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JRA 畜産振興事業
東京大学大学院農学生命科学研究科
附属食の安全研究センター
2013 年 3 月
「放射性物質汚染と畜産物の安全に関する調査事業」
報告書
 平成 23 年 3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震では、古くから畜産が盛んで、広い
地域で多くの乳用牛や肉用牛が飼育されている東北地方が甚大な被害を受けました。それ
らは、地震によるインフラ等への直接被害だけでなく原子力発電所事故に起因する二次災
害を含み、後者は未だに完全な終息の見通しが得られておらず、被災地の畜産業は依然と
して危機的な状況におかれています。
 畜産物を含め全ての食品は放射性物質が基準値以上含まれることのないよう厳重にチェッ
クされていますが、汚染稲わらを給飼した牛の肉から暫定規制値を超える放射性物質が検
出されて、被災地の畜産物に対して一般消費者等がもつイメージも低下し、これが被災地
畜産物全般の価格低下、買い控えを引き起こす要因となりました。その結果、これらが畜
産業関係者の事業意欲の減退につながり、被災地の畜産の活性化及び復旧・復興を大きく
妨げています。
 被災地の畜産物に対する理解を得るには、正しい情報の把握に加えて、その適切な整理
と伝達手段の整備が不可欠です。そのため、東京大学大学院農学生命科学研究科附属食の
安全研究センターでは、平成23年度から日本中央競馬会畜産振興事業の助成を受けて「放射
性物質汚染と被災地の畜産物の安全に関する調査事業」を実施してまいりました。その中で、
畜産物への放射性物質汚染とその安全性に関する科学文献調査、被災地(茨城県、福島県)
の畜産農家等への現地聞き取り調査、消費者を対象としたアンケート調査等を行い、それ
らの情報を踏まえた情報提供として、シンポジウム、パネルディスカッション、サイエンス
カフェ、インターネットによる動画配信などを行いました。これら事業による成果の報告を
兼ねて、平成25年 3月16日にシンポジウムを開催しました。
 本報告書は、私どもが行った事業全体の概要報告と消費者調査成績の概要に加えて、そ
のシンポジウムでご講演戴いた方々から資料を頂戴し、それらをまとめたものです。これま
での我々の活動およびこの資料が僅かでも被災地の復興へ役立ち、一日でも早く被災前の
状態に戻ることを祈っています。
2013 年 3 月
東京大学大学院農学生命科学研究科
附属食の安全研究センター長
関崎 勉
第1章 放射性物質汚染と畜産物の安全性に関する調査事業の概要
関崎 勉、細野ひろみ、局 博一・・・・・・・・・・・・・・・・・page 4
第2章 消費者調査の報告:3 回のインターネット調査から
細野ひろみ、関崎 勉、局 博一、熊谷優子・・・・・・・・・・・・page 14
第3章 福島県における牛肉の安全性確保と出荷管理の取組について
森口克彦・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・page 26
第4章 飼料作物の放射性セシウムモニタリングとその低減化に向けて
山本嘉人、原田久富美、渋谷 岳、菅野 勉、栂村恭子・・・・・・・page 38
第5章 家畜と畜産物への放射能汚染対策:東大付属牧場での取組
眞鍋昇、李俊佑、橘由里香、田野井慶太朗、中西友子・・・・・・・・page 56
第6章 被災家畜における放射性物質の動態及びと畜前推定技術の検証
山城秀昭、阿部靖之、福田智一、木野康志、桑原義和、福本 基、小林 仁、
篠田 壽、関根 勉、磯貝恵美子、福本 学・・・・・・・・・・・・page 78
目       次
 平成 23 年 3 月 11 日の東北地方太平洋沖地震では、古くから畜産が盛んで、乳用牛
や肉用牛がさまざまな地域で多数飼育されている東北地方が甚大な被害を受けた。
それらは、地震によるインフラ等への直接的被害だけでなく原子力発電所事故に起
因する二次災害を含むことから、未だに完全な終息の見通しが得られておらず、被
災地の畜産業は依然として危機的な状況におかれている。被災地を中心とした東日
本地域では、畜産物を含め全ての食品は放射性物質が基準値以上含まれることのな
いよう厳重にチェックされているが、汚染稲わらを給飼した牛の肉から規制値を超え
る放射性物質が検出された事件以来、被災地の畜産物に対する一般消費者等のイメー
ジも悪く、これが被災地畜産物全般の価格低下、買い控えを引き起こし、被災地の畜
産の復旧・復興を大きく妨げている。
 被災地の畜産物に対する消費者の理解を得るには、正しい情報の把握に加えて、
その適切な整理と伝達手段の整備が必要である。そのため、東京大学大学院農学生
命科学研究科附属食の安全研究センターでは、日本中央競馬会畜産振興事業の助成
を受けて、平成 23 年度「畜産物に対する放射性物質の安全に関する事業」および平
成 24 年度「放射性物質汚染と畜産物の安全に関する調査事業」を実施した。その中で、
畜産物への放射性物質汚染とその安全性に関する科学文献調査、被災地(茨城県、
福島県)の畜産農家等への現地聞き取り調査、インターネットによるアンケートを利用
して消費者行動調査、消費者の理解度調査を行い、それらの情報を元に消費者を対
象としたウェブコンテンツの開発とインターネットによる動画配信、シンポジウム、パ
ネルディスカッション、サイエンスカフェなどをった。本稿は、これらの取組とその
結果についてまとめたものである。
1.食の安全研究センターが被災地復興に取り組む背景
(1)食の安全研究センターの設立とその役割
 今日では、食の安全・安心はわが国や欧米先進国だけでなくアジア地域等の途上
国も含めた世界中の国々での大きな関心事となっている。食の安全はあくまでも科
学的な評価によってもたらされ、一方で食の安心は情報の公開・提供、危機管理の
第1章 放射性物質汚染と畜産物の安全性に関する調査事業の概要
1
東京大学大学院農学生命科学研究科附属食の安全研究センター、
2 同附属生態調和農学機構
関崎 勉 1、細野ひろみ 2、局 博一 1
−4−
−5−
方策などによってもたらされる。このため我が国では、2003 年に食品安全委員会が
設立され、食の安全に関する科学的な評価や情報の公開と危機管理が始まった。一方、
大学においても食の安全に対する教育・研究を専門に進める動きが盛んになった。
このような背景から、東京大学大学院農学生命科学研究科では、2006 年 11 月に附属
食の安全研究センターを設立した。ここでは、食の安全・安心に関わる問題につい
て「農場から食卓」までを網羅する総合的な研究・教育に持続的に取り組んでいる。
また、その活動を通して 学術分野での貢献のほか、国民、行政、企業への情報提供、
アジア地域を中心とした留学生、社会人の教育・研究の受け入れを通じた高度な技
術と知識を有する指導者の育成、食品安全関連分野の国内機関および国際機関との
緊密な連携をめざしている。
(2)被災地復興事業に向けて食の安全研究センターが取り組むべき課題
 食の安全研究センターは、リスク分析の 3 要素に対応したリスク評価科学部門、リス
ク制御科学部門、情報学・経済学部門の 3 部門を有していたが、今回の放射性物質汚
染問題への対応は重要な課題であると考え、2012年 4 月から放射線部門を新設した。
現在、合計約 50 名の専任・兼任・特任教員が所属しており、多種多様な専門分野の
教員を集めた他に類を見ない研究センターになっている。
 一方、畜産物に対する放射性物質汚染の安全性に関する情報提供は、これまでの
縦割りの専門分野単独では十分に対応できない複雑な問題である。食の安全研究セ
ンターは多種多様な専門分野の教員を抱えた組織であり、今回の問題のように畜産
学、獣医学、食糧化学、食品衛生学、農業経済学、リスクコミュニケーションなど、
互いに関連性も異なるいくつもの学問領域の知識・経験を複合させねばならない問
題解決には最適な組織である。従って、今回の災害とその被害から立ち直ろうとし
ている我が国に対して、微力ながら貢献できるよう活動することこそセンター設立
の目的に合致するものと考え、積極的にこの問題解決に取り組むこととした。本事
業では、まず、復興活動の基盤となる情報収集を行い、それらをもとにしてウェブコ
ンテンツとシンポジウム開催等による情報発信を行った。
2.基盤となる情報収集
(1)専門家会議
この事業は、特定の課題を解明する通常の研究課題と異なり、これまで得られてい
る科学的知見に基づき、畜産物の放射性物質汚染に対して消費者に正しく理解して
もらおうとするものであり、担当した教員にとっても初めての試みであった。その
ため、外部の学識経験者等からなる有識者検討会を組織し、本事業全体の進行、成
−6−
果等に対する専門的見地からの助言を受け、できるだけ効率的かつ円滑な事業の推
進を目指すことにした。そこで、事業全体の進め方やその成果について意見を聴取
する検証評価委員会、科学文献調査にあたり必要な情報源に関する助言やとりまと
めた報告書の記述を科学的見地から精査してもらう文献調査専門委員会、さらに収
集した情報をもとに、畜産物への放射性物質の安全に関する情報発信のためのウェ
ブコンテンツについて助言を求めるリスクコミュニケーション専門委員会を組織し
た。これらの委員会は、放射線に関連した科学分野の学者・研究者、生活協同組合、
農業協同組合、メディア関係者および消費者連合やリスクコミュニケーションを主た
る業務とする企業関係者など消費者との対話に関して多くの経験を有する各界の識
者により構成された。
(2)畜産物の放射性物質汚染とその安全性に関する科学文献調査
被災地の畜産物に関する理解醸成を促す根拠となりうる文献調査として、学術文献
等の検索・収集・解析を行った。作業にあたっては、検証評価委員会からの全体計
画に関する助言および文献調査専門委
