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米国環境ビジネス
~その市場構造、プレーヤー、参入機会~
2010 年 9 月
日本貿易振興機構(ジェトロ)
海外調査部
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はじめに
本報告書は、米国の環境・新エネルギー分野のうち、注目を集める太陽光発電、電気自動車およびイ
ンフラ、スマートグリッド(近距離)、エネルギー貯蓄、グリーンビルディング、バイオ燃料について、
その市場の構造やプレーヤーに焦点を当ててまとめたものである。
言うまでもなく環境分野は幅広く、一つの分野を取り上げるにしてもその切り口は様々である。太陽
光発電を例にとっても、技術動向、素材、サプライチェーン、資金の流れ、プロジェクトファイナンス、
支援策や規制、大規模プロジェクト、住宅市場などに細分化される。太陽電池にも多結晶・単結晶シリ
コン、薄膜、化合物、有機系などがあり、その他集光型太陽光発電や太陽熱温水器があり、それぞれで
大部の報告書ができあがる。
本報告書は、これから米国市場に参入しようとする日本企業を主な対象とし、その場合市場にはどの
ようなプレーヤーがいて、製品はどのような流れで最終消費者に辿り着くか、どのようなチャンスと難
しさがあるかを明らかにしたものである。ただし最後のバイオ燃料に関しては、商社を除いて日本企業
の参入が今のところ極めて限定されているため、米国市場の分析にとどめている。報告書中にはかなり
多くの企業名が登場するが、それらは日本企業にとって競合相手でもあり協業相手ともなりうる。本書
が今後米国市場参入を検討する企業にとって、何らかの参考になれば幸いである。
2010 年 9 月
日本貿易振興機構(ジェトロ)
サンフランシスコ・センター
海外調査部北米課
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目次
はじめに ....................................................................................................................................................... 3
1 章 太陽光発電 ........................................................................................................................................... 6
1-1 市場・技術動向................................................................................................................................ 6
1-2 太陽光パネル製造の市場構造、プレーヤー .................................................................................. 10
1-3 ユーティリティスケール(電力事業級)ソーラファームの市場構造・プレーヤー .................... 15
1-4 住宅向け太陽光発電市場の市場構造・プレーヤー ....................................................................... 16
1-5 日本企業の参入機会....................................................................................................................... 17
2 章 電気自動車およびインフラ.............................................................................................................. 18
2-1 市場・技術動向.............................................................................................................................. 18
2-2 EV 製造の市場構造とプレーヤー .................................................................................................. 20
2-3 EV 用バッテリー製造の市場構造とプレーヤー............................................................................. 28
2-4 EV インフラの市場構造とプレーヤー ........................................................................................... 34
2-5 日本企業の参入機会....................................................................................................................... 41
3 章 スマートグリッド(スマートメーター&ホーム・エリア・ネットワーク) ................................. 42
3-1 市場・技術動向.............................................................................................................................. 42
3-2 スマートメーター(含む近隣・広域ネットワーク)の市場構造とプレーヤー............................ 48
3-3 コミュニケーション・ネットワーク・ゲートウエイの市場構造とプレーヤー............................ 58
3-4 その他デバイス、ソフトウエア、サービスの市場構造とプレーヤー .......................................... 62
3-5 日本企業の参入機会....................................................................................................................... 66
4 章 エネルギー貯蓄 ................................................................................................................................ 68
4-1 市場・技術動向.............................................................................................................................. 68
4-2 ポータブル蓄電池の市場構造とプレーヤー .................................................................................. 69
4-3 家庭用、ビル用蓄電池の市場構造とプレーヤー........................................................................... 71
4-4 ユーティリティスケール用蓄電池の市場構造とプレーヤー......................................................... 72
4-5 日本企業の参入機会....................................................................................................................... 76
5 章 グリーン・ビルディング(ゼロ・エミッション・ビルディング)................................................ 77
5-1 市場・技術動向.............................................................................................................................. 77
5-2 デベロッパーおよびプロジェクトマネジメントの市場構造とプレーヤー................................... 80
5-3 省エネ、ヒーティング・クーリング・システムの市場構造とプレーヤー................................... 82
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5-4 照明の市場構造とプレーヤー ........................................................................................................ 89
5-5 日本からの参入の可能性................................................................................................................ 92
6 章 バイオ燃料........................................................................................................................................ 96
6-1. セクター概要................................................................................................................................... 96
6-2. 競合状況.......................................................................................................................................... 98
6-3. 企業プロフィール ........................................................................................................................... 99
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1 章 太陽光発電
1-1 市場・技術動向
概観
米国では、2025 年に電力消費の 25%をリニューアブル・エネルギーでまかなうことを目標としている。
このうち、太陽光は風力と同様に期待されているものである。
既にカリフォルニア州では、発電した電力の買い取り制度が 2008 年に実現しているが、連邦政府での制
度は 2010 年中に実現の見込みであり、さらに大きく弾みがつくものと予想される。
カリフォルニア州、ネバダ州、アリゾナ州、ニューメキシコ州、テキサス州など、西部、南部の州で
は、日照時間が長いことから、導入が有利と考えられている。特に人口の多い、カリフォルニアでは多
いに期待されている。太陽エネルギー分布を世界的な規模で比較しても、欧州や日本に比べ、はるかに
導入が有利である。
太陽光発電に利用可能な太陽エネルギー分布図。(強度;赤>黄>緑>青)
(出所: 米エネルギー省)
市場トレンド
1)世界
■供給過剰で業界再編の圧力
価格下落が続くなか、太陽電池は世界的な供給過剰が続いており、業界再編が必至な状態にある。
2008 年の全世界における太陽電池(セル)の生産量は、20007 年の 3,700MW から 88%増の 6,940MW に
急増した。2009 年に関しては、それまで市場を大きく拡大してきた欧州市場が金融経済危機の影響で減
速し、ほぼ横ばいとなったが、2010 年には景気回復に伴い、再び拡大傾向となる見込みである。
米調査会社の LUX リサーチは今後、(1)第2、第3グループの企業は需要不足に直面し施設稼働率
が低下。低品質・高コストメーカーは市場からの撤退圧力が高まる、(2)Q セル、BP ソーラーなど高
品質・高コストメーカーはアウトソースによってコスト低下を図る、(3)垂直統合の動きが強まる――
と分析する。最後の点は最近では、①パワーライト(プロジェクト開発)―サンパワー(太陽電池)―
ノアサン(シリコン)、②サンエジソン(プロジェクト開発)―サンテック(太陽電池)―MEMC(シリ
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コン)などの統合・協業の例がある。
図 2013 年までの世界の太陽電池需給見通し
(出所:Lux Research よりジェトロ作成)
図 2006 年~2010 年の世界の太陽光発電設置容量の推移
(出所: Displaybank、2010 年 1 月)
日本市場では、政府による住宅向けの導入補助金制度が復活し、太陽光発電の導入量が増加傾向に転
じている。米国市場においてはオバマ大統領のグリーン・ニューディール政策が普及の強力な牽引車に
なるとの期待が高まっていることもあり、国別で見れば、数年内に、世界最大の市場に拡大することが
期待されている。
2)米国
■税控除や買取を通じ世界第3位の太陽光発電国へ
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米国の太陽光発電(累計設置ベース、2009 年末)は、ドイツ(9,677MW)、スペイン(3,595MW)、日
本(2,628MW)に次ぐ 2,108MW(米太陽エネルギー産業協会〔SEIA〕、2010 年 4 月)だ。2015 年までに
は、中国には抜かれるものの、日本とスペインを抜いて世界第3位の発電量になる見込みだ。既に風力、
地熱の発電量では世界一の米国が、太陽光でも徐々に地位を上げていく。米国の場合、太陽電池(PV)
だけでなく、集光型太陽光発電(CSP/太陽熱発電)にも大きな市場がある1
。2009 年末の設置量のうち
約2割が CSP/太陽熱発電だ。現在国内で計画中(未建設)のプロジェクトは太陽電池の 6.5 ギガワット
(GW)に対し、CSP/太陽熱発電は 10.6GW と大きく拡大する見込みだ(SEIA、2010 年 4 月)。
再生可能エネルギーの導入に向けて米国は、まず再生可能エネルギー基準(RPS)を定め、生産者控除
や還付制度を設ける。そして、競争条件を整備し、研究開発支援などで積極的な競争を促す。「独り立ち」
を促す施策が多い。欧州を中心に採用される電力の固定価格買取制度(フィードインタリフ:FIT)の導入
に向けた動きは、米国では緩慢だ。高コストの太陽光発電を普及させるには魅力的な制度だが、高額の
買取りは電力会社の財務に負担をかけ、何らかの形で消費者に転嫁せざるをえない。複雑な買取制度に
よる機器導入・管理コストも上昇する。現状は7割程度の州で、消費者が発電した余剰分のみを買い取
るネットメーターリング制度が導入されている。環境先進的なカリフォルニア州でも限定的に実施され
ているが、「全量買取式の FIT の導入は簡単でない」(同州環境長官のリンダ・アダムス氏)という。
お膝元のサクラメント市電力公社(SMUD)は 2010 年1月、全米の市町村として初めて FIT を導入し
た。5MW までの再生可能エネルギー発電に対し、季節と時間帯によって 7.45 セント~32.34 セント/kWh
までの価格範囲で発電分を買い取る。発電にはコジェネレーション2
を含み、管轄域内で最大 100MW が
上限だ。受付開始早々、多数のプロジェクト申請があり、すぐに上限が埋まった。現在 28 件のプロジェ
クトを審査中という。同市は「他の自治体が後に続くことを期待したい」と述べる。また、テキサス州
の一部やオレゴン州でも FIT の試験的な導入を試みる動きがある。
■グリッドパリティを目指す争い
それでも米国が FIT に対し様子見の姿勢をとる一つの理由は、一部の太陽電池メーカーが相当価格を
引き下げ、いずれ「グリッドパリティ」3
を達成する可能性があるからだ。「政府助成に頼らない再生可能
エネルギーを創る」とは、シリコンバレーのベンチャーの間では合言葉のようになっている。
現在世界最大の太陽電池生産量(1,011MW、2009 年)を誇るアリゾナ州ファーストソーラーは「2014
年までにグリッドパリティを実現する」と公言している。一概には言えないものの、グリッドパリティ
を実現するには「モジュール価格を 0.7 ドル/W 以下にする必要がある」(太陽電池製造装置メーカーの
Oerlikon)と言われる。現在主要メーカーの太陽電池は2ドル/W 台前半。かなり下がってきたが、まだ
パリティには遠い。ただ、大規模案件に特化するファーストソーラーは既に 0.80 ドル/W の製造コストを
達成し、出荷時には2ドル/W を切る。粗利益率は 50%超だ(2009 年末、同社決算)。
もちろん同社の経営は磐石ではなく、欧州の環境団体の一部からは同社製品に含まれるカドミウム・
1 CSP/太陽熱発電は集光鏡で太陽光を集め直接発電するか、その熱でタービンを回して発電する技術。太陽光の強い地
域でしか有効でないが、高効率、ある程度蓄電能力があるといった特長がある。
2
発電時に生じる排熱を、空調や給湯などに必要な熱エネルギーとして供給する仕組み。
3
天然ガスや石炭による発電と同程度のコストで発電できる状態。
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テルライド(Cd-Te)の安全性に懸念を示す声が出ている。仮に RoHS 指令4
等の規制対象となれば「ファ
ーストソーラーには死活問題であり、同社は有力議員のほぼ全員にロビイングをしている」という。他
方、Cd-Te を規制するのであれば鉛も対象にすべきとの意見も出ている。しかし鉛は多くの太陽電池に使
用されているため、事態がどう展開するかは予断を許さない。
ファーストソーラーは米国西海岸で 21MW~550MW の巨大発電事業を展開する(2010 年 1 月、VerdEX)。
Cd-Te はモジュール価格を引き下げる技術の先導役となっているものの、「2015 年時点でも、太陽電池
市場は引き続き資源・技術の豊富なシリコン系が8割を占める」(米調査会社の LUX リサーチ、2010 年
5 月)とみられる。特にトリナ、カナディアン、インリー、サンテック、ソーラーファンといった中国系
シリコン太陽電池メーカーが工場出荷価格で 1.8 ドル/W 程度まで下げている(ただし多くの中国メーカ
ーはまだほとんど利益が出ていない状態にある)。2008 年に平均 300 ドル/kg と高騰していたシリコン価
格 は、生産能力増強によって 2009 年前半には 100 ドルを切り、2010 年中には 25~30 ドル/kg 程度まで
下がってくると予想されている。シリコン系太陽電池の価格競争力もさらに増してくるだろう。
また発電コストのうち、太陽電池本体(セルとモジュール)が占める割合は 35~40%に過ぎないため、
安定した川上の原料調達 や川下の設置に関わる労務費やパワーコンディショナー5
などの機材コストの
削減が必要だ。日本の太陽電池市場は 80%が一般住宅用であり、規模によるコスト削減が難しい (同じ
1MW の太陽光発電でも、個別の住宅 300 軒に設置するのと、平地に敶き詰めるのとでは要する期間とコ
ストに大きな差が出る)。米国は約 65%が大規模な産業用・電気事業用となっており、その割合は今後さ
らに上昇する見込みだ。コストは年々目に見えて低下している。
過当競争の様相を呈する米国市場だが、コスト競争力は発電効率を上げることでも達成される。セル・
モジュールのコスト削減、効率性向上に資する技術、前後の工程に強みを持つ企業にはチャンスが多い。
4
電気・電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限に関する欧州議会および理事会指令
5
太陽電池で発電した電気を変換し、家庭用などの電力系統に接続する機器。通常は直流から交流に変換する(インバー
タ)。
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日本企業は経験の薄いメガプロジェクトに新たに挑む一方、経験豊富な住宅向け市場を切り開くチャン
スがある。ただし米国の住宅向け市場が熟していないのにはそれなりの理由がある。コストにとどまら
ず、投資コストの回収リスク、回収期間、手続き、メンテナンス、概観・デザイン、安全性など、米国
の利用者が一般的に有する抵抗感を払拭する工夫が必要だ。
太陽光発電システムの構成
太陽光発電システムは、数 100 平方センチメートルのサイズの太陽セルを、数十~数百枚しきつめら
れた「太陽パネル」が基本的パーツである。一つのユニットは、外枠とパネルと配線用のボックスが設
けられている。さまざまなサイズのパネルが提供されているが、多くは畳 1 枚程度のサイズが、一つの
ユニットとして提供されている。1 枚のユニットは、100~200W 程度の発電が可能である。家庭向けの
場合、おおむね一般家庭あたり一日 15,000kWh の電力消費が標準であることから、3-5kW(3,000-5,000W)
発電相当、20-40 枚ほどを主に建物の屋根に設置する。
一つのシステムは、太陽セルから得られる電流は直流(DC)であるため、電力機器に対応できるよう
交流(AC)に変換するためのインバーター、電力を管理するコントローラー、メーターなどで構成され
る。また、太陽パネルを屋根や壁に設置するための、取り付け部材も必要となる。
さらには、日中発電した電気を夜間に利用するために蓄電装置が設置されたり、電気自動車を充電す
るために充電器を取り付けることが今後増えてくると考えられる。
