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メディア・リテラシー
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コードと意味伝達
• コミュニケーションにおいて伝達する
事柄は、送り手の頭の中にある
• 送り手は、頭の中にある事柄を意味内
容として表現するメッセージを読み手
に対して発信する
• 読み手はメッセージを正しく読み取っ
た時の意味内容が送り手の伝達したい
事だと考える
• 最も理想的なコミュニケーションとは
送り手の頭の中にある意味内容が、読
み手の頭の中に正確にコピーされる事
• 送り手と読み手の間で意味内容の直接
的なコピーが不可能であるところに、
意味内容を伝達する手段としてのメッ
セージの存在理由がある
• 次に問題となるのは、メッセージの作
成と読み取りのメカニズム
• 送り手:意味内容→メッセージ
• 読み手:メッセージ→意味内容
• この対称的な操作において
• 送り手が意味内容からメッセージを
作成することを記号化と呼ぶ
• 読み手がメッセージから意味内容を
再構成する事を解読と呼ぶ
• コミュニケーションの成功は、読み手
による解読の結果として発生した意味
内容が、送り手が記号化の際に前提と
した意味内容と一致すること
• 記号化と解読のそれぞれの過程は、完
全に対称をなす事が理想的
• コミュニケーションを成功させる最小
限の条件
• 先の例として提示した「今は何時で
すか?」を例に考える
• 送り手が「今は何時ですか?」という
意味内容をメッセージへの記号化へ成
功したのは、第一に送り手が日本語を
知っていたから
• 受け手が日本語を知っていたから、メッ
セージを意味内容に解読する事ができ
た
• この時、日本語はメッセージに使用さ
れる表現を二つの側面から定義する事
ができる
• 「今は何時ですか?」
• は「今」「は」「何時」「ですか」
「?」といったメッセージに用いる
事のできる表現群の要素を定義し、
同時にそれぞれの表現に対応する意
味内容を定義する
• これは、日本語の「辞書」としての側
面
• 「今+は+何時+ですか+?」といっ
た表現同士の配列の仕方も定義する
• これは日本語の「文法」としての側面
• 従って、コミュニケーションを成功さ
せる最小限の条件とは、送り手と読み
手が「日本語」という共通の辞書と文
法に従うことによって、記号化・解読
のプロセスが対称的に行われる事
• コミュニケーションを成功させる最小
限の条件とは、辞書と文法の規約とし
ての日本語が送り手と読み手の双方に
共有される事
• これは、日本語や他の言語に留まらず、
あらゆる記号を使用したコミュニケー
ションにあてはまる条件
• 送り手と読み手が同一の約束事に従っ
て記号化・解読を行えば、プロセスは
対称的なものとなり、その結果として
コミュニケーションは成功する
• 例示した「日本語」の様な記号化・解
読を行う際の約束事の事をコードと呼
ぶ
• コードはメッセージを構成する記号の
種類と、それぞれに対応する意味内容
や、記号同士の結びつきを規定する規
則の体系を指す
コミュニケーションの現実
• 送り手と受け手が、同一のコードを共
有する事を条件に記号による意味伝達
の可能性が生ずる
• 実際のコミュニケーションでは、コー
ドの共有を条件とするだけでは、コミュ
ニケーションの成立が説明できない
• 例えば「雪国は好きですか?」と言う
メッセージがあったとする
• このメッセージの中で問題になるのは
「雪国」という表現の解釈である
• 一般名詞として解釈されるなら、日本
語のコードに従って、降雪の多い地方
が好きかどうかと言う質問になる
• 一方、川端康成が記した小説『雪国』
として解釈されたならば、その小説に
ついて尋ねられた事になる
• これは、現実のコミュニケーションの
プロセスに、コード以外の条件が関与
する可能性を示唆している
• なぜならば、仮に送り手と受け手の双
方が「雪国」の意味内容を規定する二
つのコード(一般名詞・固有名詞)を
知っていたとしても、メッセージ自体
からは、読み手がどちらを選択して解
読すべきかを知る事ができない
• この様に、コードが同一の表現に対応
させる複数の意味内容からの選択や・
コードに従って読み取られる意味内容
を元にした推測・コードの効力が希薄
な状況における読み取りを助ける何か
があるはず
• 「雪国は好きですか?」の例では、そ
のメッセージがおかれる文脈によって、
意味内容の選択が可能になる
• 送り手と受け手が川端康成について
会話をしているのなら、当然に小説
『雪国』を指す
• これは、現実のコミュニケーションの
場面においては、読み手が、メッセー
ジの外部にある様々な条件(例:文脈・
場の状況・経験則がもたらす知識など)
等を読み取ることによって、メッセー
ジ本体の読み取りの手がかりを得てい
る事を示す
• 現実に行われるコミュニケーションは、
送り手や読み手が含まれる時間的・空
間的な状況によって、様々な面からの
関与を受けている
• これらメッセージの外部から記号化・
解読のプロセスに関与する条件のこと
をコンテクストと呼ぶ
読む行為を可能にする基本的条件
• 読むという行為の可能性を与え、その
事によって記号を発生させる条件を考
えてみる
• コミュニケーションに参加する読み手
がメッセージを正しく読み取る為には
• 送り手とメッセージが存在する
• 送り手と同一のコードを身に付けて
いること
• 送り手と同一のコンテクストを参照
すること
• これらは、読むと言う行為を成立させ
る本質的な条件ではない
• なぜならば、今まで考察してきたのは
「コミュニケーションの場」であるか
ら
• 我々が読み取りの対象とするものに、
必ずしも送り手がいるわけではない
• 一例であるが、雲の流れから天候の
変化を読み取る事がある
• 雲の流れる様子に送り手はいない
• よって「送り手とメッセージが存在す
る」事は、読む行為を可能にする条件
としては本質的ではない
• 従って、送り手がいないのであれば、
下記の条件も「送り手」の部分が不要
• 送り手と同一のコードを身に付けて
いること
• 送り手と同一のコンテクストを参照
すること
• コミュニケーションの場を前提にした
為に、見落としている重大な条件があ
る
• 「読み手が読むと言う意志を持つこ
と」
• そもそも読もうという意志がないとこ
ろに読むという行為は発生しない
• 読むと言う行為は、読み手が以下の条
件を満たす事によって可能になる
• 読むと言う意志が存在すること
• 何らかのコードを身に付けている事
• 何らかのコンテクストを参照する事

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