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災害精神保健医療マニュアルの開発
            について
                   鈴木 友理子
独)国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所
      成人精神保健研究部 災害等支援研究室長
内容

       災害精神保健マニュアルの作成について
           方法
           合意率の低かった項目についての考え方
               災害精神保健システム
               初期対応
               外部支援のあり方
               支援者ストレス対応




    2
災害精神保健医療マニュアル(平成22年3月版)
   国際的にも様々な災害対応のガイドライ
    ンがあるが、そのままでは我が国での使
    用になじまないものが多い


   わが国では自然災害対応経験の蓄積が
    ある。
   阪神大震災、新潟中越地震、中越沖地震
    の支援者の経験を系統的に集積
   フォーカスグループ、デルフィ法

   わが国の経験を反映させたマニュアルを
    開発http://www.ncnp.go.jp/pdf/mental_info_manual.pdf

   これまでの経験を集積、発信することで
    国際的にも貢献できる。
    3
災害時精神保健ガイドライン改訂における
Delphi法の使用
   既存のガイドライン
    「災害時地域精神保健医療活動ガイドライン」 平成13年度厚生
    科学研究費補助金(厚生科学特別研究事業) 主任研究者:
    金吉晴.
        http://www.ncnp-k.go.jp/katudou/h12_bu/guideline.pdf
    少数の専門家によって作成、
    その後の経験を反映する必要性

       災害時の適切な支援法
        実験的な研究は実施困難(倫理的、実施、方法論的)

       経験知の活用
        一般的な専門的知識だけではなく、日本における豊富な災害
        経験に基づく対応法を提示
    4
質問項目の選定
       先行文献のレビュー
       日本の自然災害後の精神保健支援経験者からのフォー
        カスグループ

       質問の4領域(94項目)
           災害時の精神保健福祉体制
           災害時こころのケアのあり方
           外部支援のあり方
           支援者のストレス対応

       欧州のTENTSガイドラインとの比較も考慮し、TENTSガ
        イドラインに含まれる項目を日本語訳した項目も含めた。
    5
調査対象者および依頼方法
    災害時に活動経験のある支援者から広く意見を求める
    ため、災害時に活動経験のある支援者を紹介してもらい、
    調査への参加を依頼した(Snow-ball technique)。
       被災地の行政職員、精神保健専門家
       トラウマティックストレス学会会員
       学校での危機介入に関わっている臨床心理士
       被災地へ派遣された精神保健専門家
   計100名




    6
インターネット調査画面(第2ラウンド)




7
改訂災害精神保健ガイドライン
       I.       災害時の精神保健福祉体制
                1.    災害精神保健計画の立案
                2.    初動時のこころのケア対策本部の設置
                3.    保健師の役割
                4.    保健師活動の課題
                5.    活動支援記録
                6.   メディアへの対応
       II. 災害時こころのケアのあり方
       III. 外部支援のあり方
       IV. 支援者のストレス対応

    8
意見の分かれた項目:
 初動時のこころのケア対策本部の設置
表2. 合意が得られなかった項目の7点以上と答えたものの割合と平均点の推移

                             第1ラウンド     第2ラウンド      第3ラウンド
                            7点          7点         7点以
                            以上    平     以上 平        上の 平均
                            の割    均     の割 均        割合  点
                             合    点      合 点        (%)
                            (%)         (%)
初動時のこころのケア対策本部の設置

こころのケアサービスを計画するために、情報が不足して
いてもできるだけ早く、精神保健関係者が被災現場に出向
                           45.3   6.0   62.8 6.6   68.5   6.5
いてメンタルヘルスニーズ等を把握する必要がある。

こころのケアサービスを計画するために、被害状況の情報
を得てから、精神保健関係者は被災現場に出向くほうがよ 59.5   6.1   70.2 6.4   64.1   6.3
い。




  9
初動時のこころのケア対策本部の設置
     こころのケアサービスを計画するために、「情報が不足
     していてもできるだけ早く現地に入るべきか、情報を収
     集してから現地に入るべきか」については意見が分かれ
     た。

     被災現場に入るタイミングが早すぎるとニーズの把握
     は難しいという懸念を示す意見はあったが、災害対応に
     関する見識と経験のある先遣隊が現地に出向きニーズ
     調査をする必要性は支持された。



    10
    「チームを派遣する前の偵察隊といった位置づけの早期派
     遣は極めて重要です。」

    「メンタルヘルスニーズの把握に限定することなく、精神保
     健関係者が直接、被災地に出向いて状況を確認すること
     は、外部支援等について検討する際の重要な判断材料に
     なります。」




    11
    「都道府県の精神保健担当課、地域の保健所、市町保
     健部門と調整をしたうえで、被災現場に入り、現場に混
     乱をもたらさない配慮が必要です。また、ニーズ把握や
     分析を誰(どの機関)がするか等、平時から役割を決め
     ておくことが大切です。」

    「こころのケアサービスの計画は早期に状況を確認し、
     確認後、計画を立案しておくことが必要と考えます。災害
     本部の中にきちんとメンタルケアを位置づけることも必
     要と考えます。」


    12
意見の分かれた項目:保健師の役割分担
表2. 合意が得られなかった項目の7点以上と答えたものの割合と平均点の推移
                                             第2ラウン
                                第1ラウンド          ド         第3ラウンド
                                                          7点
                                             7点以
                                              上の 平
                                7点以                       以上 平
                                       平均
                                上の割           割合 均        の割 均
                                合(%)    点
                                              (%) 点        合  点
                                                          (%)
保健師の役割分担
被災地の保健師は現状の総合的判断や、指示、他機関との
連携のために、被災現場で住民に直接支援を行うより、役所
あるいは医療本部等にて、情報収集、電話対応、指示を出す     33.7   5.5   36.2   5.7   25.8   5.5
ことが望ましい。


外部から派遣された保健師は、被災現場に積極的に出向き
(アウトリーチして)、地域の情報収集、住民の安否確認、被災
                                65.3   6.6   71.3   6.6   71.9   6.6
者の支援を行い、その情報を被災地の保健師に伝達する。


被災地の保健師も、直接現場で積極的に支援を行えるように、
外部から派遣された保健師が、役所あるいは医療本部での   19.2      4.6   8.8    4.5
情報収集、電話対応を行うようにする。
  13
保健師の役割分担
     「現地保健師は総合的判断など本部機能を担当し、外
     部から派遣された保健師は被災現場にアウトリーチする
     」という役割分担には合意は得られなかった。

     被災状況と現地保健師の配置、経験を勘案して、外部
     から派遣された保健師は、地元保健師とペアで活動する
     とよいという意見が多かった。ペアで活動することで、現
     地保健師の災害対応への不安、不全感の軽減、派遣さ
     れた保健師の現地状況の把握や支援上の関係づくりと
     いった点で、双方にとって良い効果があると思われる。


    14
意見の分かれた項目:メディアとの協働


合意が得られなかった項目の7点以上と答えたものの割合と平均点の推移
                       第1ラウンド         第2ラウンド
                      7点以上の 平均      7点以上の
                       割合(%) 点       割合(%) 平均点
メディアとの協働
初期対応にあたる精神保健および地域保
健関係者は、メディアと緊密に協働すべき    29.1   5.3    23.1   5.3
である
初期対応にあたる精神保健および地域保
健関係者は、メディアとの接触は避けるべ    21.5   4.9    17.6   5.1
きである



 15
メディアへの対応
    報道について、県に窓口を設定し、こころのケアに関す
     る情報の発信を一元化する。



    被災状況・安全に関する情報
    心理教育やストレス対応法    イメージが先行する報道、
    そしてモデル的取り組みなど    プライバシーの侵害、
                     マスコミ対応への負担、




    16
メディアとの協働:代表的なコメント
    メディアをうまく活用することも、考えていく必要があると思います。
     「こうしたことを伝えてください」とこちらから積極的に伝えることで
     (リソースを提供することで)、過剰な取材は減るのではないでしょ
     うか。

    直接支援者は、個人情報の管理上、メディアとの緊密な協働は困
     難であり、行政担当者が窓口として適任であるという意見に賛成で
     あり、実際にそういう風に対応しよい結果を得た。

