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イノベーションを持続する
   知識創造組織
 一橋大学大学院国際企業戦略研究科名誉教授
  株式会社富士通総研 経済研究所 理事長
カリフォルニア大学ゼロックス名誉ファカルティ・スカラー
 クレアモント大学ドラッカー・スクール名誉スカラー

        野中郁次郎
       2011年1月13日(木)
知識創造理論とスクラムの源流
失敗の本質について
        - 日本軍 vs. 米軍の組織論的研究 -
   1.命題:過去の成功への過剰適応 (成功は失敗の元)
     Over adaptation to past success
   2.失敗の現代的課題
     (1)日本的知の方法論の特質と限界
      ① 哲学の欠如
      「我日本古より今に至る迄哲学無し」 (中江兆民)
      ② 暗黙知・経験知傾斜 - 形而上的思考の欠如
      「我が国民が深遠なる哲学を欠くことの原因は武士道の教育制度に
       おいて形而上学の訓練を閑却せしことに求められる」
                               (新渡戸稲造 『武士道』 )
      ③ 言語構造 – 情緒的・即時的物的認識
      「日本軍の最大の特徴は言葉を奪ったことである」
                               (山本七平 『下級将校の見た帝国陸軍』 )
     (2)日本的「知」の再構築
      ① 日本的知と西欧的知の綜合
      ② 知識創造組織の構築:政策決定過程は知の創造プロセス
出所:野中郁次郎、他 『失敗の本質』(1984)
アメリカ海兵隊の有機的組織
                              航空支援
          攻撃航空支援
                                          戦略機動支援
           ハリアー近接支援攻撃機
                                          大型侵攻輸送用ヘリコプター
           ホーネット戦闘攻撃機
                                          中型侵攻輸送用ヘリコプター
           イントルーダー攻撃機
                                          軽侵攻ヘリコプター
           プラウラー電子戦機
                                          攻撃ヘリコプター
           ファントム偵察機
                                          ハーキュリーズ強襲輸送・空中給油機
           ブロンコ観測・攻撃機
                            ライフルマン
    輸送・艦砲支援                拳銃
                            拳銃                     役務支援
                           ライフルM16A2
                            ライフルM16A2
                           グレネード・ランチャー
                            グレネード・ランチャー         ガーター橋    レッカー
   水上戦闘艦
                                                クレーン     水浄化ユニット
   水陸両用艦船
                                                燃料システム   フォークリフト
   攻撃潜水艦
                                                発電機      ブルドーザー
   海兵隊事前集積艦(MPS)              地上支援
                                                トラック     グレーダー
                      戦車           機関銃
                      強襲水陸両用車      対戦車ロケット
                      軽装甲車         対戦車ミサイル
                      榴弾砲          対空ミサイル
                      迫撃砲
出所:野中郁次郎 『アメリカ海兵隊』(1995)
近接航空支援


A-4スカイホーク
  対地攻撃機




                  セスナ機

                         3.セスナ監視機がライフルマンと
                           連絡をとりつつ、スカイホークの
                              ロケット攻撃を誘導

                                             2.本部から東シナ
                                               海の空母に出動
                                               要請。40分以内
                                               にスカイホークが
                            敵の迫撃砲                 出動




                               攻撃を受けるアメリカ軍
1.迫撃砲攻撃を受けた3人ひと組のライフルマ
   ンが海兵隊本部に近接航空支援を要請
                     ベトナム戦争における近接航空支援
海兵空陸機動部隊(MAGTF)
                                   海兵遠征部隊(MEF)                            兵員数
                                          FORCE                       USMC 49,700
                                      HEADQUARTERS                    USN  2,600

          REINFORCED                 MARINE AIRCRAFT                FORCE SERVICE
            DIVISION                      WING                      SUPPORT GROUP
              (陸)                          (空)                          (支援)

                                   海兵遠征旅団(MEB)                             兵員数
                                         BRIGADE                      USMC 15,000
                                      HEADQUARTERS                    USN   900

          REGIMENTAL                 MARINE AIRCRAFT                BRIGADE SERVICE
         LANDING TEAM                    GROUP                      SUPPORT GROUP
             (陸)                           (空)                           (支援)

                                   海兵遠征単位(MEU)                             兵員数
                                        BATTALION                     USMC 1,900
                                      HEADQUARTERS                    USN    110


          BATTALION                  MARINE AIRCRAFT            BATTALION SERVICE
         LANDING TEAM                  SQUADRON                  SUPPORT GROUP
             (陸)                           (空)                        (支援)

1. MAGTFはフラクタル構造:戦闘規模により構成員数は変化するが、基本構造は変わらない。
2. 三階層の原理(the rules of three hierarchy):伍長は3人チーム(squad)、軍曹は3チーム編成
   の小隊(platoon)、大尉は3小隊編成の中隊(company)を各指揮し、同様のパターンは将官まで
   いく。末端の兵卒から大佐までは8階層ある。
海兵隊と日本人気質は似ている?
       “Every Japanese a rifleman”?
 海兵隊のカルチャーは、日本のカルチャーに似ている
      倹約、調和、階層、集団を重んじる
      物理的・心理的に世界から孤立している
      生存のための感覚的本能が核としてある
      明治維新以来、日本は兵士であり続けた-「Every Japanese a
       rifleman」
                  出所:ダン・キャリソン、ロッド・ウォルシュ『アメリカ海兵隊式 最強の組織』1999年 日経BP社


The culture that the Marines most resemble, oddly enough,
is that of Japan. The Marines are almost a Japanese version
of America – frugal, relatively harmonious, extremely
hierarchical, and almost always placing the group over the
individual. (…) One can almost hear the phrase, “Every
Japanese a rifleman.”
                  Source: Ricks, T.E. (1997). Making the Corps. Scribner. New York: NY. Pp.199-200.
組織の「分化」と「統合」
        目標志向性     時間志向性        対人志向性        部門組織構造

                                           公式の規則・手続
                 短期(時間単位の
        原価、品質、                 職務中心の       き、業績評価など
 製造              生産高や品質管理
        能率、目標                   スタイル       の厳格な統制に
                  を問題とする)
                                             依存する

                 中期(週あるいは
マーケ    売上、マーケット・          人間関係中心の 製造と研究分門の
                 月単位の売上高を
ティング    シェア目標、              スタイル  中間程度の公式性
                  目標とする)


                 長期(半期あるい                  公式の規則・手続
        科学・技術の   は年間の新製品・      職務中心の       き、業績評価など
研究開発
          目標     新技術の開発を問       スタイル        に依存しない
                   題とする)                    柔らかな統制


                  出所:P・ローレンス/J・ローシュ 『組織の条件適応理論』(1967)
スクラム アプローチ
     “The New New Product Development Game”
連続的 (A) vs. 重複的 (B 及び C) 開発フェーズ

 A
フェーズ        1                   2                  3                   4                   5                    6
(リレー)

 B
フェーズ       1              2              3           4             5              6
(サシミ)

 C
フェーズ 1          2       3        4       5          6
(スクラム)

     出所: Takeuchi, H. & I. Nonaka. (1986). The new new product development, Harvard Business Review January-February, 1986.
スクラムを前へ進めるために
1.   不安定な状態を保つ
        メンバーには高い自由裁量と同時に、極端に困難なゴールを与える
2.   プロジェクトチームは自ら組織化する
        設立したばかりの企業のように、「情報ゼロ」の状態から始めると、メンバーは自
        律、自己超越、相互交流を自ずと始める
3.   開発フェーズを重複させる
        開発フェーズを重複させることで、「分業の共有」という状態を作り出し、メンバー
        はプロジェクト全体に責任感をもつようになる
4.   「マルチ学習」
        メンバーの学習は、職位と機能の2つのレベルで行われる。
5.   巧みにマネージする「マルチ学習」
        放任せず、自己管理、メンバー間管理、と愛情による管理を強調する
6.   学びを組織で共有する
        過去の成功・失敗からの学びの習得・忘却を組織内で浸透させる

     Source: Takeuchi, H. & Nonaka, I. (1986). The New New Product Development, Harvard Business Review January-February, 1986.
なぜ知識創造理論が必要か
知識は今日唯一の意義ある資源である。
今言えることは、何らかの理論が必要とされている
こと、つまり、知識を富の創造過程の中心に据える
経済理論が必要とされているということである。そ
のような経済理論のみが、今日の経済を説明し、
経済成長を説明し、イノベーションを説明すること
ができる。



       P. F. ドラッカー 『ポスト資本主義社会』 ダイヤモンド社 1993年、P.303
                                          © Nonaka, I
『知識創造企業』と『流れを経営する』の命題
The knowledge Creating Company and Managing Flow