これとは別に、発電事業者が、売電事業を目的として、広大な敶地に太陽パネルを多数並べたソーラ
ーパークを設置する場合がある。この場合には、発電効率を上げるために、太陽の動きに合わせてパネ
ルの向きを変える「トラッカー」を設けるケースがある。
また、パネルも、効率性を上げ、太陽セルの使用量を節約するために、集光レンズを取り付けた「集
光型」(CPV:Concentrating Photovoltaics)のものも存在する。近年このタイプのものが、多くの企業から
提案されているが、温度上昇への対応が課題となっている。
1-2 太陽光パネル製造の市場構造、プレーヤー
サプライチェーン(シリコン系太陽セルの場合)
ポリシリコンメーカー
結晶型太陽電池の主要原料であるシリコンは、半導体にも使われるものであるが、多結晶型のものは
高純度を要求される半導体用とはグレードと製法が異なり、「ソーラーグレードシリコン」と呼ばれる。
そのため、太陽光セル市場が急速に拡大した 2005 年以降価格が上昇し、2008 年には、供給不足でスポッ
ポリシリコン シリコンウエハ 太陽光セル 太陽パネル
(モジュール)
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トで 1KG あたり 400 ドルと、価格が高騰した。それに伴い、大手メーカーが相次いで製造能力を大幅に
アップし、更には中国企業などの新規参により、2012 年まで供給過多が続くと見込まれている。そのた
め、今後も価格が下がり続けることが見込まれている。
ポリシリコン主要メーカー(2009 年)
会社名 国
1 Rec Silicon 米 売上 260 億円。ノルウエーRec 社のポリシリコン部門。2010
年に 2 万トン、2014 年に 4 万トン体制に増強予定。コマツ
から米国工場を買収し 2000 年に設立。太陽電池用専業で急
成長。
2 Hemlock 米 2009 年に 1.9 万トン、2011 年に 3.6 万トンへ増強予定。う
ち太陽電池向けが 4 割。
3 Wacker Chemie 独 2010 年に 2.15 万トンに増強予定。2008 年に太陽電池用専用
プラント新設(年産 650 トン)
4 Memc Electronic
Materials
米 2009 年に Solar 事業を行う Sunedison を買収。イタリアに
72MW の欧州最大のプラントを設立予定。
5 Tokuyama 日 2009 年に 8200 トン体制とし、太陽電池向けが 1000 トン
6 三菱マテリアル 日 2010 年前に日米の工場を増強し 4300 トン体制へ。
7 住友チタニウム 日
(出所:各種報道資料等により作成)
上記の上位 7 社で、市場の 90%の占有率であり、現在約 70 社が提供していると推定される。2009 年
の世界太陽電池用ポリシリコンの生産量は 8 万 8,200T で、2010 年は前年比 47.4%増の 13 万 T に拡大す
ると予測されている。業界関係者は、太陽電池用ポリシリコンは、2012 年まで供給過剰が続く見通しを
示している。
一方、中国や韓国など多数のメーカーで、本格的な量産を開始すると見られることから、2010 年の太
陽電池用ポリシリコン市場は 4 万 2,000T 規模の供給過剰が発生すると予測される。こうした供給過剰に
より、太陽電池用ポリシリコンの価格も長期契約基準で、2004 年以前の Kg 当たり 50 ドル台まで下落す
る可能性が高い。
一時、供給が逼迫した時期には、業務提携、資本提携により、原料であるポリシリコンを確保できた
ところが売上を伸ばすことが可能であった。長年首位であったシャープが原料調達の遅れから 2007 年に
2 位に後退を余儀なくされた。しかしながら、現在はそういった制約条件はなくなった。今後、太陽光パ
ネルの普及に伴い、半導体用シリコンの市場を凌駕する規模に拡大することが見込まれている。
ウエハメーカー
主にポリシリコンメーカーなどが提供している。主要企業は、Rec(米)、LDK、Green Energy、Memc、
インリー(Yingli)、Deutsche などである。
12
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太陽電池セルメーカー
世界で多くの企業が太陽光セル市場に参入している。採算に乗せるには、100MW クラスの設備が必要
と言われており、設備機械だけで 100 億円の規模の投資が必要となる。従来は、日本企業など大手の半
導体メーカーなどが代表的なプレーヤーであった。最近では、新設ベンチャーなどで、数百億円規模の
投資や融資を受け、急成長をしている企業が増えている。
主要太陽電池モジュールメーカー(生産量は MW-DC)
会社名 国 タイプ 生産量
(2008)
生産量
(2009)
概要
ファーストソー
ラー
米 薄 膜
(CdTe)
504 1,011 99 年設立。低価格の CdTe を武器に、2008
年に大幅に売上を拡大。2009 年生産能力は
1100MW で、Q セルズを抜いてトップにな
った。
サンテック 中 結晶 498 704 2001 年創業。2005 年に NY 市場上場し、2008
年に 1GW まで製造設備を拡大し、近年急速
に拡大中。
シャープ 日 結晶、
薄膜
473 595 歴史が長く、長年世界トップだったが 2009
年は足踏み。480MW の堺工場を新設し、低
価格の薄型アモルファス型にシフト。
Q セルズ 独 結晶 570 537 99 年設立。ドイツ市場の拡大にあわせ、急
速に拡大。しかしながら、2009 年は欧州市
場が不調で業績が悪化しリストラ中。
インリー 中 結晶 282 525 追加で 300MW の工場拡張予定。
JA ソーラー 中 結晶 277 509 2009 年 509MW に増産。
京セラ 日 結晶 290 400 2010 年より新工場が稼動。2010 年 600MW、
2011 年 800MW、2012 年 1GW 生産予定。
トリナソーラー 中 結晶 210 399
サンパワー 米 結晶 234 398
ジンテック 台 結晶 180 368
モーテック 台 結晶 275 360
三洋電機 日 結晶、薄
膜
210 260
(出所:PV News, GreenTech Media, May 2010 より作成)
その他注目すべき新興企業
ソリンドラ(米);チューブ型薄膜太陽パネルを開発中である。VC からの大型調達と、米国政府から
の大型融資を受けたことで注目された。今後市場に出回る予定で、2010 年中に株式公開予定である。CIGS
の薄膜型で製造単価が安いのと同時に、筒型であるため裏面からの発電が可能で発電効率が高い、現場
13
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施工が容易で、設置コストを下げられる、風が吹き抜けやすいため故障が尐ない、という利点をアピー
ルしている。
ナノソーラー(米);2002 年創業の CIGS 薄膜パネルの先駆者である。これまで約 500M ドル(約 500
億円)の資金を集めている。現在 10~12%の発電効率の製品を出荷しており、ラボベースでは、最大 16%
の効率化を実現している。他のすべての太陽電池パネルメーカーと同様に、シリコン型やカドテル型を
超えるレベルの、価格と発電効率を実現できるかどうかが、課題となっている。
Konarka Technologies フィルム会社のコニカミノルタと資本提携し、日本に工場を設立予定である。
一方、2008 年には、ソーラーパネルベンチャーへの投資が 15 億ドルとなり、世界的にバブルといった
様相であったが、2009 年の金融経済危機により資金調達が困難となり、ビジネスから撤退するケースも
出てきた。
オプティソーラー;カリフォルニア州 Hayward のベンチャー企業で、アモルファスシリコンタイプの
薄膜パネルを開発中であった。これまで約 300M の資金を調達してきたが、金融経済危機により追加の資
金調達が困難となり、2009 年 1 月に 300 人のレイオフを実施した。さらに、カリフォルニアの電力会社
である PG&E と契約済みの未開発のプロジェクトとチームを、ファースト・ソーラーに$400M で売却
した。現在では実質的に事業停止状態となっている。
今後これら薄膜系の新興企業で生き残りに成功したところが、低価格を武器に市場に参入し、市場の
拡大とともに、競争は激化する見込みである。
太陽パネル
多くの太陽セル会社はパネルも同時に製造している。セルは海外工場で生産し、パネルを米国内で生
産するというパターンが尐なくない。
一方、セルを製造せずに、パネルだけ製造する企業も多く存在する。東芝は、2010 年に米国サンパワ
ーと提携し、サンパワーのセルを調達し、日本でパネルを製造することを計画している。
また、太陽セルの効率化とセルの節減のために、「集光型パネル(CSP)」や、太陽の動きに合わせて集
光面の向きを変える「トラッカー」型などを提供する企業が多数存在する。この発電効率を上げるタイ
プでは、セルを購入し、システムとして販売している。ポリシリコンの需要の急拡大にともない、セル
の価格が上昇していた 2007 年、2008 年ごろには、このタイプが期待された。太陽セルを作るには巨額の
投資が必要であるが、パネル製造にはそれほどの資金が必要とされないことから、多数のベンチャー企
業が参入した。ところが現在では、ポリシリコンの価格の急落と、シリコンを使わない薄膜タイプが市
場に出始めたことから、W あたりの価格はますます下落傾向にある。そのため、集光型やトラッカー型
については、コスト競争力と営業力がないと、淘汰される可能性が高まっている。
インバータメーカー
現在の、全世界の市場規模は 18 億ドル程度と見られているが、今後太陽光発電の普及により、大きく
拡大することが見込まれる。
太陽パネルからの電気は直流で得られるため、電気機器で利用するには、交流に変える必要がある。
14
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従来型インバーターは、一カ所に集めて、交流に変えるものである。これの単価は 60 セント/W 程度で
ある。ただし、一部、陰が出来たりすると、全体の発電量が大きく下がるのが問題であった。これに対
し、マイクロ・インバータは、一つ一つのパネルに直接設置し、交流を得るものである。そのため、発
電ロスが尐なくなる。但し単価は 100 セント/W 程度となる。マイクロ・コンバータは、一つ一つのパ
ネルに設置するが、それぞれが DC-DC 変換を行い、全体をコントロールし、DC-AC 変換は別のイン
バーターに任せるもので、直接大電流の直流が得られるため、電気自動車の充電などへの利用が期待さ
れる。
従来のインバータの出荷数が 2012 年に 130 万~140 万台になる予想に対して、マイクロ・インバータ
とマイクロ・コンバータを合わせた出荷数は 2012 年に約 800 万台になる予想である。既に米国では、ベ
ンチャー企業を中心に複数の企業がマイクロ・インバータとマイクロ・コンバータを開発している。
比較的小資本で事業参入できることから多数の企業が提供している。主だったところでも、以下の企
業がある。
Advanced Energy Industries, Alpha Technologies, Ballard Power Systems, Beacon Power, Bergey Windpower,
Bloom Energy, CFM Equipment Distributors, Connect Renewable Energy, Delta Energy Systems, Diehl Ako
Stiftung& Co.KG, Enphase Energy, E-Villa Solar, Fronius USA, GE Energy, Gridpoint, Home Director, Ingeteam,
Ipower, Kaco, Mariah Power, Mohr Power, Motech Industries, Open Energy, Outback Power Systems, PhoenixTec
Power, Powercom, Power-One, Princeton Power Systems, PV, Powered, Renergy, Satcon, Technology, Satcon
Technology, Schuco USA, SHARP, Siemens Industry, SMA, America, Solectria Renewables, Sonnetek, SouthWest
WindPower, Sungrow Power Supply, Sunset, Sysgration, Windterra Systems, Xantrex Technology, Xslent Energy
Technologies, YES! Sola
(出所:各種報道資料等により作成)
この中で、特徴的な企業としては、Enphase Energy が上げられる。Enphase は、VC から大きなファン
ドを受けている住宅と商業用の小型インバーターを提供している。一つ一つのパネルに直接取り付ける
ことで、交流電源を得ることが可能となる。分散、高信頼、高効率で、それぞれがセンサーになってい
る、などの特徴を有する。既に 12 万ユニット以上を出荷した。多くの小型インバーターメーカーはある
が、急成長の 2000 億円市場のインバーター企業において、これほどの実績を有する企業はない。
米国では太陽光発電への取り組みの遅れから、現時点では米国企業のシェアは低い。しかしながら、
オバマ政権の支援策により、米国市場が急速に拡大することが見込まれており、シリコンバレーを中心
に、新興企業が多数設立されており、今後、米国企業のシェアの拡大が予想される。
太陽電池製造装置メーカー
太陽電池市場の拡大とともに、製造装置メーカーの市場も拡大している。トップは米 Applied Materials
である。太陽電池製造装置の売上高は 797M ドル(約 800 億円)の売上(2008 年)で、前年比 10 倍に拡
大した。2 位はターンキー型の製造ラインで強みを発揮するスイス Oerlikon Solar で、前年の約 1.5 倍と
なる 552M ドルを売り上げた。その他、アルバック(日)などが続く。半導体製造装置トップのアプライ
ドマテリアルは、太陽セル市場への参入が遅れていたが、現在では、遅れを取り返した。但し、半導体
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製造ラインを作るメーカーが参入しているケースが多く、この分野は多くの企業が存在し、競争はます
ます激化した上、2009 年は太陽光発電への設備投資自体も細ったために、多くの企業が苦境にあえいだ。
1-3 ユーティリティスケール(電力事業級)ソーラファームの市場
構造・プレーヤー
サプライチェーン
パネル製造メーカー → インバーターメーカー → ディストリビューター → 設置業者 → 最
終ユーザ(電力事業者、独立事業者など)
業界の動向
ユーティリティスケールでの動きは、電力会社によるソーラーパークの事業化のみならず、独立事業
者が PPA 契約(発電の買取契約)に基づき、事業参入するケースがある。現在では、独立事業者が参入
するケースが増えている。特に、積極的に電力事業プロジェクトへの参入を行う戦略をとることで、大
幅に業績を伸ばすパネルメーカーやポリシリコンメーカーが出現していることが目立つ。
Sun Edison
本社はメリーランド州であるが、カリフォルニアに複数オフィスを有する。主に北米で、自治体、ユ
ーティリティ企業に対し、太陽光発電プロジェクトを提供している。現在、100MW の発電を行っており、
北米最大のソーラー電力事業者の一つである。2010 年に、イタリアで 72MW のプロジェクト契約を結ん
だ。2003 年に設立され、2009 年にポリシリコンメーカーである Memc Electronic Materials によって$200M
で買収された。Memc としては、ポリシリコンの売り先の確保と、新事業の展開を目指したものである。
ファースト・ソーラー
太陽パネル会社であるファースト・ソーラーは、2009 年 1 月に、数ギガワット規模の電力を供給する
太陽電池パイプラインを、同業のオプティソーラーから買収した。パネルメーカーのみならず、太陽発
電産業大手としての地位を確立している。主な動きとしては以下が挙げられる。
-PG&E との電力購入契約に基づく、550MW のソーラー開発プロジェクト。
-別途 1300MW AC のプロジェクト・パイプライン。
-約 13 万 6000 エーカー(約 210 平方マイル)の戦略的用地の利用権。最大 19 ギガワット (GW) の
発電所規模の太陽光発電プロジェクトを展開可能。この太陽光発電プロジェクト・パイプラインの組み
立て、施工を担当した中核開発チームが、ファースト・ソーラーの開発チームに統合された。
また、中国にて 2000MW 規模の発電事業を行うことを、2009 年 9 月に発表した(数千億円規模のプロ
ジェクト)。完成すれば世界最大規模の太陽光発電設備となる。
ファースト・ソーラー社は、2007 年に米国での発電所規模の太陽光発電の設計調達建設 (EPC) 能
力を取得するため、ターナー・リニューワブル・エナジー社(Turner Renewable Energy)を買収したり、
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EPC 機能を持つ企業複数社と戦略提携を進めることで、大型プロジェクトの受注に成功している。パイ
プラインだけで数十 GW(数万 KW)規模を有し、世界有数の太陽光発電企業の様相を呈している。
1-4 住宅向け太陽光発電市場の市場構造・プレーヤー
サプライチェーン
パネルメーカー → ディストリビューター → 設置業者 → 最終ユーザ(個人住宅、事業者、ソ
ーラーパーク)
メインプレーヤー
関連業者は、カリフォルニア州だけで 300 を超える企業がリストアップされている。その内訳は、製
造業、ディストリビューター、サービス、製造機器、コンサルティング、専門輸入業者、などである。
今後も拡大することが見込まれているが、大きく影響力を及ぼしているのは、金融機能を持ったディス
トリビューターである。
従来は、SHARP や SANYO、Kyocera など日本製が上位を占めていた。ここ数年、中国企業や欧州企業
が勢力を伸ばすと同時に、米国企業もベンチャーが多く立ち上がっていて、競争が激しくなっている。
太陽光パネルを導入するには、個人および事業者のいずれも、専門の設置業者を探し、依頼することに
なる。ディストリビューターやインストーラーが、テレビ CM や広告を打ったり、ホームセンターや電
気店で販売を行うケースが増えている。
発電量は、個別の住宅・ビルの形状や周りの環境に大きく左右されるため、プロジェクト別の採算を
予想することは非常に重要となっている。これを計算できるシステムを専門的に取り扱い、インストー
ラー向けにクラウドサービスを行う CleanPowerFinance のような業者も出てきている。
最近の動向
導入時のネックとしては、たとえば住宅向けにおいては、数 KW 発電規模で、税額控除を利用したと
しても、数百万円の資金を先行投資する必要があることである。これに対応し、リースなどファイナン
スを提供することで、資金負担がほとんど不要というケースも出てきていて、こうした業者が売上げを
伸ばしている。設置は、比較的資金力が乏しい地場の建設会社や工事業者が担っている。このため、リ
ース会社やディストリビューターが豊富な資金力を背景に、工事実績のある工事業者の囲い込みを図る
動きが活発化している。ディストリビューターも、確実な資金回収のためには、設置場所が、適してい
るかどうかを評価するノウハウやツールを取り揃え、メンテナンスの対応力などを重要視している。
また、設置業を希望する業者には、講習会を開いたり、ユーザ向けにセミナーを開くなど、啓蒙活動
を広げている。建設会社や電気工事会社、配管工事業者、屋根業者など多数参入している。
競合状況
1W 当たりのパネルの価格は非常に重要である。しかしながら、それと同様に設置コストが非常に大き
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な要因にもなっている。設置コストは設置面積に比例するために、発電効率がより重要となる。一方、
発電効率の高いパネルは単価も高く、この 3 つの要因を勘案する必要がある。また、投資回収は 10 年か
ら 20 年と長期に渡るために、故障率や耐久性など品質を含めた性能の良し悪し、プロジェクト別の採算
予測などが非常に重要となる。
一般ユーザにとっては、個々のパネルの性能について自ら評価することは難しく、インストーラーの
アドバイスは非常に影響力を及ぼすことになる。
主要なインストーラーとして、SolarCity や SunRun、Akeenasolar などがあるが、いずれもファイナンス
機能を武器としている。また、大手ディストリビューターの一つである DC Power Systems なども、イン
ストーラー向けにファイナンス機能を提供することで売上げを伸ばしている。そのため、これらファイ
ナンス機能を持ったディストリビューターや有力インストーラーへいかに訴求するかが、非常に重要と
なっている。
1-5 日本企業の参入機会
旧来からの知名度から、日本企業はアドバンテージを有している。特に、業暦が長く実績のある設置
業者では、日本製のパネルになじみがあり、また、耐久性の観点からも、日本製パネルを勧めるところ
が尐なくない。そのために、知名度を生かした営業は非常に有効である。一方、新規参入者にとっては、
米国や中国などの新興企業と同じ土俵で勝負をすることになる。
パネルの価格は大きな要因である一方で、設置コストを含めた全体コストに対するインパクトを考慮
する必要がある。今後は設置コストを下げるための工夫がとても重要となり、プロジェクト自体の発電
効率を上げるなど、採算性をあげる対策を打つことは非常に重要となる。発電効率を上げるマイクロ・
インバーターや、周辺機器も可能性があるだろう。
また、業界の動きを見ると、資金提供機能を持つディストリビューターの影響力が非常に大きくなっ
てきている。こうしたディストリビューターに対し、性能についてアピールする努力が必要であるが、
それだけでなく、メーカーサイドでリースなどファイナンス機能を付加することで、米国市場に参入で
きる可能性がある。
ユーティリティレベルのビジネスについては、特に、自治体の場合には、自国の製品を採用する傾向
にある。パネルメーカーのファーストソーラや、ポリシリコンメーカである MEMCが行っているように、
M&A 戦略などを活用し、自ら事業者として事業を進めることも必要であろう。あるいは、アセンブリを