    対策本部でメディア担当者を定め、現場対応者も報道対応につい
     て事前に打合せをしたうえで、一緒に対応するという意見に賛成で
     す。


    支援者が単独で取材に対応すると、個人の責任になるので、支援
     者や被害者を守るためにも、対策本部などでの情報の一本化が必
     要である。
    17
改訂ガイドラインの紹介
    I.        災害時の精神保健福祉体制
    II.       災害時こころのケアのあり方
              7. 基本的心構え
              8. 初期対応における精神保健専門家の役割
              9. 初期対応
              10. スクリーニングについて
              11. 災害時要支援者への対応
              12. 情報提供
              13. これらの研修体制について
    III. 外部支援のあり方
    IV. 支援者のストレス対応

    18
意見の分かれた項目:基本的心構え
表2. 合意が得られなかった項目の7点以上と答えたものの割合と平均点の推移



                   第1ラウンド       第2ラウンド        第3ラウンド

                  7点以上          7点以上         7点以上
                   の割合    平均     の割合 平均       の割合    平均
                    (%)    点      (%) 点        (%)   点


基本的心構え


初期対応では、被災者本人や地域
の自己効力感を高めるようにすべ    55.8   6.5   57.5   6.6    48.9   6.1
きである。


初期対応では、被災地域のつなが    70.5   6.9   58.5   6.5    52.2   6.2
りを促進すべきである。

 19
「初期対応では、被災者本人や地域の自己効力感を高める
ようにするとよい。」


    一つは、このような方針はまず安全や安心が優先される
     初期においては適切ではなく、中長期になって検討する
     べきものであるという意見である。

    もう一つは、初期からも中長期に向けてこのような視点
     を持つことは必要であるという意見である。

    しかし、この場合も、具体的な対応というより被災者や被
     災地の持つ力に十分配慮するというような意識を支援者
     が持つことでよいのではないかという見解であった。

    20
    具体的に実施する場合では、被災者や被災地域の自助や共
     助の力や主体性や自立性を尊重する形で支援を行うことが
     あげられた。

    具体例:被災地域全般をエリアとする地域FM放送を活用し
     た地域情報の発信など

     また、被災の程度、被災地域のメンタルヘルスの資源(医
     療、福祉、保健、教育など)、被災地域のメンタルヘルスにつ
     いての捉え方などによって一概に言えない面もある。




    21
「初期対応では、被災地域のつながりを促進するとよい。」

   適切であるとする意見としては、被災地では、自然発生
    的に地域や被災者同士の地域のつながりが強まること
    が多く、支援者はそれを現状に合わせて、支持していく
    のがよいとするものであった。

   一方で、このような自発的なつながりは、時間の経過とと
    もになくなりやすく、阪神淡路大震災ではふれあいセンタ
    ーなどが形骸化してしまったという意見もあった。

    どちらとも言えないとする意見では、やはり、被災状況や
     被災地域の実情によって考慮する必要があるというもの
     が多かった。例えば、地域の人が関わったような人為災
     害では、困難であるということがある。
    22
意見の分かれた項目:
初期対応における精神保健専門家の役割
表3. 第3ラウンド調査で除外した8項目


                          第1ラウンド        第2ラウンド
                          7点以上          7点以上
                                平均            平均
                           の割合           の割合
                                 点             点
                            (%)           (%)

初期対応における精神保健専門家の役割

初期対応は、精神保健専門家以外(急性期医療対
                           12.6   4.6    20.2   5.2
応者など)が行うべきである。

初期では精神保健専門家は積極的な対応をするべ
                           3.2    3.9    19.2   5.1
きではない。

初期には精神保健専門家は、助言やスーパーバイ
                           11.6   4.2    9.6    4.3
ザーとして対応し、初期対応で直接関与はしない。
 23
8.   初期対応における精神保健専門家の役割

   特に精神保健専門家として関わりが求められる場合
     精神科医療機関が壊滅している場合(治療中断者など)
     自殺のリスクのある場合
     緊急な精神医療の必要性(急性ストレス反応、アルコー
      ル離脱、精神運動興奮など)
     遺族への対応


   一般の被災者に対しては、専門性を全面に出す必要はな
    いという意見もあった。
    「被災地域での精神科の救急医療体制が機能していれば(専門
    性を前面に出すことは)必要ない」 「被災者は、「地震で心傷つ
    いた弱い人間と思われたくない」という気持ちが強い」
    24
意見の分かれた項目:初期対応
表2. 合意が得られなかった項目の7点以上と答えたものの割合と平均点の推移
                              第1ラウンド       第2ラウンド       第3ラウンド

                              7点以上         7点以上         7点以
                                    平均           平均            平均
                               の割合  点       の割合  点      上の割    点
                                (%)          (%)        合(%)

初期対応
被災者に話しかける場合には、「具合はどうですか?」、
「何か心配ごとはありませんか?」など開かれた質問か     66.3   6.4   60.6   6.3   65.2   6.4
ら入っていく。
不安や恐怖に圧倒されて混乱していたり、茫然として
いる被災者には、落ち着いて感情を表出できるように
手助けする。具体的には自分の状態を把握できたり、
どのような気持ちを感じているのかを尋ねることなどで     57.9   6.3   60.6   6.4   39.3   5.6
ある。(例:「どうしていいかわからないような状態でしょ
うか?」「どんな気持ちを感じていますか?」など)
被災者に起こることが予想される心理反応について説
明する。                          68.4   6.7   79.8   6.8   84.3   6.8
激しいストレス反応を呈している被災者には、積極的に
アプローチすべきである。                  56.8   6.4   73.4   6.8   76.4   6.7
被災者は体験を詳細に語るよう勧められるべきでも、
   25
妨げられるべきでもない。                  70.5   6.8   72.3   6.5
初期対応
    被災者に話しかける場合には、「具合はどうですか」など
     開かれた質問から入いっていくほうがよい。

    状況によって「開かれた質問」と「閉じられた質問」を使い
     分けたほうがよい。

    問いかけの前に自己紹介をし、自分の所属やかかわる
     理由を明らかにし、被災者をいたわる言葉をかけること
     が重要である。
        話しかける目的(理由)を伝える。
        あなたと一緒にこの状況を乗り越えたいという思いを伝える。
        被災地には、いろんな人(支援者)が入っているので、同じよ
         うなことばかり聞かれるというストレスも与えている可能性に
         配慮する。
    26
ケースバイケースにより開かれた質問と閉じた質
問の使い分けが望ましい。
    「開かれた質問から入るほうが良い」
        被災者は、「援助者に侵入された」という思いを抱きやすい
         ので、まずはオープンクエスチョンから入るべき。

    「具体的な質問のほうがよい」
        私は保健師なので、「眠れますか」「食べられますか」「痛む
         ところはないですか」等と声をかけると思います。
        被災者はパニックになっており自分の状態を把握できてい
         ないことが多いので具体的に聞くほうがよい。




    27
初期対応
    不安や恐怖に圧倒されていたり、呆然としている被災者
     には、言語化させるより、側に寄り添うなど共感的に安
     心感を与える接し方をすることが望ましい。

    具体的な接し方の例
        目先を下げ、優しい言葉、方言も必要。
        「今ここ」は安全であることを丁寧に伝える。そのうえで、側に寄
         り添う。
        体を動かすこと漸進性弛緩法・動作法など段階的に体を動かす
         ことが効果があるケースもある。
        人により、又時間により違ってくると思います。まず安全・安心・
         安寧できるよう接することだと思っております
        言語的、非言語的どちらの接近も重要である。

    精神科救急対応患者のレベルであれば薬物療法など積
     極的・強制的な介入も必要になる。
    28
初期対応
    ストレス反応を呈している被災者やその家族には、被災
     者に見られる一般的な心理反応について説明すること
     がすすめられる。

    個々の対応ではなく、集団でおこなったりパンフレットの配布
     が望ましい。
      心理教育のもつ、反応や症状を刷り込んでしまう可能性に
       ついて、慎重である必要があると思います。(とくに不安定
       な時期には、平常時よりも、そうした刷り込みが起こりやす
       い)
      個人をピンポイントしてスティグマを残さないように、心理教
       育はなるべく集団で行うのが望ましい。
    29
実施にあたっての留意点
    その被災者の状態を十分に把握したうえで行うべき。