 企業は知識創造体で                企業は知識を知恵化する
     ある                     プロセスである




                                           © Nonaka, I
日本にはイノベーションがない
  景気対策が世界手最も下手な国という賞があれば
  、日本は間違いなく受賞する。内需が広がらない
  のはイノベーションがないからだ。日本は真似が得
  意でここまで追い付いた。追い抜くにはイノベーシ
  ョンが欠かせない。
  米国文化の方が経済成長に適している。われわれ
  は産業主体の経済から知識主体の経済に移って
  いる。ジョブズやゲイツ、ディズニーがつくり出すよ
  うな知識だ。人々は楽しいものには金を払う。今の
  日本にはあまり楽しいことがない。

出所:日本経済新聞社(2010)レスター・サロー「経済成長だれが担う」2010年8月1日 日本経済新聞電子版ニュースにもとづく
知識とは
   主観的である。
    信念を基盤にし、文脈に依存する
   プロセス・関係的である。社会における相互作用
    から生成される
   審美的である。
    真・善・美の絶え間ざる追求である
   実践を通じて知恵化される。
従って、知識とは、個人の信念が真実へと正当化
されるダイナミックな社会的プロセスである。
     出所:野中郁次郎、遠山亮子、平田透 『流れを経営する』 2010年、東洋経済新報社
知識は人が関係性の中で創る資源である
知識の最大の特質は、「人が関係性の中で創る資源で
ある」ということである。知識は天然資源のように誰かに
発見されて回収されるのを待っている自己充足的な物
的資源ではなく、人が他者あるいは環境との関係性の
中で創り出すものであり、そのときの状況や知識を使う
人の特質(思い、理想、主観、感情など)によってその意
味や価値が変わってくる資源なのである。(中略) 知識
を理解するためには、われわれは何よりもまず人間を
理解する必要があることを意味する。「信念」を抱くのも
それを正当化するのも人間だからである。
   出所:野中郁次郎、遠山亮子、平田透 『流れを経営する』 2010年、東洋経済新報社


                                      © Nonaka, I
知識創造は暗黙知と形式知の相互変換運動である


 暗黙知 (Tacit Knowledge)   形式知 (Explicit Knowledge)

言語・文章で表現するのが難しい          言語・文章で表現できる
主観的・身体的な経験知              客観的・理性的な言語知

特定の文脈ごとの経験の反覆に           特定の文脈に依存しない一般的な
よって体化される
                         概念や論理(理論・問題解決手法・
思考スキル(思い・メンタル・モデ
ル)や行動スキル(熟練・ノウハウ)        マニュアル・データベース)


                相互作用の
               スパイラルアップ
              アナログ知-デジタル知の動的綜合
                                           © Nonaka, I
組織的知識創造プロセス
                   - SECIモデル -
 身体・五感を駆使、                 暗黙知                            暗黙知                      対話・思索・喩えによ
 直接経験を通じた                                                                          る概念・図像の創造
  暗黙知の獲得、
 共有、創出(共感)
                       共同化(S)                        表出化(E)                           (概念化)

                         Environment                  E        O I                 4.自己の暗黙知の
                                                                                     言語化




                                                                             形式知
                 暗黙知
1.組織内外の活動による
                                                           I             I         5.言語から概念・原型
  現実直感                                                         Group
                           I       Individual                                       の創造
2.感情移入・同期・気づき・                                             I             I
  予知・イメージの獲得                                                         I             形式知の組み合わせ
3.暗黙知の伝授、移転
                                                                                   による情報活用と知
                                                                                   識の体系化(分析・モ
                       内面化( I )                        連結化(C)                         デル化)
                 暗黙知




 形式知を行動を                               O              E                            6.概念間の関係と仮説の生




                                                                             形式知
                                                                G
 通じて具現化、                           G                                                 成、モデル化
新たな暗黙知として                      I                          G    Org. G              7.形式知の伝達・普及・共有
理解・体得(実践)                                                                          8.形式知の編集・操作化、
                          E                                     G                    シュミレーション、ICT化
9.実験・仮説検証を通じた
  形式知の血肉化
10.行為のただ中の熟慮と              形式知                                 形式知
   フィードバック
       I = 個人(Individual) G = 集団(Group) O = 組織(Organization) E = 環境(Environment)
                               © Nonaka I. , H. Takeuchi, N.Konno,
イノベーションはSECIスパイラルである

直接経験を通じて現実に共感し共同化
(Socialization)、気づきの本質をコンセプトに
凝縮し表出化(Externalization)、コンセプトを関
係づけて体系化し連結化(Combination)、技術、
商品、ソフト、サービス、経験に価値化し、知を
血肉化する内面化(Internalization)と同時に、
組織・市場・環境の新たな知を触発し、再び共
同化につなげる。このSECIの「高速回転化」が
創造性と効率性をダイナミックに両立させる知
の綜合力(Synthesizing Capability)である。
                             © Nonaka I.
知識創造組織の基本構成要素
         ビジョン          環境
                     (エコシステム)
        (WHAT)


                    対話
物
的                  (WHY)
・           駆動目標
知
的
                        場
資    実践               (動的文脈)
産   (HOW)




                           Copyright: Nonaka & Toyama, 2009
知識創造組織モデルの構成
知識ビジョン     「われわれは何のために存在するのか」企業がつくり
           たい未来。真・善・美を希求する絶対価値
           (手段にならない究極の志)
駆動目標       ビジョンを実現するために対話・実践を絶え間なく駆
           動するエンジンとなるような価値命題
対話         暗黙知を形式知化し共有するための思考の弁証法
           (思いと概念の矛盾の止揚プロセス)
実践         形式知を暗黙知化し蓄積するための行為の弁証法
           (概念と結晶化の矛盾の止揚プロセス)
場          知を創発させるダイナミックな文脈(コンテクスト)の
           共有プロセス(プラットフォーミング)
知識資産       知識創造プロセスのインプット・アウトプット
環境        企業に影響を与える組織、制度、個人、顧客、供給
 (エコシステム) 業者のコミュニティ           © Nonaka I.
知識は関係性の中で創られる
     -知のグローバル・エコシステム -
顧客、供給業者、パートナー、競争業者、大学、地域、政府などの
ステークホルダーは、多重の場を構築して関係性をダイナミック
に生成し変容させていく。競争し、協働することで、組織的な壁を
超越していく。
                  大学              行政
     顧客



          場
                       場      地域社会

  供給業者

              場
                           競争業者
          企業

                                       © Nonaka I.
知識創造組織モデルのダイナミズム

暗黙知(実践)と形式知(対話)のダイナミズム
駆動目標が生み出す矛盾解消のダイナミズム
場(共有された動的文脈)のダイナミズム
知識資産(知識創造プロセスのインプットであ
 りアウトプット)生成と利用のダイナミズム
企業と環境(知のエコシステム)との関係性の
 ダイナミズム
プロセス哲学の世界観と人間観
          -ホワイトヘッドを中心として-
  世界は「コト」からなる
        その都度の最も具体的な「出来事(event)」の連続的生成消滅する
         世界、すなわちプロセスこそ実在である(Process is Reality)
         「万物流転」(All Things Flow)
  プロセスの本質は未来に向けた創造的統合
        「有る(Being)」より「成る(Becoming)」である。
        「現在」とは過去の凝縮、未来へ開かれた状態
  人間はユニークな経験そのもの
        「活動的存在(Actual Entity)」
        経験は「こと」という関係性/プロセスのなかで成り立っている
        「いま、ここ」の瞬間における経験を積み重ね、新たな存在を生成し
         続ける
  コトはモノを含む
        「モノ(thing)」は、連続性(動詞的状態)から切り取られた、特定の状
         況・時間(名詞的状態)。
出所:野中郁次郎、遠山亮子、平田透 『流れを経営する』 2010年、東洋経済新報社   © Nonaka I.
イノベーション組織化の要件


 場とアジャイル・スクラムシステム


 フロネティック・リーダーシップ
イノベーション組織化の要件


 場とアジャイル・スクラムシステム


 フロネティック・リーダーシップ
イノベーションを支援する場づくり
       -Ba:Shared Context in Motion-
        相互主観性/Intersubjectivity




開放     閉鎖
               生きた文脈の共有         閉鎖          開放

                     Ba
               (プラットフォーミング)
相互主観性とは、相互に他者の主観を全人的に受け容れ、関わり、共同化された
合うときに成立する、自己を超える「われわれ」の関係性である。
                                       © Nonaka I.
「場」とは、時空間における環境・組織・個人
     の相互浸透プロセスである

     時間
                 環境
     空間


           個人    場        組織
“いま・ここ”に
おける関係性      共感・共有・共鳴
の連続的変化          (相互主観性)
                          © Nonaka I.
場は共同化を促進する
        ‐身体的、精神的触れ合い‐
   身体感覚は相互に浸透する:
    間身体性(Intercorporeality:
    メルロ・ポンティ)