米国内で行い、MadeinUSA として提供することも必要と考えられる。単に製品を輸出するということだ
けでなく、米国企業として活動することで、地元の雇用促進に貢献できることをアピールすることも必
要ではないかと考えられる。
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2 章 電気自動車およびインフラ
2-1 市場・技術動向
電気自動車(EV)は 2015 年までに世界で 3,300 万台
電動モーターをエンジンとする自動車のことである。化石燃料を主とする従来の自動車に変わって、
電気をエネルギーとすることで、地球環境にやさしいものである。夜間電力を利用することで、低コス
トでの運用が可能となる。さらに今後は、太陽光発電などを利用することなどが検討されている。
米国政府は、プラグイン・ハイブリッド車を 2015 年までに 100 万台普及させる計画を打ち出している。
オバマ政権における政策上の後押しもあり、急激に電気自動車への関心が高まった。
ハイブリッド(HEV)、プラグイン・ハイブリッド(PHEV)などのハイブリッド方式が実用最先端の
エコ技術とされ、これらのほかにも燃料電池により発電してその電気を使用する燃料電池自動車(FCEV)
も開発されている。さらにエンジンを搭載せず、全く排気ガスを出さない 100%電気駆動の電気自動車が
これから大いに発展し、リチウムイオン電池の大容量化と低コスト化が実現していけば、2015 年までに
全世界で 3,300 万台レベルまで市場が拡大することが予想される。
電気自動車の種類
①(狭義の)電池自動車
従来の化石燃料を一切利用しない自動車で、蓄電池に充電した電気で電動機(電動モーター)のみを
動力発生源として推進する自動車である。EV の基本構造は非常に簡単で、バッテリー、駆動モーター、
滑らかな加速減、一定速度での走行を可能にするためのモーターコントローラーなどから構成されてい
る。
深夜電力を利用することで、自宅で充電でき、エネルギー費用が抑えられる。(1KM 走行で電気代は深
夜電力利用で約 1 円、非課税なら石油走行の 10-15%、1KM 走行でガソリン代は約 15 円:燃費が 10KM / L
の場合)また、内燃機関に比べエネルギー効率が数倍高く、走行中に排ガス(CO2 や NOX)を出さない。
騒音が非常に尐ない。モーターで直接車輪を駆動するためトランスミッション、ラジエター等が不要で、
部品点数を非常に尐なくできる。などのメリットがある。一方、現在、蓄電池が高価で、走行距離が短
い、充電に時間がかかるなどのデメリットがあるが、今後、大量生産が進めば、大幅なコストダウンが
可能であると期待されている。
また、長距離走行のための給電道路や電池交換所等が未整備であるという問題がある。一方、自動車
メーカーや自治体などが、普及推進のために、コストを度外視して、設置を進める動きもある。
電池は、現在、PC や携帯電話などの蓄電池として利用されているリチウムイオン電池が主流であるが、
コンデンサーの機能を利用したキャパシタを使ったものも開発中である。
②ハイブリッドカー
内燃機関(ガソリンエンジン)と電動機(電気モーター)の両方を用い、二次電池を介して、またブ
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レーキで生じる回生エネルギーを充電するタイプのもの。このため、非常に効率が高いのが特徴で、エ
コカーとして人気が高い。但し、ガソリンエンジン車に比べ機構が複雑となるため、製造価格は高くな
る。現在、商用化されているものとしては、トヨタとホンダの 2 社である。長年改良を受けたおかげで、
近年になってようやくガソリン車に対抗できる価格に収まってきたことと、助成制度の後押しで、急速
に広がってきた。
ハイブリッド車の市場は今後も大きな成長が見込まれ、2012 年には世界で 230 万台規模の市場に成長
すると予想される。
ハイブリッド車の基本的な構成はエンジン、必要な際にエンジンを稼動して発電する発電機、バッテ
リー、バッテリーからの直流電流を交流に変換するインバーター、バッテリーからインバーターを通し
て供給される電気で動くモーター、車輪を廻すための動力源であるエンジンとモーターの使い方を最適
制御する動力分割機構からなる。
これは、シリアル・ハイブリッド方式とパラレル・ハイブリッド方式に大きく分かれる。前者は、エ
ンジンはバッテリーの充電のための発電機を動かすためだけに使われ、後者は、はエンジンとモーター
の両方の出力を駆動源として使用するものである。
③プラグインハイブリッドカー
ハイブリッドカーの中でも、電気で走行することを主眼においたもので、充電することを可能にした
もの。蓄電池容量は電気自動車より尐ないもののハイブリッドカーより多い。1 日の走行距離が短い、日
常の街乗り利用では電気モーターで走行し、旅行など遠距離を走る際に、ガソリンエンジンを使う。電
池自動車の走行距離の問題、充電時間の問題を解決することが可能である。
家庭用電源で充電出来るため、電化地域であればどこでも充電できるメリットがある。料金の安い深
夜電力を利用して充電することにより、燃料代の低減というメリットも生まれる。
但し、電気自動車と内燃車の双方の機構が必要で、部品点数がガソリン車よりも多いため、必然的に
ガソリン車より高コストとなる。ハイブリッドに比べ更に電池の容量が大きいため、価格が高くなると
いう問題がある。電池のコストダウンが進んだ場合は純電池式電気自動車に比べコスト面で不利となる。
燃料電池車
電池の代わりに、燃料電池を搭載したもの。燃料電池は、水素を酸素と化学反応させることで電気と
水を発生させるものである。水素は貯蔵が難しいという問題がある。貯蔵が容易なアルコールやガスな
どを、改質器によって水素を生じさせるタイプもあるが、改質器が大きいため、乗用車に搭載するのは、
非常に不利である。また、燃料電池は白金など触媒を使うが、非常に高価であるため、コストが高くつ
くという問題がある。水素ステーションが現在のガソリンスタンドのように設置されるまでには、非常
に大きな投資コストと安全性の問題からあまり現実的でない。かつては多くの自動車メーカーが取り組
んでいたが、そのため現在は下火となっている。現時点では、政府の支援が非常に重要で、米国では、
政策的にも消極的であることから、今後普及する可能性は低いものと思われる。
電気自動車は、充電インフラ整備にコストと時間がかかるため、現実的には、当面ハイブリッドが主
流となる見込みである。さらに今後は、普通の自動車と EV の両方の利点を兼ね備えたプラグインハイブ
リッド車が広がるものと思われる。その間に電池の性能が向上し、コストダウンが可能となれば、エレ
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クトリック・カーに置き換わっていくという流れになると考えられる。
2-2 EV 製造の市場構造とプレーヤー
従来の自動車と大きく異なる部品は、モーターとバッテリーなど駆動部分である。その他部品は、従
来の自動車とほとんど変わらない。複雑なエンジン周りの機構が不要となるため、従来の乗用車で 3 万
点必要とすれば、1 万点程度で済むと言われている。
自動車完成品メーカーが、多くの部材を下請け工場から調達しているように、電気自動車も同様に外
部から調達することになるが、景気低迷で自動車生産量は大幅にダウンしたこともあり、現状調達する
ことは難しくない。最終組み立ても外注しファブレスのところもある。ハイブリッドの場合には、従来
の内燃焼機関のほかに、モーターとバッテリーが加わるために、逆に部品点数は多くなる。
メジャープレーヤー
日産、三菱自動車の 2 社が既に本格的に市場参入している。米国ビッグ 3 は、2009 年の経営破たんの
影響で、本格展開にはしばらく時間がかかるものと思われる。欧州メーカーは、電池自動車の普及はこ
れからとし、じっくりと研究を進めていく模様。
電池自動車(大手自動車メーカー)
企業名 概要
日産自動車(日) リーフ;小型車クラスで開発した 5 人乗りファミリーカー。日本や欧米で発売。
日産の EV としては初めて年 5 万台以上を生産する本格量産車となる。最高時速
は 140KM 以上、小型高性能のリチウムイオン電池を搭載し、1 回のフル充電で
160KM 以上を走行。充電時間は急速充電器なら 30 分以内で容量の 8 割まで充電
可能。家庭用 200V 電源なら約 8 時間。
・充電スタンドの整備運営をする米国ベタープレイス社と組み、電池交換所整
備に加えて政府や自治体による助成金や優遇税制の導入をセットにした電気自
動車発売を計画。電力の補給を、カートリッジ式の電池を交換する方法を想定
しており、充電時間の問題を解決できるとみている。また、過去に成功を収め
た携帯電話のビジネスモデルに倣い、電気自動車の車両本体はユーザーに無料
で提供し、電池の利用に応じた料金収入による経営とする方針を打ち出してい
る。
三菱自動車(日) 2009 年 7 月「I-MIEV」発表。10 年 4 月から一般消費者に販売予定。東京電力
が開発に参画。年間数万台の販売計画。
トヨタ(日) コンセプトカー「FT‐ EV」を発表。本格販売は未定。
富士重工(日) スバル 「R1E」
クライスラー(米) 「ダッジ EV」2 人乗りの後輪駆動スポーツカー。
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268HP、66.3KGM を発生する電気モーターを搭載。0-100KM/H 加速=5 秒未満、
最高速度=193KM/H のパフォーマンスを発揮。
最新のリチウムイオンバッテリー技術を使用することで、連続航続距離は 240
~320KM を実現。エネルギー補給は、家庭用の 110V 電源に 8 時間つなぐだけ。
220V 電源を使用すれば、充電時間は半分で済む。
2010 年に発売予定。
専門の社内組織「ENVI」を立ち上げ、量産型電気自動車の開発中。
BMW(独) 「ミニ E」
「ACTIVEE」;内製にこだわった電気自動車を発表。電気自動車でも,走行性を
第一に置く。モータも量産時に内製する方針。
これまで開発してきた電気自動車「Mini E」の成果を生かした上で、小型クーペ
「1 Series Coupe」のプラットフォームを流用した。
「MegaCity Vehicle」と呼ぶ電気自動車およびプラグイン・ハイブリッド車の専
用車を 2011 年に,規模は未定ながら量産する計画。Activee は、MegaCity Vehicle
に向けた実証実験用の車両という位置づけ。
ルノー(仏) 「ルノー Z.E.」
「フリューエンス EV」 メガーヌベース開発車
シトロエン(仏) PSA プジョー‐ シトロエン
SVE 社(仏) 「クリーンノバ II」2009 年発売
ダイムラー(独) 「スマート・フォーツーED」
ボルボ(スエーデ
ン)
「ELECTRIC C30」;モータやインバータをスイス Brusa Elektronik 社から調達。
エンジンよりもはるかに制御性の高いモータであれば、制御ソフトウエアに注
力することで、他社品のモータを使っても十分に商品性を高められると見込ん
だ。既にモータの制御ソフトウエア開発にめどを付けたとし、Electric C30 で
は 2 次電池の安全性を確保した上で、実際の使い勝手などを考慮してエンジン
車と変わらない内装や装備を備えた。2011 年販売を予定。
ドイツ AUDI AG 「E-Tron」;2009 年 9 月に公表した車両とは全く異なる仕様となっていた。モ
ータ 2 個の合計出力は 150KW と,前回の 230KW から大幅に小さくし、三洋電
機製の LI イオン 2 次電池も 53KWH から 45KWH へと引き下げた。2012 年の尐
量生産を計画するが、小型車を主力としない同社にとっては、まだ本格的参入
とは言えない状況。
その他大手では、日野自動車、クライスラー、GM、フォード、ダイムラー、VW
グループ、オペル、プジョー、ピニンファリーナ、GE などが計画。
(出所:各種報道資料等により作成)
一方、ベンチャーなど新興企業の参入は活発となっている。ハイブリッドに方式に比べて、部品点数
が尐なく、大半の部品も入手しやすいことから、参入しやすい素地が整ってきたことが上げられる。
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電池自動車(ベンチャー)
企業名 概要
テスラモーターズ ・2002 年設立の高級電気スポーツカー製造。VC から 442M ドルを調達し、2010
年 1 月、エネルギー省から 4 億 6500 万ドルの低利融資を受けた。ファミリー
セダン市場参入に向け、ラインを拡大中。
・これまでテスラ・ロードスターを 1000 台出荷し、2009 年 9 月期に 93.3M ド
ルの売上を達成。上場申請書を 2009 年 12 月に申請済み。
・コア技術はバッテリーの制御技術(ネットワーク・ソフトウェア)。
・シャーシはノルウェイ、ブレーキとエアバッグはドイツ、バッテリーパック
は日本から調達、タイでアセンブル、ファイナル・アセンブリーは英国とファ
ブレスで生産。今後は、米国内で生産する予定。
・テスラロードスターは、「Pure Electric」、「60 MPH(96KM/時)まで 3.9 秒の
加速」、「一回の充電で 244 マイル(390KM)」、「1 マイルあたりの電気代は数セ
ント」というキャッチフレーズ。電池寿命は 10 万マイル(16 万 KM)。
・2009 年 3 月には「モデル S」が発表された。これは大衆車で、補助金を考慮
すれば 5 万米ドル以下になる。さら 2010 年 1 月、パナソニックと LI イオン 2
次電池を共同開発すると発表。Model S を「近いうちに年 2 万台販売するとし、
この車種を含めた Tesla 社の電気自動車の販売台数は 5 年以内に年 20 万台にな
るとの見通しを掲げている。
・現時点では販売もディーラー網に頼るのではなく、直販店を設置。
マイルズ・エレクト
リック・ビークル
(Miles Electric
Vehicles)
・低速の近距離(街乗り)用電気自動車。ハイウェイも走行可能なモデルを 2010
年に市場に出したいと計画。中国で車両を生産。
シンク・ノース・ア
メリカ(Think North
America)
・ノルウェーの電気自動車メーカー、シンク(Think)の米国子会社で、KPCB
とロックポート・キャピタル・パートナー(Rockport Capital Partners)の出資を
受けて 2009 年 3 月に設立。
・シンク・グローバル社は、A123 システムス社、GE 社とジョイントコラボレ
ーション
・シンク・グローバル(Th!nk Global)モデル「Th!nk City」
もともと 1990 年代に小型 EVを開発していたノルウェイの会社ピブコ(PIVCO)
が源流。シンク・グローバル社は小型の EV、シンク・シティ(Th!nk City)を
まずノルウェイで発売、次世代モデル Th!nk OX は米国でも生産、販売の予定。
Th!nk City は最大速度 100KM/H、加速も 50KM/H まで 6 秒、80KM/H まで 16.0
秒で、テスラ・ロードスターの 10 万ドル近い価格に比べると 2 万 5 千ドル程
度と安価で、通勤や市街地での運転を目標として、今後販売が大きく拡大する
ことが予想される。
レバ(REVA、イン 「G-WIZ」;鉛酸バッテリーで駆動する電気自動車を約 9000 ドルで販売。2009
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ド) 年 1 月には、リチウムイオン・バッテリーで動くモデルを欧州市場で販売計画。
Batscap( バスカ ッ
プ)社(仏)
「ブルーカー」と「Pininfarina(ピ二ンファリーナ BO)」
ニースカー(英) EV モデル「メガシティ」
ザ ッ プ 社 (Zap
Corporation)
電気自動車の新興メーカー。
無線 LAN を搭載した普通充電スタンドを開発。無線 LAN を最終的にどう使う
のかは検討中。
スミス社(英) スミス社(Smith Electric Vehicles)。フォードと共同開発
ダ イ ナ ス テ ィ 社
(英)
ダイナスティ社(Dynasty Electric Car Corp.)モデル「Dynasty IT」
米 Commuter Cars
Corp
全幅 1M 以下で二人乗りの電気自動車「TANGO」を披露。これまで 11 台を製
作して販売しており,2010 年も尐なくとも 12 台は製作したいとする。
米 Green Vehicles,
Inc.
3 輪の電気自動車「TRIAC」を発表。現在までに約 40 台の受注を受けている。
CT&T(韓) 米国市場に向けた 2 台の新しい電気自動車を発表。コミューター・タイプの「E
-Zone Plus」、スポーツ・タイプの「C Square」。米国市場に挑戦する好機と捉
える。
ライトスピード社
(WrightSpeed, Inc.)
テスラモーターズ社からスピンアウトした会社。ニッチ市場であるスポーツカ
ーだけでは事業の成長が見込めないと判断し、方向を 180 度転換し、EV 市場
がもっと成長するまでは、バッテリパック、制御ソフトウェア、その他のコン
ポーネントなど、EV の性能を向上させるためのパワートレーンの開発・販売
に専心。
Coda Automotive それまでステルスモードであったが、突如、2009 年にセダンの電気自動車を発
表。1 年後に販売開始を目指している。バッテリー部分も含め、中国で製造。
将来的にはアメリカにも工場を持つ計画。車体の製造はハーフェイ、バッテリ
ーはアップルやサムスンに提供しているリーシェン、ハーフェイのサイバオを
ベースにポルシェデザインの監修で製造。
その他、Elbil Norge AS 社、フェニックス・モーターカー、モデック社(英)、
クーレント(Kurrent) NEV タイプ(街乗り)、グリーンエコ・モビリティ NEV
タイプ(街乗り)、タラ インターナショナル 「タラ・タイニー」、ゼロスポ
ーツ(日)、オートイーヴィジャパン(日)他多数。今後も参入は増えるもの
と予想される。
(出所:各種報道資料等により作成)
ハイブリッド、プラグイン・ハイブリッドにおいては、日本のトヨタとホンダが実績あり。米ビッグ 3
は経営破たんの影響から、対応に遅れているが、GM が米政府の支援もあり追随の見込み。
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ハイブリッド・プラグインハイブリッド大手メーカー
企業名 概要
トヨタ 3 代目プリウス;2009 年登場。米国での価格は基本グレードが 2 万 1000 ドルと
低価格。燃費の向上と今後の小型車への搭載を視野に入れて開発。
・2009 年 7 月「レクサス」ブランド初のハイブリッド専用車「HS250H」を発売。
排気量 2.4L の直列 4 気筒エンジンにハイブリッド・システムを組み合わせた。
4 ドア・セダンの 5 人乗りで価格は 395 万~535 万円。2 輪駆動車のみを用意。
・さらに、家庭用コンセントで充電できる「プリウスプラグインハイブリッド」
を投入。電池だけの走行で、約 24KM の航続距離を有する。
・2010 年中ごろから英国で「オーリス」のハイブリッド車を生産すると発表。
同社が欧州で生産する初のハイブリッド車。
・今後、北米でプリウスのブランドを活用した新車種の展開を計画。
ホンダ ・「シビックハイブリッド」「インサイト」を発売中。
・さらに、2010 年にハイブリッド車 2 車種を追加すると発表。2010 年 2 月に、
スポーティーなハイブリッド車「CR-Z」を、2010 年中に「フィット」のハイ
ブリッド・モデルを日本国内で発売する。同社のハイブリッド・システム「IMA」
を搭載する小型ハイブリッド車。
「CR-Z」は「インサイト」のハイブリッド・システムをほぼ流用。車両前方
にハイブリッド・システム、後方に NI 水素 2 次電池を搭載するハイブリッド・
システムは内製。NI 水素 2 次電池は三洋電機製。販売価格は「インサイトより
も尐し高くなる」ため,200 万円台前半とみられる。
・現在,中・大型車のハイブリッド・モデル拡大に向け、中・大型車用ハイブ
リッド・システムも開発中。
日産 「フーガ」ハイブリッド車。
GM 「シボレー・ボルト」(2010 年発売予定)。リッター100 キロの高性能ハブリ
ッド・カー。心臓部であるリチウム・イオン電池は、GM 自ら立ち上げる電池メ
ーカーが製造供給予定。米政府や州の補助金を考慮すれば、3 万ドル程度で購入
可能となる。
VOLT を 2011 年に 5 万台の量産規模とする予定。
クライスラー 専門の社内組織「ENVI」を立ち上げ、量産型電気自動車の開発に取り組んでき
たが、本格展開はこれから。
GM・オペル GM・オペルのプラグインハイブリッド(エクステンデッドレンジ EV)
Volkswagen 「The New Compact Coupe(NCC)」4 人乗りで 2 ドアのクーペ・タイプのハイブ
リッド車。燃費は約 19.1KM/L。
・NCC のハイブリッド・システムはパラレル方式で、4 気筒で排気量 1.4L の
エンジンとモータ、7 速の DCT(Dual Clutch Transmission)である「DSG」が接
続される。ホンダの IMA と異なり、エンジンとモータの間にクラッチを介する
ため、モータのみの駆動時に効率が良くなる。
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(出所:各種報道資料等により作成)
ベンチャー企業の参入もある。しかしながら、電池自動車に比べて、エンジン開発が必要で、更には
機構が複雑なため、参入は尐ない。BYD のように、小型のエンジンを搭載し、主に発電用としてのみ使
うタイプが現実的と思われる。
ハイブリッドメーカー(ベンチャー)
企業名 概要
ブライト・オートモ
ー テ ィ ブ ( Bright
Automotive)
シンクタンクのロッキー・マウンテン・インスティテュート(Rocky Mountain
Institute)から独立。
小型ハイブリッド商用車の大量生産を 2012 年に開始する計画を発表。
フィスカー・オート
モ ー テ ィ ブ (Fisker
Automotive)
ハイエンドのプラグイン・ハイブリッド車開発を手がけるベンチャー企業。ラ
グシュアリー市場をターゲット。KPCB などが投資。2009 年 4 月に複数のベン
チャーキャピタルから合計 8500 万ドルを集めている。
A123 のバッテリーを使用。 1400 台の予約を受けつけている。
GM 社が閉鎖した工場を買い取ると 2009 年に明らかにして話題を集めた。ただ
し、生産開始の予定は 2012 年後半で、まだ生産は始まっていない。
米エネルギー省は、5 億 2800 万米ドルを融資すると発表。
ビーワイディー中
国(BYD CO.)