    一般的な心理教育と共に気になるケースは、後日に訪
     問、面接等で確認が必要かと思います。

    説明を聞いたが覚えていないという事態が考え得るので、
     やはりパンフレットやファクトシートのような、後で自分で
     確認できる視覚的なツールもあった方が良い。

    「異常な事態に対する正常な反応である」の文章は大切
     だと思います。
    30
被災者へのアプローチ(1)
    「症状の有無を問わず、精神保健専門家は、(相手の
    求めがなくても)できるだけ被災者に接するようにするの
    が望ましい」という方針には合意は得られなかった。

   精神保健の専門家は、保健師などが必要と判断した被
    災者に接するほうがよいという意見が挙げられた。

   一方で、被災者で精神的影響が大きい人は、むしろ自分
    から助けを求めない傾向もあるので、こちらからできるだ
    け接することができるような機会をつくることは重要とす
    る意見もあり、精神保健専門家に限る必要はないが、被
    災者に早期に接触する人が精神的介入の必要性を判
    断し、精神保健専門家と連携できる体制が必要である。
    31
被災者へのアプローチ(2)
   「激しいストレス反応を呈している被災者には積極的に
    アプローチするのが望ましい」という方針にも十分な合意
    は得られなかった。

   これは、「積極的」という言葉が不明確であった点に問題
    があったと考えられる。例えば、医療が必要な場合では
    積極的に介入する必要があるであろう。しかし、積極的
    という言葉が必ずしも緊急性のない場合には、むしろ侵
    襲的であるという印象を与えたかもしれない。

   ここでは、精神的支援や介入が必要な被災者がいる場
    合には、相手の求めがなくても、訪問や声掛けなどの積
    極的な関わりを行うような方法が考えられる。
32
意見の分かれた項目:スクリーニング
表2. 合意が得られなかった項目の7点以上と答えたものの割合と平均点の推移


                                                         第3ラウン
                               第1ラウンド       第2ラウンド         ド
                               7点以          7点以          7点以
                                                   平          平
                                上の 平均       上の           上の
                                    点              均          均
                                割合          割合     点     割合 点
                                (%)          (%)          (%)

スクリーニングについて

支援者は、質問紙や面接を用いて、被災者の精神健康状態を
スクリーニングするべきである。                41.1   5.7   35.1   5.8   19.1   5.2


調査票や面接によるスクリーニングは必要ないが、問題を抱え
ている人を特定することを、支援者は意識すべきである。     42.1   5.9   51.1   6.1   57.2   6.3


問題を抱えている人には何らかの介入を行うまえに、身体、心
理、社会的ニーズを検討するための正式なアセスメントを、支   37.9   5.8   30.9   5.7   36.5   5.6
援者は実施すべきである。

 33
スクリーニングや臨床評価について
    +スクリーニング
    支援を自ら求めない人も含めて系統的にアセスメントを
     することで、トリアージやケースの発見につながる。
    外部からの支援者との継続性のある支援をするために
     は、調査票の活用は有用である。

    +臨床的判断
    調査票の使用は災害の現場では馴染まなく、調査準備
     や実施には配慮が必要である。
    日常的に地域の保健活動を通じて、地域住民の把握を
     していれば、特に調査票は使用しなくてもよい。
    34
    スクリーニングは、時期や状況、目的によって実施に係
     る判断は異なる。タイミングとしては、初期は控え、健康
     調査の一環として、要医療・支援者へのフォローアップ
     体制等を整えたうえで実施することが望ましい。

    ハイリスク者を同定するために、標準化された質問票や
     スクリーニングは必要であるとする意見は多かった。支
     援者によって、判断、対応が変わりうるのは適切ではな
     いので、ある程度客観的な指標を用いてコミュニケーショ
     ンの円滑化に役立てる用途も指摘された。

    35
代表的なコメント
    調査実施する前に、支援者や実施者との信頼関係を築
     き、被災者の希望等を考慮する。

    質問紙よりも面接のほうがよいという現場の意見が多い。

    目的を吟味し、調査が重複して被災者に負担をかけるこ
     とはさけるべきである。

    フォローアップや支援体制を整えてから実施すべきであ
     る。

    36
10.      スクリーニングについて
    精神健康の問題が継続している人について、精神保健
     専門家は専門的なアセスメントを実施すべきである。

+ 災害以前から持続している精神健康上の問題を抱えている
  人には、災害時だけではなく、継続して支援していく必要があ
  る。

+ 災害時のハイリスク者等の危険がある人には、アセスメント
  をすべきである。

! 「精神健康の問題が継続している人」はストレス反応が持続
  している状態なのか、災害以前から続いている精神疾患や
  問題なのかで判断が異なる。
    37
意見の分かれた項目災害時要支援者への対応

表2. 合意が得られなかった項目の7点以上と答えたものの割合と平均点の推移


                      第1ラウンド       第2ラウンド       第3ラウンド
                      7点以          7点以上         7点以
                      上の割 平均
                           点        の割合 平均
                                         点      上の割 平均
                                                     点
                      合(%)           (%)        合(%)

災害時要支援者への対応

高齢者や子どもといった特定の集団に対し   66.3   6.7   72.3   6.8   79.1   6.8
ては、専門的計画が別個に必要である。




 38
災害時要支援者への精神保健的対応
     高齢者や子どもといった特定の集団に対しては、専門
     的計画が別個に必要であるという方針については、合意
     は得られなかった。

     それぞれの特定の集団に対して専門計画はあったほう
     がよいが、災害対応としては、全体の中での位置づけや
     共同の取り組みが必要であり、できるだけ共通的な対応
     が多いほうがよい。

    また、専門的計画よりも、日常生活の再開をすすめるほ
     うが治療的な場合もあり、その上で必要なケースへの個
     別対応を考えることが望ましい。
    39
意見の分かれ項目:
精神健康に配慮したコミュニケーション
表3. 第3ラウンド調査で除外した8項目



                                 第1ラウンド        第2ラウンド

                                 7点以上     7点以上
                                       平均       平均
                                  の割合      の割合
                                       点        点
                                   (%)      (%)


情報提供

初期の心理的反応についての情報は、関心のある被災者に対し
                                  2.1    3.2   4.3   3.2
て提供されるべきで、全員を対象にすることはない。

動揺させるといけないので、強いストレスを感じている人には悪い
                                  14.7   4.7   7.5   4.8
知らせは差し控えるのがよい。



 40
心理教育の対象
     初期の心理的反応についての情報は、ニーズを見極めて
     選択的に行うよりも、全員を対象にしたほうがよい。

    これは、集団へのアプローチとして、外からみてこころのケア
     に関心があるかどうかは分からないし、スティグマ化しないた
     めにも、メディア等を利用して一定の集団全員を対象に情報
     提供をしたほうがよい。しかし、全ての人に一律に情報提供
     する際には、押し付けにならないような配慮が求められる。

     また、メンタルヘルスのニーズは本人が気づいていなかっ
     たり、抵抗が強いこともあるので、本人の関心の程度を、情
     報提供の基準とするには難しいことがあり、「あなたの大切な
     人やご家族のために」、として情報提供を行うのも一つの方
     法である。
    41
悪い知らせの伝え方
     「動揺させるといけないので、強いストレスを感じている人に
     は悪い知らせ(突然の親族の死亡など)は差し控えるのがよ
     い。」といった方針に合意は得られなかった。悪い知らせを伝
     えないことでの悪影響、伝えたことでの悪影響を紹介する意
     見がそれぞれあった。

    「実際的には困難。また、差し控えることで生じる不都合もあ
     ると考えられる。」
    「配慮し、後で知らされることでひどく傷つく人もいると思う。」

    しかし、災害や事件の性質、サポート体制(公的、私的なもの
     も含めて)等を勘案して、ケースバイケースの対応が求めら
     れる。また、伝えることの是非よりも、伝え方やその後のフォ
     ロー体制の整備が必要であろう。
    42
意見の分かれた項目:ボランティアのあり方



                                 第1ラウンド        第2ラウンド

                                 7点以上     7点以上
                                       平均       平均
                                  の割合      の割合
                                       点        点
                                   (%)      (%)


