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BISG セミナー「出版社が成功する決め手は定額制購読サービスとの協調(日本語訳)」
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2014 年 7 月 18 日 Digital tugboat, Inc.
BISG セミナー(IDPF Digital Book 2014)
出版社が成功する決め手は定額制購読サービスとの協調(日本語訳)
テッド・ヒル氏(モデレーターTHA Consulting)Ted Hill (TH)
ブライアン・バットン氏(Entitle)Bryan Batten (BB)
ケビン・ドナヒュー氏(Epic!)Kevin Donahue (KD)
シャンタル・レスティボ=アレッシ氏(HarperCollins Publishers)Chantal Restivo-Alessi (CRA)
アンドリュー・ワインスタイン氏(Scribd)Andrew Weinstein (AW)
TH : パネリストの皆さんようこそ。簡単に紹介します。なんと皆さんもう席に座っていますの
で、滑り出しは上々ですね。私のすぐ左に座っているブライアン・バットンさんは、Entitle
の創設者/CEO です。3年前に創設された Entitle は一般消費者向けのサブスクリプショ
ン(定額契約制)サービス提供を今年から正式に開始しました。まずはおめでとうござい
ます。Entitle を創設する前は、製薬業界の契約研究機関でビジネス開発を担っていたので、
かなりの変わり身です。現在は「最高の読書プラットフォームを提供するために邁進して
いる」ということです。趣味は、読書、家族と時間を過ごしたり、サーフィング、釣り、
テニス。
TH : ケビン・ドナヒューさんは、Epic!の共同創設者で、史上初の就学児童向け読み放題の電子
書籍サービスです。Epic!創設前は、グーグル社の戦略的パートナーシップ部門に属し、ま
た YouTube の創設チームの一員として、コンテンツ部門の副代表を務め、創設時のコンテ
ンツ戦略の基礎を作った1人でもあるので、知っている人も多いかと思います。
TH : 彼の左に座っているシャンタル・レスティボ=アレッシさんは、HarperCollins Publishers
のデジタル部門のチーフとして、会社全体のデジタル戦略を牽引しています。従来に加え
て新しいデジタル・パートナーとの商業的関係を管理し、国内外での電子部門の利益増収
を目指しています。ですので、パネリスト全員と面識があります。過去には、戦略部門の
上級ポストを多く務め、ロンドンの ING 銀行、Aegis Group、音楽の EMI Group、Booz &
Company など20年以上にわたる国際メディア・マネジメントの経験があります。
TH : 最後になりましたが、アンドリュー・ワインスタインさんは、Scribd のコンテンツ買収部
門の副代表で、Scribd のコンテンツ・パートナーシップおよびビジネス開発の責任者です。
Scribd の一員になる前は、AW Media という出版社を起業。過去には、Ingram Content
Group で10年以上、Retail Solutions の副代表及びジェネラル・マネージャーでした。
Ingram では、電子書籍とオンデマンド印刷への変革を担い(チェンジ・エージェント)、
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従来の出版業界に新しい手法を取り込むことに関して経験豊富です。
TH : このパネルのトピックは、サブスクリプション・サービスにおける成功戦略です。それぞ
れ個人的な立場から発言していただいて良いのですが、会場にいる様々な分野の小規模出
版社の参加者に役立つためにも、いまの立場から一歩出て、話していただきたいのです。
ご自身の会社の意見とは異なっていても、有益な考えはありますから。これは複雑な問題
で「座る場所が違えば、景色が違って見える」という状況ですから、異なる意見を出しあ
えれば、お互いに役立つと思います。
TH : まずシャンタルさん。名前は出せませんが、一般書の出版社の方が、最近私にこう言いま
した。「いま、デジタル・サブスクリプションに移行する嵐が起きている。」Oysters や Scribd
とパートナーシップを結んでいる HarperCollins のアプローチは違うと思いますが、(デジ
タル・サブスクリプションを提供する)会社と組みたい理由とは?
CRA : 皆さんそれぞれ、違うと思います。いままでのプレゼンでは「風がどこから吹いていて、
どこへ向かって吹いているのか」という話が出ています。今日何度も耳にしましたが、他
のメディア業界で、どのような変化が起き、どうやって変革を乗り切ったのかという事例
があります。過去の教訓から学ぶことは多く、私にとっての教訓は、消費者に消費者自身
が望むものを提供するということ。私が音楽業界にいた頃に行われた多くの調査結果では、
大多数の消費者は、所有ではなく、アクセスできることを求めていたので、その方向を目
指しました。加えて、実際にやってみなければ、習得できないと考えます。私の経験上、
参入しなければ時代の先を行けない、あるいは時流にのれないし、そこからはずれてしま
います。流れの中に入っていなければ、その流れを形成する主体となれません。だから我々
は参加しながら学ぶのです。すぐに正しい方法が見つかるとは限りませんが、流れの一員
である限り、我々のコンテンツ価値を最大限引き出せる機会はあるのですから。
TH : 現実的かつ合理的な意見ですね。もちろん、違う意見もあるでしょう。シャンタルの意見
以外に、出版社に共通した異論反論はどういうものがあるのか。そういった壁を乗り越え
る方法は?
KD: 出版社とのやり取りで直面したのは、電子書籍セールスに関しての利益配分に対する危機
感です。書籍の価格と売値があって成り立つビジネスに対して、我々のビジネス・モデル
での利益などはどうなるか。我々の考え方は、これは販売窓口(distribution window)の1
つにすぎないということ。映画産業には、映画資産の価値を最大限にするための様々な回
路があるのと同じように、サブスクリプションという窓口を使えば、バックリスト(新刊
書を含まない既刊書)が効果的な利益を生むと考えた。シャンタルが発言した「他のメデ
ィアで消費者がこのモデルを求めた」ように、いまはこのメディアで試行錯誤されている
段階で、順調にいっていると思いますが、時間がたたないと分からない。
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TH : 「窓口」としての役割に関しては、後ほど詳しく。たくさんの書籍が読み放題という感覚
は、一冊の書籍の価値を下げる、という考え方に対してはどうですか、アンドリュー?
AW : 出版社と話し合いをする時、ゼロか百かという出版社側の思い込みがあります。実際は、
すべての書籍を含めるか、ゼロかということでは全くないし、バックリストのすべてを要
求していません。利用者が読める書籍の数を可能な限り増やしたいと考えています。人の
目に触れない本もあるわけなので。私が考える危機感とは、本が読まれないことであって、
(サブスクリプションの)結果としてその本の収益が下がるとか、一般的な書籍販売に比
べて、本の価値を下げてしまうことではない。重要なのは、読者層の拡大であり、そのた
めに、その本の読者数と対価の間の妥協点を探ることです。
CRA: 良いですか?