(コラム参照)
・2008 年 12 月に、世界で初めての量産型プラグイン・ハイブリッド車となる
「F3DM」というモデルを発表。米国市場向けモデルを 2010 年に投入する計画
で、中国で車両を生産。
・「F3DM」はガソリンエンジン併用と、電気のみでの走行との 2 種類の走行が
可能なデュアルモードとなり、自社開発の LI イオン電池を搭載し 1 回の充電で
100KM 走行できる。搭載しているガソリンエンジンは、発電に使う。
BYD は 1995 年設立され、リチウムイオン電池の世界シェアは 2003 年には約
15%、携帯電話用の二次電池では 39%と圧倒的なシェアと世界的にも高水準の
電池開発技術を誇る。
・BYD グループは、すでにルーマニアやハンガリーで LI イオン電池の生産設備
を整えており、欧州市場やイスラエルでの販売も視野に入れる。
・プラグインハイブリッド中型セダン F6E EV も生産発表。ビッグ 3 に新しい電
動車両を開発する余力に乏しい今こそ、米国市場に参入する好機ととらえてい
る。航続距離は 200 マイル(320km)程度で、ガソリン車と競争力のある価格に
する予定。
FAW Group(中国一
汽)
・プラグイン・ハイブリッド車「B50HEV」を公開。セダン「B50」をベースと
した車両で,2 次電池には LI イオンを使用。1 回の満充電で 60KM の走行が可
能。
Chery(中)(奇瑞) 「瑞麒 M1 EV」;市販の開始予定時期は,2009 年末から 2010 年である。瑞麒
M1 EV に用いる LI イオン 2 次電池やモータは、Chery 社が独自に研究・開発
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した。同社によると電池の交換サイクルは 1500 回で,おおむね 7 年ほどは交換
が不要。
(出所:各種報道資料等により作成)
電動スクーターメーカー
企業名 概要
ヤマハ発動機 「EC-03」;10 年夏に発売予定。薄型の電動パワーユニットとリチウムイオン
バッテリーを軽量アルミフレームに搭載。充電器を車両に内蔵したプラグイン
方式で、家庭用コンセントから手軽に充電が可能。
ホンダ 「EVE-NEO」;11 年をメドに発売される見込み。
(出所:各種報道資料等により作成)
自動車関連企業の取り組み可能性
ボディ・パーツ等は、多くが従来の自動車部品メーカーのものが転用可能。会社によっては、モータ
ーやバッテリーなど主要部品を自社開発するところもあるが、電池自動車の場合には、部品点数が圧倒
的に尐なくてすみ、ほとんどの部品を外部調達が可能である。そのために、従来の自動車関連部品メー
カーは、これら電気自動車の新規参入に参画することは可能である。逆にこれまでなかったものとして
は、モーター、バッテリー、電装品、充電器、ソフトウエアなどが必要となるが、エレクトロニクスメ
ーカー、IT 企業に参入するチャンスはある。
このためには、開発の段階から、参画することが必要である。大手自動車メーカーは、既に多くの下
請け工場を有しているために、昔からの自動車由来部品において参画することは難しいと思われるが、
一方ベンチャー企業の場合には、しがらみがないため、新規に参画の可能性がある。そのため、早い段
階からの参画が必要である。
Focus
中国の BYD が電気自動車市場に参戦
2010 年 04 月 22 日
中国の電池・自動車メーカーの比亜迪汽車(BYD)は、携帯用バッテリーで世界的企業に成長し、電
気自動車(EV)、エネルギー貯蔵、再生可能エネルギーへと業態を広げ、米国市場参入をうかがっている。
EV については技術的に未知数だが、著名投資家ウォーレン・バフェット氏が投資し、ダイムラーが技術
提携する。
<10 年中に米国 EV 市場参入か>
成長企業や成長市場に詳しい「ファスト・カンパニー」誌(2010 年 2 月号)は、「10 年で最も革新的
な企業 50 社」を発表し、その第 16 位に BYD を選んだ。同誌は BYD について「10 年中に電気自動車(EV)
『e6』を投入する計画だ。どの州にもまだディーラーを持っていないが、同社の強みは独自のリン酸塩
リチウムイオン電池。BYD によると、価格が既存電池の 5 割で、2,000 回の充電に耐え、フル充電で 200
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マイル(1 マイル=約 1.6 キロ)の走行が可能だという。太陽電池を作る BYD が自動車でも成功すれば
新たな成功物語になる」と紹介した。BYD は米国で Build Your Dream(「夢を創る」)の略で通っている。
このほか「最も革新的な企業 50 社」には、アジアから Huawei(中国)、アリババ(中国)、HTC(台湾)、
サムスン電子(韓国)、VNL(インド)、ファーストリテイリング(日本)、Huayi Brothers(中国)などが
入った。同誌は選定基準を明らかにしていないが、財務などのデータよりも「企業がどのように行動し
ているか」を重視しているという。
<「米国企業でもある」と強調>
10 年 1 月 24、25 日にロサンゼルスで開催された環境系イベント「VX2010」で、BYD アメリカのフレ
ッド・ニ(Fred Ni)社長が基調講演した。概要は以下のとおり。
BYD は 1995 年に従業員わずか 20 人で創業し、現在、投資家のウォーレン・バフェット氏が株の一部
を所有している。つまりわれわれは急成長中の米国ローカル企業でもある。
BYD の第 1 の柱はグリーンエネルギー。ニッケル・カドミウム電池では世界のシェア 70%を占め、ハ
イブリッド車に使われるニッケル・メタル水素電池のシェアも世界第 3 位だ。中国の工場では、毎日 100
万個の携帯電話用電池を生産している。
第 2 の柱が自動車。われわれは 03 年に自動車ビジネスを開始し、05 年の販売台数は 2 万台にすぎなか
った。それが 09 年には年産 45 万台に達し、中国で第 4 位に成長した。15 年までに世界最大の自動車メ
ーカーになる。
3 つ目の柱は IT の ODM(相手先ブランドの設計製造)。ノキアの携帯電話の 30%、モトローラの主力
製品「Razr」の 80%を製造している。キッチン用品・工具のブラック&デッカーも主要顧客だ。
08 年 12 月にプラグインハイブリッド車の「F3DM」を中国市場に投入した。世界最初の量産プラグイ
ンハイブリッド車だ。走行距離 60 マイルまでは電気だけで走り、それ以上はガソリンで発電機を回す。
100%EV の「e6」も中国で販売した。10 年末には米国でもデビューさせる。急速充電器を使えば 10 分で
50%の充電が完了する。電力が最も安い時間に自動的に充電する仕組みも用意している。
また、再生可能エネルギー、エネルギー貯蔵システム、水の浄化システムを組み合わせた街づくりの
実証実験を中国で進めている。これは南カリフォルニアの気候にも合うシステムだ。特に今後、再生可
能エネルギーが電気系統につながれていく場合、出力の不安定なこれらのエネルギーの弱点を、われわ
れのエネルギー貯蔵技術によって補正することができる。
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<10 年半ばの EV 量産計画は断念との報道も>
ニ社長の講演は、随所に米国市場・消費者を意識した企業名、製品名、都市名を散りばめ、米国市場
に早く受け入れられたいという思いを感じさせた。新興企業のためブランド力に务り、実際米国では、
自動車でも環境・エネルギー分野でも実績がほとんどない。米国人は「バフェットが投資した BYD」、「ダ
イムラーが提携した BYD」は知っていても、実際にその完成品に触れた経験がほとんどないため、講演
内容はそうした点への配慮がにじんでいた。
例えば、プラグインハイブリッド車の 60 マイル、EV の 200 マイル超という走行可能距離は、一般に
米国で望ましい水準と考えられているものだ。
なお「ブルームバーグ」と香港の「サウスチャイナ・モーニングポスト」紙(3 月 16 日)によると、
BYD の王伝福会長は「10 年半ばまでに EV を量産する計画を断念した」と述べたという。事実だとする
と、米国でのデビューもそれに合わせ、大きく遅れることになる。
会場では「米国市場で中国ブランド(の自動車)は難しいだろう」(米系電源部品メーカー)との声の
ほか、「米国でも間違いなく大企業になる」(薄膜太陽電池メーカー・G24i 共同創設者のロバート・ハー
ツバーグ氏)との声もあった。まずは EV「e6」の投入待ちというところだ。
ジェトロ通商弘報より
(ジェトロ・サンフランシスコ 中島丈雄)
2-3 EV 用バッテリー製造の市場構造とプレーヤー
バッテリーは、最重要パーツであり、電気自動車の普及には欠かせない。走行距離と価格が課題とな
っており、低コストで大容量のバッテリーを押さえるものが、電気自動車に大きな影響力を持つことに
なる可能性が高い。また、自動車のバッテリーの容量は大きいため、セルが多量に使用するために、バ
ッテリーセルとしての市場の成長を期待されている。
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現在は、主に、高性能なリチウム・イオン電池が電気自動車に搭載されている。現在、リチウム・イ
オン電池は、携帯電話、ノート PC、電動自転車、その他のポータブル家電などに使用されており、世界
的なシェアは、2009 年現在、日本が 50%ほどを占めている。基本特許は発明元の日本の各企業が有して
いる。韓国や中国も国家を挙げて、リチウム・イオン電池の開発に力を注いでおり、今後、世界的なシ
ェア獲得競争が激化することが予想される。
1KWH 当たりの LI イオン 2 次電池の価格は、量産時には 1000 ドル程度になるといわれる。仮に 16KWH
分の電池を 1 万 6000 ドルとして車両価格(4 万ドル)から引き算すると、エンジンやモータ、インバー
タなどを含めた車両価格が 2 万 4000 米ドルという計算となり、同クラスのガソリン車の相場(2 万~2
万 5000 米ドル)とほぼ同等かやや高額になる。
バッテリーはかつては問題とされていたが、今日には変化が見られる。モバイル機器等で使用が当た
り前になったリチウムイオン電池を採用することで、性能向上を果たした電気自動車が発表されるよう
になった。充電時間についてはメーカーや研究機関で 30 分以下で 70%の充電を可能にする急速充電技術
が開発されている。
電池寿命についてはモバイル機器などに使用されているものとは異なり長寿命である。長寿命である
要因は質量あたりのエネルギー密度がモバイル用よりも尐なく、設計的に余裕があるためである。Tesla
Motors の電気自動車では 16 万 KM の電池寿命と発表している。また、絶縁性能を改善したキャパシタを
用いることも一つの方法として、有力視されている。
1990 年代以降の電気自動車の性能の向上(および量産ハイブリッドカーの登場)には、電源であるバ
ッテリの性能向上のほかにも、電気エネルギーの使用効率を高められるインバータによる可変電圧可変
周波数制御といった、パワーエレクトロニクスの発達による要素も大きい。
電気自動車用バッテリーメーカー
企業名 概要
オートモーティブ
エナジーサプライ
(AESC)
自動車用リチウムイオンバッテリーメーカー
リチウムエナジー
ジャパン
自動車用リチウムイオンバッテリーメーカー
パナソニック EV
エナジー
自動車用リチウムイオンバッテリーメーカー
日立ビークルエナ
ジー
自動車用リチウムイオンバッテリーメーカー
エナックス 自動車用リチウムイオンバッテリーメーカー
三菱重工業 自動車用リチウムイオンバッテリーメーカー
A 123 Systems ・革新的な充電式リチウムイオン電池を開発・製造。マサチューセッツ州に本
拠地を置き、MIT で開発されたナノテク素材を利用。GE、モトローラ、クァル
コムなどの支援を受けている。
・2009 年上場。2009 年第一四半期に、売上が 23M ドル。
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・社員 1800 人以上。製造施設は全世界で 45 万平方フィート超。
・携帯機器用の 3.6WH のバッテリーから電気自動車用の 65WH バッテリーまで、
さまざまな製品を手がける。
・電力会社向けの数メガワットの容量を持つバッテリーシステムも開発中だが、
これはグリッドサービス用で、発電停止時の予備電力備蓄や位相の調整機能も
含むもの。
•電気自動車ベンチャーのフィスカーとリチウムイオン電池の供給契約の締結を
発表。
GS ユアサ 「三菱自動車」の電気自動車「アイ・ミーブ」に電池を供給。電気自動車の製
造を表明したホンダに電池を供給する予定。
NEC 「日産自動車」の電気自動車「リーフ」に電池を供給。
パナソニックおよ
び旧三洋電機
トヨタ自動車の電気自動車向け提供予定。
リチウム・イオン電池の世界シェア 40%を誇る三洋電機は、米国の自動車メー
カーである「フォード」と、ドイツの「フォルクスワーゲン」社に電池を供給
予定。
サムスン電子(韓) ドイツの BMW 社の電気自動車にリチウム・イオン電池を供給予定。
GM 「シボレー・ボルト」(2010 年発売予定)。リッター100 キロの高性能ハブリ
ッド・カーの心臓部であるリチウム・イオン電池は、GM 自ら立ち上げる電池メ
ーカーが製造供給予定。
BYD 携帯電話用のリチウム・イオン電池のシェア世界一の中国の BYD、2010 年、系
列会社の「BYD オート」から、電気自動車を販売予定。
EEStor イーイース
トアー
テキサス州。KPCB が投資。電気自動車向けの、新しいタイプのウルトラ・キャ
パシターの開発企業。300 マイル(約 500KM)走行可能な蓄電を目指す。従来
のバッテリーは、電気エネルギーを化学変化で蓄えるために、充電に何時間も
かかる。当社は 5 分で可能。もともとキャパシターは、両極の絶縁に限界があ
るため、蓄電できる量はごくわずかであったが、EEStor 社は絶縁体にチタン酸
バリウムを用いており、エネルギー密度を通常のバッテリーの 10 倍にできると
発表している。但し、当初は 2007 年に登場するとされていた同社のウルトラ・
キャパシターは、いまだに発表されておらず、今後の開発の進捗が注目される。
Zenn Motor カナダトロント。もともとキャパシターを利用した電気自動車を開発していて
おり、約 30 億円を集めて開発していた。キャパシターとしては、EEStor の製品
を活用する予定であった。2010 年 3 月にレイオフと、自動車製造を中止するこ
とを発表。ZENNERGY という自動車用キャパシターの開発・製造にフォーカス
することになった。
イーメックス(日
本)
キャパシタ開発。多孔質金属電極を実用化。温度や還元剤濃度などを工夫した、
イーメックス独自の化学メッキ法を用いた。一般的な炭素電極に比べ、電極の
表面積は 10 倍に増加。通常のリチウムイオン電池に比べ、2 倍の蓄電性能を持
つ大容量が可能と発表。今後電機・電池メーカー等と実用化研究を進め、EV(電
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気自動車)や携帯電話、パソコンなどへの搭載を目指す。
その他、ジョンソンコントロール、SAFT、DAG、Enerdel 社、Valenoe Technology、
Roston Power など。
(出所:各種報道資料等により作成)
Focus
技術とビジネスモデルの両輪で世界を先導せよ
2010 年 8 月
プラグインハイブリッド車(PHEV)を含む電気自動車(EV)の性能を左右する要素のひとつが蓄電
池。日本が優勢といわれてきた市場に挑む米中韓勢は,素材やビジネスモデルで差別化を図る。
<日米中韓のメーカーがしのぎを削る>
「EV 元年」とも呼ばれる今年,各国自動車メーカーは EV を続々と市場に投入する。世界全体で気候
変動対策の取り組みが加速する中,次世代自動車市場の競争激化は必至だ。この流れに合わせて,EV に
搭載するリチウムイオン電池の開発も激化している。電気で駆動する EV にとって,蓄電池が性能の優
务に大きな影響を与えるからだ。安全性,1回の充電での航続距離,極端な気温下での駆動の可否,駆
動力など,自動車を運転する上で最低限必要な条件がすべて「電池」にかかっている。もちろん,消費
者にとって重要な購入価格にも影響する。一般的に EV の車体価格の5割は電池が占めると言われる。
つまり,蓄電池が商品化され,競争分野が車体技術に移行するまでの間は,蓄電池の覇者が次世代自動
車産業の覇者となる。
従来この分野は日本勢に分がある。リチウムイオン電池を商用化したソニーはじめ,三洋電機,パナ
ソニックなどで世界シェアの約半分を占める。しかし,昨今無視できないのが徐々にシェアを伸ばす中
国・韓国勢,そして連邦政府の補助金で勢いづく米国ベンチャー勢だ。
<日本の圧倒的優位を切り崩そうとする脅威>
今年5月中旬に米国フロリダ州オーランドで開催された,車載用電池関連の学会兼展示会である「ア
ドバンスト・オートモティブ・バッテリーズ・カンファレンス 2010(AABC)」と併催の電池関連の学会
「大型リチウムイオン電池技術およびアプリケーション(LLIBTA)」では,各国の自動車,電池メーカ
ーおよび研究機関の代表者が,電池技術の違いや将来の EV および蓄電池市場について持論を展開した。
印象的だったのが,韓国の LG 化学と中国の BAK のプレゼンテーション。LG 化学は米現地法人の
compact power を通じ,GM が 10 年,11 年にそれぞれ発売する「シボレーボルト」,「ビュイック」の両
PHEV に電池を供給する。09 年8月,米エネルギー省から得た1億 5,140 万ドルの補助金を活用して既
に電池セルを 30 万個製造し,実証試験を行なっているという。一方,中国の BAK がアピールしていた
のが,同社製の電池モジュールだ。自由に変形することができ,車種ごとの仕様に柔軟に対応できると
いう。まだ特筆すべき実績がないとはいえ,圧倒的な価格競争力を有する中国企業が,一度大きな実績
を上げたときは要注意だ。
しかし日本勢にとって「脅威」となりうるのは,BAK が強調していたもうひとつの要素である。それ
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が,同社の電池の正極材に利用されている“リン酸鉄リチウム”という素材だ。
<バランスで勝負のリン酸鉄リチウム>
電池を構成する主な要素は①正極材,②負極材,③セパレーター,④電解液の四つだ。その中でも電
池の性能を大きく左右するのが正極材に使われる素材と言われている。従来電池開発を牽引してきた日
本勢が主流としていた素材はコバルト酸リチウム。しかし,コバルト酸リチウムはエネルギー密度(持
続力)では申し分ないものの,パワー密度(瞬発力)が比較的低く,また,コバルトがレアメタルゆえ
に製造コストが高くつくという課題があった。そのため,エネルギー密度で妥協して,ニッケルやマン
ガン,またそれらとコバルトの混合である3元系が用いられるようになった。これに対して近年注目さ
れるのが,「リン酸鉄リチウム」だ。エネルギー密度で务る一方,コバルトの弱点であったコストを低く
抑えることができ,熱安定性も他の素材より高い。
この「リン酸鉄リチウム」で巻き返しを図ろうとしているのが米中のメーカーだ。AABC に出席して
いた電池業界関係者は「米中はリン酸鉄を蓄電池の主流にする点で手を結んでいる」という。確かに,
米国の電池メーカーとして存在感を高める A123,中国内シェアトップで世界でもシェア 10%に肉薄する
BYD といった両国を代表するメーカーが採用しているのはリン酸鉄リチウムだ。前述の BAK はリン酸
鉄リチウムを採用する理由を「製造が簡単で安く済み,中国内で特許が未確立だからだ」と説明する。
同社は今年,工場の拡張を予定しており,生産量を 09 年の7万セル/日から 10 年に,20 万セル/日へ
引き上げると言う。性能がそこそこで,大量生産により安価になった電池が市場を席巻すれば,リン酸
鉄リチウム以外の道をたどるメーカーにとっては厄介だ。
<EV の利用スタイルも電池のスペックに影響>
AABC では,日本勢の高性能の電池にアンチテーゼを投げかける議論もなされた。EV の使い方にも
いくつかのシナリオが想定され,場合によってはほどほどの電池性能で十分という主張だ。本稿ではこ
れまで電動自動車を EV とひとくくりにしてきたが,大きく分けるとハイブリッド自動車,プラグイン
ハイブリッド車,電気自動車の3種類ある(表)。トヨタ,ジョンソンコントロールズ,マッキンゼー,
アドバンスド・オートモティブ・バッテリーズ,野村総合研究所が参加したセッションでは,これら3
種がどう使い分けられるかについても議論された。大方の見方は,EV は都市内中心の短距離,PHEV は
郊外の街間などの中距離,HEV は都市間など長距離という具合に,運転距離に応じて用途が分かれると
いう点で認識が一致した。消費者のニーズに合わせた利用モデルの提示が必要だとし,都市内の EV 活
用では,カーシェアリングが有効との意見もあった。
ここでひとつの疑問が湧き上がる。「一回の充電での航続距離にこだわる必要があるか」という点だ。
家庭での EV の充電時間は電圧や車種にもよるが,100V 台で約8~16 時間,200V 台で約3~8時間か
かる。識者の多くは「EV をフル充電する消費者は尐ない」とみる。充電インフラが整備されれば,こま
めな充電が可能となり,エネルギー密度の優先順位が下がる。従って,残る要素である「安全性」に信
頼があり,「コスト」も安い“リン酸鉄リチウム”が主流になりうる。一方,充電インフラの整備に必要
とされる今後5~10 年間は,やはり航続距離の長さがネックになるとの見方もある。電池がそのニーズ
を満たせば逆に,充電インフラの必要性が低下する可能性もある。いずれにせよ,EV 投入の初期段階に
おいて,消費者が求めるスペックを見極めることが肝心だ。
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種類
ハイブリッド車
(HEV)
プラグインハイブリッド車
(PHEV)
電気自動車
(EV)
構造
・電気モーターと内燃機関を兼ね備えた自
動車
・内燃機関による運動エネルギーを電力に
換えて電池に蓄電する
・利用者が自ら充電する必要はない
・蓄電池と内燃機関を兼ね備えた自動車
・一定距離(約60km)までは蓄電池のみで走行
し、以降ハイブリッド車と同様の運転に切り替
わる
・利用者が自ら充電する必要がある
車体に搭載した蓄電池の充放電のみで
駆動する自動車
利用者が自ら充電する必要がある
代表的車種
プリウス(トヨタ)
インサイト(ホンダ)
プリウスプラグインハイブリッド(トヨタ)
シボレーボルト(GM)
F3DM(BYD)
リーフ(日産)
i-Miev(三菱)
出所:各種資料を基に筆者作成
表:代表的な電動駆動車の種類
<自動車搭載後のビジネスモデルを>
電池メーカーは大方二つのグループに分類できる。一つは自動車メーカーと合弁企業を設立し,その
メーカーの EV に合う電池を供給するもの。もう一つは,独立して自動車メーカーの発注ごとに電池を
供給するものだ。多くの日本勢が前者のスタイルで攻勢をかける一方,米中韓勢は後者のスタイルで独
自の道を歩む例が目立つ。いずれにせよ,まずは「EV 搭載用電池の大量供給」が各メーカーの第一目標
だ。しかし万一,自社電池を供給した EV が市場で低迷した場合の痛手は大きい。そこで必要となるの
が,そのリスクを低減させるための,一歩先を見据えたビジネスモデルの確立だ。AABC 参加企業の中
で,注目を集めていたのが米国電池メーカーのエナデル(EnerDel)だ。
エナデルは 04 年,米インディアナ州インディアナポリスに,Ener1,デルファイの共同出資で設立され,
伊藤忠商事は Ener1 に出資をしている。電池技術では二次電池関連の研究で名高いアルゴンヌ米国立研究
所と,急速充電技術の開発では九州電力と,販路拡大では伊藤忠と,それぞれ戦略的提携を結んでいる。
米政府が 09 年8月に発表した景気対策法に基づく車載用二次電池開発関連の補助金も,生産能力拡大に
2億 3,700 万ドル(50%が政府補助金)を獲得している。エナデルの現時点での主要な供給先はフィンラ
ンドの EV メーカーの TH ! NK だ。しかし,ビジネス開発部のディレクターであるジム・ロマン氏が「今
後はアジアも重要な市場とみている」と言うように,既に出資元の伊藤忠が先導役となって,以下のよ
うな日本でのビジネスを広げている。
(1)コンビニエンスストア店舗設置の急速充電機とカーシェアリングサービスの組み合わせ
ファミリーマートの店舗屋上にソーラーパネルを設置,そこで得られた電力を,店舗駐車場に設置し
た急速充電器を通してマツダ提供の EV に充電する計画。その EV に搭載する電池をエナデルが供給。
(2)住宅マンションへの定置用蓄電池の導入
昼間,マンション屋上に設置したソーラーパネルで発電した電力をエナデル供給の電池に蓄積,夜間
の共用部照明などに利用する計画。マンション駐車場に急速充電器を設置し,EV のカーシェアも実施す
る予定だ。本事業では車載用としての役割を終えた電池を二次利用する面もある。
(3)公共バスへの電池供給
経済産業省の「低炭素社会実証モデル事業」のもと,北陸電力が富山市で実施する電気コミュニティ
ーバスの運行プロジェクトに電池を供給。
そのほか,TH ! NK と組んで日本郵政の社用車にも電池を供給するなど,先進的なビジネスモデルに
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米国環境ビジネス~その市場構造、プレーヤー、参入機会

  • 1. 1 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. 米国環境ビジネス ~その市場構造、プレーヤー、参入機会~ 2010 年 9 月 日本貿易振興機構(ジェトロ) 海外調査部
  • 2. 2 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved.