   ミラーニューロンの発見 :
    鏡のように相手の行動を自分に映す神
    経細胞」が発見された。身体行為の模倣
    によって、自分の体験に照らし合わせて
    他人の心を推定する
(Iacoboni, etal:2005, Rizzolatti:2005)

                                         © Nonaka I.
ホンダのワイガヤ

三日三晩の場
  を共有
                  チーム

               思考の飛躍
              コンセプト構築
  個
  こ故
          向き合う
         個の殻を破る
         徹底した議論
ホンダ:ワイガヤのプロセス
          三日三晩の生きた時空間の共有
  会社負担で場(よい宿とよい食事、よい温泉)を手配
      日常的仕事環境からの脱却 - 間身体性の成立
  初日: 個と個のぶつかり合い
      話は上司の悪口、不満、対立から始まる
      徹底的に話させると、喧嘩も起きるが逃げ場がない
      そのうちうわべの形式知が尽き、全人的に向き合う
  二日目: 相互理解・許容
      違いを認める、お互いの思いを知るようになる
      気に入らない相手の意見も全人的に受け入れる
  三日目:自己意識を超えた深みから生まれる相互主観
   の創造性
      建設的思考、コンセプトの飛躍が生まれる
出所: 小林三郎 「知識創発型研究開発マネジメント~ホンダ~」 『知識創造経営とイノベーション』 野中郁次郎・遠山亮子 (編) 丸善 2006
場の重層的展開
-トヨタプリウスの開発-
        技術の横展開・異質技術
         の知の融合と創発
        RE:レジデンシャル・エン
         ジニアリング手法
          設計者が試作段階で現場
           に一時的に滞在し、つくり
           やすさ、製品の安定性、品
           質や性能向上など現物を
           前にした作業者との対話
           のなかでスピーディな設計
           変更を繰り返す。
          量産段階では逆REを展開
           する。
               © Nonaka I. & T. Hirata
プリウス・プロジェクトの場の重層的展開




出所:野中郁次郎、遠山亮子、平田透 『流れを経営する』 2010年、東洋経済新報社
アジャイル・スクラム
    - ソフト開発は知識創造プロセス -
アジャイル・スクラムは、開発進行中にチームメンバーの共同化、
表出化、内面化と、技術的な知識の連結化を促進し、その結果と
して、技術的な専門知識を実践共同体としてのコミュニティの資
産へと変換する(野中、1995)。
したがって、スクラム会議は、チー
ムメンバーの知識を共同化し、互い
の文化的な壁の超越を促進する。
会議が毎日、同じ場所、同じ時間、
同じ参加者で行われることによって
自律的な場を創り、場への親密さを
高め、知識を共有する習慣を形成
し、日々の開発プロセスの改善を促
進する。
      出所: Sutherland, J. et al. Scrum: An extension pattern language for hyperproductive software development.
Sony
   ストリンガー革命による新経営体制
 「サイロの破壊」と「ソニー・ユナ
  イテッド」:
  ソニー版の「破壊と創造」
 事業部制の縦割り構造から、ヨ
   コのプラットフォームへと変革
 ストリンガー:懐の深い英国紳士
  (Sirの称号)
 プロジェクト・マネジャー的な水
   平型リーダー
 決断力と行動力を備え、真摯に
   愚直に実行する「全身革命家」
Sony
組織内外の場で、商品間・地域間にヨコ串を刺す
 技術者同士の顔の見える研究開
  発:研究開発・共通ソフトウェアプラット
 フォーム
 ハード担当の技術者とソフト担当の技
  術者が同じフロアで商品開発
 社内人脈とオープンイノベーションによ
  って、研究開発のスピードを促進
消費者一人ひとりの顔の見える販
売:グローバルセールス&マーケティング
プラットフォーム                コンスーマ―プロダクツ&デバイスグループ(CPDG)には、テ
 商品への反応を直接顧客から聴き、感     レビ、デジタルカメラ、オーディオ・ビデオ事業など、ネットワーク
                         プロダクツ&サービス分野には、ゲームやPC、その他ネット
  じ取って、商品に反映                      ワーク事業が含まれる

 直営店で消費者一人ひとりにSonyの世
  界観を総合的に提案
 ローカルの人材力をベースに、世界同     シナジー効果の発揮を狙う
  時展開によるグローバルなインパクトで     「ソニー・ユナイテッド」
  競争力を発揮
日立製作所
                    「現場の知」を生かす
  「情報化社会」から「知的創造社会」への創生に向けて
  、人間知と情報システムの利活用の質を高めることが
  期待される。その実現の鍵の一つは「現場の知」を活
  用することにある。(中略)「暗黙知」と呼ばれる知の領
  域の利活用が、進化の重要なヒントとなるのである。
  最も創造的で、最も不確実でリスクを伴う、やっかいだ
  が魅力のあり人間の知、これを上手く引き出し、コント
  ロール(融合活用と抑制の両側面操作)することで、新
  しいソリューションが生まれる。これは単独の知では限
  界がある。さまざまな社会を構成する人間の協創、コ
  ラボレーションが必要になってくる

出所:谷岡克昭、北川央樹、赤津雅晴(2010)「知的創造社会に向けたイノベーションと日立グループの取り組み」『日立評論 Vol.92 No.07』に基づく
日立製作所
  新たな価値を創造するエクスペリエンス指向アプローチ
 「人間中心設計」:ICTの激しい技術革新の中でも常に顧客に寄り添
  い、顧客の現場を大切にする
  インタビューや現場観察により、顧客の暗黙知を可視化する:本質の発見と理解
  対話を通して顧客のニーズ、実現したい価値などを言語化する:新たな価値の
   創造
  これまでの検討内容を実現可能性や効果の観点で精査し、全員が納得できるプ
   ロジェクト計画の全体像を描く:共感、納得による推進力

                新たな                   共感と納得          新たな価値を協創する
                価値


      社内                    社外        対話と検討      顧客の感情に共感、共振、共鳴する
     専門家                   専門家
                顧客、
                ステー
                クホル                    インタビューと
                                                  顧客の体験に焦点をあてる
                 ダー                      観察

出所:北川央樹、板野裕、豊田誠司、鹿志村香(2010)「システム開発に新たな価値創出をもたらすエクスペリエンス指向アプローチ」『日立評論 Vol.92
                                 No.07』に基づく
知を創発させる場の要件
① 自己超越的な意思・目的をもつ自己組織(セルフ・
  オーガナイジング)
② 自他の感性、感覚、感情が直接的に共有される(間
  身体性)
③ 場で生成する「コト」の傍観者でなく当事者として全人
  的に関わる(コミットメント)
④ 他者との関係性のなかでの自己認識(メタ認知)
⑤ 境界は開閉自在で中心は動く(細胞の浸透可能性)
⑥ 異質な知の矛盾と効率よいインターフェイスの両立
  (球体の最尐有効多様性)

         出所:野中郁次郎、遠山亮子、平田透『流れを経営する』 2010年 東洋経済新報社
イノベーション組織化の要件
  -集合実践知経営に向かってー


 場とアジャイル・スクラムシステム


 フロネティック・リーダーシップ
不確実な世界には、
           実践知のリーダーシップが必要
 知のグローバル・エコシステムはリスクに直面している:宗
  教・倫理・政治など価値観の問題、環境保全、技術革新や
  人口動態の変化など。
 我々がいま必要なのは、フロネシス(実践知)のリーダーシ
  ップである。フロネシスを有する人をフロニモスという。
     共通善のために「何をすべきか」を知り、高い志を持ち、何が社会
      全体の善であるかを見定める
     同時に、最前線に立ち、具体的で微細な変化も見落とさず、歴史的
      大局観につなげる
     全てが文脈に依存すると知りつつ判断し、全てが変化の只中にあ
      ると知りつつ決断し、全てがタイミングに依存すると知りつつ行動を
      起こす
出所:Nonaka, I., and Takeuchi, H. (forthcoming). “ Cultivating Leaders with Practical Wisdom”
                                                                                              © Nonaka I.
アリストテレスのフロネシス:Phronesis
賢慮(Prudence)、実践的知恵(Practical Wisdom)
共通善(Common Good)の価値基準をもって、個別のそ
の都度の文脈のただ中で、最善の判断ができる実践知
である。
個別具体の文脈で「ちょうど(just right)」な解を見つけ
 る能力
個別と普遍を往還しつつ、熟慮に基づく合理性とその
 場の即興性を両立させる能力
動きながら考え抜く「行為のただ中の熟慮」
 (Contemplation in Action)
Contextual Judgment (文脈に即した判断)
    + Timely Balancing(適時・絶妙なバランス)
                                 © Nonaka I.
実践知リーダーシップの6能力
    - フロネティック・リーダーシップ -
 フロネシスとは、倫理の思慮分別をもって、その都度
 の文脈で最適な判断・行為ができる実践知