これらの研修体制について

災害ボランティアは、事前に募集され、適性についてスクリーニン
                                  34.7   5.8   26.6   5.5
グされるべきである。




 43
    災害ボランティアを事前に募集し、適性をスクリーニング
     するとよい、という方針の適否を尋ねたが、合意は得ら
     れなかった。

    実際に、ボランティアの適性の判断はできないし、また一
     連の対応は災害時に実行することは困難だからである。

    また、熱意や自発的意思でボランティアに来る人が多い
     ので、適性をみて排除するよりも、活動開始前のオリエ
     ンテーション等で心理的な反応や配慮に関する情報提
     供の機会を設けるほうが建設的であろう。

    44
改訂災害精神保健ガイドライン
    I. 災害時の精神保健福祉体制
    II. 災害時こころのケアのあり方
    III.外部支援のあり方
        1.   外部支援受け入れの判断
        2.   活動導入の仕方
        3.   外部支援こころのケアチームの活動
        4.   派遣期間
        5.   専門職ボランティア
    IV. 支援者のストレス対応


    45
意見の分かれた項目:外部支援のあり方

                             第1ラウンド        第2ラウンド        第3ラウンド

                             7点以           7点以           7点以
                              上の 平均         上の 平均         上の 平均
                              割合 点          割合  点         割合 点
                              (%)           (%)           (%)
外部派遣の調整の仕組みは、国、県などの被災地以外
で構築することが望ましい。                 48.4   5.9    57.5   6.2    53.9   6.0

外部支援者は地元の精神保健担当者からの指示と協
力のもと、避難所や被災者宅を巡回し、必要な被災者に
                              53.7   6.3    70.2   6.6    70.8   6.6
対応していくアウトリーチを積極的に行っていくとよい。

医療、看護、福祉、臨床心理などの専門職ボランティア
が個人で被災地に支援に行く際には、医療、心理療法
                              40.0   5.9    43.6   5.9    61.8   6.4
等の支援を行うべきではない。


  46
外部派遣調整の仕組みの主体(1)
   被災地外におくとよいという意見では、被災地内におくと
    被災地の負担が増えるからという理由が主である。ただし
    被災地外に調整機関を置く場合でも、現地の責任者の判
    断を国や県の判断より優先することや、被災地の意見が
    十分に反映されることは必須である。

   調整の仕組みを被災地内におくとよいという意見としては
    、連携が取れていないとかえって混乱する、現状に則した
    調整は現場でする必要がある、という理由が挙げられる。



    47
外部派遣調整の仕組みの主体(2)
    「受け入れ側の被災状態や人員状態にもよるが、被災地では情報
     が氾濫し整理しきれないことがある。国・県の担当者が現地で被災
     地の担当者の意見を反映させながら調整するのが望ましい。」

    「被災地の状況により、単純に被災地の内外と分けることはできな
     い。どのような状況でも対応できるよう、被災地内・被災地外ともに
     仕組みが構築され、災害時にどちらが主導するかを決めることが
     できれば理想的である。」

    「外部派遣の仕組みは、被災地と県が十分な連携をとり、被災地
     の規模や状況にあわせて構築することが望ましい。また、県が各
     市町村と今後の災害時派遣に関して事前調整を行い具体的な手
     順等を明らかにしておくことが望ましい。」

    48
外部支援者の活動のあり方(1)
    被災地における支援として、特に高齢者の多い被災地
     や、山間僻地などにおいてアウトリーチは非常に有効で
     あり、外部支援者の請け負うことのできる支援であると
     いう意見がある。

    一方で、外部支援者はいずれ撤収する存在であるため
     、あくまで黒子に徹し、被災者への直接支援は可能な限
     り現地の支援者にまかせる方が望ましいとする意見が
     ある。



    49
外部支援者の活動のあり方(2)
    「こころのケアに関しては、アウトリーチが基本である。地元の支援
     者でなければできないことが多くあり、地元の支援者がアウトリー
     チをしていると、過労となってしまう。地元の支援者は長期的な活
     動が求められるので、地元と外部の支援者の役割分担を活動開
     始時から意識することが必要である。」

    「外部支援の要否は災害の規模により異なりますが、アウトリーチ
     による被災者のケアは、外部支援者が即戦力として貢献できると
     思います。大規模な災害の場合、外部からの支援が入っているこ
     とが、被災者の安心感につながることもあると思われます。地元の
     精神保健担当者の代替的役割であることを十分意識してアウトリ
     ーチを行なうと良いのではないかと思います。」


    50
外部支援者の活動のあり方(3)
   「基本的に、被災地域の要請に依ると思う。中越地震の際に
    は地元保健師の指示のもとにアウトリーチを行った。その方法
    は優れていたと思うが、保健師の負担はあったと思う。地域に
    よるが、外部支援者が単独でアウトリーチを行うのは非常に困
    難な場合もある。地元の状況や要請に従うべきである。」

   「地元の担当者の主体性を尊重することは否定しないが、災
    害対応の経験者からの示唆という形での支援も含めた外部支
    援が必要である。地元の担当者からの指示を待ってしか動け
    ない外部支援者では、地元の負担になるのみである。」




    51
専門職ボランティアのあり方(1)
    専門職ボランティアが個人で専門的支援を行うことに対
     する反対意見としては、専門職という責任ある立場上、
     その信頼性や何か問題がおきたときの対応法を確保す
     るため、単独の行動は許されず、専門的支援を行う際に
     は組織に参加することが必須となるといったものである。

    必ずしも反対とはいえないという意見としては、状況やそ
     の個人の力量によるといった意見が多い。




    52
専門職ボランティアのあり方(2)

   「甚大な災害の場合、膨大な数の専門職ボランティアが被
    災地に入り、全部を把握しきれない。また、そのコーディネ
    ートまで現地で行うことは困難である。」

   「専門職という社会的に責任ある立場の者が、個人的に支
    援に行く、という形は認められるのだろうか。専門家、という
    肩書きの元で、勝手な動きをして現場に混乱を与え、撤退
    し、地域に後始末は残される、ということになりかねないの
    ではないか。また、正しい情報を入手する方法もなく、安心・
    安全の提供が出来るとは思えない。」

    53
専門職ボランティアのあり方(3)
   「支援に入った専門職ボランティアをコントロールすることは極めて
    困難である。」

   「個人での活動は、入手した情報が本部に入らなくなり、支援の統
    括、展開が困難になる。」

   「当県では、災害早期から活動するDMATや赤十字とともに行動す
    るということで、移動や医療処置の問題をクリアーにしてきている。
    全国的にも同様の取り決めがあるとよい。」

   「専門職ボランティアが個人で被災地に入って専門的支援を行った
    時、その行為や人物の信頼性の担保、何かあった時の責任の所
    在、全体の支援の流れを無視した形での支援に果たして妥当性は
    あるのか、難しい問題だと感じます。」
    54
改訂災害精神保健ガイドライン
    I.       災害時の精神保健福祉体制
    II.      災害時こころのケアのあり方
    III.     外部支援のあり方
    IV.      支援者のストレス対応
        1.   被災地で被災者支援にあたる組織の構築
        2.   職員の休養・休息
        3.   被災時に派遣された職員への支援
        4.   支援者のセルフヘルプ




    55
    支援者のセルフヘルプに関して、意見の分かれた項目
     はなかった。

    しかし、一般的な方針が多い。

    支援者への精神保健上の課題であるが、労務管理、産
     業保健の一貫で、対応する必要がある。

    地方自治体における労務管理の課題



    56
マニュアルの使い方
    マニュアル内の合意事項は、一般的な見解が多い。

    事前に考え方を理解することで、最低限のケアスタンダー
     ドに基づいた支援が期待できる(特に初期対応)。

   しかし、災害は想定外、応用問題の連続である。
    →過去の経験、知見(是非の両面)を参考に、自分で判断
    する必要がある。マニュアルはその参照点になりうる。

    東日本大震災の経験を反映し、知見を蓄積する必要があ
     る。
    57
参考資料
    災害時地域精神保健医療活動ガイドライン. 平成13度厚生労働科学研究
     費補助金(厚生科学特別研究事業)主任研究者:金吉晴.
     http://www.ncnp-k.go.jp/katudou/h12_bu/guideline.pdf