  • 3. 3 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. はじめに 本報告書は、米国の環境・新エネルギー分野のうち、注目を集める太陽光発電、電気自動車およびイ ンフラ、スマートグリッド(近距離)、エネルギー貯蓄、グリーンビルディング、バイオ燃料について、 その市場の構造やプレーヤーに焦点を当ててまとめたものである。 言うまでもなく環境分野は幅広く、一つの分野を取り上げるにしてもその切り口は様々である。太陽 光発電を例にとっても、技術動向、素材、サプライチェーン、資金の流れ、プロジェクトファイナンス、 支援策や規制、大規模プロジェクト、住宅市場などに細分化される。太陽電池にも多結晶・単結晶シリ コン、薄膜、化合物、有機系などがあり、その他集光型太陽光発電や太陽熱温水器があり、それぞれで 大部の報告書ができあがる。 本報告書は、これから米国市場に参入しようとする日本企業を主な対象とし、その場合市場にはどの ようなプレーヤーがいて、製品はどのような流れで最終消費者に辿り着くか、どのようなチャンスと難 しさがあるかを明らかにしたものである。ただし最後のバイオ燃料に関しては、商社を除いて日本企業 の参入が今のところ極めて限定されているため、米国市場の分析にとどめている。報告書中にはかなり 多くの企業名が登場するが、それらは日本企業にとって競合相手でもあり協業相手ともなりうる。本書 が今後米国市場参入を検討する企業にとって、何らかの参考になれば幸いである。 2010 年 9 月 日本貿易振興機構(ジェトロ) サンフランシスコ・センター 海外調査部北米課
  • 4. 4 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. 目次 はじめに ....................................................................................................................................................... 3 1 章 太陽光発電 ........................................................................................................................................... 6 1-1 市場・技術動向................................................................................................................................ 6 1-2 太陽光パネル製造の市場構造、プレーヤー .................................................................................. 10 1-3 ユーティリティスケール(電力事業級)ソーラファームの市場構造・プレーヤー .................... 15 1-4 住宅向け太陽光発電市場の市場構造・プレーヤー ....................................................................... 16 1-5 日本企業の参入機会....................................................................................................................... 17 2 章 電気自動車およびインフラ.............................................................................................................. 18 2-1 市場・技術動向.............................................................................................................................. 18 2-2 EV 製造の市場構造とプレーヤー .................................................................................................. 20 2-3 EV 用バッテリー製造の市場構造とプレーヤー............................................................................. 28 2-4 EV インフラの市場構造とプレーヤー ........................................................................................... 34 2-5 日本企業の参入機会....................................................................................................................... 41 3 章 スマートグリッド(スマートメーター&ホーム・エリア・ネットワーク) ................................. 42 3-1 市場・技術動向.............................................................................................................................. 42 3-2 スマートメーター(含む近隣・広域ネットワーク)の市場構造とプレーヤー............................ 48 3-3 コミュニケーション・ネットワーク・ゲートウエイの市場構造とプレーヤー............................ 58 3-4 その他デバイス、ソフトウエア、サービスの市場構造とプレーヤー .......................................... 62 3-5 日本企業の参入機会....................................................................................................................... 66 4 章 エネルギー貯蓄 ................................................................................................................................ 68 4-1 市場・技術動向.............................................................................................................................. 68 4-2 ポータブル蓄電池の市場構造とプレーヤー .................................................................................. 69 4-3 家庭用、ビル用蓄電池の市場構造とプレーヤー........................................................................... 71 4-4 ユーティリティスケール用蓄電池の市場構造とプレーヤー......................................................... 72 4-5 日本企業の参入機会....................................................................................................................... 76 5 章 グリーン・ビルディング(ゼロ・エミッション・ビルディング)................................................ 77 5-1 市場・技術動向.............................................................................................................................. 77 5-2 デベロッパーおよびプロジェクトマネジメントの市場構造とプレーヤー................................... 80 5-3 省エネ、ヒーティング・クーリング・システムの市場構造とプレーヤー................................... 82
  • 5. 5 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. 5-4 照明の市場構造とプレーヤー ........................................................................................................ 89 5-5 日本からの参入の可能性................................................................................................................ 92 6 章 バイオ燃料........................................................................................................................................ 96 6-1. セクター概要................................................................................................................................... 96 6-2. 競合状況.......................................................................................................................................... 98 6-3. 企業プロフィール ........................................................................................................................... 99
  • 6. 6 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. 1 章 太陽光発電 1-1 市場・技術動向 概観 米国では、2025 年に電力消費の 25%をリニューアブル・エネルギーでまかなうことを目標としている。 このうち、太陽光は風力と同様に期待されているものである。 既にカリフォルニア州では、発電した電力の買い取り制度が 2008 年に実現しているが、連邦政府での制 度は 2010 年中に実現の見込みであり、さらに大きく弾みがつくものと予想される。 カリフォルニア州、ネバダ州、アリゾナ州、ニューメキシコ州、テキサス州など、西部、南部の州で は、日照時間が長いことから、導入が有利と考えられている。特に人口の多い、カリフォルニアでは多 いに期待されている。太陽エネルギー分布を世界的な規模で比較しても、欧州や日本に比べ、はるかに 導入が有利である。 太陽光発電に利用可能な太陽エネルギー分布図。(強度;赤>黄>緑>青) (出所: 米エネルギー省) 市場トレンド 1)世界 ■供給過剰で業界再編の圧力 価格下落が続くなか、太陽電池は世界的な供給過剰が続いており、業界再編が必至な状態にある。 2008 年の全世界における太陽電池(セル)の生産量は、20007 年の 3,700MW から 88%増の 6,940MW に 急増した。2009 年に関しては、それまで市場を大きく拡大してきた欧州市場が金融経済危機の影響で減 速し、ほぼ横ばいとなったが、2010 年には景気回復に伴い、再び拡大傾向となる見込みである。 米調査会社の LUX リサーチは今後、(1)第2、第3グループの企業は需要不足に直面し施設稼働率 が低下。低品質・高コストメーカーは市場からの撤退圧力が高まる、(2)Q セル、BP ソーラーなど高 品質・高コストメーカーはアウトソースによってコスト低下を図る、(3)垂直統合の動きが強まる―― と分析する。最後の点は最近では、①パワーライト(プロジェクト開発)―サンパワー(太陽電池)― ノアサン(シリコン)、②サンエジソン(プロジェクト開発)―サンテック(太陽電池)―MEMC(シリ
  • 7. 7 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. コン)などの統合・協業の例がある。 図 2013 年までの世界の太陽電池需給見通し (出所:Lux Research よりジェトロ作成) 図 2006 年~2010 年の世界の太陽光発電設置容量の推移 (出所: Displaybank、2010 年 1 月) 日本市場では、政府による住宅向けの導入補助金制度が復活し、太陽光発電の導入量が増加傾向に転 じている。米国市場においてはオバマ大統領のグリーン・ニューディール政策が普及の強力な牽引車に なるとの期待が高まっていることもあり、国別で見れば、数年内に、世界最大の市場に拡大することが 期待されている。 2)米国 ■税控除や買取を通じ世界第3位の太陽光発電国へ
  • 8. 8 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. 米国の太陽光発電(累計設置ベース、2009 年末)は、ドイツ(9,677MW)、スペイン(3,595MW)、日 本(2,628MW)に次ぐ 2,108MW(米太陽エネルギー産業協会〔SEIA〕、2010 年 4 月)だ。2015 年までに は、中国には抜かれるものの、日本とスペインを抜いて世界第3位の発電量になる見込みだ。既に風力、 地熱の発電量では世界一の米国が、太陽光でも徐々に地位を上げていく。米国の場合、太陽電池(PV) だけでなく、集光型太陽光発電(CSP/太陽熱発電)にも大きな市場がある1 。2009 年末の設置量のうち 約2割が CSP/太陽熱発電だ。現在国内で計画中(未建設)のプロジェクトは太陽電池の 6.5 ギガワット (GW)に対し、CSP/太陽熱発電は 10.6GW と大きく拡大する見込みだ(SEIA、2010 年 4 月)。 再生可能エネルギーの導入に向けて米国は、まず再生可能エネルギー基準(RPS)を定め、生産者控除 や還付制度を設ける。そして、競争条件を整備し、研究開発支援などで積極的な競争を促す。「独り立ち」 を促す施策が多い。欧州を中心に採用される電力の固定価格買取制度(フィードインタリフ:FIT)の導入 に向けた動きは、米国では緩慢だ。高コストの太陽光発電を普及させるには魅力的な制度だが、高額の 買取りは電力会社の財務に負担をかけ、何らかの形で消費者に転嫁せざるをえない。複雑な買取制度に よる機器導入・管理コストも上昇する。現状は7割程度の州で、消費者が発電した余剰分のみを買い取 るネットメーターリング制度が導入されている。環境先進的なカリフォルニア州でも限定的に実施され ているが、「全量買取式の FIT の導入は簡単でない」(同州環境長官のリンダ・アダムス氏)という。 お膝元のサクラメント市電力公社(SMUD)は 2010 年1月、全米の市町村として初めて FIT を導入し た。5MW までの再生可能エネルギー発電に対し、季節と時間帯によって 7.45 セント~32.34 セント/kWh までの価格範囲で発電分を買い取る。発電にはコジェネレーション2 を含み、管轄域内で最大 100MW が 上限だ。受付開始早々、多数のプロジェクト申請があり、すぐに上限が埋まった。現在 28 件のプロジェ クトを審査中という。同市は「他の自治体が後に続くことを期待したい」と述べる。また、テキサス州 の一部やオレゴン州でも FIT の試験的な導入を試みる動きがある。 ■グリッドパリティを目指す争い それでも米国が FIT に対し様子見の姿勢をとる一つの理由は、一部の太陽電池メーカーが相当価格を 引き下げ、いずれ「グリッドパリティ」3 を達成する可能性があるからだ。「政府助成に頼らない再生可能 エネルギーを創る」とは、シリコンバレーのベンチャーの間では合言葉のようになっている。 現在世界最大の太陽電池生産量(1,011MW、2009 年)を誇るアリゾナ州ファーストソーラーは「2014 年までにグリッドパリティを実現する」と公言している。一概には言えないものの、グリッドパリティ を実現するには「モジュール価格を 0.7 ドル/W 以下にする必要がある」(太陽電池製造装置メーカーの Oerlikon)と言われる。現在主要メーカーの太陽電池は2ドル/W 台前半。かなり下がってきたが、まだ パリティには遠い。ただ、大規模案件に特化するファーストソーラーは既に 0.80 ドル/W の製造コストを 達成し、出荷時には2ドル/W を切る。粗利益率は 50%超だ(2009 年末、同社決算)。 もちろん同社の経営は磐石ではなく、欧州の環境団体の一部からは同社製品に含まれるカドミウム・ 1 CSP/太陽熱発電は集光鏡で太陽光を集め直接発電するか、その熱でタービンを回して発電する技術。太陽光の強い地 域でしか有効でないが、高効率、ある程度蓄電能力があるといった特長がある。 2 発電時に生じる排熱を、空調や給湯などに必要な熱エネルギーとして供給する仕組み。 3 天然ガスや石炭による発電と同程度のコストで発電できる状態。
  • 9. 9 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. テルライド(Cd-Te)の安全性に懸念を示す声が出ている。仮に RoHS 指令4 等の規制対象となれば「ファ ーストソーラーには死活問題であり、同社は有力議員のほぼ全員にロビイングをしている」という。他 方、Cd-Te を規制するのであれば鉛も対象にすべきとの意見も出ている。しかし鉛は多くの太陽電池に使 用されているため、事態がどう展開するかは予断を許さない。 ファーストソーラーは米国西海岸で 21MW~550MW の巨大発電事業を展開する(2010 年 1 月、VerdEX)。 Cd-Te はモジュール価格を引き下げる技術の先導役となっているものの、「2015 年時点でも、太陽電池 市場は引き続き資源・技術の豊富なシリコン系が8割を占める」(米調査会社の LUX リサーチ、2010 年 5 月)とみられる。特にトリナ、カナディアン、インリー、サンテック、ソーラーファンといった中国系 シリコン太陽電池メーカーが工場出荷価格で 1.8 ドル/W 程度まで下げている(ただし多くの中国メーカ ーはまだほとんど利益が出ていない状態にある)。2008 年に平均 300 ドル/kg と高騰していたシリコン価 格 は、生産能力増強によって 2009 年前半には 100 ドルを切り、2010 年中には 25~30 ドル/kg 程度まで 下がってくると予想されている。シリコン系太陽電池の価格競争力もさらに増してくるだろう。 また発電コストのうち、太陽電池本体(セルとモジュール)が占める割合は 35~40%に過ぎないため、 安定した川上の原料調達 や川下の設置に関わる労務費やパワーコンディショナー5 などの機材コストの 削減が必要だ。日本の太陽電池市場は 80%が一般住宅用であり、規模によるコスト削減が難しい (同じ 1MW の太陽光発電でも、個別の住宅 300 軒に設置するのと、平地に敶き詰めるのとでは要する期間とコ ストに大きな差が出る)。米国は約 65%が大規模な産業用・電気事業用となっており、その割合は今後さ らに上昇する見込みだ。コストは年々目に見えて低下している。 過当競争の様相を呈する米国市場だが、コスト競争力は発電効率を上げることでも達成される。セル・ モジュールのコスト削減、効率性向上に資する技術、前後の工程に強みを持つ企業にはチャンスが多い。 4 電気・電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限に関する欧州議会および理事会指令 5 太陽電池で発電した電気を変換し、家庭用などの電力系統に接続する機器。通常は直流から交流に変換する(インバー タ)。
  • 10. 10 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. 日本企業は経験の薄いメガプロジェクトに新たに挑む一方、経験豊富な住宅向け市場を切り開くチャン スがある。ただし米国の住宅向け市場が熟していないのにはそれなりの理由がある。コストにとどまら ず、投資コストの回収リスク、回収期間、手続き、メンテナンス、概観・デザイン、安全性など、米国 の利用者が一般的に有する抵抗感を払拭する工夫が必要だ。 太陽光発電システムの構成 太陽光発電システムは、数 100 平方センチメートルのサイズの太陽セルを、数十~数百枚しきつめら れた「太陽パネル」が基本的パーツである。一つのユニットは、外枠とパネルと配線用のボックスが設 けられている。さまざまなサイズのパネルが提供されているが、多くは畳 1 枚程度のサイズが、一つの ユニットとして提供されている。1 枚のユニットは、100~200W 程度の発電が可能である。家庭向けの 場合、おおむね一般家庭あたり一日 15,000kWh の電力消費が標準であることから、3-5kW(3,000-5,000W) 発電相当、20-40 枚ほどを主に建物の屋根に設置する。 一つのシステムは、太陽セルから得られる電流は直流(DC)であるため、電力機器に対応できるよう 交流(AC)に変換するためのインバーター、電力を管理するコントローラー、メーターなどで構成され る。また、太陽パネルを屋根や壁に設置するための、取り付け部材も必要となる。 さらには、日中発電した電気を夜間に利用するために蓄電装置が設置されたり、電気自動車を充電す るために充電器を取り付けることが今後増えてくると考えられる。 これとは別に、発電事業者が、売電事業を目的として、広大な敶地に太陽パネルを多数並べたソーラ ーパークを設置する場合がある。この場合には、発電効率を上げるために、太陽の動きに合わせてパネ ルの向きを変える「トラッカー」を設けるケースがある。 また、パネルも、効率性を上げ、太陽セルの使用量を節約するために、集光レンズを取り付けた「集 光型」(CPV:Concentrating Photovoltaics)のものも存在する。近年このタイプのものが、多くの企業から 提案されているが、温度上昇への対応が課題となっている。 1-2 太陽光パネル製造の市場構造、プレーヤー サプライチェーン(シリコン系太陽セルの場合) ポリシリコンメーカー 結晶型太陽電池の主要原料であるシリコンは、半導体にも使われるものであるが、多結晶型のものは 高純度を要求される半導体用とはグレードと製法が異なり、「ソーラーグレードシリコン」と呼ばれる。 そのため、太陽光セル市場が急速に拡大した 2005 年以降価格が上昇し、2008 年には、供給不足でスポッ ポリシリコン シリコンウエハ 太陽光セル 太陽パネル (モジュール)