 ⑥実践知を組織化        ①「善い」目的
  する能力            をつくる能力


⑤概念を実現する               ②場をタイムリー
 政治力                    につくる能力


 ④直感の本質を         ③ありのままの現実を
                  直感する能力
  概念化する能力         © Nonaka I., H.Takeuchi, R. Toyama, N. Konno
実践知リーダーシップの3大能力
  - フロネティック・リーダーシップ -
①大局観               ②場づくり
現実を直視して本質を掴み       組織内外の関係性をダイナミッ
だし、そこから未来の構想       クにとらえ、関係性を変えていく
を描く                ことで未来の構想を実現する

       大局観         場づくり




                    ③人間力
             人間力
                     実践知を持った次世代
                     リーダーを育成する
                          © Nonaka I., H.Takeuchi, R. Toyama, N. Konno
大局観:ミクロ・マクロのスパイラル
        現実を直視して本質を掴みだし、
         そこから未来の構想を描く
                           その場で概念を紡ぎ合う:言語化によって
                             初めて自己の考えが明確になる




    対象に棲み込む(Indwelling):
あらゆる状況の手がかりを統合して対象に住
み込み、ライダーの視点(内側)から切開して
       いく暗黙的な知り方
 「マシンを見ていると、いろんなことがわか
 ります。あのカーブを切るには、ああやれば、
 こうすればと・・・。そして次の製作過程へ自
      然に入っているんです。」                   写真提供:本田技研工業
場づくり:レトリック
         概念を実現する政治力

        マン島TTレース出場宣言
 全従業員諸君!
 本田技研の全力を結集して栄冠を勝ち取ろう、本田技研の将来は一に
かかって諸君の双肩にある。ほとばしる情熱を傾けていかなる困苦にも
耐え、緻密な作業研究に諸君自らの道を貫徹してほしい。本田技研の飛
躍は諸君の人間的成長であり、諸君の成長はわが本田技研の将来を約
束するものである。 […]日本の機械工業の真価を問い、これを全世界に
誇示するまでにしなければならない。わが本田技研の使命は日本産業
の啓蒙にある。[…]ここに私の決意を披歴し、TTレースに出場、優勝する
ためには、精魂を傾けて創意工夫に努力することを諸君とともに誓う。
右宣言する。


                     出所: Honda Top Talks 『語りつがれる原点』
現実歪曲空間(Reality Distortion Field)
人々の意識を自分の世界にぐ~んと曲げて引き込む

現実歪曲空間はカリスマ的なレトリック、不屈の
精神、いかなる事実をも自らの目的に従わせよ
うとする熱意が寄せ集まったものだ。ある論法
で説得できなければ、彼は次の論法にうまく移
行する。ときには相手の意見を突然自分の意
見のように言い出して、相手を面食らわせること
もある。自分が別の意見を持っていたことは認
めようとしない。
      Source: Karney, L. (2008/2009). 『スティーブ・ジョブズの流儀』ランダムハウス講談社、P.197
人間力:組織的綜合力
    実践知を組織化し、実践知を持った
      次世代リーダーを育成する

個人の全人格に埋め込まれている賢慮を、実践
のなかで伝承し、育成し、自律分散的賢慮
(distributed phronesis)を体系化する能力。
そうすることによって、何が起ろうとも、弾力的・
創造的に、リアルタイムで対応できるしなやかな
組織(resilient organization)を構築できる。


                             © Nonaka I.
自律分散リーダーの育成
       ホンダ

ホンダはトップだけが頑張るような会社ではあり
ません。製造現場の一人一人がものすごく重要
なんです。ですから、従業員全員が本田宗一郎
にならなきゃいけない。大勢の本田宗一郎を作
ることが、ホンダにとっては大切なんです
                    - 福井威夫社長


           出典: 赤井邦彦 『「強い会社」を作る』 文春新書 (2006)
実践知の基盤
教養(Humanity)
 哲学、歴史、文学、レトリック、芸術、数学(プラトン)、
 物語(ギリシア悲劇・アリストテレス)・・・
 ※人類学、生物学、デザイン学、政治学、都市計画学、
 神学

至高経験(Peak Experience)
 可能性への限界(死)への投企(ハイデガー)、純粋経験
 (西田幾太郎)、フロー体験(チクセント・ミハイ)、
 極限体験(畏敬)、手本との共体験、失敗・成功体験・・・

実践と伝統
 職人道(Artisanship),型
 高い卓越性の評価基準
 ※Moon Shots for Management (HBR4,2009)
                                          © Nonaka I.
実践知育成の基本は徒弟制度
実践知=座学 (・・・多くのMBA教育はここだけ)
 + 実践の場の経験 + フィードバック

リーダーは訓練を通じてしか育たない
 難度の高い仕事への挑戦と、適時の具体的な評
  価と内省によるフィードバックによって、判断力や
  精神力の成長を促進する
 飛躍的成長が期待できる



             出所:ラム・チャラン『CEOを育てる』2009年 ダイヤモンド社に基づく
徒弟制度モデル
 コンセントリック・ラーニングと意識的練習のスパイラルアップ
 コンセントリック・ラーニングによって、より広範囲で困難な仕事
  を重ねてコア能力を拡大する(A→B→C)
 実践・メンター(上司)のフィードバック・自己修正を繰り返す意
  識的練習の積み重ねによって、脳内に自動的・直観的に特定
  の反応をする経路が刻まれ、一流の判断力の基盤となる
 コア能力の意識的練習の
  継続によって、新たな能力
  の習得と、思考の革新が 成長度         A B C

     一気におきる
 徒弟制度によって、上司が
  部下に適時適切な課題を
  与え、フィードバックを与え
    て成長を促進する                    時間
                  出所:ラム・チャラン『CEOを育てる』2009年 ダイヤモンド社、P.98.
実践知リーダーシップ
                を伝承するシステム
        - 人事権をもたずに革新に挑むLPL-
                        LPL
                      開発責任者


      設計PL             テストPL     デザインPL
    ●エンジン             ●エンジン     ●レイアウト
    ●ボディ              ●風洞       ●エクステリアデザイン
    ●サスペンション          ●衝突       ●インテリアデザイン
    ●艤装               ●エミッション   ●カラー/表皮
    など                ●耐久       ●デザインデータ
                      など        ●デザインモデル
出所: 本田技研工業株式会社 社内資料             など
集合実践知:ミドル・アップ・ダウン
  壮大な理論(あるべき理想)

        トップ

矛盾解消
       中範囲コンセプト
         ミドル




矛盾

       (現実はこうだ)   知識の転移


         フロント             © Nonaka I.
実践の型
       -動的知識資産-

「型」とは、「規範とされる一定の体勢や動作」
のことで、理想的な動作の核となる
良い「型」はクリエイティブ・ルーティンを養成す
る原型として機能し、より高い自由度を与える
守(型を学ぶ)、破 (型を破る)、離(型から離
れる)は、創造的に自己革新を継続するため
に重要である

                     © Nonaka, I
実践知とはあやうい知である
    実践知のリスクは高く、成功確率は帰納法より低い
    だが、創造的想像力による飛躍を可能にする

 実践的推論のプロセス                                    共通善

企業の社会
的存在意義を           ステップ 3:
追求する             実践結果から            目標
                 仮説を見直す
                        目標       ステップ4:
                                 目標を修正する
 ステップ 1:     ステップ 2:             (理想と現実の間の矛盾を克服する)
 目標を設定する     目標達成の手段の仮説を立て実践する
 (何を達成したいか?) (「いま・ここ」の文脈で最も良い選択肢を選ぶ)
出所:野中郁次郎、紺野登、 『美徳の経営』
                             場を通じた重層的フィードバック
                                                時間
NTT出版2007年
日本企業の知の型
   トヨタ            ホンダ        キヤノン        ユニクロ
                                        すぐやる、全部
 「先入観を持たず、  三現主義:現場に      自分自身のゴー
 白紙になって生      行くこと、現物・     ルを設定する      やる、絶対やる。
 産現物を観察せ      現状を知ること、                 即断、即決、即
                            全体最適化を考
 よ。対象に対して     現実的であること                 実行
                           える。社長の視
 『なぜ』を5回繰り    理論とアイディア    点で見る         現場主義を徹底
 返せ」          と時間を尊重する                 的に磨き込む:
                            わかりやすい言
 「原因」より「真    こと                       実践しながら考
                           葉を使う。深い
 因」。原因の向こ                              えるというのは「
              A00-何のために   思慮から自分の
 うに側に真因が                               体を使う」こと
              やるのか?        言葉で表現せよ。
 隠れている                                  全員経営:店長
              A0-コンセプトは    生きた経験に基
 社内外との比較
                                       が本当の商売人
              何か?          づかない言葉に
 を通し、自らの実                  は意味がない       手抜きや程度の
              A-スペックは何か
 力を把握する                                低い仕事は仕事
              ?
                                       じゃない:真善美
                                       を問う
                                           © Nonaka I.
創造とは一回性の中に普遍を見ること
目的意識を持って、「一期一会」の一回性を愛おしむ
    現在のめぐり逢いをきっかけに、過去の体験を再解釈
     ・再構成して、偶然の出会いを運命の出会いに変える
    偶然の幸運を生かし、偶然を必然に変える(偶然、
     幸運に出会う能力「セレンディピティ」)
    日々の凡事の中の底光りする潜在的な可能性やより
     大きな関係性、日常の連続的なダイナミクスに気づく
     (カオス理論の「蝶の羽ばたき効果」)

