め、現場対応者も報道対応につい
て事前に打合せをしたうえで、一緒に対応するという意見に賛成で
す。
支援者が単独で取材に対応すると、個人の責任になるので、支援
者や被害者を守るためにも、対策本部などでの情報の一本化が必
要である。
17
- 18. 改訂ガイドラインの紹介
I. 災害時の精神保健福祉体制
II. 災害時こころのケアのあり方
7. 基本的心構え
8. 初期対応における精神保健専門家の役割
9. 初期対応
10. スクリーニングについて
11. 災害時要支援者への対応
12. 情報提供
13. これらの研修体制について
III. 外部支援のあり方
IV. 支援者のストレス対応
18
- 20. 「初期対応では、被災者本人や地域の自己効力感を高める
ようにするとよい。」
一つは、このような方針はまず安全や安心が優先される
初期においては適切ではなく、中長期になって検討する
べきものであるという意見である。
もう一つは、初期からも中長期に向けてこのような視点
を持つことは必要であるという意見である。
しかし、この場合も、具体的な対応というより被災者や被
災地の持つ力に十分配慮するというような意識を支援者
が持つことでよいのではないかという見解であった。
20
- 21. 具体的に実施する場合では、被災者や被災地域の自助や共
助の力や主体性や自立性を尊重する形で支援を行うことが
あげられた。
具体例:被災地域全般をエリアとする地域FM放送を活用し
た地域情報の発信など
また、被災の程度、被災地域のメンタルヘルスの資源(医
療、福祉、保健、教育など)、被災地域のメンタルヘルスにつ
いての捉え方などによって一概に言えない面もある。
21
- 22. 「初期対応では、被災地域のつながりを促進するとよい。」
適切であるとする意見としては、被災地では、自然発生
的に地域や被災者同士の地域のつながりが強まること
が多く、支援者はそれを現状に合わせて、支持していく
のがよいとするものであった。
一方で、このような自発的なつながりは、時間の経過とと
もになくなりやすく、阪神淡路大震災ではふれあいセンタ
ーなどが形骸化してしまったという意見もあった。
どちらとも言えないとする意見では、やはり、被災状況や
被災地域の実情によって考慮する必要があるというもの
が多かった。例えば、地域の人が関わったような人為災
害では、困難であるということがある。
22
- 23. 意見の分かれた項目:
初期対応における精神保健専門家の役割
表3. 第3ラウンド調査で除外した8項目
第1ラウンド 第2ラウンド
7点以上 7点以上
平均 平均
の割合 の割合
点 点
(%) (%)
初期対応における精神保健専門家の役割
初期対応は、精神保健専門家以外(急性期医療対
12.6 4.6 20.2 5.2
応者など)が行うべきである。
初期では精神保健専門家は積極的な対応をするべ
3.2 3.9 19.2 5.1
きではない。
初期には精神保健専門家は、助言やスーパーバイ
11.6 4.2 9.6 4.3
ザーとして対応し、初期対応で直接関与はしない。
23
- 24. 8. 初期対応における精神保健専門家の役割
特に精神保健専門家として関わりが求められる場合
精神科医療機関が壊滅している場合(治療中断者など)
自殺のリスクのある場合
緊急な精神医療の必要性(急性ストレス反応、アルコー
ル離脱、精神運動興奮など)
遺族への対応
一般の被災者に対しては、専門性を全面に出す必要はな
いという意見もあった。
「被災地域での精神科の救急医療体制が機能していれば(専門
性を前面に出すことは)必要ない」 「被災者は、「地震で心傷つ
いた弱い人間と思われたくない」という気持ちが強い」
24
- 25. 意見の分かれた項目:初期対応
表2. 合意が得られなかった項目の7点以上と答えたものの割合と平均点の推移
第1ラウンド 第2ラウンド 第3ラウンド
7点以上 7点以上 7点以
平均 平均 平均
の割合 点 の割合 点 上の割 点
(%) (%) 合(%)
初期対応
被災者に話しかける場合には、「具合はどうですか?」、
「何か心配ごとはありませんか?」など開かれた質問か 66.3 6.4 60.6 6.3 65.2 6.4
ら入っていく。
不安や恐怖に圧倒されて混乱していたり、茫然として
いる被災者には、落ち着いて感情を表出できるように
手助けする。具体的には自分の状態を把握できたり、
どのような気持ちを感じているのかを尋ねることなどで 57.9 6.3 60.6 6.4 39.3 5.6
ある。(例:「どうしていいかわからないような状態でしょ
うか?」「どんな気持ちを感じていますか?」など)
被災者に起こることが予想される心理反応について説
明する。 68.4 6.7 79.8 6.8 84.3 6.8
激しいストレス反応を呈している被災者には、積極的に