員会からの放射線学および放射線生物
学に関する専門的な助言を受けながら
国内外の文献を収集した。文献の収集
ととりまとめに関しては、こういった
情報収集と整理に関する多くのノウハ
ウを有する調査会社に外部委託して、
きめ細かい作業を行った。その内容は、
日本における畜産の概況、家畜と飼料
についてなど、日本の畜産を理解する
基礎に始まり、参考とするチェルノブ
イリ原子力発電所事故関連データを読
み解く注意点、畜産物中の放射性物質
に関する過去の知見、各国・国際機関
における規制・基準値報告書、および
関連する参考情報や収集した文献に関
する情報を含み、畜産物とその放射性物質汚染に焦点を絞った報告書としては他に
類のないものとなった。その報告書の pdf 版は現在 HP 上で公開しており、誰でも無
料でダウンロードできる(図1)。
図1 文献調査報告書の表紙
−7−
(3)消費者意識把握のためのインターネット調査
 食品への放射性物質汚染は、日本人にとってこれまでは懸念の対象とはならなかっ
たと考えられる。そこで、消費者がこの問題をどの程度理解し、どれくらいのリス
クと感じているか、次に科学
的理解の向上が被災地の食品
に対する態度や購買時の選択
に影響するのか、そして、消
費者に理解してもらうために
はどのような情報提供が必要
なのかを知り、次項のウェブ
コンテンツ作成の際に利用する
ために、インターネットを利用したウェブアンケートを行った。調査項目については
我々が作成し、それを専門の調査会社に外部委託して、平成23年度には2回のインター
ネット調査(図2)を行った。さらに、それに参加した人々から希望者を募って少人
数のフォーカスグループインタビューも 2 回行い(図3)、情報発信のためのウェブコ
ンテンツ改善に必要
な意見を聴取し、そ
の改善の効果は 2 回
目のインターネット
調査で確認した。回
答者は、20 ∼ 60 代の全国の男女 4,363 名で、年齢と性別について均等にデータが得
られるよう収集し、各都道府県で年齢性別ごとに最低 5 名の回答が得られるまで調査
を継続した。また、平成 24 年度では、震災からまる 1 年以上経過した後に、消費者
の意識が 1 年前と比べてどのように変化したかについても着目して、合計 2 回のイン
ターネット調査を実施した。
 調査で得られた情報については、解析が済んだものから順次、学会や専門雑誌に
詳しく報告すると共に、本報告書の第2章に詳細を解説した。
(4)被災地の生産者への聞き取り調査
 生産現場でどのような問題が最も大きな復興の妨げとなっているかを知るために、
被災地現地での生産農家を中心とした聞き取り調査を計画した。当初は、福島県及
び北関東3県(茨城県、栃木県、群馬県)を訪問する予定であったが、平成 23 年 7 月、
汚染稲わらの給飼によると思われる暫定規制値を超える放射性セシウムが牛肉から検
出された事件の影響もあり、平成 23 年度では茨城県のみが訪問を受け入れてくれ、
図2 消費者調査の流れ
図3 フォーカスグループインタビューの様子
−8−
さらに翌平成 24 年度になってようやく福島県を訪問した。茨城県では、震災直後の
交通網の混乱による水不足、餌不足、その後の出荷制限など、予想もしなかった困
難に立ち向かいながら牛の飼育を軌道に乗せるべく努力されていることを伺った。
さらに、調査は震災後半年ほど経過していたが、未だに自家生産の稲わらが餌とし
て利用できないこと、採算割れするくらいに買いたたかれていること、その結果、
畜産業関係者の事業意欲の減退や後継者不足に拍車がかかり、地域の和牛生産が壊
滅的危機に瀕していると感じた。特に、被災地農家への聞き取り調査では、放射性
物質汚染の直接間接な被害に加え、口蹄疫の発生、ステーキチェーンの食中毒、ユッ
ケ食中毒、和牛預託大手牧場の破綻とその財産整理による和牛枝肉価格下落の影響
等が複雑に積み重なって畜産農家を窮地に追い込んでいたことが指摘され、問題の
複雑な側面も明らかになった。さらに、養豚や養鶏に関しては、殆どが輸入飼料に
依存しているにも拘わらず、被災地であるというだけで取引停止や売り上げ減少が
顕著であるようで、これらの完全復活には複雑な要素が絡み合っていることが改め
て認識された。下げ止まりを見せない我が国の食糧自給率の低下を考えると、なん
としても生産者の減少を最少に食い止める手立てを講じなければならないと感じた。
平成 24 年に実施した福島県での調査では、茨城県と同様な困難に加えて、未だに水田、
牧草地、放牧地などで高い放射線が観測され、それらの土地利用も、そこで育った
草や稲わらを牛に給与することもできない状態が続いており、畜産関係者を苦しめ
ていることを知った。そこで見た、刈り取られロール状になった牧草がビニールシー
トで覆われ、牧草地の斜面に利用されるあてのないまま放置されている情景が忘れ
られない。
3.畜産物への放射性物質汚染に関する理解醸成のための情報発信
(1)情報発信のためのウェブツール
 文献調査により集めた情報から、我が国の
畜産、特に和牛の生産において関連する放射
性物質汚染に焦点を当てて、放射性物質に関
する基礎的事項、牛肉の生産について、規制
値の決め方について、検査の仕組みについて
など、できるだけ易しい表現で解説する簡単
な動画としてまとめた。提供する情報は、専
門委員会委員やフォーカスグループインタ
ビューでの意見を参考に精査した。全体を連
続したストーリーにまとめたが、全体で 5 分 図4 公開したウェブコンテンツ
−9−
を超えると途中で止めるケースもあること、ウェブには同一人物が複数回アクセス
することもあるので、話題ごとに分けた見出しをつけて、好きな項目にそれぞれア
クセスできるようにし、関連する情報や、前述の文献調査報告書へのリンクも掲載
して、「放射性物質に関する情報」と題して食の安全研究センターの HP にアップし
た(図4)。
(2)シンポジウムの開催
本事業は単年度で終了するため、平成 24 年 3 月にまとめの報告会を兼ねたシンポジ
ウムを、平成 24 年 10 月には、被災地の方々をお招きし、現地の状況や震災以降の
対策について解説して戴くシンポジウム・パネルディスカッションに、また、平成
25年3月には報告会を兼ねたシンポジウムを開催した。まず、平成24年3月24日には、
「東京電力福島第一原発事故から学ぶ食の安全−畜産物について−」と題してシンポ
ジウムを開催した。そこでは、事業全体の概要に始まり、文献調査報告書の内容の
一部と、インターネット調査の結果の一部集計についての要約を紹介した後、専門
講師による「放射線の生物作
用と人体への影響(近藤 隆:
富山大学医学部教授)」、「東大
付属牧場での試験成績:乳牛
における放射性セシウム動態
を中心に(真鍋 昇:東京大
学農学部教授)」、および「福
島原発 20km 圏内の被災牛に
おける体内放射性物質の測定
と解析(磯貝恵美子:東北大
学農学部教授)」の 3 題の講演を行い、その後、会場から回収した質問をもとにパネ
ルディスカッションにより議論した(図5)。また、平成 24 年 10 月 28 日には、「農
場から食卓への安心確保の取り組み」と題したシンポジウムとパネルディスカッショ
ンを開催した。そこでは、被災地からお越し戴いた講師により「みやぎ生活協同組
合の取組(沼沢美知雄:みやぎ生活協同組合産直推進本部事務局長)」、「福島『酪王
乳業』の取組(鈴木伸洋、酪王乳業株式会社執行役員経営管理部長)」、「飯館村養牛
家の決断(菅野義樹:和牛繁殖農業経営)」、「放牧酪農を妨げる放射性物質汚染(上
野裕:酪農業経営)」の 4 題の話題提供の後、全演者に加えて放射線生物学の専門家(近
藤 隆:富山大学医学部教授、田野井慶太朗:東京大学農学部准教授)とメディア
関係者(澤野林太郎:共同通信社記者)にも登壇戴き、フロアから集まった質問を
図5 シンポジウム開催の様子
−10−
もとに議論を展開した(図5)。これらのイベントの詳しい内容については、開催概要・
講演要旨に各演者から提供されたスライドを加えて、開催報告として食の安全研究
センターの HP に掲載している。
 さらに、平成 25 年 3 月 16 日には、「放射性物質汚染と食の安全 −被災地の畜産
業復興を願って−」と題したシンポジウムを開催した。事業の概要に続けて、「消費
者調査の報告(細野ひろみ:東京大学農学部准教授)」、「福島県における牛肉の安全
性確保と出荷管理の取組について(森口克彦:福島県農林水産部畜産課主任主査)」、
「飼料作物の放射性セシウムモニタリングとその低減化に向けて(山本嘉人:独立行
政法人農研機構畜産草地研究所上席研究員)」、「家畜と畜産物への放射能汚染対策:
東大附属牧場での取組(眞鍋昇:東京大学大学院農部教授)」、「被災家畜における放
射性物質の動態及びと畜前推定技術の検証(山城秀昭:新潟大学農学部助教)」の 6
題の講演を行った。このシンポジウムに関連する内容は、本報告書の第 2 章以降に
まとめて掲載した。
(3)サイエンスカフェ
 平成 24 年度の事業では、初めての試みとしてサイエンスカフェを3 回開催した。こ
れは、食の安全研究センターの研究室が入居する研究棟のエントランスホールに開業
しているカフェに協力戴いて店内をほぼ貸し切り、定員 20 名ほどの設定で希望者を
募り、リラックスした雰囲気で放射線に関連する科学的知識について理解を深めて
もらおうという試みである。情報提供者として、本センター放射線部門のメンバー
に登場戴き、参加者との双方向の議論を盛り上げるために、本事業の分担者である
細野准教授にファシリテーターの役を務めてもらった。第 1 回は「聞いてみよう!放
射性物質と農産物のコト(田野井慶太朗:東大農学部准教授)」、 第 2 回には「アイ
ソトープイメージングで見る植物活動∼見えないを「見える」にする技術∼(中西
知子:東大農学部教授)」、第 3 回は再び田野井准教授により「続・聞いてみよう!