日々の絶え間ざる卓越性(Excellence)の追求
(常識の非常識化)
                          © Nonaka I.
実践知リーダーシップ
          -Phronetic Leadership-
    形式知
     客観
     言語                                   共通善
     普遍                        感性
    理想主義
場

                                    型
                                   (クリエイティブ・ルーティン)




             主観
             経験
            個別具体
            現実主義                        生活世界
               暗黙知                             © Nonaka I.
実践知のリーダー
   「動きながら考え抜く」(Contemplation in Action)
頭 Mind          「身体化された心」         体 Body
思索家 Thinker                       実践家 Doer
                 Embodied Mind




                  知的体育会系
              “Intellectual Muscle”
                  共通善に向けた
                「よりよい」の無限追求
                                       © Nonaka I., Toyama R.
実践知経営の本質
 ‐存在論と認識論を「行為」する -
存在論:「どう在るか」 -意味を問う
- 「どう生きたいのか」 未来投企のビジョン/共通善
とコミットメント

認識論:「どう知るか」 -真理を問う
- 「何が本当なのか」 暗黙知と形式知、主観と客観、
ミクロとマクロの相互変換
その本質は、利益追求マシンとしての経
営を越えて、経営をよい「生き方」のプロセ
スとして日々練磨する企業観である。
                         © Nonaka I.

