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H
L
2009 2010
Arctic Oscillation
2009.12.18
2009.12.09
2009.12.03
(画像 1)ひまわり 可視画像 2010年1月1日 10 時 30 分(JST)Satellite Image  JMA/JWA
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黒田 雄紀 気象予報士 、気象友の会々員
2
010 年は、全国的に冷たい季節風が吹抜ける
冬型の気圧配置で新年が明け、気温の変動が
大きい冬になった。画面は初詣での賑
にぎ
わいが始まっ
た頃の”ひまわり”の可視画像である〔2010 年 1 月
1 日 10 時 30 分〕(画像 1)。日本列島は寒気の氾
はんらん
濫
を示す筋状の積雲に囲まれ、日本海側を中心に吹雪、
よく晴れているのは関東とその周辺のみである。
 低緯度と高緯度の温度差(位置エネルギー)は、中
緯度に偏西風帯を作り前線や低気圧の発生・発達(運
動エネルギーへの変換)につながるのである。それ
らの様子は雲や雲域として姿を現わすが、その形態
は、偏西風を乱す山脈などの障害物が無く、水蒸気
の多い大洋上でダイナミックな姿を見せる。新年の
東方洋上には、低気圧家族の雄大な雲システムが発
生していた。
 低気圧家族とは、トラフ(上空の気圧の谷)の東側に
低気圧が次々と発生することがあり、この一連の低気
圧群を低気圧家族と言う。この日のトラフは北海道付
近から南東へ伸び、その東側に沿って天気図には4個
の低気圧が解析されていた。北海道の北から南東へ連
なる長大な雲が低気圧家族の雄大な雲システムである。
 大洋上では観測資料が少ないため、台風や低気圧
の中心気圧や最大風速などは、雲画像のパターン認
識で求める方法が実施され、天気図の作成や気象警
報などに利用されている。このように「雲画像から
気象情報等を抽出すること」を雲解析という。
 低気圧家族に伴う雲や雲パターンを解析して記号化
したのがイラストの“雲解析図”である。可視画像※ 1
(画像 1)と赤外画像※ 2
(画像 2)の両画像を見比べて
理解していただきたい。なお、この解析には雲画像の
動画解析による有力な情報が付加されている。右の雲
解析図は着目点のみの解説である。
☞ 裏表紙に執筆者によるコラム「“雲解析”について思うこと」を掲載しました。
※ 1 可視画像
太陽光の反射を画像化したもので、夜間は観
測できない。太陽との位置関係で写り方が変
わる。宇宙から人間の眼で見たままの地球の
姿が写っている。
※ 2 赤外画像
雲の上面など地球表面の放射温度の分布を示
し、昼夜の観測が可能。低温ほど白く表示し、
輝度の違いは雲頂高度の違いであり、雲形判
定の情報になる。雲解析の中心となる画像。
※ 3 短波
地球を取り巻く偏西風は波数3∼8の波動の
形態をもって循環している。それらの波動に
は 1,000km 前後の小さい波長の波が重なるこ
とがあり、それが短波である。寿命は短いが
数値予報の外れの原因になることがあり、見
逃すことのできない重要な現象である。なお、
波長の長いものを長波とか超長波という。
低 気 圧 中 心 は 雲 渦 の 中 か
フックパターン(鉤
かぎ
状の雲)
の近傍にある。L1 は稚内の
西 の 雲 渦 に 対 応。L2 ∼ L4
はフックパターンに対応し、
可視・赤外画像の動画で判別。
短波※ 3
に伴う発達した積雲
や積乱雲域。低気圧家族の
雲に進入し、低気圧の再発
達や閉塞点低気圧の発生に
つながる役目を果たす。新
たな正の渦度と寒気を伴っ
ているからである。
主に上層雲が極側に高気圧
性曲率を持って膨らむ現象。
上 層 の 気 圧 の 尾 根 に 対 応
し、下層収束に対する上層
発散を示すもの。
強い寒気の氾濫域に発生。
12 月 28 日に北日本を通過
して暴風雪をもたらした低
気圧で、低気圧の墓場のベー
リング海へ向かっている。
221
4
5
OPN
O PN
OPN
OPN
A
B
3
21
4
53
低気圧家族 に
伴う雲システム
積乱雲
積   雲
雄 大 積 雲
積 乱 雲 薄い上層雲 積   雲   列
中 層 雲 筋 状 巻 雲
層 積 雲 濃密な上層雲
正渦度移流や
寒気移流に伴う
発達した積雲域
2
1
4
5
3
低気圧中心
低気圧の進行方向と速度
( )
ひまわり 赤外画像 2010年1月1日 10 時 30 分(JST)
JAMSTEC / Forecast Ocean Plus, Inc
2011 1
(℃)
▶ http://bit.ly/wmc2011
▶ http://bit.ly/wmc2011_real
→←
Satellite Image  JMA/JWA
U
V
(画像1) ひまわり 可視画像 2010年1月13日 12 時(JST) Satellite Image  JMA/JWA
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黒田 雄紀 気象予報士 、気象友の会々員
重要な現象であり、視覚的に収束が明瞭に理解され、
日本海特有の擾
じょうらん
乱であるからである。
 船の航跡には渦が発生するが、空気も同じ流体の性
質で、風が強まると山岳の風下では気圧が下がって反
時計回りの渦(メソ・スケールの低気圧)が発生し、航
跡の渦のように風下へ連なる。朝鮮半島の付け根にチャ
ンパイ山脈がある。北西の季節風が卓越すると、日本
海の等圧線は“くの字”のように凹み、気圧が低い状態
を示す。天気図(図 1)に付記したように、山岳を北と
南へ分流した季節風は、下流の低圧部で合流(強い収束)
し、反時計回りの渦性(低気圧性シアー)を持つ積乱雲
塊が次々と発生して連なり、風下へ移動する。それが“収
束雲”である。このことは、レーダーや雲画像の動画で
確認できる。収束線※1
に対し南側が強風のときに顕著
な収束雲が発生するが、低気圧性シアー(正の渦度)が
強まるからである。
画
像は 2010 年 1 月 13 日 12 時の“ひまわり”の
可視画像(画像1)で、北朝鮮沿岸から折れ曲がっ
て北陸へ侵入する雲 U - V(画像 1 を参照)が“収束雲”
である。発達した積雲や積乱雲から成り、鉤
かぎ
状や渦巻
状の形態を示す箇所が並び、これは小低気圧が鎖状に
連なるからである。“収束雲”付近の海上では吹雪いて
三角波などを伴う大シケになり、陸上では大雪が続い
て豪雪になる。
 1990 年 1 月のこと。日本海で 3 隻の外国船が次々
と遭難し、重油の流出など重大な海難事故が発生した。
“収束雲”に遭遇したからで、赴任先の担当海域内での
事故であった。このため、この件に関する気象・海象
などの調査を行い日本気象学会や海洋学会などで発表
したが、その題名は「日本海の収束雲と海難」である。
それから数年後のこと、気象界では“収束雲”と云う名
前の論争が起り、“帯状対流雲”と云う名に変更された。
雲は“収束”によって発生すると云う理由からである。
しかし筆者は“収束雲”の名を使い続けている。防災上
 1990 年に遭難した外国船長は、予想天気図で“くの
字型”の気圧配置(袋型気圧配置と言う)を見て、「季節
風は弱まる」と判断して出港したと供述。7000 トン級
もの船が操船不能となり沈没するような現象が存在す
るとは予想できなかったのである。
 レーダー・降水ナウキャスト(図 2)で、新潟県に進
入する長大な降水域が“収束雲”に伴う降雪域である。
この時の津南町の積雪は 1 m 75cm、16 日の朝には 3
m 24cm に達し、近くの十日町では 3 m 7cm を記録し
た。冬型が続き“収束雲”の侵入が続いたからである。
このように“世界有数の豪雪”をもたらす擾乱であるが、
“帯状対流雲”では、どこにでも発生する雲パターンで
あるためふさわしくない。防災的な見地から、気象庁
は適切な名を付けてほしいものである。画面のように
“明瞭な収束”を示すことから“収束雲”の名が適当と
思っている。
※ 1 収束線
大気の水平収束域が線状に連なる場合を収束線という。前線は大規模の収束
線である。富士山の風下に位置する関東南部では、小規模の収束線が多発し、
収束線を挟み気温や天気・風などが大きく異なるため、天気予報が難しくなる。
小規模の収束線は全国各地で発生し、“予報の外れ”で予報官や予報士たちを
泣かせる
4 4 4 4
現象である。
(画像2) ひまわり 赤外画像 2010年1月13日 12 時(JST)
2010年 1月 13日 12時
(図 1)2010 年 1 月 13 日 12 時の天気図
レーダー・降水ナウキャストとは…
 全国の気象レーダーの観測値を 5 分毎
に合成したデータと、気象レーダーに
よる降水強度分布と降水域の移動状況
を基に 60 分先までの 10 分間毎の雨量
を 1km 四方の領域毎に予測した降水ナ
ウキャストを連続的に表示しています。
新潟県に進入する長大な降水域
が“収束雲”に伴う降雪域である。
 
Satellite Image  JMA/JWA
All rights reserved. CopyrightAll rights reserved. Copyright © Japan Meterological Agency© Japan Meterological Agency
衛星画像の解説
画像左
2010 年 4 月 6 日に NASA のアクア(Aqua)衛星のモーディス(MODIS)
センサーが捉えた画像。アドリア海に流れ出した雪解け水が薄茶色の
帯となってイタリア東岸を南下する様子が鮮明に写し出されている。
画像右
2003 年 2 月 7 日に NASA のテラ(Terra)衛星のモーディス(MODIS)
センサーが捉えた画像。アペニン山脈は真っ白な雪で覆われている。
山岳部に積もる雪は白いダムとも言われ,貴重な水資源である。
2010年4月6日の NOAA海面水温画像
This image was captured by the MODIS on the Aqua satellite on April 6, 2010. February 7, 2003
MODIS Rapid Response Team, NASA/GSFC
MODIS Rapid Response Team, NASA/GSFC
ヨーロッパ地図
イタリア
クロアチア
Tomazic,I., http://sst.irb.hr, Satellite Oceanography Laboratory,
ZIMO, Rudjer Boskovic Institute, Zagreb, Croatia.
◀米国海洋大気庁(NOAA)海面水温画像
クロアチアのルジェル・ボスコヴィッチ研究所が解析した、2010 年 4 月
6 日のアドリア海の海面水温。
黄色から青色になるに従い、水温が 15 度から 11 度と低くなっている。
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Adriatic Sea
Tokyo Bay
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鈴木 靖
京都大学防災研究所 水資源環境研究センター 特定教授
イ
タリアとクロアチアに囲まれたアドリア海に
は、春になると山々からの雪解け水が流れ込
む。アルプス山脈から流れ出た雪解け水は、ロンバ
ルディア平原を潤しながら、ヴェネチア南部のポー
川からアドリア海へと流れ出る。また、イタリアの
東西を分けるアペニン山脈では、標高 2,912m の最
高峰コルノ山をはじめとする 2,000m 級の山々から
雪解け水がアドリア海へと流れ出ている。2010 年 4
月 6 日に NASA のアクア (Aqua) 衛星のモーディス
(MODIS) センサが捉えた画像には、アドリア海に流
れ出した雪解け水が薄茶色の帯となってイタリア東
岸を南下する様子が鮮明に写し出されている。アペ
ニン山脈から流れ出す幾筋もの河川は、2,000m の
標高差を海までの 100km 弱の距離で一気に流れ出す
ため、日本の河川と同様に急峻な流れとなって河口
から海へと流れ出す。流れ出た河川水は反時計回り
に循環し、アドリア海を南下する。米国海洋大気庁
(NOAA)画像の海面水温解析によると、この雪解け水
は周囲の海水よりも 2 度以上水温が低くなっている。
 雪解け水には土砂や栄
えい
養
よう
塩
えん
が豊富に含まれている
ために薄茶色をしているが、淡水は塩分濃度の高い
海水と混じりにくいことから帯状の流れとして南下
し、ガルガノ半島の先端まで達している。これを西
アドリア海流と称し、アドリア海に栄養塩を供給し、
豊富な漁業資源をもたらしている。そのため市場に
は様々な魚種が並んでいるそうである。アドリア海
の栄養塩の 50% はアルプスから流れ出るポー川か
ら供給されている。ガルガノ半島南部のプーリア地
方では、灼熱の太陽と豊かな海水から作り出したミ
ネラル豊富な天日塩が名産品となっている。
 1986 年 8 月 5 日、台風 10 号から変化した温帯
低気圧は関東・東北地方に大雨を降らせ、関東平野で
は小貝川決壊などの浸水災害を東日本各地にもたらし
た。仙台では総降水量が 400mm を超え、24 時間降
水量の最大値は仙台・福島・水戸・宇都宮などで現在
に至るもなおその記録が破られていない。台風 10 号
通過後の LANDSAT 画像には、荒川や多摩川から東
京湾に流れ込む濁
だく
水
すい
が鮮明に写し出されている。
 河川の恵みと災いは地球温暖化によってその姿を変
えつつある。河川流域と沿岸の水域環境や生活環境
への将来影響評価が重要な研究課題となっている。
【関連資料】
平成22年2月23日∼ 2月24日開催
「平成21年度京都大学防災研究所 研究発表講演会」資料
河川流出が東京湾の水域環境に及ぼす影響について
            (PDF ファイル / 115KB)
http://hes.dpri.kyoto-u.ac.jp/dpri201002-3.pdf
データ受信:宇宙航空研究開発機構
◀▶ LANDSAT- 5
衛星の画像範囲(左
図)と、台風 8610
号通過後の 1986 年
8 月 6 日の東京湾の
画像(右画像)
ひまわり 可視画像 2010年3月21日12時(JST)
⇩
Satellite Image  JMA/JWA
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4APRILAPRIL 2011
World
Meteorological
Calendar
302928272625242322212019181716151413121110987654321
黒田 雄紀  気象予報士、気象友の会々員
2
010 年 3 月 21 日、寒冷前線が日本列島を縦
断し、全国的に冷たい空気に入れ替わった。
通常は澄んだ爽やかな空になるのだが、この日の
日本列島の上空は黄色く濁り、全国各地の気象台
は黄砂を観測した。自動車の屋根や水面に浮いた
砂などで黄砂を確認したからである。大阪や仙台、
沖縄などでは、視界が一時 1.5 ∼ 3.0 kmまで下
がって天空不明の状態になり、雲の観測が出来な
い状態にまで濁った。
 画像は当日正午の“ひまわり”の可視画像である。
東シナ海から本州の南岸沖にかけての“ぼやけた
領域”が黄砂であるが、寒冷前線の後面に分布し
ている。天気図解析によると、2 日前にゴビ砂漠
で発生した砂塵嵐※1
によって舞い上がった黄砂が、
偏西風に乗って飛来したものと推定される。
 黄砂のルーツを知る手段として地上天気図
(ASAS)で砂塵嵐の観測事実を探す方法がある。
図 1 は黄砂が飛来した 2 日前の ASAS の抜粋で、
モンゴルのウムヌゴビ県の県庁所在地であるゴビ
砂漠の町ダルンザドガドでは、北西の強風(  )、
砂塵嵐(  )、天空不明(  )、積乱雲(  )など
を観測していた。また当日の高層天気図を見る
と、この頃に寒気を伴う上層トラフ(気圧の谷)
が通過していた。
 ところで砂塵嵐の前面は、激しく舞い上がった
砂が巾広くそそり立ち、積乱雲を伴うことがある
という。即ち、ダルンザドガドでは積乱雲を観測
していたが、上空に寒気を伴うトラフの通過で強
いダウンバースト※ 2
が発生し、砂塵嵐を誘発した
のではないかと推定される。
 黄砂の発生源に近い中国では、黄砂を雨
う ど
土など
と呼び線路が埋まるほど降るらしい。粒子の大き
な黄砂が大量に降るからであろう。日本へ飛来す
る黄砂は粒子が小さく、上空を素通りすることも
あり、寒冷前線後面のような下降気流の領域で黄
砂が降る。丸印 (衛星画像の解説図参照)に絶海
の孤島“南
みなみだいとうじま
大東島”があり、気象台の観測記録を見
ると、この日の 09 時 40 分に寒冷前線が通過し、
同時に黄砂の観測が始まっている。下降気流場に
入って黄砂が降ってきたのである。なお矢印 ➡(衛
図 1 砂塵嵐発生時の気圧配置と実況
ASAS JMH
190600UTC MAR.2010
SURFACE ANALYSIS
北西の強風
砂塵嵐
天空
不明
積乱雲
星画像の解説図参照)は“ロープクラウド”で、寒
冷前線に対応する弱い積雲列である。春の風物詩
から嫌われ者となった黄砂、気象庁ではその“実
況図や予想図”を作成し防災に努めている。
 本題と関係しないが、この日の朝から鹿
か し ま な だ
島灘に
は波状雲 ⇨(画像を参照)がある。乱気流を伴う
ため航空機にとって警戒すべき現象である。
図 2 黄砂観測実況図(2010 年 3 月 21 日)
※1 砂塵嵐
突風を伴う強風により砂
などが空高く激しく舞い
上がる現象で、日本で見
られる風塵や塵旋風より
は大規模な現象。
※2 ダウンバースト
積乱雲内にある強い下降
気流が地面付近で叩きつ
けられるように発散し、激
しい突風をもたらす現象。
2010年 3月 21日 12時
2010年3月21日12 時の天気図
ひまわり 可視画像 2010年3月21日12時(JST)
Satellite Image  JMA/JWA
All rights reserved. CopyrightAll rights reserved. Copyright © Japan Meterological Agency© Japan Meterological Agency
Gobi Desert
NASA/ISS/Earth Observatory
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5MAYMAY 2011
World
Meteorological
Calendar
31302928272625242322212019181716151413121110987654321
Matua
吉永 順一
東京都立井草高校 非常勤教員
NHK 教育 高校講座「理科総合 B」講師
 このプル−ム(噴煙柱)の下方に松輪島が見える。サ
リチェフ火山の火口から東へ白い火砕流が、西∼北へ
茶褐色の噴煙と火砕流が山体を覆っているのも見える。
 火山が噴火すると、大気中に火山灰や水蒸気、二酸
化炭素、二酸化硫黄などが放出される。火山灰などは
雨や雪によって比較的短時間で大気から除去される
が、二酸化硫黄は水蒸気と反応して硫
りゅうさん
酸エアロゾル(大
気中に浮遊する微粒子)となって成層圏に数ヶ月∼数
年という長い時間滞留する。これは太陽光を遮
さえぎ
り気温
を下げる日傘効果と、地表からの赤外線放射を吸収し
気温を上げる温室効果の二つの作用を持っている。し
かし、地表に届く日射量の多少が先ず地球の気温を決
 ポッカリ空いた穴から噴き出てくるキノコ雲。これ
は ISS ※1
の若田光一宇宙飛行士が撮影したサリチェフ
