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米国統一商事法典(UCC)の修正:第12編「支配可能な電子記録(CER)」の新設

  1. 2023年1月1日 法律事務所 LAB-01 米国弁護士(ニューヨーク州、ワシントンDC), FIP, CIPM, CIPP/E, CIPP/US 望月 健太 米国統一商事法典(UCC)の修正: 第12編 支配可能な電子記録(CER)の新設 Copyright © 2022 LAB-01 Law Office. All Rights Reserved. 無断引用・転載禁止
  2. 免責事項 2 本資料は、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありま せん。本資料の内容(第三者から提供された情報を含む)の正確性・妥当性の確 保に努めておりますが、本資料の利用によって利用者等に何らかの損害が生じた 場合にも、一切の責任を負うものではありません。 本資料の内容については、予告なしに変更または削除されることがあります。 本免責事項は、予告なしに変更されることがあります。本免責事項が変更された 場合、変更後の免責事項に従っていただきます。
  3. 米国統一商事法典(Uniform Commercial Code: UCC)とは  米国統一商事法典(UCC)は、1942年に米国法律協会(American Law Institute: ALI)と統一州法委員会(Uniform Law Commission: ULC)が、米国各州の民事・ 商事取引に係るルールの共通化を目的として、共同事業として作成に着手し たもので、1951年に最終草案を作成、1952年に最初のUCCが発表。  UCCは、1987年以降頻繁に修正が加えられており、そのプロセスは、商法の専 門家が作成したドラフト版をALI/ULCが承認(endorsement)し、各州にその採 択を推奨するモデル法案の最終版UCCとして発表される形。  UCCの各条項の文言及び解釈については、ALI/ULCのメンバーで構成される編集 委員会(Permanent Editorial Board: PEB)が述べた公式コメントが重要視。  UCCは「モデル法文」。米国各州がその法文を実際に法律として採択して初め て、法的拘束力のある制定法(各州の州法)となる。  米国では、各州の州法を統一するにあたり、連邦法を制定するのではなく、 「モデル法文」を作成し、それを各州に採択させる方法が採られているとこ ろ、UCCには、実質的に米国の連邦商事法的な地位が付与。  現在では、米国の各州が、必要に応じて若干補正した上で、UCCを採択。 3
  4. 米国統一商事法典(Uniform Commercial Code: UCC)の構成 第1編 :総則(General Provisions)[2001] 第2編 :売買(Sales)[2002] 第2編A:リース(Leases)[2002] 第3編 :流通証券(Negotiable Instruments)[2002] 第4編 :銀行預金及び取立(Bank Deposits and Collections)[2002] 第4編A:資金移動(Funds Transfers)[2012] 第5編 :信用状(Letters of Credit)[1995] 第6編 :詐害的大量売却(Bulk Transfers)[1989] 第7編 :倉庫証券・運送証券その他の権原証券 (Warehouse Receipts, Bills of Lading and Other Documents of Title) [2003] 第8編 :投資証券(Investment Securities)[1994] 第9編 :担保取引(Secured Transactions)[2010] ⇒第2編(売買)は、物品売買に関する一般的な商慣行を法典にしたもの。売買 契約の解釈、契約の成立、契約上の義務、権利(債権者と善意取得者)、契約の 履行、債務不履行、救済(債務不履行に対する措置)といった項目について規定。 4
  5. UCC 第12編(支配可能な電子記録(Controllable Electronic Records: CER))の新設  2022年7月、ALI/ULCは、UCCの修正案を採択し、各州による制定を推奨。  今次修正は、UCCに新たな第12編を設けつつ、第9編を中心に関連規定も修正 する内容。  新たな第12編は、主に仮想通貨、代替不可能なトークン(NFTs)、電子記録に よって証明される支払無体財産や売掛債権(payment intangibles and accounts evidenced by an electronic record)を対象にしたもの。  デジタル財産が証券又はコモディティかや、デジタル財産への課税、送金業 者法やマネーロンダリング法のデジタル財産への適用の論点は取り扱わず。 【第12編の条文】 Section 12-101. タイトル Section 12-102. 定義 Section 12-103. 