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イノベーションスプリント2011_野中先生

  • 1. イノベーションを持続する 知識創造組織 一橋大学大学院国際企業戦略研究科名誉教授 株式会社富士通総研 経済研究所 理事長 カリフォルニア大学ゼロックス名誉ファカルティ・スカラー クレアモント大学ドラッカー・スクール名誉スカラー 野中郁次郎 2011年1月13日(木)
  • 3. 失敗の本質について - 日本軍 vs. 米軍の組織論的研究 - 1.命題:過去の成功への過剰適応 (成功は失敗の元) Over adaptation to past success 2.失敗の現代的課題 (1)日本的知の方法論の特質と限界 ① 哲学の欠如 「我日本古より今に至る迄哲学無し」 (中江兆民) ② 暗黙知・経験知傾斜 - 形而上的思考の欠如 「我が国民が深遠なる哲学を欠くことの原因は武士道の教育制度に おいて形而上学の訓練を閑却せしことに求められる」 (新渡戸稲造 『武士道』 ) ③ 言語構造 – 情緒的・即時的物的認識 「日本軍の最大の特徴は言葉を奪ったことである」 (山本七平 『下級将校の見た帝国陸軍』 ) (2)日本的「知」の再構築 ① 日本的知と西欧的知の綜合 ② 知識創造組織の構築:政策決定過程は知の創造プロセス 出所:野中郁次郎、他 『失敗の本質』(1984)
  • 4. アメリカ海兵隊の有機的組織 航空支援 攻撃航空支援 戦略機動支援 ハリアー近接支援攻撃機 大型侵攻輸送用ヘリコプター ホーネット戦闘攻撃機 中型侵攻輸送用ヘリコプター イントルーダー攻撃機 軽侵攻ヘリコプター プラウラー電子戦機 攻撃ヘリコプター ファントム偵察機 ハーキュリーズ強襲輸送・空中給油機 ブロンコ観測・攻撃機 ライフルマン 輸送・艦砲支援 拳銃 拳銃 役務支援 ライフルM16A2 ライフルM16A2 グレネード・ランチャー グレネード・ランチャー ガーター橋 レッカー 水上戦闘艦 クレーン 水浄化ユニット 水陸両用艦船 燃料システム フォークリフト 攻撃潜水艦 発電機 ブルドーザー 海兵隊事前集積艦(MPS) 地上支援 トラック グレーダー 戦車 機関銃 強襲水陸両用車 対戦車ロケット 軽装甲車 対戦車ミサイル 榴弾砲 対空ミサイル 迫撃砲 出所:野中郁次郎 『アメリカ海兵隊』(1995)
  • 5. 近接航空支援 A-4スカイホーク 対地攻撃機 セスナ機 3.セスナ監視機がライフルマンと 連絡をとりつつ、スカイホークの ロケット攻撃を誘導 2.本部から東シナ 海の空母に出動 要請。40分以内 にスカイホークが 敵の迫撃砲 出動 攻撃を受けるアメリカ軍 1.迫撃砲攻撃を受けた3人ひと組のライフルマ ンが海兵隊本部に近接航空支援を要請 ベトナム戦争における近接航空支援
  • 6. 海兵空陸機動部隊(MAGTF) 海兵遠征部隊(MEF) 兵員数 FORCE USMC 49,700 HEADQUARTERS USN 2,600 REINFORCED MARINE AIRCRAFT FORCE SERVICE DIVISION WING SUPPORT GROUP (陸) (空) (支援) 海兵遠征旅団(MEB) 兵員数 BRIGADE USMC 15,000 HEADQUARTERS USN 900 REGIMENTAL MARINE AIRCRAFT BRIGADE SERVICE LANDING TEAM GROUP SUPPORT GROUP (陸) (空) (支援) 海兵遠征単位(MEU) 兵員数 BATTALION USMC 1,900 HEADQUARTERS USN 110 BATTALION MARINE AIRCRAFT BATTALION SERVICE LANDING TEAM SQUADRON SUPPORT GROUP (陸) (空) (支援) 1. MAGTFはフラクタル構造:戦闘規模により構成員数は変化するが、基本構造は変わらない。 2. 三階層の原理(the rules of three hierarchy):伍長は3人チーム(squad)、軍曹は3チーム編成 の小隊(platoon)、大尉は3小隊編成の中隊(company)を各指揮し、同様のパターンは将官まで いく。末端の兵卒から大佐までは8階層ある。
  • 7. 海兵隊と日本人気質は似ている? “Every Japanese a rifleman”?  海兵隊のカルチャーは、日本のカルチャーに似ている  倹約、調和、階層、集団を重んじる  物理的・心理的に世界から孤立している  生存のための感覚的本能が核としてある  明治維新以来、日本は兵士であり続けた-「Every Japanese a rifleman」 出所:ダン・キャリソン、ロッド・ウォルシュ『アメリカ海兵隊式 最強の組織』1999年 日経BP社 The culture that the Marines most resemble, oddly enough, is that of Japan. The Marines are almost a Japanese version of America – frugal, relatively harmonious, extremely hierarchical, and almost always placing the group over the individual. (…) One can almost hear the phrase, “Every Japanese a rifleman.” Source: Ricks, T.E. (1997). Making the Corps. Scribner. New York: NY. Pp.199-200.
  • 8. 組織の「分化」と「統合」 目標志向性 時間志向性 対人志向性 部門組織構造 公式の規則・手続 短期(時間単位の 原価、品質、 職務中心の き、業績評価など 製造 生産高や品質管理 能率、目標 スタイル の厳格な統制に を問題とする) 依存する 中期(週あるいは マーケ 売上、マーケット・ 人間関係中心の 製造と研究分門の 月単位の売上高を ティング シェア目標、 スタイル 中間程度の公式性 目標とする) 長期(半期あるい 公式の規則・手続 科学・技術の は年間の新製品・ 職務中心の き、業績評価など 研究開発 目標 新技術の開発を問 スタイル に依存しない 題とする) 柔らかな統制 出所:P・ローレンス/J・ローシュ 『組織の条件適応理論』(1967)
  • 9. スクラム アプローチ “The New New Product Development Game” 連続的 (A) vs. 重複的 (B 及び C) 開発フェーズ A フェーズ 1 2 3 4 5 6 (リレー) B フェーズ 1 2 3 4 5 6 (サシミ) C フェーズ 1 2 3 4 5 6 (スクラム) 出所: Takeuchi, H. & I. Nonaka. (1986). The new new product development, Harvard Business Review January-February, 1986.
  • 10. スクラムを前へ進めるために 1. 不安定な状態を保つ メンバーには高い自由裁量と同時に、極端に困難なゴールを与える 2. プロジェクトチームは自ら組織化する 設立したばかりの企業のように、「情報ゼロ」の状態から始めると、メンバーは自 律、自己超越、相互交流を自ずと始める 3. 開発フェーズを重複させる 開発フェーズを重複させることで、「分業の共有」という状態を作り出し、メンバー はプロジェクト全体に責任感をもつようになる 4. 「マルチ学習」 メンバーの学習は、職位と機能の2つのレベルで行われる。 5. 巧みにマネージする「マルチ学習」 放任せず、自己管理、メンバー間管理、と愛情による管理を強調する 6. 学びを組織で共有する 過去の成功・失敗からの学びの習得・忘却を組織内で浸透させる Source: Takeuchi, H. & Nonaka, I. (1986). The New New Product Development, Harvard Business Review January-February, 1986.
  • 12. 『知識創造企業』と『流れを経営する』の命題 The knowledge Creating Company and Managing Flow 企業は知識創造体で 企業は知識を知恵化する ある プロセスである © Nonaka, I
  • 13. 日本にはイノベーションがない 景気対策が世界手最も下手な国という賞があれば 、日本は間違いなく受賞する。内需が広がらない のはイノベーションがないからだ。日本は真似が得 意でここまで追い付いた。追い抜くにはイノベーシ ョンが欠かせない。 米国文化の方が経済成長に適している。われわれ は産業主体の経済から知識主体の経済に移って いる。ジョブズやゲイツ、ディズニーがつくり出すよ うな知識だ。人々は楽しいものには金を払う。今の 日本にはあまり楽しいことがない。 出所:日本経済新聞社(2010)レスター・サロー「経済成長だれが担う」2010年8月1日 日本経済新聞電子版ニュースにもとづく
  • 14. 知識とは  主観的である。 信念を基盤にし、文脈に依存する  プロセス・関係的である。社会における相互作用 から生成される  審美的である。 真・善・美の絶え間ざる追求である  実践を通じて知恵化される。 従って、知識とは、個人の信念が真実へと正当化 されるダイナミックな社会的プロセスである。 出所:野中郁次郎、遠山亮子、平田透 『流れを経営する』 2010年、東洋経済新報社
  • 15. 知識は人が関係性の中で創る資源である 知識の最大の特質は、「人が関係性の中で創る資源で ある」ということである。知識は天然資源のように誰かに 発見されて回収されるのを待っている自己充足的な物 的資源ではなく、人が他者あるいは環境との関係性の 中で創り出すものであり、そのときの状況や知識を使う 人の特質(思い、理想、主観、感情など)によってその意 味や価値が変わってくる資源なのである。(中略) 知識 を理解するためには、われわれは何よりもまず人間を 理解する必要があることを意味する。「信念」を抱くのも それを正当化するのも人間だからである。 出所:野中郁次郎、遠山亮子、平田透 『流れを経営する』 2010年、東洋経済新報社 © Nonaka, I
  • 16. 知識創造は暗黙知と形式知の相互変換運動である 暗黙知 (Tacit Knowledge) 形式知 (Explicit Knowledge) 言語・文章で表現するのが難しい 言語・文章で表現できる 主観的・身体的な経験知 客観的・理性的な言語知 特定の文脈ごとの経験の反覆に 特定の文脈に依存しない一般的な よって体化される 概念や論理(理論・問題解決手法・ 思考スキル(思い・メンタル・モデ ル)や行動スキル(熟練・ノウハウ) マニュアル・データベース) 相互作用の スパイラルアップ アナログ知-デジタル知の動的綜合 © Nonaka, I