    自然災害発生時における 医療支援活動マニュアル.平成16年度厚生労働
     科学研究費補助金特別研究事業.
     http://www.imcj.go.jp/shizen/index.html

    心的トラウマの理解とケア.外傷ストレス関連障害に関連する研究会 金吉
     晴 編集. http://www.jstss.org/info/pdf/info01_15.pdf

    IASC Guidelines on Mental Health and Psychosocial Support in
     Emergency Settings. IASC, 2007.
     http://www.who.int/mental_health/emergencies/guidelines_ia
     sc_mental_health_psychosocial_june_2007.pdf
    58

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災害精神保健医療マニュアルの開発について

  • 1. 災害精神保健医療マニュアルの開発 について 鈴木 友理子 独)国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 成人精神保健研究部 災害等支援研究室長
  • 2. 内容  災害精神保健マニュアルの作成について  方法  合意率の低かった項目についての考え方  災害精神保健システム  初期対応  外部支援のあり方  支援者ストレス対応 2
  • 3. 災害精神保健医療マニュアル(平成22年3月版)  国際的にも様々な災害対応のガイドライ ンがあるが、そのままでは我が国での使 用になじまないものが多い  わが国では自然災害対応経験の蓄積が ある。  阪神大震災、新潟中越地震、中越沖地震 の支援者の経験を系統的に集積  フォーカスグループ、デルフィ法  わが国の経験を反映させたマニュアルを 開発http://www.ncnp.go.jp/pdf/mental_info_manual.pdf  これまでの経験を集積、発信することで 国際的にも貢献できる。 3
  • 4. 災害時精神保健ガイドライン改訂における Delphi法の使用  既存のガイドライン 「災害時地域精神保健医療活動ガイドライン」 平成13年度厚生 科学研究費補助金(厚生科学特別研究事業) 主任研究者: 金吉晴. http://www.ncnp-k.go.jp/katudou/h12_bu/guideline.pdf 少数の専門家によって作成、 その後の経験を反映する必要性  災害時の適切な支援法 実験的な研究は実施困難(倫理的、実施、方法論的)  経験知の活用 一般的な専門的知識だけではなく、日本における豊富な災害 経験に基づく対応法を提示 4
  • 5. 質問項目の選定  先行文献のレビュー  日本の自然災害後の精神保健支援経験者からのフォー カスグループ  質問の4領域(94項目)  災害時の精神保健福祉体制  災害時こころのケアのあり方  外部支援のあり方  支援者のストレス対応  欧州のTENTSガイドラインとの比較も考慮し、TENTSガ イドラインに含まれる項目を日本語訳した項目も含めた。 5
  • 6. 調査対象者および依頼方法  災害時に活動経験のある支援者から広く意見を求める ため、災害時に活動経験のある支援者を紹介してもらい、 調査への参加を依頼した(Snow-ball technique)。  被災地の行政職員、精神保健専門家  トラウマティックストレス学会会員  学校での危機介入に関わっている臨床心理士  被災地へ派遣された精神保健専門家  計100名 6
  • 8. 改訂災害精神保健ガイドライン  I. 災害時の精神保健福祉体制  1. 災害精神保健計画の立案  2. 初動時のこころのケア対策本部の設置  3. 保健師の役割  4. 保健師活動の課題  5. 活動支援記録  6. メディアへの対応  II. 災害時こころのケアのあり方  III. 外部支援のあり方  IV. 支援者のストレス対応 8
  • 9. 意見の分かれた項目: 初動時のこころのケア対策本部の設置 表2. 合意が得られなかった項目の7点以上と答えたものの割合と平均点の推移 第1ラウンド 第2ラウンド 第3ラウンド 7点 7点 7点以 以上 平 以上 平 上の 平均 の割 均 の割 均 割合 点 合 点 合 点 (%) (%) (%) 初動時のこころのケア対策本部の設置 こころのケアサービスを計画するために、情報が不足して いてもできるだけ早く、精神保健関係者が被災現場に出向 45.3 6.0 62.8 6.6 68.5 6.5 いてメンタルヘルスニーズ等を把握する必要がある。 こころのケアサービスを計画するために、被害状況の情報 を得てから、精神保健関係者は被災現場に出向くほうがよ 59.5 6.1 70.2 6.4 64.1 6.3 い。 9
  • 10. 初動時のこころのケア対策本部の設置  こころのケアサービスを計画するために、「情報が不足 していてもできるだけ早く現地に入るべきか、情報を収 集してから現地に入るべきか」については意見が分かれ た。  被災現場に入るタイミングが早すぎるとニーズの把握 は難しいという懸念を示す意見はあったが、災害対応に 関する見識と経験のある先遣隊が現地に出向きニーズ 調査をする必要性は支持された。 10
  • 11. 「チームを派遣する前の偵察隊といった位置づけの早期派 遣は極めて重要です。」  「メンタルヘルスニーズの把握に限定することなく、精神保 健関係者が直接、被災地に出向いて状況を確認すること は、外部支援等について検討する際の重要な判断材料に なります。」 11
  • 12. 「都道府県の精神保健担当課、地域の保健所、市町保 健部門と調整をしたうえで、被災現場に入り、現場に混 乱をもたらさない配慮が必要です。また、ニーズ把握や 分析を誰(どの機関)がするか等、平時から役割を決め ておくことが大切です。」  「こころのケアサービスの計画は早期に状況を確認し、 確認後、計画を立案しておくことが必要と考えます。災害 本部の中にきちんとメンタルケアを位置づけることも必 要と考えます。」 12
  • 13. 意見の分かれた項目:保健師の役割分担 表2. 合意が得られなかった項目の7点以上と答えたものの割合と平均点の推移 第2ラウン 第1ラウンド ド 第3ラウンド 7点 7点以 上の 平 7点以 以上 平 平均 上の割 割合 均 の割 均 合(%) 点 (%) 点 合 点 (%) 保健師の役割分担 被災地の保健師は現状の総合的判断や、指示、他機関との 連携のために、被災現場で住民に直接支援を行うより、役所 あるいは医療本部等にて、情報収集、電話対応、指示を出す 33.7 5.5 36.2 5.7 25.8 5.5 ことが望ましい。 外部から派遣された保健師は、被災現場に積極的に出向き (アウトリーチして)、地域の情報収集、住民の安否確認、被災 65.3 6.6 71.3 6.6 71.9 6.6 者の支援を行い、その情報を被災地の保健師に伝達する。 被災地の保健師も、直接現場で積極的に支援を行えるように、 外部から派遣された保健師が、役所あるいは医療本部での 19.2 4.6 8.8 4.5 情報収集、電話対応を行うようにする。 13
  • 14. 保健師の役割分担  「現地保健師は総合的判断など本部機能を担当し、外 部から派遣された保健師は被災現場にアウトリーチする 」という役割分担には合意は得られなかった。  被災状況と現地保健師の配置、経験を勘案して、外部 から派遣された保健師は、地元保健師とペアで活動する とよいという意見が多かった。ペアで活動することで、現 地保健師の災害対応への不安、不全感の軽減、派遣さ れた保健師の現地状況の把握や支援上の関係づくりと いった点で、双方にとって良い効果があると思われる。 14
  • 15. 意見の分かれた項目:メディアとの協働 合意が得られなかった項目の7点以上と答えたものの割合と平均点の推移 第1ラウンド 第2ラウンド 7点以上の 平均 7点以上の 割合(%) 点 割合(%) 平均点 メディアとの協働 初期対応にあたる精神保健および地域保 健関係者は、メディアと緊密に協働すべき 29.1 5.3 23.1 5.3 である 初期対応にあたる精神保健および地域保 健関係者は、メディアとの接触は避けるべ 21.5 4.9 17.6 5.1 きである 15
  • 16. メディアへの対応  報道について、県に窓口を設定し、こころのケアに関す る情報の発信を一元化する。 被災状況・安全に関する情報 心理教育やストレス対応法 イメージが先行する報道、 そしてモデル的取り組みなど プライバシーの侵害、 マスコミ対応への負担、 16