第9編及び消費者法との関係 Section 12-104. 支配可能な売掛債権、支配可能な電子記録、支配可能な支払無体財産における権利 Section 12-105. 支配可能な電子記録の支配権 Section 12-106. 支配可能な売掛債権又は支配可能な支払無体財産に関する債務者の弁済 Section 12-107. 準拠法 • 第12編は、電子記録で構成又は証明される一定の財産に付随する権利(所有権や担保権といった財 産権)の移転を規定する法の欠缺を埋めるものであるとされている。 • 特に、現行の第9編には、①対象財産の分類が必ずしも明確ではない、②(明確な場合でも)譲渡さ れた権利が第三者の請求に服さないものであるかを確認することが困難といった課題があった。 5
  6. Section 12-102. 定義  「支配可能な電子記録(Controllable Electronic Record:CER)」 UCCにおける新たなカテゴリーであり、後述のSection 12-105.に定める「支配 権(control)」に服し得る電子媒体に保存された記録を意味し、以下のものを 含まない: • 支配可能な売掛債権(controllable account) • 支配可能な支払無体財産(controllable payment intangible) • 預金口座(deposit account) • 動産担保証券を証明する電子記録(electronic copy of a record evidencing chattel paper) • 権原の電子文書(electronic document of title) • 電子マネー(electronic money) • 投資財産(investment property) • 移転可能記録(transferable record) ⇒これらは引き続き既存の関連商事法の規定による。なお、コメンタリーによれば、電子記録の 支配権は、必ずしも電子記録に「紐付けられた」関連財産の権利(NFTに紐付けられた不動産や知 的財産権等)にまで拡大される訳ではないとされている。  「支配権」に服さないデジタル財産や、E-SIGN法、統一電子取引法、その他 UCCの他の編のような商事法令で既に規律されているデジタル財産は、CERの 定義からは除外。  支払無体財産(payment intangible)とは、UCC における一般無形財産(general intangible)であって、その債務者(account debtor)の主たる債務が金銭債務 であるものとして定義(UCC§9-102(a)(61))。 6
  7. Section 12-104. 支配可能な売掛債権、電子記録、支払無体財産における権利  「適格買主(qualifying purchaser)」 • 前提として、支配可能な電子記録(CER)の買主(=譲受人)は、(元々 の)譲渡人が有していた又は譲渡する権限を有していたCERに関する全て の権利を取得。但し、CERに対する限定持分のみの買主は、当該持分の範 囲内でのみ権利を取得。 • その上で、「適格買主(qualifying purchaser)とは、CER又はその一定の持 分の買主であって、①CERに対する財産権的主張の通知を受けず(without notice)、②誠実に(in good faith)、かつ③価値あるものとして(for value)、CERの「支配権(control)」を取得する者。  支配可能な売掛債権又は支払無体財産の購入者が「適格買主」に該当するか 否かは、当該買主が、当該売掛債権又は支払無体財産を証明するCERの支配権 を取得したかによる。 7 「適格買主」は、CERに対し競合する請求権があったとしても、当該請求権から 解放された形でその権利を取得し、原則として、CERによって証明される支払の 権利、履行の権利、又はその他の財産的権利を取得する。
  8. Section 12-105. 支配可能な電子記録の支配  電子記録、電子記録に付随又は論理的に紐付く記録、或いは電子記録が記録 されているシステムが以下の要件を満たす場合、CERに対する「支配権 (control)」があるとされる。 1. ①電子記録に係る実質的に全ての利益を自ら利用する権限(※これ自体は「排他 的(exclusive)である必要はない)、②他者がそれを行うことを阻止する排他的権 限、及び③他人に支配権を譲渡する排他的権限を個人に与えるものであること、 かつ、 2. (暗号鍵又はアカウント番号の使用を含む)上記に列挙した権限を有しているこ とを、当該個人が(第三者に対して)容易に特定できるようにするものであるこ と。  「他人に支配権を譲渡する排他的権限を有すること」という要件は、「マル チシグネチャーウォレット」(※トランザクション署名に複数の秘密鍵を必 要とする技術を用いたウォレット)の使用により譲渡する権限が発生する場 合や、CERを記録するシステムに組み込まれたプロトコルの一部として自動的 に変更が行われる場合にも満たされることに留意が必要。  「支配権」の概念が注目に値する理由:CER の定義の重要な部分となっている ことのみならず、CER の支配権を有する者のみが適格買主(qualifying purchaser)となり、後述のいわゆる「テイク・フリー(take-free)」ルールに 従い、CER に係る(第三者による競合する)請求権を免れるため。 8