山の噴火である。この円い穴はどうしてできたのだろう。
当初は噴火の衝撃波によるものとされた。その後、島な
どの風下に現れるカルマン渦※2
との説がだされ、実際千
島列島上空に渦の列が当日確認されている。他にも急激
な上昇流には、周囲に下降気流を伴うので雲が消えると
の説明もある。
 ところでキノコ雲の丸い頂部は、噴煙の急激な上昇
と膨張を物語っている。頂部の真白な雲は頭巾雲とよ
ばれるもので、激しく上昇したため上空の水蒸気が凝
縮してできたもの。 更に上昇したため、頭巾雲が頂部
と下の帯状の二つに分裂してしまった。
めるので、日傘効果の方がより重大な影響を与える。
 図①は、6月10 日∼17 日のサリチェフ火山から噴出さ
れた硫酸エアロゾルの雲の分布である。ロシアからアラスカ
付近まで広がっているのがわかる。これは 2009 年これま
での最高の値であるが、気温への影響は明らかではない。
 今回のサリチェフ火山の火山爆発指数※ 3
(VEI)は4
であったが、1991 年 6 月に噴火したフィリピンのピ
ナツボ火山(VEI6)では、成層圏に 1500 万トンもの
二酸化硫黄を注入したことが測定された(図②)。その
結果 1992 年∼ 1993 年にかけて 0.6℃の気温低下が
観測されている(図③)  
 しかし気候変化は火山活動以外にも、エルニーニョ
や太陽活動・人間活動など幾つもの原因があるので注
意する必要がある。
[DU](Dobson Unit:ドブソン単位)
大気圏の上端から地表までの空気柱に含ま
れている二酸化硫黄量を0℃、1気圧とし
た場合の厚さのこと。1DU は 0.01mm の
厚さで1m3に 0.0285 gの二酸化硫黄を含
んでいる。
NASA・Aura 衛星(2004 年打上)の OMI
(オゾン測定装置:煙、塵、硫酸塩の区
別もできる。)が観測した硫酸エアロゾ
ルの雲の分布。当時、発達した低気圧の
影響で、北西方向と南東方向に分布した。
※
北緯 30°∼ 40°緯度帯での硫酸エアロゾ
ルと平均気温の変化。橙色線は 1982 年
1 月∼ 1990 年 12 月の各月平均値との
気温差。赤色線は短期変動成分を取り除
いたもの。硫酸エアロゾルは、ピナツボ火
山噴火直後から急激に増加して、1991 年
12 月から 1992 年 1 月ころにかけて最大
値に達し、その後、時間と共に減少した。
一方、平均気温は噴火後 1 年目と 2 年目
の夏に大きく下がった(約−0.6℃)。
NASA,Goddard Institute for Space Studies
1
0.5
0
-0.5
-1
2
1.5
1
0.5
0
-0.5
-1
100 150 200500
時間(月)
気温偏差(℃)
硫酸エアロゾル密度(μg/m3)
NASAの地球放射測定衛星のSAGEⅡ
(Stratospheric Aerosol and Gas
Experiment:成層圏エアロゾル・オゾ
ン・二酸化窒素・水蒸気の観測装置)が
観測した 91 年 6 月 15 日∼ 6 月 25 日
の成層圏エアロゾルの濃度分布。青色部
は通常の観測値で赤色部は最も濃度の
高いことを示し、爆発以前に比し 10 倍
から 100 倍に達し、これが 2 年間ほど
続いた。
NASA Langley Research Center Aerosol Research Branch
91-June-15 to 91-July-25
<10-3
10-2
>10-1
NASA,Earth Observatory,Natural Hazards
0.5 0.9 1.4 1.8 2.3 2.8 3.2 3.6 4.1 4.5 5.0
SO2 column [DU]※
    硫酸エアロゾル    1982年1月∼ 1990年12 月の各月平均値との気温差
    短期変動成分を取り除いたもの
ピナツボ
火山噴火
JAMSTEC / Forecast Ocean Plus, Inc
2011 5
(℃)
▶ http://bit.ly/wmc2011
▶ http://bit.ly/wmc2011_real
2009.06.12
※1 ISS(International Space Station)… 国際宇宙ステーション
※2 カルマン渦…孤立した山や島などの風下に現れる特別な並び方をし
た2本の渦の列。強風時に電線が唸るのもこの例
※3 火山爆発指数(Volcanic Explosive Index)… 火山噴出物の体積に基
づいて0∼8までの数値で分類される。米国セント・へレンズ火山
(1980 年)の VEI は5(M が1違うと 10 倍のエネルギーの違いに
相当する)
(画像) ひまわり 可視画像 2010年2月25日 09時(JST) Satellite Image  JMA/JWA
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6JUNEJUNE 2011
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黒田 雄紀 気象予報士、気象友の会々員
の雲の中にいる人には霧になる。
 霧を構成する雲粒は、空気の冷却による凝
ぎょうけつ
結(水蒸気から水への相
変化)により発生するが、冷却の原因のちがいにより次のように分類され
ている。移流霧、放射霧、混合霧、逆転霧、蒸発霧、前線霧、滑
かっしょう
昇霧
があり、発生場所によって海霧、川霧、盆地霧、都市霧などの呼び名
がある。今回の羽田空港のダイヤを混乱させた霧は房総半島越えの移
流霧で、珍しく冬季に発生したものであった。
 移流霧とは、湿った相対的に暖かい空気が、冷たい地面や海面上
を移動するとき、下面からの冷却による凝結で発生した霧である。
春先から梅雨期にかけ日本周辺の海洋で発生する霧の大部分は移流
霧で、連日にわたって陸上へ侵入すると、低温と日照不足で凶作の
原因になる。
 図①は東京湾(羽田空港)へ進入した移流霧の摸式図である。天気
霧
は、映画や演歌など哀愁を感じさせる場面によく用いられ、天
気図の中では穏やかな気圧配置の中での発生が多い。しかし予
報官や気象予報士が霧の発生を予知すると、直ちに交通機関に通知し
て防災に努める。かつてのタイタニック号(死者 1500 人以上)や宇
う
高
こう
連絡船紫
し
雲
うん
丸
まる
(死者 168 人)の衝突沈没事故は何れも霧(移流霧)
の中で発生した。このように霧による視
し
程
てい
障害は、レーダーなどが進
歩した現代においても大事故につながるため、気象庁や気象会社では
霧の発生を見逃さないよう衛星画像などで常時監視している。
 画像は 2010 年 2 月 25 日 09 時の“ひまわり”の可視画像である。
霧特有の様相“滑らかで縁が切れた雲”(移流霧)が三陸沖から鹿
か
島
しま
灘
なだ
・
房総半島を経て東京湾へ侵入している。羽田空港では早朝から霧のた
め 173 便が発着不能になり、ダイヤは夕方まで乱れて 2 万 7 千人に
影響した。
 霧は、基本的には雲と同じで、雲の下部が地面に接している現象で
ある。例えば雲が山にかかるとき、山
さんろく
麓から見る人には雲であり、山
図(図②)では移動性高気圧が三陸沖にあり、中心付近の空気は、沈
降により乾燥して昇温し時計回りに発散する。暖かい黒潮上を吹走し
て水蒸気と熱の補給を受け暖湿な空気に変化する(気
き
団
だん
変
へん
質
しつ
)。続い
て冷たい親潮上の吹走で凝結が起こって霧が発生し、房総半島を超え
て東京湾へ進入している。典型的な移流霧である。
 図①の左側に高層観測(つくば市)の下層部分を付加した。逆転層
が高度約 350 m付近にあり、その下方は飽和状態で移流霧の存在を
示し、霧の上面は逆転層で抑えられて、画面のように滑らかで、他の
雲との違いが分る。この霧は、太陽の上昇による昇温で逆転層が破壊
された昼頃に消散した。この日は、移流霧の多発海域である北海道の
太平洋側の沖合にも発生し、内陸へ進入している。
 本題と関係ないが、山岳の積雪(富士山、赤
あか
石
いし
、木曽、飛騨、越後、
日高などの山脈)が写っている。
-15
0
0.5
1.0
-10 -5 0 5
いろいろな霧の解説
放射霧 … 放射冷却によって、地面や地表面付近の空気の冷却で発生する霧。
盆地霧はその例である。
混合霧 … 気温の違うふたつの湿った空
くう
気
き
塊
かい
の混合で発生する霧。
逆転霧 … 気温の逆転層の下にある層雲などの雲底が下がって地表に達した霧。
蒸発霧 … 冷たい安定した空気塊が暖かい水面に移動し、蒸発による水蒸気
の補給で飽和して発生する霧。
前線雲 … 前線に伴う降水によって大気が湿
しつじゅん
潤になった時に発生する霧
滑昇霧 … 湿った空気が山の斜面を昇るとき、空気塊の膨張による断熱冷却
で発生する霧。雨上がりの山地でよく発生する。
図② 2010 年 2 月 25 日 9 時 の 天気図
クロロフィルaの濃度(mgm-3
)
高
低
47
46
45
44
43
42
41
40
39
38
37
36
35
34
33
32
31
30
135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150
表面水温(℃)
高
低
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©宇宙航空研究開発機構(JAXA)
センサ OCTS では海面の水温とクロロフィルの分布を同時に計測することが出来る。水温画像(左)からは、本州南方の黒潮域に相当する高温の水域と、千島列島から北海道東方にかけた親潮域に相当する低温水域を見ることができる。三陸沖では親潮と黒潮が出会い水温前線を形成している。また前線から切り離された暖水塊がえりも岬南方に見える。クロロフィル画像(右)からは黒
潮域で低濃度、親潮域で高濃度であることが判る。暖水塊東方の親潮第二分枝における高濃度域は植物プランクトンのブルーミングによって生じている。水温画像は海面からの赤外放射を測っているので海面極表層の情報を与えるのに対して、海色画像は海水中から出てくる可視光を測っているので、海面下の情報も含んでいる。このため、より細かな海水の流動のパターンが見えている。
©宇宙航空研究開発機構(JAXA)
1977 4 26 a ※1 ( Chlorophyll-a concentration )1977 4 26 ( Sea surface temperature )
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7JULYJULY 2011
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才野 敏郎
独立行政法人 海洋研究開発機構 地球環境変動領域 物質循環研究プログラム プログラムディレクター、名古屋大学 名誉教授
徴である。また、この海表面近くの食物網の中では、動物プランク
トンが糞を作ったり、小さな生物が凝
ぎょうしゅうたい
集体を作ったりして、有機物
の一部が深層に沈
ちんこう
降除去される。
 炭素循環の観点からは、海洋表層付近の植物プランクトンが光合
成をすることによって海水中の二酸化炭素濃度を下げて大気から
海水中に溶けやすくする働きと、光合成の結果出来た植物プランク
トン自体が動物プランクトン等の働きによって有機物の沈降粒子
等として深層に運ばれて、そこで分解、無機化して二酸化炭素とし
て再生する働きを合わせた一連の過程により、大気中の二酸化炭素
が深層海水中に運ばれる過程を生物ポンプと言う。一般に海洋では
表層付近の温かい海水が深層の冷たくて重い海水の上に重なった
成層構造を持っているが、この構造の中で生物ポンプが働くことに
より、生物体を構成する炭素や窒素、りん等のいわゆる栄養塩類の
濃度は海洋表層で低く、深層で高い分布を示す。
地
球表
ひょうそう
層環境は気圏、水圏、陸圏、生命圏の 4 つの要素の間
を水と物質が循環することによって形づくられている。その
中で生命圏の一部を占める人間の活動が産業革命以降急激に増大
し、従来の水と物質の循環に乱れが生じて現在の地球環境問題とし
て顕在化している。地球表層環境において生物は水と物質の循環の
接点に位置しており、その活動が環境にどのように応答し、また環
境にどのようなフィードバックを及ぼすかを知ることが、現在変化
しつつある地球環境を予測し対処するために緊急に求められている。
 地球上の生物の活動を支えるのは、陸や海の表層で植物が行う
光合成によって生成される有機物としてのエネルギー、及びそれを
呼吸によって利用するための酸素の供給である。陸の植物は草や木
として目に見える形で存在する場合が多いのに対して、海の植物は
プランクトンとして肉眼では見えない小さな形で存在する。海では
植物プランクトンが小さいために、それを食べる動物プランクトン
も小さいものが多い。生物個体のサイズが小さいために海の食物網
では陸に比べて生物による物質の代謝が極めて速く起こるのが特
 海洋の表層付近(下図:太陽の光が照らしている部分)での植物プラ
ントンの生育には光とともに栄
えいようえんるい
養塩類が必要であるが、光は海の表層か
らしか供給されないので、何らかの原因によって海洋表層に栄養塩類が
供給されたときに植物プランクトンは急速に増殖し、いわゆるブルーム
(開花、大増殖)を形成する。このようなブルームを示す植物プランクト
ン群集の一部はいずれ深層に沈降して、生物ポンプによる二酸化炭素の
吸収を担っている。地球規模での炭素循環を明らかにするためには、こ
のようなブルームに
よる生物ポンプの
効果を定量的に明ら
かにする必要がある
が、通常の海洋観
測で検出することは
困難であり、衛星観
測に大きな期待が寄
せられている。
海水中を沈降する粒子状物質を捕集するためのセジメ
ントトラップ。逆円錐形の捕集コーンの下部にターン
テーブルに乗った捕集容器を取り付け、これを回転さ
せることによってあらかじめ設定された期間の沈降粒
子を捕集することが出来る。北海道大学おしょろ丸に
より設置し、東京大学淡青丸にて回収した。
三陸沖に設置したセジメントトラップで計測した沈降
粒子の物質フラックス。単位は一日、1m2 の面積を
通過する沈降粒子の乾燥重量。黒色は 450 m深度、白
色は 600 m深度での物質フラックスを示す。
 植物プランクトンは光合成をするための
色素(クロロフィル a※1
等)素を持っている
ため、海の色(太陽光が海中に入り、海中で
散乱や吸収を受けたのち海から出てくる光
のスペクトル)は、植物プランクトンの存在
量によって変化する。内湾の海面が茶褐色
から緑色、外洋で緑色から青色に見えるのは
このためである。この原理を利用して、海の
色を人工衛星から眺めることによってクロロ
フィル a の濃度を求めることが出来る。
 画像は我が国の人工衛星 ADEOS―I ※2
に
搭載されたセンサ OCTS によって観測さ
れた、1977 年 4 月 26 日の三陸沖海域の
クロロフィル a の分布(画像②)と、表面
水温の分布(画像①)である。一般的にク
ロロフィル a 濃度は、高水温域で低く、低
水温域で高い。三陸沖の暖
だんすいかい
水塊の東方の親
潮第二分枝に植物プランクトンの顕著なブ
ルームが見られる。当時実施した ADEOS
フィールドキャンペーンにおいて 1997 年
4 月 6 日から 5 月 1 日まで北緯 40 度、東
経 143 度にセジメントトラップを設置し
(図①)、沈降粒子を集めたところ、4 月
26 日から 28 日までの 3 日間で全実験期
間中の 85% の粒子フラックスが集まった
(図②)。この内容は珪
けいそうるい
藻類の栄養細胞及び
休
きゅうみんほうし
眠胞子が主体で、4 月 18 日まで襟
えりもみさき
裳岬
南西沖に存在したブルームに由来すると推
測された。
※ 1 クロロフィル a
すべての植物に含まれる光合成に関与する色素。葉緑素ともいう。水域ではその濃度が植物プラン
クトンの量を示すので、生物活動の指標として用いられる。ただし、クロロフィル a の濃度は植物
プランクトンによる生産と、動物プランクトンなどの捕食者による消費のバランスで決まるので注
意が必要。生産が消費を上回る条件が成立するとブルームが起こりクロロフィル a の集積として検
知される。
※ 2 ADEOS − 1
地球観測プラットフォーム技術衛星「みどり」(ADEOS)。1996 年 8 月 17 日種子島宇宙センター
から打ち上げられ、1997 年 6 月 30 日まで運用された。地球の温暖化、オゾン層の破壊、熱帯雨林
の減少、異常気象の発生等の環境変化に対応した全地球規模の観測データを取得し、国際協力によ
る地球環境監視に役立てるとともに次世代観測システムに必要なミッションレコーダーによるデー
タ収集、プラットフォーム・バス技術、軌道間データ中継技術等の開発を行うことを目的とした衛星。
06-04-1997
08-04-1997
10-04-1997
12-04-1997
14-04-1997
16-04-1997
18-04-1997
20-04-1997
22-04-1997
24-04-1997
26-04-1997
27-04-1997
29-04-1997
01-05-1997
02-05-1997
03-05-1997
04-05-1997
05-05-1997
06-05-1997
07-05-1997
08-05-1997
捕集開始年月日〔 Date of cup rotation [ d-m-y ] 〕
物質フラックス〔Massflux(gm-2day-1)〕
450m
600m
CO2
CO2CO2
2009. 08. 16 1973
2003. 06. 12
MODIS Rapid Response Team,NASA/GSFC
MODIS Rapid Response Team,NASA/GSFC
世界航空地形図 (JNC)
Earthshots: Satellite Images of Environmental Change,U.S.G.S.
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8AUGUSTAUGUST 2011
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Aral Sea
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水樹 大地
衛星情報利用ファシリテータ
中
央アジア、カスピ海の東部にに位置するアラル海は、かつては世界で
4 番目に大きな面積の湖であった。北はカザフスタン、南はウズベキ
スタンにまたがり、湖に注ぐ2つの主要河川アムダリア川、シルダリア川の
源流は、遠くアフガニスタン、パキスタンや中国と接するパミール高原である。
 1960 年ごろに約 68 万 km2
あった湖の面積は、急激に減少、塩分濃度が
上昇し、干上がった大量の塩類が周辺地域に飛散し塩害をもたらし、アラル
海周辺の環境・生態系、住民の健康に深刻な被害を与えている。アラル海の
縮小の最大の原因は、旧ソ連が実施した灌
かんがい
漑計画である。アムダリア川とシ
ルダリア川からの水を綿花栽培等の灌漑用水に利用したため、アラル海に流
れるこむ水の量は激減してしまったのである。
 アムダリア川下流部には河川の営力によるデルタが形成され、古代より人々
はデルタ周辺や湖の岸辺に移り住んでいた。農耕の発達とともに、水路が開
かれ灌漑される畑地の面積も広くなっていったが、この時代の人間活動は、
アラル海の縮小に影響を与えない程度であった。しかし、急激に縮小してい
るアラル海は、ここ半世紀の人間活動の結果として起こっているものであり、
60 年代以降から打ち上げられた様々な地球観測衛星画像が、アラル海の縮小
の変遷、消滅への過程を鮮明に映し出している!