TH : オープンな議論の場なので、いつでもどうぞ。
CRA: どうも黙っていることが出来ない性分で。危機を感じるべき点は、利益配分ではないと思
っています。 市場への「窓口」をどれだけ活用できるか、価値がゼロになることを防ぐ
かということが、我々の持つ危機感。利益配分や価値に対する危惧は、仮定であり、私の
感じる危機感は現実の問題です。ビジネスの先行きを仮定するより、現実問題に取り組む
方が建設的でしょう。
TH : ブライアン、あなたの会社は、1ヶ月に2冊という形の少し違うモデルを採用していて、
読者は獲得したトークンを使う考えですね。選ぶことの価値を重要視する方法ですが、あ
つれきを生みますか? あるいは、それによる利得とは?
BB : 価値の低下は、出版社が真っ先に心配することです。私たちが採用するモデルのキャッ
チ・サブスクリプションあるいは段階的サブスクリプション(tier subscription)は、書籍
の価値の引き下げではなく、その反対です。最低価格を設定し、月々何冊か購入すること
にコミットする方法で、2冊購入する場合の最低価格が、これです、と。それによって、
多くの読者を獲得することができれば素晴らしいし、これだけの本を読む価格帯の最低ラ
インを読者は納得した上で利用する。このモデルは価値の引き下げではなく、むしろ価値
を保護しているのだと。
TH : 例えば、ショッピングが好きな人、私の妻がそうですが、クーポンがある時やセール時に
買い物をすると、使うお金に関わらずハッピーです。そういう選択肢があって、それを選
んだからです。ハードカバー・フィクションを購入する私を含む多くの人が本を買って読
む「経験」に価値があると感じています。安い買い物でないけれど、買うのは、どこへで
も本を持ち歩いて、読んで、その本の価値が分かる人と共有する醍醐味があるからです。
だから、コンテンツが違えば求めるものも変わってくることも事実。
TH : 先ほど出た「窓口」という考え方ですが、次の質問は、アンドリュー。映画業界では、有
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料コンテンツのライフサイクルの流れが、出来上がっています。劇場公開からホテルや空
港、有料視聴(ペイパービュー)、有料ケーブル、ブルーレイや DVD、Netflix、そして最
終的に深夜放送で流れる。いまでは、この流れを維持するのは難しいかもしれませんが。
AW : Scribd は、可能な限りシンプルなモデルを目指しています。利用者は月額 8.99 ドル支払
い、出版社には同じ本をアマゾンなどで販売した場合と同額あるいはそれ以上の額を払っ
ています。金銭的リスクを取り除くわけです。価値の引き下げや窓口化ということは、い
ままでも出版社が何十年もやってきたことで、出版社が望まなければ、ハードカバーだけ
で終わるのですから。
TH : ハードカバーから、ペーパーバックで出回る。何も出ないよりは、ペーパーバックでも出
た方がましという。
AW : 出版業界に入る前から既に 15 年以上窓口化ビジネスに携わっています。数枚の CD を1
枚の価格で売るダイレクト・メール方式を BGM 関連の会社でやっていました。当時のレ
コード会社は、変わる現状認識を把握していて、個人所有の CD やレコードコレクション
はライブラリー化の方向へ進み、わざわざタワーレコードで 16.98 ドルのアルバムを買う
ことはなくなる。レコード会社は収益を上げるため、ほとんど経費をかけないで、フォー
マット移行による収益増収を図りました。
1枚の価格で2枚購入することは、16.98 ドル払って1枚買うことと全く違う。出版業
界でも同じような事が起きていて、テッドが指摘したように、私は「悪しき移行(evil
transition)」を経験しています。同時リリースであったり、絶版本を復刻させること、1
冊あたり3〜4ドルをかけて生産すること。そういった点が議論されました。最終的には、
読者数を可能な限り増やし、売上によって全体収益を最大にすることが重要なので、サブ
スクリプションは、そのセールス・モデルをもとにしたもう1つの窓口です。
出版社によって適切な時期は違うでしょうが、出版されてから半年あるいは1年後か、
あるいは、バックリスト価格で購入し、即座にその流通を最大限に広げたいと考える出版
社もある。コンテンツの価値を低下させることと、実際に出版後 18 ヶ月経った物を、99
セントで取り引きして、それを売って利益をあげるという手法のサブスクリプションは、
同じだと見られがちですが、違います。販売の「窓口」が変わっただけです。
TH : やはり定期契約者を獲得するためには、良い商品が欠かせませんよね。例えば、アマゾン
であれば、アマゾン・プライム会員用に『ゲーム・オブ・スローンズ(Game of Thrones)』
のライセンス契約をし、『ハリー・ポッター』もそうでした。(サブスクリプション)ビジ
ネスを起業する際に、大きなブランドネームを獲得することは、どのくらい重要ですか。
BB : 重要な側面はもちろんあります。サブスクリプションなども含めたコンテンツ・ビジネス
の利用者はコンテンツに惹き付けられるわけですから。ただサブスクリプションでは、出
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版社側との利害が一致すれば、必ずしも(ブランド)コンテンツを必要としない。財政的
に成功するための条件は、サブスクリプションを通じて、利用者にその出版社の書籍を推
薦して、読んでもらえることです。そして、利用者が望む本が、我々のサービスで見つか
るということを利用者に確約できること。検索をかけた時に、その本が見つかるかどうか
が、我々のサービスを利用する最大の理由ですから。しかし、実際にその本が我々のサー
ビスで提供できなくても、出版社と密接に連携することで利用者の期待に応えられる方法
があると思っています。出版社側に理解されがたい点ですが、私たちは出版社と平等な協
力関係を築きたいし、パートナーシップを目指しています。ゴールを共有して協力してい
く方法には色々あると思っています。
KD : その点について補足します。実は一番人気がある書籍が、我々の予想外だったりして、驚
くことがあります。利用者を拡大するためにブランドは有効なので、ブランドコンテンツ
を増やすこともあります。しかし、質の高い児童書のバックリストも多く存在しています。
TH : 『Dr. Sue』シリーズはいまでも人気でしょう?