  9. Section 12-105. 支配可能な電子的記録の支配  「排他的(exclusive)」の意味 以下いずれかの場合であっても、権限は「排他的(exclusive)」であることに 留意が必要: • 支配可能な電子記録(CER)、支配可能な電子記録に付随又は論理的に紐 付けられた記録、或いは電子記録が記録されているシステムが、CERの用 途を制限しているか、若しくは、「支配権」の移転又は喪失、或いは電 子記録によって付与される利益の修正を含む変更を引き起こすようにプ ログラムされたプロトコルを有している場合。 • 本人が、当該権限を他の者と共有することに同意している場合。 9
  10. Section 12-106.支配可能な売掛債権又は支払無体財産に関する債務者の弁済  UCC 第3編における流通証券の正当保持人(holders in due course of negotiable instruments)及びUCC 第8編における有価証券の被保護買受人(protected purchasers of securities)に関する規則と同様の「テイク・フリー(take- free)」ルール。  CERの誠実な買主(被担保権者を含む)が、CERに係る競合する権利の存在を 知らずに「支配権」を得た場合、当該競合する請求権から解放され、CERの権 利を取得することになる。  支配可能な売掛債権及び支払無体財産(債務者がCERを支配する者に支払いを 約束するという意味での売掛債権又は支払無体財産)を除き、「テイク・フ リー(take-free)」ルールはCERに適用されるが、当該CERに付随する他の権利 には適用されないことに留意が必要。 ※例えば、盗難されたNFTを善意で取得した川下買主は、盗難の被害者によるいかなる 請求権からも解放される形で、NFTを取得することになる。 ※例えば、NFTの場合、誠実な買主はNFTを何らの請求権もなく所有することができる ものの、NFTに紐付けられたコンテンツに対するライセンスの下で付与された権利を必 ずしも享受できないことを意味する場合があり、それらについては第12編以外の法が 適用。 10 ※例えば、債務者が支配可能な電子記録(CER)の譲受人に対して請求や抗弁をしない ことに同意した場合、いわば「電子流通証券(electronic negotiable instrument)」を作 成するような効果がある。
  11. Section 12-106.支配可能な売掛債権又は支払無体財産に関する債務者の弁済  支配可能な売掛債権又は支払無体財産に係る債務者は、以下いずれかの支払 いを行うことで、弁済を行うことが可能。 1. (支配可能な売掛債権又は支払無体財産を証明する)支配可能な電子記録(CER) の支配権を有する個人に支払いを行う場合。 2. 以前にCERの支配権を有していた個人に支払いを行う場合(但し、当該債務者が以 下全ての要件を満たす通知(notification)を受けていた場合には、支払債務を履行 したことにはならず、よって支払債務を免れることは不可)。  なお、CERの支配権が移転された場合には、支配可能な売掛債権又は支払無体 財産はCERとともに移転され、当該CERの譲受人が適格買主(qualifying purchaser)であれば、CERに適用される「テイク・フリー(take-free)」ルー ルの恩恵を支配可能な売掛債権又は支払無体財産についても享受。 11 ① 以前に支配権を有していた個人又は支配権が移転された個人によって署名さ れているもの; ② 支配可能な売掛債権又は支払無体財産を合理的に特定しているもの; ③ 支配可能な売掛債権又は支払無体財産を証明するCERの支配権が移転された ことを当該債務者に通知するもの; ④ 名前、識別番号、暗号鍵、事業所、アカウント番号等、合理的な方法で譲受 人を特定しているもの; ⑤ 債務者が譲受人に支払うべき商業的に合理的な方法を提供しているもの
  12. Section 12-106.支配可能な売掛債権又は支払無体財産に関する債務者の弁済  通知が無効となる場合についても規定。 1. 通知される前の時点において、債務者とその時点で支配可能な電子記録(CER)の 支配権を有していた者が、支配権が移転されたことを合理的に証明できる商業上 合理的な方法に、署名した記録で(in a signed record)同意していない限りにおい て、通知は無効。 2. 債務者と支払無体財産(payment intangible)の売主との間の合意が、売主以外の 者に支払うという債務者の義務を制限し、その制限が本第12編以外の法で有効で ある限りにおいて、通知は無効。 3. 債務者の選択により、以下の事項のために債務者に通知された場合、通知は無効。 ① 支払いを分割するため。 ② 分割又はその他の定期的な支払いの全額を少なくするため。 ③ 支払の一部を複数の方法で、または複数の人に支払うため。 12  その他、債務者の求めに応じ通知を行った者が支配権が移転された旨の合理 的な証拠を提出しなければならないであるとか(提出できなければ元の支配 者への弁済は有効)、当該合理的な証拠の内容等について規定。