衛星画像の解説
A
B
C
 1973年に観測した画像Bでは、アラル海の中央に
2つの島を確認できる。南側の島はバズラジジェー
ニャ島(右の地図:赤点線内)と呼ばれており、旧
ソ連の時代には生物兵器の実験用の島として利用さ
れていた(右の地図は、同時期頃に作製された世
界航空地形図)。モスクワより遠く離れた乾燥・半乾
燥地域にあるアラル海、その中央にあり、孤島で地
理的に隔離された場所であった。そのため、病原菌が
動物や昆虫によって近隣地帯へ感染することを避け
ることができる実験場として使われていたのである。
 1960 年代当初の島の面積は 200km2
であったが、アラル海の水が減少した
結果、1990年までには 2,000km2
に拡がり、その後も南北方向に拡がり、2001
年6月頃には、南側ウズベキスタンの湖岸と繋がってしまう状況になり、もはや
隔離された安全な島としての地理的な利点が無くなってしまったのである。
世界航空地形図 1:200 万(1973 年作製)
JAMSTEC / Forecast Ocean Plus, Inc
2011 8
(℃)
▶ http://bit.ly/wmc2011
▶ http://bit.ly/wmc2011_real
画像 B
1973 年に米国の地球観測衛星ランドサット− 5
号搭載のセンサ MSS が観測したアラル海のモザ
イク画像である。アムダリア川からアラル海に
流れ込む河川水が確認できる。
(注:1960 年代には、米国の偵察衛星 CORONA
が撮影している。)
画像 A
2009年8月16日に地球観測衛星テラ搭載のセン
サ MODIS(モーディス)が観測した画像。湖は北
部の小さな小アラル海と南部の大アラル海に分か
れ、更に南部の大アラル海は、中央に突き出した島
が南北で湖岸と接合したことによって東西に分かれ、
南北に細長い西アラル海が最後の姿として映し出さ
れている。黒の輪郭は、1960 年代の湖岸線である。
画像 C
2003 年 6 月 12 日の地球観測衛星テラ搭載のセ
ンサ MODIS(モーディス)が観測したデータを
世界航空地形図(JNC)の上にオーバーレイして
作成したカラー合成画像である。濃紺の部分は
水面域、水色の部分は水深が浅い地域、湖の東
側に分布する薄い水色の部分は、既に干しあがっ
た地域である。
画像提供:独立行政法人 海洋研究開発機構(4 点とも)
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高橋 桂子
独立行政法人 海洋研究開発機構 地球シミュレータセンター シミュレーション高度化研究開発プログラム プログラムディレクター
果で、日本領域の雲と海洋表面の様子を示している。
 この予測シミュレーションは、全球(水平解像度
11km、上層 40km までを鉛直 32 層)と日本領域(水
平解像度 2.78km、鉛直方向は全球と同様に設定)を同
時にシミュレーションし、5 日間(120 時間)先まで
のを予測した結果の一部である。予測シミュレーショ
ンは、約 50 億点メッシュ上の計算を、地球シミュレー
タの約 3 分の1の計算資源を使用して、5 ∼ 6 時間で
5 日先までの結果を得ることが可能である。
 4 枚の画像はともに、大気は雲の様子、海洋は表面
(深さ 5 m)の温度を、異なる色調で表現している。左
側の画像 A,C においては、沖縄上空にさしかかった台
風の雲は、渦巻状のレインバンドと言われる強い雨を
もたらす帯状の雲の特徴をよく再現している。シミュ
レーションの結果においても、その直下において、非
常に強い雨(30 ∼ 50mm/h)が再現されている。
2
003 年の台風 10 号は、日本を縦断したとても強
い台風であった。台風の強度は、風の強さや降雨
量で測られるが、大気と海洋の相互作用が台風の発達
の仕方や強度に大きな影響を与える。
 独立行政法人 海洋研究開発機構 地球シミュレータ
センターでは、スーパーコンピュータ、地球シミュレー
タの能力を最大限に活用し、精度よく気象や気候変動
を予測可能とするシミュレーションコード Multi-Scale
Simulator for the Geoenvironment(MSSG)を開発し
ている。
 このコードは、大気と海洋、陸面、海氷などの地球
システムを構成する各要素の相互関係を取り入れて設
計されており、全球から都市スケールまでの気象や気
候変動をシームレスに予測することが可能である。こ
こに示す 4 枚の画像は、いずれも MSSG を使用して、
2003 年の台風 10 号を予測シミュレーションした結
 また、海洋表面の海水の温度分布は、台風の目の周
辺から東側かけての強風域においては、蒸発を通して
海水の熱エネルギーを奪い、また、強風によって海水
が撹拌され、より深い、温度の低い海水が海の表面に
上昇することで、表面の海水温が約 5 ∼ 6 度低くなる
様子が再現されている。右側の画像 B,D は、黒潮が温
かい潮流であり、銚子域で離岸する様子がよく再現さ
れているとともに、台風の影響が日本の海上全般にお
よぶ広い範囲にわたっていることがわかる。
 温暖化による気候変化や、エルニーニョ、インド洋
ダイポール現象などの気候変動によって影響を受けた
大気と海洋の状態の変化が、台風の発生や発達および
強度にどのように影響を与えるのか、MSSG による予
測シミュレーションが、将来の台風を予測するための
強力なツールとなることが期待できる。 画像提供:独立行政法人 海洋研究開発機構
シミュレーション 画像の解説
A B
DC
独立行政法人 海洋研究開発機構が保有する地球シミュ
レータは 160 台の計算ノードを Fat-tree ネットワーク
で結合した分散メモリ型並列計算機で、ピーク性能
131TFLOPS の高い演算性能を誇るスーパーコンピュータ
である。
地球温暖化などの気候変化や地球規模の気候変動予測、
地震等の被害予測、また、産業界における新たな製品の
設計や安全性の検証など幅広い分野で活用されている。
 ● 地球シミュレータセンター
   http://www.jamstec.go.jp/esc/
画像 A,B
海の色は温度を表している。
強風で海表面がかき混ぜら
れ温度が下がっている様子
がわかる。
画像 C,D
海の色は表面温度を表して
いる。
黒潮、台風によってかき混
ぜられている部分が変化率
が大きくなっている。
海表面水温
温← →冷
2003 年台風 10 号が沖縄上空
を通過する様子。日本列島全景
(B , D)と 沖 縄 上 空(A , C)の
シミュレーション画像
海表面水温
温← →冷
※画像ABCDともに、筋状の黒線は、水深 50m の流れ場の様子を流線として表している。
→
(画像1) ひまわり 可視画像 2009 年5月29日 12 時(JST)
(画像2) ひまわり 水蒸気画像 2009 年5月29日 12 時(JST)
Satellite Image  JMA/JWA
Satellite Image  JMA/JWA
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2009年 5月 29日12時
黒田 雄紀
気象予報士、気象友の会々員
て干ばつ、長雨、冷夏、猛暑、豪雪、熱波、寒波などの異常気象が発生
し災害が起こる。
 図1は偏西風の流れの基本型の摸式図である。通常は東西流型と南北流型
とが数週間の周期で繰り返されるが、ある日突然に南北流型が異常発達して
ブロッキング型へ移行することがある。ブロッキングは数種類の型があり、
発生要因などについて世界の気象学者は解明に取り組んできたが、まだ完全
には解明されておらず、多岐の要素が複雑に関係する難しい現象である。
 偏西風の大蛇行で上空の寒気が南下し、四国沖に切離低気圧が形成さ
れた。一方、暖気も北上し、オホーツク海に気圧の尾根が形成されたが、
切離高気圧までには発達できず、ブロッキング型は数日で解消した。こ
のため関東などの肌寒い悪天は 6 日間で終了したが、更に長引くと低温
と日照不足で農作物などへの影響が出てくるため、期間の短いブロッキ
ング型でも警戒すべき現象である。
 なお、水蒸気画像では、雲の無い所でも水蒸気は分布し、種々のパター
ンから偏西風の流れなどが把握され有用である。梅雨前線東方の暗域は
太平洋高気圧(亜熱帯高気圧)内の沈降に伴う乾燥域に対応している。
※1 切離低気圧
偏西風波動の振幅が大きくなり、上空の寒気が南下して偏西風の本流から切り離された上層の
寒冷低気圧のこと。
※ 2 切離高気圧
切離低気圧に対応するもので、暖気が北上して高緯度に形成される温暖な上層の高気圧のこと。
※ 3 水蒸気画像
大気の中層から上層にかけての水蒸気の放射を観測し、雲の無いところを含め、広域の大気
の流れが可視化され、雲解析を行う上で有用である。
2
009 年 5 月下旬の頃、本州の太平洋側では肌寒い東よりの風が吹い
て悪天が 6 日間続き、顕著な“走り梅雨”になった。天気図には四国
沖に切
せつ
離
り
低気圧※ 1
が停滞し、梅雨前線が南北に立つ状態で小笠原諸島付
近にある珍しい気圧配置になっていた。これは偏西風の流れが南北に大き
く蛇行し、オホーツク海に気圧の尾根を形成して四国沖に上空の寒気を閉
じ込めたからである。
 画像は、2009 年 5 月 29 日 12 時の“ひまわり”の北半球画像で、上から
可視・水蒸気・赤外の画像で写り方の違いに注目されたい。水蒸気画像※ 3
に付した矢印は当日の偏西風であるが、その流れはブロッキング型(図 1
を参照)になっていた。
 
 偏西風の流れが南北に大きく蛇行すると、暖気が高緯度へ運ばれて暖か
い切離高気圧※ 2
が形成される。一方、寒気の南下で中緯度に切離低気圧
が形成され、それぞれが停滞することになる。これがブロッキング型で通
常数週間以上持続する。この型になると頭上の偏西風は同じ方向へ流れ、
その地域は同じ天気が数週間以上続くことになる。このため地域によっ
(画像3) ひまわり 赤外画像 2009 年5月29日 12 時(JST)
2009 年 5 月 29 日 12 時 の 天気図
赤 道 赤 道 赤 道
偏西風
暖気
寒気
暖気
寒気 寒気
通常の偏西風の流れ
(天候は周期変化)
偏西風は大きく南北に分流、H・L停滞
(同じ天候が続き異常気象発生)
異常発達
4
∼
6
週
間
の
周
期
変
化
暖気
寒気寒気
東 西 流 型 南 北 流 型 ブロッキング 型
:温暖な切離高気圧
:寒冷な切離低気圧
Satellite Image  JMA/JWA
NASA image courtesy MODIS Rapid Response TeamNASA image courtesy MODIS Rapid Response Team
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JAMSTEC / Forecast Ocean Plus, Inc
2011 1 1
(℃)
▶ http://bit.ly/wmc2011
▶ http://bit.ly/wmc2011_real
山形 俊男
独立行政法人 海洋研究開発機構アプリケーションラボ ヘッド、
東京大学大学院理学系研究科長 理学部長
ことが多い。北アメリカ大陸の西部ではエルニー
ニョ現象が起きると降水量が増えるが、エルニー
ニョモドキの時には乾燥気味になる。1994 年の
夏はインド洋に正のダイポールモード現象、太平
洋にエルニーニョモドキが出現し、日本周辺は記
録的な猛暑になった。
 2004 年の猛暑もエルニーニョモドキが関係し
ている。2005 年∼ 2006 年の冬には日本海側
で大雪があり平成 18 年豪雪と名付けられている
が、これはラニーニャ現象とエルニーニョモドキ
によるようだ。2009 年∼ 2010 年の冬には朝鮮
半島(画像左)や北米東部(画像右)などで記録的
な降雪があったが、これはエルニーニョモドキに
伴って偏西風が蛇行し、極域の寒気が流入したた
めと考えられている。
ルニーニョ現象は熱帯域の東太平洋から
ペルー沖にかけて海面水温が上昇する現
象であるが、近年、日付変更線付近の中央部太平
洋で海面水温が上昇し、それを東西に挟む東太平
洋と西太平洋で海面水温が下がる奇妙な現象がよ
く現れるようになってきた。この海洋現象に呼応
して、熱帯対流圏の大気循環(ウォーカー循環※ 1
)
は中央部太平洋で上昇し、その東側と西側で下
降する傾向になる。この気圧分布の異常は世界
各地に伝播し、異常気象を引き起こす。エルニー
ニョモドキが世界各地の気象に与える影響はエ
ルニーニョ現象によるものとかなり違っている
ため、エルニーニョ現象に似て非なる現象という
意味でエルニーニョモドキ(あるいは日付変更線
エルニーニョ)と呼ばれている。
 たとえば、エルニーニョ現象は極東アジア地域
に冷夏、暖冬をもたらすことが分かっているが、
エルニーニョモドキの時には猛暑、厳冬になる
 なぜ、エルニーニョモドキが頻発するように
なったのだろうか。これは地球温暖化に伴って、
世界の海、特に熱帯の海が温暖化していることに
関係している。最近の 50 年程の間に世界の海の
水温は 0.04℃上昇したという報告がある。これ
は対流圏下層の気温に換算すると 40℃もの上昇
に匹敵する。地球温暖化に伴う熱は海氷などを溶
かすだけでなく、海水を温め、既に地球の気候を
変え始めているといえるのではないか。エルニー
ニョモドキ、エルニーニョ現象、ダイポールモー
ド現象などの気候変動現象の発生頻度、強度、現
象相互の組み合わせなどに見られる変化はその
現れであろう。
※ 1 ウォーカー循環
熱帯の大気はインドネシア海大陸、アフリカ大陸のコンゴ周辺、南
アメリカ大陸のアマゾン周辺で暖められて上昇し、太平洋東部、イ
ンド洋西部、大西洋で下降する。したがって赤道に沿って見ると大
気の循環が起きている。この熱帯対流圏における大規模な東西鉛直
循環のこと。
120°E
160°E
160°W
120°W
80°W
20° S
20° N
0°
エルニーニョ El Niño
水温躍層
Thermocline
エルニーニョモドキ El Niño Modoki
ラニーニャ La Niña ラニーニャモドキ La Niña Modoki
衛星画像の解説
画像左
地球観測衛星 Terra に搭載
された観測センサ MODIS
がとらえた韓国での豪雪
(画像は 2010 年1月3日)
画像右
地球観測衛星Terra に搭載された
観測センサ MODIS がとらえたワ
シントンでの 111 年ぶりの大雪。
(画像は 2010 年2月7日)
エルニーニョ現象は偏東風が弱まる時に起きる。西太平洋では西風になる時さえある。東太平洋
の水温躍層は深くなり、海面水温も上昇して、大気は湿潤になる。逆に西太平洋の水温躍層は浅
くなり、海面水温も下降して、大気は乾燥気味になる。
エルニーニョモドキ現象はエルニーニョ現象とは違って、中央部太平洋で水温躍層が深くなり、
海面水温が上昇する。逆に、東太平洋と西太平洋では水温躍層は浅くなり、海面水温は下降する。
対流圏下層の風は中央部太平洋で収束し、そこで上昇流を生む。地球温暖化に伴う海洋温暖化で、
この現象が多発するようになった。
エルニーニョ現象の反対の現象。通常の状態が強まったものと考えてよい。
エルニーニョモドキ現象の反対の現象。中央部太平洋の水温躍層は浅くなり、海面水温が下降する。
※2 水温躍層 … 海洋中の水温は、表層付近は撹拌されてほぼ一様になっているが、塩分があまり大きく変化しない
場合には、深さとともに水温も低くなる。その鉛直温度勾配が特に大きい層のこと。
※2
やくそう
⇦
⇦
(画像 1)ひまわり 6 号(MTSAT-1R)と GOES-11 の合成可視画像 2010 年3月11日09 時(JST)
Satellite Image  JMA/NOAA/JWA
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黒田 雄紀 気象予報士、気象友の会々員
影響を受ける。特に日数のかかる大洋航海では、
高波と強風を受け続けると船の速度が大幅に低
下してスケジュールが遅れ、船体や積荷の損傷
にもつながる。このため気象庁や気象会社では
波浪や海上風などの情報を作成し提供している。
情報作成の中心になるのが地上天気図で、その
基本図は数値予報の全球モデルに因るが、低気
圧の中心や前線などは気象観測実況で決定され
る。しかし大洋上の気象観測実況は陸上に比べ
て格段に少ないため気象衛星の雲パターンが頼
りになる。図 1 に挿入した低気圧や前線などは、
米国海洋大気庁(NOAA)が作成した北太平洋域
天気図(雲画像と同時刻)から抜粋したもので、
以下のように雲パターンの利用が見受けられる。
なお、これらの解析には、雲画像の動画や水蒸
気画像が有用されている。
静
止気象衛星5機と極軌道衛星2機による
全世界を連続して観測する「気象衛星観測
ネットワーク」が国連の世界気象機関で立案され
てから約半世紀が経過した。日本が受け持つ“ひ
まわり”は、西太平洋の赤道上空 35,800km の厳
しい宇宙空間で 30 年余にわたって順調な観測を
続け、現在は「気象ミッション」と「航空ミッショ
ン」の2つの機能を持つ“ひまわり7号”が運用さ
れ、観測機能が格段に強化されている。近年では
全世界の雲画像がリアルタイムで利用できる時代
になってきた。
 画像は“ひまわり 6 号”(MTSAT-1R)と太平洋
の東部に位置する米国の気象衛星“GOES-11”の画
像を合成したもので(2010 年 3 月 11 日 09 時)、太
平洋を跨ぐような雄大な雲システムをとらえていた。
 外洋船舶の運航範囲は広く、常に気象・海象の
A. ドライ・スロット※1
とジェット気流
(閉塞段階の低気圧と閉塞点の決定)
両低気圧共、ドライ・スロットが L(低気圧)
の中心付近まで進入し、ジェット気流が L から
南へ離れて前線を直交するなどで閉塞段階と閉
塞点を判定。なお、西側の L は、“入型で T 字型”
の雲パターンから温暖型閉塞。東側の L は、閉
塞前線に沿って積雲が発達し寒冷型閉塞と推定
される。
合成画像の解説 (図1 を参照)
B. ロープ・クラウド
 (寒冷前線と停滞前線の決定)
画像 1 でロープ・クラウド(矢印:⇨)
が明瞭。そこに寒冷前線と停滞前線が
解析されている。雲頂高度の低い、弱
い積雲で構成されているため画像2の
赤外画像では判別できず、不活発な前
線である。
C. クラウド・フィンガー(気圧の尾根の決定)
大気下層の気塊が気圧の尾根を過ぎて南西流場に入る
と、“手の指”に似た下層雲が発生することがあり、気圧
の尾根の存在が推定できる。クラウド・フィンガーを形
成する下層の暖湿気塊は、南西気流に乗って暖暖前線面
を滑昇し、画像に見られるように発達した雲域を形成す
る。WCB(Warm Conveyor Belt)と呼ばれる現象である。
このように、雲や雲パターンを読む(解析する)ことは
気象人にとって楽しいことである。
◀ ひまわり 7 号(MTSAT-2 )
(画像 2) ひまわり 6 号(MTSAT-1R)とGOES-11の合成赤外画像(図 1) 雲パターンと気圧配置
×
×
×
L
L
L
H
H
H
60 N
30 N
120 E150 W150 E120 E 180
L
H
Satellite Image  JMA/NOAA/JWA
JAMSTEC / Forecast Ocean Plus, Inc
2011 1 2
(℃)
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2010 年3月11日09 時(JST)
※1 ドライ・スロット
低気圧の中心付近に流入する細長い乾燥した寒気。
高温 低温 多雨 少雨
2009年 の顕
けん
著
ちょ
な 異常気象・気象災害 の 概況
ベース画像:Blue Marble Land Surface, Shallow Water, and Shaded Topography
Credits: NASA Goddard Space Flight Center
温室効果ガス監視情報
気象庁ホームページの温室効果ガス監視情報( http://www.data.kishou.go.jp/obs-env/ghghp/info_ghg.html)
では、「地球温暖化による地球の環境の変化が、地球上の人類や生物にとって大きな問題となりつつあります。
この地球温暖化の原因となっているのが温室効果ガスの増加です。温室効果ガスの濃度が地球上で過去から現
在までの間、どのように変化してきたのか、地球上でどのように分布しているのか、そしてこのような変化や分
布がなぜ起こっているのかなどを正しく理解することは、地球温暖化問題を理解するための第一歩としてとて
も重要です。」と、気象庁が世界中で観測された温室効果ガスの濃度をもとに作成した温室効果ガスの分布や変
化を、図を中心に紹介している。【右図:二酸化炭素分布情報 1985年12 月(左)、1995年12月(中央)、2008年12月(右)】
※気象庁発表「気候変動監視レポート 2009」掲載
 「2009 年の主な気象災害分布図」をもとに作成いたしました。
二酸化炭素の世界平均濃度
二酸化炭素
大気中の濃度 参考数値
産業革命前
約 280 ppm
前年との差2008 年平均濃度
(産業革命以降の増加率)
385.2 ppm
(+ 38%)
寿命
(年)
放射強制力※
( W/m2
)
+ 2.0 ppm
※放射強制力とは、温室効果ガスの濃度変化や太陽放射の変化など、地球―大気系のエネルギーのバラ
ンスを変化させる影響力の大きさをあらわし、数値が大きいほど気候を変化させる可能性が大きくな
る。ここで示しているのは、産業革命以降 2005 年までの濃度増加分に対応する推定値と推定幅である。
不定
1.66
[1.49 ∼ 1.83]
Copyright 気象庁
330 340 350 360 370 380 390 400(ppm)
1985年 1995年 2008年主な異常気象・気象災害
 「気候変動監視レポート 2009」(気象庁、平成 22 年 6 月発行)によると、「2009 年の世界の天候の年平均気温は、
中央シベリアから西シベリア、カナダから米国などを除き、多くの地域で平年より高くなった。北緯 30 度∼南緯 30
度     の低緯度域で異常高温となる月が多かったが、米国中部周辺  では 10、12 月に異常低温となった。中
国周辺  は 11 月に、西シベリア∼中国東部  は 12 月に、それぞれ異常低温となった。
年降水量は、東シベリア、フィリピンからインドネシア  、ヨーロッパからアフリカ北部  で平年より多く、アラ
ビア半島、南米南部、オーストラリア中南部で平年より少なかった。アフリカ南部  は 3 月に大雨、ヨーロッパ北
部  は異常多雨となる月が多く、アルゼンチン北部  は異常少雨となる月が多かった。」という特徴であった。
二酸化炭素分布(ppm)
   低温(12 月)
   多雨(雪)(12 月)
   高温(2∼10 月)
   台風・大雨(5月 , 9 ∼ 10月)
   高温(4 ∼ 12月)
   大雨( 9 ∼ 10月)
   低温(11 月)
   低温(10月 , 12月)
   高温(5∼12 月)
   高温(1∼2 月 , 5∼12 月)
   大雨(3月)
   多雨(9月)
   多雨( 7 月)
   高温・森林火災(1∼2月)
   少雨(1月 , 3∼ 4 月)