放射性物質と農産物のコト」と題して
開催した(図6)。初回では、応募者が
定員を超えた場合、抽選で参加者を決
めることにしたところ、35 名もの応募
があった。そのため、2 回目以降では、
先着順に参加者を受け付けることにし
たが、定員に達し応募を締め切った後
も参加希望が届き、放射性物質に関す
る感心の高さが伺えた。これまでのシ図6 サイエンスカフェ開催の様子
−11−
ンポジウムのように広い会場ではなく、マイクを使わずに生の声で講師の説明を聞
き、話の途中にいつでも質問を受け付けるようにし、さらに、ファシリテーターの
誘導もあって、参加者からは活発に質問や意見が寄せられ、毎回、終了時間を超え
ても殆どの参加者は帰ることなく延長戦に突入し、講師に質問を浴びせていた。開
催した我々にとっても、一般消費者が求めている情報や、我々からの情報提供が適
切であったかどうかなどを知る貴重な機会となった。この開催形態は、大きなシン
ポジウムに比べて必要経費も少なく、適切な講師と話題選定ができれば、今後も連
続して開催すべきであると感じた。これら 3 回のサイエンスカフェ開催報告につい
ても、食の安全研究センター HP に掲載している。
(4)3つ折りパンフレットとポップスタンド
 放射性物質汚染と畜産物の安全について、一般消費者に理解してもらいたいと思
われる事項をまとめ、イラスト入りのパンフレットを作成した。手に取って表紙の
裏を見ると、「生産者の声」として、10 月 28 日のシンポジウムで話題提供してくれた
飯館村の養牛家・菅野義樹さんの言葉がある。パンフレットを開くと、そこには、「牛
肉にはどれくらいの放射性物質が含まれてい
るか?」という Q&A で、現在までに出荷され
た牛肉の検査成績の積算と現状を解説する
パートがある。さらにパンフレットを開くと、
肉牛の飼育から牛肉になるまでに、放射性物
質に汚染されたものが市場に出回らないよう
に、牛の餌や牛はどのように管理されている
か、肉に加工されるまでにどのような検査が
行われているか、イラストと共に理解できるよ
うにまとめてある。これを食肉店などの店頭
に置いて自由に持っていったもらうため、パ
ンフレットに合わせたポップスタンドも作った
(図7)。パンフレットは、3 月 16 日の報告シン
ポジウムにおいて、来場者に配布しただけでなく、前述の専門家会議のメンバーで
ある生活協同組合の方や、食の安全研究センターがこれまでの業務で付き合いのあっ
た食肉業共同組合等の方々の協力によって九州・関西・東日本の生協および東日本
10県の精肉店(各県10店舗)の店頭にポップスタンドと共に設置をお願いした。また、
今後も、関係するイベント等で来場者への配布を予定している。
図7 3つ折りパンフレットとポップスタンド
−12−
3.未来へ向けた今後の活動
 放射性物質汚染に関しては、たとえ専門家でも「どれくらいだったら安全です」
とはっきり言える閾値はない。例えば、筆者たちが安全だと信じていても、それは、
我々個人が自身のためにそう思うことであり、決して他人に押しつけることはでき
ない。すなわち、安全であるかどうかを判断するのは消費者自身であり、我々は、
消費者が正しく判断できるようにきめ細かく情報提供するしかない。しかし、この
事業で様々なイベント等を介して感じたことは、やや熱を帯びた口調で情報提供を
すると、反って聴衆は我々を御用学者だと感じ、汚染した肉を無理矢理食べさせよ
うとしている好ましくない集団だと感じてしまうことである。我々は、被災地の農
産物も厳重に管理されており、放射性物質が検出されないものまで忌み嫌うことは
ないと伝えたいのである。このような消費者の疑問や懸念を解き、被災地の農産物
に対する理解醸成を促すためには、コミュニケーションツールの更なる改善と継続
した普及が必要である。そのために、被災地の生産者や食品関連事業者が安全・安
心に向けてどのような取組をしているのかを広報することや、さらに理解し易いデ
ジタル教材の開発など継続した活動を積極的に行っていく必要があろう。
−13−
1.はじめに
 東日本を中心に壊滅的な被害をもたらした地震と東京電力福島第一原子力発電所事
故から2年が経過した。事故発生直後から、市民の間には放射性物質による環境中や食
品中の汚染に対する懸念が広がり、事故現場から距離の離れた地域への居住を選択せ
ざるを得なくなったり、食品購入時には産地を確認するなど、特定の地域の食品に対
する買い控えが見られるようになった。
 こうしたなか、放射性物質による環境中や食品中の汚染状況に関する調査が各地で
実施され、汚染状況の実態把握がすすめられた。当初設定された食品中の暫定規制
値は、2012 年 4 月に基準値として見直され、一般食品中の放射性セシウムは 100Bq/kg
以下に管理されている。公表されている食品の汚染状況を確認すると、現在では、ほ
とんどの食品が未検出であることが確認できる。とはいえ、放射性物質に対する懸念
や不安が払しょくされたわけではない。牛肉については、2011年の夏以降2013年 1月
までに 24 万件を超える放射性物質の検査が行われてきた。2013 年 11月以降は、基準
値である100Bq/kg を上回る放射性セシウムは検出されておらず、99%以上が検出限
界を下回っている。しかし、福島県産牛肉の枝肉卸売価格は、徐々に回復がみられる
ものの、全国平均を下回る価格での推移が続いている。
 震災後は、市民の食品リスク認知や購買行動についての研究も蓄積がすすめられて
いる。食品安全委員会のモニター調査の結果をみると、放射性物質を含む食品に対
する不安の程度は、2011年には88.5%の回答者が不安であると回答していたのに対し、
2012 年には 80.3%、2013 年では 74.2%と低下傾向がみられる。しかし、依然として不
安感が高いことを示す結果となっている。本事業においても、市民が放射性物質の
リスクや被災地の食品についてどのように認識し、商品を選択しているのかを探る調
査を進めてきた。以下では、この結果について述べることにする。
2.調査の概要
 消費者のリスク認知と知識・態度について把握するために、2011 年10−11月、2012
年3月、2013年1月にインターネット上で調査を実施した。原発事故の発生以降、放射
第 2 章 消費者調査の報告:3 回のインターネット調査から
1
東京大学大学院農学生命科学研究科附属生態調和農学機構、
2 同附属食の安全研究センター
細野ひろみ 1
、関崎 勉2
、局 博一2
、熊谷優子2
− 14−
−15−
性物質に関するリスクやその管理方法については、さまざまなメディアを通して情報
発信がなされてきた。そうした中で、2011年度は、市民がどのようにリスクを認識し、
どのような情報が求められれているのかを探り、よりよい情報提供パッケージを作成
することを目的とした。作成した情報提供パッケージは、テーマごとに食の安全研究
センターのWeb上(http://www.frc.a.u-tokyo.ac.jp/event/radioactive/radioactive.html)
で閲覧することができる。2012 年度の調査でも、リスク認知や知識・態度について継
続して把握するとともに、国内で採られている放射性物質の管理に対する満足度と
の関係を探った。また、2012年度に作成した情報提供ツールでは、食品中の放射性
物質のリスクや管理に加え、これまでに行われてきた検査結果や、関連する対策費用、
食品中の放射性セシウムによる損失余命の推計値などについての情報提供を行った。
 以下では、第1回、第2回の結果と比較しつつ、2012年度に実施した第3回の調査結
果を中心に述べる。回答者の概要を表1に示す。
表 1 回答者の概要
− 16−
報 3.結果
1)食品中の放射性物質の検査・管理主体
 第 1 回と第 2 回の調査では、食品中の放射性物質の検査は、どこが行うべきか(複
数回答)という質問をしたのに対し、第3回の調査では、食品中の放射性物質のリスク
管理は、どこが行うべきか(複数回答)という質問としたため、直接比較はできないが、
これらの問いに対する結果を第1 図に示す。
 検査主体について質問を行った第1回の調査では、農林水産省(68.6%)が最も多く、
次いで厚生労働省(54.8%)、食品安全委員会(52.3%)が 50%を超えていた。第 2 回の
調査では、食品安全委員会(55.0%)や農林水産省(54.7%)という回答が多く、厚生
労働省(41.9%)、食品メーカー(39.9%)、都道府県(39.8%)と続いた。
 リスク管理主体について質問した第3回の調査では、農林水産省(74.2%)をあげる
回答者が最も多く、次いで食品安全委員会(62.7%)、厚生労働省(53.9%)であった。
第3回の調査結果をみると、約1/4の回答者が自分をリスク管理主体としてあげていた。
2)放射性物質に関する知識
 第3回の調査では、回答者を3つのグループに分類し、放射性物質(牛肉あるいは牛乳)
とBSEに関する情報提供を行った。情報提供に先立ち、放射性物質のリスクやその管理
について、どのように認識されているのかを探るためのクイズを行ったので、その結
果(正答率)について図2に示す。
 ベクレルやシーベルトという言葉は、事故発生後によく耳にするようになったが、そ
の違いについての認識率は約 40%であった。自然界からの放射線量や、遺伝子には修
復機能があることについて認識していた人は約1/4にとどまっていた。また、食品中の
放射性セシウムの基準値が1mSv/年を超えないように設定されていること(牛肉:21.5%、
図1 食品中の放射性物質の検査・管理主体
− 17−
牛乳:23.2%)や、牛肉(牛乳)の放射性セシウムの基準値が100(50)Bq/kgであること(牛
肉:7.5%、牛乳:8.2%)の認識率も低いことが示された。低線量被ばくによる健康影
響については、議論が分かれるところであるが、「疫学調査の結果、100mSv以下の被
ばくでの健康影響は確認されていない」という質問に対して「正しい」と回答した人は
15%程度であった。
3)リスク知覚
 次に、牛肉に由来する健康リスクをどの程度高いと考えているのかについて示す。
取り上げたハザードは、腸管出血性大腸菌、サルモネラ属菌、カンピロバクター、BSE、
動物医薬品の残留、放射性物質、クローンの7項目である。これらについてリスクがな
い(0)∼リスクが高い(5)の 6 段階評価での回答を依頼した。ただし、ハザードを知
らない場合やリスクを想定できない場合を考慮して、「わからない」という回答も用意
した。結果を図 3 に示す。
 2011年度の調査結果(第1回、第2回)と比較すると、第3回の調査では、全体的に