  • 17. 組織的知識創造プロセス - SECIモデル - 身体・五感を駆使、 暗黙知 暗黙知 対話・思索・喩えによ 直接経験を通じた る概念・図像の創造 暗黙知の獲得、 共有、創出(共感) 共同化(S) 表出化(E) (概念化) Environment E O I 4.自己の暗黙知の 言語化 形式知 暗黙知 1.組織内外の活動による I I 5.言語から概念・原型 現実直感 Group I Individual の創造 2.感情移入・同期・気づき・ I I 予知・イメージの獲得 I 形式知の組み合わせ 3.暗黙知の伝授、移転 による情報活用と知 識の体系化(分析・モ 内面化( I ) 連結化(C) デル化) 暗黙知 形式知を行動を O E 6.概念間の関係と仮説の生 形式知 G 通じて具現化、 G 成、モデル化 新たな暗黙知として I G Org. G 7.形式知の伝達・普及・共有 理解・体得(実践) 8.形式知の編集・操作化、 E G シュミレーション、ICT化 9.実験・仮説検証を通じた 形式知の血肉化 10.行為のただ中の熟慮と 形式知 形式知 フィードバック I = 個人(Individual) G = 集団(Group) O = 組織(Organization) E = 環境(Environment) © Nonaka I. , H. Takeuchi, N.Konno,
  • 19. 知識創造組織の基本構成要素 ビジョン 環境 (エコシステム) (WHAT) 対話 物 的 (WHY) ・ 駆動目標 知 的 場 資 実践 (動的文脈) 産 (HOW) Copyright: Nonaka & Toyama, 2009
  • 20. 知識創造組織モデルの構成 知識ビジョン 「われわれは何のために存在するのか」企業がつくり たい未来。真・善・美を希求する絶対価値 (手段にならない究極の志) 駆動目標 ビジョンを実現するために対話・実践を絶え間なく駆 動するエンジンとなるような価値命題 対話 暗黙知を形式知化し共有するための思考の弁証法 (思いと概念の矛盾の止揚プロセス) 実践 形式知を暗黙知化し蓄積するための行為の弁証法 (概念と結晶化の矛盾の止揚プロセス) 場 知を創発させるダイナミックな文脈(コンテクスト)の 共有プロセス(プラットフォーミング) 知識資産 知識創造プロセスのインプット・アウトプット 環境 企業に影響を与える組織、制度、個人、顧客、供給 (エコシステム) 業者のコミュニティ © Nonaka I.
  • 21. 知識は関係性の中で創られる -知のグローバル・エコシステム - 顧客、供給業者、パートナー、競争業者、大学、地域、政府などの ステークホルダーは、多重の場を構築して関係性をダイナミック に生成し変容させていく。競争し、協働することで、組織的な壁を 超越していく。 大学 行政 顧客 場 場 地域社会 供給業者 場 競争業者 企業 © Nonaka I.
  • 23. プロセス哲学の世界観と人間観 -ホワイトヘッドを中心として-  世界は「コト」からなる  その都度の最も具体的な「出来事(event)」の連続的生成消滅する 世界、すなわちプロセスこそ実在である(Process is Reality) 「万物流転」(All Things Flow)  プロセスの本質は未来に向けた創造的統合  「有る(Being)」より「成る(Becoming)」である。  「現在」とは過去の凝縮、未来へ開かれた状態  人間はユニークな経験そのもの  「活動的存在(Actual Entity)」  経験は「こと」という関係性/プロセスのなかで成り立っている  「いま、ここ」の瞬間における経験を積み重ね、新たな存在を生成し 続ける  コトはモノを含む  「モノ(thing)」は、連続性(動詞的状態)から切り取られた、特定の状 況・時間(名詞的状態)。 出所:野中郁次郎、遠山亮子、平田透 『流れを経営する』 2010年、東洋経済新報社 © Nonaka I.
  • 26. イノベーションを支援する場づくり -Ba:Shared Context in Motion- 相互主観性/Intersubjectivity 開放 閉鎖 生きた文脈の共有 閉鎖 開放 Ba (プラットフォーミング) 相互主観性とは、相互に他者の主観を全人的に受け容れ、関わり、共同化された 合うときに成立する、自己を超える「われわれ」の関係性である。 © Nonaka I.
  • 27. 「場」とは、時空間における環境・組織・個人 の相互浸透プロセスである 時間 環境 空間 個人 場 組織 “いま・ここ”に おける関係性 共感・共有・共鳴 の連続的変化 (相互主観性) © Nonaka I.
  • 28. 場は共同化を促進する ‐身体的、精神的触れ合い‐  身体感覚は相互に浸透する: 間身体性(Intercorporeality: メルロ・ポンティ)  ミラーニューロンの発見 : 鏡のように相手の行動を自分に映す神 経細胞」が発見された。身体行為の模倣 によって、自分の体験に照らし合わせて 他人の心を推定する (Iacoboni, etal:2005, Rizzolatti:2005) © Nonaka I.
  • 29. ホンダのワイガヤ 三日三晩の場 を共有 チーム 思考の飛躍 コンセプト構築 個 こ故 向き合う 個の殻を破る 徹底した議論
  • 30. ホンダ:ワイガヤのプロセス 三日三晩の生きた時空間の共有  会社負担で場(よい宿とよい食事、よい温泉)を手配  日常的仕事環境からの脱却 - 間身体性の成立  初日: 個と個のぶつかり合い  話は上司の悪口、不満、対立から始まる  徹底的に話させると、喧嘩も起きるが逃げ場がない  そのうちうわべの形式知が尽き、全人的に向き合う  二日目: 相互理解・許容  違いを認める、お互いの思いを知るようになる  気に入らない相手の意見も全人的に受け入れる  三日目:自己意識を超えた深みから生まれる相互主観 の創造性  建設的思考、コンセプトの飛躍が生まれる 出所: 小林三郎 「知識創発型研究開発マネジメント~ホンダ~」 『知識創造経営とイノベーション』 野中郁次郎・遠山亮子 (編) 丸善 2006
  • 31. 場の重層的展開 -トヨタプリウスの開発-  技術の横展開・異質技術 の知の融合と創発  RE:レジデンシャル・エン ジニアリング手法  設計者が試作段階で現場 に一時的に滞在し、つくり やすさ、製品の安定性、品 質や性能向上など現物を 前にした作業者との対話 のなかでスピーディな設計 変更を繰り返す。  量産段階では逆REを展開 する。 © Nonaka I. & T. Hirata
  • 33. アジャイル・スクラム - ソフト開発は知識創造プロセス - アジャイル・スクラムは、開発進行中にチームメンバーの共同化、 表出化、内面化と、技術的な知識の連結化を促進し、その結果と して、技術的な専門知識を実践共同体としてのコミュニティの資 産へと変換する(野中、1995)。 したがって、スクラム会議は、チー ムメンバーの知識を共同化し、互い の文化的な壁の超越を促進する。 会議が毎日、同じ場所、同じ時間、 同じ参加者で行われることによって 自律的な場を創り、場への親密さを 高め、知識を共有する習慣を形成 し、日々の開発プロセスの改善を促 進する。 出所: Sutherland, J. et al. Scrum: An extension pattern language for hyperproductive software development.
  • 34. Sony ストリンガー革命による新経営体制  「サイロの破壊」と「ソニー・ユナ イテッド」: ソニー版の「破壊と創造」 事業部制の縦割り構造から、ヨ コのプラットフォームへと変革  ストリンガー:懐の深い英国紳士 (Sirの称号) プロジェクト・マネジャー的な水 平型リーダー 決断力と行動力を備え、真摯に 愚直に実行する「全身革命家」
  • 35. Sony 組織内外の場で、商品間・地域間にヨコ串を刺す  技術者同士の顔の見える研究開 発:研究開発・共通ソフトウェアプラット フォーム  ハード担当の技術者とソフト担当の技 術者が同じフロアで商品開発  社内人脈とオープンイノベーションによ って、研究開発のスピードを促進 消費者一人ひとりの顔の見える販 売:グローバルセールス&マーケティング プラットフォーム コンスーマ―プロダクツ&デバイスグループ(CPDG)には、テ  商品への反応を直接顧客から聴き、感 レビ、デジタルカメラ、オーディオ・ビデオ事業など、ネットワーク プロダクツ&サービス分野には、ゲームやPC、その他ネット じ取って、商品に反映 ワーク事業が含まれる  直営店で消費者一人ひとりにSonyの世 界観を総合的に提案  ローカルの人材力をベースに、世界同 シナジー効果の発揮を狙う 時展開によるグローバルなインパクトで 「ソニー・ユナイテッド」 競争力を発揮
  • 36. 日立製作所 「現場の知」を生かす 「情報化社会」から「知的創造社会」への創生に向けて 、人間知と情報システムの利活用の質を高めることが 期待される。その実現の鍵の一つは「現場の知」を活 用することにある。(中略)「暗黙知」と呼ばれる知の領 域の利活用が、進化の重要なヒントとなるのである。 最も創造的で、最も不確実でリスクを伴う、やっかいだ が魅力のあり人間の知、これを上手く引き出し、コント ロール(融合活用と抑制の両側面操作)することで、新 しいソリューションが生まれる。これは単独の知では限 界がある。さまざまな社会を構成する人間の協創、コ ラボレーションが必要になってくる 出所:谷岡克昭、北川央樹、赤津雅晴(2010)「知的創造社会に向けたイノベーションと日立グループの取り組み」『日立評論 Vol.92 No.07』に基づく
  • 37. 日立製作所 新たな価値を創造するエクスペリエンス指向アプローチ  「人間中心設計」:ICTの激しい技術革新の中でも常に顧客に寄り添 い、顧客の現場を大切にする インタビューや現場観察により、顧客の暗黙知を可視化する:本質の発見と理解 対話を通して顧客のニーズ、実現したい価値などを言語化する:新たな価値の 創造 これまでの検討内容を実現可能性や効果の観点で精査し、全員が納得できるプ ロジェクト計画の全体像を描く:共感、納得による推進力 新たな 共感と納得 新たな価値を協創する 価値 社内 社外 対話と検討 顧客の感情に共感、共振、共鳴する 専門家 専門家 顧客、 ステー クホル インタビューと 顧客の体験に焦点をあてる ダー 観察 出所:北川央樹、板野裕、豊田誠司、鹿志村香(2010)「システム開発に新たな価値創出をもたらすエクスペリエンス指向アプローチ」『日立評論 Vol.92 No.07』に基づく
  • 38. 知を創発させる場の要件 ① 自己超越的な意思・目的をもつ自己組織(セルフ・ オーガナイジング) ② 自他の感性、感覚、感情が直接的に共有される(間 身体性) ③ 場で生成する「コト」の傍観者でなく当事者として全人 的に関わる(コミットメント) ④ 他者との関係性のなかでの自己認識(メタ認知) ⑤ 境界は開閉自在で中心は動く(細胞の浸透可能性) ⑥ 異質な知の矛盾と効率よいインターフェイスの両立 (球体の最尐有効多様性) 出所:野中郁次郎、遠山亮子、平田透『流れを経営する』 2010年 東洋経済新報社
  • 39. イノベーション組織化の要件 -集合実践知経営に向かってー  場とアジャイル・スクラムシステム  フロネティック・リーダーシップ