アプローチすべきである。 56.8 6.4 73.4 6.8 76.4 6.7
被災者は体験を詳細に語るよう勧められるべきでも、
25
妨げられるべきでもない。 70.5 6.8 72.3 6.5
- 26. 初期対応
被災者に話しかける場合には、「具合はどうですか」など
開かれた質問から入いっていくほうがよい。
状況によって「開かれた質問」と「閉じられた質問」を使い
分けたほうがよい。
問いかけの前に自己紹介をし、自分の所属やかかわる
理由を明らかにし、被災者をいたわる言葉をかけること
が重要である。
話しかける目的(理由)を伝える。
あなたと一緒にこの状況を乗り越えたいという思いを伝える。
被災地には、いろんな人(支援者)が入っているので、同じよ
うなことばかり聞かれるというストレスも与えている可能性に
配慮する。
26
- 27. ケースバイケースにより開かれた質問と閉じた質
問の使い分けが望ましい。
「開かれた質問から入るほうが良い」
被災者は、「援助者に侵入された」という思いを抱きやすい
ので、まずはオープンクエスチョンから入るべき。
「具体的な質問のほうがよい」
私は保健師なので、「眠れますか」「食べられますか」「痛む
ところはないですか」等と声をかけると思います。
被災者はパニックになっており自分の状態を把握できてい
ないことが多いので具体的に聞くほうがよい。
27
- 28. 初期対応
不安や恐怖に圧倒されていたり、呆然としている被災者
には、言語化させるより、側に寄り添うなど共感的に安
心感を与える接し方をすることが望ましい。
具体的な接し方の例
目先を下げ、優しい言葉、方言も必要。
「今ここ」は安全であることを丁寧に伝える。そのうえで、側に寄
り添う。
体を動かすこと漸進性弛緩法・動作法など段階的に体を動かす
ことが効果があるケースもある。
人により、又時間により違ってくると思います。まず安全・安心・
安寧できるよう接することだと思っております
言語的、非言語的どちらの接近も重要である。
精神科救急対応患者のレベルであれば薬物療法など積
極的・強制的な介入も必要になる。
28
- 29. 初期対応
ストレス反応を呈している被災者やその家族には、被災
者に見られる一般的な心理反応について説明すること
がすすめられる。
個々の対応ではなく、集団でおこなったりパンフレットの配布
が望ましい。
心理教育のもつ、反応や症状を刷り込んでしまう可能性に
ついて、慎重である必要があると思います。(とくに不安定
な時期には、平常時よりも、そうした刷り込みが起こりやす
い)
個人をピンポイントしてスティグマを残さないように、心理教
育はなるべく集団で行うのが望ましい。
29
- 30. 実施にあたっての留意点
その被災者の状態を十分に把握したうえで行うべき。
一般的な心理教育と共に気になるケースは、後日に訪
問、面接等で確認が必要かと思います。
説明を聞いたが覚えていないという事態が考え得るので、
やはりパンフレットやファクトシートのような、後で自分で
確認できる視覚的なツールもあった方が良い。
「異常な事態に対する正常な反応である」の文章は大切
だと思います。
30
- 31. 被災者へのアプローチ(1)
「症状の有無を問わず、精神保健専門家は、(相手の
求めがなくても)できるだけ被災者に接するようにするの
が望ましい」という方針には合意は得られなかった。
精神保健の専門家は、保健師などが必要と判断した被
災者に接するほうがよいという意見が挙げられた。
一方で、被災者で精神的影響が大きい人は、むしろ自分
から助けを求めない傾向もあるので、こちらからできるだ
け接することができるような機会をつくることは重要とす
る意見もあり、精神保健専門家に限る必要はないが、被
災者に早期に接触する人が精神的介入の必要性を判
断し、精神保健専門家と連携できる体制が必要である。
31
- 32. 被災者へのアプローチ(2)
「激しいストレス反応を呈している被災者には積極的に
アプローチするのが望ましい」という方針にも十分な合意
は得られなかった。
これは、「積極的」という言葉が不明確であった点に問題
があったと考えられる。例えば、医療が必要な場合では
積極的に介入する必要があるであろう。しかし、積極的
という言葉が必ずしも緊急性のない場合には、むしろ侵
襲的であるという印象を与えたかもしれない。
ここでは、精神的支援や介入が必要な被災者がいる場
合には、相手の求めがなくても、訪問や声掛けなどの積
極的な関わりを行うような方法が考えられる。
32
- 33. 意見の分かれた項目:スクリーニング
表2. 合意が得られなかった項目の7点以上と答えたものの割合と平均点の推移
第3ラウン
第1ラウンド 第2ラウンド ド
7点以 7点以 7点以
平 平
上の 平均 上の 上の
点 均 均
割合 割合 点 割合 点
(%) (%) (%)