KD : あまり知られていない作品でも人気を集めるものがあります。まだブランド意識がない8
歳以下の子どもだけでなく、上の年齢層でも同じ現象が起きていて逆に驚かされます。も
ちろん人気のブランドもありますが。我々は(個人に特化した)パーソナル・エンジンの
開発に多大な時間を費やしています。
個々の興味や読書能力レベル、過去に読んだ書籍を習得していくエンジンで、現在読ん
でいる本から、その子どもの好みを探ります。そうすることで、限定された書籍を宣伝す
る必要がない。そういった推薦をすると、読者はブランド・コンテンツを選ぶ傾向があり
ますから。
CRA: いまの補足2点。1点は、 私たちの商品や提携しているサブスクリプション・サービス
で同じような経験をしていること。古い書籍ほど利用率が高い。2点目は、そのことが重
要な鍵を握るということ。このビジネスには、成長の余地が十分にあり、先がないビジネ
スだという意見には賛成しません。
音楽業界と違い、まだ出回っていないバックリストがたくさんあります。(サブスクリ
プションなど)新しいサービスは、出版社のバックリストをいままでと違う形で売ること
を可能にし、それによって価値を高めることも出来る。各サービスそれぞれですから、上
手くいくものもあれば、これから改善されていくものもあるでしょう。ただ小売業だけに
限定すれば、窓口は閉じられるわけで、結果的に不利益と価値を最大限に下げることにつ
ながるでしょう。
TH :もちろんすべてのバックリストは平等ではないので、それぞれの潜在価値は違いますよね。
そこで考えるのですが、あるエージェントが公にこう発言していました。「ビッグネーム
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の著者をこういった(サブスクリプション)サービスに投入すれば、ビッグネームが持つ
ブランド価値をこれらのサービスへ移行することとなり、その過程で価値が薄まってしま
う」と。価値が目減りするという議論ですが、そのような抵抗は、HarperCollins でありま
すか?
CRA:いいえ。一番売れている本やブランドが収益全体で大きな部分を占めていれば、そういっ
た反論は成り立つでしょう。しかし、現実は違っていますから。私たちのバックリストの
75%を提供した瞬間から、新たな価値が生まれます。Scribd を通じて、世界中に読者層を
拡大できましたし、(Scribd と契約する際に)そのことは頭にありました。
TH : 地理的、経済的、教育的バリアを越えるということですね。書店が近所にない人でも。多
くの変化が起きていると思います。
CRA: このビジネスで起きている良い変化は、目に見えない所でも起きているのです。
AW :私の経験談から付け加えます。最初のサブスクリプション活動報告を出版社に提出する際、
大抵の場合、反応は一面的です。結局のところ出版社は、ベストセラーに力を入れ、ハリ
ウッドのブロックバスター・モデルを継承しています。ベストセラーが最も重要で、他は
一緒。最後のパネリストの話ともつながっていますが、実際に本を読む時間よりも書評を
読むことの方に時間を割いている現象が起きている。
Scribd の素晴らしい点は、本を読むのを途中で辞めても、追加のお金は発生しないこと
です。書評を読む時間を費やす必要はなく、自分自身で判断できる。新しい試みはいくつ
も起きています。もちろん、私たちのサイトに書評も載っていますが。
TH : いわゆるケーブル・エフェクトですよね。(選択肢がたくさんありすぎて)上に表示され
るものが視聴され、下の方にいくほど見られなくなる。ラスベガスに行くと、カジノを利
用してもらうために、食べ放題ビュッフェが客に振る舞われますが、「これでもか」とい
う量を目の当たりにすると、そんなに必要ないと感じますよね。クリス・アンダーソンが
言うように「過剰な選択肢が消費者を生み出すのだ」と。
行き着く所はキュレーションでしょう。読者一人一人のために、明確で個性的なコミュ
ニティが存在するかどうか。あるいはサービスそのもののブランド性において、小規模で
も想像力豊かな経験ができるか否か。この垂直市場において、子どもたちにサービスを提
供するにあたって、ケビンに質問です。キュレーションされたコミュニティが、一般を対
象としたコレクションと比較してどのような利点があるか。
KD : それぞれの(サブスクリプション)サービスの設定目標によるでしょう。我々の目標は、
12 歳以下の子どもを対象に、子どもと親にとって安全で信頼できる場所を作り、そこで質
が高く年齢相応のコンテンツを発掘して(利用して)もらう事。
TH : 読者一人一人のためにカスタマイズされた読書経験を時間をかけて作成していますか?
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KD : アルゴリズムを使って。サービスを利用する度に、その子どもの年齢や興味などを少しず
つ学習して、それぞれのプロフィールが作成されます。その子の読書の量や傾向、読んだ
本につけた評価によって、その子の理解が増すので、その子どもに向けて、特定の本を勧
めたりします。ノンフィクションが大好きな8歳児が、Epic!を利用して読書する経験は、
同じ年齢でもフィクションやファンタジーが好きな子どもとは違う読書経験をします。
TH : アンドリュー、ブライアン、この点はどうですか? それぞれ膨大なコレクションを抱え
ていますよね。
AW : 我々もキュレーションのアプローチを採っていて、主にアルゴリズムです。その人の読書
量が増えれば、その人についての理解が増します。フェイスブックやツイッターのような
サービスとリンクしていれば、その人が何を読みたいのか、興味があるのか、ということ
を取り入れられます。アルゴリズムと編集意図によってキュレーションされたおすすめ本
棚が表示され、取引のある出版社による何がトレンディーかという情報も反映されるサイ
ドバーがあります。
HarperCollins や Simon & Schuster から、新たに追加された人気書籍などが表示されま
す。利用者の最近の動向も反映しますから、画面のリストの一番上には、その人が最近読
んだ本が表示され、それに関連して我々が推薦する本が表示されます。取り引きしている
出版社に伝えるのですが、目下最大の課題は「驚きの感覚」をどう生み出すかです。いま
読んでいる本とは関係ないところから、あるいは、抜け落ちているけれども本当は好きな
本をどのように反映するか。
TH : 本との偶然の出会いというのは、書店で体験するもので、そこに人々は愛着と価値を見い
だすわけです。
AW : アルゴリズムにはそこが欠けています。新たに追加された書籍ばかりを勧めたり、実際に
読んでいる書籍にばかり重点をおかないようにしています。Scribd の人気書籍は、
2012~2013 年に大手出版社から出た本ではなく、確か最も人気なのは、2002 年の本です。
良い本は良い本なのですから。時事的なタイムリーさに限定される本は、むしろ少ないで
すしね。
TH : こういったプラットフォームが書評に影響される傾向があり、特定の書籍に肩入れしてし
まい、他の書籍を追いやってしまう状況を脱する方法は?