  • 17. メディアとの協働:代表的なコメント  メディアをうまく活用することも、考えていく必要があると思います。 「こうしたことを伝えてください」とこちらから積極的に伝えることで (リソースを提供することで)、過剰な取材は減るのではないでしょ うか。  直接支援者は、個人情報の管理上、メディアとの緊密な協働は困 難であり、行政担当者が窓口として適任であるという意見に賛成で あり、実際にそういう風に対応しよい結果を得た。  対策本部でメディア担当者を定め、現場対応者も報道対応につい て事前に打合せをしたうえで、一緒に対応するという意見に賛成で す。  支援者が単独で取材に対応すると、個人の責任になるので、支援 者や被害者を守るためにも、対策本部などでの情報の一本化が必 要である。 17
  • 18. 改訂ガイドラインの紹介  I. 災害時の精神保健福祉体制  II. 災害時こころのケアのあり方  7. 基本的心構え  8. 初期対応における精神保健専門家の役割  9. 初期対応  10. スクリーニングについて  11. 災害時要支援者への対応  12. 情報提供  13. これらの研修体制について  III. 外部支援のあり方  IV. 支援者のストレス対応 18
  • 19. 意見の分かれた項目:基本的心構え 表2. 合意が得られなかった項目の7点以上と答えたものの割合と平均点の推移 第1ラウンド 第2ラウンド 第3ラウンド 7点以上 7点以上 7点以上 の割合 平均 の割合 平均 の割合 平均 (%) 点 (%) 点 (%) 点 基本的心構え 初期対応では、被災者本人や地域 の自己効力感を高めるようにすべ 55.8 6.5 57.5 6.6 48.9 6.1 きである。 初期対応では、被災地域のつなが 70.5 6.9 58.5 6.5 52.2 6.2 りを促進すべきである。 19
  • 20. 「初期対応では、被災者本人や地域の自己効力感を高める ようにするとよい。」  一つは、このような方針はまず安全や安心が優先される 初期においては適切ではなく、中長期になって検討する べきものであるという意見である。  もう一つは、初期からも中長期に向けてこのような視点 を持つことは必要であるという意見である。  しかし、この場合も、具体的な対応というより被災者や被 災地の持つ力に十分配慮するというような意識を支援者 が持つことでよいのではないかという見解であった。 20
  • 21. 具体的に実施する場合では、被災者や被災地域の自助や共 助の力や主体性や自立性を尊重する形で支援を行うことが あげられた。  具体例:被災地域全般をエリアとする地域FM放送を活用し た地域情報の発信など  また、被災の程度、被災地域のメンタルヘルスの資源(医 療、福祉、保健、教育など)、被災地域のメンタルヘルスにつ いての捉え方などによって一概に言えない面もある。 21
  • 22. 「初期対応では、被災地域のつながりを促進するとよい。」  適切であるとする意見としては、被災地では、自然発生 的に地域や被災者同士の地域のつながりが強まること が多く、支援者はそれを現状に合わせて、支持していく のがよいとするものであった。  一方で、このような自発的なつながりは、時間の経過とと もになくなりやすく、阪神淡路大震災ではふれあいセンタ ーなどが形骸化してしまったという意見もあった。  どちらとも言えないとする意見では、やはり、被災状況や 被災地域の実情によって考慮する必要があるというもの が多かった。例えば、地域の人が関わったような人為災 害では、困難であるということがある。 22
  • 23. 意見の分かれた項目: 初期対応における精神保健専門家の役割 表3. 第3ラウンド調査で除外した8項目 第1ラウンド 第2ラウンド 7点以上 7点以上 平均 平均 の割合 の割合 点 点 (%) (%) 初期対応における精神保健専門家の役割 初期対応は、精神保健専門家以外(急性期医療対 12.6 4.6 20.2 5.2 応者など)が行うべきである。 初期では精神保健専門家は積極的な対応をするべ 3.2 3.9 19.2 5.1 きではない。 初期には精神保健専門家は、助言やスーパーバイ 11.6 4.2 9.6 4.3 ザーとして対応し、初期対応で直接関与はしない。 23
  • 24. 8. 初期対応における精神保健専門家の役割  特に精神保健専門家として関わりが求められる場合  精神科医療機関が壊滅している場合(治療中断者など)  自殺のリスクのある場合  緊急な精神医療の必要性(急性ストレス反応、アルコー ル離脱、精神運動興奮など)  遺族への対応  一般の被災者に対しては、専門性を全面に出す必要はな いという意見もあった。 「被災地域での精神科の救急医療体制が機能していれば(専門 性を前面に出すことは)必要ない」 「被災者は、「地震で心傷つ いた弱い人間と思われたくない」という気持ちが強い」 24
  • 25. 意見の分かれた項目:初期対応 表2. 合意が得られなかった項目の7点以上と答えたものの割合と平均点の推移 第1ラウンド 第2ラウンド 第3ラウンド 7点以上 7点以上 7点以 平均 平均 平均 の割合 点 の割合 点 上の割 点 (%) (%) 合(%) 初期対応 被災者に話しかける場合には、「具合はどうですか?」、 「何か心配ごとはありませんか?」など開かれた質問か 66.3 6.4 60.6 6.3 65.2 6.4 ら入っていく。 不安や恐怖に圧倒されて混乱していたり、茫然として いる被災者には、落ち着いて感情を表出できるように 手助けする。具体的には自分の状態を把握できたり、 どのような気持ちを感じているのかを尋ねることなどで 57.9 6.3 60.6 6.4 39.3 5.6 ある。(例:「どうしていいかわからないような状態でしょ うか?」「どんな気持ちを感じていますか?」など) 被災者に起こることが予想される心理反応について説 明する。 68.4 6.7 79.8 6.8 84.3 6.8 激しいストレス反応を呈している被災者には、積極的に アプローチすべきである。 56.8 6.4 73.4 6.8 76.4 6.7 被災者は体験を詳細に語るよう勧められるべきでも、 25 妨げられるべきでもない。 70.5 6.8 72.3 6.5
  • 26. 初期対応  被災者に話しかける場合には、「具合はどうですか」など 開かれた質問から入いっていくほうがよい。  状況によって「開かれた質問」と「閉じられた質問」を使い 分けたほうがよい。  問いかけの前に自己紹介をし、自分の所属やかかわる 理由を明らかにし、被災者をいたわる言葉をかけること が重要である。  話しかける目的(理由)を伝える。  あなたと一緒にこの状況を乗り越えたいという思いを伝える。  被災地には、いろんな人(支援者)が入っているので、同じよ うなことばかり聞かれるというストレスも与えている可能性に 配慮する。 26
  • 27. ケースバイケースにより開かれた質問と閉じた質 問の使い分けが望ましい。  「開かれた質問から入るほうが良い」  被災者は、「援助者に侵入された」という思いを抱きやすい ので、まずはオープンクエスチョンから入るべき。  「具体的な質問のほうがよい」  私は保健師なので、「眠れますか」「食べられますか」「痛む ところはないですか」等と声をかけると思います。  被災者はパニックになっており自分の状態を把握できてい ないことが多いので具体的に聞くほうがよい。 27
  • 28. 初期対応  不安や恐怖に圧倒されていたり、呆然としている被災者 には、言語化させるより、側に寄り添うなど共感的に安 心感を与える接し方をすることが望ましい。  具体的な接し方の例  目先を下げ、優しい言葉、方言も必要。  「今ここ」は安全であることを丁寧に伝える。そのうえで、側に寄 り添う。  体を動かすこと漸進性弛緩法・動作法など段階的に体を動かす ことが効果があるケースもある。  人により、又時間により違ってくると思います。まず安全・安心・ 安寧できるよう接することだと思っております  言語的、非言語的どちらの接近も重要である。  精神科救急対応患者のレベルであれば薬物療法など積 極的・強制的な介入も必要になる。 28
  • 29. 初期対応  ストレス反応を呈している被災者やその家族には、被災 者に見られる一般的な心理反応について説明すること がすすめられる。  個々の対応ではなく、集団でおこなったりパンフレットの配布 が望ましい。  心理教育のもつ、反応や症状を刷り込んでしまう可能性に ついて、慎重である必要があると思います。(とくに不安定 な時期には、平常時よりも、そうした刷り込みが起こりやす い)  個人をピンポイントしてスティグマを残さないように、心理教 育はなるべく集団で行うのが望ましい。 29