スクリーニングについて
支援者は、質問紙や面接を用いて、被災者の精神健康状態を
スクリーニングするべきである。 41.1 5.7 35.1 5.8 19.1 5.2
調査票や面接によるスクリーニングは必要ないが、問題を抱え
ている人を特定することを、支援者は意識すべきである。 42.1 5.9 51.1 6.1 57.2 6.3
問題を抱えている人には何らかの介入を行うまえに、身体、心
理、社会的ニーズを検討するための正式なアセスメントを、支 37.9 5.8 30.9 5.7 36.5 5.6
援者は実施すべきである。
33
- 34. スクリーニングや臨床評価について
+スクリーニング
支援を自ら求めない人も含めて系統的にアセスメントを
することで、トリアージやケースの発見につながる。
外部からの支援者との継続性のある支援をするために
は、調査票の活用は有用である。
+臨床的判断
調査票の使用は災害の現場では馴染まなく、調査準備
や実施には配慮が必要である。
日常的に地域の保健活動を通じて、地域住民の把握を
していれば、特に調査票は使用しなくてもよい。
34
- 35. スクリーニングは、時期や状況、目的によって実施に係
る判断は異なる。タイミングとしては、初期は控え、健康
調査の一環として、要医療・支援者へのフォローアップ
体制等を整えたうえで実施することが望ましい。
ハイリスク者を同定するために、標準化された質問票や
スクリーニングは必要であるとする意見は多かった。支
援者によって、判断、対応が変わりうるのは適切ではな
いので、ある程度客観的な指標を用いてコミュニケーショ
ンの円滑化に役立てる用途も指摘された。
35
- 36. 代表的なコメント
調査実施する前に、支援者や実施者との信頼関係を築
き、被災者の希望等を考慮する。
質問紙よりも面接のほうがよいという現場の意見が多い。
目的を吟味し、調査が重複して被災者に負担をかけるこ
とはさけるべきである。
フォローアップや支援体制を整えてから実施すべきであ
る。
36
- 37. 10. スクリーニングについて
精神健康の問題が継続している人について、精神保健
専門家は専門的なアセスメントを実施すべきである。
+ 災害以前から持続している精神健康上の問題を抱えている
人には、災害時だけではなく、継続して支援していく必要があ
る。
+ 災害時のハイリスク者等の危険がある人には、アセスメント
をすべきである。
! 「精神健康の問題が継続している人」はストレス反応が持続
している状態なのか、災害以前から続いている精神疾患や
問題なのかで判断が異なる。
37
- 39. 災害時要支援者への精神保健的対応
高齢者や子どもといった特定の集団に対しては、専門
的計画が別個に必要であるという方針については、合意
は得られなかった。
それぞれの特定の集団に対して専門計画はあったほう
がよいが、災害対応としては、全体の中での位置づけや
共同の取り組みが必要であり、できるだけ共通的な対応
が多いほうがよい。
また、専門的計画よりも、日常生活の再開をすすめるほ
うが治療的な場合もあり、その上で必要なケースへの個
別対応を考えることが望ましい。
39
- 41. 心理教育の対象
初期の心理的反応についての情報は、ニーズを見極めて
選択的に行うよりも、全員を対象にしたほうがよい。
これは、集団へのアプローチとして、外からみてこころのケア
に関心があるかどうかは分からないし、スティグマ化しないた
めにも、メディア等を利用して一定の集団全員を対象に情報
提供をしたほうがよい。しかし、全ての人に一律に情報提供
する際には、押し付けにならないような配慮が求められる。
また、メンタルヘルスのニーズは本人が気づいていなかっ
たり、抵抗が強いこともあるので、本人の関心の程度を、情
報提供の基準とするには難しいことがあり、「あなたの大切な
人やご家族のために」、として情報提供を行うのも一つの方
法である。
41
- 42. 悪い知らせの伝え方
「動揺させるといけないので、強いストレスを感じている人に
は悪い知らせ(突然の親族の死亡など)は差し控えるのがよ
い。」といった方針に合意は得られなかった。悪い知らせを伝
えないことでの悪影響、伝えたことでの悪影響を紹介する意
見がそれぞれあった。
「実際的には困難。また、差し控えることで生じる不都合もあ
ると考えられる。」
「配慮し、後で知らされることでひどく傷つく人もいると思う。」
しかし、災害や事件の性質、サポート体制(公的、私的なもの
も含めて)等を勘案して、ケースバイケースの対応が求めら
れる。また、伝えることの是非よりも、伝え方やその後のフォ
ロー体制の整備が必要であろう。
42
- 43. 意見の分かれた項目:ボランティアのあり方
第1ラウンド 第2ラウンド
7点以上 7点以上
平均 平均
の割合 の割合
点 点
(%) (%)