BB : キュレーションは、我々が提供する書籍にとって重要です。ダウンロードされている電子
書籍の 65%が、キュレーションされているサイトからで、ウェブ検索してダウンロードさ
れるものは、ほんの僅かなので、我々には良い状況です。
TH : サブスクリプション・サービスが「勧める」書籍ですね。
BB : ご多分に漏れず、編集するアルゴリズムを使ってキュレーション方式を採っています。こ
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のデジタル時代に、実際の書籍を1ページづつめくって品定めすることはやりませんから、
出版社と連携しながら、どういう物を提示するかは、学びながら・・・。
TH : 海賊版をダウンロードできるサービスは、無数の無料でジャンクが溢れるもの中から、欲
しいものを検索し、選り分ける労力がかかります。ここでアクセスと所有の議論をしまし
ょう。この会社は、所有モデルですね。利用者は書籍を所有しますが、果たして必要でし
ょうか。あるいは将来的には、所有しない形に変化するのか?クラウドに保存する時代に、
書籍を所有するということは、重要なのでしょうか。
BB : 一般的に考えられている以上に重要だと思っています。ある意味の安心感を生み出したと
思います。読書体験は映画や音楽鑑賞と違いますよね。一カ所でドラマの1シーズンを一
気に見たり、ひと月に 100 曲をダウンロードしたり。本の場合はどこかに座ってリラック
スして読み、本を所有することでせかされずに、安心できる空間で興味のあるものを自分
のペースで読めるし、サブスクリプションの恩恵を直に感じられる。ダウンロードしさえ
すれば、いつでも読めますから。
TH : 自分のライブラリーを作る感覚ですね。
BB : 例えば一ヶ月の休暇で旅行をしたら、その間にためたライブラリーの本を読める。
TH : いまの時代の子どもたちの感覚としては、当たり前かもしれません。シャンタル、所有に
ついて何か意見は?
CRA: それぞれの状況によると思います。根拠を示すデータがあるわけではないのですが、サブ
スクリプションでは書籍購入前に、その内容を知る事ができます。購入をコミットするこ
とへのバリアではあると思います。ただ重要なのはバックリストをカタログ化することで
あって、そこから著者などを利用者に紹介できますし、実際にその書籍を所有するために、
購入できる選択も提供されます。
棲み分けされていまうという議論がありますが、実際そうではない状況もあります。2
つのモデルの間を利用者は行ったり来たりできるわけで、購入も一つの選択肢としてある。
物理的な本、電子書籍、サブスクリプションというように、重要なのは選択できる環境が
あることです。
TH : それは全く正しいと思います。この議論で抜け落ちていましたが、それぞれのモデルの善
し悪しではなく、多岐に渡るルート、多様なモデルを提供すること、選択肢をたくさん提
供することは、イコール消費者が欲しい物を手に入れることができるということですよね。
少し時間があるので、質問を受けたいと思います。
Q : 広く一般にサブスクリプションの市場を広げようとしているサービスの場合、バックリス
トをカタログ化していても、それがすべての利用者が、利用できるわけではない状況もあ
ると思いますが。
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TH : Epic! が今後・・・
Q : Epic! は、利用出来るようにしていると思うのですが、他はどうでしょうか。
TH : 出版社自身が保有しているコレクションを自分たちのサブスクリプションをスタートさ
せて売りたいと考える出版社もあると思いますが、その場合、一般向けサブスクリプショ
ン・サービスの役割はどうでしょうか。
AW : 比較的大きい一般向けサブスクリプション・サービスの代表として発言します。Epic!の場
合は、対象とする利用者もコンテンツも、とても狭く限られていますし、そういう役割を
担っています。
特に対象者が 12 歳以下の子どもなので、法律的にも直接的なマーケティングをしては
いけない規制がありますから。Scribd の場合は、拡大していく方向性です。マーケティン
グする対象者を広く、コンテンツに関しても広げて行きます。
8.99 ドルの価格帯で新しいジャンルに手を広げる利用者は増えるのか? 我々の利用
者の場合、ロマンス小説の読者の方が、ヤング・アダルト小説の読者よりも多いです。し
かもヤング・アダルト小説の読者でも青少年よりも大人の方が多く利用しています。まだ
早い段階なので、コンテンツと利用者の双方を含めて、Scribd の得意とする領域が何かは、
分かりません。
TH : 出版社はどうでしょうか。HarperCollins ではないにしても、F+W は、うまく顧客を取り
込んでいて収益もあげています。書籍サブスクリプションも提供しますが、編み物キット
から毛糸、他の色々なものも売っています。出版社は直接サブスクリプションに参入する
と考えますか?
CRA: 可能性はゼロではないです。市場への1つのチャンネルですから、コンテンツの規模と幅
によります。F+W は消費者を惹き付けるとても強い個性があるので、市場に対しても強
いと思います。こういった手法は簡単には真似できませんし、違うビジネスモデルでしょ
う。コンテンツがあるからといって、性急に参入してもダメだと思います。しかし、可能
性は否定しません。
TH : 最後に皆さんに質問します。この移行期において、最大の勝者と敗者は誰でしょうか?
BB : 敗者が今後撤退してくれたら良いのですが。
★ : では、私たちは退席せねばですね。
★ : 同じ事を言おうと思っていました。
★ : 皆が公平なやりかたですすめることが重要でしょう。出版社も収益を生み、そして本を読
む人が増える事を私たちは望んでいます。
TH : 他には?
★ : 市場を活性化すること。私たちは収益を奪っているのではなく、重要なのは本を読む人を
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増やして行くことで、そのためには既存の読者にもっと本を読むように促していくことや、
書籍の小売りモデルの価値をあげること、サブスクリプションなどでお金を払って本を読
む人たちが増えれば、皆が勝者となるでしょう。
動画や音楽視聴をするためには、一定額以上払わないで出来るという状況があります。
本を読む時だけに限って毎回お金を払うことになってしまう状況が一般化されれば、皆が
敗者になりますから、それはリスクの1つです。
KD : 私の立場からすると、いまやり始めた事が成功して欲しいと思います。業界全体を鑑みれ
ば、我々は、新しい読者の世代を生み出していると言えます。
子どもが成長の過程で、様々な形式の本を読んでいく。ただいまの子どもは、携帯電子
機器に膨大な時間を費やしていますから、私たちの役割は、子どもたちに年齢相応に刺激
を受ける本を提供していくことです。
TH : 私たちが行ったアンケート調査によると、大多数の意見としてサブスクリプションという
回路/モデル/ビジネスは、読者にとって有益だという結果が出ています。
結局のところ、重要なのは熱い読書の文化をサポートすること、質の高い読書、書籍を
軸に質の高いコンテンツを出版社が生み出し、それを私たちがいかに市場に広めていける