リスクを低く認識する傾向が確認された。また、女性は男性と比較していずれのハザー
ドについてもリスクを高く認識する傾向がみられた。ハザード間のリスクの比較では、
いずれの時期・性別においても腸管出血性大腸菌のリスクが最も高いと認識されてい
た。2011年度の調査結果では、第 1 回と第 2 回の間に腸管出血性大腸菌やサルモネラ
属菌など微生物由来のリスク知覚が低下した一方で、放射性物質やBSE、残留抗菌性
物質に対するリスク知覚の低下は見られなかった。これらのことは、2011年秋に牛肉
の生食に対する規制が強化されたことが影響しているかもしれない。
図 2 放射性物質に関する知識(正答率)
−18−
第2回と第3回の調査では、女性は腸管出血性大腸菌に次いで放射性物質のリスクを高
く認識していた。
4)食品中の放射性物質管理に対する信頼
 第2回と第3回の調査では、放射性物質に関する規制やフードシステム各主体の取り
組みに対する信頼について質問した(図 4)。質問形式は、「そう思う」「どちらかとい
うとそう思う」「どちらかというとそう思わない」「そう思わない」の4 段階である。「放
射性物質について、政府は国民が食品の安全性を判断するために必要な情報を出して
いると思う」という質問に対しては、第 2 回調査では20%弱の回答者が「そう思う」あ
るいは「どちらかというとそう思う」と回答していたのに対し、第 3 回の調査では賛成
する人が 10%程度増加していた。同様に政府や地方自治体の放射性物質の管理に対
する信頼についても、「どちらかというとそう思う」という回答が約10%増加していた。
また、政府に対する信頼と比べると、地方自治体の取り組みに対する信頼の方が高い
傾向がみられた。しかし、約 7 割の回答者は「(どちらかというと)信頼していない」こ
とを示す結果である。
 「安全性を高めるために、食品中の放射性物質の基準値は厳しければ厳しいほどよ
い」という質問に対しては、「そう思う」と回答した人が約 15%みられ、「どちらかと
いうとそう思う」を合わせると約半数の回答者が厳しい規制を望んでいることが示され
た。また、「放射性物質を多少摂取してもリスクは小さいから、あまり気にしないよう
にしている」と回答した人は 40%強であり、6 割弱の回答者が食品中の放射性物質を
気にかけているといえる。
図 3 リスク知覚
− 19−
5)被災地の食品に対する意識と評価
 第 3 回の調査では、被災地の食品に対する意識について質問した(図 5)。「原発事
故が発生してから、食品を買うときはできるだけ福島第一原子力発電所から遠い地域
を選ぶ」という項目については、約半数の回答者が「(どちらかというと)そう思う」と
回答していた。一方で、「被災地を応援するために、福島県産や関東・東北の農産物
を積極的に買いたい」という質問に対しては、約 15%の回答者が「そう思う」と答え
ており、「どちらかというとそう思う」を合わせると、約半数の回答者が被災地の農産
物を買って復興・復旧を応援したいと考えていることが示された。この割合は、「食
図4 放射性物質をめぐるリスク管理と信頼
図5 被災地の食品に対する意識(第 3 回調査)
−20−
料を安定的に確保するために、被災した農地の復旧・復興を速やかにするべきだ(約
80%が賛成)」と比較すると約30%少ない。
 また、検査に対するニーズは強く、「東日本で生産された、市場に出回るすべての
食品は、少なくとも今後 1 年は放射性物質の検査を受けるべきだ」という項目に対して
29%の回答者が「そう思う」と回答しており、「どちらかというとそう思う」を合わせる
と約7割の回答者が検査を望んでいた。
 被災地の食品に対する価格評価の結果を図6∼図8に示す。質問は、「放射性物質の
検査をして、結果が未検出あるいは基準値(暫定規制値)以下だった場合に、いくら
までなら被災地の食品を買ってもよいと思いますか?」とし、 0%∼200%(10%きざみ)
での回答を依頼した。
図6 被災地の食品に対する価格評価(第1回調査)
図7 被災地の食品に対する価格評価(第 2 回調査)
図8 被災地の食品に対する価格評価(第 3 回調査)
−21−
 第 1 回∼第 3 回の調査のいずれにおいても、検査をして未検出の場合に約50%の回
答者が100%の価格評価をしていた。一方、暫定規制値以下あるいは基準値以下の場
合に100%と回答した人は3割程度であった。第 1 回と第 2 回の結果を比較すると、未
検出の場合も暫定規制値以下の場合も、100%以下の価格評価をした人の割合は減少
がみられ、0%と回答した人は、第 1 回調査で未検出の場合に9.3%、暫定規制値以下
の場合に13.0%だったのに対し、第2回では各々8.1%、9.8%と減少していた。しかし、
第3回の調査では、0%と回答した人の割合は、未検出、基準値以下ともに増加し、各々
22.5%、15.0%であった。未検出の場合に 100%未満の価格評価を行った人の割合は
46.5%であり、この割合も第 2 回調査と比較して増加しており、基準値以下の場合に
100%以下の価格評価を行った人の割合も 67.1%で、暫定規制値以下の場合として質
問した第2回を上回っていた。2012年4月以降、食品中の放射性物質に関する規制は、
暫定規制値から基準値へと強化されたが、規制の強化が被災地の食品に対する評価に
はつながっておらず、安心の確保には至っていない可能性を示唆する結果であった。
6)食品中の放射性物質管理に対する満足度
 第 3 回の調査では、食品中の放射性物質管理に対する満足度について質問した。性
別・年齢階層別の満足度について、図9に示す。「満足していない」という回答は、全
体では 19.3%であり、年齢階層が高くなるほど増加する傾向がみられた。一方、「非常
に満足している」という回答は 2.5%にとどまった。なお、若齢層ほど「考えたことが
ない」という回答が多く見られた。
図9 食品中の放射性物質管理に対する満足度(第 3 回調査)
−22−
 食品中の放射性物質管理に対する満足度と、被災地の食品に対する価格評価との
関係を図 10 に示す。食品中の放射性物質の管理について「満足していない」と回答し
た人の平均の価格評価は、通常の食品を 100%とした場合に放射性物質が基準値以下
のときに37.9%、未検出であっても57.6%であった。価格評価は、満足度が高まるほ
ど上昇し、「非常に満足している」と回答した人では未検出の場合に 79.6%、基準値
以下の場合でも 72.7%であった。基準値以下と未検出の価格評価の差は、満足度が
高まるほど縮小し、「満足していない」場合に 19.7%、「どちらかというと満足してい
ない」場合に 16.2%、「どちらかというと満足している」場合に 11.4%、「非常に満足
している」場合に 6.9%であった。
 続いて満足度とリスク知覚、正答率との関係を図 11 に示す。図2で示したように、
全体的に知識の水準は高いとはいえない。しかし、正答率の高い回答者ほど放射性物
質のリスクを低く認識し、食品中の放射性物質管理に対する満足度が向上する傾向が
確認された。また、満足度について「考えたことがない」と回答した人は、満足度の
高い回答者と同等のリスク知覚を示していたが、正答率は最も低かった。
図 10 食品中の放射性物質管理に対する満足度と価格評価(第 3 回調査)
図 11 管理に対する満足度とリスク知覚、正答率(第 3 回調査)
−23−
 次に、具体的にどのような知識を得ることが満足度の向上につながるのかを確認す
るために、知識項目別の正答率と満足度の関係を図 12、図 13 に示す。満足度の高い
グループであっても、正答率が 50%を超える項目は見られなかったが、自然界からの
放射線量や食品からの許容線量、遺伝子の修復機能についての認知度が高い。平時
にさらされている放射線量と比較して基準値がどのような水準で設定されているのか
を知ることが満足度の向上につながる可能性がある。また、検査結果や出荷制限解
除のために厳しい管理が行われていることをわかりやすい形で情報提供することも求
められていよう。
図 12 食品中の放射性物質管理に対する満足度別の正答率(牛肉:第3回調査)
図 13 食品中の放射性物質管理に対する満足度別の正答率(牛乳:第3回調査)
−24−
4.おわりに
 食品をめぐる多様なリスクが存在する中で、我々日本人がこれまで特に気にする必
要のなかった放射性物質の健康影響について、情報を収集し、理解して食品選択を行
うことは、消費者にとって追加的な負担となる。被災地の市民への聞き取り調査からも、
「早く、(震災前のように放射性物質のリスクについて)考えないで地元の食品が買え
るようにして欲しい」という声が聴かれる。こうした声は、これまでの「安心」が事故
により失われてしまったことを示唆する。調査結果でも示されたように、フードシス
テム各主体の取り組みに対する信頼が高いとは言えない中で、「安心」を取り戻すの
は容易ではない。事故により放出されてしまった放射性物質を完全に取り除くには時
間がかかり、すぐに事故前の状態に戻すことはできない。したがって、放射性物質の
摂取を減らすために、事故現場から少しでも遠い地域の食品を選ぶという行動は理解
に難くない。
 一方で、震災発生以降、被災地では懸命の復旧・復興活動が続けられており、放射
性物質対策についても土壌等環境中の汚染状況の把握や食品の検査、除染、汚染さ
れた食品や飼料の流通管理など安全性を確保するために様々な取り組みが行われてい
る。そして震災から 2 年が経過した現在では、魚介類やキノコ類、野生動物など一部
の食品を除くと、ほとんどの食品が検出限界以下の放射性セシウム汚染であることが
わかる。
 こうした取り組みについては政府等のウェブサイトに公開されているが、一般市民
がアクセスしやすい形での情報提供には至っていない。生のデータや規制に関する公
式な文章を確認できることは重要であるが、これをわかりやすい形に加工し、伝えて
いくことも求められる。市民の情報収集手段としてテレビや新聞・雑誌などメディア
の果たす役割は大きい。また食品業界、専門家、消費者団体等、いろいろな主体の参
加も期待される。
 本調査結果からは、放射性物質の健康影響や平時の放射線量と現在の規制値の関
係、食品の汚染状況、検査や出荷制限などの管理についての認識が、放射性物質の
リスク知覚や放射性物質管理に対する満足度と関連があることが示された。知識があ
ることで不安が完全に払しょくされ、以前と同様の安心が得られるわけではないだろ
う。ただ、不安を抱えながら食品を選ばざるをえなかったり、被災地のおいしい食材
や食文化を楽しむこと、安定的な食料供給基盤である東北地方の復興を考えると、知