2010 .2010 . 1212 3131303029292828272726262525242423232222212120201919181817171616151514141313121211111010987654321
西シベリアから中国東部では、北からの寒気の影響を受けた。
ロシアのビティム:12 月の月平均気温− 38.1℃(平年差
− 12.6℃)、中国のリャオニン(遼寧)省シェンヤン(瀋陽):
12 月の月平均気温− 11.1℃(平年差− 3.8℃)。
西シベリア∼中国東部❶
低 温 12 月
11 月中旬を中心に発達したシベリア高気圧の影響を受け
た。中国では雪により30人以上が死亡したと伝えられた。
中国シャンシー(山西)省のタイユワン(太原):11 月の
月平均気温− 0.9℃(平年差− 3.8℃)。
中国周辺❷
低 温 11月
北から寒気が流入し、低気圧がたびたび通過したため、
多雨(雪)となった。
ロシアのスレテンスク:12 月の月降水量 22 mm(12 月
の月降水量平年値:5.7 mm)、北海道の寿都:12 月の月
降水量 190.0 mm(12 月の月降水量平年値:119.0 mm)。
モンゴル東部∼北海道南部❸
多 雨(雪) 12 月
中国から中東では、2 月から 10 月にかけて、たびたび異
常高温となった。
中国コワントン(広東)省のコワンチョウ(広州):2 月の
月平均気温 21.0℃(平年差 +6.2℃)、サウジアラビア北
部のアルカイスーマ:2 月の月平均気温 19.0℃(平年差
+5.3℃)。
中国∼中東❹
高 温 2∼10月
フィリピンでは、5 月初めに、台風第 1 号と第 2 号が相次い
で接近し、90 人以上が死亡したと伝えられた。また、フィリ
ピンでは、9 月末から 10 月初めにかけて、台風第 16 号と第
17 号が相次いで接近し、860 人以上が死亡したと伝えられ、
10 月末に接近した台風第 21 号によって、30 人以上が死亡
したと伝えられた。フィリピン北部のバギオ:台風第 17 号
による 10 月 6 ∼ 8 日の 3 日間降水量が 1220 mmに達した
(10 月の月降水量平年値:514.3 mm)。
フィリピン❺
台 風・大 雨 5月 , 9∼10月
ミクロネシアからインドネシアでは、4 月から 12 月にか
けて、たびたび異常高温となった。
ミクロネシアのヤップ島:8 月の月平均気温 29.1℃(平
年差 +2.2℃)。
ミクロネシア∼インドネシア❻
高 温 4∼12月
9 月末から 10 月初めにかけて、インド南部では大雨によ
る洪水が発生し、320 人以上が死亡したと伝えられた。
インド中南部のクルヌールでは 9 月 28 日∼ 10 月 3 日
の 6 日間降水量が 300 mmに達し(平年比約 1290%)、
インド南西部のホナバルでは 9 月 28 日∼ 10 月 3 日の 6
日間降水量が 400 mmに達した(平年比約 1040%)。
インド南部❼
大 雨 9∼10月
ヨーロッパ北部では、低気圧や前線が頻繁に通過した。
英国南部(イングランド)では、7 月の降水量としては、
1914 年以降で最も雨が多かったと伝えられた。
英国西部のカンボーン:7 月の月降水量 222 mm(平年
比 424%)。
ヨーロッパ北部❽
多 雨 7月
アラル海からアフリカ北部では、月を通してたびたび低
気圧や前線が通過した。トルコでは大雨による洪水で 40
人以上が死亡したと伝えられた。
トルコ西部のバンドゥルマ:9 月 8 ∼ 9 日の 2 日間降水量
が 220 mmに達した(9 月の月降水量平年値:30.2 mm)。
アラル海∼アフリカ北部❾
多 雨 9月
雨季の大雨によりザンベジ川上流などで洪水となり、ザ
ンビアやナミビアなどで数十万人が避難していると伝え
られ、ナミビアでは 90 人以上が死亡したと伝えられた。
ナミビア北部のオンダングアでは、3 月 1 ∼ 2 日の 2 日
間降水量が 110 mmに達した(3 月の月降水量平年値:
108.2 mm)。
アフリカ南部
大 雨 3月
マダガスカル周辺では、1 月から 2 月にかけて、及び 5
月から 12 月にかけて、たびたび異常高温となった。
モーリシャスのロドリゲス島:5 月の月平均気温 25.6℃
(平年差 +1.2℃)。
マダガスカル周辺
高 温 1∼2月 , 5∼12月
米国中部周辺では、10 月、12 月、北から寒気の影響を
受けることが多かった。
10 月には、ミシガン州などで低温による農作物への被害
が伝えられた。
米国サウスダコタ州のラピッドシティ:10 月の月平均気
温 3.7℃(平年差− 5.4℃)。
米国中部周辺
低 温 10, 12月
中米から南米北部では、5 月から 12 月にかけて、たび
たび異常高温となった。
ベネズエラのカラカス:9 月の月平均気温 26.5℃(平年
差 +3.7℃)。
中米∼南米北部
高 温 5∼12月
アルゼンチン北部周辺では、1 月、3 ∼ 4 月は少雨傾向で、
異常少雨となる月もあった。
アルゼンチン北部のコルドバ:4 月の月降水量 3mm(平
年比 5%)。
アルゼンチン北部周辺アルゼンチン北部周辺
少 雨 1月 , 3∼4月
オーストラリア南東部では 1 月末から 2 月初めに異常高
温となった。また、同地域は少雨傾向が続き、ビクトリ
ア州などでは大規模な森林火災により 180 人が死亡した
と伝えられた。オーストラリア南東部のメルボルンでは、
1 月の月降水量が 1mm(平年値:46.1mm)で、日最高
気温は 1 月 28 ∼ 30 日に 43℃を超える日が続き、2 月
7 日には 46℃に達した(平年では日最高気温は約 26℃)。
オーストラリア南東部
高温・森林火災 1∼2 月
2 0 11
● 6 月 移流霧 ― 羽田空港、濃霧で大混乱
● 7 月 植物プランクトンブルーム(大増殖)と地球環境や気候への影響
● 8 月 アラル海の縮小・消失
● 9 月 地球シミュレータによる台風の強度予測
● 10 月 偏西風の大蛇行 ― 異常気象をもたらすブロッキング
● 11 月 エルニーニョモドキが気象に及ぼす影響
● 12 月 太平洋を跨ぐ雲システム ― 大洋上の天気図解析
● 表紙 北極振動 ― 北極振動が、異常気象の原因?   裏表紙で、さらに詳しく解説しています。
● 資料 2009年の顕著な異常気象・気象災害の概況 はじめに、目次
● 1 月 新春寒波 ― 低気圧家族の雄大な雲システム
● 2 月 海難や豪雪をもたらす“収束雲” ― 新潟県・津南町の積雪 3 m 24cm に
● 3 月 アルプスからの雪解け水 ― 河川から海への土砂流出:水域環境に及ぼす影響
● 4 月 ゴビ砂漠で砂塵嵐 ― 黄砂は寒冷前線の後面へ沈降する
● 5 月 火山噴火が気象に与える影響 ― 千島列島・サリチェフ(芙蓉)山、20年振りの噴火
と提唱している通り、世界経済も地球環境が安定している中で成立しております。
 2010 年の夏も、世界の各地で猛暑が発生し、中国・日本でも豪雨により大洪水・
土砂崩れなどの被害が多発しております。異常気象により世界の水・食料資源など
が激変すると、世界の人々に影響を与えるとともに、人間の安全保障や世界経済に
も影響を与えることになります。
 一見全く異なるような現象が、地球の活動の大きなサイクルの中で繋がり、連動
していることが理解されるでしょう。
 今回は 14 のテーマを大きく3つのカテゴリに分けてご紹介します。気象現象や
地球環境問題への皆様の『関心の入り口』となってご活用いただけましたら幸いです。
世
界気象カレンダー 2011 は、地球のシステムを様々な角度からとらえ、世界の気象
現象と地球環境に及ぼす影響を、美しい画像とわかりやすい解説で伝えています。
 世界の人口は 1650 年に約 5 億人、1800 年に 10 億人、1960 年には 30 億人、
1999 年には 60 億人に、そして、2050 年頃には 90 億人になると予測されており、
1800 年半ば以降、急速・急激な増加を続けています。
 フィリピンのピナツボ火山爆発などの火山活動、自然の営みも地球環境に影響を
与えますが、現在の地球環境問題は、化石燃料の大量消費、人口の急増に伴い人間
活動が地球の環境に影響する規模に拡大したことが主因です。また、「環境は経済の
一部ではない。経済が環境の一部である(エコ・エコノミー)。」[レスター・ブラウン]
☞
冬
に卓越する北極振動は本来、極域に低気圧、
中緯度に高気圧の偏差をともなうパターンで
あるが、2009 年∼ 2010 年の冬は、それが逆転する
「負の北極振動」が過去 30 年で最も顕著な年となった。
 その結果、北極は高気圧偏差となって寒気を中緯
度にもたらしやすい場が維持された(図1)。
 こうした「負の北極振動」をより詳しくみると、
バレンツ海上ににはりだした高気圧の影響で北極の
寒気が西シベリアに蓄積されている様子がみてとれ
る(図2)。バレンツ海上の高気圧はこの後大西洋上
でブロッキングに成長し、その東側にはジェットの
蛇行が形成される。西シベリアの寒気はこのジェッ
トの蛇行に寄り添うようにして日本へと東進した。
 12/18 に日本に到達した寒気の西側には暖気と、
さらにその西側には次の寒気がやってきており、こ
うした空気の移流が大きな寒暖の差を生み出してい
る。このように「負の北極振動」はブロッキングの
重なり合わせとみることも可能である一方で、北極
から中緯度へと寒気を移流するプロセスとして注目
されている。
黒田 雄紀(くろだ ゆうき)
気象予報士、気象友の会々員、狭山市生涯学習ボランティア
1933 年 京都府生まれ、埼玉県狭山市在住。気象庁と財団法人 日
本気象協会にて 50 数年にわたり気象業務を行う。特に気象庁では、
1977 年日本初の静止気象衛星“ひまわり”の新規業務に参加して雲
画像の解析業務を担当し、衛星情報の天気予報等への利用の道を開
く。財団法人 日本気象協会では各種の予報業務を担当し、気象予報
士を目指す若い人や気象キャスターに天気予報の技術や雲画像の解
析技術などを指導する。この間、ハレックス気象予報士講座の講師
を担当。当カレンダーの 1997 年版より監修と解説を行う。
2007 年には永年にわたる気象業務の功労で、「春の叙勲」を受章する。
主な論文や共書に「熱帯収束帯から伸び出す対流性雲バンド」「日本
海の収束雲と海難」「ひまわり画像の見方」「ひまわりで見る四季の
気象」「気象 FAX の利用法― Part Ⅱ―」などがある。
 (担当月:1 月、2 月、4 月、6 月、10 月、12 月)
山形 俊男(やまがた としお)
独立行政法人 海洋研究開発機構アプリケーションラボ ヘッド、
東京大学大学院理学系研究科長 理学部長
1971 年東京大学理学部地球物理学科卒業、1977 年理学博士(東京
大学)学位取得、1979 年九州大学応用力学研究所助教授、1981 年
∼ 83 年米国プリンストン大学流体力学研究所客員研究員、1991 年
東京大学理学部地球惑星物理学科助教授、1994 年同大学院理学系
研究科/理学部地球惑星科学専攻教授に就任、現在に至る。
海洋研究開発機構 地球環境フロンティア研究センター 気候変動予測
プログラムディレクター(1997 年ー 2009 年)、国際太平洋研究セ
ンタープログラムディレクター(ホノルル、1997 年ー 2003 年)、
アプリケーションラボ ヘッド(2008 年から現在)を兼務。
受賞歴:1997 年日本海洋学会学会賞、2004 年米国気象学会スベ
ルドラップ金メダル賞、米国気象学会フェロー、「最先端研究領域で
活躍する 16 人の日本人研究者」(Thomson Scientific)、2005 年紫
綬褒章、2008 年米国地球物理学連合フェロー、2008 年 Techno-
Ocean Award 他多数。
 (担当月:11 月)
吉永 順一(よしなが じゅんいち)
東京都立井草高校 非常勤教員、
NHK教育 高校講座「理科総合 B」講師
1976 年米国ワシントン州のレニア−山(4392 m)頂上から日本人
初滑降(世界第2番目)を始め、カナダ、ヨ−ロッパの登山、山岳ス
キ−を楽しむ。以来、米国の全ての国立公園(イェロ−ストン等、現
在 60 弱ある)地質巡検を行う。2009 年のサモア諸島の地震・津波、
2010 年のハイチ地震は、昨夏、米領サモアとハイチの隣の米領
ヴァ−ジン諸島に地質巡検してきたばかりなので感慨深い。現在は
米国・カナダの国立公園の自然を、特に地質の観点から紐解き、地
球科学そして自然科学の面白さを伝えたいと模索中。
 2002 年の NHK ス−パ−サイエンスから、高校講座「理科総合 B」
の講師。東京書籍「理科総合A・B」「地学Ⅰ・Ⅱ(前改訂まで)」や
科学技術振興機構のデジタル教材「調べてみよう!わたしたちの住む
大地のなりたち」「調べてみよう!ゆれる大地のしくみ」などの執筆・
編集で地球科学の普及に努めている。現在、都立井草高校非常勤教員。
 (担当月:5 月)
水樹 大地(みずき たいち)
衛星情報利用ファシリテータ
1949 年 東京浅草に生まれる。リモートセンシング(RS)技術・地
球観測衛星データの利用、普及啓発、教育に関する企画・調査研究等
の各種プロジェクトマネージメント、コーディネーションを行う。衛
星画像データを利用した地球環境・地球温暖化問題の理解増進のため
のイベント・出版等に係わる企画協力・指導・執筆、及び衛星画像コン
テンツ利活用推進のためのファシリテーション活動を行う。
 衛星リモートセンシングデータ・現地調査・GIS・歴史資料等を利
活用した、中国新疆ウイグル地区、黄河中・下流地域、アラル海南部・
アムダリア流域、カンボジアのアンコールワット地域などの地球環
境変動調査に参画している。
著書等:「地球の素顔」(小学館 2000)、「まんが+衛星画像 宇宙から
みた地球環境」(大月書店 2004)、「21世紀子供百科 地球環境館」(編
集協力 小学館 2004)、「わかりやすいリモートセンシングと地理情報シ
ステム」(RS研究会)、「リモートセンシング応用事例集」(RS研究会)
(担当月:8 月、資料)
監修・執筆者プロフィール
鈴木 靖(すずき やすし)
京都大学防災研究所 水資源環境研究センター 特定教授
1960 年秋田市に生まれる。1983 年東京大学理学部地球物理学科卒
業。財団法人 日本気象協会入社後、数値シミュレーションモデルを
利用した業務に携わり、1995 年に波浪数値モデルの研究で博士(理
学)の学位を取得。その後、風力発電や水ビジネスへの温暖化影響調
査などに関わった後、2009 年 10 月に京都大学防災研究所水資源環
境研究センター水文環境システム研究領域の特定教授に就任。気候
変動や社会変動がもたらす水文環境への影響評価や適応策の研究を
行っている。
主な著書:「風力エネルギー読本」(オーム社,2006)、「波を測る」
(沿岸開発技術研究センター,2001)、「波浪の解析と予報」(東海大
学出版会,1999)
 (担当月:3 月)
高橋 桂子(たかはし けいこ)
独立行政法人 海洋研究開発機構 地球シミュレータセンター
シミュレーション高度化研究開発プログラム プログラムディレクター
1991 年(平成3年)東京工業大学大学院総合理工学研究科システム
科学専攻 博士後期課程修了、工学博士。
同年、花王株式会社文理科学研究所に研究員として入所。1993 年
より英国ケンブリッジ大学コンピュータ研究所、東京工業大学大学
院総合理工学研究科、宇宙開発事業団を経て、2002 年より海洋科
学技術センター(現・独立行政法人海洋研究開発機構)地球シミュレー
ションセンターへ、現在に至る。大気および海洋の異なるスケール
間相互作用メカニズムの解明、および超高速・超並列・高精度シミュ
レーション手法の研究開発に従事している。
 (担当月:9 月)
NASA/GSFC- Visible Earth team、気象庁、一般財団法人 日本気象協会、独立行政法人 海洋研究開発機構、財団法人 リモート・センシング技術センター、ZIMO, Rudjer Boskovic Institute、独立行政法人 宇宙航空研究開発機構、
株式会社 フォーキャスト・オーシャン・プラス
有限会社ビットカフェ、奥村印刷株式会社
2009.12.03 ユーラシア大陸上から、北極のバレンツ海上に向けてリッジ(気圧の尾根)が形成される。
2009.12.09 バレンツ海上のリッジの発達とともに、北極から冷たい空気がシベリア側に移流する。
2009.12.18 バレンツ海上のリッジは大西洋上に移動しブロッキングに発達する。一方、蓄積された寒気はジェットの蛇行とともに
東に移流して日本にやってくる。今年の「負の北極振動」はこうしたブロッキングの重ね合わせとしても理解できる。
海面気圧から求められた冬(12 月∼ 2 月)平均の北極振動の
分布パターン。ここでは特に負の場合を示している。
北極海上の高気圧が日本に寒気をもたらすメカニズム
◎最新の予測情報は独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)のサイトで公開されています。
 ⇨ http://www.jamstec.go.jp/frcgc/research/d1/iod/sintex_f1_forecast.html.ja
◎最新の海面水温情報は米国海洋大気庁(NOAA)のサイトでご確認いただけます。
 ⇨ http://www.esrl.noaa.gov/psd/map/images/sst/sst.anom.month.gif
※本予測情報は実験段階のものです。実際のものと異なる可能性もありますので情報は自己の責任のもとでご利用下さい。
 海面水温の予測は、独立行政法人 海洋研究開発機構
(JAMSTEC)の「地球シミュレータ」上で大循環モデル
「SINTEX-F1」を走らせて行われている。SINTEX-F1 は
観測された海面水温データを初期値として大気と海洋の未
来の様子を予測するプログラムで、エルニーニョ現象やイ
ンド洋ダイポールモード現象の発生やそれに伴う冷夏 / 暖
冬といった短期の気候予測だけでなく、地球温暖化等の長
期の気候変化の予想にも用いることが出来る。
 予測実験は独立行政法人海洋研究開発機構アプリケーショ
ンラボの山形俊男 東大教授や羅 京佳 主任研究員らからな
るチームが 2005 年から行っている。これらの予測は研究
段階にあるが、既にオーストラリアなどでは農業・畜産関
係者などに活用されている。
協力団体・企業
発 行 人      西村 征己
スーパーバイザー   市川 龍一、足立 仁
チーフディレクター  阿達 勝則
アートディレクター  西村 征己
デザイン       阿部 誠
セールスマネージャー 吉田 和男
制作スタッフ     西村 佐知、江月 毅、清水 雅子、渡邉 雪代、樋口 秀、圓尾 重樹、足立 季子
企画・制作・著作    日宣テクノ・コムズ株式会社
〒 160-0005 東京都新宿区愛住町12番地 La.K.R.S. ビル 1-2F
TEL : 03-3357-0501 FAX : 03-3357-0775 E-Mail : info@nissen-yotsuya.co.jp
http://www.nissen-yotsuya.co.jp/
画像、テキスト、図表、天候ダイヤクラム等本カレンダー掲載のコンテンツの転載・2 次利用はできません。
法改正により、祝日・休日あるいは行事が一部変更になる場合があります。
                               は日宣テクノ・コムズ株式会社の登録商標です。
 当カレンダーは今年で 30 周年。当初からの 15 年は博学のW先輩が執
筆され、予報士制度が始まる頃に浅学の小生が引き継いだ。“ひまわり画
像”中心から、最近は強力な執筆陣によるグローバルなテーマが増えてき
た。しかしながら“雲解析”について以下のような事情があり、その重要
性から“気象衛星の雲画像”は、中心的な役割を続けるものと信じている。
 衛星雲画像で見る雲や雲域は、時々刻々と変化する大気現象そのもの
で、豊富な気象情報を秘めている。それらについて気象学的な解釈を加
えて気象情報等を抽出することが“雲解析”である。それは、各種画像の
特徴を知り“雲形判定”と“パターン認識”を基本にして解析するが、抽
出する気象情報の質と量は解析者の能力差に大きく左右される。
 日本付近では、各種の気象擾乱の発生・発達は世界有数である。それらの
兆候は、気圧系(天気図)よりも雲パターンの様相に早く現われることが多く、
“雲解析”により早期の把握が可能になる。この場合、数値予報などの気象解
析を充分に行い、動画を繰り返し見ることで擾乱の立体構造が理解され、時
には“数値予報の修正”の根拠となる情報を教えてくれることもある。
 このように“雲解析”による気象情報は、天気予報等にとって極めて有
用であるが、残念ながら日本の予報現場では“雲解析の技術”が十分に育っ
ていないのが現状で、“ひまわり”が有効に活用されていないのである。
それは、初代の“ひまわり”打ち上げ後において、諸般の事情で“生の雲
画像”が予報者に配信されず、数時間遅れの“雲解析図”などで代用され
たこと。その間に、数値予報の進歩で“予報の答え”が大量に出力される
時代に入り、“解析”を苦手とする予報者が増えたこと。などに因る。気
象衛星の打ち上げ国として残念な実態である。
 雲画像は、TV の気象情報として国民に定着しており、気象キャスターの
解説は気象知識の啓蒙と防災に有用で、更なる向上を期待する此の頃である。
堀 正岳(ほり まさたけ)
独立行政法人 海洋研究開発機構 地球環境変動領域 北半球寒冷圏
プログラム 研究員
1973 年アメリカ合衆国イリノイ州生まれ。2006 年、筑波大学生命
環境科学研究科において、地球温暖化将来予測実験内における東ア
ジア冬季モンスーンの変調に関する研究で博士号(理学博士)を取得。
筑波大学環境科学研究科準研究員、気象研究所 環境・応用気象研究
部 ( 重点研究支援協力員 )、名古屋大学 環境学研究科 21 世紀 COE
プログラム COE 研究員、名古屋大学地球水循環研究センター 研究
員を経て、2009 年より独立行政法人海洋研究開発機構に在籍。専
門は気候システム、および気候モデル実験を通した気候形成論。現
在はユーラシア大陸上に蓄積される寒気の長期変化と日本を含む東
アジアへの影響に関する研究に従事するとともに、バレンツ海を含
む北極海の海氷変動が中緯度に及ぼす影響について研究している。
(担当月:表紙)
才野 敏郎(さいの としろう)
独立行政法人 海洋研究開発機構 地球環境変動領域 物質循環研究
プログラム プログラムディレクター、名古屋大学 名誉教授
1978 年東京大学大学院理学系研究科生物化学専門課程修了、1979
年東京大学海洋研究所助手、1992 年同助教授、1994 年名古屋大学
大気水圏科学研究所教授、2001 年同地球水循環研究センター教授。
2008 年海洋研究開発機構・地球環境観測研究センター、地球温暖
化情報観測研究プログラム・プログラムディレクターを経て 2009
年 4 月より現職。
1996 年∼ 1998 年 財団法人日本海洋科学振興財団・ADEOS フィー
ルドキャンペーン実行委員会委員長。1999 年∼ 2004 年、独立行
政法人科学技術振興機構・戦略的創造研究推進事業「地球変動メカニ
ズム領域」研究課題「衛星利用のための実時間海洋基礎生産モニタリ
ング」を、2004 年∼ 2010 年、同発展継続事業において「人工衛星
による海洋基礎生産モニタリング」を研究代表者として実施。