かにつきるでしょう。ご来場ありがとうございました。

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  • 1. BISG セミナー「出版社が成功する決め手は定額制購読サービスとの協調(日本語訳)」 1 2014 年 7 月 18 日 Digital tugboat, Inc. BISG セミナー(IDPF Digital Book 2014) 出版社が成功する決め手は定額制購読サービスとの協調(日本語訳) テッド・ヒル氏(モデレーターTHA Consulting)Ted Hill (TH) ブライアン・バットン氏(Entitle)Bryan Batten (BB) ケビン・ドナヒュー氏(Epic!)Kevin Donahue (KD) シャンタル・レスティボ=アレッシ氏(HarperCollins Publishers)Chantal Restivo-Alessi (CRA) アンドリュー・ワインスタイン氏(Scribd)Andrew Weinstein (AW) TH : パネリストの皆さんようこそ。簡単に紹介します。なんと皆さんもう席に座っていますの で、滑り出しは上々ですね。私のすぐ左に座っているブライアン・バットンさんは、Entitle の創設者/CEO です。3年前に創設された Entitle は一般消費者向けのサブスクリプショ ン(定額契約制)サービス提供を今年から正式に開始しました。まずはおめでとうござい ます。Entitle を創設する前は、製薬業界の契約研究機関でビジネス開発を担っていたので、 かなりの変わり身です。現在は「最高の読書プラットフォームを提供するために邁進して いる」ということです。趣味は、読書、家族と時間を過ごしたり、サーフィング、釣り、 テニス。 TH : ケビン・ドナヒューさんは、Epic!の共同創設者で、史上初の就学児童向け読み放題の電子 書籍サービスです。Epic!創設前は、グーグル社の戦略的パートナーシップ部門に属し、ま た YouTube の創設チームの一員として、コンテンツ部門の副代表を務め、創設時のコンテ ンツ戦略の基礎を作った1人でもあるので、知っている人も多いかと思います。 TH : 彼の左に座っているシャンタル・レスティボ=アレッシさんは、HarperCollins Publishers のデジタル部門のチーフとして、会社全体のデジタル戦略を牽引しています。従来に加え て新しいデジタル・パートナーとの商業的関係を管理し、国内外での電子部門の利益増収 を目指しています。ですので、パネリスト全員と面識があります。過去には、戦略部門の 上級ポストを多く務め、ロンドンの ING 銀行、Aegis Group、音楽の EMI Group、Booz & Company など20年以上にわたる国際メディア・マネジメントの経験があります。 TH : 最後になりましたが、アンドリュー・ワインスタインさんは、Scribd のコンテンツ買収部 門の副代表で、Scribd のコンテンツ・パートナーシップおよびビジネス開発の責任者です。 Scribd の一員になる前は、AW Media という出版社を起業。過去には、Ingram Content Group で10年以上、Retail Solutions の副代表及びジェネラル・マネージャーでした。 Ingram では、電子書籍とオンデマンド印刷への変革を担い(チェンジ・エージェント)、
  • 2. BISG セミナー「出版社が成功する決め手は定額制購読サービスとの協調(日本語訳)」 2 2014 年 7 月 18 日 Digital tugboat, Inc. 従来の出版業界に新しい手法を取り込むことに関して経験豊富です。 TH : このパネルのトピックは、サブスクリプション・サービスにおける成功戦略です。それぞ れ個人的な立場から発言していただいて良いのですが、会場にいる様々な分野の小規模出 版社の参加者に役立つためにも、いまの立場から一歩出て、話していただきたいのです。 ご自身の会社の意見とは異なっていても、有益な考えはありますから。これは複雑な問題 で「座る場所が違えば、景色が違って見える」という状況ですから、異なる意見を出しあ えれば、お互いに役立つと思います。 TH : まずシャンタルさん。名前は出せませんが、一般書の出版社の方が、最近私にこう言いま した。「いま、デジタル・サブスクリプションに移行する嵐が起きている。」Oysters や Scribd とパートナーシップを結んでいる HarperCollins のアプローチは違うと思いますが、(デジ タル・サブスクリプションを提供する)会社と組みたい理由とは? CRA : 皆さんそれぞれ、違うと思います。いままでのプレゼンでは「風がどこから吹いていて、 どこへ向かって吹いているのか」という話が出ています。今日何度も耳にしましたが、他 のメディア業界で、どのような変化が起き、どうやって変革を乗り切ったのかという事例 があります。過去の教訓から学ぶことは多く、私にとっての教訓は、消費者に消費者自身 が望むものを提供するということ。私が音楽業界にいた頃に行われた多くの調査結果では、 大多数の消費者は、所有ではなく、アクセスできることを求めていたので、その方向を目 指しました。加えて、実際にやってみなければ、習得できないと考えます。私の経験上、 参入しなければ時代の先を行けない、あるいは時流にのれないし、そこからはずれてしま います。流れの中に入っていなければ、その流れを形成する主体となれません。だから我々 は参加しながら学ぶのです。すぐに正しい方法が見つかるとは限りませんが、流れの一員 である限り、我々のコンテンツ価値を最大限引き出せる機会はあるのですから。 TH : 現実的かつ合理的な意見ですね。もちろん、違う意見もあるでしょう。シャンタルの意見 以外に、出版社に共通した異論反論はどういうものがあるのか。そういった壁を乗り越え る方法は? KD: 出版社とのやり取りで直面したのは、電子書籍セールスに関しての利益配分に対する危機 感です。書籍の価格と売値があって成り立つビジネスに対して、我々のビジネス・モデル での利益などはどうなるか。我々の考え方は、これは販売窓口(distribution window)の1 つにすぎないということ。映画産業には、映画資産の価値を最大限にするための様々な回 路があるのと同じように、サブスクリプションという窓口を使えば、バックリスト(新刊 書を含まない既刊書)が効果的な利益を生むと考えた。シャンタルが発言した「他のメデ ィアで消費者がこのモデルを求めた」ように、いまはこのメディアで試行錯誤されている 段階で、順調にいっていると思いますが、時間がたたないと分からない。