ることで少しでも安心感が高まるのであれば、消費者にとっても知識を得ることは望ま
しいことではないだろうか。
− 25−
1 はじめに
 平成 23 年 3 月 11 日に発生した東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所
事故の影響により、福島県内において避難指示を受けた区域で畜産業を営んでいた
農家は避難生活を強いられ、未だに経営再開の糸口すら見えない状況にある。また、
県内の多くの生産者は自らが生産した粗飼料の利用を自粛しており、原発事故によ
る費用負担の増加や生産意欲の低下から、廃業、経営規模の縮小等に追い込まれる
事例も出始めるなど、厳しい状況下に置かれている。
環境と共生する循環型農業を目指し、地域をあげて耕畜連携に取り組んできた本県
の畜産農家は、築き上げてきた生産基盤の多くを失ったが、平成 24年を復興元
年と捉え、汚染リスクの排除を進めながら、安全な畜産物の生産と「安全・安心」
に関する情報の発信による信頼の回復に鋭意取り組んでいるところである。
この度のシンポジウムにおいては、安全な牛肉のみを市場に流通させるため、本県
から出荷される肉牛全頭について放射性物質検査を実施する体制を構築し、消費者
の信頼とブランド力の回復に向けて日々取り組んできたので、その状況について報
告する。
2 震災・原発事故後における畜産業を取り巻く主な出来事
 平成 23 年 3 月 11 日に発生した大地震と津波の被害により、東京電力福島第一原子
力発電所の原子炉3機が水素爆発を起こし、福島県のみならず東日本を中心に広範
囲で放射性物質による汚染を受けた。
 福島県の農地はその度合いに違いはあれ、放射性物質の降下により広く汚染を受
けたことから、平成23年3月 17 日に食品中の放射性物質の規制値(暫定規制値)が
示されるとともに、ほうれん草など路地野菜をはじめとして多くの農産物に出荷自
粛、出荷制限措置がなされることとなった。
 畜産に関しては、3 月 19 日に本県産原乳から、暫定規制値を上回る放射性ヨウ素
131 が検出され、翌 20 日には県が県全域に原乳の出荷自粛要請を行い、翌 21 日には
原子力災害対策本部長から県全域に原乳の出荷制限指示が出されている。
第3章 福島県における牛肉の安全性確保と出荷管理の取組について
福島県農林水産部畜産課
森口 克彦
− 26−
− 27−
 その後、家畜の飼料等摂取に起因する畜産物の放射性物質汚染を防止するため、
平成 23 年 4 月 14 日には、粗飼料中の放射性物質の暫定許容値(300Bq/kg)が設定され、
牧草等粗飼料のモニタリング検査が県内全域で実施されるに至った。
 原発事故による放射性物質汚染状態が明らかになり、平成 23 年 4 月22日午前 0 時
から、福島第一原発から半径 20km 圏内が警戒区域に設定され、また、半径 20km
以遠で 1 年間の積算線量が 20mSvに達する恐れがある計画的避難区域、半径 20∼
30km圏で屋内待避や避難の準備をしておく緊急時避難準備区域に設定された。
 このことにより、制限を受けた区域内で畜産業を営んでいた多くの農家は、避難に
伴い家畜を手放すことになり、本県の畜産、特に肉用牛に関しては浜通り・阿武隈
山系を中心に大きな生産基盤を失うこととなった。
3 福島県の農業生産、特に畜産の現状
 原発事故の影響により、平成 23 年の福島県の農業産出額は、事故前と比較して、
大きく減少しており、479億円の減少となっている。畜産の減少額は 124 億円に上り、
うち肉用牛は3分の1を超える45億円、農業全体の1割近い大幅な減少となった。
 また、和牛の繁殖雌牛の頭数が、避難に伴う売却処分のほか、高齢化と生産意欲
の低下などの影響により約
6,000 頭減少していること
から、今後の子牛生産頭
数の確保に大きな影を落
としている。
4 原発事故直後の対応
 放射性物質汚染の被害による畜産物の汚染防止と低減を図るため、農林水産省 消
費・安全局畜水産安全管理課長、生産局畜産部畜産振興課長の連名により、平成 23
年3月19日付けで「原子力発電所事項を踏まえた家畜の飼養管理について」の通知が
発出され、飼養管理事項について周知を図るよう指示を受けた。その内容(骨子)
は下記のとおり。
年次 飼養戸数 飼養頭数 繁殖雌牛頭数
平成21年 4,480 83,700 20,800
平成22年 4,300 78,200 21,000
平成23年 4,020 74,200 21,300
平成24年 3,080 58,100 15,100
表1 福島県の肉用牛生産基盤(戸数・頭数)の推
(1)乾牧草(サイレージを含む)を給与する場合は、事故発生前に収穫・保管されたもの
  のみを使用すること。
  ・事故以降も屋内で保管されたものを使用すること。
  ・屋外で保管されものはラップ等で外気から遮断されたものを使用すること。
(2)家畜の飲用水は、降下する粉じん等の混入防止措置を講ずること。
(3)放牧を当面の間行わないこと。
− 28−
 福島県は、受理した文書内容を生産者団体、県出先機関(農林事務所・家畜保健
衛生所)へ通知し、生産者に対する周知、指導を依頼した。
5 牛肉汚染原因となった「汚染稲ワラ」
 平成 23 年 7月8日、放射性物質に汚染された本県産牛肉が東京都で確認されたこと
から、当該牛肉の個体識別情報をもとに生産者を特定し、翌 7月 9 日に現地調査を実
施した結果、放射線測定器で高い値を示す「稲ワラ」を発見し、サンプル採取を行った。
 放射性物質検査の結果、75,000Bq/kg の放射性セシウムを含むことが確認され、直
ちに使用禁止を指示し、国の指導の下、隔
離措置を行った。
 また、7月8日付けで当該農家が所在する
自治体に対して食用に供する牛の移動・出
荷の自粛を要請した。
 「汚染稲ワラ」は、平成 22 年秋に米の収
穫時に刈り倒され、冬期間水田に放置され、
平成 23 年の春、震災直後の3月∼4月にか
けて収集されたため、放射セ物質の汚染を受けたものである。
 震災直後、地震・津波と原発事故の影響により、福島県内の家畜を飼う農家は、各
種飼料の供給ラインを絶たれ、えさの確保に苦慮していたことから、当時、4月前半
は乾燥した好天の日が続いたこともあり、当該稲ワラを収納・利用した農家が存在
していた。
 通常、稲ワラは、ロール状のラップ梱包体で収集・保管され、肉用牛の生産体系
の中では、給与粗飼料の主たる柱となっていることから、汚染されたものを梱包・
保管していれば、長期的に給与汚染を受ける可能性が高かった。
さらに、原発事故後の混乱期に、放射性物質による環境汚染の実態について、生産
者に十分な情報が伝わらなかったことも肉
牛の汚染拡大を助長することとなった。
 稲ワラは、肉用牛肥育に欠かせない粗飼
料であり、従前より全国広く流通していた
が、平成23年春収集した稲ワラが東北地方
の近県からも本県に大量に流入し、放射性
セシウムの汚染を受けていたため、汚染稲
ワラの利用農家が拡大した。
写真1 ロール状に梱包された稲ワラ
写真2 稲ワラの広域的な流通
− 29−
5 緊急立入調査
 県は、この「汚染稲ワラ」による牛肉の汚
染問題を受け、牛を飼養する農家 3,434 全て
を対象に緊急立入調査を平成23年 7月11日∼
8 月 6 日の 27 日間で実施した。飼養されてい
る牛 59,385 頭の放射性物質による汚染リスク
の有無を確認するとともに、給与飼料の種類・
収穫時期の聞き取り、給与中の飼料、畜舎内
等飼養環境の放射線量の測定や給与水源の確
認などを行い、汚染リスクの高い飼料や敷料
等の使用自粛と隔離について、国とともに厳
格な指導を行った。
 緊急立ち入りによる第1回全戸調査に投入された人員は、県農林事務所、農業普
及所、家畜保健衛生所、国(農政事務所、独立行政法人家畜改良センター)の職員、
延べ 690 名に上り、1班2名体制での巡回が 7、8 月の猛暑の中、連日行われた。
 調査の結果、原発事故後に稲ワラの収納作業を行い、給与又は利用が確認された
農家戸数は 14 3 戸に上り、当該農家に対して当面、肉牛の出荷及び移動の自粛を要
請したが、肉用牛繁殖農家がその多くを占め、肉牛としての出荷履歴や出荷予定の
ない経営体が多かった。
 しかし、汚染稲ワラの給与・敷料利用が確認された肥育農家 31 戸は、後に出荷制
限の一部解除に向けて策定された「出荷・検査方針」の中で、「全頭検査対象農家」
に分類され、県外への出荷制限などの多くの制約を受ける対象となった。
6 牛の出荷制限を受けて
 緊急立入調査により「汚染稲ワラ」による肉牛の放射性物質汚染が地域的広がりを
見せる状況が確認されたことから、福島県は平成 23 年 7 月 19 日付けで原子力対策本
部長(内閣総理大臣)より県全域において全ての牛を対象(12 月齢未満の牛を除く)
写真3 飼槽周辺の線量測定
戸数 頭数 戸数 うち給与 うち敷料利用
肥育農家 314 30,051 31 23 8
肉用牛繁殖農家 2,643 18,816 111 73 38
酪農家 477 10,518 1 0 1
合計 3,434 59,385 143 96 47
調査対象戸数及び頭数
農家分類
汚染稲ワラの給与又は利用戸数
表2 農家分類別立入調査戸数・頭数及び汚染稲ワラ利用状況
−30−
とした出荷制限指示を受け、本県の肉牛出荷は著しく停滞した。
 特に肥育農家は、出荷適期を迎えた肉牛を多頭数抱えて、先が見えない待機状態
への不安と混乱の中、これまでに経験したことのない長期の肥育管理に取り組むこ
ととなった。
 そこで、県は、出荷制限以降、解除後も暫くの間続くと想定される出荷調整期を
乗り越えるために、「肉牛の出荷制限に伴う肥育牛の管理について」のマニュアルを
作成して肥育農家へ配布し、出荷適期を超過した、いわゆる「満肉」状態の肥育牛
の損耗防止対策を行った。
7 出荷・検査方針の策定と出荷制限の一部解除
 早期に出荷再開を実現できるよう、県は
本県産肉牛の安全管理体制の構築と肉牛の
「出荷・検査方針」の策定作業を進めると
ともに、生産者団体及び出荷団体等を構成
メンバーとする「牛肉モニタリング体制構
築推進ワーキングチーム」を立ち上げて、
緊急立入調査の結果を踏まえた議論を重
ね、汚染リスクの排除と牛肉の安全性確保
図1 「肉牛の出荷制限に伴う肥育牛の管理について」のマニュアル
図2 出荷・検査方針に基づく出荷管理体制(出荷制
限一部解除時)
−31−
に向けた出荷管理体制の整備を進
めた。
 その結果、図2に示す「出荷・
検査方針」に基づく出荷管理体制
が構築されたことから、同年 8 月
25日付けで、原子力対策本部長よ
り出荷制限の一部解除の指示を受
けるに至った。