 (担当月:7 月)
Column
黒田 雄紀 (気象予報士、気象友の会々員)
北極振動( Arctic Oscillation : AO )とは、北極圏とそれを取り巻く中緯度帯の間の気圧場の南北の振動の
ことで、近年、地球温暖化、異常気象をもたらす大気の長周期変動等の研究において特に注目されている。
堀 正岳 (独立行政法人 海洋研究開発機構 地球環境変動領域 北半球寒冷圏 プログラム 研究員)
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H
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L
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図1 図 2

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世界気象カレンダー2011 スライドショー

  • 2. (画像 1)ひまわり 可視画像 2010年1月1日 10 時 30 分(JST)Satellite Image  JMA/JWA
  • 3. !"#$%& !%'"($%&)(*$%&+,"(-$%&./$#/-$%&+"/-$%&01#$%& 2 3 4 5 6 7 8 9 : 2;2; 2222 2323 2424 2525 2626 2727 2828 2929 2:2: 3;3; 3232 3333 3434 3535 3636 3737 3838 3939 3:3: 4;4; 4242 <2=>?@>AB=>?@>AB 3;22 .1(C$ <0/'/1(1C1D*E%C F%C/#$%( 31302928272625242322212019181716151413121110987654321 黒田 雄紀 気象予報士 、気象友の会々員 2 010 年は、全国的に冷たい季節風が吹抜ける 冬型の気圧配置で新年が明け、気温の変動が 大きい冬になった。画面は初詣での賑 にぎ わいが始まっ た頃の”ひまわり”の可視画像である〔2010 年 1 月 1 日 10 時 30 分〕(画像 1)。日本列島は寒気の氾 はんらん 濫 を示す筋状の積雲に囲まれ、日本海側を中心に吹雪、 よく晴れているのは関東とその周辺のみである。  低緯度と高緯度の温度差(位置エネルギー)は、中 緯度に偏西風帯を作り前線や低気圧の発生・発達(運 動エネルギーへの変換)につながるのである。それ らの様子は雲や雲域として姿を現わすが、その形態 は、偏西風を乱す山脈などの障害物が無く、水蒸気 の多い大洋上でダイナミックな姿を見せる。新年の 東方洋上には、低気圧家族の雄大な雲システムが発 生していた。  低気圧家族とは、トラフ(上空の気圧の谷)の東側に 低気圧が次々と発生することがあり、この一連の低気 圧群を低気圧家族と言う。この日のトラフは北海道付 近から南東へ伸び、その東側に沿って天気図には4個 の低気圧が解析されていた。北海道の北から南東へ連 なる長大な雲が低気圧家族の雄大な雲システムである。  大洋上では観測資料が少ないため、台風や低気圧 の中心気圧や最大風速などは、雲画像のパターン認 識で求める方法が実施され、天気図の作成や気象警 報などに利用されている。このように「雲画像から 気象情報等を抽出すること」を雲解析という。  低気圧家族に伴う雲や雲パターンを解析して記号化 したのがイラストの“雲解析図”である。可視画像※ 1 (画像 1)と赤外画像※ 2 (画像 2)の両画像を見比べて 理解していただきたい。なお、この解析には雲画像の 動画解析による有力な情報が付加されている。右の雲 解析図は着目点のみの解説である。 ☞ 裏表紙に執筆者によるコラム「“雲解析”について思うこと」を掲載しました。 ※ 1 可視画像 太陽光の反射を画像化したもので、夜間は観 測できない。太陽との位置関係で写り方が変 わる。宇宙から人間の眼で見たままの地球の 姿が写っている。 ※ 2 赤外画像 雲の上面など地球表面の放射温度の分布を示 し、昼夜の観測が可能。低温ほど白く表示し、 輝度の違いは雲頂高度の違いであり、雲形判 定の情報になる。雲解析の中心となる画像。 ※ 3 短波 地球を取り巻く偏西風は波数3∼8の波動の 形態をもって循環している。それらの波動に は 1,000km 前後の小さい波長の波が重なるこ とがあり、それが短波である。寿命は短いが 数値予報の外れの原因になることがあり、見 逃すことのできない重要な現象である。なお、 波長の長いものを長波とか超長波という。 低 気 圧 中 心 は 雲 渦 の 中 か フックパターン(鉤 かぎ 状の雲) の近傍にある。L1 は稚内の 西 の 雲 渦 に 対 応。L2 ∼ L4 はフックパターンに対応し、 可視・赤外画像の動画で判別。 短波※ 3 に伴う発達した積雲 や積乱雲域。低気圧家族の 雲に進入し、低気圧の再発 達や閉塞点低気圧の発生に つながる役目を果たす。新 たな正の渦度と寒気を伴っ ているからである。 主に上層雲が極側に高気圧 性曲率を持って膨らむ現象。 上 層 の 気 圧 の 尾 根 に 対 応 し、下層収束に対する上層 発散を示すもの。 強い寒気の氾濫域に発生。 12 月 28 日に北日本を通過 して暴風雪をもたらした低 気圧で、低気圧の墓場のベー リング海へ向かっている。 221 4 5 OPN O PN OPN OPN A B 3 21 4 53 低気圧家族 に 伴う雲システム 積乱雲 積   雲 雄 大 積 雲 積 乱 雲 薄い上層雲 積   雲   列 中 層 雲 筋 状 巻 雲 層 積 雲 濃密な上層雲 正渦度移流や 寒気移流に伴う 発達した積雲域 2 1 4 5 3 低気圧中心 低気圧の進行方向と速度 ( ) ひまわり 赤外画像 2010年1月1日 10 時 30 分(JST) JAMSTEC / Forecast Ocean Plus, Inc 2011 1 (℃) ▶ http://bit.ly/wmc2011 ▶ http://bit.ly/wmc2011_real →← Satellite Image  JMA/JWA
  • 4. U V (画像1) ひまわり 可視画像 2010年1月13日 12 時(JST) Satellite Image  JMA/JWA
  • 5. !"#$%& !%'"($%&)(*$%&+,"(-$%&./$#/-$%&+"/-$%&01#$%& 2 3 4 5 6 7 8 9 : 2;2; 2222 2323 2424 2525 2626 2727 2828 2929 2:2: 3;3; 3232 3333 3434 3535 3636 3737 3838 3939 <3)=>?@A?B)=>?@A?B 3;22 .1(C$ <0/'/1(1C1D*E%C F%C/#$%( 28272625242322212019181716151413121110987654321 黒田 雄紀 気象予報士 、気象友の会々員 重要な現象であり、視覚的に収束が明瞭に理解され、 日本海特有の擾 じょうらん 乱であるからである。  船の航跡には渦が発生するが、空気も同じ流体の性 質で、風が強まると山岳の風下では気圧が下がって反 時計回りの渦(メソ・スケールの低気圧)が発生し、航 跡の渦のように風下へ連なる。朝鮮半島の付け根にチャ ンパイ山脈がある。北西の季節風が卓越すると、日本 海の等圧線は“くの字”のように凹み、気圧が低い状態 を示す。天気図(図 1)に付記したように、山岳を北と 南へ分流した季節風は、下流の低圧部で合流(強い収束) し、反時計回りの渦性(低気圧性シアー)を持つ積乱雲 塊が次々と発生して連なり、風下へ移動する。それが“収 束雲”である。このことは、レーダーや雲画像の動画で 確認できる。収束線※1 に対し南側が強風のときに顕著 な収束雲が発生するが、低気圧性シアー(正の渦度)が 強まるからである。 画 像は 2010 年 1 月 13 日 12 時の“ひまわり”の 可視画像(画像1)で、北朝鮮沿岸から折れ曲がっ て北陸へ侵入する雲 U - V(画像 1 を参照)が“収束雲” である。発達した積雲や積乱雲から成り、鉤 かぎ 状や渦巻 状の形態を示す箇所が並び、これは小低気圧が鎖状に 連なるからである。“収束雲”付近の海上では吹雪いて 三角波などを伴う大シケになり、陸上では大雪が続い て豪雪になる。  1990 年 1 月のこと。日本海で 3 隻の外国船が次々 と遭難し、重油の流出など重大な海難事故が発生した。 “収束雲”に遭遇したからで、赴任先の担当海域内での 事故であった。このため、この件に関する気象・海象 などの調査を行い日本気象学会や海洋学会などで発表 したが、その題名は「日本海の収束雲と海難」である。 それから数年後のこと、気象界では“収束雲”と云う名 前の論争が起り、“帯状対流雲”と云う名に変更された。 雲は“収束”によって発生すると云う理由からである。 しかし筆者は“収束雲”の名を使い続けている。防災上  1990 年に遭難した外国船長は、予想天気図で“くの 字型”の気圧配置(袋型気圧配置と言う)を見て、「季節 風は弱まる」と判断して出港したと供述。7000 トン級 もの船が操船不能となり沈没するような現象が存在す るとは予想できなかったのである。  レーダー・降水ナウキャスト(図 2)で、新潟県に進 入する長大な降水域が“収束雲”に伴う降雪域である。 この時の津南町の積雪は 1 m 75cm、16 日の朝には 3 m 24cm に達し、近くの十日町では 3 m 7cm を記録し た。冬型が続き“収束雲”の侵入が続いたからである。 このように“世界有数の豪雪”をもたらす擾乱であるが、 “帯状対流雲”では、どこにでも発生する雲パターンで あるためふさわしくない。防災的な見地から、気象庁 は適切な名を付けてほしいものである。画面のように “明瞭な収束”を示すことから“収束雲”の名が適当と 思っている。 ※ 1 収束線 大気の水平収束域が線状に連なる場合を収束線という。前線は大規模の収束 線である。富士山の風下に位置する関東南部では、小規模の収束線が多発し、 収束線を挟み気温や天気・風などが大きく異なるため、天気予報が難しくなる。 小規模の収束線は全国各地で発生し、“予報の外れ”で予報官や予報士たちを 泣かせる 4 4 4 4 現象である。 (画像2) ひまわり 赤外画像 2010年1月13日 12 時(JST) 2010年 1月 13日 12時 (図 1)2010 年 1 月 13 日 12 時の天気図 レーダー・降水ナウキャストとは…  全国の気象レーダーの観測値を 5 分毎 に合成したデータと、気象レーダーに よる降水強度分布と降水域の移動状況 を基に 60 分先までの 10 分間毎の雨量 を 1km 四方の領域毎に予測した降水ナ ウキャストを連続的に表示しています。 新潟県に進入する長大な降水域 が“収束雲”に伴う降雪域である。   Satellite Image  JMA/JWA All rights reserved. CopyrightAll rights reserved. Copyright © Japan Meterological Agency© Japan Meterological Agency
  • 6. 衛星画像の解説 画像左 2010 年 4 月 6 日に NASA のアクア(Aqua)衛星のモーディス(MODIS) センサーが捉えた画像。アドリア海に流れ出した雪解け水が薄茶色の 帯となってイタリア東岸を南下する様子が鮮明に写し出されている。 画像右 2003 年 2 月 7 日に NASA のテラ(Terra)衛星のモーディス(MODIS) センサーが捉えた画像。アペニン山脈は真っ白な雪で覆われている。 山岳部に積もる雪は白いダムとも言われ,貴重な水資源である。 2010年4月6日の NOAA海面水温画像 This image was captured by the MODIS on the Aqua satellite on April 6, 2010. February 7, 2003 MODIS Rapid Response Team, NASA/GSFC MODIS Rapid Response Team, NASA/GSFC ヨーロッパ地図 イタリア クロアチア Tomazic,I., http://sst.irb.hr, Satellite Oceanography Laboratory, ZIMO, Rudjer Boskovic Institute, Zagreb, Croatia. ◀米国海洋大気庁(NOAA)海面水温画像 クロアチアのルジェル・ボスコヴィッチ研究所が解析した、2010 年 4 月 6 日のアドリア海の海面水温。 黄色から青色になるに従い、水温が 15 度から 11 度と低くなっている。
  • 7. !"#$%& !%'"($%&)(*$%&+,"(-$%&./$#/-$%&+"/-$%&01#$%& 2 3 4 5 6 7 8 9 : 2;2; 2222 2323 2424 2525 2626 2727 2828 2929 2:2: 3;3; 3232 3333 3434 3535 3636 3737 3838 3939 3:3: 4;4; 4242 <40=>?@0=>?@ 3;22 .1(A$ <0/'/1(1A1B*C%A ?%A/#$%( Adriatic Sea Tokyo Bay 31302928272625242322212019181716151413121110987654321 鈴木 靖 京都大学防災研究所 水資源環境研究センター 特定教授 イ タリアとクロアチアに囲まれたアドリア海に は、春になると山々からの雪解け水が流れ込 む。アルプス山脈から流れ出た雪解け水は、ロンバ ルディア平原を潤しながら、ヴェネチア南部のポー 川からアドリア海へと流れ出る。また、イタリアの 東西を分けるアペニン山脈では、標高 2,912m の最 高峰コルノ山をはじめとする 2,000m 級の山々から 雪解け水がアドリア海へと流れ出ている。2010 年 4 月 6 日に NASA のアクア (Aqua) 衛星のモーディス (MODIS) センサが捉えた画像には、アドリア海に流 れ出した雪解け水が薄茶色の帯となってイタリア東 岸を南下する様子が鮮明に写し出されている。アペ ニン山脈から流れ出す幾筋もの河川は、2,000m の 標高差を海までの 100km 弱の距離で一気に流れ出す ため、日本の河川と同様に急峻な流れとなって河口 から海へと流れ出す。流れ出た河川水は反時計回り に循環し、アドリア海を南下する。米国海洋大気庁 (NOAA)画像の海面水温解析によると、この雪解け水 は周囲の海水よりも 2 度以上水温が低くなっている。  雪解け水には土砂や栄 えい 養 よう 塩 えん が豊富に含まれている ために薄茶色をしているが、淡水は塩分濃度の高い 海水と混じりにくいことから帯状の流れとして南下 し、ガルガノ半島の先端まで達している。これを西 アドリア海流と称し、アドリア海に栄養塩を供給し、 豊富な漁業資源をもたらしている。そのため市場に は様々な魚種が並んでいるそうである。アドリア海 の栄養塩の 50% はアルプスから流れ出るポー川か ら供給されている。ガルガノ半島南部のプーリア地 方では、灼熱の太陽と豊かな海水から作り出したミ ネラル豊富な天日塩が名産品となっている。  1986 年 8 月 5 日、台風 10 号から変化した温帯 低気圧は関東・東北地方に大雨を降らせ、関東平野で は小貝川決壊などの浸水災害を東日本各地にもたらし た。仙台では総降水量が 400mm を超え、24 時間降 水量の最大値は仙台・福島・水戸・宇都宮などで現在 に至るもなおその記録が破られていない。台風 10 号 通過後の LANDSAT 画像には、荒川や多摩川から東 京湾に流れ込む濁 だく 水 すい が鮮明に写し出されている。  河川の恵みと災いは地球温暖化によってその姿を変 えつつある。河川流域と沿岸の水域環境や生活環境 への将来影響評価が重要な研究課題となっている。 【関連資料】 平成22年2月23日∼ 2月24日開催 「平成21年度京都大学防災研究所 研究発表講演会」資料 河川流出が東京湾の水域環境に及ぼす影響について             (PDF ファイル / 115KB) http://hes.dpri.kyoto-u.ac.jp/dpri201002-3.pdf データ受信:宇宙航空研究開発機構 ◀▶ LANDSAT- 5 衛星の画像範囲(左 図)と、台風 8610 号通過後の 1986 年 8 月 6 日の東京湾の 画像(右画像)
  • 9. Sunday SaturdayFridayThursdayWednesdayTuesdayMonday 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1010 1111 1212 1313 1414 1515 1616 1717 1818 1919 2020 2121 2222 2323 2424 2525 2626 2727 2828 2929 3030 4APRILAPRIL 2011 World Meteorological Calendar 302928272625242322212019181716151413121110987654321 黒田 雄紀  気象予報士、気象友の会々員 2 010 年 3 月 21 日、寒冷前線が日本列島を縦 断し、全国的に冷たい空気に入れ替わった。 通常は澄んだ爽やかな空になるのだが、この日の 日本列島の上空は黄色く濁り、全国各地の気象台 は黄砂を観測した。自動車の屋根や水面に浮いた 砂などで黄砂を確認したからである。大阪や仙台、 沖縄などでは、視界が一時 1.5 ∼ 3.0 kmまで下 がって天空不明の状態になり、雲の観測が出来な い状態にまで濁った。  画像は当日正午の“ひまわり”の可視画像である。 東シナ海から本州の南岸沖にかけての“ぼやけた 領域”が黄砂であるが、寒冷前線の後面に分布し ている。天気図解析によると、2 日前にゴビ砂漠 で発生した砂塵嵐※1 によって舞い上がった黄砂が、 偏西風に乗って飛来したものと推定される。  黄砂のルーツを知る手段として地上天気図 (ASAS)で砂塵嵐の観測事実を探す方法がある。 図 1 は黄砂が飛来した 2 日前の ASAS の抜粋で、 モンゴルのウムヌゴビ県の県庁所在地であるゴビ 砂漠の町ダルンザドガドでは、北西の強風(  )、 砂塵嵐(  )、天空不明(  )、積乱雲(  )など を観測していた。また当日の高層天気図を見る と、この頃に寒気を伴う上層トラフ(気圧の谷) が通過していた。  ところで砂塵嵐の前面は、激しく舞い上がった 砂が巾広くそそり立ち、積乱雲を伴うことがある という。即ち、ダルンザドガドでは積乱雲を観測 していたが、上空に寒気を伴うトラフの通過で強 いダウンバースト※ 2 が発生し、砂塵嵐を誘発した のではないかと推定される。  黄砂の発生源に近い中国では、黄砂を雨 う ど 土など と呼び線路が埋まるほど降るらしい。粒子の大き な黄砂が大量に降るからであろう。日本へ飛来す る黄砂は粒子が小さく、上空を素通りすることも あり、寒冷前線後面のような下降気流の領域で黄 砂が降る。丸印 (衛星画像の解説図参照)に絶海 の孤島“南 みなみだいとうじま 大東島”があり、気象台の観測記録を見 ると、この日の 09 時 40 分に寒冷前線が通過し、 同時に黄砂の観測が始まっている。下降気流場に 入って黄砂が降ってきたのである。なお矢印 ➡(衛 図 1 砂塵嵐発生時の気圧配置と実況 ASAS JMH 190600UTC MAR.2010 SURFACE ANALYSIS 北西の強風 砂塵嵐 天空 不明 積乱雲 星画像の解説図参照)は“ロープクラウド”で、寒 冷前線に対応する弱い積雲列である。春の風物詩 から嫌われ者となった黄砂、気象庁ではその“実 況図や予想図”を作成し防災に努めている。  本題と関係しないが、この日の朝から鹿 か し ま な だ 島灘に は波状雲 ⇨(画像を参照)がある。乱気流を伴う ため航空機にとって警戒すべき現象である。 図 2 黄砂観測実況図(2010 年 3 月 21 日) ※1 砂塵嵐 突風を伴う強風により砂 などが空高く激しく舞い 上がる現象で、日本で見 られる風塵や塵旋風より は大規模な現象。 ※2 ダウンバースト 積乱雲内にある強い下降 気流が地面付近で叩きつ けられるように発散し、激 しい突風をもたらす現象。 2010年 3月 21日 12時 2010年3月21日12 時の天気図 ひまわり 可視画像 2010年3月21日12時(JST) Satellite Image  JMA/JWA All rights reserved. CopyrightAll rights reserved. Copyright © Japan Meterological Agency© Japan Meterological Agency Gobi Desert