  • 11. 11 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. トで 1KG あたり 400 ドルと、価格が高騰した。それに伴い、大手メーカーが相次いで製造能力を大幅に アップし、更には中国企業などの新規参により、2012 年まで供給過多が続くと見込まれている。そのた め、今後も価格が下がり続けることが見込まれている。 ポリシリコン主要メーカー(2009 年) 会社名 国 1 Rec Silicon 米 売上 260 億円。ノルウエーRec 社のポリシリコン部門。2010 年に 2 万トン、2014 年に 4 万トン体制に増強予定。コマツ から米国工場を買収し 2000 年に設立。太陽電池用専業で急 成長。 2 Hemlock 米 2009 年に 1.9 万トン、2011 年に 3.6 万トンへ増強予定。う ち太陽電池向けが 4 割。 3 Wacker Chemie 独 2010 年に 2.15 万トンに増強予定。2008 年に太陽電池用専用 プラント新設(年産 650 トン) 4 Memc Electronic Materials 米 2009 年に Solar 事業を行う Sunedison を買収。イタリアに 72MW の欧州最大のプラントを設立予定。 5 Tokuyama 日 2009 年に 8200 トン体制とし、太陽電池向けが 1000 トン 6 三菱マテリアル 日 2010 年前に日米の工場を増強し 4300 トン体制へ。 7 住友チタニウム 日 (出所:各種報道資料等により作成) 上記の上位 7 社で、市場の 90%の占有率であり、現在約 70 社が提供していると推定される。2009 年 の世界太陽電池用ポリシリコンの生産量は 8 万 8,200T で、2010 年は前年比 47.4%増の 13 万 T に拡大す ると予測されている。業界関係者は、太陽電池用ポリシリコンは、2012 年まで供給過剰が続く見通しを 示している。 一方、中国や韓国など多数のメーカーで、本格的な量産を開始すると見られることから、2010 年の太 陽電池用ポリシリコン市場は 4 万 2,000T 規模の供給過剰が発生すると予測される。こうした供給過剰に より、太陽電池用ポリシリコンの価格も長期契約基準で、2004 年以前の Kg 当たり 50 ドル台まで下落す る可能性が高い。 一時、供給が逼迫した時期には、業務提携、資本提携により、原料であるポリシリコンを確保できた ところが売上を伸ばすことが可能であった。長年首位であったシャープが原料調達の遅れから 2007 年に 2 位に後退を余儀なくされた。しかしながら、現在はそういった制約条件はなくなった。今後、太陽光パ ネルの普及に伴い、半導体用シリコンの市場を凌駕する規模に拡大することが見込まれている。 ウエハメーカー 主にポリシリコンメーカーなどが提供している。主要企業は、Rec(米)、LDK、Green Energy、Memc、 インリー(Yingli)、Deutsche などである。
  • 12. 12 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. 太陽電池セルメーカー 世界で多くの企業が太陽光セル市場に参入している。採算に乗せるには、100MW クラスの設備が必要 と言われており、設備機械だけで 100 億円の規模の投資が必要となる。従来は、日本企業など大手の半 導体メーカーなどが代表的なプレーヤーであった。最近では、新設ベンチャーなどで、数百億円規模の 投資や融資を受け、急成長をしている企業が増えている。 主要太陽電池モジュールメーカー(生産量は MW-DC) 会社名 国 タイプ 生産量 (2008) 生産量 (2009) 概要 ファーストソー ラー 米 薄 膜 (CdTe) 504 1,011 99 年設立。低価格の CdTe を武器に、2008 年に大幅に売上を拡大。2009 年生産能力は 1100MW で、Q セルズを抜いてトップにな った。 サンテック 中 結晶 498 704 2001 年創業。2005 年に NY 市場上場し、2008 年に 1GW まで製造設備を拡大し、近年急速 に拡大中。 シャープ 日 結晶、 薄膜 473 595 歴史が長く、長年世界トップだったが 2009 年は足踏み。480MW の堺工場を新設し、低 価格の薄型アモルファス型にシフト。 Q セルズ 独 結晶 570 537 99 年設立。ドイツ市場の拡大にあわせ、急 速に拡大。しかしながら、2009 年は欧州市 場が不調で業績が悪化しリストラ中。 インリー 中 結晶 282 525 追加で 300MW の工場拡張予定。 JA ソーラー 中 結晶 277 509 2009 年 509MW に増産。 京セラ 日 結晶 290 400 2010 年より新工場が稼動。2010 年 600MW、 2011 年 800MW、2012 年 1GW 生産予定。 トリナソーラー 中 結晶 210 399 サンパワー 米 結晶 234 398 ジンテック 台 結晶 180 368 モーテック 台 結晶 275 360 三洋電機 日 結晶、薄 膜 210 260 (出所:PV News, GreenTech Media, May 2010 より作成) その他注目すべき新興企業 ソリンドラ(米);チューブ型薄膜太陽パネルを開発中である。VC からの大型調達と、米国政府から の大型融資を受けたことで注目された。今後市場に出回る予定で、2010 年中に株式公開予定である。CIGS の薄膜型で製造単価が安いのと同時に、筒型であるため裏面からの発電が可能で発電効率が高い、現場
  • 13. 13 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. 施工が容易で、設置コストを下げられる、風が吹き抜けやすいため故障が尐ない、という利点をアピー ルしている。 ナノソーラー(米);2002 年創業の CIGS 薄膜パネルの先駆者である。これまで約 500M ドル(約 500 億円)の資金を集めている。現在 10~12%の発電効率の製品を出荷しており、ラボベースでは、最大 16% の効率化を実現している。他のすべての太陽電池パネルメーカーと同様に、シリコン型やカドテル型を 超えるレベルの、価格と発電効率を実現できるかどうかが、課題となっている。 Konarka Technologies フィルム会社のコニカミノルタと資本提携し、日本に工場を設立予定である。 一方、2008 年には、ソーラーパネルベンチャーへの投資が 15 億ドルとなり、世界的にバブルといった 様相であったが、2009 年の金融経済危機により資金調達が困難となり、ビジネスから撤退するケースも 出てきた。 オプティソーラー;カリフォルニア州 Hayward のベンチャー企業で、アモルファスシリコンタイプの 薄膜パネルを開発中であった。これまで約 300M の資金を調達してきたが、金融経済危機により追加の資 金調達が困難となり、2009 年 1 月に 300 人のレイオフを実施した。さらに、カリフォルニアの電力会社 である PG&E と契約済みの未開発のプロジェクトとチームを、ファースト・ソーラーに$400M で売却 した。現在では実質的に事業停止状態となっている。 今後これら薄膜系の新興企業で生き残りに成功したところが、低価格を武器に市場に参入し、市場の 拡大とともに、競争は激化する見込みである。 太陽パネル 多くの太陽セル会社はパネルも同時に製造している。セルは海外工場で生産し、パネルを米国内で生 産するというパターンが尐なくない。 一方、セルを製造せずに、パネルだけ製造する企業も多く存在する。東芝は、2010 年に米国サンパワ ーと提携し、サンパワーのセルを調達し、日本でパネルを製造することを計画している。 また、太陽セルの効率化とセルの節減のために、「集光型パネル(CSP)」や、太陽の動きに合わせて集 光面の向きを変える「トラッカー」型などを提供する企業が多数存在する。この発電効率を上げるタイ プでは、セルを購入し、システムとして販売している。ポリシリコンの需要の急拡大にともない、セル の価格が上昇していた 2007 年、2008 年ごろには、このタイプが期待された。太陽セルを作るには巨額の 投資が必要であるが、パネル製造にはそれほどの資金が必要とされないことから、多数のベンチャー企 業が参入した。ところが現在では、ポリシリコンの価格の急落と、シリコンを使わない薄膜タイプが市 場に出始めたことから、W あたりの価格はますます下落傾向にある。そのため、集光型やトラッカー型 については、コスト競争力と営業力がないと、淘汰される可能性が高まっている。 インバータメーカー 現在の、全世界の市場規模は 18 億ドル程度と見られているが、今後太陽光発電の普及により、大きく 拡大することが見込まれる。 太陽パネルからの電気は直流で得られるため、電気機器で利用するには、交流に変える必要がある。
  • 14. 14 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. 従来型インバーターは、一カ所に集めて、交流に変えるものである。これの単価は 60 セント/W 程度で ある。ただし、一部、陰が出来たりすると、全体の発電量が大きく下がるのが問題であった。これに対 し、マイクロ・インバータは、一つ一つのパネルに直接設置し、交流を得るものである。そのため、発 電ロスが尐なくなる。但し単価は 100 セント/W 程度となる。マイクロ・コンバータは、一つ一つのパ ネルに設置するが、それぞれが DC-DC 変換を行い、全体をコントロールし、DC-AC 変換は別のイン バーターに任せるもので、直接大電流の直流が得られるため、電気自動車の充電などへの利用が期待さ れる。 従来のインバータの出荷数が 2012 年に 130 万~140 万台になる予想に対して、マイクロ・インバータ とマイクロ・コンバータを合わせた出荷数は 2012 年に約 800 万台になる予想である。既に米国では、ベ ンチャー企業を中心に複数の企業がマイクロ・インバータとマイクロ・コンバータを開発している。 比較的小資本で事業参入できることから多数の企業が提供している。主だったところでも、以下の企 業がある。 Advanced Energy Industries, Alpha Technologies, Ballard Power Systems, Beacon Power, Bergey Windpower, Bloom Energy, CFM Equipment Distributors, Connect Renewable Energy, Delta Energy Systems, Diehl Ako Stiftung& Co.KG, Enphase Energy, E-Villa Solar, Fronius USA, GE Energy, Gridpoint, Home Director, Ingeteam, Ipower, Kaco, Mariah Power, Mohr Power, Motech Industries, Open Energy, Outback Power Systems, PhoenixTec Power, Powercom, Power-One, Princeton Power Systems, PV, Powered, Renergy, Satcon, Technology, Satcon Technology, Schuco USA, SHARP, Siemens Industry, SMA, America, Solectria Renewables, Sonnetek, SouthWest WindPower, Sungrow Power Supply, Sunset, Sysgration, Windterra Systems, Xantrex Technology, Xslent Energy Technologies, YES! Sola (出所:各種報道資料等により作成) この中で、特徴的な企業としては、Enphase Energy が上げられる。Enphase は、VC から大きなファン ドを受けている住宅と商業用の小型インバーターを提供している。一つ一つのパネルに直接取り付ける ことで、交流電源を得ることが可能となる。分散、高信頼、高効率で、それぞれがセンサーになってい る、などの特徴を有する。既に 12 万ユニット以上を出荷した。多くの小型インバーターメーカーはある が、急成長の 2000 億円市場のインバーター企業において、これほどの実績を有する企業はない。 米国では太陽光発電への取り組みの遅れから、現時点では米国企業のシェアは低い。しかしながら、 オバマ政権の支援策により、米国市場が急速に拡大することが見込まれており、シリコンバレーを中心 に、新興企業が多数設立されており、今後、米国企業のシェアの拡大が予想される。 太陽電池製造装置メーカー 太陽電池市場の拡大とともに、製造装置メーカーの市場も拡大している。トップは米 Applied Materials である。太陽電池製造装置の売上高は 797M ドル(約 800 億円)の売上(2008 年)で、前年比 10 倍に拡 大した。2 位はターンキー型の製造ラインで強みを発揮するスイス Oerlikon Solar で、前年の約 1.5 倍と なる 552M ドルを売り上げた。その他、アルバック(日)などが続く。半導体製造装置トップのアプライ ドマテリアルは、太陽セル市場への参入が遅れていたが、現在では、遅れを取り返した。但し、半導体
  • 15. 15 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. 製造ラインを作るメーカーが参入しているケースが多く、この分野は多くの企業が存在し、競争はます ます激化した上、2009 年は太陽光発電への設備投資自体も細ったために、多くの企業が苦境にあえいだ。 1-3 ユーティリティスケール(電力事業級)ソーラファームの市場 構造・プレーヤー サプライチェーン パネル製造メーカー → インバーターメーカー → ディストリビューター → 設置業者 → 最 終ユーザ(電力事業者、独立事業者など) 業界の動向 ユーティリティスケールでの動きは、電力会社によるソーラーパークの事業化のみならず、独立事業 者が PPA 契約(発電の買取契約)に基づき、事業参入するケースがある。現在では、独立事業者が参入 するケースが増えている。特に、積極的に電力事業プロジェクトへの参入を行う戦略をとることで、大 幅に業績を伸ばすパネルメーカーやポリシリコンメーカーが出現していることが目立つ。 Sun Edison 本社はメリーランド州であるが、カリフォルニアに複数オフィスを有する。主に北米で、自治体、ユ ーティリティ企業に対し、太陽光発電プロジェクトを提供している。現在、100MW の発電を行っており、 北米最大のソーラー電力事業者の一つである。2010 年に、イタリアで 72MW のプロジェクト契約を結ん だ。2003 年に設立され、2009 年にポリシリコンメーカーである Memc Electronic Materials によって$200M で買収された。Memc としては、ポリシリコンの売り先の確保と、新事業の展開を目指したものである。 ファースト・ソーラー 太陽パネル会社であるファースト・ソーラーは、2009 年 1 月に、数ギガワット規模の電力を供給する 太陽電池パイプラインを、同業のオプティソーラーから買収した。パネルメーカーのみならず、太陽発 電産業大手としての地位を確立している。主な動きとしては以下が挙げられる。 -PG&E との電力購入契約に基づく、550MW のソーラー開発プロジェクト。 -別途 1300MW AC のプロジェクト・パイプライン。 -約 13 万 6000 エーカー(約 210 平方マイル)の戦略的用地の利用権。最大 19 ギガワット (GW) の 発電所規模の太陽光発電プロジェクトを展開可能。この太陽光発電プロジェクト・パイプラインの組み 立て、施工を担当した中核開発チームが、ファースト・ソーラーの開発チームに統合された。 また、中国にて 2000MW 規模の発電事業を行うことを、2009 年 9 月に発表した(数千億円規模のプロ ジェクト)。完成すれば世界最大規模の太陽光発電設備となる。 ファースト・ソーラー社は、2007 年に米国での発電所規模の太陽光発電の設計調達建設 (EPC) 能 力を取得するため、ターナー・リニューワブル・エナジー社(Turner Renewable Energy)を買収したり、
  • 16. 16 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. EPC 機能を持つ企業複数社と戦略提携を進めることで、大型プロジェクトの受注に成功している。パイ プラインだけで数十 GW(数万 KW)規模を有し、世界有数の太陽光発電企業の様相を呈している。 1-4 住宅向け太陽光発電市場の市場構造・プレーヤー サプライチェーン パネルメーカー → ディストリビューター → 設置業者 → 最終ユーザ(個人住宅、事業者、ソ ーラーパーク) メインプレーヤー 関連業者は、カリフォルニア州だけで 300 を超える企業がリストアップされている。その内訳は、製 造業、ディストリビューター、サービス、製造機器、コンサルティング、専門輸入業者、などである。 今後も拡大することが見込まれているが、大きく影響力を及ぼしているのは、金融機能を持ったディス トリビューターである。 従来は、SHARP や SANYO、Kyocera など日本製が上位を占めていた。ここ数年、中国企業や欧州企業 が勢力を伸ばすと同時に、米国企業もベンチャーが多く立ち上がっていて、競争が激しくなっている。 太陽光パネルを導入するには、個人および事業者のいずれも、専門の設置業者を探し、依頼することに なる。ディストリビューターやインストーラーが、テレビ CM や広告を打ったり、ホームセンターや電 気店で販売を行うケースが増えている。 発電量は、個別の住宅・ビルの形状や周りの環境に大きく左右されるため、プロジェクト別の採算を 予想することは非常に重要となっている。これを計算できるシステムを専門的に取り扱い、インストー ラー向けにクラウドサービスを行う CleanPowerFinance のような業者も出てきている。 最近の動向 導入時のネックとしては、たとえば住宅向けにおいては、数 KW 発電規模で、税額控除を利用したと しても、数百万円の資金を先行投資する必要があることである。これに対応し、リースなどファイナン スを提供することで、資金負担がほとんど不要というケースも出てきていて、こうした業者が売上げを 伸ばしている。設置は、比較的資金力が乏しい地場の建設会社や工事業者が担っている。このため、リ ース会社やディストリビューターが豊富な資金力を背景に、工事実績のある工事業者の囲い込みを図る 動きが活発化している。ディストリビューターも、確実な資金回収のためには、設置場所が、適してい るかどうかを評価するノウハウやツールを取り揃え、メンテナンスの対応力などを重要視している。 また、設置業を希望する業者には、講習会を開いたり、ユーザ向けにセミナーを開くなど、啓蒙活動 を広げている。建設会社や電気工事会社、配管工事業者、屋根業者など多数参入している。 競合状況 1W 当たりのパネルの価格は非常に重要である。しかしながら、それと同様に設置コストが非常に大き
  • 17. 17 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. な要因にもなっている。設置コストは設置面積に比例するために、発電効率がより重要となる。一方、 発電効率の高いパネルは単価も高く、この 3 つの要因を勘案する必要がある。また、投資回収は 10 年か ら 20 年と長期に渡るために、故障率や耐久性など品質を含めた性能の良し悪し、プロジェクト別の採算 予測などが非常に重要となる。 一般ユーザにとっては、個々のパネルの性能について自ら評価することは難しく、インストーラーの アドバイスは非常に影響力を及ぼすことになる。 主要なインストーラーとして、SolarCity や SunRun、Akeenasolar などがあるが、いずれもファイナンス 機能を武器としている。また、大手ディストリビューターの一つである DC Power Systems なども、イン ストーラー向けにファイナンス機能を提供することで売上げを伸ばしている。そのため、これらファイ ナンス機能を持ったディストリビューターや有力インストーラーへいかに訴求するかが、非常に重要と なっている。 1-5 日本企業の参入機会 旧来からの知名度から、日本企業はアドバンテージを有している。特に、業暦が長く実績のある設置 業者では、日本製のパネルになじみがあり、また、耐久性の観点からも、日本製パネルを勧めるところ が尐なくない。そのために、知名度を生かした営業は非常に有効である。一方、新規参入者にとっては、 米国や中国などの新興企業と同じ土俵で勝負をすることになる。 パネルの価格は大きな要因である一方で、設置コストを含めた全体コストに対するインパクトを考慮 する必要がある。今後は設置コストを下げるための工夫がとても重要となり、プロジェクト自体の発電 効率を上げるなど、採算性をあげる対策を打つことは非常に重要となる。発電効率を上げるマイクロ・ インバーターや、周辺機器も可能性があるだろう。 また、業界の動きを見ると、資金提供機能を持つディストリビューターの影響力が非常に大きくなっ てきている。こうしたディストリビューターに対し、性能についてアピールする努力が必要であるが、 それだけでなく、メーカーサイドでリースなどファイナンス機能を付加することで、米国市場に参入で きる可能性がある。 ユーティリティレベルのビジネスについては、特に、自治体の場合には、自国の製品を採用する傾向 にある。パネルメーカーのファーストソーラや、ポリシリコンメーカである MEMCが行っているように、 M&A 戦略などを活用し、自ら事業者として事業を進めることも必要であろう。あるいは、アセンブリを 米国内で行い、MadeinUSA として提供することも必要と考えられる。単に製品を輸出するということだ けでなく、米国企業として活動することで、地元の雇用促進に貢献できることをアピールすることも必 要ではないかと考えられる。