  13.  UCC 第12編には、支配可能な電子記録(CER)の買主(purchaser)のための 「テイク・フリー(take-free)」ルール、並びにCER、支配可能なアカウント 又は支払無体財産に対する担保権の対抗要件(perfection)、支配権 (control)、優先順位に関する法の選択規定が含まれている。  原則として、支配可能な電子記録(CER)の管轄区域(jurisdiction)の現地法 が、UCC 第12編の対象となる事項に適用。  CERの管轄区域は、CER又はCERを規律するルールにおいて指定することが可能。 管轄区域が明記されていない場合、コロンビア特別区(Washington, D.C.)が CERの管轄区域となるのがデフォルトルールとなっている(或いは、コロンビ ア特別区がUCC 第12編の条文を実質的に修正することなく制定していない場合、 準拠法は、あたかもUCC 第12編の条文が有効であるかのようにコロンビア特別 区の法が適用されることになる)。  但し、与信公示書(financing statement)のファイリングによる担保権の対抗 要件の具備の場合は、通常の債務者所在地ルールが適用(優先順位は適用さ れない)。 Section 12-107. 準拠法 13 ①記録又はシステムのルールに 規定された管轄区域 ②記録又はシステムのルールに 規定された準拠法の管轄区域 ③コロンビア特別区 (Washington, D.C.)
  14.  支配可能な電子記録(CER)に係る権利の既存保有者の利益と、今次UCCの修 正に含まれるルールを遵守する新規保有者の利益のバランスをとるため、今 次UCCの修正では、施行日とは別途「調整日(adjustment date)」を規定。  施行日は、新しいルール(一定の優先順位のルールを除く)が施行される日。 但し、CERに係る権利の既存保有者が新たなルールを遵守できるよう十分な時 間を与えるため、施行日前に確立された優先順位を無効にする可能性のある 特定の優先順位ルールは、調整日までは施行されない予定となっている。 • 関連する州においてUCC 第12編が施行された日から少なくとも1年間の「調整日」 が設けられている。 • 例えば、改正前のルールで担保財産に優先権を有する担保権者は、移行期間中もそ の優先権を保持し、ローン契約の当事者に契約を修正し、更新された規則に準拠す る時間を与えることが可能。 UCC 第12編の施行日と調整日 14
  15. 参考①:各文言の定義に関するアップデート  今次UCCの修正では、「ブロックチェーン」「分散型台帳」「公開鍵・秘密 鍵」といった用語ではなく、技術的に中立な用語を使用。今次UCCの修正が、 既知の技術のみならず、将来の技術にも適用されるようにするための意図的 なものとされている。  デジタル経済を反映して様々な用語の定義がアップデートされており、例え ば、「署名(sign)」は電子署名を含むように修正され、「書面(writing)」 は多くの箇所で「記録(record)」に置き換えられ、「明瞭な (conspicuous)」は電子契約にも適用されるように修正。  「貨幣(money)」の定義が修正され、政府が発行する貨幣の形態が、有形の みならず電子的なものもあり得ることが明確になった(中央銀行デジタル通 貨(CBDC)等) 。また、政府によって交換媒体として認可又は採用される前 から存在し、交換媒体として運用されていた仮想通貨は定義から除外されて いる(例えばビットコインは、エルサルバドルを含む2か国の外国政府によっ て交換媒体として採用される前から存在していたため、そのような通貨の一 例となり得る)。もっとも、このような仮想通貨は、「貨幣」ではないとし ても、支配可能な電子記録(CER)に該当する可能性あり。 15
  16. 参考②:UCC 第9編 担保付取引(Secured Transactions)における関連の修正  UCC 第9編の修正は、支配可能な電子記録(CERs)、支配可能な売掛債権及び 支払無体財産における担保権の対抗要件(perfection)と優先順位を明確化する もの。 • CERは「一般無体財産(general intangible)」、支配可能な売掛債権は単に「売掛債 権(account)」、支配可能な支払無体財産は単に「支払無体財産(payment intangible)」になるとされており、これらの財産は既存の担保財産のカテゴリーに 含まれるため、担保契約(security agreements)や与信公示書(financing statement) における既存の担保財産の記載を変更する必要はない。 • CER には通常の担保権設定ルールが適用(例えば、担保権に対して価値(value)が 与えられていること、債務者が担保財産に対する権利又は担保を被担保者に譲渡す る権利(rights)を有していること、債務者が担保契約に署名していること)。 • CER、支配可能な売掛債権又は支払無体財産に対する担保権は、与信公示書のファ イリング又はUCC 第12編が定義する「支配権(control)」により対抗要件を具備さ せることが可能。「支配権」によって対抗要件が具備されたCER、支配可能な売掛 債権又は支払無体財産の担保権は、与信公示書のファイリングによってのみ対抗要 件が具備された担保権よりも優先(与信公示書のファイリング後に支配権が得られ たとしても、支配権が優先;つまり、対抗関係の優劣において、支配権が与信公示 書のファイリングに優先することになる)。 • 今次修正により、「電子マネー(electronic money)」(支配の対象とならないもの は除外され、例えば、政府の中央銀行が発行する仮想通貨が含まれる)という概念 も創設。電子マネーの担保権は、支配によってのみ対抗要件を具備させることがで きる。(但し、電子マネーが預金口座に入金されている場合は、通常の預金口座の ルールが適用)。 16
  17.  各州は、今後数年の間に、今次UCCの修正を制定する予定(※2022年8月時点 で、アイオワ州、インディアナ州、ネブラスカ州、ニューハンプシャー州が 採択)。  今次UCCの修正が特定の州で施行された場合、取引の当事者は、これらのデジ タル資産の譲渡に関する新しいルールを遵守し、今次UCCの修正の最終的な制 定を見越した文書の準備を検討する必要。  現行法の下で既に取引を完了した当事者も、新たなルールを認識し、今次UCC の修正が自らの権利や関連する優先順位に影響を与えるかどうかを検討する 必要。 今次UCC の修正に関する今後の対応 各州が広く制定するまでは、UCC 第12編の影響は限定的であり、ケースバイ ケースで判断する必要があるとみられている。 17
  18.  動産の物権変動は、意思表示のみによってその効力を生ずるところ、物権変動において 権利を取得したものが当事者以外の第三者に自己の権利を主張(対抗)するためには、 「対抗要件」が必要。  この点、動産の物権変動の対抗要件は「引渡し(占有の移転)」とされており(民法第 178条)、この「引渡し」には、①現実の引渡し(同法第182条1項)、②簡易の引渡し (同条2項)、③占有改定(同法第183条)、④指図による占有移転(同法第184条)が 含まれる(これ以外にも、法人が動産を譲渡する場合には「動産譲渡登記」も存在)。  もっとも、占有改定による引渡しは、設定者が引き続き目的物の占有を継続することか ら、第三者から見ると占有改定の存在の有無及びそれがなされた時期が判然としないた め、担保権の公示として不十分ではないかとの問題が指摘。 日本における建てつけと最新動向 18  法務大臣から法制審議会に対し、担保法制の見直しに関する諮問114号がなさ れ、2021年2月の法制審議会第189回会議において、同諮問は新設される「担 保法制部会」に付託して審議することに。  2021年4月以降、法制審議会「担保法制部会」は、担保法制の見直しに関する 広範な議論を継続中(直近の会合としては、第26回会議(令和4年10月11日開 催))。  2022年9月27日に開催された第25回会議の資料「担保法制の見直しに関する中 間試案の取りまとめに向けた検討(9)」では、次のページの内容が提示。
  19. 個別動産又は集合動産を目的とする新たな規定に係る担保権の対抗要件等の在り方を、次のとおりとし てはどうか。 1. 引渡し(占有改定を含む。)を、新たな規定に係る担保権を第三者に対抗するための要件とする。 2. 新たな規定に係る担保権を原因として登記をすることができることとし、登記がされたときは、目 的動産について引渡しがあったものとみなすこととする。 3. 同一の(集合)動産について数個の新たな規定に係る担保権が設定されたときは、その順位は、法 令に別段の定めがある場合を除き、これをもって第三者に対抗することができるようになった時の 前後によるものとする。 4. 登記により対抗要件を備えた新たな規定に係る担保権は、占有改定により対抗要件を備えた担保権 に優先するものとする。 5. 新たな規定に係る担保権の公示の在り方を、次のとおり検討してはどうか。 i. 新たな規定に係る担保権の登記事項(①当事者の特定に必要な事項、②登記原因及びその日付、③目 的物の特定に必要な事項等)は、基本的には現在の動産譲渡登記と同様とする。ただし、目的物の特 定方法の在り方について、検討する。 ii. 登記された新たな規定に係る担保権と同一の目的物に係る他の登記された新たな規定に係る担保権と の関連性を登記記録に示すための方策について、検討する。 iii. (新たな規定に係る担保権について、転担保、担保権の順位の変更、担保権の譲渡・放棄及び担保権 の順位の譲渡・放棄等を可能とすることを前提に)新たな規定に係る担保権について、担保権の内容 (被担保債権の額等)、転担保、担保権の順位の変更、担保権の譲渡・放棄及び担保権の順位の譲 渡・放棄等を登記できるようにすることの必要性とそのための方策について、検討する。 iv. (動産・債権譲渡登記制度一般について)商号の登記をした商人を、登記することができる譲渡人 (新たな規定に係る担保権の設定者)の範囲に含めることについて、検討する。 v. (動産・債権譲渡登記制度一般について)登記手続の利便性向上のための方策(オンライン申請等の 利用促進のための方策を含む。)について、検討する。 法制審議会担保法制部会第25回会議(令和4年9月27日開催) 19