  • 3. BISG セミナー「出版社が成功する決め手は定額制購読サービスとの協調(日本語訳)」 3 2014 年 7 月 18 日 Digital tugboat, Inc. TH : 「窓口」としての役割に関しては、後ほど詳しく。たくさんの書籍が読み放題という感覚 は、一冊の書籍の価値を下げる、という考え方に対してはどうですか、アンドリュー? AW : 出版社と話し合いをする時、ゼロか百かという出版社側の思い込みがあります。実際は、 すべての書籍を含めるか、ゼロかということでは全くないし、バックリストのすべてを要 求していません。利用者が読める書籍の数を可能な限り増やしたいと考えています。人の 目に触れない本もあるわけなので。私が考える危機感とは、本が読まれないことであって、 (サブスクリプションの)結果としてその本の収益が下がるとか、一般的な書籍販売に比 べて、本の価値を下げてしまうことではない。重要なのは、読者層の拡大であり、そのた めに、その本の読者数と対価の間の妥協点を探ることです。 CRA: 良いですか? TH : オープンな議論の場なので、いつでもどうぞ。 CRA: どうも黙っていることが出来ない性分で。危機を感じるべき点は、利益配分ではないと思 っています。 市場への「窓口」をどれだけ活用できるか、価値がゼロになることを防ぐ かということが、我々の持つ危機感。利益配分や価値に対する危惧は、仮定であり、私の 感じる危機感は現実の問題です。ビジネスの先行きを仮定するより、現実問題に取り組む 方が建設的でしょう。 TH : ブライアン、あなたの会社は、1ヶ月に2冊という形の少し違うモデルを採用していて、 読者は獲得したトークンを使う考えですね。選ぶことの価値を重要視する方法ですが、あ つれきを生みますか? あるいは、それによる利得とは? BB : 価値の低下は、出版社が真っ先に心配することです。私たちが採用するモデルのキャッ チ・サブスクリプションあるいは段階的サブスクリプション(tier subscription)は、書籍 の価値の引き下げではなく、その反対です。最低価格を設定し、月々何冊か購入すること にコミットする方法で、2冊購入する場合の最低価格が、これです、と。それによって、 多くの読者を獲得することができれば素晴らしいし、これだけの本を読む価格帯の最低ラ インを読者は納得した上で利用する。このモデルは価値の引き下げではなく、むしろ価値 を保護しているのだと。 TH : 例えば、ショッピングが好きな人、私の妻がそうですが、クーポンがある時やセール時に 買い物をすると、使うお金に関わらずハッピーです。そういう選択肢があって、それを選 んだからです。ハードカバー・フィクションを購入する私を含む多くの人が本を買って読 む「経験」に価値があると感じています。安い買い物でないけれど、買うのは、どこへで も本を持ち歩いて、読んで、その本の価値が分かる人と共有する醍醐味があるからです。 だから、コンテンツが違えば求めるものも変わってくることも事実。 TH : 先ほど出た「窓口」という考え方ですが、次の質問は、アンドリュー。映画業界では、有
  • 4. BISG セミナー「出版社が成功する決め手は定額制購読サービスとの協調(日本語訳)」 4 2014 年 7 月 18 日 Digital tugboat, Inc. 料コンテンツのライフサイクルの流れが、出来上がっています。劇場公開からホテルや空 港、有料視聴(ペイパービュー)、有料ケーブル、ブルーレイや DVD、Netflix、そして最 終的に深夜放送で流れる。いまでは、この流れを維持するのは難しいかもしれませんが。 AW : Scribd は、可能な限りシンプルなモデルを目指しています。利用者は月額 8.99 ドル支払 い、出版社には同じ本をアマゾンなどで販売した場合と同額あるいはそれ以上の額を払っ ています。金銭的リスクを取り除くわけです。価値の引き下げや窓口化ということは、い ままでも出版社が何十年もやってきたことで、出版社が望まなければ、ハードカバーだけ で終わるのですから。 TH : ハードカバーから、ペーパーバックで出回る。何も出ないよりは、ペーパーバックでも出 た方がましという。 AW : 出版業界に入る前から既に 15 年以上窓口化ビジネスに携わっています。数枚の CD を1 枚の価格で売るダイレクト・メール方式を BGM 関連の会社でやっていました。当時のレ コード会社は、変わる現状認識を把握していて、個人所有の CD やレコードコレクション はライブラリー化の方向へ進み、わざわざタワーレコードで 16.98 ドルのアルバムを買う ことはなくなる。レコード会社は収益を上げるため、ほとんど経費をかけないで、フォー マット移行による収益増収を図りました。 1枚の価格で2枚購入することは、16.98 ドル払って1枚買うことと全く違う。出版業 界でも同じような事が起きていて、テッドが指摘したように、私は「悪しき移行(evil transition)」を経験しています。同時リリースであったり、絶版本を復刻させること、1 冊あたり3〜4ドルをかけて生産すること。そういった点が議論されました。最終的には、 読者数を可能な限り増やし、売上によって全体収益を最大にすることが重要なので、サブ スクリプションは、そのセールス・モデルをもとにしたもう1つの窓口です。 出版社によって適切な時期は違うでしょうが、出版されてから半年あるいは1年後か、 あるいは、バックリスト価格で購入し、即座にその流通を最大限に広げたいと考える出版 社もある。コンテンツの価値を低下させることと、実際に出版後 18 ヶ月経った物を、99 セントで取り引きして、それを売って利益をあげるという手法のサブスクリプションは、 同じだと見られがちですが、違います。販売の「窓口」が変わっただけです。 TH : やはり定期契約者を獲得するためには、良い商品が欠かせませんよね。例えば、アマゾン であれば、アマゾン・プライム会員用に『ゲーム・オブ・スローンズ(Game of Thrones)』 のライセンス契約をし、『ハリー・ポッター』もそうでした。(サブスクリプション)ビジ ネスを起業する際に、大きなブランドネームを獲得することは、どのくらい重要ですか。 BB : 重要な側面はもちろんあります。サブスクリプションなども含めたコンテンツ・ビジネス の利用者はコンテンツに惹き付けられるわけですから。ただサブスクリプションでは、出
  • 5. BISG セミナー「出版社が成功する決め手は定額制購読サービスとの協調(日本語訳)」 5 2014 年 7 月 18 日 Digital tugboat, Inc. 版社側との利害が一致すれば、必ずしも(ブランド)コンテンツを必要としない。財政的 に成功するための条件は、サブスクリプションを通じて、利用者にその出版社の書籍を推 薦して、読んでもらえることです。そして、利用者が望む本が、我々のサービスで見つか るということを利用者に確約できること。検索をかけた時に、その本が見つかるかどうか が、我々のサービスを利用する最大の理由ですから。しかし、実際にその本が我々のサー ビスで提供できなくても、出版社と密接に連携することで利用者の期待に応えられる方法 があると思っています。出版社側に理解されがたい点ですが、私たちは出版社と平等な協 力関係を築きたいし、パートナーシップを目指しています。ゴールを共有して協力してい く方法には色々あると思っています。 KD : その点について補足します。実は一番人気がある書籍が、我々の予想外だったりして、驚 くことがあります。利用者を拡大するためにブランドは有効なので、ブランドコンテンツ を増やすこともあります。しかし、質の高い児童書のバックリストも多く存在しています。 TH : 『Dr. Sue』シリーズはいまでも人気でしょう? KD : あまり知られていない作品でも人気を集めるものがあります。まだブランド意識がない8 歳以下の子どもだけでなく、上の年齢層でも同じ現象が起きていて逆に驚かされます。も ちろん人気のブランドもありますが。我々は(個人に特化した)パーソナル・エンジンの 開発に多大な時間を費やしています。 