  • 30. 実施にあたっての留意点  その被災者の状態を十分に把握したうえで行うべき。  一般的な心理教育と共に気になるケースは、後日に訪 問、面接等で確認が必要かと思います。  説明を聞いたが覚えていないという事態が考え得るので、 やはりパンフレットやファクトシートのような、後で自分で 確認できる視覚的なツールもあった方が良い。  「異常な事態に対する正常な反応である」の文章は大切 だと思います。 30
  • 31. 被災者へのアプローチ(1)  「症状の有無を問わず、精神保健専門家は、(相手の 求めがなくても)できるだけ被災者に接するようにするの が望ましい」という方針には合意は得られなかった。  精神保健の専門家は、保健師などが必要と判断した被 災者に接するほうがよいという意見が挙げられた。  一方で、被災者で精神的影響が大きい人は、むしろ自分 から助けを求めない傾向もあるので、こちらからできるだ け接することができるような機会をつくることは重要とす る意見もあり、精神保健専門家に限る必要はないが、被 災者に早期に接触する人が精神的介入の必要性を判 断し、精神保健専門家と連携できる体制が必要である。 31
  • 32. 被災者へのアプローチ(2)  「激しいストレス反応を呈している被災者には積極的に アプローチするのが望ましい」という方針にも十分な合意 は得られなかった。  これは、「積極的」という言葉が不明確であった点に問題 があったと考えられる。例えば、医療が必要な場合では 積極的に介入する必要があるであろう。しかし、積極的 という言葉が必ずしも緊急性のない場合には、むしろ侵 襲的であるという印象を与えたかもしれない。  ここでは、精神的支援や介入が必要な被災者がいる場 合には、相手の求めがなくても、訪問や声掛けなどの積 極的な関わりを行うような方法が考えられる。 32
  • 33. 意見の分かれた項目:スクリーニング 表2. 合意が得られなかった項目の7点以上と答えたものの割合と平均点の推移 第3ラウン 第1ラウンド 第2ラウンド ド 7点以 7点以 7点以 平 平 上の 平均 上の 上の 点 均 均 割合 割合 点 割合 点 (%) (%) (%) スクリーニングについて 支援者は、質問紙や面接を用いて、被災者の精神健康状態を スクリーニングするべきである。 41.1 5.7 35.1 5.8 19.1 5.2 調査票や面接によるスクリーニングは必要ないが、問題を抱え ている人を特定することを、支援者は意識すべきである。 42.1 5.9 51.1 6.1 57.2 6.3 問題を抱えている人には何らかの介入を行うまえに、身体、心 理、社会的ニーズを検討するための正式なアセスメントを、支 37.9 5.8 30.9 5.7 36.5 5.6 援者は実施すべきである。 33
  • 34. スクリーニングや臨床評価について  +スクリーニング  支援を自ら求めない人も含めて系統的にアセスメントを することで、トリアージやケースの発見につながる。  外部からの支援者との継続性のある支援をするために は、調査票の活用は有用である。  +臨床的判断  調査票の使用は災害の現場では馴染まなく、調査準備 や実施には配慮が必要である。  日常的に地域の保健活動を通じて、地域住民の把握を していれば、特に調査票は使用しなくてもよい。 34
  • 35. スクリーニングは、時期や状況、目的によって実施に係 る判断は異なる。タイミングとしては、初期は控え、健康 調査の一環として、要医療・支援者へのフォローアップ 体制等を整えたうえで実施することが望ましい。  ハイリスク者を同定するために、標準化された質問票や スクリーニングは必要であるとする意見は多かった。支 援者によって、判断、対応が変わりうるのは適切ではな いので、ある程度客観的な指標を用いてコミュニケーショ ンの円滑化に役立てる用途も指摘された。 35
  • 36. 代表的なコメント  調査実施する前に、支援者や実施者との信頼関係を築 き、被災者の希望等を考慮する。  質問紙よりも面接のほうがよいという現場の意見が多い。  目的を吟味し、調査が重複して被災者に負担をかけるこ とはさけるべきである。  フォローアップや支援体制を整えてから実施すべきであ る。 36
  • 37. 10. スクリーニングについて  精神健康の問題が継続している人について、精神保健 専門家は専門的なアセスメントを実施すべきである。 + 災害以前から持続している精神健康上の問題を抱えている 人には、災害時だけではなく、継続して支援していく必要があ る。 + 災害時のハイリスク者等の危険がある人には、アセスメント をすべきである。 ! 「精神健康の問題が継続している人」はストレス反応が持続 している状態なのか、災害以前から続いている精神疾患や 問題なのかで判断が異なる。 37
  • 38. 意見の分かれた項目災害時要支援者への対応 表2. 合意が得られなかった項目の7点以上と答えたものの割合と平均点の推移 第1ラウンド 第2ラウンド 第3ラウンド 7点以 7点以上 7点以 上の割 平均 点 の割合 平均 点 上の割 平均 点 合(%) (%) 合(%) 災害時要支援者への対応 高齢者や子どもといった特定の集団に対し 66.3 6.7 72.3 6.8 79.1 6.8 ては、専門的計画が別個に必要である。 38
  • 39. 災害時要支援者への精神保健的対応  高齢者や子どもといった特定の集団に対しては、専門 的計画が別個に必要であるという方針については、合意 は得られなかった。  それぞれの特定の集団に対して専門計画はあったほう がよいが、災害対応としては、全体の中での位置づけや 共同の取り組みが必要であり、できるだけ共通的な対応 が多いほうがよい。  また、専門的計画よりも、日常生活の再開をすすめるほ うが治療的な場合もあり、その上で必要なケースへの個 別対応を考えることが望ましい。 39
  • 40. 意見の分かれ項目: 精神健康に配慮したコミュニケーション 表3. 第3ラウンド調査で除外した8項目 第1ラウンド 第2ラウンド 7点以上 7点以上 平均 平均 の割合 の割合 点 点 (%) (%) 情報提供 初期の心理的反応についての情報は、関心のある被災者に対し 2.1 3.2 4.3 3.2 て提供されるべきで、全員を対象にすることはない。 動揺させるといけないので、強いストレスを感じている人には悪い 14.7 4.7 7.5 4.8 知らせは差し控えるのがよい。 40
  • 41. 心理教育の対象  初期の心理的反応についての情報は、ニーズを見極めて 選択的に行うよりも、全員を対象にしたほうがよい。  これは、集団へのアプローチとして、外からみてこころのケア に関心があるかどうかは分からないし、スティグマ化しないた めにも、メディア等を利用して一定の集団全員を対象に情報 提供をしたほうがよい。しかし、全ての人に一律に情報提供 する際には、押し付けにならないような配慮が求められる。  また、メンタルヘルスのニーズは本人が気づいていなかっ たり、抵抗が強いこともあるので、本人の関心の程度を、情 報提供の基準とするには難しいことがあり、「あなたの大切な 人やご家族のために」、として情報提供を行うのも一つの方 法である。 41
  • 42. 悪い知らせの伝え方  「動揺させるといけないので、強いストレスを感じている人に は悪い知らせ(突然の親族の死亡など)は差し控えるのがよ い。」といった方針に合意は得られなかった。悪い知らせを伝 えないことでの悪影響、伝えたことでの悪影響を紹介する意 見がそれぞれあった。  「実際的には困難。また、差し控えることで生じる不都合もあ ると考えられる。」  「配慮し、後で知らされることでひどく傷つく人もいると思う。」  しかし、災害や事件の性質、サポート体制(公的、私的なもの も含めて)等を勘案して、ケースバイケースの対応が求めら れる。また、伝えることの是非よりも、伝え方やその後のフォ ロー体制の整備が必要であろう。 42
  • 43. 意見の分かれた項目:ボランティアのあり方 第1ラウンド 第2ラウンド 7点以上 7点以上 平均 平均 の割合 の割合 点 点 (%) (%) これらの研修体制について 災害ボランティアは、事前に募集され、適性についてスクリーニン 34.7 5.8 26.6 5.5 グされるべきである。 43
  • 44. 災害ボランティアを事前に募集し、適性をスクリーニング するとよい、という方針の適否を尋ねたが、合意は得ら れなかった。  実際に、ボランティアの適性の判断はできないし、また一 連の対応は災害時に実行することは困難だからである。  また、熱意や自発的意思でボランティアに来る人が多い ので、適性をみて排除するよりも、活動開始前のオリエ ンテーション等で心理的な反応や配慮に関する情報提 供の機会を設けるほうが建設的であろう。 44