  • 40. 不確実な世界には、 実践知のリーダーシップが必要  知のグローバル・エコシステムはリスクに直面している:宗 教・倫理・政治など価値観の問題、環境保全、技術革新や 人口動態の変化など。  我々がいま必要なのは、フロネシス(実践知)のリーダーシ ップである。フロネシスを有する人をフロニモスという。  共通善のために「何をすべきか」を知り、高い志を持ち、何が社会 全体の善であるかを見定める  同時に、最前線に立ち、具体的で微細な変化も見落とさず、歴史的 大局観につなげる  全てが文脈に依存すると知りつつ判断し、全てが変化の只中にあ ると知りつつ決断し、全てがタイミングに依存すると知りつつ行動を 起こす 出所:Nonaka, I., and Takeuchi, H. (forthcoming). “ Cultivating Leaders with Practical Wisdom” © Nonaka I.
  • 41. アリストテレスのフロネシス:Phronesis 賢慮(Prudence)、実践的知恵(Practical Wisdom) 共通善(Common Good)の価値基準をもって、個別のそ の都度の文脈のただ中で、最善の判断ができる実践知 である。 個別具体の文脈で「ちょうど(just right)」な解を見つけ る能力 個別と普遍を往還しつつ、熟慮に基づく合理性とその 場の即興性を両立させる能力 動きながら考え抜く「行為のただ中の熟慮」 (Contemplation in Action) Contextual Judgment (文脈に即した判断) + Timely Balancing(適時・絶妙なバランス) © Nonaka I.
  • 42. 実践知リーダーシップの6能力 - フロネティック・リーダーシップ - フロネシスとは、倫理の思慮分別をもって、その都度 の文脈で最適な判断・行為ができる実践知 ⑥実践知を組織化 ①「善い」目的 する能力 をつくる能力 ⑤概念を実現する ②場をタイムリー 政治力 につくる能力 ④直感の本質を ③ありのままの現実を 直感する能力 概念化する能力 © Nonaka I., H.Takeuchi, R. Toyama, N. Konno
  • 43. 実践知リーダーシップの3大能力 - フロネティック・リーダーシップ - ①大局観 ②場づくり 現実を直視して本質を掴み 組織内外の関係性をダイナミッ だし、そこから未来の構想 クにとらえ、関係性を変えていく を描く ことで未来の構想を実現する 大局観 場づくり ③人間力 人間力 実践知を持った次世代 リーダーを育成する © Nonaka I., H.Takeuchi, R. Toyama, N. Konno
  • 44. 大局観:ミクロ・マクロのスパイラル 現実を直視して本質を掴みだし、 そこから未来の構想を描く その場で概念を紡ぎ合う:言語化によって 初めて自己の考えが明確になる 対象に棲み込む(Indwelling): あらゆる状況の手がかりを統合して対象に住 み込み、ライダーの視点(内側)から切開して いく暗黙的な知り方 「マシンを見ていると、いろんなことがわか ります。あのカーブを切るには、ああやれば、 こうすればと・・・。そして次の製作過程へ自 然に入っているんです。」 写真提供:本田技研工業
  • 45. 場づくり:レトリック 概念を実現する政治力 マン島TTレース出場宣言 全従業員諸君! 本田技研の全力を結集して栄冠を勝ち取ろう、本田技研の将来は一に かかって諸君の双肩にある。ほとばしる情熱を傾けていかなる困苦にも 耐え、緻密な作業研究に諸君自らの道を貫徹してほしい。本田技研の飛 躍は諸君の人間的成長であり、諸君の成長はわが本田技研の将来を約 束するものである。 […]日本の機械工業の真価を問い、これを全世界に 誇示するまでにしなければならない。わが本田技研の使命は日本産業 の啓蒙にある。[…]ここに私の決意を披歴し、TTレースに出場、優勝する ためには、精魂を傾けて創意工夫に努力することを諸君とともに誓う。 右宣言する。 出所: Honda Top Talks 『語りつがれる原点』
  • 47. 人間力:組織的綜合力 実践知を組織化し、実践知を持った 次世代リーダーを育成する 個人の全人格に埋め込まれている賢慮を、実践 のなかで伝承し、育成し、自律分散的賢慮 (distributed phronesis)を体系化する能力。 そうすることによって、何が起ろうとも、弾力的・ 創造的に、リアルタイムで対応できるしなやかな 組織(resilient organization)を構築できる。 © Nonaka I.
  • 48. 自律分散リーダーの育成 ホンダ ホンダはトップだけが頑張るような会社ではあり ません。製造現場の一人一人がものすごく重要 なんです。ですから、従業員全員が本田宗一郎 にならなきゃいけない。大勢の本田宗一郎を作 ることが、ホンダにとっては大切なんです - 福井威夫社長 出典: 赤井邦彦 『「強い会社」を作る』 文春新書 (2006)
  • 49. 実践知の基盤 教養(Humanity) 哲学、歴史、文学、レトリック、芸術、数学(プラトン)、 物語(ギリシア悲劇・アリストテレス)・・・ ※人類学、生物学、デザイン学、政治学、都市計画学、 神学 至高経験(Peak Experience) 可能性への限界(死)への投企(ハイデガー)、純粋経験 (西田幾太郎)、フロー体験(チクセント・ミハイ)、 極限体験(畏敬)、手本との共体験、失敗・成功体験・・・ 実践と伝統 職人道(Artisanship),型 高い卓越性の評価基準 ※Moon Shots for Management (HBR4,2009) © Nonaka I.
  • 50. 実践知育成の基本は徒弟制度 実践知=座学 (・・・多くのMBA教育はここだけ) + 実践の場の経験 + フィードバック リーダーは訓練を通じてしか育たない 難度の高い仕事への挑戦と、適時の具体的な評 価と内省によるフィードバックによって、判断力や 精神力の成長を促進する 飛躍的成長が期待できる 出所:ラム・チャラン『CEOを育てる』2009年 ダイヤモンド社に基づく
  • 51. 徒弟制度モデル コンセントリック・ラーニングと意識的練習のスパイラルアップ  コンセントリック・ラーニングによって、より広範囲で困難な仕事 を重ねてコア能力を拡大する(A→B→C)  実践・メンター(上司)のフィードバック・自己修正を繰り返す意 識的練習の積み重ねによって、脳内に自動的・直観的に特定 の反応をする経路が刻まれ、一流の判断力の基盤となる  コア能力の意識的練習の 継続によって、新たな能力 の習得と、思考の革新が 成長度 A B C 一気におきる  徒弟制度によって、上司が 部下に適時適切な課題を 与え、フィードバックを与え て成長を促進する 時間 出所:ラム・チャラン『CEOを育てる』2009年 ダイヤモンド社、P.98.
  • 52. 実践知リーダーシップ を伝承するシステム - 人事権をもたずに革新に挑むLPL- LPL 開発責任者 設計PL テストPL デザインPL ●エンジン ●エンジン ●レイアウト ●ボディ ●風洞 ●エクステリアデザイン ●サスペンション ●衝突 ●インテリアデザイン ●艤装 ●エミッション ●カラー/表皮 など ●耐久 ●デザインデータ など ●デザインモデル 出所: 本田技研工業株式会社 社内資料 など
  • 53. 集合実践知:ミドル・アップ・ダウン 壮大な理論(あるべき理想) トップ 矛盾解消 中範囲コンセプト ミドル 矛盾 (現実はこうだ) 知識の転移 フロント © Nonaka I.
  • 54. 実践の型 -動的知識資産- 「型」とは、「規範とされる一定の体勢や動作」 のことで、理想的な動作の核となる 良い「型」はクリエイティブ・ルーティンを養成す る原型として機能し、より高い自由度を与える 守(型を学ぶ)、破 (型を破る)、離(型から離 れる)は、創造的に自己革新を継続するため に重要である © Nonaka, I
  • 55. 実践知とはあやうい知である  実践知のリスクは高く、成功確率は帰納法より低い  だが、創造的想像力による飛躍を可能にする 実践的推論のプロセス 共通善 企業の社会 的存在意義を ステップ 3: 追求する 実践結果から 目標 仮説を見直す 目標 ステップ4: 目標を修正する ステップ 1: ステップ 2: (理想と現実の間の矛盾を克服する) 目標を設定する 目標達成の手段の仮説を立て実践する (何を達成したいか?) (「いま・ここ」の文脈で最も良い選択肢を選ぶ) 出所:野中郁次郎、紺野登、 『美徳の経営』 場を通じた重層的フィードバック 時間 NTT出版2007年
  • 56. 日本企業の知の型 トヨタ ホンダ キヤノン ユニクロ  すぐやる、全部  「先入観を持たず、  三現主義:現場に  自分自身のゴー 白紙になって生 行くこと、現物・ ルを設定する やる、絶対やる。 産現物を観察せ 現状を知ること、 即断、即決、即  全体最適化を考 よ。対象に対して 現実的であること 実行 える。社長の視 『なぜ』を5回繰り  理論とアイディア 点で見る  現場主義を徹底 返せ」 と時間を尊重する 的に磨き込む:  わかりやすい言  「原因」より「真 こと 実践しながら考 葉を使う。深い 因」。原因の向こ えるというのは「  A00-何のために 思慮から自分の うに側に真因が 体を使う」こと やるのか? 言葉で表現せよ。 隠れている  全員経営:店長  A0-コンセプトは  生きた経験に基  社内外との比較 が本当の商売人 何か? づかない言葉に を通し、自らの実 は意味がない  手抜きや程度の  A-スペックは何か 力を把握する 低い仕事は仕事 ? じゃない:真善美 を問う © Nonaka I.
  • 57. 創造とは一回性の中に普遍を見ること 目的意識を持って、「一期一会」の一回性を愛おしむ  現在のめぐり逢いをきっかけに、過去の体験を再解釈 ・再構成して、偶然の出会いを運命の出会いに変える  偶然の幸運を生かし、偶然を必然に変える(偶然、 幸運に出会う能力「セレンディピティ」)  日々の凡事の中の底光りする潜在的な可能性やより 大きな関係性、日常の連続的なダイナミクスに気づく (カオス理論の「蝶の羽ばたき効果」) 日々の絶え間ざる卓越性(Excellence)の追求 (常識の非常識化) © Nonaka I.
  • 58. 実践知リーダーシップ -Phronetic Leadership- 形式知 客観 言語 共通善 普遍 感性 理想主義 場 型 (クリエイティブ・ルーティン) 主観 経験 個別具体 現実主義 生活世界 暗黙知 © Nonaka I.
  • 59. 実践知のリーダー 「動きながら考え抜く」(Contemplation in Action) 頭 Mind 「身体化された心」 体 Body 思索家 Thinker 実践家 Doer Embodied Mind 知的体育会系 “Intellectual Muscle” 共通善に向けた 「よりよい」の無限追求 © Nonaka I., Toyama R.
  • 60. 実践知経営の本質 ‐存在論と認識論を「行為」する - 存在論:「どう在るか」 -意味を問う - 「どう生きたいのか」 未来投企のビジョン/共通善 とコミットメント 認識論:「どう知るか」 -真理を問う - 「何が本当なのか」 暗黙知と形式知、主観と客観、 ミクロとマクロの相互変換 その本質は、利益追求マシンとしての経 営を越えて、経営をよい「生き方」のプロセ スとして日々練磨する企業観である。 © Nonaka I.