これらの研修体制について
災害ボランティアは、事前に募集され、適性についてスクリーニン
34.7 5.8 26.6 5.5
グされるべきである。
43
- 44. 災害ボランティアを事前に募集し、適性をスクリーニング
するとよい、という方針の適否を尋ねたが、合意は得ら
れなかった。
実際に、ボランティアの適性の判断はできないし、また一
連の対応は災害時に実行することは困難だからである。
また、熱意や自発的意思でボランティアに来る人が多い
ので、適性をみて排除するよりも、活動開始前のオリエ
ンテーション等で心理的な反応や配慮に関する情報提
供の機会を設けるほうが建設的であろう。
44
- 45. 改訂災害精神保健ガイドライン
I. 災害時の精神保健福祉体制
II. 災害時こころのケアのあり方
III.外部支援のあり方
1. 外部支援受け入れの判断
2. 活動導入の仕方
3. 外部支援こころのケアチームの活動
4. 派遣期間
5. 専門職ボランティア
IV. 支援者のストレス対応
45
- 46. 意見の分かれた項目:外部支援のあり方
第1ラウンド 第2ラウンド 第3ラウンド
7点以 7点以 7点以
上の 平均 上の 平均 上の 平均
割合 点 割合 点 割合 点
(%) (%) (%)
外部派遣の調整の仕組みは、国、県などの被災地以外
で構築することが望ましい。 48.4 5.9 57.5 6.2 53.9 6.0
外部支援者は地元の精神保健担当者からの指示と協
力のもと、避難所や被災者宅を巡回し、必要な被災者に
53.7 6.3 70.2 6.6 70.8 6.6
対応していくアウトリーチを積極的に行っていくとよい。
医療、看護、福祉、臨床心理などの専門職ボランティア
が個人で被災地に支援に行く際には、医療、心理療法
40.0 5.9 43.6 5.9 61.8 6.4
等の支援を行うべきではない。
46
- 47. 外部派遣調整の仕組みの主体(1)
被災地外におくとよいという意見では、被災地内におくと
被災地の負担が増えるからという理由が主である。ただし
被災地外に調整機関を置く場合でも、現地の責任者の判
断を国や県の判断より優先することや、被災地の意見が
十分に反映されることは必須である。
調整の仕組みを被災地内におくとよいという意見としては
、連携が取れていないとかえって混乱する、現状に則した
調整は現場でする必要がある、という理由が挙げられる。
47
- 48. 外部派遣調整の仕組みの主体(2)
「受け入れ側の被災状態や人員状態にもよるが、被災地では情報
が氾濫し整理しきれないことがある。国・県の担当者が現地で被災
地の担当者の意見を反映させながら調整するのが望ましい。」
「被災地の状況により、単純に被災地の内外と分けることはできな
い。どのような状況でも対応できるよう、被災地内・被災地外ともに
仕組みが構築され、災害時にどちらが主導するかを決めることが
できれば理想的である。」
「外部派遣の仕組みは、被災地と県が十分な連携をとり、被災地
の規模や状況にあわせて構築することが望ましい。また、県が各
市町村と今後の災害時派遣に関して事前調整を行い具体的な手
順等を明らかにしておくことが望ましい。」
48
- 49. 外部支援者の活動のあり方(1)
被災地における支援として、特に高齢者の多い被災地
や、山間僻地などにおいてアウトリーチは非常に有効で
あり、外部支援者の請け負うことのできる支援であると
いう意見がある。
一方で、外部支援者はいずれ撤収する存在であるため
、あくまで黒子に徹し、被災者への直接支援は可能な限
り現地の支援者にまかせる方が望ましいとする意見が
ある。
49
- 50. 外部支援者の活動のあり方(2)
「こころのケアに関しては、アウトリーチが基本である。地元の支援
者でなければできないことが多くあり、地元の支援者がアウトリー
チをしていると、過労となってしまう。地元の支援者は長期的な活
動が求められるので、地元と外部の支援者の役割分担を活動開
始時から意識することが必要である。」
「外部支援の要否は災害の規模により異なりますが、アウトリーチ
による被災者のケアは、外部支援者が即戦力として貢献できると
思います。大規模な災害の場合、外部からの支援が入っているこ
とが、被災者の安心感につながることもあると思われます。地元の
精神保健担当者の代替的役割であることを十分意識してアウトリ
ーチを行なうと良いのではないかと思います。」
50
- 51. 外部支援者の活動のあり方(3)
「基本的に、被災地域の要請に依ると思う。中越地震の際に
は地元保健師の指示のもとにアウトリーチを行った。その方法
は優れていたと思うが、保健師の負担はあったと思う。地域に
よるが、外部支援者が単独でアウトリーチを行うのは非常に困
難な場合もある。地元の状況や要請に従うべきである。」