  • 11. Sunday SaturdayFridayThursdayWednesdayTuesdayMonday 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1010 1111 1212 1313 1414 1515 1616 1717 1818 1919 2020 2121 2222 2323 2424 2525 2626 2727 2828 2929 3030 3131 5MAYMAY 2011 World Meteorological Calendar 31302928272625242322212019181716151413121110987654321 Matua 吉永 順一 東京都立井草高校 非常勤教員 NHK 教育 高校講座「理科総合 B」講師  このプル−ム(噴煙柱)の下方に松輪島が見える。サ リチェフ火山の火口から東へ白い火砕流が、西∼北へ 茶褐色の噴煙と火砕流が山体を覆っているのも見える。  火山が噴火すると、大気中に火山灰や水蒸気、二酸 化炭素、二酸化硫黄などが放出される。火山灰などは 雨や雪によって比較的短時間で大気から除去される が、二酸化硫黄は水蒸気と反応して硫 りゅうさん 酸エアロゾル(大 気中に浮遊する微粒子)となって成層圏に数ヶ月∼数 年という長い時間滞留する。これは太陽光を遮 さえぎ り気温 を下げる日傘効果と、地表からの赤外線放射を吸収し 気温を上げる温室効果の二つの作用を持っている。し かし、地表に届く日射量の多少が先ず地球の気温を決  ポッカリ空いた穴から噴き出てくるキノコ雲。これ は ISS ※1 の若田光一宇宙飛行士が撮影したサリチェフ 山の噴火である。この円い穴はどうしてできたのだろう。 当初は噴火の衝撃波によるものとされた。その後、島な どの風下に現れるカルマン渦※2 との説がだされ、実際千 島列島上空に渦の列が当日確認されている。他にも急激 な上昇流には、周囲に下降気流を伴うので雲が消えると の説明もある。  ところでキノコ雲の丸い頂部は、噴煙の急激な上昇 と膨張を物語っている。頂部の真白な雲は頭巾雲とよ ばれるもので、激しく上昇したため上空の水蒸気が凝 縮してできたもの。 更に上昇したため、頭巾雲が頂部 と下の帯状の二つに分裂してしまった。 めるので、日傘効果の方がより重大な影響を与える。  図①は、6月10 日∼17 日のサリチェフ火山から噴出さ れた硫酸エアロゾルの雲の分布である。ロシアからアラスカ 付近まで広がっているのがわかる。これは 2009 年これま での最高の値であるが、気温への影響は明らかではない。  今回のサリチェフ火山の火山爆発指数※ 3 (VEI)は4 であったが、1991 年 6 月に噴火したフィリピンのピ ナツボ火山(VEI6)では、成層圏に 1500 万トンもの 二酸化硫黄を注入したことが測定された(図②)。その 結果 1992 年∼ 1993 年にかけて 0.6℃の気温低下が 観測されている(図③)    しかし気候変化は火山活動以外にも、エルニーニョ や太陽活動・人間活動など幾つもの原因があるので注 意する必要がある。 [DU](Dobson Unit:ドブソン単位) 大気圏の上端から地表までの空気柱に含ま れている二酸化硫黄量を0℃、1気圧とし た場合の厚さのこと。1DU は 0.01mm の 厚さで1m3に 0.0285 gの二酸化硫黄を含 んでいる。 NASA・Aura 衛星(2004 年打上)の OMI (オゾン測定装置:煙、塵、硫酸塩の区 別もできる。)が観測した硫酸エアロゾ ルの雲の分布。当時、発達した低気圧の 影響で、北西方向と南東方向に分布した。 ※ 北緯 30°∼ 40°緯度帯での硫酸エアロゾ ルと平均気温の変化。橙色線は 1982 年 1 月∼ 1990 年 12 月の各月平均値との 気温差。赤色線は短期変動成分を取り除 いたもの。硫酸エアロゾルは、ピナツボ火 山噴火直後から急激に増加して、1991 年 12 月から 1992 年 1 月ころにかけて最大 値に達し、その後、時間と共に減少した。 一方、平均気温は噴火後 1 年目と 2 年目 の夏に大きく下がった(約−0.6℃)。 NASA,Goddard Institute for Space Studies 1 0.5 0 -0.5 -1 2 1.5 1 0.5 0 -0.5 -1 100 150 200500 時間(月) 気温偏差(℃) 硫酸エアロゾル密度(μg/m3) NASAの地球放射測定衛星のSAGEⅡ (Stratospheric Aerosol and Gas Experiment:成層圏エアロゾル・オゾ ン・二酸化窒素・水蒸気の観測装置)が 観測した 91 年 6 月 15 日∼ 6 月 25 日 の成層圏エアロゾルの濃度分布。青色部 は通常の観測値で赤色部は最も濃度の 高いことを示し、爆発以前に比し 10 倍 から 100 倍に達し、これが 2 年間ほど 続いた。 NASA Langley Research Center Aerosol Research Branch 91-June-15 to 91-July-25 <10-3 10-2 >10-1 NASA,Earth Observatory,Natural Hazards 0.5 0.9 1.4 1.8 2.3 2.8 3.2 3.6 4.1 4.5 5.0 SO2 column [DU]※     硫酸エアロゾル    1982年1月∼ 1990年12 月の各月平均値との気温差     短期変動成分を取り除いたもの ピナツボ 火山噴火 JAMSTEC / Forecast Ocean Plus, Inc 2011 5 (℃) ▶ http://bit.ly/wmc2011 ▶ http://bit.ly/wmc2011_real 2009.06.12 ※1 ISS(International Space Station)… 国際宇宙ステーション ※2 カルマン渦…孤立した山や島などの風下に現れる特別な並び方をし た2本の渦の列。強風時に電線が唸るのもこの例 ※3 火山爆発指数(Volcanic Explosive Index)… 火山噴出物の体積に基 づいて0∼8までの数値で分類される。米国セント・へレンズ火山 (1980 年)の VEI は5(M が1違うと 10 倍のエネルギーの違いに 相当する)
  • 12. (画像) ひまわり 可視画像 2010年2月25日 09時(JST) Satellite Image  JMA/JWA
  • 13. Sunday SaturdayFridayThursdayWednesdayTuesdayMonday 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1010 1111 1212 1313 1414 1515 1616 1717 1818 1919 2020 2121 2222 2323 2424 2525 2626 2727 2828 2929 3030 6JUNEJUNE 2011 World Meteorological Calendar 302928272625242322212019181716151413121110987654321 黒田 雄紀 気象予報士、気象友の会々員 の雲の中にいる人には霧になる。  霧を構成する雲粒は、空気の冷却による凝 ぎょうけつ 結(水蒸気から水への相 変化)により発生するが、冷却の原因のちがいにより次のように分類され ている。移流霧、放射霧、混合霧、逆転霧、蒸発霧、前線霧、滑 かっしょう 昇霧 があり、発生場所によって海霧、川霧、盆地霧、都市霧などの呼び名 がある。今回の羽田空港のダイヤを混乱させた霧は房総半島越えの移 流霧で、珍しく冬季に発生したものであった。  移流霧とは、湿った相対的に暖かい空気が、冷たい地面や海面上 を移動するとき、下面からの冷却による凝結で発生した霧である。 春先から梅雨期にかけ日本周辺の海洋で発生する霧の大部分は移流 霧で、連日にわたって陸上へ侵入すると、低温と日照不足で凶作の 原因になる。  図①は東京湾(羽田空港)へ進入した移流霧の摸式図である。天気 霧 は、映画や演歌など哀愁を感じさせる場面によく用いられ、天 気図の中では穏やかな気圧配置の中での発生が多い。しかし予 報官や気象予報士が霧の発生を予知すると、直ちに交通機関に通知し て防災に努める。かつてのタイタニック号(死者 1500 人以上)や宇 う 高 こう 連絡船紫 し 雲 うん 丸 まる (死者 168 人)の衝突沈没事故は何れも霧(移流霧) の中で発生した。このように霧による視 し 程 てい 障害は、レーダーなどが進 歩した現代においても大事故につながるため、気象庁や気象会社では 霧の発生を見逃さないよう衛星画像などで常時監視している。  画像は 2010 年 2 月 25 日 09 時の“ひまわり”の可視画像である。 霧特有の様相“滑らかで縁が切れた雲”(移流霧)が三陸沖から鹿 か 島 しま 灘 なだ ・ 房総半島を経て東京湾へ侵入している。羽田空港では早朝から霧のた め 173 便が発着不能になり、ダイヤは夕方まで乱れて 2 万 7 千人に 影響した。  霧は、基本的には雲と同じで、雲の下部が地面に接している現象で ある。例えば雲が山にかかるとき、山 さんろく 麓から見る人には雲であり、山 図(図②)では移動性高気圧が三陸沖にあり、中心付近の空気は、沈 降により乾燥して昇温し時計回りに発散する。暖かい黒潮上を吹走し て水蒸気と熱の補給を受け暖湿な空気に変化する(気 き 団 だん 変 へん 質 しつ )。続い て冷たい親潮上の吹走で凝結が起こって霧が発生し、房総半島を超え て東京湾へ進入している。典型的な移流霧である。  図①の左側に高層観測(つくば市)の下層部分を付加した。逆転層 が高度約 350 m付近にあり、その下方は飽和状態で移流霧の存在を 示し、霧の上面は逆転層で抑えられて、画面のように滑らかで、他の 雲との違いが分る。この霧は、太陽の上昇による昇温で逆転層が破壊 された昼頃に消散した。この日は、移流霧の多発海域である北海道の 太平洋側の沖合にも発生し、内陸へ進入している。  本題と関係ないが、山岳の積雪(富士山、赤 あか 石 いし 、木曽、飛騨、越後、 日高などの山脈)が写っている。 -15 0 0.5 1.0 -10 -5 0 5 いろいろな霧の解説 放射霧 … 放射冷却によって、地面や地表面付近の空気の冷却で発生する霧。 盆地霧はその例である。 混合霧 … 気温の違うふたつの湿った空 くう 気 き 塊 かい の混合で発生する霧。 逆転霧 … 気温の逆転層の下にある層雲などの雲底が下がって地表に達した霧。 蒸発霧 … 冷たい安定した空気塊が暖かい水面に移動し、蒸発による水蒸気 の補給で飽和して発生する霧。 前線雲 … 前線に伴う降水によって大気が湿 しつじゅん 潤になった時に発生する霧 滑昇霧 … 湿った空気が山の斜面を昇るとき、空気塊の膨張による断熱冷却 で発生する霧。雨上がりの山地でよく発生する。 図② 2010 年 2 月 25 日 9 時 の 天気図
  • 14. クロロフィルaの濃度(mgm-3 ) 高 低 47 46 45 44 43 42 41 40 39 38 37 36 35 34 33 32 31 30 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 表面水温(℃) 高 低 47 46 45 44 43 42 41 40 39 38 37 36 35 34 33 32 31 30 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 ©宇宙航空研究開発機構(JAXA) センサ OCTS では海面の水温とクロロフィルの分布を同時に計測することが出来る。水温画像(左)からは、本州南方の黒潮域に相当する高温の水域と、千島列島から北海道東方にかけた親潮域に相当する低温水域を見ることができる。三陸沖では親潮と黒潮が出会い水温前線を形成している。また前線から切り離された暖水塊がえりも岬南方に見える。クロロフィル画像(右)からは黒 潮域で低濃度、親潮域で高濃度であることが判る。暖水塊東方の親潮第二分枝における高濃度域は植物プランクトンのブルーミングによって生じている。水温画像は海面からの赤外放射を測っているので海面極表層の情報を与えるのに対して、海色画像は海水中から出てくる可視光を測っているので、海面下の情報も含んでいる。このため、より細かな海水の流動のパターンが見えている。 ©宇宙航空研究開発機構(JAXA) 1977 4 26 a ※1 ( Chlorophyll-a concentration )1977 4 26 ( Sea surface temperature )
  • 15. Sunday SaturdayFridayThursdayWednesdayTuesdayMonday 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1010 1111 1212 1313 1414 1515 1616 1717 1818 1919 2020 2121 2222 2323 2424 2525 2626 2727 2828 2929 3030 3131 7JULYJULY 2011 World Meteorological Calendar 31302928272625242322212019181716151413121110987654321 才野 敏郎 独立行政法人 海洋研究開発機構 地球環境変動領域 物質循環研究プログラム プログラムディレクター、名古屋大学 名誉教授 徴である。また、この海表面近くの食物網の中では、動物プランク トンが糞を作ったり、小さな生物が凝 ぎょうしゅうたい 集体を作ったりして、有機物 の一部が深層に沈 ちんこう 降除去される。  炭素循環の観点からは、海洋表層付近の植物プランクトンが光合 成をすることによって海水中の二酸化炭素濃度を下げて大気から 海水中に溶けやすくする働きと、光合成の結果出来た植物プランク トン自体が動物プランクトン等の働きによって有機物の沈降粒子 等として深層に運ばれて、そこで分解、無機化して二酸化炭素とし て再生する働きを合わせた一連の過程により、大気中の二酸化炭素 が深層海水中に運ばれる過程を生物ポンプと言う。一般に海洋では 表層付近の温かい海水が深層の冷たくて重い海水の上に重なった 成層構造を持っているが、この構造の中で生物ポンプが働くことに より、生物体を構成する炭素や窒素、りん等のいわゆる栄養塩類の 濃度は海洋表層で低く、深層で高い分布を示す。 地 球表 ひょうそう 層環境は気圏、水圏、陸圏、生命圏の 4 つの要素の間 を水と物質が循環することによって形づくられている。その 中で生命圏の一部を占める人間の活動が産業革命以降急激に増大 し、従来の水と物質の循環に乱れが生じて現在の地球環境問題とし て顕在化している。地球表層環境において生物は水と物質の循環の 接点に位置しており、その活動が環境にどのように応答し、また環 境にどのようなフィードバックを及ぼすかを知ることが、現在変化 しつつある地球環境を予測し対処するために緊急に求められている。  地球上の生物の活動を支えるのは、陸や海の表層で植物が行う 光合成によって生成される有機物としてのエネルギー、及びそれを 呼吸によって利用するための酸素の供給である。陸の植物は草や木 として目に見える形で存在する場合が多いのに対して、海の植物は プランクトンとして肉眼では見えない小さな形で存在する。海では 植物プランクトンが小さいために、それを食べる動物プランクトン も小さいものが多い。生物個体のサイズが小さいために海の食物網 では陸に比べて生物による物質の代謝が極めて速く起こるのが特  海洋の表層付近(下図:太陽の光が照らしている部分)での植物プラ ントンの生育には光とともに栄 えいようえんるい 養塩類が必要であるが、光は海の表層か らしか供給されないので、何らかの原因によって海洋表層に栄養塩類が 供給されたときに植物プランクトンは急速に増殖し、いわゆるブルーム (開花、大増殖)を形成する。このようなブルームを示す植物プランクト ン群集の一部はいずれ深層に沈降して、生物ポンプによる二酸化炭素の 吸収を担っている。地球規模での炭素循環を明らかにするためには、こ のようなブルームに よる生物ポンプの 効果を定量的に明ら かにする必要がある が、通常の海洋観 測で検出することは 困難であり、衛星観 測に大きな期待が寄 せられている。 海水中を沈降する粒子状物質を捕集するためのセジメ ントトラップ。逆円錐形の捕集コーンの下部にターン テーブルに乗った捕集容器を取り付け、これを回転さ せることによってあらかじめ設定された期間の沈降粒 子を捕集することが出来る。北海道大学おしょろ丸に より設置し、東京大学淡青丸にて回収した。 三陸沖に設置したセジメントトラップで計測した沈降 粒子の物質フラックス。単位は一日、1m2 の面積を 通過する沈降粒子の乾燥重量。黒色は 450 m深度、白 色は 600 m深度での物質フラックスを示す。  植物プランクトンは光合成をするための 色素(クロロフィル a※1 等)素を持っている ため、海の色(太陽光が海中に入り、海中で 散乱や吸収を受けたのち海から出てくる光 のスペクトル)は、植物プランクトンの存在 量によって変化する。内湾の海面が茶褐色 から緑色、外洋で緑色から青色に見えるのは このためである。この原理を利用して、海の 色を人工衛星から眺めることによってクロロ フィル a の濃度を求めることが出来る。  画像は我が国の人工衛星 ADEOS―I ※2 に 搭載されたセンサ OCTS によって観測さ れた、1977 年 4 月 26 日の三陸沖海域の クロロフィル a の分布(画像②)と、表面 水温の分布(画像①)である。一般的にク ロロフィル a 濃度は、高水温域で低く、低 水温域で高い。三陸沖の暖 だんすいかい 水塊の東方の親 潮第二分枝に植物プランクトンの顕著なブ ルームが見られる。当時実施した ADEOS フィールドキャンペーンにおいて 1997 年 4 月 6 日から 5 月 1 日まで北緯 40 度、東 経 143 度にセジメントトラップを設置し (図①)、沈降粒子を集めたところ、4 月 26 日から 28 日までの 3 日間で全実験期 間中の 85% の粒子フラックスが集まった (図②)。この内容は珪 けいそうるい 藻類の栄養細胞及び 休 きゅうみんほうし 眠胞子が主体で、4 月 18 日まで襟 えりもみさき 裳岬 南西沖に存在したブルームに由来すると推 測された。 ※ 1 クロロフィル a すべての植物に含まれる光合成に関与する色素。葉緑素ともいう。水域ではその濃度が植物プラン クトンの量を示すので、生物活動の指標として用いられる。ただし、クロロフィル a の濃度は植物 プランクトンによる生産と、動物プランクトンなどの捕食者による消費のバランスで決まるので注 意が必要。生産が消費を上回る条件が成立するとブルームが起こりクロロフィル a の集積として検 知される。 ※ 2 ADEOS − 1 地球観測プラットフォーム技術衛星「みどり」(ADEOS)。1996 年 8 月 17 日種子島宇宙センター から打ち上げられ、1997 年 6 月 30 日まで運用された。地球の温暖化、オゾン層の破壊、熱帯雨林 の減少、異常気象の発生等の環境変化に対応した全地球規模の観測データを取得し、国際協力によ る地球環境監視に役立てるとともに次世代観測システムに必要なミッションレコーダーによるデー タ収集、プラットフォーム・バス技術、軌道間データ中継技術等の開発を行うことを目的とした衛星。 06-04-1997 08-04-1997 10-04-1997 12-04-1997 14-04-1997 16-04-1997 18-04-1997 20-04-1997 22-04-1997 24-04-1997 26-04-1997 27-04-1997 29-04-1997 01-05-1997 02-05-1997 03-05-1997 04-05-1997 05-05-1997 06-05-1997 07-05-1997 08-05-1997 捕集開始年月日〔 Date of cup rotation [ d-m-y ] 〕 物質フラックス〔Massflux(gm-2day-1)〕 450m 600m CO2 CO2CO2
  • 16. 2009. 08. 16 1973 2003. 06. 12 MODIS Rapid Response Team,NASA/GSFC MODIS Rapid Response Team,NASA/GSFC 世界航空地形図 (JNC) Earthshots: Satellite Images of Environmental Change,U.S.G.S.
  • 17. Sunday SaturdayFridayThursdayWednesdayTuesdayMonday 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1010 1111 1212 1313 1414 1515 1616 1717 1818 1919 2020 2121 2222 2323 2424 2525 2626 2727 2828 2929 3030 3131 8AUGUSTAUGUST 2011 World Meteorological Calendar Aral Sea 31302928272625242322212019181716151413121110987654321 水樹 大地 衛星情報利用ファシリテータ 中 央アジア、カスピ海の東部にに位置するアラル海は、かつては世界で 4 番目に大きな面積の湖であった。北はカザフスタン、南はウズベキ スタンにまたがり、湖に注ぐ2つの主要河川アムダリア川、シルダリア川の 源流は、遠くアフガニスタン、パキスタンや中国と接するパミール高原である。  1960 年ごろに約 68 万 km2 あった湖の面積は、急激に減少、塩分濃度が 上昇し、干上がった大量の塩類が周辺地域に飛散し塩害をもたらし、アラル 海周辺の環境・生態系、住民の健康に深刻な被害を与えている。アラル海の 縮小の最大の原因は、旧ソ連が実施した灌 かんがい 漑計画である。アムダリア川とシ ルダリア川からの水を綿花栽培等の灌漑用水に利用したため、アラル海に流 れるこむ水の量は激減してしまったのである。  アムダリア川下流部には河川の営力によるデルタが形成され、古代より人々 はデルタ周辺や湖の岸辺に移り住んでいた。農耕の発達とともに、水路が開 かれ灌漑される畑地の面積も広くなっていったが、この時代の人間活動は、 アラル海の縮小に影響を与えない程度であった。しかし、急激に縮小してい るアラル海は、ここ半世紀の人間活動の結果として起こっているものであり、 60 年代以降から打ち上げられた様々な地球観測衛星画像が、アラル海の縮小 の変遷、消滅への過程を鮮明に映し出している! 衛星画像の解説 A B C  1973年に観測した画像Bでは、アラル海の中央に 2つの島を確認できる。南側の島はバズラジジェー ニャ島(右の地図:赤点線内)と呼ばれており、旧 ソ連の時代には生物兵器の実験用の島として利用さ れていた(右の地図は、同時期頃に作製された世 界航空地形図)。モスクワより遠く離れた乾燥・半乾 燥地域にあるアラル海、その中央にあり、孤島で地 理的に隔離された場所であった。そのため、病原菌が 動物や昆虫によって近隣地帯へ感染することを避け ることができる実験場として使われていたのである。  1960 年代当初の島の面積は 200km2 であったが、アラル海の水が減少した 結果、1990年までには 2,000km2 に拡がり、その後も南北方向に拡がり、2001 年6月頃には、南側ウズベキスタンの湖岸と繋がってしまう状況になり、もはや 隔離された安全な島としての地理的な利点が無くなってしまったのである。 世界航空地形図 1:200 万(1973 年作製) JAMSTEC / Forecast Ocean Plus, Inc 2011 8 (℃) ▶ http://bit.ly/wmc2011 ▶ http://bit.ly/wmc2011_real 画像 B 1973 年に米国の地球観測衛星ランドサット− 5 号搭載のセンサ MSS が観測したアラル海のモザ イク画像である。アムダリア川からアラル海に 流れ込む河川水が確認できる。 (注:1960 年代には、米国の偵察衛星 CORONA が撮影している。) 画像 A 2009年8月16日に地球観測衛星テラ搭載のセン サ MODIS(モーディス)が観測した画像。湖は北 部の小さな小アラル海と南部の大アラル海に分か れ、更に南部の大アラル海は、中央に突き出した島 が南北で湖岸と接合したことによって東西に分かれ、 南北に細長い西アラル海が最後の姿として映し出さ れている。黒の輪郭は、1960 年代の湖岸線である。 画像 C 2003 年 6 月 12 日の地球観測衛星テラ搭載のセ ンサ MODIS(モーディス)が観測したデータを 世界航空地形図(JNC)の上にオーバーレイして 作成したカラー合成画像である。濃紺の部分は 水面域、水色の部分は水深が浅い地域、湖の東 側に分布する薄い水色の部分は、既に干しあがっ た地域である。