 これを受け、県は 8 月 29 日から
県内において全頭検査を伴う肉牛
の出荷・と畜を再開した。県外出
荷については、関東地方のと畜場
及びこれを所管する行政機関と協
議を進め、福島県から出荷される
肉牛全頭を対象に放射性物質検査を実施する体制を構築し、9 月17日より東京食肉市
場を皮切りに県外出荷を再開した。
 ただし、あくまでも一部解除であり、本県の出荷・検査方針に基づき管理されてい
る牛に限られた出荷の再開であることから、再開以降も、県職員による3ヵ月に1度
の定期的な飼養管理状況調査により、適正な飼養管理の徹底と放射性物質汚染のリ
スク排除に努めるとともに、全戸・全頭検査を実施することによる出荷牛の安全管
理体制を維持に努めた。
 「牛肉モニタリング体制構築推進ワーキングチーム」会議では、県内における出荷
団体毎の出荷割り当て頭数の調整のほか、県内肉牛生産者がこれまでに出荷を行っ
てきた県外と畜場に関する情報の収集と県外での出荷管理体制の構築に向けた検討
が行われた。
 過去にと畜実績のある県外と畜場のうち、出荷要望の多いと畜場に関する情報を
収集し、搬入受入の可能性を探りながら、それぞれのと畜場へ足を運んで直接協議
を行った。
 多くのと畜場からの全面的な支援・協力をいただき、10 月末時点で、東日本を中
心に青森県から西日本の兵庫県まで全国 13 カ所のと畜場とそれを所管する行政機関
との協議が整い、滞留していた肉牛の出荷が一気に進むこととなった。出荷繁忙期
であった平成 23 年10 ∼12月に県外へ出荷された肉牛頭数は合計6,000 頭を上回り、
出荷再開以降平成 23 年度中に県外出荷された頭数の半数を超えるに至り、県内の肉
用牛農家は、出荷停滞の混乱状態を抱えたままの年越しを回避することができた。
図3 広範囲にわたる福島県産牛の県外出荷先
出荷先県 市場・食肉センター名
青森県 三戸食肉センター
宮城県 仙台中央食肉卸売市場
山形県 山形県食肉公社
栃木県畜産公社
(株)両毛食肉センター
(株)茨城県中央食肉公社
筑西食肉センター
千葉県 (株)千葉県食肉公社
群馬県 群馬県食肉卸売市場
さいたま食肉中央卸売市場
川口食肉地方卸売市場
(株)アグリスワン和光ミートセンター
東京都 東京都中央卸売市場食肉市場
(株)神奈川食肉センター
横浜市中央卸売市場食肉市場
岐阜県 養老町食肉事業センター
兵庫県 西宮市食肉センター
茨城県
栃木県
埼玉県
神奈川県
−32−
8 全頭検査体制による牛肉の「安全・安心」確保
 「出荷・検査方針に基づく出荷管理体制」の下、県内においては月500∼600 頭の出荷・
と畜に対応したモニタリングによる全頭検査を実施しており、福島県農業総合セン
ター安全農業推進部分析課がゲルマニウム半導体検出器を用いた精密検査を行って
いる。
 検査の流れは、図 4 に示すとおりで、肉牛のと畜は(株)福島県食肉流通センター
で1日に 34 頭を目安に行われ、県職員の立ち会いの下、一頭ごとに頚部から検体が
採取される。検体は採取後すぐに分析課へ搬入され、翌日にかけて精密検査にかけ
られる。
 検査の結果は、プレスリリース及び県のホームページで公表されている。
    
 また、県外へ出荷された肉牛の放射性物質検査については、と畜場がそれぞれ指
定する検査機関と外部委託契約を結んで全頭検査を実施する体制を整えた。
検査の結果は、出荷団体を通じて生産者に伝達され、流通する牛肉が暫定規制値を
下回っていることを証明するために県が1頭ごとに「放射性物質検査確認書」発行
している。
 また、検査結果は、判明後速やかにプレスリリースを行うとともに、現在は県のホー
ムページ上の農林水産物のモニタリング情
報検索サイト「ふくしま 新発売。」にて
図4 福島県内での牛肉モニタリング検査の流れ
−33−
公表し、迅速な情報の提供に努めている。
9 取組の成果
 出荷再開以降、「出荷・検査方針」基づき、県職員による定期的な飼養管理状況調
査を実施し、適正管理の徹底による放射性物質汚染リスクの排除に努めてきた結果、
出荷再開以降、これまでに出荷した肉牛全頭おいて、暫定規制値(平成 24 年 9 月 30
日までは 500Bq/kg、平成 24 年 10 月 1 日以降は食品の新しい基準値 100Bq/kg)を
超過した事例はなく、安全な肉牛出荷を継続している。(平成 25 年 3 月 15 日現在)
平成 23 年度において、出荷再開以降の県内出荷頭数は 4,540 頭、県外は 11,597 頭で、
うち基準値以下の放射性物質の検出頭数は、県内 733 頭で検出率 16.1%、県外が 17
頭で 0.1%であった。
 また、平成 24 年度(2 月末現在)は、県内出荷頭数は 5,370 頭、県外は 14,466 頭で、
うち基準値以下の放射性物質の検出頭数は、県内 131 頭で検出率 2.4%、県外が 10
頭で 0.1%であった。
 図5のグラフに見るように、出荷再開当初は県内において 20%を超える検出率で
あったものが、徐々にその割合が低下し、平成25年 2 月には0.5%まで下がっている
ことから、出荷管理の取り組みの成果が表れている様子が読み取れる。(図6)
−34−
 さらに、県外における出荷頭数と検出割合の推移を見ると、より厳密な出荷管理
体制の下に続けられる出荷管理の成果が如実に表れており、県外出荷へのパスポー
トとも言うべく「全戸検査済み確認書」の発行を受けた生産者のみの出荷管理を行
うことにより安全性の確保が図られている。(図7)
 県外出荷については再開当初から、ほぼ 0%と極めて低い放射性 Cs の検出割合で
推移し、特に出荷繁忙期の平成 23 年 12 月においても出荷頭数 2,365 頭で検出率が
0.3%程度に止まり、平成 24 年度の最も出荷が多かった 11 月においても 1,912 頭の出
荷頭数で検出率 0%と、出荷牛の安全性確保が維持できている。(図8)
10 安全な肉牛出荷を管理するために
 平成 24 年 4 月1日に食品の基準値が 100Bq/kg に引き下げられ、牛肉も平成 24 年 9
月30日までの移行期間を経て、平成 24 年10月1日から100Bq/kgの正式な適用を受け
たことから、「出荷・検査方針」も一部見直しが行われた。
 基本的には、平成23年8月25日の出荷制限一部解除時に構築した出荷・検査体制を
維持しながら、新基準値に対応したレベルでの検査体制を敷いている。
 また、この食品の基準値引き下げに合わせて、それまで全ての牛に給与できる飼
料の暫定許容値(300Bq/kg)も大幅に見直されることになり、例外なく新たな許容
図 7 肉牛出荷頭数及び放射性 Cs 検出割合の推移(H23 県外)
図 8 肉牛出荷頭数及び放射性 Cs 検出割合の推移(H24 県外)
−35−
値100Bq/kgに統一された
ことから、飼料の暫定許
容値の改正内容と、それ
に伴う家畜管理上の留意
点をまとめたパンフレット
(図 10)を農家全戸に配布
し、適正な管理の励行に
ついて注意喚起を促した。
和牛繁殖雌牛の廃用牛に
ついては、平成 24 年 3 月
まで 3,000Bq/kg 以下の飼
料給与が可能であったことから、出荷した牛肉
から新基準値 100Bq/kg を超過する放射性セシ
ウムが検出されることのないように、「飼い直
し」期間を算出し、計画的な出荷を誘導してい
る。 
 「飼い直し」期間は、飼養管理中の牛の体内
に残っている放射性セシウム濃度を、給与飼料
に含まれる放射性セシウム濃度(Bq/kg)と給
与量(kg)、体内への移行係数(0.038)を乗じ
て算出し、生物学的半減期(60日)を考慮して、
農家にその期間中、清浄飼料で適正に管理する
よう指導を行っている。(図11)
11 血液検査によるスクリーニング
 廃用牛の「飼い直し」が適切に行われ
ているかを確認するため、スクリーニン
グ検査として血液検査を実施し、血液中
の放射性セシウム濃度から筋肉中の放射
性セシウム濃度を推定して出荷の適否判
断を行っている。
 血液検査による筋肉中の放射性セシウ
図9 出荷・検査方針に基づく出荷管理体制(H24.10.1 以降)
図 10 新たな暫定規制値に対応した農家向け
パンフレット
図 11 清浄飼料による「飼い直し」の考え方
−36−
ム濃度の推定は、福島県農業総合センター
畜産研究所が行った平成 23 年度の研究成
果を参考に行っている。
 研究データによれば、筋肉中の放射性セ
シウム濃度は、血液中の放射性セシウム濃
度の 30 ∼ 40 倍程度と推定されることから、
十分に安全性を確保するため、清浄飼料に
切り換えてから概ね半年後を目安に血液検
査を行うこととし、農家毎の飼養管理状況
に応じて血液検査の実施時期を決定している。(図 11、12)
 血液検査実施頭数は平成 25 年 2 月末現在で 1,300 頭を超え、血液検査を実施して
安全性を確認し出荷した肉牛から基準値を超える放射性セシウムが検出された事例
はなく、スクリーニング検査の機能を十分に果たしている。
12 おわりに ∼肉用牛生産の復興に向けて∼
 福島県は、畜産の復興に向けて多岐に亘る取組を実施し、肉用牛生産基盤の再生
に取り組むとともに、安全な牛肉の出荷を継続し、消費者及び市場関係者の信頼回
復を目指しているが、未だ厳しい風評の中、震災前の市場評価を取り戻すには至っ
ていない。
 図 13 に示すとおり、東京食肉市場における福島県産牛の枝肉単価は、震災・原発
事故後に大きく下落し、「汚染稲ワラ」による牛肉の汚染があった平成 23 年 7 月に
は和牛去勢の平均単価(円/ kg)が市場平均と比較して 600 円を超える下落幅となっ
たが、8 月の出荷再開以降、ゆっくりとした回復基調にあるものの、まだ 200 円弱の
開きがある。
図 12 血液中・筋肉中の放射性 Cs 濃度の
減衰イメージ
図 13 東京食肉市場における福島県産牛枝肉価格の推移(震災以降∼平成 25 年 2 月末)
和牛去勢平均(2月)
円/ kg(1 頭あたり千円 )
A5○福島 1,849 円 (832)
A5●市場 2,040 円 (918)
差 ▲ 191 円 ( 86)
A3□福島 1,459 円 (657)
A3■市場 1,637 円 (737)
 差  ▲ 178 円 ( 80)
− 37−
 このような状況の中、県は、風評の払拭と消費者の皆様の信頼回復を図り、肉用
牛生産の復興を確かなものにするため、生産者、生産者団体等と一体となって、以
下事項に継続して取り組んで行きたいと考えている。
・福島県産牛肉の放射性物質検査において、「検出せず」を積み重ねる努力
 ・消費者目線での「安全・安心」の確保と積極的なPR活動
 ・耕作地の除染による生産環境の整備
 ・放射性物質検査体制の維持