個々の興味や読書能力レベル、過去に読んだ書籍を習得していくエンジンで、現在読ん でいる本から、その子どもの好みを探ります。そうすることで、限定された書籍を宣伝す る必要がない。そういった推薦をすると、読者はブランド・コンテンツを選ぶ傾向があり ますから。 CRA: いまの補足2点。1点は、 私たちの商品や提携しているサブスクリプション・サービス で同じような経験をしていること。古い書籍ほど利用率が高い。2点目は、そのことが重 要な鍵を握るということ。このビジネスには、成長の余地が十分にあり、先がないビジネ スだという意見には賛成しません。 音楽業界と違い、まだ出回っていないバックリストがたくさんあります。(サブスクリ プションなど)新しいサービスは、出版社のバックリストをいままでと違う形で売ること を可能にし、それによって価値を高めることも出来る。各サービスそれぞれですから、上 手くいくものもあれば、これから改善されていくものもあるでしょう。ただ小売業だけに 限定すれば、窓口は閉じられるわけで、結果的に不利益と価値を最大限に下げることにつ ながるでしょう。 TH :もちろんすべてのバックリストは平等ではないので、それぞれの潜在価値は違いますよね。 そこで考えるのですが、あるエージェントが公にこう発言していました。「ビッグネーム
  • 6. BISG セミナー「出版社が成功する決め手は定額制購読サービスとの協調(日本語訳)」 6 2014 年 7 月 18 日 Digital tugboat, Inc. の著者をこういった(サブスクリプション)サービスに投入すれば、ビッグネームが持つ ブランド価値をこれらのサービスへ移行することとなり、その過程で価値が薄まってしま う」と。価値が目減りするという議論ですが、そのような抵抗は、HarperCollins でありま すか? CRA:いいえ。一番売れている本やブランドが収益全体で大きな部分を占めていれば、そういっ た反論は成り立つでしょう。しかし、現実は違っていますから。私たちのバックリストの 75%を提供した瞬間から、新たな価値が生まれます。Scribd を通じて、世界中に読者層を 拡大できましたし、(Scribd と契約する際に)そのことは頭にありました。 TH : 地理的、経済的、教育的バリアを越えるということですね。書店が近所にない人でも。多 くの変化が起きていると思います。 CRA: このビジネスで起きている良い変化は、目に見えない所でも起きているのです。 AW :私の経験談から付け加えます。最初のサブスクリプション活動報告を出版社に提出する際、 大抵の場合、反応は一面的です。結局のところ出版社は、ベストセラーに力を入れ、ハリ ウッドのブロックバスター・モデルを継承しています。ベストセラーが最も重要で、他は 一緒。最後のパネリストの話ともつながっていますが、実際に本を読む時間よりも書評を 読むことの方に時間を割いている現象が起きている。 Scribd の素晴らしい点は、本を読むのを途中で辞めても、追加のお金は発生しないこと です。書評を読む時間を費やす必要はなく、自分自身で判断できる。新しい試みはいくつ も起きています。もちろん、私たちのサイトに書評も載っていますが。 TH : いわゆるケーブル・エフェクトですよね。(選択肢がたくさんありすぎて)上に表示され るものが視聴され、下の方にいくほど見られなくなる。ラスベガスに行くと、カジノを利 用してもらうために、食べ放題ビュッフェが客に振る舞われますが、「これでもか」とい う量を目の当たりにすると、そんなに必要ないと感じますよね。クリス・アンダーソンが 言うように「過剰な選択肢が消費者を生み出すのだ」と。 行き着く所はキュレーションでしょう。読者一人一人のために、明確で個性的なコミュ ニティが存在するかどうか。あるいはサービスそのもののブランド性において、小規模で も想像力豊かな経験ができるか否か。この垂直市場において、子どもたちにサービスを提 供するにあたって、ケビンに質問です。キュレーションされたコミュニティが、一般を対 象としたコレクションと比較してどのような利点があるか。 KD : それぞれの(サブスクリプション)サービスの設定目標によるでしょう。我々の目標は、 12 歳以下の子どもを対象に、子どもと親にとって安全で信頼できる場所を作り、そこで質 が高く年齢相応のコンテンツを発掘して(利用して)もらう事。 TH : 読者一人一人のためにカスタマイズされた読書経験を時間をかけて作成していますか?
  • 7. BISG セミナー「出版社が成功する決め手は定額制購読サービスとの協調(日本語訳)」 7 2014 年 7 月 18 日 Digital tugboat, Inc. KD : アルゴリズムを使って。サービスを利用する度に、その子どもの年齢や興味などを少しず つ学習して、それぞれのプロフィールが作成されます。その子の読書の量や傾向、読んだ 本につけた評価によって、その子の理解が増すので、その子どもに向けて、特定の本を勧 めたりします。ノンフィクションが大好きな8歳児が、Epic!を利用して読書する経験は、 同じ年齢でもフィクションやファンタジーが好きな子どもとは違う読書経験をします。 TH : アンドリュー、ブライアン、この点はどうですか? それぞれ膨大なコレクションを抱え ていますよね。 AW : 我々もキュレーションのアプローチを採っていて、主にアルゴリズムです。その人の読書 量が増えれば、その人についての理解が増します。フェイスブックやツイッターのような サービスとリンクしていれば、その人が何を読みたいのか、興味があるのか、ということ を取り入れられます。アルゴリズムと編集意図によってキュレーションされたおすすめ本 棚が表示され、取引のある出版社による何がトレンディーかという情報も反映されるサイ ドバーがあります。 HarperCollins や Simon & Schuster から、新たに追加された人気書籍などが表示されま す。利用者の最近の動向も反映しますから、画面のリストの一番上には、その人が最近読 んだ本が表示され、それに関連して我々が推薦する本が表示されます。取り引きしている 出版社に伝えるのですが、目下最大の課題は「驚きの感覚」をどう生み出すかです。いま 読んでいる本とは関係ないところから、あるいは、抜け落ちているけれども本当は好きな 本をどのように反映するか。 TH : 本との偶然の出会いというのは、書店で体験するもので、そこに人々は愛着と価値を見い だすわけです。 AW : アルゴリズムにはそこが欠けています。新たに追加された書籍ばかりを勧めたり、実際に 読んでいる書籍にばかり重点をおかないようにしています。Scribd の人気書籍は、 2012~2013 年に大手出版社から出た本ではなく、確か最も人気なのは、2002 年の本です。 良い本は良い本なのですから。時事的なタイムリーさに限定される本は、むしろ少ないで すしね。 TH : こういったプラットフォームが書評に影響される傾向があり、特定の書籍に肩入れしてし まい、他の書籍を追いやってしまう状況を脱する方法は? BB : キュレーションは、我々が提供する書籍にとって重要です。ダウンロードされている電子 書籍の 65%が、キュレーションされているサイトからで、ウェブ検索してダウンロードさ れるものは、ほんの僅かなので、我々には良い状況です。 TH : サブスクリプション・サービスが「勧める」書籍ですね。 BB : ご多分に漏れず、編集するアルゴリズムを使ってキュレーション方式を採っています。こ