  • 19. Sunday SaturdayFridayThursdayWednesdayTuesdayMonday 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1010 1111 1212 1313 1414 1515 1616 1717 1818 1919 2020 2121 2222 2323 2424 2525 2626 2727 2828 2929 3030 9SEPTEMBERSEPTEMBER 2011 World Meteorological Calendar 302928272625242322212019181716151413121110987654321 高橋 桂子 独立行政法人 海洋研究開発機構 地球シミュレータセンター シミュレーション高度化研究開発プログラム プログラムディレクター 果で、日本領域の雲と海洋表面の様子を示している。  この予測シミュレーションは、全球(水平解像度 11km、上層 40km までを鉛直 32 層)と日本領域(水 平解像度 2.78km、鉛直方向は全球と同様に設定)を同 時にシミュレーションし、5 日間(120 時間)先まで のを予測した結果の一部である。予測シミュレーショ ンは、約 50 億点メッシュ上の計算を、地球シミュレー タの約 3 分の1の計算資源を使用して、5 ∼ 6 時間で 5 日先までの結果を得ることが可能である。  4 枚の画像はともに、大気は雲の様子、海洋は表面 (深さ 5 m)の温度を、異なる色調で表現している。左 側の画像 A,C においては、沖縄上空にさしかかった台 風の雲は、渦巻状のレインバンドと言われる強い雨を もたらす帯状の雲の特徴をよく再現している。シミュ レーションの結果においても、その直下において、非 常に強い雨(30 ∼ 50mm/h)が再現されている。 2 003 年の台風 10 号は、日本を縦断したとても強 い台風であった。台風の強度は、風の強さや降雨 量で測られるが、大気と海洋の相互作用が台風の発達 の仕方や強度に大きな影響を与える。  独立行政法人 海洋研究開発機構 地球シミュレータ センターでは、スーパーコンピュータ、地球シミュレー タの能力を最大限に活用し、精度よく気象や気候変動 を予測可能とするシミュレーションコード Multi-Scale Simulator for the Geoenvironment(MSSG)を開発し ている。  このコードは、大気と海洋、陸面、海氷などの地球 システムを構成する各要素の相互関係を取り入れて設 計されており、全球から都市スケールまでの気象や気 候変動をシームレスに予測することが可能である。こ こに示す 4 枚の画像は、いずれも MSSG を使用して、 2003 年の台風 10 号を予測シミュレーションした結  また、海洋表面の海水の温度分布は、台風の目の周 辺から東側かけての強風域においては、蒸発を通して 海水の熱エネルギーを奪い、また、強風によって海水 が撹拌され、より深い、温度の低い海水が海の表面に 上昇することで、表面の海水温が約 5 ∼ 6 度低くなる 様子が再現されている。右側の画像 B,D は、黒潮が温 かい潮流であり、銚子域で離岸する様子がよく再現さ れているとともに、台風の影響が日本の海上全般にお よぶ広い範囲にわたっていることがわかる。  温暖化による気候変化や、エルニーニョ、インド洋 ダイポール現象などの気候変動によって影響を受けた 大気と海洋の状態の変化が、台風の発生や発達および 強度にどのように影響を与えるのか、MSSG による予 測シミュレーションが、将来の台風を予測するための 強力なツールとなることが期待できる。 画像提供:独立行政法人 海洋研究開発機構 シミュレーション 画像の解説 A B DC 独立行政法人 海洋研究開発機構が保有する地球シミュ レータは 160 台の計算ノードを Fat-tree ネットワーク で結合した分散メモリ型並列計算機で、ピーク性能 131TFLOPS の高い演算性能を誇るスーパーコンピュータ である。 地球温暖化などの気候変化や地球規模の気候変動予測、 地震等の被害予測、また、産業界における新たな製品の 設計や安全性の検証など幅広い分野で活用されている。  ● 地球シミュレータセンター    http://www.jamstec.go.jp/esc/ 画像 A,B 海の色は温度を表している。 強風で海表面がかき混ぜら れ温度が下がっている様子 がわかる。 画像 C,D 海の色は表面温度を表して いる。 黒潮、台風によってかき混 ぜられている部分が変化率 が大きくなっている。 海表面水温 温← →冷 2003 年台風 10 号が沖縄上空 を通過する様子。日本列島全景 (B , D)と 沖 縄 上 空(A , C)の シミュレーション画像 海表面水温 温← →冷 ※画像ABCDともに、筋状の黒線は、水深 50m の流れ場の様子を流線として表している。
  • 20. → (画像1) ひまわり 可視画像 2009 年5月29日 12 時(JST) (画像2) ひまわり 水蒸気画像 2009 年5月29日 12 時(JST) Satellite Image  JMA/JWA Satellite Image  JMA/JWA
  • 21. Sunday SaturdayFridayThursdayWednesdayTuesdayMonday 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1010 1111 1212 1313 1414 1515 1616 1717 1818 1919 2020 2121 2222 2323 2424 2525 2626 2727 2828 2929 3030 3131 1010OCTOBEROCTOBER 2011 World Meteorological Calendar 31302928272625242322212019181716151413121110987654321 2009年 5月 29日12時 黒田 雄紀 気象予報士、気象友の会々員 て干ばつ、長雨、冷夏、猛暑、豪雪、熱波、寒波などの異常気象が発生 し災害が起こる。  図1は偏西風の流れの基本型の摸式図である。通常は東西流型と南北流型 とが数週間の周期で繰り返されるが、ある日突然に南北流型が異常発達して ブロッキング型へ移行することがある。ブロッキングは数種類の型があり、 発生要因などについて世界の気象学者は解明に取り組んできたが、まだ完全 には解明されておらず、多岐の要素が複雑に関係する難しい現象である。  偏西風の大蛇行で上空の寒気が南下し、四国沖に切離低気圧が形成さ れた。一方、暖気も北上し、オホーツク海に気圧の尾根が形成されたが、 切離高気圧までには発達できず、ブロッキング型は数日で解消した。こ のため関東などの肌寒い悪天は 6 日間で終了したが、更に長引くと低温 と日照不足で農作物などへの影響が出てくるため、期間の短いブロッキ ング型でも警戒すべき現象である。  なお、水蒸気画像では、雲の無い所でも水蒸気は分布し、種々のパター ンから偏西風の流れなどが把握され有用である。梅雨前線東方の暗域は 太平洋高気圧(亜熱帯高気圧)内の沈降に伴う乾燥域に対応している。 ※1 切離低気圧 偏西風波動の振幅が大きくなり、上空の寒気が南下して偏西風の本流から切り離された上層の 寒冷低気圧のこと。 ※ 2 切離高気圧 切離低気圧に対応するもので、暖気が北上して高緯度に形成される温暖な上層の高気圧のこと。 ※ 3 水蒸気画像 大気の中層から上層にかけての水蒸気の放射を観測し、雲の無いところを含め、広域の大気 の流れが可視化され、雲解析を行う上で有用である。 2 009 年 5 月下旬の頃、本州の太平洋側では肌寒い東よりの風が吹い て悪天が 6 日間続き、顕著な“走り梅雨”になった。天気図には四国 沖に切 せつ 離 り 低気圧※ 1 が停滞し、梅雨前線が南北に立つ状態で小笠原諸島付 近にある珍しい気圧配置になっていた。これは偏西風の流れが南北に大き く蛇行し、オホーツク海に気圧の尾根を形成して四国沖に上空の寒気を閉 じ込めたからである。  画像は、2009 年 5 月 29 日 12 時の“ひまわり”の北半球画像で、上から 可視・水蒸気・赤外の画像で写り方の違いに注目されたい。水蒸気画像※ 3 に付した矢印は当日の偏西風であるが、その流れはブロッキング型(図 1 を参照)になっていた。    偏西風の流れが南北に大きく蛇行すると、暖気が高緯度へ運ばれて暖か い切離高気圧※ 2 が形成される。一方、寒気の南下で中緯度に切離低気圧 が形成され、それぞれが停滞することになる。これがブロッキング型で通 常数週間以上持続する。この型になると頭上の偏西風は同じ方向へ流れ、 その地域は同じ天気が数週間以上続くことになる。このため地域によっ (画像3) ひまわり 赤外画像 2009 年5月29日 12 時(JST) 2009 年 5 月 29 日 12 時 の 天気図 赤 道 赤 道 赤 道 偏西風 暖気 寒気 暖気 寒気 寒気 通常の偏西風の流れ (天候は周期変化) 偏西風は大きく南北に分流、H・L停滞 (同じ天候が続き異常気象発生) 異常発達 4 ∼ 6 週 間 の 周 期 変 化 暖気 寒気寒気 東 西 流 型 南 北 流 型 ブロッキング 型 :温暖な切離高気圧 :寒冷な切離低気圧 Satellite Image  JMA/JWA
  • 22. NASA image courtesy MODIS Rapid Response TeamNASA image courtesy MODIS Rapid Response Team
  • 23. Sunday SaturdayFridayThursdayWednesdayTuesdayMonday 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1010 1111 1212 1313 1414 1515 1616 1717 1818 1919 2020 2121 2222 2323 2424 2525 2626 2727 2828 2929 3030 1111NOVEMBERNOVEMBER 2011 World Meteorological Calendar 302928272625242322212019181716151413121110987654321 JAMSTEC / Forecast Ocean Plus, Inc 2011 1 1 (℃) ▶ http://bit.ly/wmc2011 ▶ http://bit.ly/wmc2011_real 山形 俊男 独立行政法人 海洋研究開発機構アプリケーションラボ ヘッド、 東京大学大学院理学系研究科長 理学部長 ことが多い。北アメリカ大陸の西部ではエルニー ニョ現象が起きると降水量が増えるが、エルニー ニョモドキの時には乾燥気味になる。1994 年の 夏はインド洋に正のダイポールモード現象、太平 洋にエルニーニョモドキが出現し、日本周辺は記 録的な猛暑になった。  2004 年の猛暑もエルニーニョモドキが関係し ている。2005 年∼ 2006 年の冬には日本海側 で大雪があり平成 18 年豪雪と名付けられている が、これはラニーニャ現象とエルニーニョモドキ によるようだ。2009 年∼ 2010 年の冬には朝鮮 半島(画像左)や北米東部(画像右)などで記録的 な降雪があったが、これはエルニーニョモドキに 伴って偏西風が蛇行し、極域の寒気が流入したた めと考えられている。 ルニーニョ現象は熱帯域の東太平洋から ペルー沖にかけて海面水温が上昇する現 象であるが、近年、日付変更線付近の中央部太平 洋で海面水温が上昇し、それを東西に挟む東太平 洋と西太平洋で海面水温が下がる奇妙な現象がよ く現れるようになってきた。この海洋現象に呼応 して、熱帯対流圏の大気循環(ウォーカー循環※ 1 ) は中央部太平洋で上昇し、その東側と西側で下 降する傾向になる。この気圧分布の異常は世界 各地に伝播し、異常気象を引き起こす。エルニー ニョモドキが世界各地の気象に与える影響はエ ルニーニョ現象によるものとかなり違っている ため、エルニーニョ現象に似て非なる現象という 意味でエルニーニョモドキ(あるいは日付変更線 エルニーニョ)と呼ばれている。  たとえば、エルニーニョ現象は極東アジア地域 に冷夏、暖冬をもたらすことが分かっているが、 エルニーニョモドキの時には猛暑、厳冬になる  なぜ、エルニーニョモドキが頻発するように なったのだろうか。これは地球温暖化に伴って、 世界の海、特に熱帯の海が温暖化していることに 関係している。最近の 50 年程の間に世界の海の 水温は 0.04℃上昇したという報告がある。これ は対流圏下層の気温に換算すると 40℃もの上昇 に匹敵する。地球温暖化に伴う熱は海氷などを溶 かすだけでなく、海水を温め、既に地球の気候を 変え始めているといえるのではないか。エルニー ニョモドキ、エルニーニョ現象、ダイポールモー ド現象などの気候変動現象の発生頻度、強度、現 象相互の組み合わせなどに見られる変化はその 現れであろう。 ※ 1 ウォーカー循環 熱帯の大気はインドネシア海大陸、アフリカ大陸のコンゴ周辺、南 アメリカ大陸のアマゾン周辺で暖められて上昇し、太平洋東部、イ ンド洋西部、大西洋で下降する。したがって赤道に沿って見ると大 気の循環が起きている。この熱帯対流圏における大規模な東西鉛直 循環のこと。 120°E 160°E 160°W 120°W 80°W 20° S 20° N 0° エルニーニョ El Niño 水温躍層 Thermocline エルニーニョモドキ El Niño Modoki ラニーニャ La Niña ラニーニャモドキ La Niña Modoki 衛星画像の解説 画像左 地球観測衛星 Terra に搭載 された観測センサ MODIS がとらえた韓国での豪雪 (画像は 2010 年1月3日) 画像右 地球観測衛星Terra に搭載された 観測センサ MODIS がとらえたワ シントンでの 111 年ぶりの大雪。 (画像は 2010 年2月7日) エルニーニョ現象は偏東風が弱まる時に起きる。西太平洋では西風になる時さえある。東太平洋 の水温躍層は深くなり、海面水温も上昇して、大気は湿潤になる。逆に西太平洋の水温躍層は浅 くなり、海面水温も下降して、大気は乾燥気味になる。 エルニーニョモドキ現象はエルニーニョ現象とは違って、中央部太平洋で水温躍層が深くなり、 海面水温が上昇する。逆に、東太平洋と西太平洋では水温躍層は浅くなり、海面水温は下降する。 対流圏下層の風は中央部太平洋で収束し、そこで上昇流を生む。地球温暖化に伴う海洋温暖化で、 この現象が多発するようになった。 エルニーニョ現象の反対の現象。通常の状態が強まったものと考えてよい。 エルニーニョモドキ現象の反対の現象。中央部太平洋の水温躍層は浅くなり、海面水温が下降する。 ※2 水温躍層 … 海洋中の水温は、表層付近は撹拌されてほぼ一様になっているが、塩分があまり大きく変化しない 場合には、深さとともに水温も低くなる。その鉛直温度勾配が特に大きい層のこと。 ※2 やくそう
  • 24. ⇦ ⇦ (画像 1)ひまわり 6 号(MTSAT-1R)と GOES-11 の合成可視画像 2010 年3月11日09 時(JST) Satellite Image  JMA/NOAA/JWA
  • 25. Sunday SaturdayFridayThursdayWednesdayTuesdayMonday 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1010 1111 1212 1313 1414 1515 1616 1717 1818 1919 2020 2121 2222 2323 2424 2525 2626 2727 2828 2929 3030 3131 1212DECEMBERDECEMBER 2011 World Meteorological Calendar 31302928272625242322212019181716151413121110987654321 黒田 雄紀 気象予報士、気象友の会々員 影響を受ける。特に日数のかかる大洋航海では、 高波と強風を受け続けると船の速度が大幅に低 下してスケジュールが遅れ、船体や積荷の損傷 にもつながる。このため気象庁や気象会社では 波浪や海上風などの情報を作成し提供している。 情報作成の中心になるのが地上天気図で、その 基本図は数値予報の全球モデルに因るが、低気 圧の中心や前線などは気象観測実況で決定され る。しかし大洋上の気象観測実況は陸上に比べ て格段に少ないため気象衛星の雲パターンが頼 りになる。図 1 に挿入した低気圧や前線などは、 米国海洋大気庁(NOAA)が作成した北太平洋域 天気図(雲画像と同時刻)から抜粋したもので、 以下のように雲パターンの利用が見受けられる。 なお、これらの解析には、雲画像の動画や水蒸 気画像が有用されている。 静 止気象衛星5機と極軌道衛星2機による 全世界を連続して観測する「気象衛星観測 ネットワーク」が国連の世界気象機関で立案され てから約半世紀が経過した。日本が受け持つ“ひ まわり”は、西太平洋の赤道上空 35,800km の厳 しい宇宙空間で 30 年余にわたって順調な観測を 続け、現在は「気象ミッション」と「航空ミッショ ン」の2つの機能を持つ“ひまわり7号”が運用さ れ、観測機能が格段に強化されている。近年では 全世界の雲画像がリアルタイムで利用できる時代 になってきた。  画像は“ひまわり 6 号”(MTSAT-1R)と太平洋 の東部に位置する米国の気象衛星“GOES-11”の画 像を合成したもので(2010 年 3 月 11 日 09 時)、太 平洋を跨ぐような雄大な雲システムをとらえていた。  外洋船舶の運航範囲は広く、常に気象・海象の A. ドライ・スロット※1 とジェット気流 (閉塞段階の低気圧と閉塞点の決定) 両低気圧共、ドライ・スロットが L(低気圧) の中心付近まで進入し、ジェット気流が L から 南へ離れて前線を直交するなどで閉塞段階と閉 塞点を判定。なお、西側の L は、“入型で T 字型” の雲パターンから温暖型閉塞。東側の L は、閉 塞前線に沿って積雲が発達し寒冷型閉塞と推定 される。 合成画像の解説 (図1 を参照) B. ロープ・クラウド  (寒冷前線と停滞前線の決定) 画像 1 でロープ・クラウド(矢印:⇨) が明瞭。そこに寒冷前線と停滞前線が 解析されている。雲頂高度の低い、弱 い積雲で構成されているため画像2の 赤外画像では判別できず、不活発な前 線である。 C. クラウド・フィンガー(気圧の尾根の決定) 大気下層の気塊が気圧の尾根を過ぎて南西流場に入る と、“手の指”に似た下層雲が発生することがあり、気圧 の尾根の存在が推定できる。クラウド・フィンガーを形 成する下層の暖湿気塊は、南西気流に乗って暖暖前線面 を滑昇し、画像に見られるように発達した雲域を形成す る。WCB(Warm Conveyor Belt)と呼ばれる現象である。 このように、雲や雲パターンを読む(解析する)ことは 気象人にとって楽しいことである。 ◀ ひまわり 7 号(MTSAT-2 ) (画像 2) ひまわり 6 号(MTSAT-1R)とGOES-11の合成赤外画像(図 1) 雲パターンと気圧配置 × × × L L L H H H 60 N 30 N 120 E150 W150 E120 E 180 L H Satellite Image  JMA/NOAA/JWA JAMSTEC / Forecast Ocean Plus, Inc 2011 1 2 (℃) ▶ http://bit.ly/wmc2011 ▶ http://bit.ly/wmc2011_real 2010 年3月11日09 時(JST) ※1 ドライ・スロット 低気圧の中心付近に流入する細長い乾燥した寒気。
  • 26. 高温 低温 多雨 少雨 2009年 の顕 けん 著 ちょ な 異常気象・気象災害 の 概況 ベース画像:Blue Marble Land Surface, Shallow Water, and Shaded Topography Credits: NASA Goddard Space Flight Center 温室効果ガス監視情報 気象庁ホームページの温室効果ガス監視情報( http://www.data.kishou.go.jp/obs-env/ghghp/info_ghg.html) では、「地球温暖化による地球の環境の変化が、地球上の人類や生物にとって大きな問題となりつつあります。 この地球温暖化の原因となっているのが温室効果ガスの増加です。温室効果ガスの濃度が地球上で過去から現 在までの間、どのように変化してきたのか、地球上でどのように分布しているのか、そしてこのような変化や分 布がなぜ起こっているのかなどを正しく理解することは、地球温暖化問題を理解するための第一歩としてとて も重要です。」と、気象庁が世界中で観測された温室効果ガスの濃度をもとに作成した温室効果ガスの分布や変 化を、図を中心に紹介している。【右図:二酸化炭素分布情報 1985年12 月(左)、1995年12月(中央)、2008年12月(右)】 ※気象庁発表「気候変動監視レポート 2009」掲載  「2009 年の主な気象災害分布図」をもとに作成いたしました。 二酸化炭素の世界平均濃度 二酸化炭素 大気中の濃度 参考数値 産業革命前 約 280 ppm 前年との差2008 年平均濃度 (産業革命以降の増加率) 385.2 ppm (+ 38%) 寿命 (年) 放射強制力※ ( W/m2 ) + 2.0 ppm ※放射強制力とは、温室効果ガスの濃度変化や太陽放射の変化など、地球―大気系のエネルギーのバラ ンスを変化させる影響力の大きさをあらわし、数値が大きいほど気候を変化させる可能性が大きくな る。ここで示しているのは、産業革命以降 2005 年までの濃度増加分に対応する推定値と推定幅である。 不定 1.66 [1.49 ∼ 1.83] Copyright 気象庁 330 340 350 360 370 380 390 400(ppm) 1985年 1995年 2008年主な異常気象・気象災害  「気候変動監視レポート 2009」(気象庁、平成 22 年 6 月発行)によると、「2009 年の世界の天候の年平均気温は、 中央シベリアから西シベリア、カナダから米国などを除き、多くの地域で平年より高くなった。北緯 30 度∼南緯 30 度     の低緯度域で異常高温となる月が多かったが、米国中部周辺  では 10、12 月に異常低温となった。中 国周辺  は 11 月に、西シベリア∼中国東部  は 12 月に、それぞれ異常低温となった。 年降水量は、東シベリア、フィリピンからインドネシア  、ヨーロッパからアフリカ北部  で平年より多く、アラ ビア半島、南米南部、オーストラリア中南部で平年より少なかった。アフリカ南部  は 3 月に大雨、ヨーロッパ北 部  は異常多雨となる月が多く、アルゼンチン北部  は異常少雨となる月が多かった。」という特徴であった。 二酸化炭素分布(ppm)    低温(12 月)    多雨(雪)(12 月)    高温(2∼10 月)    台風・大雨(5月 , 9 ∼ 10月)    高温(4 ∼ 12月)    大雨( 9 ∼ 10月)    低温(11 月)    低温(10月 , 12月)    高温(5∼12 月)    高温(1∼2 月 , 5∼12 月)    大雨(3月)    多雨(9月)    多雨( 7 月)    高温・森林火災(1∼2月)    少雨(1月 , 3∼ 4 月)