 ・迅速かつ正確な情報発信
今後も、福島県は、飼養管理状況調査、放射性物質に関する生体スクリーニング(血
液検査等)、と畜後の全頭検査等を柱とする徹底した出荷管理体制を維持し、安全な
牛肉を消費者の皆様に提供して、「福島牛」のブランド再生に取り組んでまいります。
謝辞
 東日本大震災、原子力発電所事故に際して、あたたかい支援とご協力をいただき
ました全国の皆様に心より感謝申し上げます。
 東京電力福島第一原発事故以降、東日本の広い範囲で放射性セシウムが飼料畑や
牧草地土壌に沈着し、事故後時間が経過しても暫定許容値を上回る牧草の検出が収
まらず、今なおその利用自粛が続く地域もある。さらに 2012 年 2 月に牛用飼料の暫
定許容値が300Bq/kgから100Bq/kgに引き下げられ、飼料作物中の放射性セシウム低
減対策は喫緊の重要課題である。しかし、わが国の草地・飼料作における放射性セ
シウム対策に関する知見は十分ではなく、特に、チェルノブイリ事故以降、蓄積され
てきた放射性セシウム対策技術の効果の検証や土壌から植物への移行に関わる要因の
検討が必要である。畜産草地研究所では、飼料作物への放射性セシウム汚染の状況把
握や低減対策に取り組んできたので、その成果の概要を紹介する。
 飼料畑の飼料用トウモロコシでは、放射性セシウム濃度は事故当年の 2011 年作付け
に比べて2012年作付けでは1/4程度に減少した。また、堆肥を3t/10a/作程度で継続
的に施用することが放射性セシウム濃度の低減に有効であった。2012 年の牧草地では、
草地更新により牧草中の放射性セシウム濃度は大きく低減できることを確認し、施肥
管理では、カリ追肥により低下し、窒素単独施肥では上昇させる傾向がみられた。
 飼料用トウモロコシなど単年生飼料作物は、放射性セシウム濃度が低く、利用自粛
が回避できた。しかし牧草地では1番草より2番草の放射性セシウム濃度が上昇した
り、草地更新しても一部の草地で暫定許容値を超える事例も報告されている。飼料
作物の効果的な汚染対策推進のためには、今後も土壌の種類や圃場管理条件と飼料
作物への放射性セシウム移行の関係を明らかにするとともに、機械的な耕起が難しい
急傾斜地草地、放牧地の対策技術を開発する必要がある。原発事故により東北・北関
東地域の自給飼料生産は大きな打撃をうけており、畜産の復興を図るために、汚染
圃場の除染対策の強化を図ることに加え、多様な飼料資源の利用、自給飼料の広域流
通など幅広い取り組みが求められている。
第4章 飼料作物の放射性セシウムモニタリングとその低減化に向けて
(独)農業・食品産業技術総合研究機構畜産草地研究所
山本嘉人、原田久富美、渋谷 岳、菅野 勉、栂村恭子
− 38−
 平成23年3月11日福島第一原子力発電所事故によって放射性核種が漏出し、作物、
農耕地、家畜が被爆した。3 月 17 日に厚生労働省は食品衛生法の暫定規制値を定め、
これを受けて農林水産省は畜産物の放射性核種による汚染を防止するため「原子力発
電所事故を踏まえた家畜の飼養管理について・3 月 19 日」と「原子力発電所事故を踏
まえた粗飼料中の放射性物質の暫定許容値の設定等について・4月14日」を発出した。
しかし暫定規制値は海外における知見を基にして緊急に設定したもので、被曝被害の
実態を把握できる科学知見が不足しているので、演者らは原発から130km離れた茨城
県笠間市に位置する東大附属牧場で、被曝飼料を与えた家畜や畜産物における放射性
核種の消長、放牧状態の家畜における長期被曝の影響、被曝が家畜の生殖機能や次
世代におよぼす影響、循環型有畜農業を再開する際の放射線核種の農場内動態の把
握、家畜における放射性核種の消化管からの吸収抑制物質や排泄亢進物質の実用性、
畜産物の放射性核種汚染のリアルタイム測定法の開発など多面的な研究を行って、農
業復興の糧としようとしている。今回その一端を紹介する。
 附属牧場で、事故2月後に収穫した放射性セシウムを含む牧草を乳牛に給与すると、
放射性セシウムの一部が牛乳に移行したこと[体重600キロの乳牛に、放射性セシウム
を360Bq/kg 含む飼料を35kg/日(12,600Bq/ 頭/日)給与した時に、牛乳中レベルは
給与開始12日後にプラトーとなって36Bq/kg 含む牛乳を20リットル/日(720Bq/頭 /日)
生産した。すなわち、5.7% が牛乳に移行し、移行係数は0.0029 であった。]、その後
放射性セシウムを含まない飼料にきりかえると牛乳中濃度がすみやかに低下した。
 昨年 6 月末まで警戒区域内で飼養され続けて被曝した 5 種の雌雄原種豚を附属牧場
に救出し、生殖機能を調べた。雄 10 頭と雌 16 頭を附属牧場に搬入し、生殖機能評価
に問題ないと判断できたので交配し、妊娠を確認した。妊娠母豚は、2012年1月末か
ら出産を開始し、現在までに 7 頭の母豚が 73 頭(雄 36 頭、雌 37 頭)出産した。第 2
世代の生殖機能も評価し、第3世代の誕生をもって結論をくだす予定である。
 今後も、大型家畜の馬、牛や中型家畜の山羊や豚を飼養するとともに飼料作物を栽
培し、多面的に実証的研究を進め、被災地の復興支援の要となる畜産物の安全を担保
する方策を模索しつづけたい。
第5章 家畜と畜産物への放射能汚染対策:東大付属牧場での取組
1
東京大学大学院農学生命科学研究科附属牧場、2
同附属放射性同位元素施設
眞鍋昇1、李俊佑1、橘由里香1、田野井慶太朗2、中西友子2
−56−
目的:福島第一原子力発電所の事故に伴い、放射性物質が拡散した。福島県等では
牛肉から暫定基準値以上の放射性 Cs が検出されてから、検査体制の強化と安全性確
保が緊急の課題となっている。本研究は、被災家畜における内部被ばくの実態を明
らかにすると共に、と畜前推定技術を開発することにより、安全な食用肉を提供する
ことを目的とする。このためには、次の 3 つの点を明らかにする必要がある。
 1. 放射性物質の核種別に見た臓器沈着
 2. 血液と筋肉および各臓器の放射性Csの濃度相関解析
 3. と畜前推定技術の開発
材料と方法:2011 年 8 月下旬から 11 月にかけて、福島原発 20km 圏内(警戒区域内)
にて野生化した牛(主として黒毛和種)79頭(成牛63頭と事故前後に生まれた仔牛13頭、
および胎児3頭)を捕獲・安楽死後、解剖を行い、筋肉や各種臓器および血液を採取した。
これらの放射線量は、Ge測定器で測定した。
結果:その結果、筋肉から検出された放射性Csは、平均611Bq/kgであった。この濃度は、
血液から検出された放射性Csの約21倍の値であった。種々の臓器における放射性Cs
の濃度は、筋肉より低い値を示したが、血液内濃度の値に比較して、膀胱からは15倍、
腎臓からは11倍、肝臓では7倍の放射性Csが検出された。さらに、放射性Csは、血
液内濃度と筋肉内濃度の間に高い相関を示した(r2=0.83)。一方、放射性ヨウ素が沈
着することで知られている甲状腺では、放射性Csはほとんど検出されなかった。また、
放射性Teは腎臓に、放射性Agは肝臓に蓄積していた。加えて、胎児における放射性
Csは、母体から移行し、約1.2 倍高い値が認められた。
結論:現在、牛肉の放射性物質の検査は主に食肉処理をした後に実施されているが、
本研究において血液と筋肉および各臓器の放射性 Cs 濃度の間に高い相関があること
から、食肉処理前に血液を用いて筋肉や臓器における放射性物質の蓄積量を推定す
ることが 可能になった。以上、本研究成果を関係機関のと畜前推定技術として応用
することにより、国民に対するより安全な食用肉の提供に資すると結論された。
第6章 被災家畜における放射性物質の動態及びと畜前推定技術の検証
1
新潟大学農学部、2
山形大学理工学研究科、3
東北大学農学研究科、4
東北大学理学研究科、
5 東北大学加齢医学研究所、6
宮城大学食産業学部、7
東北大学歯学研究科、
8
東北大学高等教育開発センター
山城秀昭1
、阿部靖之 2
、福田智一 3
、木野康志 4
、桑原義和 5
・福本 基5
、
小林 仁 6
、篠田 壽 7
、関根 勉 8
、磯貝恵美子 3
、福本 学 5
− 78−
− 79−
最後に:本研究は、未曾有の福島原発事故に直面した状況下で緊急の食肉安全対策
のために、後世にできるだけ多くのことを伝えるために現在も継続中である。関係
省庁、福島県、関係市町村、いわき家畜保健衛生所、相双家畜保健衛生所、地域住
民の方々をはじめとして多くの人のご協力とご援助を頂いている。ここに深甚の謝意
を表します。
被災動物の包括的線量評価
被災動物線量評価グループ
− 80−
東北大学大学院農学研究科 磯貝恵美子、福田智一
東北大学大学院理学研究科 木野康志
東北大学高等教育開発推進センター 関根 勉
東北大学大学院歯学研究科 篠田 壽、千葉美麗、清水良央、鈴木敏彦、高橋 温、
東北大学加齢医学研究所 福本 学、桑原義和、志村 勉、鈴木正敏、福本 基、
井上和也、高橋慎太郎、工藤千春、常 小紅、諸橋明子、大津 堅
山形大学大学院理工学研究科 阿部靖之
新潟大学農学部 山城秀昭、山田宜永、トウビン
宮城大学食産業学部 小林 仁、森本素子、井上達志
放射線医学総合研究所 三枝 新
理化学研究所バイオリソースセンター 小幡裕一
東北大学加齢医学研究所 病態臓器構築研究分野
福本 学
〒980-8575
仙台市青葉区星陵町4-1
Tel:022-717-8509 Fax:022-717-8512
E-mail: fukumoto@idac.tohoku.ac.jp
1. はじめに
2. 福島原発事故に伴う被災家畜における放射性物質の体内分布
東北大学加齢医学研究所 福本 学
3. Ge 半導体検出器による放射性セシウム濃度測定
東北大学大学院理学研究科 木野康志
4. 低放射能血液の測定
東北大学高等教育開発推進センター 関根 勉
5. 高および低線量領域におけると畜前推定技術ソフトウェアの開発
東北大学大学院農学研究科 福田智一
6. 被災家畜における生殖細胞の正常性
山形大学大学院理工学研究科 阿部靖之
7. 警戒区域のイノシシと野生化ブタ
宮城大学食産業学部 小林 仁
8. 被生体除染のための有用微生物の探索
 −放射性 Cs の推定体内動態と消化管内微生物の放射性 Cs の取り込み−
東北大学大学院農学研究科 磯貝 恵美子
9. 謝辞
※以下は、第6章の執筆者である新潟大学農学部山城秀昭氏がメンバーとなっている東北大学福本 学氏を研究代表者とする
 被災動物線量評価グループによる報告書である。
− 81−
1. はじめに
 2011年 3 月11日14 時 46 分 18 秒、宮城県牡鹿半島の東南東沖130 kmの海底を震源