「地元の担当者の主体性を尊重することは否定しないが、災
害対応の経験者からの示唆という形での支援も含めた外部支
援が必要である。地元の担当者からの指示を待ってしか動け
ない外部支援者では、地元の負担になるのみである。」
51
- 52. 専門職ボランティアのあり方(1)
専門職ボランティアが個人で専門的支援を行うことに対
する反対意見としては、専門職という責任ある立場上、
その信頼性や何か問題がおきたときの対応法を確保す
るため、単独の行動は許されず、専門的支援を行う際に
は組織に参加することが必須となるといったものである。
必ずしも反対とはいえないという意見としては、状況やそ
の個人の力量によるといった意見が多い。
52
- 53. 専門職ボランティアのあり方(2)
「甚大な災害の場合、膨大な数の専門職ボランティアが被
災地に入り、全部を把握しきれない。また、そのコーディネ
ートまで現地で行うことは困難である。」
「専門職という社会的に責任ある立場の者が、個人的に支
援に行く、という形は認められるのだろうか。専門家、という
肩書きの元で、勝手な動きをして現場に混乱を与え、撤退
し、地域に後始末は残される、ということになりかねないの
ではないか。また、正しい情報を入手する方法もなく、安心・
安全の提供が出来るとは思えない。」
53
- 54. 専門職ボランティアのあり方(3)
「支援に入った専門職ボランティアをコントロールすることは極めて
困難である。」
「個人での活動は、入手した情報が本部に入らなくなり、支援の統
括、展開が困難になる。」
「当県では、災害早期から活動するDMATや赤十字とともに行動す
るということで、移動や医療処置の問題をクリアーにしてきている。
全国的にも同様の取り決めがあるとよい。」
「専門職ボランティアが個人で被災地に入って専門的支援を行った
時、その行為や人物の信頼性の担保、何かあった時の責任の所
在、全体の支援の流れを無視した形での支援に果たして妥当性は
あるのか、難しい問題だと感じます。」
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- 55. 改訂災害精神保健ガイドライン
I. 災害時の精神保健福祉体制
II. 災害時こころのケアのあり方
III. 外部支援のあり方
IV. 支援者のストレス対応
1. 被災地で被災者支援にあたる組織の構築
2. 職員の休養・休息
3. 被災時に派遣された職員への支援
4. 支援者のセルフヘルプ
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- 56. 支援者のセルフヘルプに関して、意見の分かれた項目
はなかった。
しかし、一般的な方針が多い。
支援者への精神保健上の課題であるが、労務管理、産
業保健の一貫で、対応する必要がある。
地方自治体における労務管理の課題
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- 57. マニュアルの使い方
マニュアル内の合意事項は、一般的な見解が多い。
事前に考え方を理解することで、最低限のケアスタンダー
ドに基づいた支援が期待できる(特に初期対応)。
しかし、災害は想定外、応用問題の連続である。
→過去の経験、知見(是非の両面)を参考に、自分で判断
する必要がある。マニュアルはその参照点になりうる。
東日本大震災の経験を反映し、知見を蓄積する必要があ
る。
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- 58. 参考資料
災害時地域精神保健医療活動ガイドライン. 平成13度厚生労働科学研究
費補助金(厚生科学特別研究事業)主任研究者:金吉晴.
http://www.ncnp-k.go.jp/katudou/h12_bu/guideline.pdf
自然災害発生時における 医療支援活動マニュアル.平成16年度厚生労働
科学研究費補助金特別研究事業.
http://www.imcj.go.jp/shizen/index.html
心的トラウマの理解とケア.外傷ストレス関連障害に関連する研究会 金吉
晴 編集. http://www.jstss.org/info/pdf/info01_15.pdf
IASC Guidelines on Mental Health and Psychosocial Support in
Emergency Settings. IASC, 2007.
http://www.who.int/mental_health/emergencies/guidelines_ia
sc_mental_health_psychosocial_june_2007.pdf
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