  • 45. 改訂災害精神保健ガイドライン  I. 災害時の精神保健福祉体制  II. 災害時こころのケアのあり方  III.外部支援のあり方  1. 外部支援受け入れの判断  2. 活動導入の仕方  3. 外部支援こころのケアチームの活動  4. 派遣期間  5. 専門職ボランティア  IV. 支援者のストレス対応 45
  • 46. 意見の分かれた項目:外部支援のあり方 第1ラウンド 第2ラウンド 第3ラウンド 7点以 7点以 7点以 上の 平均 上の 平均 上の 平均 割合 点 割合 点 割合 点 (%) (%) (%) 外部派遣の調整の仕組みは、国、県などの被災地以外 で構築することが望ましい。 48.4 5.9 57.5 6.2 53.9 6.0 外部支援者は地元の精神保健担当者からの指示と協 力のもと、避難所や被災者宅を巡回し、必要な被災者に 53.7 6.3 70.2 6.6 70.8 6.6 対応していくアウトリーチを積極的に行っていくとよい。 医療、看護、福祉、臨床心理などの専門職ボランティア が個人で被災地に支援に行く際には、医療、心理療法 40.0 5.9 43.6 5.9 61.8 6.4 等の支援を行うべきではない。 46
  • 47. 外部派遣調整の仕組みの主体(1)  被災地外におくとよいという意見では、被災地内におくと 被災地の負担が増えるからという理由が主である。ただし 被災地外に調整機関を置く場合でも、現地の責任者の判 断を国や県の判断より優先することや、被災地の意見が 十分に反映されることは必須である。  調整の仕組みを被災地内におくとよいという意見としては 、連携が取れていないとかえって混乱する、現状に則した 調整は現場でする必要がある、という理由が挙げられる。 47
  • 48. 外部派遣調整の仕組みの主体(2)  「受け入れ側の被災状態や人員状態にもよるが、被災地では情報 が氾濫し整理しきれないことがある。国・県の担当者が現地で被災 地の担当者の意見を反映させながら調整するのが望ましい。」  「被災地の状況により、単純に被災地の内外と分けることはできな い。どのような状況でも対応できるよう、被災地内・被災地外ともに 仕組みが構築され、災害時にどちらが主導するかを決めることが できれば理想的である。」  「外部派遣の仕組みは、被災地と県が十分な連携をとり、被災地 の規模や状況にあわせて構築することが望ましい。また、県が各 市町村と今後の災害時派遣に関して事前調整を行い具体的な手 順等を明らかにしておくことが望ましい。」 48
  • 49. 外部支援者の活動のあり方(1)  被災地における支援として、特に高齢者の多い被災地 や、山間僻地などにおいてアウトリーチは非常に有効で あり、外部支援者の請け負うことのできる支援であると いう意見がある。  一方で、外部支援者はいずれ撤収する存在であるため 、あくまで黒子に徹し、被災者への直接支援は可能な限 り現地の支援者にまかせる方が望ましいとする意見が ある。 49
  • 50. 外部支援者の活動のあり方(2)  「こころのケアに関しては、アウトリーチが基本である。地元の支援 者でなければできないことが多くあり、地元の支援者がアウトリー チをしていると、過労となってしまう。地元の支援者は長期的な活 動が求められるので、地元と外部の支援者の役割分担を活動開 始時から意識することが必要である。」  「外部支援の要否は災害の規模により異なりますが、アウトリーチ による被災者のケアは、外部支援者が即戦力として貢献できると 思います。大規模な災害の場合、外部からの支援が入っているこ とが、被災者の安心感につながることもあると思われます。地元の 精神保健担当者の代替的役割であることを十分意識してアウトリ ーチを行なうと良いのではないかと思います。」 50
  • 51. 外部支援者の活動のあり方(3)  「基本的に、被災地域の要請に依ると思う。中越地震の際に は地元保健師の指示のもとにアウトリーチを行った。その方法 は優れていたと思うが、保健師の負担はあったと思う。地域に よるが、外部支援者が単独でアウトリーチを行うのは非常に困 難な場合もある。地元の状況や要請に従うべきである。」  「地元の担当者の主体性を尊重することは否定しないが、災 害対応の経験者からの示唆という形での支援も含めた外部支 援が必要である。地元の担当者からの指示を待ってしか動け ない外部支援者では、地元の負担になるのみである。」 51
  • 52. 専門職ボランティアのあり方(1)  専門職ボランティアが個人で専門的支援を行うことに対 する反対意見としては、専門職という責任ある立場上、 その信頼性や何か問題がおきたときの対応法を確保す るため、単独の行動は許されず、専門的支援を行う際に は組織に参加することが必須となるといったものである。  必ずしも反対とはいえないという意見としては、状況やそ の個人の力量によるといった意見が多い。 52
  • 53. 専門職ボランティアのあり方(2)  「甚大な災害の場合、膨大な数の専門職ボランティアが被 災地に入り、全部を把握しきれない。また、そのコーディネ ートまで現地で行うことは困難である。」  「専門職という社会的に責任ある立場の者が、個人的に支 援に行く、という形は認められるのだろうか。専門家、という 肩書きの元で、勝手な動きをして現場に混乱を与え、撤退 し、地域に後始末は残される、ということになりかねないの ではないか。また、正しい情報を入手する方法もなく、安心・ 安全の提供が出来るとは思えない。」 53
  • 54. 専門職ボランティアのあり方(3)  「支援に入った専門職ボランティアをコントロールすることは極めて 困難である。」  「個人での活動は、入手した情報が本部に入らなくなり、支援の統 括、展開が困難になる。」  「当県では、災害早期から活動するDMATや赤十字とともに行動す るということで、移動や医療処置の問題をクリアーにしてきている。 全国的にも同様の取り決めがあるとよい。」  「専門職ボランティアが個人で被災地に入って専門的支援を行った 時、その行為や人物の信頼性の担保、何かあった時の責任の所 在、全体の支援の流れを無視した形での支援に果たして妥当性は あるのか、難しい問題だと感じます。」 54
  • 55. 改訂災害精神保健ガイドライン  I. 災害時の精神保健福祉体制  II. 災害時こころのケアのあり方  III. 外部支援のあり方  IV. 支援者のストレス対応  1. 被災地で被災者支援にあたる組織の構築  2. 職員の休養・休息  3. 被災時に派遣された職員への支援  4. 支援者のセルフヘルプ 55
  • 56. 支援者のセルフヘルプに関して、意見の分かれた項目 はなかった。  しかし、一般的な方針が多い。  支援者への精神保健上の課題であるが、労務管理、産 業保健の一貫で、対応する必要がある。  地方自治体における労務管理の課題 56
  • 57. マニュアルの使い方  マニュアル内の合意事項は、一般的な見解が多い。  事前に考え方を理解することで、最低限のケアスタンダー ドに基づいた支援が期待できる(特に初期対応)。  しかし、災害は想定外、応用問題の連続である。 →過去の経験、知見(是非の両面)を参考に、自分で判断 する必要がある。マニュアルはその参照点になりうる。  東日本大震災の経験を反映し、知見を蓄積する必要があ る。 57
  • 58. 参考資料  災害時地域精神保健医療活動ガイドライン. 平成13度厚生労働科学研究 費補助金(厚生科学特別研究事業)主任研究者:金吉晴. http://www.ncnp-k.go.jp/katudou/h12_bu/guideline.pdf  自然災害発生時における 医療支援活動マニュアル.平成16年度厚生労働 科学研究費補助金特別研究事業. http://www.imcj.go.jp/shizen/index.html  心的トラウマの理解とケア.外傷ストレス関連障害に関連する研究会 金吉 晴 編集. http://www.jstss.org/info/pdf/info01_15.pdf  IASC Guidelines on Mental Health and Psychosocial Support in Emergency Settings. IASC, 2007. http://www.who.int/mental_health/emergencies/guidelines_ia sc_mental_health_psychosocial_june_2007.pdf 58