  • 27. 2010 .2010 . 1212 3131303029292828272726262525242423232222212120201919181817171616151514141313121211111010987654321 西シベリアから中国東部では、北からの寒気の影響を受けた。 ロシアのビティム:12 月の月平均気温− 38.1℃(平年差 − 12.6℃)、中国のリャオニン(遼寧)省シェンヤン(瀋陽): 12 月の月平均気温− 11.1℃(平年差− 3.8℃)。 西シベリア∼中国東部❶ 低 温 12 月 11 月中旬を中心に発達したシベリア高気圧の影響を受け た。中国では雪により30人以上が死亡したと伝えられた。 中国シャンシー(山西)省のタイユワン(太原):11 月の 月平均気温− 0.9℃(平年差− 3.8℃)。 中国周辺❷ 低 温 11月 北から寒気が流入し、低気圧がたびたび通過したため、 多雨(雪)となった。 ロシアのスレテンスク:12 月の月降水量 22 mm(12 月 の月降水量平年値:5.7 mm)、北海道の寿都:12 月の月 降水量 190.0 mm(12 月の月降水量平年値:119.0 mm)。 モンゴル東部∼北海道南部❸ 多 雨(雪) 12 月 中国から中東では、2 月から 10 月にかけて、たびたび異 常高温となった。 中国コワントン(広東)省のコワンチョウ(広州):2 月の 月平均気温 21.0℃(平年差 +6.2℃)、サウジアラビア北 部のアルカイスーマ:2 月の月平均気温 19.0℃(平年差 +5.3℃)。 中国∼中東❹ 高 温 2∼10月 フィリピンでは、5 月初めに、台風第 1 号と第 2 号が相次い で接近し、90 人以上が死亡したと伝えられた。また、フィリ ピンでは、9 月末から 10 月初めにかけて、台風第 16 号と第 17 号が相次いで接近し、860 人以上が死亡したと伝えられ、 10 月末に接近した台風第 21 号によって、30 人以上が死亡 したと伝えられた。フィリピン北部のバギオ:台風第 17 号 による 10 月 6 ∼ 8 日の 3 日間降水量が 1220 mmに達した (10 月の月降水量平年値:514.3 mm)。 フィリピン❺ 台 風・大 雨 5月 , 9∼10月 ミクロネシアからインドネシアでは、4 月から 12 月にか けて、たびたび異常高温となった。 ミクロネシアのヤップ島:8 月の月平均気温 29.1℃(平 年差 +2.2℃)。 ミクロネシア∼インドネシア❻ 高 温 4∼12月 9 月末から 10 月初めにかけて、インド南部では大雨によ る洪水が発生し、320 人以上が死亡したと伝えられた。 インド中南部のクルヌールでは 9 月 28 日∼ 10 月 3 日 の 6 日間降水量が 300 mmに達し(平年比約 1290%)、 インド南西部のホナバルでは 9 月 28 日∼ 10 月 3 日の 6 日間降水量が 400 mmに達した(平年比約 1040%)。 インド南部❼ 大 雨 9∼10月 ヨーロッパ北部では、低気圧や前線が頻繁に通過した。 英国南部(イングランド)では、7 月の降水量としては、 1914 年以降で最も雨が多かったと伝えられた。 英国西部のカンボーン:7 月の月降水量 222 mm(平年 比 424%)。 ヨーロッパ北部❽ 多 雨 7月 アラル海からアフリカ北部では、月を通してたびたび低 気圧や前線が通過した。トルコでは大雨による洪水で 40 人以上が死亡したと伝えられた。 トルコ西部のバンドゥルマ:9 月 8 ∼ 9 日の 2 日間降水量 が 220 mmに達した(9 月の月降水量平年値:30.2 mm)。 アラル海∼アフリカ北部❾ 多 雨 9月 雨季の大雨によりザンベジ川上流などで洪水となり、ザ ンビアやナミビアなどで数十万人が避難していると伝え られ、ナミビアでは 90 人以上が死亡したと伝えられた。 ナミビア北部のオンダングアでは、3 月 1 ∼ 2 日の 2 日 間降水量が 110 mmに達した(3 月の月降水量平年値: 108.2 mm)。 アフリカ南部 大 雨 3月 マダガスカル周辺では、1 月から 2 月にかけて、及び 5 月から 12 月にかけて、たびたび異常高温となった。 モーリシャスのロドリゲス島:5 月の月平均気温 25.6℃ (平年差 +1.2℃)。 マダガスカル周辺 高 温 1∼2月 , 5∼12月 米国中部周辺では、10 月、12 月、北から寒気の影響を 受けることが多かった。 10 月には、ミシガン州などで低温による農作物への被害 が伝えられた。 米国サウスダコタ州のラピッドシティ:10 月の月平均気 温 3.7℃(平年差− 5.4℃)。 米国中部周辺 低 温 10, 12月 中米から南米北部では、5 月から 12 月にかけて、たび たび異常高温となった。 ベネズエラのカラカス:9 月の月平均気温 26.5℃(平年 差 +3.7℃)。 中米∼南米北部 高 温 5∼12月 アルゼンチン北部周辺では、1 月、3 ∼ 4 月は少雨傾向で、 異常少雨となる月もあった。 アルゼンチン北部のコルドバ:4 月の月降水量 3mm(平 年比 5%)。 アルゼンチン北部周辺アルゼンチン北部周辺 少 雨 1月 , 3∼4月 オーストラリア南東部では 1 月末から 2 月初めに異常高 温となった。また、同地域は少雨傾向が続き、ビクトリ ア州などでは大規模な森林火災により 180 人が死亡した と伝えられた。オーストラリア南東部のメルボルンでは、 1 月の月降水量が 1mm(平年値:46.1mm)で、日最高 気温は 1 月 28 ∼ 30 日に 43℃を超える日が続き、2 月 7 日には 46℃に達した(平年では日最高気温は約 26℃)。 オーストラリア南東部 高温・森林火災 1∼2 月 2 0 11 ● 6 月 移流霧 ― 羽田空港、濃霧で大混乱 ● 7 月 植物プランクトンブルーム(大増殖)と地球環境や気候への影響 ● 8 月 アラル海の縮小・消失 ● 9 月 地球シミュレータによる台風の強度予測 ● 10 月 偏西風の大蛇行 ― 異常気象をもたらすブロッキング ● 11 月 エルニーニョモドキが気象に及ぼす影響 ● 12 月 太平洋を跨ぐ雲システム ― 大洋上の天気図解析 ● 表紙 北極振動 ― 北極振動が、異常気象の原因?   裏表紙で、さらに詳しく解説しています。 ● 資料 2009年の顕著な異常気象・気象災害の概況 はじめに、目次 ● 1 月 新春寒波 ― 低気圧家族の雄大な雲システム ● 2 月 海難や豪雪をもたらす“収束雲” ― 新潟県・津南町の積雪 3 m 24cm に ● 3 月 アルプスからの雪解け水 ― 河川から海への土砂流出:水域環境に及ぼす影響 ● 4 月 ゴビ砂漠で砂塵嵐 ― 黄砂は寒冷前線の後面へ沈降する ● 5 月 火山噴火が気象に与える影響 ― 千島列島・サリチェフ(芙蓉)山、20年振りの噴火 と提唱している通り、世界経済も地球環境が安定している中で成立しております。  2010 年の夏も、世界の各地で猛暑が発生し、中国・日本でも豪雨により大洪水・ 土砂崩れなどの被害が多発しております。異常気象により世界の水・食料資源など が激変すると、世界の人々に影響を与えるとともに、人間の安全保障や世界経済に も影響を与えることになります。  一見全く異なるような現象が、地球の活動の大きなサイクルの中で繋がり、連動 していることが理解されるでしょう。  今回は 14 のテーマを大きく3つのカテゴリに分けてご紹介します。気象現象や 地球環境問題への皆様の『関心の入り口』となってご活用いただけましたら幸いです。 世 界気象カレンダー 2011 は、地球のシステムを様々な角度からとらえ、世界の気象 現象と地球環境に及ぼす影響を、美しい画像とわかりやすい解説で伝えています。  世界の人口は 1650 年に約 5 億人、1800 年に 10 億人、1960 年には 30 億人、 1999 年には 60 億人に、そして、2050 年頃には 90 億人になると予測されており、 1800 年半ば以降、急速・急激な増加を続けています。  フィリピンのピナツボ火山爆発などの火山活動、自然の営みも地球環境に影響を 与えますが、現在の地球環境問題は、化石燃料の大量消費、人口の急増に伴い人間 活動が地球の環境に影響する規模に拡大したことが主因です。また、「環境は経済の 一部ではない。経済が環境の一部である(エコ・エコノミー)。」[レスター・ブラウン] ☞
  • 28. 冬 に卓越する北極振動は本来、極域に低気圧、 中緯度に高気圧の偏差をともなうパターンで あるが、2009 年∼ 2010 年の冬は、それが逆転する 「負の北極振動」が過去 30 年で最も顕著な年となった。  その結果、北極は高気圧偏差となって寒気を中緯 度にもたらしやすい場が維持された(図1)。  こうした「負の北極振動」をより詳しくみると、 バレンツ海上ににはりだした高気圧の影響で北極の 寒気が西シベリアに蓄積されている様子がみてとれ る(図2)。バレンツ海上の高気圧はこの後大西洋上 でブロッキングに成長し、その東側にはジェットの 蛇行が形成される。西シベリアの寒気はこのジェッ トの蛇行に寄り添うようにして日本へと東進した。  12/18 に日本に到達した寒気の西側には暖気と、 さらにその西側には次の寒気がやってきており、こ うした空気の移流が大きな寒暖の差を生み出してい る。このように「負の北極振動」はブロッキングの 重なり合わせとみることも可能である一方で、北極 から中緯度へと寒気を移流するプロセスとして注目 されている。 黒田 雄紀(くろだ ゆうき) 気象予報士、気象友の会々員、狭山市生涯学習ボランティア 1933 年 京都府生まれ、埼玉県狭山市在住。気象庁と財団法人 日 本気象協会にて 50 数年にわたり気象業務を行う。特に気象庁では、 1977 年日本初の静止気象衛星“ひまわり”の新規業務に参加して雲 画像の解析業務を担当し、衛星情報の天気予報等への利用の道を開 く。財団法人 日本気象協会では各種の予報業務を担当し、気象予報 士を目指す若い人や気象キャスターに天気予報の技術や雲画像の解 析技術などを指導する。この間、ハレックス気象予報士講座の講師 を担当。当カレンダーの 1997 年版より監修と解説を行う。 2007 年には永年にわたる気象業務の功労で、「春の叙勲」を受章する。 主な論文や共書に「熱帯収束帯から伸び出す対流性雲バンド」「日本 海の収束雲と海難」「ひまわり画像の見方」「ひまわりで見る四季の 気象」「気象 FAX の利用法― Part Ⅱ―」などがある。  (担当月:1 月、2 月、4 月、6 月、10 月、12 月) 山形 俊男(やまがた としお) 独立行政法人 海洋研究開発機構アプリケーションラボ ヘッド、 東京大学大学院理学系研究科長 理学部長 1971 年東京大学理学部地球物理学科卒業、1977 年理学博士(東京 大学)学位取得、1979 年九州大学応用力学研究所助教授、1981 年 ∼ 83 年米国プリンストン大学流体力学研究所客員研究員、1991 年 東京大学理学部地球惑星物理学科助教授、1994 年同大学院理学系 研究科/理学部地球惑星科学専攻教授に就任、現在に至る。 海洋研究開発機構 地球環境フロンティア研究センター 気候変動予測 プログラムディレクター(1997 年ー 2009 年)、国際太平洋研究セ ンタープログラムディレクター(ホノルル、1997 年ー 2003 年)、 アプリケーションラボ ヘッド(2008 年から現在)を兼務。 受賞歴:1997 年日本海洋学会学会賞、2004 年米国気象学会スベ ルドラップ金メダル賞、米国気象学会フェロー、「最先端研究領域で 活躍する 16 人の日本人研究者」(Thomson Scientific)、2005 年紫 綬褒章、2008 年米国地球物理学連合フェロー、2008 年 Techno- Ocean Award 他多数。  (担当月:11 月) 吉永 順一(よしなが じゅんいち) 東京都立井草高校 非常勤教員、 NHK教育 高校講座「理科総合 B」講師 1976 年米国ワシントン州のレニア−山(4392 m)頂上から日本人 初滑降(世界第2番目)を始め、カナダ、ヨ−ロッパの登山、山岳ス キ−を楽しむ。以来、米国の全ての国立公園(イェロ−ストン等、現 在 60 弱ある)地質巡検を行う。2009 年のサモア諸島の地震・津波、 2010 年のハイチ地震は、昨夏、米領サモアとハイチの隣の米領 ヴァ−ジン諸島に地質巡検してきたばかりなので感慨深い。現在は 米国・カナダの国立公園の自然を、特に地質の観点から紐解き、地 球科学そして自然科学の面白さを伝えたいと模索中。  2002 年の NHK ス−パ−サイエンスから、高校講座「理科総合 B」 の講師。東京書籍「理科総合A・B」「地学Ⅰ・Ⅱ(前改訂まで)」や 科学技術振興機構のデジタル教材「調べてみよう!わたしたちの住む 大地のなりたち」「調べてみよう!ゆれる大地のしくみ」などの執筆・ 編集で地球科学の普及に努めている。現在、都立井草高校非常勤教員。  (担当月:5 月) 水樹 大地(みずき たいち) 衛星情報利用ファシリテータ 1949 年 東京浅草に生まれる。リモートセンシング(RS)技術・地 球観測衛星データの利用、普及啓発、教育に関する企画・調査研究等 の各種プロジェクトマネージメント、コーディネーションを行う。衛 星画像データを利用した地球環境・地球温暖化問題の理解増進のため のイベント・出版等に係わる企画協力・指導・執筆、及び衛星画像コン テンツ利活用推進のためのファシリテーション活動を行う。  衛星リモートセンシングデータ・現地調査・GIS・歴史資料等を利 活用した、中国新疆ウイグル地区、黄河中・下流地域、アラル海南部・ アムダリア流域、カンボジアのアンコールワット地域などの地球環 境変動調査に参画している。 著書等:「地球の素顔」(小学館 2000)、「まんが+衛星画像 宇宙から みた地球環境」(大月書店 2004)、「21世紀子供百科 地球環境館」(編 集協力 小学館 2004)、「わかりやすいリモートセンシングと地理情報シ ステム」(RS研究会)、「リモートセンシング応用事例集」(RS研究会) (担当月:8 月、資料) 監修・執筆者プロフィール 鈴木 靖(すずき やすし) 京都大学防災研究所 水資源環境研究センター 特定教授 1960 年秋田市に生まれる。1983 年東京大学理学部地球物理学科卒 業。財団法人 日本気象協会入社後、数値シミュレーションモデルを 利用した業務に携わり、1995 年に波浪数値モデルの研究で博士(理 学)の学位を取得。その後、風力発電や水ビジネスへの温暖化影響調 査などに関わった後、2009 年 10 月に京都大学防災研究所水資源環 境研究センター水文環境システム研究領域の特定教授に就任。気候 変動や社会変動がもたらす水文環境への影響評価や適応策の研究を 行っている。 主な著書:「風力エネルギー読本」(オーム社,2006)、「波を測る」 (沿岸開発技術研究センター,2001)、「波浪の解析と予報」(東海大 学出版会,1999)  (担当月:3 月) 高橋 桂子(たかはし けいこ) 独立行政法人 海洋研究開発機構 地球シミュレータセンター シミュレーション高度化研究開発プログラム プログラムディレクター 1991 年(平成3年)東京工業大学大学院総合理工学研究科システム 科学専攻 博士後期課程修了、工学博士。 同年、花王株式会社文理科学研究所に研究員として入所。1993 年 より英国ケンブリッジ大学コンピュータ研究所、東京工業大学大学 院総合理工学研究科、宇宙開発事業団を経て、2002 年より海洋科 学技術センター(現・独立行政法人海洋研究開発機構)地球シミュレー ションセンターへ、現在に至る。大気および海洋の異なるスケール 間相互作用メカニズムの解明、および超高速・超並列・高精度シミュ レーション手法の研究開発に従事している。  (担当月:9 月) NASA/GSFC- Visible Earth team、気象庁、一般財団法人 日本気象協会、独立行政法人 海洋研究開発機構、財団法人 リモート・センシング技術センター、ZIMO, Rudjer Boskovic Institute、独立行政法人 宇宙航空研究開発機構、 株式会社 フォーキャスト・オーシャン・プラス 有限会社ビットカフェ、奥村印刷株式会社 2009.12.03 ユーラシア大陸上から、北極のバレンツ海上に向けてリッジ(気圧の尾根)が形成される。 2009.12.09 バレンツ海上のリッジの発達とともに、北極から冷たい空気がシベリア側に移流する。 2009.12.18 バレンツ海上のリッジは大西洋上に移動しブロッキングに発達する。一方、蓄積された寒気はジェットの蛇行とともに 東に移流して日本にやってくる。今年の「負の北極振動」はこうしたブロッキングの重ね合わせとしても理解できる。 海面気圧から求められた冬(12 月∼ 2 月)平均の北極振動の 分布パターン。ここでは特に負の場合を示している。 北極海上の高気圧が日本に寒気をもたらすメカニズム ◎最新の予測情報は独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)のサイトで公開されています。  ⇨ http://www.jamstec.go.jp/frcgc/research/d1/iod/sintex_f1_forecast.html.ja ◎最新の海面水温情報は米国海洋大気庁(NOAA)のサイトでご確認いただけます。  ⇨ http://www.esrl.noaa.gov/psd/map/images/sst/sst.anom.month.gif ※本予測情報は実験段階のものです。実際のものと異なる可能性もありますので情報は自己の責任のもとでご利用下さい。  海面水温の予測は、独立行政法人 海洋研究開発機構 (JAMSTEC)の「地球シミュレータ」上で大循環モデル 「SINTEX-F1」を走らせて行われている。SINTEX-F1 は 観測された海面水温データを初期値として大気と海洋の未 来の様子を予測するプログラムで、エルニーニョ現象やイ ンド洋ダイポールモード現象の発生やそれに伴う冷夏 / 暖 冬といった短期の気候予測だけでなく、地球温暖化等の長 期の気候変化の予想にも用いることが出来る。  予測実験は独立行政法人海洋研究開発機構アプリケーショ ンラボの山形俊男 東大教授や羅 京佳 主任研究員らからな るチームが 2005 年から行っている。これらの予測は研究 段階にあるが、既にオーストラリアなどでは農業・畜産関 係者などに活用されている。 協力団体・企業 発 行 人      西村 征己 スーパーバイザー   市川 龍一、足立 仁 チーフディレクター  阿達 勝則 アートディレクター  西村 征己 デザイン       阿部 誠 セールスマネージャー 吉田 和男 制作スタッフ     西村 佐知、江月 毅、清水 雅子、渡邉 雪代、樋口 秀、圓尾 重樹、足立 季子 企画・制作・著作    日宣テクノ・コムズ株式会社 〒 160-0005 東京都新宿区愛住町12番地 La.K.R.S. ビル 1-2F TEL : 03-3357-0501 FAX : 03-3357-0775 E-Mail : info@nissen-yotsuya.co.jp http://www.nissen-yotsuya.co.jp/ 画像、テキスト、図表、天候ダイヤクラム等本カレンダー掲載のコンテンツの転載・2 次利用はできません。 法改正により、祝日・休日あるいは行事が一部変更になる場合があります。                                は日宣テクノ・コムズ株式会社の登録商標です。  当カレンダーは今年で 30 周年。当初からの 15 年は博学のW先輩が執 筆され、予報士制度が始まる頃に浅学の小生が引き継いだ。“ひまわり画 像”中心から、最近は強力な執筆陣によるグローバルなテーマが増えてき た。しかしながら“雲解析”について以下のような事情があり、その重要 性から“気象衛星の雲画像”は、中心的な役割を続けるものと信じている。  衛星雲画像で見る雲や雲域は、時々刻々と変化する大気現象そのもの で、豊富な気象情報を秘めている。それらについて気象学的な解釈を加 えて気象情報等を抽出することが“雲解析”である。それは、各種画像の 特徴を知り“雲形判定”と“パターン認識”を基本にして解析するが、抽 出する気象情報の質と量は解析者の能力差に大きく左右される。  日本付近では、各種の気象擾乱の発生・発達は世界有数である。それらの 兆候は、気圧系(天気図)よりも雲パターンの様相に早く現われることが多く、 “雲解析”により早期の把握が可能になる。この場合、数値予報などの気象解 析を充分に行い、動画を繰り返し見ることで擾乱の立体構造が理解され、時 には“数値予報の修正”の根拠となる情報を教えてくれることもある。  このように“雲解析”による気象情報は、天気予報等にとって極めて有 用であるが、残念ながら日本の予報現場では“雲解析の技術”が十分に育っ ていないのが現状で、“ひまわり”が有効に活用されていないのである。 それは、初代の“ひまわり”打ち上げ後において、諸般の事情で“生の雲 画像”が予報者に配信されず、数時間遅れの“雲解析図”などで代用され たこと。その間に、数値予報の進歩で“予報の答え”が大量に出力される 時代に入り、“解析”を苦手とする予報者が増えたこと。などに因る。気 象衛星の打ち上げ国として残念な実態である。  雲画像は、TV の気象情報として国民に定着しており、気象キャスターの 解説は気象知識の啓蒙と防災に有用で、更なる向上を期待する此の頃である。 堀 正岳(ほり まさたけ) 独立行政法人 海洋研究開発機構 地球環境変動領域 北半球寒冷圏 プログラム 研究員 1973 年アメリカ合衆国イリノイ州生まれ。2006 年、筑波大学生命 環境科学研究科において、地球温暖化将来予測実験内における東ア ジア冬季モンスーンの変調に関する研究で博士号(理学博士)を取得。 筑波大学環境科学研究科準研究員、気象研究所 環境・応用気象研究 部 ( 重点研究支援協力員 )、名古屋大学 環境学研究科 21 世紀 COE プログラム COE 研究員、名古屋大学地球水循環研究センター 研究 員を経て、2009 年より独立行政法人海洋研究開発機構に在籍。専 門は気候システム、および気候モデル実験を通した気候形成論。現 在はユーラシア大陸上に蓄積される寒気の長期変化と日本を含む東 アジアへの影響に関する研究に従事するとともに、バレンツ海を含 む北極海の海氷変動が中緯度に及ぼす影響について研究している。 (担当月:表紙) 才野 敏郎(さいの としろう) 独立行政法人 海洋研究開発機構 地球環境変動領域 物質循環研究 プログラム プログラムディレクター、名古屋大学 名誉教授 1978 年東京大学大学院理学系研究科生物化学専門課程修了、1979 年東京大学海洋研究所助手、1992 年同助教授、1994 年名古屋大学 大気水圏科学研究所教授、2001 年同地球水循環研究センター教授。 2008 年海洋研究開発機構・地球環境観測研究センター、地球温暖 化情報観測研究プログラム・プログラムディレクターを経て 2009 年 4 月より現職。 1996 年∼ 1998 年 財団法人日本海洋科学振興財団・ADEOS フィー ルドキャンペーン実行委員会委員長。1999 年∼ 2004 年、独立行 政法人科学技術振興機構・戦略的創造研究推進事業「地球変動メカニ ズム領域」研究課題「衛星利用のための実時間海洋基礎生産モニタリ ング」を、2004 年∼ 2010 年、同発展継続事業において「人工衛星 による海洋基礎生産モニタリング」を研究代表者として実施。  (担当月:7 月) Column 黒田 雄紀 (気象予報士、気象友の会々員) 北極振動( Arctic Oscillation : AO )とは、北極圏とそれを取り巻く中緯度帯の間の気圧場の南北の振動の ことで、近年、地球温暖化、異常気象をもたらす大気の長周期変動等の研究において特に注目されている。 堀 正岳 (独立行政法人 海洋研究開発機構 地球環境変動領域 北半球寒冷圏 プログラム 研究員) H H H L L 図1 図 2