  • 8. BISG セミナー「出版社が成功する決め手は定額制購読サービスとの協調(日本語訳)」 8 2014 年 7 月 18 日 Digital tugboat, Inc. のデジタル時代に、実際の書籍を1ページづつめくって品定めすることはやりませんから、 出版社と連携しながら、どういう物を提示するかは、学びながら・・・。 TH : 海賊版をダウンロードできるサービスは、無数の無料でジャンクが溢れるもの中から、欲 しいものを検索し、選り分ける労力がかかります。ここでアクセスと所有の議論をしまし ょう。この会社は、所有モデルですね。利用者は書籍を所有しますが、果たして必要でし ょうか。あるいは将来的には、所有しない形に変化するのか?クラウドに保存する時代に、 書籍を所有するということは、重要なのでしょうか。 BB : 一般的に考えられている以上に重要だと思っています。ある意味の安心感を生み出したと 思います。読書体験は映画や音楽鑑賞と違いますよね。一カ所でドラマの1シーズンを一 気に見たり、ひと月に 100 曲をダウンロードしたり。本の場合はどこかに座ってリラック スして読み、本を所有することでせかされずに、安心できる空間で興味のあるものを自分 のペースで読めるし、サブスクリプションの恩恵を直に感じられる。ダウンロードしさえ すれば、いつでも読めますから。 TH : 自分のライブラリーを作る感覚ですね。 BB : 例えば一ヶ月の休暇で旅行をしたら、その間にためたライブラリーの本を読める。 TH : いまの時代の子どもたちの感覚としては、当たり前かもしれません。シャンタル、所有に ついて何か意見は? CRA: それぞれの状況によると思います。根拠を示すデータがあるわけではないのですが、サブ スクリプションでは書籍購入前に、その内容を知る事ができます。購入をコミットするこ とへのバリアではあると思います。ただ重要なのはバックリストをカタログ化することで あって、そこから著者などを利用者に紹介できますし、実際にその書籍を所有するために、 購入できる選択も提供されます。 棲み分けされていまうという議論がありますが、実際そうではない状況もあります。2 つのモデルの間を利用者は行ったり来たりできるわけで、購入も一つの選択肢としてある。 物理的な本、電子書籍、サブスクリプションというように、重要なのは選択できる環境が あることです。 TH : それは全く正しいと思います。この議論で抜け落ちていましたが、それぞれのモデルの善 し悪しではなく、多岐に渡るルート、多様なモデルを提供すること、選択肢をたくさん提 供することは、イコール消費者が欲しい物を手に入れることができるということですよね。 少し時間があるので、質問を受けたいと思います。 Q : 広く一般にサブスクリプションの市場を広げようとしているサービスの場合、バックリス トをカタログ化していても、それがすべての利用者が、利用できるわけではない状況もあ ると思いますが。
  • 9. BISG セミナー「出版社が成功する決め手は定額制購読サービスとの協調(日本語訳)」 9 2014 年 7 月 18 日 Digital tugboat, Inc. TH : Epic! が今後・・・ Q : Epic! は、利用出来るようにしていると思うのですが、他はどうでしょうか。 TH : 出版社自身が保有しているコレクションを自分たちのサブスクリプションをスタートさ せて売りたいと考える出版社もあると思いますが、その場合、一般向けサブスクリプショ ン・サービスの役割はどうでしょうか。 AW : 比較的大きい一般向けサブスクリプション・サービスの代表として発言します。Epic!の場 合は、対象とする利用者もコンテンツも、とても狭く限られていますし、そういう役割を 担っています。 特に対象者が 12 歳以下の子どもなので、法律的にも直接的なマーケティングをしては いけない規制がありますから。Scribd の場合は、拡大していく方向性です。マーケティン グする対象者を広く、コンテンツに関しても広げて行きます。 8.99 ドルの価格帯で新しいジャンルに手を広げる利用者は増えるのか? 我々の利用 者の場合、ロマンス小説の読者の方が、ヤング・アダルト小説の読者よりも多いです。し かもヤング・アダルト小説の読者でも青少年よりも大人の方が多く利用しています。まだ 早い段階なので、コンテンツと利用者の双方を含めて、Scribd の得意とする領域が何かは、 分かりません。 TH : 出版社はどうでしょうか。HarperCollins ではないにしても、F+W は、うまく顧客を取り 込んでいて収益もあげています。書籍サブスクリプションも提供しますが、編み物キット から毛糸、他の色々なものも売っています。出版社は直接サブスクリプションに参入する と考えますか? CRA: 可能性はゼロではないです。市場への1つのチャンネルですから、コンテンツの規模と幅 によります。F+W は消費者を惹き付けるとても強い個性があるので、市場に対しても強 いと思います。こういった手法は簡単には真似できませんし、違うビジネスモデルでしょ う。コンテンツがあるからといって、性急に参入してもダメだと思います。しかし、可能 性は否定しません。 TH : 最後に皆さんに質問します。この移行期において、最大の勝者と敗者は誰でしょうか? BB : 敗者が今後撤退してくれたら良いのですが。 ★ : では、私たちは退席せねばですね。 ★ : 同じ事を言おうと思っていました。 ★ : 皆が公平なやりかたですすめることが重要でしょう。出版社も収益を生み、そして本を読 む人が増える事を私たちは望んでいます。 TH : 他には? ★ : 市場を活性化すること。私たちは収益を奪っているのではなく、重要なのは本を読む人を
  • 10. BISG セミナー「出版社が成功する決め手は定額制購読サービスとの協調(日本語訳)」 10 2014 年 7 月 18 日 Digital tugboat, Inc. 増やして行くことで、そのためには既存の読者にもっと本を読むように促していくことや、 書籍の小売りモデルの価値をあげること、サブスクリプションなどでお金を払って本を読 む人たちが増えれば、皆が勝者となるでしょう。 動画や音楽視聴をするためには、一定額以上払わないで出来るという状況があります。 本を読む時だけに限って毎回お金を払うことになってしまう状況が一般化されれば、皆が 敗者になりますから、それはリスクの1つです。 KD : 私の立場からすると、いまやり始めた事が成功して欲しいと思います。業界全体を鑑みれ ば、我々は、新しい読者の世代を生み出していると言えます。 子どもが成長の過程で、様々な形式の本を読んでいく。ただいまの子どもは、携帯電子 機器に膨大な時間を費やしていますから、私たちの役割は、子どもたちに年齢相応に刺激 を受ける本を提供していくことです。 TH : 私たちが行ったアンケート調査によると、大多数の意見としてサブスクリプションという 回路/モデル/ビジネスは、読者にとって有益だという結果が出ています。 結局のところ、重要なのは熱い読書の文化をサポートすること、質の高い読書、書籍を 軸に質の高いコンテンツを出版社が生み出し、それを私たちがいかに市場に広めていける かにつきるでしょう。ご来場ありがとうございました。