として発生した地震は、日本における観測史上最大の規模、マグニチュード(Mw)
9.0 を記録し最大震度は 7 で、震源域は岩手県沖から茨城県沖までの南北約 500km、
東西約200kmの広範囲に及んだ。この地震により、場所によっては波高10m以上、最
大遡上高40.1m にも上る大津波が発生し、東北地方と関東地方の太平洋沿岸部に壊滅
的な被害をもたらした。この地震は「東日本大震災」と呼称されている。東日本大震
災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の爆発事故によって大気中に放出された放
射性物質は福島県を中心に広範な地域に環境汚染をもたらした。畜産業では、この
影響で放射性ヨウ素(131
I)による牛乳汚染および放射性セシウム(134
Cs および 137
Cs)
による牛肉汚染が問題となった。
 2011年4 月22日をもって福島原発から半径20 km圏内が警戒区域として設定された。
圏内には牛 3,400 頭、豚 31,500 頭、鶏 63 万羽、特用家畜としてのダチョウやイノブタ
が取り残された。政府は福島県に対して残留家畜の安楽死処分を指示した。文部科
学省と米国エネルギー省は共同で福島原発から 80km 圏内の航空機による地上 1mに
おける空間線量分布の計測を行った。その後、土壌、海洋、河川中の放射性物質放
射線量が次々と公開された。我々は警戒区域内で安楽死処分された家畜の臓器別放
射性物質の同定と線量分析を行っている。本稿では、福島原発20km 圏内(警戒区域)
で調査を行った被災牛を通して、これまで実施してきた被災動物の包括的線量評価
の検討について記載する。
− 82−
2. 福島原発事故に伴う被災家畜における放射性物質の体内分布
東北大学加齢医学研究所 福本 学
はじめに
 広島・長崎の原爆被爆者における疫学調査から、体外からの放射線の急性大量被
ばくは死をもたらす。死を免れても、発がんリスクを上昇させることが知られている。
しかし0.1Gy 以下の被ばくでは影響が明確でない。発がんは被ばく後、年単位の潜伏
期間をおいてから起こる晩発性影響のひとつである。被ばくによって発症したのか否
かという因果関係が不明なこともあるため、国際放射線防護委員会(ICRP)は、放射
線による発がんリスクは線量に比例し、しきい線量はないと仮定している。防護の立
場から、被ばくを規制する行政はこの考え方を採用している。内部被ばくは、主に
放射性物質が水や食物を介した経口摂取や空気を介した経気道摂取によって起こる。
東京電力福島第一原子力発電所(福島原発)の爆発事故によって、大量の放射性物質
が環境中へ飛散した。この事故を契機として放射線、特に放射性物質による内部被
ばくの人体影響が全世界の一大関心事となった。放射能は物理学的に徐々に減衰し、
摂取された放射性物質は生物学的に排泄される。内部被ばくの減衰率は物理学的半
減期と生物学的半減期から導かれる実効半減期によって表現されている。一方、食
物連鎖や化学的性質によって特定の標的臓器に濃縮も起こる。そのために内部被ば
くでは標的臓器は持続的に低線量率の放射線に被ばくすることになるが、どの細胞
がどれだけ被ばくしたかを知ることは不可能に近い。ヨウ素は、甲状腺ホルモンの成
分のひとつであるために、チェルノブイリ原発事故では放射性ヨウ素が甲状腺に集積
して甲状腺発がんの原因となったと恐れられている。しかし、ヨウ素131 の実効半減
期が約 7 日と短いために正確な被ばく線量は計測できていない。自然界には人類誕生
以前から放射線も放射性物質も存在していると言われても、原発から放散する放射
性物質には、放射性セシウムのように自然界に本来は存在しない人工放射性物質が含
まれている。そのため、原発事故に対する人々の恐怖は益々募っている。内部被ばく
の人体影響を定量化することは困難であるが防護のために必要なことである。
 放射線の生物影響は、放射線の種類、エネルギー、被ばくした臓器や組織によって
様々である。そのため人体影響を統一的に表現するための単位として実効線量(Sv)
が定義されている。放射線の内部被ばくによる人体影響を議論していると、放射性物
質から1 秒当たりに放出される放射線数である放射能(Bq)がいつの間にかSvになっ
ている。さらに規制のために用いられる放射能の基準値Bq/kgは、科学的思考によっ
て Sv から導きだされたものではあるが、純粋に科学的な値ではない。放射線による
人体への悪影響が知られている以上、放射線と放射性物質は規制する必要がある。
− 83−
厳密に規制されているため、放射性物質を用いた動物実験が困難である以上、放射
線生物学から人体影響を知り、規制値を策定するまでの道のりは遠い。放射線事故
や放射線治療による影響解析から影響評価をする以外に人体影響を定量化する方策
はない、と言っても過言でない。今回の福島原発事故によって警戒区域内に取り残
され、安楽死処分された家畜は、放射性物質による環境汚染、放射性物質の体内分
布と代謝、線量評価と内部被ばくの生物影響を解析するために極めて貴重な試・資
料である。
被災牛体内の放射能計測からわかったこと(2, 3)
 福島原発事故の結果として、大量の核分裂物質であるテルル129m(129m
Te)、ヨウ素
131(131
I)、セシウム134(134
Cs)や137
Csなどが環境中へ飛散した。その詳細については
東京電力のホームページに掲載されている。文部科学省と米国エネルギー省は共同で
福島原発から半径80km 圏内の航空機による地上 1mにおける空間線量分布の計測を
行った。しかし、このデータはあくまでも空間線量であって体内に摂取された放射性
物質の濃度を反映していない。そのため、我々は警戒区域内で殺処分された家畜の臓
器別放射性物質の同定と濃度計測を行った。平成23年8月29日から11月15日にかけ
て福島原発から南西の 1 村の 52 頭と北側の 1 市の 23 頭、さらに胎仔も含めて 79 頭の
牛から採材が可能であった。いずれの場所も原発から半径10kmと20kmの間の圏内で
あった。家畜の内訳は雌成牛63頭(妊娠3頭)、雄仔牛10頭、雌仔牛3頭であった。
 末梢血と臓器のγ線スペクトロメータ測定において、いずれかの試料で 134
Cs、137
Cs、
銀110m(110m
Ag)、129m
Teのピークを認めた。放射能は放射性物質の飛散が最も大きかっ
た 3月15日に遡って物理的崩壊による減衰の補正を行った。体内に取り込まれた放射
性物質は一旦、血流へ入ること、放射性セシウムが全臓器で検出されたこと、検出さ
れた放射性物質の中で、137
Cs は 134
Cs と放射能濃度がほぼ等しいこと、半減期が最も
長いこと(約30年)から、血中137
Cs の放射能濃度を体内放射能濃度の比較の基準とした。
各臓器の137
Cs放射能濃度と血中 137
Cs放射能濃度は良く相関しており、血中 137
Cs放射
能濃度を計測することによって各臓器別に 137
Cs 放射能濃度を推定することが可能で
あった。放射性セシウム濃度は異なる部位の骨格筋間で有意差はなく、血中セシウム
の 21.3 倍であった。心筋は横紋筋であるにも拘わらず骨格筋に比較して集積量は低
かった。牛は捕獲された地区によって 3 グループに分類できた。グループ 1 とグルー
プ 3 は福島原発の北側に位置している同一市であった。グループ 1 は畜舎内で飼育さ
れたため、飼料はあまり放射性物質に汚染されていなかったが雨水を摂取していた。
グループ 3 は屋外に放れ畜状態であった。グループ 2 は原発の南西の 1 村で放れ畜状
態であった。
− 84−
 母体から胎児へ放射性物質がどれくらい移行するかは大きな関心事である。我々
は捕獲作業に伴って見つかった 3 頭の妊娠牛において親・胎児の臓器別放射能の比較
を行った。放射性セシウムの放射能は、臓器に関わらず胎児では母親の1.2倍であった。
しかしながら、110m
Agと129m
Teの両方とも胎児では検出できなかった。安楽死前に 3 組
の母・仔牛のつがいを確認できた。これらの仔牛は原発事故後に生まれたもので授乳
と草食の混合であった。この場合も臓器に関わらず、放射性セシウム濃度は仔牛の方
が母親牛よりも 1.5 倍高かった。放射線に対する感受性が成人よりも小児に高いこと
から、放射性セシウムの小児に対する影響についてより一層の注意が必要であろう。
チェルノブイリ事故の際、ベラルーシのゴメリ州では内分泌臓器に放射性セシウムの
集積が多いと報告されていたが、我々の結果から、甲状腺に集積している放射性セシ
ウム濃度は低く、その影響は想定されていたよりも小さいと考えられる。
 放射性銀は核分裂反応産物ではなく、安定銀の中性子による放射化の産物である。
全頭の肝と8%の末梢血中で110m
Ag は検出されたが血中濃度との相関は認めなかった。
文科省の線量地図によれば、6月14日時点での土壌中における110m
Agの放射能は、137
Cs
の 1/100 以下であった。我々の土壌データも0.5%以下であった。しかし、肝内の
110m
Agと137
Csの放射能濃度はほぼ同レベルであった。これらより、肝は銀集積の第一
義的な標的臓器であることが明らかとなった。
 興味深いことに、短半減期(時間)の129m
Teが腎特異的に検出され、頻度は62%であっ
た。平成 23 年 3月15日の段階で土壌中の129m
Te/137
Cs 放射能濃度比はグループ 2の採
材場所で0.34、グループ3で 1.41と報告されている。放射性物質の飛散から数ヶ月後
であってもなお、腎に 129m
Te が検出されたことは驚きであった。文科省の放射能地図
によれば、原発からの方角によって 129m
Te/137Cs 比は一定であったことを考えると、
腎における129m
Teの濃縮は特異的である。もう一つの放射性テルルである132
Teの半減
期は76.3時間であり、その放射壊変物は甲状腺に集積する放射性132
Iである。さらに経
口摂取されたテルルは甲状腺に集積しやすいという報告がある。これらを考え合わせ
ると、テルルによる甲状腺障害は無視し得ない可能性がある。現在、牛以外にも豚に
ついて採材を進めている。  
 現在、牛以外にも放射能計測の対象を広げている。豚の血中放射性セシウム濃度は
牛に比べて有意に高かったが血中に比較した横紋筋中のセシウム濃度は牛の半分くら
いであった。
今後の課題
 我々は、福島原発事故に伴う警戒区域内の家畜臓器における放射性物質と放射能
分布について詳細な検討を行なってきた。平成24年10月末日現在、牛217頭、豚57頭、
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