  20. 現行民法の動産物権変動と米国統一商事法典(UCC)第12編の比較 20  前述のとおり、動産の物権変動の対抗要件は「引渡し(占有の移転)」とされており (民法第178条)、この「引渡し」には、①現実の引渡し(同法第182条1項)、②簡易 の引渡し(同条2項)、③占有改定(同法第183条)、④指図による占有移転(同法第 184条)が含まれる(これ以外にも、法人が動産を譲渡する場合には「動産譲渡登記」 も存在;個人はこの「動産譲渡登記」は利用不可)。  この点、現行民法では、不動産以外の「物」は全て「動産」であるとされており(民法 第86条)、また、「物」とは「有体物」をいうとされている(同法第85条)。所有権は 所有「物」について生じる権利であり、同じく「有体物」であることが必要(同法第 206条)。  つまり、無体物であるデータは民法上の「物」ではなく、よって「動産」の範疇にも入 らず、故に動産の物権変動に関するルールに服さないこととなる。  今回新設されたUCC第12編は、「支配可能な電子記録(CER)」という新たな概念を 導入し、当該CER等の支配権がいついかなる形で確立し、また、第三者に対する対抗 要件を具備するのかを規定。  加えて、集合物を含む動産や債権の担保取引を包括的に規定したUCC第9編(担保付 取引)にも係る修正を行うことで、「支配権」によって対抗要件が具備されたCER、 支配可能な売掛債権又は支払無体財産の担保権が、与信公示書のファイリングに よってのみ対抗要件が具備された担保権よりも優先すると規定。 (※なお、UCCのような担保ファイリング制度は、法制審議会担保法制部会で検討の俎上には上がっているものの、 同制度を採用せずに動産譲渡登記制度を見直す方向で進んでいく模様。)
  21. 参考文献  日本貿易振興機構(JETRO)「Uniform Commercial Code(米国統一商事法典):米国」、 https://www.jetro.go.jp/world/qa/04A-011046.html (as of Oct. 2022)。  日本銀行信用機構室「米国の動産担保法制について」(日本銀行調査月報、2003年8月号)、 https://www.boj.or.jp/research/brp/ron_2003/data/ron0308d.pdf (as of Oct. 2022)。  Uniform Law Commission and American Law Institute, “Amendments to the Uniform Commercial Code (2022)” (July 13, 2022), https://www.uniformlaws.org/HigherLogic/System/DownloadDocumentFile.ashx?DocumentFileKey=67fe571b-e8ad-caf8-4530- d8b59bdca805 (as of Oct. 2022).  Skadden, Arps, Slate, Meagher & Flom LLP and Affiliates, “Amendments to Uniform Commercial Code Aim To Provide Clarity on the Transfer of Digital Assets” (The Distributed Ledger: Blockchain, Digital Assets and Smart Contracts, October 6, 2022), https://www.skadden.com/-/media/files/publications/2022/10/amendments_to_uniform_commercial_code_aim_to_provide _clarity_on_the_transfer_of_digital_assets.pdf (as of Oct. 2022).  DLA PIPER, “ULC approves important new amendments to the Uniform Commercial Code for state adoption” (eSignature and ePayment News and Trends, August 2, 2022), https://www.dlapiper.com/ja/japan/insights/publications/2022/08/ulc-approves- important-new-amendments-to-the-uniform-commercial-code-for-state-adoption/ (as of Oct. 2022).  