  • 18. 18 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. 2 章 電気自動車およびインフラ 2-1 市場・技術動向 電気自動車(EV)は 2015 年までに世界で 3,300 万台 電動モーターをエンジンとする自動車のことである。化石燃料を主とする従来の自動車に変わって、 電気をエネルギーとすることで、地球環境にやさしいものである。夜間電力を利用することで、低コス トでの運用が可能となる。さらに今後は、太陽光発電などを利用することなどが検討されている。 米国政府は、プラグイン・ハイブリッド車を 2015 年までに 100 万台普及させる計画を打ち出している。 オバマ政権における政策上の後押しもあり、急激に電気自動車への関心が高まった。 ハイブリッド(HEV)、プラグイン・ハイブリッド(PHEV)などのハイブリッド方式が実用最先端の エコ技術とされ、これらのほかにも燃料電池により発電してその電気を使用する燃料電池自動車(FCEV) も開発されている。さらにエンジンを搭載せず、全く排気ガスを出さない 100%電気駆動の電気自動車が これから大いに発展し、リチウムイオン電池の大容量化と低コスト化が実現していけば、2015 年までに 全世界で 3,300 万台レベルまで市場が拡大することが予想される。 電気自動車の種類 ①(狭義の)電池自動車 従来の化石燃料を一切利用しない自動車で、蓄電池に充電した電気で電動機(電動モーター)のみを 動力発生源として推進する自動車である。EV の基本構造は非常に簡単で、バッテリー、駆動モーター、 滑らかな加速減、一定速度での走行を可能にするためのモーターコントローラーなどから構成されてい る。 深夜電力を利用することで、自宅で充電でき、エネルギー費用が抑えられる。(1KM 走行で電気代は深 夜電力利用で約 1 円、非課税なら石油走行の 10-15%、1KM 走行でガソリン代は約 15 円:燃費が 10KM / L の場合)また、内燃機関に比べエネルギー効率が数倍高く、走行中に排ガス(CO2 や NOX)を出さない。 騒音が非常に尐ない。モーターで直接車輪を駆動するためトランスミッション、ラジエター等が不要で、 部品点数を非常に尐なくできる。などのメリットがある。一方、現在、蓄電池が高価で、走行距離が短 い、充電に時間がかかるなどのデメリットがあるが、今後、大量生産が進めば、大幅なコストダウンが 可能であると期待されている。 また、長距離走行のための給電道路や電池交換所等が未整備であるという問題がある。一方、自動車 メーカーや自治体などが、普及推進のために、コストを度外視して、設置を進める動きもある。 電池は、現在、PC や携帯電話などの蓄電池として利用されているリチウムイオン電池が主流であるが、 コンデンサーの機能を利用したキャパシタを使ったものも開発中である。 ②ハイブリッドカー 内燃機関(ガソリンエンジン)と電動機(電気モーター)の両方を用い、二次電池を介して、またブ
  • 19. 19 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. レーキで生じる回生エネルギーを充電するタイプのもの。このため、非常に効率が高いのが特徴で、エ コカーとして人気が高い。但し、ガソリンエンジン車に比べ機構が複雑となるため、製造価格は高くな る。現在、商用化されているものとしては、トヨタとホンダの 2 社である。長年改良を受けたおかげで、 近年になってようやくガソリン車に対抗できる価格に収まってきたことと、助成制度の後押しで、急速 に広がってきた。 ハイブリッド車の市場は今後も大きな成長が見込まれ、2012 年には世界で 230 万台規模の市場に成長 すると予想される。 ハイブリッド車の基本的な構成はエンジン、必要な際にエンジンを稼動して発電する発電機、バッテ リー、バッテリーからの直流電流を交流に変換するインバーター、バッテリーからインバーターを通し て供給される電気で動くモーター、車輪を廻すための動力源であるエンジンとモーターの使い方を最適 制御する動力分割機構からなる。 これは、シリアル・ハイブリッド方式とパラレル・ハイブリッド方式に大きく分かれる。前者は、エ ンジンはバッテリーの充電のための発電機を動かすためだけに使われ、後者は、はエンジンとモーター の両方の出力を駆動源として使用するものである。 ③プラグインハイブリッドカー ハイブリッドカーの中でも、電気で走行することを主眼においたもので、充電することを可能にした もの。蓄電池容量は電気自動車より尐ないもののハイブリッドカーより多い。1 日の走行距離が短い、日 常の街乗り利用では電気モーターで走行し、旅行など遠距離を走る際に、ガソリンエンジンを使う。電 池自動車の走行距離の問題、充電時間の問題を解決することが可能である。 家庭用電源で充電出来るため、電化地域であればどこでも充電できるメリットがある。料金の安い深 夜電力を利用して充電することにより、燃料代の低減というメリットも生まれる。 但し、電気自動車と内燃車の双方の機構が必要で、部品点数がガソリン車よりも多いため、必然的に ガソリン車より高コストとなる。ハイブリッドに比べ更に電池の容量が大きいため、価格が高くなると いう問題がある。電池のコストダウンが進んだ場合は純電池式電気自動車に比べコスト面で不利となる。 燃料電池車 電池の代わりに、燃料電池を搭載したもの。燃料電池は、水素を酸素と化学反応させることで電気と 水を発生させるものである。水素は貯蔵が難しいという問題がある。貯蔵が容易なアルコールやガスな どを、改質器によって水素を生じさせるタイプもあるが、改質器が大きいため、乗用車に搭載するのは、 非常に不利である。また、燃料電池は白金など触媒を使うが、非常に高価であるため、コストが高くつ くという問題がある。水素ステーションが現在のガソリンスタンドのように設置されるまでには、非常 に大きな投資コストと安全性の問題からあまり現実的でない。かつては多くの自動車メーカーが取り組 んでいたが、そのため現在は下火となっている。現時点では、政府の支援が非常に重要で、米国では、 政策的にも消極的であることから、今後普及する可能性は低いものと思われる。 電気自動車は、充電インフラ整備にコストと時間がかかるため、現実的には、当面ハイブリッドが主 流となる見込みである。さらに今後は、普通の自動車と EV の両方の利点を兼ね備えたプラグインハイブ リッド車が広がるものと思われる。その間に電池の性能が向上し、コストダウンが可能となれば、エレ
  • 20. 20 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. クトリック・カーに置き換わっていくという流れになると考えられる。 2-2 EV 製造の市場構造とプレーヤー 従来の自動車と大きく異なる部品は、モーターとバッテリーなど駆動部分である。その他部品は、従 来の自動車とほとんど変わらない。複雑なエンジン周りの機構が不要となるため、従来の乗用車で 3 万 点必要とすれば、1 万点程度で済むと言われている。 自動車完成品メーカーが、多くの部材を下請け工場から調達しているように、電気自動車も同様に外 部から調達することになるが、景気低迷で自動車生産量は大幅にダウンしたこともあり、現状調達する ことは難しくない。最終組み立ても外注しファブレスのところもある。ハイブリッドの場合には、従来 の内燃焼機関のほかに、モーターとバッテリーが加わるために、逆に部品点数は多くなる。 メジャープレーヤー 日産、三菱自動車の 2 社が既に本格的に市場参入している。米国ビッグ 3 は、2009 年の経営破たんの 影響で、本格展開にはしばらく時間がかかるものと思われる。欧州メーカーは、電池自動車の普及はこ れからとし、じっくりと研究を進めていく模様。 電池自動車(大手自動車メーカー) 企業名 概要 日産自動車(日) リーフ;小型車クラスで開発した 5 人乗りファミリーカー。日本や欧米で発売。 日産の EV としては初めて年 5 万台以上を生産する本格量産車となる。最高時速 は 140KM 以上、小型高性能のリチウムイオン電池を搭載し、1 回のフル充電で 160KM 以上を走行。充電時間は急速充電器なら 30 分以内で容量の 8 割まで充電 可能。家庭用 200V 電源なら約 8 時間。 ・充電スタンドの整備運営をする米国ベタープレイス社と組み、電池交換所整 備に加えて政府や自治体による助成金や優遇税制の導入をセットにした電気自 動車発売を計画。電力の補給を、カートリッジ式の電池を交換する方法を想定 しており、充電時間の問題を解決できるとみている。また、過去に成功を収め た携帯電話のビジネスモデルに倣い、電気自動車の車両本体はユーザーに無料 で提供し、電池の利用に応じた料金収入による経営とする方針を打ち出してい る。 三菱自動車(日) 2009 年 7 月「I-MIEV」発表。10 年 4 月から一般消費者に販売予定。東京電力 が開発に参画。年間数万台の販売計画。 トヨタ(日) コンセプトカー「FT‐ EV」を発表。本格販売は未定。 富士重工(日) スバル 「R1E」 クライスラー(米) 「ダッジ EV」2 人乗りの後輪駆動スポーツカー。
  • 21. 21 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. 268HP、66.3KGM を発生する電気モーターを搭載。0-100KM/H 加速=5 秒未満、 最高速度=193KM/H のパフォーマンスを発揮。 最新のリチウムイオンバッテリー技術を使用することで、連続航続距離は 240 ~320KM を実現。エネルギー補給は、家庭用の 110V 電源に 8 時間つなぐだけ。 220V 電源を使用すれば、充電時間は半分で済む。 2010 年に発売予定。 専門の社内組織「ENVI」を立ち上げ、量産型電気自動車の開発中。 BMW(独) 「ミニ E」 「ACTIVEE」;内製にこだわった電気自動車を発表。電気自動車でも,走行性を 第一に置く。モータも量産時に内製する方針。 これまで開発してきた電気自動車「Mini E」の成果を生かした上で、小型クーペ 「1 Series Coupe」のプラットフォームを流用した。 「MegaCity Vehicle」と呼ぶ電気自動車およびプラグイン・ハイブリッド車の専 用車を 2011 年に,規模は未定ながら量産する計画。Activee は、MegaCity Vehicle に向けた実証実験用の車両という位置づけ。 ルノー(仏) 「ルノー Z.E.」 「フリューエンス EV」 メガーヌベース開発車 シトロエン(仏) PSA プジョー‐ シトロエン SVE 社(仏) 「クリーンノバ II」2009 年発売 ダイムラー(独) 「スマート・フォーツーED」 ボルボ(スエーデ ン) 「ELECTRIC C30」;モータやインバータをスイス Brusa Elektronik 社から調達。 エンジンよりもはるかに制御性の高いモータであれば、制御ソフトウエアに注 力することで、他社品のモータを使っても十分に商品性を高められると見込ん だ。既にモータの制御ソフトウエア開発にめどを付けたとし、Electric C30 で は 2 次電池の安全性を確保した上で、実際の使い勝手などを考慮してエンジン 車と変わらない内装や装備を備えた。2011 年販売を予定。 ドイツ AUDI AG 「E-Tron」;2009 年 9 月に公表した車両とは全く異なる仕様となっていた。モ ータ 2 個の合計出力は 150KW と,前回の 230KW から大幅に小さくし、三洋電 機製の LI イオン 2 次電池も 53KWH から 45KWH へと引き下げた。2012 年の尐 量生産を計画するが、小型車を主力としない同社にとっては、まだ本格的参入 とは言えない状況。 その他大手では、日野自動車、クライスラー、GM、フォード、ダイムラー、VW グループ、オペル、プジョー、ピニンファリーナ、GE などが計画。 (出所:各種報道資料等により作成) 一方、ベンチャーなど新興企業の参入は活発となっている。ハイブリッドに方式に比べて、部品点数 が尐なく、大半の部品も入手しやすいことから、参入しやすい素地が整ってきたことが上げられる。
  • 22. 22 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. 電池自動車(ベンチャー) 企業名 概要 テスラモーターズ ・2002 年設立の高級電気スポーツカー製造。VC から 442M ドルを調達し、2010 年 1 月、エネルギー省から 4 億 6500 万ドルの低利融資を受けた。ファミリー セダン市場参入に向け、ラインを拡大中。 ・これまでテスラ・ロードスターを 1000 台出荷し、2009 年 9 月期に 93.3M ド ルの売上を達成。上場申請書を 2009 年 12 月に申請済み。 ・コア技術はバッテリーの制御技術(ネットワーク・ソフトウェア)。 ・シャーシはノルウェイ、ブレーキとエアバッグはドイツ、バッテリーパック は日本から調達、タイでアセンブル、ファイナル・アセンブリーは英国とファ ブレスで生産。今後は、米国内で生産する予定。 ・テスラロードスターは、「Pure Electric」、「60 MPH(96KM/時)まで 3.9 秒の 加速」、「一回の充電で 244 マイル(390KM)」、「1 マイルあたりの電気代は数セ ント」というキャッチフレーズ。電池寿命は 10 万マイル(16 万 KM)。 ・2009 年 3 月には「モデル S」が発表された。これは大衆車で、補助金を考慮 すれば 5 万米ドル以下になる。さら 2010 年 1 月、パナソニックと LI イオン 2 次電池を共同開発すると発表。Model S を「近いうちに年 2 万台販売するとし、 この車種を含めた Tesla 社の電気自動車の販売台数は 5 年以内に年 20 万台にな るとの見通しを掲げている。 ・現時点では販売もディーラー網に頼るのではなく、直販店を設置。 マイルズ・エレクト リック・ビークル (Miles Electric Vehicles) ・低速の近距離(街乗り)用電気自動車。ハイウェイも走行可能なモデルを 2010 年に市場に出したいと計画。中国で車両を生産。 シンク・ノース・ア メリカ(Think North America) ・ノルウェーの電気自動車メーカー、シンク(Think)の米国子会社で、KPCB とロックポート・キャピタル・パートナー(Rockport Capital Partners)の出資を 受けて 2009 年 3 月に設立。 ・シンク・グローバル社は、A123 システムス社、GE 社とジョイントコラボレ ーション ・シンク・グローバル(Th!nk Global)モデル「Th!nk City」 もともと 1990 年代に小型 EVを開発していたノルウェイの会社ピブコ(PIVCO) が源流。シンク・グローバル社は小型の EV、シンク・シティ(Th!nk City)を まずノルウェイで発売、次世代モデル Th!nk OX は米国でも生産、販売の予定。 Th!nk City は最大速度 100KM/H、加速も 50KM/H まで 6 秒、80KM/H まで 16.0 秒で、テスラ・ロードスターの 10 万ドル近い価格に比べると 2 万 5 千ドル程 度と安価で、通勤や市街地での運転を目標として、今後販売が大きく拡大する ことが予想される。 レバ(REVA、イン 「G-WIZ」;鉛酸バッテリーで駆動する電気自動車を約 9000 ドルで販売。2009
  • 23. 23 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. ド) 年 1 月には、リチウムイオン・バッテリーで動くモデルを欧州市場で販売計画。 Batscap( バスカ ッ プ)社(仏) 「ブルーカー」と「Pininfarina(ピ二ンファリーナ BO)」 ニースカー(英) EV モデル「メガシティ」 ザ ッ プ 社 (Zap Corporation) 電気自動車の新興メーカー。 無線 LAN を搭載した普通充電スタンドを開発。無線 LAN を最終的にどう使う のかは検討中。 スミス社(英) スミス社(Smith Electric Vehicles)。フォードと共同開発 ダ イ ナ ス テ ィ 社 (英) ダイナスティ社(Dynasty Electric Car Corp.)モデル「Dynasty IT」 米 Commuter Cars Corp 全幅 1M 以下で二人乗りの電気自動車「TANGO」を披露。これまで 11 台を製 作して販売しており,2010 年も尐なくとも 12 台は製作したいとする。 米 Green Vehicles, Inc. 3 輪の電気自動車「TRIAC」を発表。現在までに約 40 台の受注を受けている。 CT&T(韓) 米国市場に向けた 2 台の新しい電気自動車を発表。コミューター・タイプの「E -Zone Plus」、スポーツ・タイプの「C Square」。米国市場に挑戦する好機と捉 える。 ライトスピード社 (WrightSpeed, Inc.) テスラモーターズ社からスピンアウトした会社。ニッチ市場であるスポーツカ ーだけでは事業の成長が見込めないと判断し、方向を 180 度転換し、EV 市場 がもっと成長するまでは、バッテリパック、制御ソフトウェア、その他のコン ポーネントなど、EV の性能を向上させるためのパワートレーンの開発・販売 に専心。 Coda Automotive それまでステルスモードであったが、突如、2009 年にセダンの電気自動車を発 表。1 年後に販売開始を目指している。バッテリー部分も含め、中国で製造。 将来的にはアメリカにも工場を持つ計画。車体の製造はハーフェイ、バッテリ ーはアップルやサムスンに提供しているリーシェン、ハーフェイのサイバオを ベースにポルシェデザインの監修で製造。 その他、Elbil Norge AS 社、フェニックス・モーターカー、モデック社(英)、 クーレント(Kurrent) NEV タイプ(街乗り)、グリーンエコ・モビリティ NEV タイプ(街乗り)、タラ インターナショナル 「タラ・タイニー」、ゼロスポ ーツ(日)、オートイーヴィジャパン(日)他多数。今後も参入は増えるもの と予想される。 (出所:各種報道資料等により作成) ハイブリッド、プラグイン・ハイブリッドにおいては、日本のトヨタとホンダが実績あり。米ビッグ 3 は経営破たんの影響から、対応に遅れているが、GM が米政府の支援もあり追随の見込み。
  • 24. 24 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. ハイブリッド・プラグインハイブリッド大手メーカー 企業名 概要 トヨタ 3 代目プリウス;2009 年登場。米国での価格は基本グレードが 2 万 1000 ドルと 低価格。燃費の向上と今後の小型車への搭載を視野に入れて開発。 ・2009 年 7 月「レクサス」ブランド初のハイブリッド専用車「HS250H」を発売。 排気量 2.4L の直列 4 気筒エンジンにハイブリッド・システムを組み合わせた。 4 ドア・セダンの 5 人乗りで価格は 395 万~535 万円。2 輪駆動車のみを用意。 ・さらに、家庭用コンセントで充電できる「プリウスプラグインハイブリッド」 を投入。電池だけの走行で、約 24KM の航続距離を有する。 ・2010 年中ごろから英国で「オーリス」のハイブリッド車を生産すると発表。 同社が欧州で生産する初のハイブリッド車。 ・今後、北米でプリウスのブランドを活用した新車種の展開を計画。 ホンダ ・「シビックハイブリッド」「インサイト」を発売中。 ・さらに、2010 年にハイブリッド車 2 車種を追加すると発表。2010 年 2 月に、 スポーティーなハイブリッド車「CR-Z」を、2010 年中に「フィット」のハイ ブリッド・モデルを日本国内で発売する。同社のハイブリッド・システム「IMA」 を搭載する小型ハイブリッド車。 「CR-Z」は「インサイト」のハイブリッド・システムをほぼ流用。車両前方 にハイブリッド・システム、後方に NI 水素 2 次電池を搭載するハイブリッド・ システムは内製。NI 水素 2 次電池は三洋電機製。販売価格は「インサイトより も尐し高くなる」ため,200 万円台前半とみられる。 ・現在,中・大型車のハイブリッド・モデル拡大に向け、中・大型車用ハイブ リッド・システムも開発中。 日産 「フーガ」ハイブリッド車。 GM 「シボレー・ボルト」(2010 年発売予定)。リッター100 キロの高性能ハブリ ッド・カー。心臓部であるリチウム・イオン電池は、GM 自ら立ち上げる電池メ ーカーが製造供給予定。米政府や州の補助金を考慮すれば、3 万ドル程度で購入 可能となる。 VOLT を 2011 年に 5 万台の量産規模とする予定。 クライスラー 専門の社内組織「ENVI」を立ち上げ、量産型電気自動車の開発に取り組んでき たが、本格展開はこれから。 GM・オペル GM・オペルのプラグインハイブリッド(エクステンデッドレンジ EV) Volkswagen 「The New Compact Coupe(NCC)」4 人乗りで 2 ドアのクーペ・タイプのハイブ リッド車。燃費は約 19.1KM/L。 ・NCC のハイブリッド・システムはパラレル方式で、4 気筒で排気量 1.4L の エンジンとモータ、7 速の DCT(Dual Clutch Transmission)である「DSG」が接 続される。ホンダの IMA と異なり、エンジンとモータの間にクラッチを介する ため、モータのみの駆動時に効率が良くなる。
  • 25. 25 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. (出所:各種報道資料等により作成) ベンチャー企業の参入もある。しかしながら、電池自動車に比べて、エンジン開発が必要で、更には 機構が複雑なため、参入は尐ない。BYD のように、小型のエンジンを搭載し、主に発電用としてのみ使 うタイプが現実的と思われる。 ハイブリッドメーカー(ベンチャー) 企業名 概要 ブライト・オートモ ー テ ィ ブ ( Bright Automotive) シンクタンクのロッキー・マウンテン・インスティテュート(Rocky Mountain Institute)から独立。 小型ハイブリッド商用車の大量生産を 2012 年に開始する計画を発表。 フィスカー・オート モ ー テ ィ ブ (Fisker Automotive) ハイエンドのプラグイン・ハイブリッド車開発を手がけるベンチャー企業。ラ グシュアリー市場をターゲット。KPCB などが投資。2009 年 4 月に複数のベン チャーキャピタルから合計 8500 万ドルを集めている。 A123 のバッテリーを使用。 1400 台の予約を受けつけている。 GM 社が閉鎖した工場を買い取ると 2009 年に明らかにして話題を集めた。ただ し、生産開始の予定は 2012 年後半で、まだ生産は始まっていない。 米エネルギー省は、5 億 2800 万米ドルを融資すると発表。 ビーワイディー中 国(BYD CO.) (コラム参照) ・2008 年 12 月に、世界で初めての量産型プラグイン・ハイブリッド車となる 「F3DM」というモデルを発表。米国市場向けモデルを 2010 年に投入する計画 で、中国で車両を生産。 ・「F3DM」はガソリンエンジン併用と、電気のみでの走行との 2 種類の走行が 可能なデュアルモードとなり、自社開発の LI イオン電池を搭載し 1 回の充電で 100KM 走行できる。搭載しているガソリンエンジンは、発電に使う。 BYD は 1995 年設立され、リチウムイオン電池の世界シェアは 2003 年には約 15%、携帯電話用の二次電池では 39%と圧倒的なシェアと世界的にも高水準の 電池開発技術を誇る。 ・BYD グループは、すでにルーマニアやハンガリーで LI イオン電池の生産設備 を整えており、欧州市場やイスラエルでの販売も視野に入れる。 ・プラグインハイブリッド中型セダン F6E EV も生産発表。ビッグ 3 に新しい電 動車両を開発する余力に乏しい今こそ、米国市場に参入する好機ととらえてい る。航続距離は 200 マイル(320km)程度で、ガソリン車と競争力のある価格に する予定。 FAW Group(中国一 汽) ・プラグイン・ハイブリッド車「B50HEV」を公開。セダン「B50」をベースと した車両で,2 次電池には LI イオンを使用。1 回の満充電で 60KM の走行が可 能。 Chery(中)(奇瑞) 「瑞麒 M1 EV」;市販の開始予定時期は,2009 年末から 2010 年である。瑞麒 M1 EV に用いる LI イオン 2 次電池やモータは、Chery 社が独自に研究・開発
  • 26. 26 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. した。同社によると電池の交換サイクルは 1500 回で,おおむね 7 年ほどは交換 が不要。 (出所:各種報道資料等により作成) 電動スクーターメーカー 企業名 概要 ヤマハ発動機 「EC-03」;10 年夏に発売予定。薄型の電動パワーユニットとリチウムイオン バッテリーを軽量アルミフレームに搭載。充電器を車両に内蔵したプラグイン 方式で、家庭用コンセントから手軽に充電が可能。 ホンダ 「EVE-NEO」;11 年をメドに発売される見込み。 (出所:各種報道資料等により作成) 自動車関連企業の取り組み可能性 ボディ・パーツ等は、多くが従来の自動車部品メーカーのものが転用可能。会社によっては、モータ ーやバッテリーなど主要部品を自社開発するところもあるが、電池自動車の場合には、部品点数が圧倒 的に尐なくてすみ、ほとんどの部品を外部調達が可能である。そのために、従来の自動車関連部品メー カーは、これら電気自動車の新規参入に参画することは可能である。逆にこれまでなかったものとして は、モーター、バッテリー、電装品、充電器、ソフトウエアなどが必要となるが、エレクトロニクスメ ーカー、IT 企業に参入するチャンスはある。 このためには、開発の段階から、参画することが必要である。大手自動車メーカーは、既に多くの下 請け工場を有しているために、昔からの自動車由来部品において参画することは難しいと思われるが、 一方ベンチャー企業の場合には、しがらみがないため、新規に参画の可能性がある。そのため、早い段 階からの参画が必要である。 Focus 中国の BYD が電気自動車市場に参戦 2010 年 04 月 22 日 中国の電池・自動車メーカーの比亜迪汽車(BYD)は、携帯用バッテリーで世界的企業に成長し、電 気自動車(EV)、エネルギー貯蔵、再生可能エネルギーへと業態を広げ、米国市場参入をうかがっている。 EV については技術的に未知数だが、著名投資家ウォーレン・バフェット氏が投資し、ダイムラーが技術 提携する。 <10 年中に米国 EV 市場参入か> 成長企業や成長市場に詳しい「ファスト・カンパニー」誌(2010 年 2 月号)は、「10 年で最も革新的 な企業 50 社」を発表し、その第 16 位に BYD を選んだ。同誌は BYD について「10 年中に電気自動車(EV) 『e6』を投入する計画だ。どの州にもまだディーラーを持っていないが、同社の強みは独自のリン酸塩 リチウムイオン電池。BYD によると、価格が既存電池の 5 割で、2,000 回の充電に耐え、フル充電で 200
  • 27. 27 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. マイル(1 マイル=約 1.6 キロ)の走行が可能だという。太陽電池を作る BYD が自動車でも成功すれば 新たな成功物語になる」と紹介した。BYD は米国で Build Your Dream(「夢を創る」)の略で通っている。 このほか「最も革新的な企業 50 社」には、アジアから Huawei(中国)、アリババ(中国)、HTC(台湾)、 サムスン電子(韓国)、VNL(インド)、ファーストリテイリング(日本)、Huayi Brothers(中国)などが 入った。同誌は選定基準を明らかにしていないが、財務などのデータよりも「企業がどのように行動し ているか」を重視しているという。 <「米国企業でもある」と強調> 10 年 1 月 24、25 日にロサンゼルスで開催された環境系イベント「VX2010」で、BYD アメリカのフレ ッド・ニ(Fred Ni)社長が基調講演した。概要は以下のとおり。 BYD は 1995 年に従業員わずか 20 人で創業し、現在、投資家のウォーレン・バフェット氏が株の一部 を所有している。つまりわれわれは急成長中の米国ローカル企業でもある。 BYD の第 1 の柱はグリーンエネルギー。ニッケル・カドミウム電池では世界のシェア 70%を占め、ハ イブリッド車に使われるニッケル・メタル水素電池のシェアも世界第 3 位だ。中国の工場では、毎日 100 万個の携帯電話用電池を生産している。 第 2 の柱が自動車。われわれは 03 年に自動車ビジネスを開始し、05 年の販売台数は 2 万台にすぎなか った。それが 09 年には年産 45 万台に達し、中国で第 4 位に成長した。15 年までに世界最大の自動車メ ーカーになる。 3 つ目の柱は IT の ODM(相手先ブランドの設計製造)。ノキアの携帯電話の 30%、モトローラの主力 製品「Razr」の 80%を製造している。キッチン用品・工具のブラック&デッカーも主要顧客だ。 08 年 12 月にプラグインハイブリッド車の「F3DM」を中国市場に投入した。世界最初の量産プラグイ ンハイブリッド車だ。走行距離 60 マイルまでは電気だけで走り、それ以上はガソリンで発電機を回す。 100%EV の「e6」も中国で販売した。10 年末には米国でもデビューさせる。急速充電器を使えば 10 分で 50%の充電が完了する。電力が最も安い時間に自動的に充電する仕組みも用意している。 また、再生可能エネルギー、エネルギー貯蔵システム、水の浄化システムを組み合わせた街づくりの 実証実験を中国で進めている。これは南カリフォルニアの気候にも合うシステムだ。特に今後、再生可 能エネルギーが電気系統につながれていく場合、出力の不安定なこれらのエネルギーの弱点を、われわ れのエネルギー貯蔵技術によって補正することができる。
  • 28. 28 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. <10 年半ばの EV 量産計画は断念との報道も> ニ社長の講演は、随所に米国市場・消費者を意識した企業名、製品名、都市名を散りばめ、米国市場 に早く受け入れられたいという思いを感じさせた。新興企業のためブランド力に务り、実際米国では、 自動車でも環境・エネルギー分野でも実績がほとんどない。米国人は「バフェットが投資した BYD」、「ダ イムラーが提携した BYD」は知っていても、実際にその完成品に触れた経験がほとんどないため、講演 内容はそうした点への配慮がにじんでいた。 例えば、プラグインハイブリッド車の 60 マイル、EV の 200 マイル超という走行可能距離は、一般に 米国で望ましい水準と考えられているものだ。 なお「ブルームバーグ」と香港の「サウスチャイナ・モーニングポスト」紙(3 月 16 日)によると、 BYD の王伝福会長は「10 年半ばまでに EV を量産する計画を断念した」と述べたという。事実だとする と、米国でのデビューもそれに合わせ、大きく遅れることになる。 会場では「米国市場で中国ブランド(の自動車)は難しいだろう」(米系電源部品メーカー)との声の ほか、「米国でも間違いなく大企業になる」(薄膜太陽電池メーカー・G24i 共同創設者のロバート・ハー ツバーグ氏)との声もあった。まずは EV「e6」の投入待ちというところだ。 ジェトロ通商弘報より (ジェトロ・サンフランシスコ 中島丈雄) 2-3 EV 用バッテリー製造の市場構造とプレーヤー バッテリーは、最重要パーツであり、電気自動車の普及には欠かせない。走行距離と価格が課題とな っており、低コストで大容量のバッテリーを押さえるものが、電気自動車に大きな影響力を持つことに なる可能性が高い。また、自動車のバッテリーの容量は大きいため、セルが多量に使用するために、バ ッテリーセルとしての市場の成長を期待されている。
  • 29. 29 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. 現在は、主に、高性能なリチウム・イオン電池が電気自動車に搭載されている。現在、リチウム・イ オン電池は、携帯電話、ノート PC、電動自転車、その他のポータブル家電などに使用されており、世界 的なシェアは、2009 年現在、日本が 50%ほどを占めている。基本特許は発明元の日本の各企業が有して いる。韓国や中国も国家を挙げて、リチウム・イオン電池の開発に力を注いでおり、今後、世界的なシ ェア獲得競争が激化することが予想される。 1KWH 当たりの LI イオン 2 次電池の価格は、量産時には 1000 ドル程度になるといわれる。仮に 16KWH 分の電池を 1 万 6000 ドルとして車両価格(4 万ドル)から引き算すると、エンジンやモータ、インバー タなどを含めた車両価格が 2 万 4000 米ドルという計算となり、同クラスのガソリン車の相場(2 万~2 万 5000 米ドル)とほぼ同等かやや高額になる。 バッテリーはかつては問題とされていたが、今日には変化が見られる。モバイル機器等で使用が当た り前になったリチウムイオン電池を採用することで、性能向上を果たした電気自動車が発表されるよう になった。充電時間についてはメーカーや研究機関で 30 分以下で 70%の充電を可能にする急速充電技術 が開発されている。 電池寿命についてはモバイル機器などに使用されているものとは異なり長寿命である。長寿命である 要因は質量あたりのエネルギー密度がモバイル用よりも尐なく、設計的に余裕があるためである。Tesla Motors の電気自動車では 16 万 KM の電池寿命と発表している。また、絶縁性能を改善したキャパシタを 用いることも一つの方法として、有力視されている。 1990 年代以降の電気自動車の性能の向上(および量産ハイブリッドカーの登場)には、電源であるバ ッテリの性能向上のほかにも、電気エネルギーの使用効率を高められるインバータによる可変電圧可変 周波数制御といった、パワーエレクトロニクスの発達による要素も大きい。 電気自動車用バッテリーメーカー 企業名 概要 オートモーティブ エナジーサプライ (AESC) 自動車用リチウムイオンバッテリーメーカー リチウムエナジー ジャパン 自動車用リチウムイオンバッテリーメーカー パナソニック EV エナジー 自動車用リチウムイオンバッテリーメーカー 日立ビークルエナ ジー 自動車用リチウムイオンバッテリーメーカー エナックス 自動車用リチウムイオンバッテリーメーカー 三菱重工業 自動車用リチウムイオンバッテリーメーカー A 123 Systems ・革新的な充電式リチウムイオン電池を開発・製造。マサチューセッツ州に本 拠地を置き、MIT で開発されたナノテク素材を利用。GE、モトローラ、クァル コムなどの支援を受けている。 ・2009 年上場。2009 年第一四半期に、売上が 23M ドル。
  • 30. 30 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. ・社員 1800 人以上。製造施設は全世界で 45 万平方フィート超。 ・携帯機器用の 3.6WH のバッテリーから電気自動車用の 65WH バッテリーまで、 さまざまな製品を手がける。 ・電力会社向けの数メガワットの容量を持つバッテリーシステムも開発中だが、 これはグリッドサービス用で、発電停止時の予備電力備蓄や位相の調整機能も 含むもの。 •電気自動車ベンチャーのフィスカーとリチウムイオン電池の供給契約の締結を 発表。 GS ユアサ 「三菱自動車」の電気自動車「アイ・ミーブ」に電池を供給。電気自動車の製 造を表明したホンダに電池を供給する予定。 NEC 「日産自動車」の電気自動車「リーフ」に電池を供給。 パナソニックおよ び旧三洋電機 トヨタ自動車の電気自動車向け提供予定。 リチウム・イオン電池の世界シェア 40%を誇る三洋電機は、米国の自動車メー カーである「フォード」と、ドイツの「フォルクスワーゲン」社に電池を供給 予定。 サムスン電子(韓) ドイツの BMW 社の電気自動車にリチウム・イオン電池を供給予定。 GM 「シボレー・ボルト」(2010 年発売予定)。リッター100 キロの高性能ハブリ ッド・カーの心臓部であるリチウム・イオン電池は、GM 自ら立ち上げる電池メ ーカーが製造供給予定。 BYD 携帯電話用のリチウム・イオン電池のシェア世界一の中国の BYD、2010 年、系 列会社の「BYD オート」から、電気自動車を販売予定。 EEStor イーイース トアー テキサス州。KPCB が投資。電気自動車向けの、新しいタイプのウルトラ・キャ パシターの開発企業。300 マイル(約 500KM)走行可能な蓄電を目指す。従来 のバッテリーは、電気エネルギーを化学変化で蓄えるために、充電に何時間も かかる。当社は 5 分で可能。もともとキャパシターは、両極の絶縁に限界があ るため、蓄電できる量はごくわずかであったが、EEStor 社は絶縁体にチタン酸 バリウムを用いており、エネルギー密度を通常のバッテリーの 10 倍にできると 発表している。但し、当初は 2007 年に登場するとされていた同社のウルトラ・ キャパシターは、いまだに発表されておらず、今後の開発の進捗が注目される。 Zenn Motor カナダトロント。もともとキャパシターを利用した電気自動車を開発していて おり、約 30 億円を集めて開発していた。キャパシターとしては、EEStor の製品 を活用する予定であった。2010 年 3 月にレイオフと、自動車製造を中止するこ とを発表。ZENNERGY という自動車用キャパシターの開発・製造にフォーカス することになった。 イーメックス(日 本) キャパシタ開発。多孔質金属電極を実用化。温度や還元剤濃度などを工夫した、 イーメックス独自の化学メッキ法を用いた。一般的な炭素電極に比べ、電極の 表面積は 10 倍に増加。通常のリチウムイオン電池に比べ、2 倍の蓄電性能を持 つ大容量が可能と発表。今後電機・電池メーカー等と実用化研究を進め、EV(電
  • 31. 31 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. 気自動車)や携帯電話、パソコンなどへの搭載を目指す。 その他、ジョンソンコントロール、SAFT、DAG、Enerdel 社、Valenoe Technology、 Roston Power など。 (出所:各種報道資料等により作成) Focus 技術とビジネスモデルの両輪で世界を先導せよ 2010 年 8 月 プラグインハイブリッド車(PHEV)を含む電気自動車(EV)の性能を左右する要素のひとつが蓄電 池。日本が優勢といわれてきた市場に挑む米中韓勢は,素材やビジネスモデルで差別化を図る。 <日米中韓のメーカーがしのぎを削る> 「EV 元年」とも呼ばれる今年,各国自動車メーカーは EV を続々と市場に投入する。世界全体で気候 変動対策の取り組みが加速する中,次世代自動車市場の競争激化は必至だ。この流れに合わせて,EV に 搭載するリチウムイオン電池の開発も激化している。電気で駆動する EV にとって,蓄電池が性能の優 务に大きな影響を与えるからだ。安全性,1回の充電での航続距離,極端な気温下での駆動の可否,駆 動力など,自動車を運転する上で最低限必要な条件がすべて「電池」にかかっている。もちろん,消費 者にとって重要な購入価格にも影響する。一般的に EV の車体価格の5割は電池が占めると言われる。 つまり,蓄電池が商品化され,競争分野が車体技術に移行するまでの間は,蓄電池の覇者が次世代自動 車産業の覇者となる。 従来この分野は日本勢に分がある。リチウムイオン電池を商用化したソニーはじめ,三洋電機,パナ ソニックなどで世界シェアの約半分を占める。しかし,昨今無視できないのが徐々にシェアを伸ばす中 国・韓国勢,そして連邦政府の補助金で勢いづく米国ベンチャー勢だ。 <日本の圧倒的優位を切り崩そうとする脅威> 今年5月中旬に米国フロリダ州オーランドで開催された,車載用電池関連の学会兼展示会である「ア ドバンスト・オートモティブ・バッテリーズ・カンファレンス 2010(AABC)」と併催の電池関連の学会 「大型リチウムイオン電池技術およびアプリケーション(LLIBTA)」では,各国の自動車,電池メーカ ーおよび研究機関の代表者が,電池技術の違いや将来の EV および蓄電池市場について持論を展開した。 印象的だったのが,韓国の LG 化学と中国の BAK のプレゼンテーション。LG 化学は米現地法人の compact power を通じ,GM が 10 年,11 年にそれぞれ発売する「シボレーボルト」,「ビュイック」の両 PHEV に電池を供給する。09 年8月,米エネルギー省から得た1億 5,140 万ドルの補助金を活用して既 に電池セルを 30 万個製造し,実証試験を行なっているという。一方,中国の BAK がアピールしていた のが,同社製の電池モジュールだ。自由に変形することができ,車種ごとの仕様に柔軟に対応できると いう。まだ特筆すべき実績がないとはいえ,圧倒的な価格競争力を有する中国企業が,一度大きな実績 を上げたときは要注意だ。 しかし日本勢にとって「脅威」となりうるのは,BAK が強調していたもうひとつの要素である。それ
  • 32. 32 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. が,同社の電池の正極材に利用されている“リン酸鉄リチウム”という素材だ。 <バランスで勝負のリン酸鉄リチウム> 電池を構成する主な要素は①正極材,②負極材,③セパレーター,④電解液の四つだ。その中でも電 池の性能を大きく左右するのが正極材に使われる素材と言われている。従来電池開発を牽引してきた日 本勢が主流としていた素材はコバルト酸リチウム。しかし,コバルト酸リチウムはエネルギー密度(持 続力)では申し分ないものの,パワー密度(瞬発力)が比較的低く,また,コバルトがレアメタルゆえ に製造コストが高くつくという課題があった。そのため,エネルギー密度で妥協して,ニッケルやマン ガン,またそれらとコバルトの混合である3元系が用いられるようになった。これに対して近年注目さ れるのが,「リン酸鉄リチウム」だ。エネルギー密度で务る一方,コバルトの弱点であったコストを低く 抑えることができ,熱安定性も他の素材より高い。 この「リン酸鉄リチウム」で巻き返しを図ろうとしているのが米中のメーカーだ。AABC に出席して いた電池業界関係者は「米中はリン酸鉄を蓄電池の主流にする点で手を結んでいる」という。確かに, 米国の電池メーカーとして存在感を高める A123,中国内シェアトップで世界でもシェア 10%に肉薄する BYD といった両国を代表するメーカーが採用しているのはリン酸鉄リチウムだ。前述の BAK はリン酸 鉄リチウムを採用する理由を「製造が簡単で安く済み,中国内で特許が未確立だからだ」と説明する。 同社は今年,工場の拡張を予定しており,生産量を 09 年の7万セル/日から 10 年に,20 万セル/日へ 引き上げると言う。性能がそこそこで,大量生産により安価になった電池が市場を席巻すれば,リン酸 鉄リチウム以外の道をたどるメーカーにとっては厄介だ。 <EV の利用スタイルも電池のスペックに影響> AABC では,日本勢の高性能の電池にアンチテーゼを投げかける議論もなされた。EV の使い方にも いくつかのシナリオが想定され,場合によってはほどほどの電池性能で十分という主張だ。本稿ではこ れまで電動自動車を EV とひとくくりにしてきたが,大きく分けるとハイブリッド自動車,プラグイン ハイブリッド車,電気自動車の3種類ある(表)。トヨタ,ジョンソンコントロールズ,マッキンゼー, アドバンスド・オートモティブ・バッテリーズ,野村総合研究所が参加したセッションでは,これら3 種がどう使い分けられるかについても議論された。大方の見方は,EV は都市内中心の短距離,PHEV は 郊外の街間などの中距離,HEV は都市間など長距離という具合に,運転距離に応じて用途が分かれると いう点で認識が一致した。消費者のニーズに合わせた利用モデルの提示が必要だとし,都市内の EV 活 用では,カーシェアリングが有効との意見もあった。 ここでひとつの疑問が湧き上がる。「一回の充電での航続距離にこだわる必要があるか」という点だ。 家庭での EV の充電時間は電圧や車種にもよるが,100V 台で約8~16 時間,200V 台で約3~8時間か かる。識者の多くは「EV をフル充電する消費者は尐ない」とみる。充電インフラが整備されれば,こま めな充電が可能となり,エネルギー密度の優先順位が下がる。従って,残る要素である「安全性」に信 頼があり,「コスト」も安い“リン酸鉄リチウム”が主流になりうる。一方,充電インフラの整備に必要 とされる今後5~10 年間は,やはり航続距離の長さがネックになるとの見方もある。電池がそのニーズ を満たせば逆に,充電インフラの必要性が低下する可能性もある。いずれにせよ,EV 投入の初期段階に おいて,消費者が求めるスペックを見極めることが肝心だ。
  • 33. 33 Copyright (C) 2010 JETRO. All rights reserved. 種類 ハイブリッド車 (HEV) プラグインハイブリッド車 (PHEV) 電気自動車 (EV) 構造 ・電気モーターと内燃機関を兼ね備えた自 動車 ・内燃機関による運動エネルギーを電力に 換えて電池に蓄電する ・利用者が自ら充電する必要はない ・蓄電池と内燃機関を兼ね備えた自動車 ・一定距離(約60km)までは蓄電池のみで走行 し、以降ハイブリッド車と同様の運転に切り替 わる ・利用者が自ら充電する必要がある 車体に搭載した蓄電池の充放電のみで 駆動する自動車 利用者が自ら充電する必要がある 代表的車種 プリウス(トヨタ) インサイト(ホンダ) プリウスプラグインハイブリッド(トヨタ) シボレーボルト(GM) F3DM(BYD) リーフ(日産) i-Miev(三菱) 出所:各種資料を基に筆者作成 表:代表的な電動駆動車の種類 <自動車搭載後のビジネスモデルを> 電池メーカーは大方二つのグループに分類できる。一つは自動車メーカーと合弁企業を設立し,その メーカーの EV に合う電池を供給するもの。もう一つは,独立して自動車メーカーの発注ごとに電池を 供給するものだ。多くの日本勢が前者のスタイルで攻勢をかける一方,米中韓勢は後者のスタイルで独 自の道を歩む例が目立つ。いずれにせよ,まずは「EV 搭載用電池の大量供給」が各メーカーの第一目標 だ。しかし万一,自社電池を供給した EV が市場で低迷した場合の痛手は大きい。そこで必要となるの が,そのリスクを低減させるための,一歩先を見据えたビジネスモデルの確立だ。AABC 参加企業の中 で,注目を集めていたのが米国電池メーカーのエナデル(EnerDel)だ。 エナデルは 04 年,米インディアナ州インディアナポリスに,Ener1,デルファイの共同出資で設立され, 伊藤忠商事は Ener1 に出資をしている。電池技術では二次電池関連の研究で名高いアルゴンヌ米国立研究 所と,急速充電技術の開発では九州電力と,販路拡大では伊藤忠と,それぞれ戦略的提携を結んでいる。 米政府が 09 年8月に発表した景気対策法に基づく車載用二次電池開発関連の補助金も,生産能力拡大に 2億 3,700 万ドル(50%が政府補助金)を獲得している。エナデルの現時点での主要な供給先はフィンラ ンドの EV メーカーの TH ! NK だ。しかし,ビジネス開発部のディレクターであるジム・ロマン氏が「今 後はアジアも重要な市場とみている」と言うように,既に出資元の伊藤忠が先導役となって,以下のよ うな日本でのビジネスを広げている。 (1)コンビニエンスストア店舗設置の急速充電機とカーシェアリングサービスの組み合わせ ファミリーマートの店舗屋上にソーラーパネルを設置,そこで得られた電力を,店舗駐車場に設置し た急速充電器を通してマツダ提供の EV に充電する計画。その EV に搭載する電池をエナデルが供給。 (2)住宅マンションへの定置用蓄電池の導入 昼間,マンション屋上に設置したソーラーパネルで発電した電力をエナデル供給の電池に蓄積,夜間 の共用部照明などに利用する計画。マンション駐車場に急速充電器を設置し,EV のカーシェアも実施す る予定だ。本事業では車載用としての役割を終えた電池を二次利用する面もある。 (3)公共バスへの電池供給 経済産業省の「低炭素社会実証モデル事業」のもと,北陸電力が富山市で実施する電気コミュニティ ーバスの運行プロジェクトに電池を供給。 そのほか,TH ! NK と組んで日本郵政の社用車にも電池を供給するなど,先進的なビジネスモデルに