Ashurst, “US Commercial Laws Get Ready for Digital Assets” (DIGITAL ASSETS, August 11, 2022), https://www.ashurst.com/en/news-and-insights/legal-updates/us-commercial-laws-get-ready-for-digital-assets/ (as of Oct. 2022).  Thomson Reuters, “States Begin to Adopt UCC Article 12 Covering Digital Assets” (Practical Law Finance, August 1, 2022), https://ca.practicallaw.thomsonreuters.com/w-036-4779?transitionType=Default&contextData=(sc.Default)&firstPage=true#:~ :text=Iowa%2C%20Indiana%2C%20Nebraska%2C%20and,specifically%20new%20UCC%20Article%2012 (as of Oct. 2022)  SIDLEY AUSTIN, “New U.S. Commercial Law Rules for Digital Assets Coming Soon” ( SIDLEY UPDATE, July 14, 2022), https://www.sidley.com/en/insights/newsupdates/2022/07/new-us-commercial-law-rules-for-digital-assets-coming-soon (as of Oct. 2022).  Vedder Price, “Vedder Thinking | Articles The USS Catches up to Emerging Technology” (Newsletter/Bulletin, April 21, 2022), https://www.vedderprice.com/the-ucc-catches-up-to-emerging-technology (as of Oct. 2022).  Latham & Watkins, “The UCC Gets a Digital Asset Refresh” (August 10, 2022), https://www.jdsupra.com/legalnews/the-ucc-gets- a-digital-asset-refresh-2857883/ (as of Oct. 2022).  Vorys Sater Seymour and Pease, “2022 UCC Amendments Address Emerging Technologies, Including Virtual Currencies” (September 8, 2022), https://www.vorys.com/publication-2022-ucc-amendments-address-emerging-technologies-including- virtual-currencies#:~:text=The%202022%20UCC%20amendments%20allow,that%20exist%20under%20current%20law (as of Oct. 2022).  Wolters Kluwer, “The Uniform Commercial Code (UCC) is amended to address emerging technologies” (September 9, 2022), https://www.wolterskluwer.com/en/expert-insights/uniform-commercial-code-ucc-amended-to-address-emerging-technologies (as of Oct. 2022). 21
  22. 参考文献  森・濱田松本法律事務所「担保法制の見直しに関する議論の動向」(企業再生・債権管理ニュースレター、2021年4月 号)、https://www.mhmjapan.com/content/files/00047993/20210428-123300.pdf (as of Oct. 2022)。  法務省法制審議会担保法制部会資料、https://www.moj.go.jp/shingi1/housei02_003008.html (as of Oct. 2022)。 22
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